不動産を売却して相続税を納める場合の判断|換価分割・譲渡所得・取得費加算・申告期限の実務整理

相続財産の多くを不動産が占めるご家庭では、「不動産を売れば相続税を払える」と考えるのが自然です。

しかし、実務に立ち会っていると、この判断はそれほど単純ではありません。相続税の納税期限までに、本当に売却できるのか。売却価格は相続税評価額とどう関係するのか。売却代金を相続人の間でどう分けるのか。売却益にかかる譲渡所得税をいくら見込んでおくべきか。小規模宅地等の特例や取得費加算は使えるのか。共有や登記、境界、借地権、抵当権に問題はないのか。確認すべきことは、思いのほか多く重なり合っています。

不動産を売却して納税するという判断は、単なる「資金化」の話ではありません。相続税申告、遺産分割、譲渡所得、登記、親族間の公平、将来の資産管理を同時に整理する判断です。

本記事では、不動産を売却して相続税を納める場合に、どの順序で論点を確認し、どのリスクを見込んで判断すべきかを整理します。

目次

まず押さえておきたい前提|相続税は10か月、売却は市場次第

相続税の申告と納税は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。納税も申告期限までに済ませる必要があり、期限までに納めなければ延滞税がかかることがあります。

出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

ここで難しいのは、相続税の期限は法律で動かせない一方、不動産の売却時期は、市場、買主、価格、境界、登記、融資、建物の状況、賃借人、共有者の意思といった、自分の力だけでは決められない要素に左右されることです。

納税資金を捻出するために換価分割を選ぶ場合、納付期限までに売却を終え、代金を分配しなければなりません。そのため、条件の良い買主をじっくり待つことができず、相場より低い価格でも売らざるを得ない場面が出てきます。

加えて、仲介手数料、確定測量費、登記費用、印紙税、建物解体費といった諸経費が売却代金から差し引かれます。結果として、相続人が手にする金額は、当初の想定より小さくなることが珍しくありません。

ですから、判断の出発点は「売れば払えるか」ではないのです。申告期限までに、税引後・費用控除後の資金を、誰が、いくら、いつ確保できるか——ここを確認することが起点になります。

売却代金の全額を納税資金と見てはいけない

不動産を売っても、売却代金がそのまま手元に残るわけではありません。少なくとも、次のような控除や支出を見込んでおく必要があります。

一つ目は、売却に直接かかる費用です。仲介手数料、売買契約書の印紙税、測量費、境界確定費、建物の取壊し費用、借家人への立退料、借地権譲渡時の名義書換料などは、譲渡費用に該当する可能性があります。譲渡費用とは、土地や建物を売るために直接かかった費用を指します。

出典:国税庁|No.3255 譲渡費用となるもの

二つ目は、譲渡所得にかかる税金です。土地・建物の譲渡所得は、売却代金から取得費と譲渡費用を差し引き、適用できる特別控除があればさらに控除して計算します。税率は、長期譲渡所得か短期譲渡所得かによって変わります。長期なら所得税15%・住民税5%、短期なら所得税30%・住民税9%が基本で、平成25年から令和19年までは復興特別所得税も併せて考えます。

出典:国税庁|No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
出典:国税庁|No.3211 短期譲渡所得の税額の計算

三つ目は、譲渡所得税等の納税資金を残しておくことです。相続税を納めるために売却したはずが、代金をすべて相続税や相続人への分配に充ててしまい、翌年の所得税・住民税の資金が足りなくなる——そうした事態は実際に起こります。

不動産を売却して相続税を納める場合は、次のような順序で資金を確認していきます。

  • 売却見込額
  • -売却費用
  • -譲渡所得税・住民税の見込額
  • -抵当権抹消、借入返済、立退料、解体費など個別の支出
  • =相続税の納付・相続人への分配に使える実質資金

最後に残るこの「実質資金」が、相続税額、代償金、相続人間の分配予定額をまかなえるかどうか。ここを見極めることが欠かせません。

不動産を売る前に、分割方法を決めておく

相続不動産を売却する場合、遺産分割の方法によって、税務も手続きも変わってきます。代表的な選択肢は、次の3つです。

分割方法内容向いている場面注意点
現物分割後の売却特定の相続人が不動産を取得し、その人が売却する取得者が明確で、売却後の資金を自分の納税に充てる場合他の相続人との公平、代償金、取得者の譲渡税負担
換価分割不動産を売却して、売却代金を相続人間で分ける不動産を誰も使わず、現金で公平に分けたい場合協議書の記載、登記名義、売却費用、譲渡所得税
代償分割一人が不動産を取得し、他の相続人へ金銭を支払う不動産を残したい相続人がいる場合代償金の支払能力、借入、将来売却時の税負担

