相続財産を整理していると、先代や先々代の名義のままになっている土地、登記されていない建物、所有者が分からない土地、所在のつかめない共有者がいる不動産が見つかることがあります。
こうした不動産は、見た目には「昔から家族が使っている土地」「固定資産税を払い続けている土地」「近所も親族のものだと思っている土地」に映るかもしれません。ところが、相続税申告、遺産分割、売却、建替え、担保設定、空き家対策、共有解消といった具体的な場面に入ると、登記や権利関係、相続人調査が整っていないことが、思わぬ障害として立ちはだかります。
所有者不明土地とは、国土交通省の整理によれば、不動産登記簿等を確認しても所有者が直ちに判明しない土地、あるいは判明しても所有者に連絡がつかない土地を指します。こうした土地は、公共事業や民間開発の支障になるだけでなく、適正に管理されないまま放置されれば、周辺地域への災害や害虫発生などの要因にもなりかねないとされています。出典:国土交通省|人口減少時代における土地政策の推進~所有者不明土地等対策~
本記事では、所有者不明土地・未登記不動産がある場合に、どの順序で事実関係を確認し、相続税申告や遺産分割へどうつなげ、どの専門家と連携すべきかを整理していきます。
所有者不明土地・未登記不動産は「登記だけ」の問題ではない
所有者不明土地や未登記不動産は、司法書士に相続登記を頼めば片づく、というほど単純なものではありません。
たとえば、次のような状態にある不動産です。
- 登記名義人が祖父母や曾祖父母のままになっている
- 相続登記をしないまま、複数回の相続が発生している
- 登記簿上の住所が古く、名義人や相続人の所在が分からない
- 表題部はあるが、権利部の所有権登記がない
- そもそも登記記録がない土地がある
- 未登記建物が、固定資産税課税明細書にだけ載っている
- 共有者の一部が、死亡・行方不明・海外居住・判断能力低下となっている
- 休眠抵当権や、古い地上権・地役権・賃借権の登記が残っている
- 私道、墓地、旧水路、赤道・青道、字持地、共有惣代地が関係している
これらは、法律上の所有者を確定しない限り、売却、建替え、分筆、合筆、融資、国庫帰属、空き家処分のいずれもが進みにくくなります。
加えて見落とせないのが、相続税申告との関係です。登記が未了であっても、相続税の課税対象となる財産を把握して評価し、申告期限までに申告と納税を済ませる必要があります。相続財産が未分割のままでも、申告期限が延びることはありません。相続税の申告と納税は、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内であり、分割が整っていなくても期限内の申告が求められます。出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
つまり、所有者不明土地・未登記不動産の整理では、登記を直すこと、相続人を確定すること、相続税評価を行うこと、管理・処分の出口を決めることを、同時に視野に入れて考える必要があるのです。
最初に確認すべきは「誰の名義か」ではなく「何が存在するか」
古い不動産の相続で最初に取りかかるべきは、「誰が相続するか」を話し合うことではありません。まずは、対象となる不動産を漏れなく把握することです。
固定資産税課税明細書、名寄帳、固定資産評価証明書、登記事項証明書、公図、地積測量図、建物図面、閉鎖登記簿、旧土地台帳、住宅地図、航空写真、農地台帳、賃貸借契約書、古い売買契約書、境界確認書、納税通知書——こうした資料を、できる範囲で集めていきます。
注意したいのは、固定資産税課税明細書に載っているからといって、登記簿上の所有者と一致するとは限らない点です。逆に、登記簿には存在するのに、固定資産税課税明細書からは見落としてしまう土地もあります。山林、原野、私道持分、共有地、墓地、農道、水路に接する土地などは、相続人自身がその存在に気づいていないことも少なくありません。
未登記建物には、とりわけ気を配る必要があります。登記簿に出てこないため相続財産から漏れやすい一方で、固定資産税課税台帳には登録されていることがあるからです。相続税評価では、家屋は原則として固定資産税評価額を基礎に評価します。具体的には、固定資産税評価額に1.0を乗じて計算するため、評価額は固定資産税評価額と同じ金額になります。出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価
不動産の棚卸しをしないまま遺産分割協議を進めてしまうと、後になって「実は先代名義の土地があった」「未登記建物があった」「私道持分が残っていた」という形で表面化し、申告・登記・売却のやり直しを迫られることになります。
