未分割の場合の小規模宅地等と申告期限|遺産分割がまとまらない相続税申告で失わないための実務整理

相続税の申告で小規模宅地等の特例を検討しているとき、申告期限までに遺産分割協議がまとまらない、という場面に直面することがあります。

自宅を配偶者が取得するのか、それとも同居していたお子さんが取得するのか。賃貸不動産を誰が引き継ぐのか。事業用地を後継者に集中させるべきか。特例を使えば税額は大きく下がるとしても、その分割案で他の相続人が納得できるのか。

こうした論点が残ったまま、相続税の申告期限が近づいてくる。実務では決して珍しいことではありません。

ただ、ここで気をつけたいのは、小規模宅地等の特例は「対象となる土地がある」というだけでは適用できない、という点です。誰がその宅地等を取得するのか、その取得者が要件を満たしているのか、申告期限までに分割されているのか、必要書類を添えて申告できるのか。これらがそろって初めて適用が見えてきます。

とりわけ未分割の場合に、「分割が決まっていないのだから、申告も待ってもらえるはずだ」と考えてしまうのは危険です。相続税の申告期限は、遺産分割がまとまらないことを理由に延びるわけではないからです。

本記事では、未分割の場合の小規模宅地等の特例について、申告期限、申告期限後3年以内の分割見込書、更正の請求、やむを得ない事由の承認申請、継続要件、添付書類、そして納税資金への影響まで、実務の視点から整理していきます。

目次

まず押さえておきたい結論

未分割の場合の小規模宅地等の特例について、最初に押さえておきたい結論を一覧にまとめます。

論点実務上の結論
申告期限遺産分割が未了でも、相続税の申告・納税の期限は原則として延びない
未分割財産未分割の宅地等については、当初申告で小規模宅地等の特例を適用できない
当初申告法定相続分または包括遺贈割合等を基礎に申告・納税する
分割見込書後日、特例を受ける予定がある場合、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する
3年以内の分割申告期限から3年以内に分割されれば、分割後に更正の請求等で特例適用を検討できる
更正の請求分割により税額が減る場合、原則として分割が行われた日の翌日から4か月以内に行う
3年超の未分割訴訟等の一定のやむを得ない事情がある場合、承認申請を検討する
継続要件後で分割されても、申告期限時点の居住・事業・貸付・保有等の要件確認は必要
納税資金特例なしでいったん納税する可能性があり、資金繰りへの影響が大きい
判断軸税額だけで急いで分割せず、家族間の納得、二次相続、将来管理、税務上の説明可能性を比較する

相続税の申告は、相続財産が分割されていない場合であっても、期限までに行う必要があります。未分割を理由に申告期限が延びることはありません。

そして、分割協議が成立していないときは、各相続人等が民法に規定する相続分または包括遺贈割合に従って財産を取得したものとして、いったん申告・納税することになります。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

相続税の申告期限は「遺産分割が終わる日」ではない

相続税の申告期限は、原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。通常は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内と考えていただいて差し支えありません。納税についても、この申告期限までに済ませる必要があります。

出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

ここで何より重要なのは、この10か月という期限が、遺産分割協議の進み具合とは無関係に進んでいく、という点です。

状況申告期限への影響
相続人間で協議中申告期限は延びない
不動産の評価に時間がかかっている原則として申告期限は延びない
小規模宅地等の取得者が決まらない申告期限は延びない
調停を検討している申告期限は延びない
相続人の一部が協議に応じない申告期限は延びない
相続人が海外在住・行方不明期限管理がより重要になる

相続税の申告実務では、期限までに「完全に納得のいく分割」までたどり着けないことが、しばしばあります。それでも、期限内の申告と納税は必要です。期限を過ぎれば、延滞税や加算税といった問題が生じかねません。