換価分割とは、共同相続人または包括受遺者のうち1人または数人が、相続・包括遺贈で取得した財産の全部または一部を金銭に換え、その代金を分ける方法です。現物分割や代償分割が適さない場合に選ばれることの多い方法です。

税務上は、換価の便宜のために共同相続人の1人の名義へいったん相続登記を行い、その後に売却代金を分配する場合でも、その登記があくまで換価のための便宜であり、代金が調停内容などに従って実際に分配されるのであれば、贈与税の課税は問題になりません。

出典:国税庁|遺産の換価分割のための相続登記と贈与税

ただし、これは事実関係がはっきりしていることが前提です。遺産分割協議書に、「換価分割のために代表相続人名義とすること」「売却代金から費用を控除した残額を、どの割合で分配するか」「代表相続人が管理・清算すること」といった点が書かれていなければ、後の分配が遺産分割によるものなのか、代表相続人から他の相続人への贈与なのかが曖昧になってしまいます。

換価分割のために代表相続人名義とする場合、売却手続きそのものは簡素になります。その一方で、代表相続人が売却代金や費用をきちんと管理し、清算する責任を負うことになります。

不動産を売って納税する場合は、売買契約の前に、「誰が不動産を取得したうえで売るのか」「売却代金は誰のものとして扱うのか」「譲渡所得税は誰に発生するのか」を、まず整理しておきましょう。

売却予定があっても、相続税評価は別に検討する

相続開始後に不動産を売る予定があると、「売却予定額で相続税申告をすればよいのではないか」と考えがちです。

しかし、相続税の課税時期は、相続により財産を取得した時、つまり通常は被相続人が亡くなった時です。相続や遺贈で取得した財産は、その財産を取得した時の価額で評価します。

出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税(相続登記と相続税の申告)

土地の相続税評価は、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに行い、路線価方式または倍率方式によって評価します。家屋は、原則として固定資産税評価額に1.0を乗じて評価します。

出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

したがって、相続開始後の売却価格は重要な参考情報にはなりますが、相続税評価額をそのまま置き換えるものではありません。とりわけ、納税期限に追われて安値で売った場合、その価格を「相続開始時の時価」として扱えるとは限らないのです。

逆に、相続開始の直後に、独立した第三者との間で、十分な販売活動を経て売買が成立したのであれば、その価格は評価の妥当性を検討する材料になり得ます。売却価格と相続税評価額が大きく食い違う場合には、なぜその差が生じたのかを、次のような観点で整理しておく必要があります。

  • 路線価評価・倍率評価による評価額
  • 実際の売却価格
  • 売却までの期間
  • 買主が第三者か、親族・同族会社か
  • 急ぎ売り、買いたたき、事故物件、境界未確定、建物老朽化などの事情
  • 接道、私道、建築制限、土壌汚染、埋設物、借地借家関係
  • 不動産鑑定評価や査定書の有無
  • 相続税申告書に添付・保存する評価根拠

「売れた金額」と「相続税評価額」は、同じ不動産を見ていても、その目的が異なります。相続税申告で大切なのは、税額を下げることではなく、後から説明できる評価根拠を整えておくことです。

申告期限までに売れない場合も想定しておく

売却予定の不動産があっても、申告期限までに売却が完了するとは限りません。

遺産分割協議がまとまらなくても、相続税の申告期限が延びるわけではありません。相続財産が分割されていない場合でも、各相続人等が民法上の相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして、期限内に申告・納税をする必要があります。未分割のままでは、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などが、当初の申告で使えないことがあります。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

売却が期限に間に合わない場合に検討したい選択肢は、次のとおりです。

  • 他の金融資産や生命保険金で一時的に納税する
  • 相続人が自己資金や借入で納税し、後日売却代金で精算する
  • 代償分割ではなく換価分割に切り替える
  • 未分割申告を行い、後日の分割後に修正申告または更正の請求を検討する
  • 延納を申請できるか検討する
  • 物納の可能性を検討する
  • 売却価格を優先するか、期限内の資金化を優先するかを相続人間で合意する