表題部しかない土地、権利部がない土地は慎重に調査する
登記記録は、大きく二つに分かれます。土地や建物の物理的な状況を示す「表題部」と、所有権などの権利関係を示す「権利部」です。
表題部には、所在、地番、地目、地積、表題部所有者などが記録されます。ただし、表題部所有者の記載は、所有権の権利登記そのものではありません。権利の登記は権利部に記録され、所有権についてはそのうちの甲区に表れます。表題部所有者の記載は、真の所有者を確定するための有効な資料にはなりますが、民法上の第三者対抗力を当然に備えるものではなく、実体上の所有者をそのまま反映しているとは限らないのです。
表題部しかない土地では、表題部所有者欄の住所と氏名を手掛かりに、住民票、戸籍、除籍、改製原戸籍、戸籍の附票、閉鎖登記簿、旧土地台帳、固定資産課税台帳、さらには周辺住民・寺院・自治会への聞き取りまでを積み上げていきます。
表題部所有者がすでに死亡している場合は、住民票除票や戸籍から本籍を確認し、法定相続人の調査へと進みます。法定相続人と連絡が取れれば、所有権保存登記や相続登記の可能性を検討します。法定相続人が所在不明であれば不在者財産管理制度を、相続人が存在しない可能性があれば相続財産清算人の選任を、それぞれ検討することになります。
そもそも登記記録がない未登記土地では、地番が付されていない無番地の状態であることもあります。この場合は、法務局で周辺公図や古い和紙公図、測量図を確認し、財務局・市町村・現地での聞き取りなどを通じて所有者を探索します。所有者が判明すれば、土地の表題登記、そして所有権保存登記へと進めていきます。
この段階では、税理士だけで判断を完結させるのではなく、司法書士、土地家屋調査士、弁護士、不動産鑑定士、自治体窓口との連携が欠かせない場面が多くなります。
数次相続では、相続人が雪だるま式に増える
所有者不明土地の典型は、相続登記をしないまま時間が経過し、数次相続が積み重なっているケースです。
たとえば、祖父名義の土地について祖父の相続登記をしないうちに父が亡くなり、さらに父の相続人の一部も亡くなっている——こうした場合には、祖父の相続人、父の相続人、死亡した相続人の相続人を、順にたどっていかなければなりません。これを放置すれば、相続人が数十人にまで膨れ上がることもあります。
古い相続では、相続が開始した時点の法律も確認する必要があります。明治民法、応急措置法、現行民法とでは、相続人の範囲や相続分が異なる場合があるからです。この旧民法・応急措置法・現行民法の違いは、古い相続や未登記不動産の相続人確定の場面で、とりわけ問題になりやすい点です。
ここで大切なのは、現在の相続人の感覚だけで「長男家が継いだはず」「地元に残った人のものだ」と決めつけないことです。固定資産税を支払っていた人、農地を耕作していた人、建物を管理してきた人が、当然に単独所有者になるわけではありません。
もちろん、長期間の占有や合意、時効取得、共有持分の整理などが論点になる場面はあります。ただし、それらは証拠と法的構成を慎重に確認して、はじめて検討できる論点です。税務申告の場面でも、相続人や取得者が不明確なまま財産を除外したり、便宜的に一人の所有として扱ったりすることは、避けるべきだと考えます。
相続登記義務化により、古い相続も放置しにくくなった
令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。遺産分割が成立した場合には、その成立日から3年以内に、分割の内容を踏まえた登記申請が必要になります。正当な理由なくこの義務に違反すると、10万円以下の過料の対象となります。出典:法務省|相続登記の申請義務化について
この義務化は、令和6年4月1日以後に発生した相続だけの話ではありません。過去に発生した相続で未登記のままになっている不動産も、対象に含まれます。
遺産分割がすぐにまとまらない場合に備えて、相続人申告登記という制度も用意されています。ただし、これは正式な相続登記に代わる最終的な名義整理ではない点に注意が必要です。相続人申告登記で履行できるのは基本的な義務にとどまり、遺産分割成立後の追加的な義務については、別途の対応が求められます。相続人申告登記は、義務化に伴って簡易に義務を履行できるよう設けられた制度、という位置づけです。出典:法務省|相続登記の申請義務化について
また、令和8年2月2日からは、所有不動産記録証明制度が施行されています。これは、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、一覧の形でリスト化して証明する制度です。相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくし、相続登記の漏れを防ぐことを狙いとしています。出典:法務省|所有不動産記録証明制度について