そのため未分割の相続では、次の二つを切り分けて考えることが欠かせません。

区分内容
税務上の期限管理10か月以内に申告・納税する
法務上・家族間の分割判断相続人間で納得できる分割を検討する

税務上の期限を守るために、家族間で合意をある程度急がざるを得ない場面もあります。

一方で、小規模宅地等の特例を受けたいという理由だけで、将来の紛争や共有リスクを残す分割を急いでしまうのは避けたい場面もあります。

この見極めこそが、未分割申告の実務で最も難しく、最も大切なところです。

未分割のままでは、小規模宅地等の特例は原則として使えない

小規模宅地等の特例は、相続開始の直前に被相続人等の居住用または事業用に使われていた一定の宅地等について、一定面積まで相続税評価額を減額する制度です。

ただし、この特例を適用するには、対象となる宅地等を「誰が取得したのか」が確定している必要があります。取得者が確定しなければ、特定居住用宅地等、特定事業用宅地等、貸付事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等のいずれに当たるのかも、取得者要件や継続要件を満たすのかも、判定のしようがないからです。

特例の適用にあたっては、相続税の申告書に適用を受けようとする旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付しなければなりません。

加えて、特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、どの宅地等について特例を選択するかについて全員の同意が必要で、かつ原則として相続税の申告期限までに分割されていることが求められます。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

未分割のまま当初申告を行う場合、その未分割財産については小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も適用できません。結果として、特例を適用した後に比べて大きな税額を、いったん納付することになります。

「未分割」と「一部未分割」は分けて考える

実務で誤解されやすいのが、「一つでも未分割の財産があると、小規模宅地等の特例はすべて使えなくなるのか」という点です。

答えは、それほど単純ではありません。

問題になるのは、主に次の三つです。特例を適用したい宅地等が分割されているか。その取得者が要件を満たしているか。他の特例対象宅地等との選択同意が整っているか。

状況小規模宅地等の検討
特例対象の自宅敷地が未分割当初申告では原則としてその自宅敷地に特例適用不可
自宅敷地は遺言で配偶者取得が確定、他の財産が未分割自宅敷地について特例適用を検討できる余地がある
賃貸不動産は分割済み、自宅敷地が未分割分割済みの賃貸不動産側で要件・選択関係を検討
複数の特例対象宅地があり、一部のみ分割済み取得者同意、選択適用、限度面積調整を確認
全財産が未分割当初申告では原則として小規模宅地等の特例を適用できない

「相続財産の全体が分割済みでなければ一切使えない」と単純に決めつけるのではなく、「どの財産が未分割なのか」「特例対象宅地等の取得者は確定しているのか」を、丁寧に切り分けていく姿勢が大切です。

もっとも、特例対象宅地等を取得した相続人等が複数いる場合には、特例選択についての同意が必要になります。そのため、他の宅地等の分割状況も結果的に影響してきます。小規模宅地等は、単独の土地評価の問題ではなく、遺産分割全体と連動して動く特例なのです。

未分割申告では、いったん特例なしで税額を計算する

申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、相続税の申告では、未分割財産について各相続人等が法定相続分または包括遺贈割合等により取得したものとして、申告・納税することになります。

このとき、未分割財産については、小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も適用しない計算になります。

当初申告で行うこと実務上の意味
未分割財産を法定相続分等で計算実際の最終取得者とは異なる暫定計算になる
小規模宅地等を適用しない自宅敷地や事業用地があっても税額が大きくなる可能性
配偶者軽減を適用しない部分が出る配偶者が最終取得予定でも、未分割財産には当初適用不可
期限内に納税する後日還付の可能性があっても、当初資金が必要
分割見込書を添付する後日の特例適用に備えるための重要手続

ここで現実的に立ちはだかるのが、納税資金の問題です。

小規模宅地等の特例を使えば税額が大きく下がる見込みがあったとしても、未分割のままでは、当初申告の段階で特例なしの税額を納付しなければなりません。相続財産の大半が不動産で、金融資産が少ないケースでは、この納税資金の確保が重い負担となります。

相続対策では、相続税の軽減だけでなく、争族の防止、納税資金、申告実務を一体で考える必要があります。納税資金が不足すると、換金しやすい優良資産から先に手放さざるを得なくなり、本来残したかった資産構成が崩れてしまうこともあるのです。

申告期限後3年以内の分割見込書とは何か

未分割のまま申告する場合でも、後日、遺産分割がまとまれば小規模宅地等の特例を適用できる可能性が残ります。その可能性をつなぐために重要なのが、「申告期限後3年以内の分割見込書」です。