延納は、相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難な事由がある場合に、担保提供などの一定の要件を満たすことで、年賦による納付を認める制度です。延納期間中は利子税がかかります。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

物納は、相続税に限り、延納によっても金銭での納付が困難な場合に、一定の相続財産による納付を認める制度です。ただし、境界が明らかでない土地、担保権が設定されている不動産、権利の帰属に争いがある不動産、共有不動産など、管理処分不適格財産にあたる不動産は、物納に適さないことがあります。

出典:国税庁|No.4214 相続税の物納

延納も物納も、「売れなかったときの保険」として気軽に使える制度ではありません。申請期限、担保、物納適格性、利子税、資料の整備まで含めて、早い段階から検討しておく必要があります。

譲渡所得の計算では「取得費」が鍵になる

相続不動産を売るとき、譲渡所得税の負担を大きく左右するのが取得費です。

相続で取得した土地建物を売却した場合の取得費は、被相続人がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などをもとに計算します。取得の時期も、被相続人の取得時期を引き継ぎます。

出典:国税庁|No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期

これは、相続人が相続した日を取得日として判定するわけではない、という意味です。被相続人が何十年も前に購入した土地であれば、相続人が相続後すぐに売っても、長期譲渡所得に該当することが多くなります。

注意したいのは、取得費がわからない場合です。先祖代々の土地、古い売買契約書が残っていない土地、建築費の資料が見当たらない建物では、取得費を確認できないことがあります。このときは、売却金額の5%相当額を取得費とする概算取得費を使うことができます。

出典:国税庁|No.3258 取得費が分からないとき

概算取得費を使うと、売却金額の95%近くが譲渡益の計算対象になり得ます。取得費が不明な不動産や株式を売る場合は、概算取得費を前提に譲渡税を試算し、納税資金を確保しておくことが大切です。

ご相談の前に、次の資料を探しておくとよいでしょう。

  • 被相続人の購入時の売買契約書
  • 領収書、仲介手数料、登記費用、不動産取得税の資料
  • 建物の建築請負契約書、増改築の資料
  • 住宅ローン関係の資料
  • 過去の買換え・交換・収用・贈与・共有持分取得の資料
  • 固定資産台帳、減価償却の資料
  • 相続登記費用、不動産取得税、登録免許税の資料
  • 解体費、測量費、境界確定費、立退料、仲介手数料の見積書

売却前に取得費の資料を集められるかどうかで、譲渡所得税の見込みは大きく変わってきます。

取得費加算は「相続税を払った人」が一定期間内に売る場合の重要論点

相続した不動産を売却するときは、相続税の取得費加算を検討します。

この特例は、相続または遺贈で取得した土地・建物・株式などを一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を、譲渡資産の取得費に加算できる制度です。適用には、相続や遺贈で財産を取得した者であること、その財産を取得した人に相続税が課税されていること、そしてその財産を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること、という要件があります。

出典:国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

実務では「申告期限から3年以内の売却」と説明されることが多いのですが、正確な期間は、相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。

取得費加算を検討する際は、次の点を確認します。

  • 売却する人に相続税が課税されているか
  • 売却する財産が、相続または遺贈で取得した財産か
  • 売却時期が期間内か
  • 譲渡所得の確定申告を行うか
  • 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書を作成できるか
  • 他の特例、特に空き家特例との関係をどう整理するか

取得費加算は、相続税の納税資金を確保するための売却でなくても、要件を満たせば検討対象になります。反対に、相続税が課税されていない人、相続財産ではない財産を売る人、期間外に売る人には使えません。

空き家特例との関係も確認する

売却する不動産が、被相続人の居住用家屋やその敷地である場合には、いわゆる空き家を売ったときの3,000万円特別控除の特例も検討対象になります。

国税庁は、相続または遺贈で取得した被相続人居住用家屋またはその敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売却し、一定の要件に該当するときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できるとしています。なお、令和6年1月1日以後の譲渡で、被相続人居住用家屋およびその敷地等を取得した相続人の数が3人以上である場合は、控除額は最高2,000万円までとされています。

出典:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

空き家特例と取得費加算は、両方の要件を満たす場合でも、実際の税額を比べて判断する必要があります。両者は選択適用であり、実際に計算したうえで、有利な方を選ぶのが基本です。