さらに、令和8年4月1日からは、住所等変更登記も義務化されます。不動産の所有者は、住所や氏名・名称が変わった日から2年以内に変更登記をする必要があり、正当な理由なく違反した場合は5万円以下の過料の対象となる可能性があります。これは義務化前の変更についても対象となり、令和10年3月末までに登記を済ませる必要があります。出典:法務省|住所等変更登記の義務化特設ページ
所有者不明土地を新たに生み出さないためには、相続登記だけでなく、住所変更登記も含めて「後から連絡できる状態」を保ち続けることが大切になります。
相続税申告では、登記未了でも財産評価が必要になる
所有者不明土地や未登記不動産があったとしても、相続税申告では、相続開始時点で被相続人に帰属していた財産を把握し、評価しなければなりません。
土地は、原則として地目ごとに評価し、路線価方式または倍率方式によって評価します。宅地、田、畑、山林といった地目ごとに区分して評価し、倍率方式の場合は、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を求めます。出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価
ここで気をつけたいのは、登記地目や固定資産税上の課税地目だけで、相続税評価上の地目が決まるわけではないという点です。相続税評価上の地目は、原則として課税時期の現況によって判定します。登記記録上の地目や固定資産税の課税地目が田・畑であっても、相続開始時点の現況が宅地であれば、宅地として評価する場合があるのです。
また、登記が未了であることと、相続税上の課税対象になることとは、別の問題です。先代名義のままであっても、被相続人が実質的に承継していた持分があれば、相続財産として評価する必要があります。共有持分、使用貸借、賃貸借、借地権、私道、休眠担保権、境界未確定、未登記建物などがある場合には、評価の根拠を記録し、後から説明できる形にして申告することが重要です。
未分割のまま申告する場合には、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった、分割を前提とする特例が、当初申告では使えないことがあります。未分割の場合でも申告期限内の申告・納税は必要であり、特例の適用には、期限後の分割見込書の提出や更正の請求といった手続が関係してきます。出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
このように、所有者不明土地がある場合、相続税申告について「登記が終わってから考える」のでは遅すぎることがあります。登記の整理と並行しながら、申告期限に間に合う範囲で、評価・分割・納税資金を整えていく必要があるのです。
固定資産税を払っていることと、所有者であることは同じではない
古い土地では、「固定資産税をずっと払っているのだから、自分の土地だ」と考えられることがあります。
たしかに、固定資産税の課税関係は重要な資料です。地方税法上、所有者として登記されている者が賦課期日前に死亡している場合には、賦課期日において土地や建物を現に所有している者が、所有者として扱われる場面があります。実務上も、相続人等の現所有者が、固定資産税の納税義務を負うことがあります。
しかし、固定資産税を納めていることが、所有権を当然に確定させるわけではありません。納税通知書の送付先、相続人代表者、固定資産税の支払者、登記上の所有者、民法上の実体所有者は、それぞれ別々であることがあるのです。
相続税申告において、固定資産税課税明細書は財産把握の出発点として有用です。とはいえ、それだけで所有者や評価単位を決めることはできません。固定資産税資料、登記資料、現況、契約関係、相続人関係を、幾重にも重ねて確認していく必要があります。
相続人・共有者が所在不明の場合の選択肢
所有者不明土地・未登記不動産の整理で多いのが、相続人や共有者の一部と連絡が取れないケースです。
この場合、まず取りかかるべきは、戸籍、住民票、戸籍の附票、登記簿上住所、旧住所、親族、近隣、地元関係者への調査です。所有者や法定相続人の所在がつかめないときには、親族、近隣住民、集落代表者、共有者、寺院の過去帳などをたどって、転居先や関係者を確認することもあります。
それでも所在が分からない場合には、不在者財産管理人の選任を検討します。従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者に財産管理人がいないときは、家庭裁判所が申立てにより財産管理人を選任できるとされています。選任された不在者財産管理人は、財産を管理・保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得たうえで、不在者に代わって遺産分割や不動産売却などを行うことができます。出典:裁判所|不在者財産管理人選任