これは、申告期限までに分割されていない財産について、申告期限後3年以内に分割する見込みがあり、分割後に小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減等の適用を受ける予定であることを、あらかじめ届け出ておくための書類です。

具体的には、相続税の申告書の提出期限までに、相続または遺贈により取得した財産の全部または一部が分割されていない場合に、その未分割財産を提出期限から3年以内に分割し、小規模宅地等の特例等の適用を受けるために届け出る手続とされています。提出の時期は、相続税の申告書とともに、とされています。

出典:国税庁|B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続

ここで誤解を避けたいのは、この分割見込書は「特例の適用を確定させる書類」ではない、という点です。

誤解正しい理解
分割見込書を出せば特例が使える分割後に要件を満たせば、特例適用を検討できる
分割見込書を出せば納税を待てる当初申告・納税は期限内に必要
分割見込書を出せば3年間申告不要申告期限は延びない
分割見込書を出せばどの分割でもよい取得者要件・継続要件・選択同意を満たす必要がある
後で出せばよい原則として相続税申告書とともに提出する

分割見込書は、あくまで将来の救済可能性を残しておくための手続です。未分割申告の際にこの書類を添付し忘れると、後日分割がまとまっても、特例の適用に支障が生じるおそれがあります。

申告期限から3年以内に分割された場合

相続税の申告期限から3年以内に遺産分割がまとまり、小規模宅地等の特例の要件を満たすときは、分割後に更正の請求や修正申告を検討します。

税額が減る場合には、更正の請求を行います。申告期限から3年以内に分割されたときは、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことができるとされています。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告(遺産分割が行われていない場合の各種特例の適用手続)

一方、分割後の取得財産にもとづいて再計算した結果、当初申告より税額が増える相続人がいる場合には、修正申告を検討します。

分割後の結果必要となる手続
当初申告より税額が減る更正の請求
当初申告より税額が増える修正申告
相続人ごとに増減が分かれる増える人は修正申告、減る人は更正の請求を検討
小規模宅地等を後日適用する計算明細、分割資料、同意関係を整えて手続
配偶者軽減も後日適用する小規模宅地等とあわせて税額再計算

このとき、「分割協議書ができた」というだけでは足りません。小規模宅地等の特例を受ける宅地等の選択、取得者要件、継続要件、限度面積、減額割合、添付書類。これらを改めて確認しておく必要があります。

申告期限から3年を超えても分割できない場合

遺産分割が3年以内にまとまらないときは、原則として小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も適用できません。

ただし、相続に関する訴えが提起されているなど、一定のやむを得ない事情がある場合には、承認申請によって救済を受けられる余地が残されています。

申告期限後3年を経過する日後に小規模宅地等の特例等の適用を受けるため、3年以内に分割されなかったことについてやむを得ない事由があるときの承認申請手続が用意されています。提出の時期は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日まで、とされています。

出典:国税庁|B1-6 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続

さらに、この承認を受けたうえで、判決の確定日など相続財産の分割ができることとなった日の翌日から4か月以内に分割された場合には、これらの特例の適用を受けることができるとされています。適用を受けるには、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行う必要があります。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告(遺産分割が行われていない場合の各種特例の適用手続)

時系列で整理すると、次のようになります。

時点必要な対応
相続開始相続人、財産、遺言、債務、納税資金を確認
申告期限まで申告・納税を行う。未分割なら分割見込書の添付を検討
申告期限から3年以内遺産分割成立を目指す。成立後、税額再計算
分割成立後原則として分割日の翌日から4か月以内に更正の請求等
3年以内に分割できない見込みやむを得ない事由の承認申請を検討
申告期限後3年経過後原則として、翌日から2か月以内が承認申請期限
訴訟等の事情解消後分割可能となった日の翌日から4か月以内の分割を確認
分割後分割日の翌日から4か月以内に更正の請求等