ただし、空き家特例は要件が細かいため注意が必要です。家屋の建築時期、区分所有建物でないこと、被相続人の居住実態、相続後の利用状況、耐震改修または取壊し、売却期限、買主との関係などを、一つひとつ確認しなければなりません。相続税の納税資金確保を急ぐあまり、空き家特例に必要な要件確認や市区町村の確認書取得を後回しにすると、想定していた譲渡税にならないことがあります。

小規模宅地等の特例を使う土地は、売却時期に注意する

相続不動産を売って納税する場合、小規模宅地等の特例との関係には、とりわけ注意が必要です。

小規模宅地等の特例は、相続開始の直前に被相続人等の事業用または居住用に使われていた宅地等について、一定の要件を満たす場合に、一定面積まで評価額を減額する制度です。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

問題になるのは、取得者や宅地の種類によって、申告期限までの所有継続・居住継続・事業継続などの要件が課されることです。たとえば、特定事業用宅地等では、一定の場合に事業承継要件・保有継続要件があり、特定同族会社事業用宅地等にも保有継続要件があります。特定居住用宅地等でも、取得者によっては、申告期限までの居住継続や所有継続が問題になります。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

つまり、相続税を払うために申告期限前に不動産を売ってしまうと、取得者や宅地の種類によっては、小規模宅地等の特例が使えなくなるおそれがあるのです。

ここで必要になるのは、次の比較です。

  • 売却を急いで納税資金を確保する利益
  • 小規模宅地等の特例を失うことによる相続税の増加
  • 取得費加算や空き家特例による譲渡税の軽減
  • 延納や一時借入で、申告期限後まで保有する選択肢
  • 相続人間の分配・代償金への影響

特例を使うために、無理をしてまで不動産を残すべきとは限りません。しかし、売却した後で「特例を使えなくなった」と気づくのは、できる限り避けたいところです。売却前に、相続税と譲渡税を一体で試算しておきましょう。

相続登記・共有・境界が整っていないと、売却は止まる

相続不動産を売却するには、原則として相続登記が必要です。換価分割の場合でも、被相続人名義の不動産を直接買主名義へ移すことはできません。いったん相続を原因とする所有権移転登記を行ったうえで、売買による所有権移転登記を行うことになります。

令和6年4月1日から、相続登記の申請は義務化されています。相続したことを知った日から3年以内に登記する必要があり、正当な理由なく義務に違反すると、10万円以下の過料が科される可能性があります。義務化前の相続も対象です。

出典:法務省|不動産を相続したらかならず相続登記!相続登記の義務化

売却の実務では、相続登記のほかにも、次のような点が問題になります。

  • 相続人全員の合意があるか
  • 未成年者、判断能力に不安がある相続人、海外居住者がいないか
  • 共有者全員が売却に協力できるか
  • 境界確認・確定測量が必要か
  • 私道持分や、通行・掘削の承諾が必要か
  • 抵当権、根抵当権、差押え、仮登記が残っていないか
  • 借地権、賃借権、使用貸借、サブリースがないか
  • 建物が未登記ではないか
  • 農地法、都市計画法、建築基準法の制限がないか
  • 土壌汚染、埋設物、越境、擁壁、がけ地などの問題がないか

相続税の申告期限が近づいてからこうした問題が見つかると、売却スケジュールは大きく崩れてしまいます。

とりわけ、共有は慎重に考えたいところです。共有不動産では、使用方法、費用負担、賃料収入、管理方法、売却判断をめぐって紛争が生じやすく、使われていない共有不動産では、維持コストの分担が問題になりがちです。

「とりあえず共有にして売る」という進め方は、すでに買主が見つかっている場合や、協力体制が整っている場合には有効なこともあります。しかし、相続人間の関係が不安定なときには、売却前に共有者の意思決定が止まり、納税資金の計画まで崩れてしまうおそれがあります。

親族・同族会社への売却は、時価の確認が重要になる

不動産を納税資金に充てるため、親族や同族会社に売却することがあります。

このとき、第三者への通常の売却よりも、税務上の時価確認が重要になります。売買価格が時価より著しく低いと、個人間ではみなし贈与、個人と法人の取引では譲渡所得、法人税、受贈益、株主への経済的利益などが問題になることがあります。親族間・同族関係者間の不動産売買では、裁決や判決においても、時価、著しく低い価額、第三者間取引性、権利関係などが争点となってきました。