相続人が存在するかどうか明らかでない場合、または相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する者がいなくなった場合には、相続財産清算人の選任を検討します。相続人の存在・不存在が明らかでないときには、家庭裁判所が申立てにより相続財産清算人を選任し、清算後に残った財産は国庫に帰属するとされています。出典:裁判所|相続財産清算人の選任
判断能力に不安のある相続人がいる場合には、成年後見人、保佐人、補助人、特別代理人などの手続が必要になることがあります。海外居住者がいる場合には、署名証明、在留証明、現地での手続、翻訳、送付にかかる期間なども考慮しなければなりません。
このように、所在不明者がいる場合の不動産整理は、単純に「連絡がつかない人を除いて進める」というわけにはいきません。誰の権利を、どの制度を使って、どこまで代理・管理できるのかを、ひとつずつ確認していく必要があります。
所有者不明土地管理制度・管理不全土地管理制度をどう見るか
令和3年の民法・不動産登記法改正によって、所有者不明土地・建物や、管理不全土地・建物に関する管理制度が整備されました。
所有者不明土地管理制度は、所有者を知ることができない土地、または所有者の所在を知ることができない土地について、必要があると認められるときに、裁判所が所有者不明土地管理人による管理を命ずる制度です。一方の管理不全土地管理制度は、所有者は分かっていても、管理が不適当であるために、他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、あるいは侵害されるおそれがある場合に問題となります。
これらの制度は、従来の不在者財産管理人や相続財産清算人と一見似て見えますが、目的と対象が異なります。
不在者財産管理人は、不在者の財産全体を管理する制度です。相続財産清算人は、相続人不存在等の場合に、被相続人の相続財産を清算する制度です。これに対して、所有者不明土地管理制度や所有者不明建物管理制度は、特定の土地・建物を対象とする管理制度です。
そのため、制度を選ぶ際には、次の点を確認します。
- 問題は、不在者個人の財産全体なのか、特定の土地・建物なのか
- 相続人が存在するのか、存在しない可能性があるのか
- 所有者が不明なのか、所在不明なのか、管理不全なのか
- 遺産分割を進めたいのか、売却・解体・管理をしたいのか
- 管理人に、どの行為をしてもらう必要があるのか
- 裁判所の許可や予納金、報酬負担を見込む必要があるか
- 税務申告や固定資産税の納税義務に、どう影響するか
制度名だけを見て「これを使えば解決する」と判断するのは危険です。実際には、申立人、対象財産、必要性、費用、期間、処分許可の要否を確認したうえで、弁護士・司法書士等と連携しながら判断していくことになります。
共有不動産のまま放置すると、次世代でさらに複雑になる
所有者不明土地は、相続人多数の共有状態から生まれることが多いものです。共有にしておけば、当面の遺産分割は一見すると公平に見えます。しかし、売却、建替え、解体、賃貸、境界確認、私道掘削、地目変更、分筆といった場面に入ると、共有者間の意思決定が壁になります。
共有不動産では、使用方法、費用負担、賃料収入、管理方法、共有物分割をめぐって紛争が生じやすく、使われていない共有不動産では、維持コストの負担が問題になりがちです。
令和3年改正民法では、所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更や管理、そして所在等不明共有者の持分取得・譲渡に関する制度が整備されています。
ただし、制度ができたからといって、共有のままでよいということにはなりません。共有者の一部が所在不明になってから制度で対応するよりも、相続の時点で取得者を決める、売却して代金を分ける、代償金を準備する、遺言で方針を明確にしておくなど、あらかじめ共有を増やさない設計をしておく方が、家族・税務・管理のいずれの面から見ても現実的だと考えます。
休眠担保権・古い権利登記がある場合は、処分前に確認する
古い不動産では、すでに完済したと思われる抵当権や根抵当権、あるいは地上権、地役権、賃借権などが、登記簿に残ったままになっていることがあります。