3年、2か月、4か月と、複数の期限が重なって出てきます。未分割事案では、期限管理表を作成しておくことが欠かせません。

後で分割されても、継続要件が満たされなければ使えない

未分割申告で見落とされやすいのが、継続要件です。

小規模宅地等の特例は、後日分割さえまとまれば必ず使える、というものではありません。各区分ごとに、申告期限までの居住の継続、事業の継続、貸付の継続、保有の継続などが問われます。

区分未分割時に確認すべき継続要件の例
特定居住用宅地等同居親族等が申告期限まで居住・保有を継続しているか
特定事業用宅地等事業承継者が申告期限まで事業を引き継ぎ、事業・保有を継続しているか
特定同族会社事業用宅地等取得者が申告期限時点で役員要件等を満たすか
貸付事業用宅地等貸付事業が継続し、相当の対価・継続性が失われていないか
生計一親族関係の宅地相続開始前から申告期限までの利用関係・生計関係を説明できるか
建替え・一部譲渡等がある宅地申告期限までの利用継続・保有継続に支障がないか

未分割事案では、誰が最終的な取得者になるかが決まっていないため、「今はまだ誰も判断できない」と考えてしまいがちです。しかし、申告期限までに積み重なった事実関係は、後から変えられません。

たとえば、同居親族が相続開始後すぐに転居してしまった場合、後日その親族が自宅敷地を取得したとしても、居住継続要件に問題が生じる可能性があります。個人事業用地について、申告期限の前に事業を廃止してしまった場合も同様です。貸付不動産でも、賃貸をやめて更地化したり、売却契約を進めたりすれば、後日の特例適用に影響することがあります。

未分割事案における小規模宅地等の特例では、手続要件だけでなく、申告期限までの所有・利用継続要件が、実体要件としてものを言います。とりわけ貸付事業用宅地等では、未分割期間中の賃貸関係や事業主性をどう捉えるかが、実務上の論点になります。

「特例を使うための急ぎの分割」が危険な場合

小規模宅地等の特例は税額への影響が大きいため、申告期限が近づくと、「とにかく期限までに分割して特例を使いたい」という判断に傾きがちです。

しかし、税額だけを理由に不十分な分割を急いでしまうと、後に大きな問題を残すことがあります。

急ぎの分割案後から生じやすい問題
自宅を配偶者と子で共有二次相続後に共有者が増え、売却・建替えが難しくなる
事業用地を後継者に集中他の相続人への代償金が不足し、不公平感が残る
賃貸不動産を複数人共有賃料分配、修繕、管理方針で対立する
特例対象地だけ先に分割残余財産の分割で再び紛争化する
相続人の一人に有利な分割税理士・専門家への説明責任や税賠リスクにもつながる
納税資金を考えず不動産取得現金不足で延納・売却を検討せざるを得ない

遺産分割は、税額を下げるためだけの手続ではありません。相続人の生活、事業の承継、納税資金、将来の売却、二次相続、そして家族間の納得まで含めた、大きな意思決定です。

遺産分割事件は、相続人の範囲、遺産の範囲、遺言の有効性、使途不明金、葬儀費用、遺産から生じた果実、評価、特別受益、寄与分など、実に多くの争点が絡み合い、長期化しやすい性質を持っています。だからこそ、税務上の期限があるうちに争点を早めに整理し、税務と法務を分けて管理していくことが求められます。

未分割申告で確認すべき資料

小規模宅地等の特例が関係する未分割申告では、通常の相続税申告資料に加えて、特例適用の可能性を検討するための資料を、早めに整えておきます。

資料確認する内容
戸籍・法定相続情報一覧図相続人、法定相続分、代襲相続、相続放棄の有無
遺言書取得者が確定している財産があるか
固定資産税課税明細書・名寄帳土地・建物の漏れ、地番、用途
登記事項証明書所有者、持分、建物所有者、担保権
公図・地積測量図・建物図面土地と建物の対応関係、評価単位
住民票・戸籍附票居住実態、同居・別居、転居時期
介護施設・老人ホーム関係資料特定居住用宅地等の判定に必要な場合
賃貸借契約書貸付事業用宅地等、同族会社貸付地の確認
賃料入金資料相当の対価、継続性、空室状況
事業資料個人事業用地の事業継続、承継状況
法人資料特定同族会社、役員、株主構成の確認
不動産評価資料路線価、倍率、評価単位、画地補正
遺産分割協議の経過資料未分割の事情、分割見込み
納税資金資料当初申告税額を納付できるか
分割見込書後日の特例適用に備える届出
申告後の期限管理表3年、2か月、4か月の管理