相続税の納税資金を確保するための売却であっても、買主が親族や同族会社である場合には、次の資料を整えておきましょう。

  • 不動産鑑定評価書、または複数の査定書
  • 路線価、固定資産税評価額、公示価格、基準地価
  • 近隣の売買事例
  • 権利関係、賃貸借契約、借地権・底地の評価資料
  • 売買契約書、決済資料、資金移動の記録
  • 同族会社の場合の、取締役会・株主総会・利益相反手続の検討資料

安く親族に売って納税資金を作るという発想は、家族の中では合理的に見えることがあります。しかし税務上は、時価との差額が、別の課税問題を生む可能性があるのです。

売却すべき不動産と、残すべき不動産を分ける

納税資金のために不動産を売る場合でも、どの不動産を売るかは、慎重に決める必要があります。

単に「評価額が高い土地」から売ればよい、というわけではありません。次のような観点で比較します。

  • 売却しやすいか
  • 相続税評価額と実勢価格の差が大きいか
  • 小規模宅地等の特例の対象か
  • 取得費が判明しているか
  • 譲渡所得税が大きくならないか
  • 空き家特例や取得費加算を使えるか
  • 共有・借地・賃貸・境界・私道の問題がないか
  • その不動産を取得したい相続人がいるか
  • 二次相続で残した方がよいか
  • 将来の管理負担や固定資産税負担が重いか
  • 収益性があるか
  • 売却すると、家族の生活や事業に影響しないか

たとえば、売りやすいからといって自宅敷地を手放してしまうと、配偶者の生活保障や小規模宅地等の特例、二次相続対策に影響することがあります。一方で、管理が難しい空き家や遠方の土地を残すと、将来の固定資産税、管理費、解体費、共有者との調整が、重い負担になりかねません。

相続対策の基本は、相続税対策だけではありません。争族の防止、納税資金対策、相続税の軽減対策を一体で考える必要があります。とりわけ換金が難しい財産が多い場合には、納税資金対策が不十分だと、相続人が納税に窮することになります。

不動産の売却は、納税資金のための緊急対応であると同時に、資産を現金に組み替える機会でもあります。どの財産を残し、どの財産を手放すか。一次相続だけでなく、二次相続、相続人の生活、将来の管理可能性まで含めて判断したいところです。

売却判断の実務手順

不動産を売却して相続税を納める場合、次の順序で整理していくと、判断の抜け漏れを減らせます。

1. 相続税の概算額を把握する

まず、相続財産、債務、葬式費用、みなし相続財産、生前贈与加算、小規模宅地等の特例の可能性を整理し、相続税の概算額をつかみます。

2. 納税資金の不足額を確認する

現預金、生命保険金、死亡退職金、上場株式、相続人の自己資金、借入の可能性を確認し、不動産売却で補うべき金額を明確にします。

3. 売却候補の不動産を選ぶ

売却価格だけでなく、特例の適用、譲渡所得税、売却のしやすさ、共有・登記・境界・権利関係を比較します。

4. 相続税評価と売却見込額を分けて試算する

相続税評価額は、相続税申告のための評価です。売却見込額は、納税資金計画のための価格です。両者を混同せず、差額の理由を説明できるようにしておきます。

5. 分割方法を決める

現物分割、代償分割、換価分割のどれを選ぶかを決め、遺産分割協議書に、税務・登記・売却代金の清算がわかるように記載します。

6. 譲渡所得税を試算する

取得費、譲渡費用、所有期間、取得費加算、空き家特例、その他の特例を確認します。概算取得費しか使えない場合は、譲渡税が大きくなる前提で資金を残しておきます。

7. 売却時期を決める

申告期限前に売るのか、申告後に売るのか、一時借入や延納で時間を確保するのかを比較します。小規模宅地等の特例の継続要件も、あわせて確認します。

8. 申告後の説明資料を残す

査定書、売買契約書、測量資料、評価明細、遺産分割協議書、売却費用、譲渡所得計算、取得費資料、相続税取得費加算の計算資料を保存しておきます。

ご相談の前に整理しておきたい資料

不動産の売却を前提に相続税申告をご相談いただく場合、次の資料があると、税額・資金繰り・分割案を具体的に検討しやすくなります。

  • 固定資産税課税明細書
  • 名寄帳
  • 登記事項証明書
  • 公図、地積測量図、建物図面
  • 固定資産評価証明書
  • 賃貸借契約書、サブリース契約書、借地契約書
  • 住宅ローン・抵当権・借入金の資料
  • 遺言書、遺産分割協議書案
  • 相続人関係図、戸籍関係の資料
  • 不動産会社の査定書
  • 売買契約予定書、買付証明書
  • 測量費、解体費、立退料、仲介手数料の見積書
  • 被相続人の購入時契約書、建築請負契約書、領収書
  • 過去の贈与、買換え、交換、収用、共有持分取得の資料
  • 小規模宅地等の特例に関係する、居住・事業・貸付の資料
  • 空き家特例に関係する建物資料、住民票、除票、確認書関係の資料
  • 相続税取得費加算の検討に必要な、相続税申告の資料