売却や融資、合筆、建替えを行う際には、これらの権利登記が障害になることがあります。土地の合筆登記では、原則として休眠担保権の抹消が必要となる場合があり、その前提として、相続人への所有権移転登記が求められることもあります。休眠担保権の抹消にあたっては、担保権者との共同申請、担保権者が死亡している場合はその相続人との手続、一定の場合における不動産登記法上の簡略手続などを検討していきます。
土地に設定されている権利には、所有権を制限する用益物権や担保物権があります。地上権、地役権、永小作権、抵当権、根抵当権などは、相続税評価だけでなく、売却可能性や管理可能性にも影響を及ぼします。
したがって、未登記・所有者不明の問題を整理するときは、所有者だけでなく、権利部乙区や契約関係まで必ず確認しておくことが大切です。
相続土地国庫帰属制度は「不要な土地を何でも引き取る制度」ではない
古い相続では、山林、原野、農地、空き地などを相続したものの、使い道も買い手も見つからず、管理だけが負担として残ってしまうことがあります。そうした場合に、検討の対象となるのが相続土地国庫帰属制度です。
この制度は、相続等により土地の所有権または共有持分を取得した人などが、法務大臣に対して、土地を国庫に帰属させることについて承認を申請できる制度です。承認を受けたうえで、一定の負担金を納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属します。出典:法務省|相続土地国庫帰属制度の概要
ただし、注意すべき点があります。建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地、土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲に争いがある土地などは、申請の段階で却下される可能性があります。また、一定の崖、地上・地下の有体物、隣接地との争訟を要する土地などは、承認を受けられない場合があります。出典:法務省|相続土地国庫帰属制度の概要
審査手数料は、土地一筆あたり14,000円です。申請を取り下げた場合や、却下・不承認となった場合でも返還されません。出典:法務省|相続土地国庫帰属制度の概要
さらに、承認を受けた場合には、国が管理することとなる土地について、10年分の標準的な管理費用を考慮して算定された負担金を納付する必要があります。出典:法務省|相続土地国庫帰属制度の負担金
所有者不明土地や未登記不動産の場合、そもそも所有者・共有者・境界が整理されていなければ、国庫帰属制度を検討する以前の段階で止まってしまうことがあります。国庫帰属は「最後の出口」のひとつではありますが、そこにたどり着く前に、登記、境界、建物、担保権、共有者、管理状態を整えておく必要があります。
所有者不明土地・未登記不動産の判断手順
所有者不明土地や未登記不動産がある場合、次の順序で整理していくと、税務・法務・実務の論点が見えやすくなります。
1. 不動産を漏れなく洗い出す
固定資産税課税明細書、名寄帳、登記簿、公図、地積測量図、建物図面、旧土地台帳、閉鎖登記簿、課税台帳、農地台帳、賃貸借契約書、古い契約書を集めます。
2. 登記の状態を分類する
現在の所有権登記があるのか、先代名義なのか、表題部のみなのか、未登記なのか、休眠担保権や使用収益権があるのか——こうした観点で状態を分類します。
3. 相続人を時系列で確定する
相続開始日ごとに、適用される相続法、相続人、相続分、代襲相続、数次相続を確認します。古い相続ほど、戸籍の保存状況や旧法の確認が重要になります。
4. 所在不明者・判断能力に不安がある人を整理する
不在者、海外居住者、認知症等により判断能力に不安がある相続人、未成年者、相続人不存在の可能性を確認し、必要となる管理制度や代理制度を検討します。
5. 相続税申告への影響を先に把握する
相続税申告期限、未分割申告、小規模宅地等の特例、配偶者軽減、土地評価、未登記建物評価、固定資産税評価額、納税資金への影響を整理します。
6. 出口を比較する
相続登記して保有するのか、共有を解消するのか、売却するのか、隣地に譲渡するのか、活用するのか、管理制度を利用するのか、国庫帰属制度を検討するのか——これらを比較します。
7. 専門家の役割を分ける
税理士は、相続税評価・申告・譲渡税・納税資金を整理します。司法書士は、相続登記・所有権保存登記・住所変更登記・相続人申告登記を担当します。土地家屋調査士は、表題登記、分筆、地積更正、境界確認を担当します。弁護士は、所在不明者、共有紛争、管理人申立て、遺産分割紛争を担当します。案件によっては、不動産鑑定士、宅地建物取引士、自治体窓口、農業委員会との連携も必要になります。
相談前に整理しておきたい資料
所有者不明土地・未登記不動産のご相談では、最初の資料整理が、その後の判断の質を大きく左右します。
ご相談の前には、次の資料を、できる範囲でご準備ください。