特に不動産については、固定資産税の資料だけでは判断しきれないことがあります。自宅敷地と駐車場、貸家敷地と空地、複数筆の一体利用、同族会社への貸付地、借地権や使用貸借など、評価単位と利用状況を一つひとつ確認していく必要があります。

土地の評価では、評価単位、地目、現況の利用、権利関係、建築・都市計画上の制限などが、そのまま税額に直結します。未分割申告で時間が限られているときであっても、評価の根拠を粗く扱ってしまうと、後日の更正の請求や税務調査の場面で、説明が難しくなりかねません。

未分割申告で避けたい短絡的な判断

未分割のまま小規模宅地等の特例を検討する際に、避けておきたい判断を整理します。

避けたい判断理由
分割が決まらないから申告をしない申告期限は延びず、延滞税・加算税リスクがある
分割見込書を添付しない後日の特例適用に支障が生じる可能性がある
特例対象地だけ急いで共有にする将来の管理・売却・二次相続で問題化しやすい
税額が下がる分割案だけを提示する家族間の納得や代償金不足を見落とす
申告期限までの居住・事業継続を確認しない後日分割されても要件を満たさない可能性がある
3年以内なら何もしなくてよいと考える期限管理、協議進行、資金繰りが必要
3年超でも自動的に救済されると考えるやむを得ない事由の承認申請には期限と要件がある
還付だけを期待して資金計画を立てない当初申告では特例なしの税額を納付する可能性がある
税務だけで紛争を処理しようとする争いがある場合は弁護士等との連携が必要

未分割申告を、「まだ分割が決まっていないのだから、仮に申告しておくだけ」と軽く構えるのは禁物です。当初申告の内容、分割見込書の提出、納税資金、期限管理、後日の更正の請求、そして税務調査での説明。これらは一本の線でつながっていきます。

実務上の判断手順

未分割で小規模宅地等の特例が関係する場合は、次の順序で整理していきます。

1. 特例対象となり得る宅地等をすべて洗い出す

自宅敷地、事業用地、同族会社に貸している土地、賃貸不動産、駐車場などを整理します。土地ごとに、評価額、利用状況、取得予定者、要件を満たせる可能性を確認していきます。

2. 申告期限までに分割できる財産とできない財産を分ける

全財産の分割は難しくても、特例対象となる宅地等だけは分割できる、ということもあります。一方で、特例対象宅地等を急いで分割することで、かえって他の相続人との不公平感が強まる場合もあります。

3. 特例あり・なしの税額差を試算する

未分割申告では、当初申告で特例なしの税額を納付する可能性があります。特例を使えた場合との差額、還付の見込み、資金繰りを確認しておきます。

4. 分割見込書の添付を判断する

後日、小規模宅地等の特例や配偶者軽減を受ける可能性があるなら、申告期限後3年以内の分割見込書の添付を検討します。未分割の事情と分割の見込みは、実態に即して記載します。

5. 継続要件を申告期限まで管理する

同居親族が転居しないか、事業を廃止しないか、貸付を終了しないか、売却契約を進めていないかを確認します。特例の可否は、分割後だけでなく、申告期限時点の事実にも左右されます。

6. 分割成立後の手続期限を管理する

分割が成立したら、原則として分割日の翌日から4か月以内に更正の請求等を検討します。税額が増える相続人がいれば、修正申告も必要になります。

7. 3年以内に分割できない場合は早めに法務と連携する

調停、訴訟、不在者、判断能力の問題などがある場合は、税理士だけで完結しません。3年経過後の承認申請の可能性も含め、弁護士や司法書士等と連携しながら期限を管理していきます。