資料が完全にそろっていなくても、まずは「何があるか」「何がないか」を整理することが大切です。取得費の資料や境界の資料が見つかるかどうかで、売却後の手残りは大きく変わることがあります。

まとめ|不動産売却は、相続税と譲渡税を同時に見る

不動産を売却して相続税を納める判断では、相続税だけを見ても、売却価格だけを見ても足りません。

大切なのは、次の問いに答えられる状態にしておくことです。

  • 相続税はいくらか
  • 申告期限までに、いくら不足するか
  • 売却は期限内に完了する見込みがあるか
  • 売却代金から費用と譲渡税を差し引いた手残りはいくらか
  • 売却する不動産は、小規模宅地等の特例に影響しないか
  • 取得費加算や空き家特例を使えるか
  • 誰が不動産を取得し、誰が譲渡所得税を負担するか
  • 売却代金の分配は、遺産分割協議書で説明できるか
  • 相続人の間で、納得できる分け方になっているか
  • 売らずに、延納・一時借入・代償分割で対応する選択肢はないか

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産を含む相続について、相続税評価、納税資金、換価分割、譲渡所得、取得費加算、小規模宅地等の特例、申告期限、そして司法書士・弁護士・不動産関係の専門家との連携が必要となる論点を整理します。

相続不動産を売って納税すべきか迷っておられる場合は、売却予定額だけで判断せず、相続税・譲渡税・分割・登記・将来の管理を一体で確認することが重要です。固定資産税資料、登記資料、査定書、取得費資料、相続人関係がわかる資料を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り

論点確認すべきこと判断上の注意点
相続税の期限死亡を知った日の翌日から10か月以内売却が間に合わなくても、申告・納税期限は原則延びない
売却代金売却価格、入金時期、費用控除後の手残り売却代金の全額を納税資金と見ない
譲渡所得売却額、取得費、譲渡費用、特別控除所得税・住民税・復興特別所得税の資金を残す
取得費被相続人の購入資料、建築資料、登記費用等不明なら概算取得費5%となり、税負担が大きくなることがある
取得時期被相続人の取得時期を引き継ぐ相続後すぐの売却でも、長期譲渡所得となる場合がある
取得費加算相続税課税の有無、譲渡時期、申告書類相続税を払った人が、一定期間内に譲渡する場合に検討
空き家特例被相続人の居住、家屋要件、譲渡期限、相続人の数取得費加算との有利不利を、計算で比較する
小規模宅地等宅地の種類、取得者、継続要件、分割状況申告期限前の売却で、特例を失う可能性がある
換価分割誰が登記名義人になるか、売却代金の分配割合協議書に、換価の目的と清算方法を明記する
代償分割不動産取得者の代償金支払能力代償金の資金調達と、将来売却時の譲渡税を確認
現物分割後売却誰が不動産を取得し売却するか譲渡所得税は、原則として売却した取得者に発生
未分割申告分割未了でも、期限内の申告が必要配偶者軽減・小規模宅地等の当初適用に制限がある
延納金銭納付困難、担保、利子税期限内の申請が必要で、単なる資金繰り猶予ではない
物納国内相続財産、順位、管理処分適格性境界未確定・共有・担保付不動産などは難しい場合がある
相続登記売却前の相続登記、相続登記の義務化被相続人名義から直接買主へ移転できない場合が多い
共有全員の売却意思、費用負担、代金分配とりあえずの共有は、将来の意思決定を難しくする
親族・同族会社への売却時価、査定、鑑定、資金移動低額譲渡・みなし贈与・法人税課税に注意
売却候補の選定売りやすさ、特例、譲渡税、将来管理評価額が高い不動産から売ればよいとは限らない
資料保存査定書、契約書、測量資料、評価明細申告後に説明できる根拠を残す
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次