- 固定資産税課税明細書
- 名寄帳
- 固定資産評価証明書
- 登記事項証明書
- 公図、地積測量図、建物図面
- 旧土地台帳、閉鎖登記簿
- 戸籍、除籍、改製原戸籍、戸籍の附票
- 法定相続情報一覧図
- 遺言書、遺産分割協議書案
- 固定資産税の納税通知書、納付履歴
- 古い売買契約書、贈与契約書、借地・賃貸借契約書
- 境界確認書、測量図、越境に関する資料
- 建築確認資料、建物滅失・未登記建物に関する資料
- 農地台帳、生産緑地、農地転用に関する資料
- 売却査定書、解体見積書、管理費用の資料
- 相続人・共有者の連絡状況を整理したメモ
すべてを最初から完璧に揃える必要はありません。大切なのは、「何が不足しているか」を把握できる状態にしておくことです。資料が不足したまま判断を進めると、後になって相続人、財産、評価、税額、登記手続が変わってしまう可能性があります。
まとめ|所有者不明土地は、早い段階で「所有者・税務・出口」を同時に整理する
所有者不明土地や未登記不動産は、放置するほど相続人が増え、戸籍調査が難しくなり、売却・活用・登記・申告の負担が重くのしかかってきます。
相続登記義務化、住所等変更登記義務化、所有不動産記録証明制度、所有者不明土地管理制度、相続土地国庫帰属制度など、近年は制度の整備が着実に進んでいます。しかし、制度が増えたことは、自己判断だけで簡単に処理できることを意味しません。
むしろ、どの制度を使うにせよ、その前に次の確認が欠かせません。
誰が所有者なのか。 どの相続が未処理なのか。 相続人は何人いるのか。 所在不明者や、判断能力に不安がある人はいるのか。 相続税申告では、どの財産として評価するのか。 共有のまま残して、次世代に負担を送らないか。 売却、保有、活用、国庫帰属のどれが現実的か。 そしてその判断を、家族にも税務署にも説明できるか。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、所有者不明土地・未登記不動産を含む相続について、相続税評価、申告期限、未分割申告、納税資金、不動産売却時の税務、そして司法書士・弁護士・土地家屋調査士との連携が必要な論点を整理しています。
古い相続が残っている不動産、先代名義の土地、未登記建物、共有者が不明な土地、国庫帰属や売却を検討したい土地がある場合は、固定資産税資料、登記資料、戸籍関係資料、相続人関係が分かるメモを整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 判断上の注意点 |
|---|---|---|
| 不動産の棚卸し | 固定資産税資料、名寄帳、登記簿、公図、旧土地台帳 | 登記簿だけ、課税明細書だけでは漏れが出る |
| 表題部のみの土地 | 表題部所有者、住所、氏名、閉鎖登記簿、旧土地台帳 | 表題部所有者は所有権登記そのものではない |
| 未登記土地 | 現地調査、周辺公図、財務局・自治体調査 | 地番がなく、所有者確定から始める必要がある |
| 未登記建物 | 固定資産税台帳、課税明細、建築資料 | 相続税評価の対象から漏れやすい |
| 数次相続 | 相続開始日ごとの相続人・相続分 | 旧民法・応急措置法・現行民法の違いに注意 |
| 相続登記義務化 | 3年以内の申請義務、過料、過去相続 | 相続人申告登記は最終的な名義整理ではない |
| 住所等変更登記 | 住所・氏名変更日から2年以内 | 所有者不明化を防ぐため、相続後も更新が必要 |
| 相続税申告 | 10か月期限、未分割申告、評価根拠 | 登記未了でも申告期限は延びない |
| 土地評価 | 現況地目、評価単位、路線価・倍率 | 登記地目や固定資産税地目だけで判断しない |
| 固定資産税 | 現所有者、納税代表者、課税台帳 | 税を払っていることと所有権確定は別問題 |
| 不在者 | 戸籍附票、所在調査、不在者財産管理人 | 遺産分割・売却には権限外行為許可が必要になる場合 |
| 相続人不存在 | 相続財産清算人、債権者、特別縁故者 | 相続放棄が連鎖した場合にも検討対象 |
| 管理制度 | 所有者不明土地管理、管理不全土地管理 | 不在者財産管理人・相続財産清算人と目的が異なる |
| 共有 | 共有者、持分、管理費、売却意思 | 放置すると次世代で共有者が増える |
| 休眠担保権 | 抵当権・根抵当権・地役権等の登記 | 売却・合筆・融資の前提として抹消が必要になることがある |
| 国庫帰属 | 建物、担保権、境界、土壌汚染、負担金 | 不要な土地を何でも引き取る制度ではない |
| 専門家連携 | 税理士、司法書士、土地家屋調査士、弁護士 | 税務・登記・境界・紛争を分けて整理する |