未分割時の小規模宅地等は「税務」と「家族関係」を切り離さない

小規模宅地等の特例は、相続税額を大きく左右します。だからこそ、未分割の場合には、どうしても税額だけを見た判断に偏りやすくなります。

しかし、未分割という状態の背景には、必ず何らかの理由があるものです。

相続人どうしの信頼関係に不安がある。不動産の評価に納得できない。過去の贈与や介護の負担に不公平感がある。事業の後継者に財産を集中させることへの抵抗がある。配偶者の生活保障と子の相続分のバランスが取りきれない。不動産を共有にするか売却するかで意見が割れている。

こうした事情を脇に置いたまま、「小規模宅地等を使うために、この分割にしましょう」と進めてしまうと、税額は下がっても、家族関係や将来の資産管理に大きな禍根を残すことがあります。

未分割申告では、次の三つを同時に見据える必要があります。

視点確認すること
税務特例適用可否、税額差、申告期限、分割見込書、更正の請求
法務遺言、遺産分割協議、相続人の意思能力、調停・訴訟可能性
資金・将来管理納税資金、代償金、共有リスク、二次相続、不動産管理

小規模宅地等の特例を「使えるか」だけでなく、「その分割で使うべきか」「後から説明できるか」「親族関係と税務の双方に耐えられるか」。ここまで見届けることが、何より大切だと考えています。

まとめ|未分割申告では、特例を失わない準備と、無理な分割を避ける判断の両方が要る

未分割の場合の小規模宅地等の特例では、期限と要件を正確に管理していくことが求められます。

申告期限までに分割できなければ、未分割財産について当初申告で小規模宅地等の特例は原則として使えません。申告期限後3年以内の分割見込書を添付しておき、3年以内に分割されれば、分割後に更正の請求等によって特例の適用を検討できます。3年を超える場合でも、訴訟等のやむを得ない事情があれば、承認申請の余地が残ります。

ただし、手続さえ整えればよい、というわけではありません。後日分割されたとしても、申告期限までの居住の継続、事業の継続、貸付の継続、保有の継続といった要件を満たしていなければ、特例を適用できない可能性があります。

そして、特例を使うために急いだ分割が、共有リスク、代償金の不足、二次相続、家族間の不公平感を生んでしまうこともあります。

未分割申告は、税務申告の一場面であると同時に、家族の承継方針を改めて整理し直す局面でもあります。税額、期限、資料、家族関係、将来の不動産管理を一つの机の上に並べて検討することが、後から説明できる相続税申告へとつながっていきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、小規模宅地等の特例について、未分割申告、申告期限後3年以内の分割見込書、更正の請求、継続要件、配偶者軽減、二次相続、納税資金まで含めて整理しています。遺産分割がまとまらないまま申告期限が近づいている場合や、特例を使うための分割案に不安をお持ちの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、お気軽にご相談ください。

重要ポイントの振り返り

項目振り返り
申告期限相続開始を知った日の翌日から10か月以内が原則
未分割の影響未分割財産については当初申告で小規模宅地等の特例を原則適用できない
申告義務遺産分割がまとまらなくても申告・納税は必要
当初申告の計算法定相続分または包括遺贈割合等を基礎に計算する
分割見込書後日特例適用を受ける可能性を残すため、申告書とともに提出を検討する
3年以内の分割申告期限から3年以内に分割されれば、特例適用の可能性がある
更正の請求税額が減る場合、原則として分割日の翌日から4か月以内
修正申告税額が増える相続人は修正申告を検討する
3年超の未分割訴訟等のやむを得ない事情がある場合、承認申請を検討
承認申請期限原則として申告期限後3年経過日の翌日から2か月を経過する日まで
継続要件後日分割されても、申告期限時点の居住・事業・貸付・保有の事実が重要
添付書類計算明細、遺産分割協議書、分割見込書、同意関係資料などを確認
納税資金特例なしでいったん納税する可能性がある
一部未分割特例対象宅地等が分割済みか、取得者が確定しているかを個別に確認
急ぎの分割税額だけで共有や不公平な分割を急ぐと将来リスクが残る
専門家連携紛争・不在者・判断能力・登記問題がある場合は弁護士・司法書士等との連携が必要
判断軸特例を「使えるか」だけでなく「その分割で使うべきか」まで検討する
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