相続税の申告では、どうしても預貯金や不動産の評価に意識が向きがちです。その一方で、「貸付金」「未収金」「未払金」「保証債務」といった債権債務は、つい後回しにされてしまいます。
しかし実務の現場では、むしろこの領域こそ丁寧な確認が欠かせません。
たとえば、被相続人が同族会社へ長年にわたって資金を貸し付けていたとしましょう。会社の帳簿上は「役員借入金」であっても、被相続人の側から見れば「貸付金債権」です。会社の資金繰りが苦しく、現実には返ってこないように見えても、税務上ただちにゼロと評価できるとは限りません。
逆に、被相続人が金融機関や親族、会社に対して負っていた借入金や未払金は、一定の要件を満たせば、相続税の計算上、債務控除の対象となります。とはいえ、保証債務や相続開始後に発生した費用までもが、形式だけで控除できるわけではありません。
貸付金・未収金・債務を整理するうえでは、「ある」「ない」を確かめるだけでは十分とはいえません。誰に対する権利義務なのか。相続開始の時点で確実に存在していたのか。回収可能性や支払義務を、どこまで資料で説明できるのか。さらに、債務免除や同族会社株式の評価にどのような影響が及ぶのか。そこまで見届けて、はじめて整理が完了します。
まず「債権」と「債務」を分けて整理する
貸付金・未収金・債務を検討するときは、はじめに被相続人から見た立場をはっきりさせておきます。
| 被相続人から見た区分 | 具体例 | 相続税上の基本的な扱い |
|---|---|---|
| 被相続人が受け取る権利 | 貸付金、売掛金、未収家賃、未収利息、未収入金 | 相続財産として評価する |
| 被相続人が支払う義務 | 借入金、買掛金、未払医療費、未払税金、未払費用 | 要件を満たせば債務控除の対象 |
| 被相続人が保証している義務 | 連帯保証、保証債務 | 原則として債務控除不可。例外あり |
| 被相続人が免除した・免除された債務 | 債務免除、債権放棄、求償権放棄 | 贈与税・法人税・株主課税の確認が必要 |
この整理を省いたまま、「会社から返ってこないからゼロ」「親族間だから申告は不要」「保証していただけだから関係ない」と判断してしまうと、申告漏れや債務控除の過大計上につながりかねません。
相続税を計算する際、被相続人が残した借入金などの債務は、遺産総額から差し引くことができます。ただし、差し引けるのは、被相続人が亡くなったときに現に存在し、かつ確実と認められる債務に限られます。
貸付金・未収金は「元本+利息」で評価するのが原則
相続税の評価では、貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金などを、まとめて「貸付金債権等」として整理します。
財産評価基本通達では、この貸付金債権等の価額を、元本の価額と利息の価額の合計で評価することとしています。元本は返済されるべき金額、利息は課税時期現在の既経過利息として支払いを受けるべき金額です。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第6節 その他の財産
| 項目 | 評価の基本 |
|---|---|
| 貸付金元本 | 返済されるべき金額 |
| 未収利息 | 相続開始時点までに発生している既経過利息 |
| 支払期限到来済みの未収家賃・地代 | 収入すべき金額 |
| 売掛金・未収入金 | 回収されるべき金額 |
| 回収不能・著しく困難な部分 | 要件を満たす場合、元本価額に算入しない |
たとえば、被相続人が長男に1,000万円を貸し付けていて、相続開始日の時点で残元本が800万円、未収利息が20万円あったとします。この場合は、原則として820万円の貸付金債権を、相続財産として評価することになります。
なお、未収の法定果実についても同様です。課税時期にすでに収入すべき期限が到来している地代、家賃、貸付金の利息などで、まだ受け取っていないものは、その収入すべき金額で評価します。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第6節 その他の財産
「返ってこないと思う」だけでは貸付金をゼロ評価できない
貸付金の評価で最も判断に迷うのが、回収可能性です。
親族や同族会社への貸付金では、長年にわたり返済されていない、契約書が見当たらない、会社が赤字続きである、といった事情がしばしば見られます。それでも、相続税の申告では、「返ってこないと思う」という感覚だけで貸付金をゼロにすることはできません。
財産評価基本通達205は、貸付金債権等の全部または一部について、課税時期において回収が不可能または著しく困難と見込まれるときは、その金額を元本の価額に算入しないとしています。ただし、通達が例示するのは、破産手続開始、更生手続開始、再生手続開始、特別清算開始、事業の廃止、6か月以上の休業など、いずれも客観的に重い事実です。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第6節 その他の財産
実務では、次のように整理すると判断の見通しが立てやすくなります。
| 状況 | 評価上の考え方 |
|---|---|
| 債務者が正常に営業・生活している | 原則として額面評価が基本 |
| 長期未返済だが、債務者に資産・収入がある | 直ちにゼロ評価するのは難しい |
| 債務者が債務超過である | 債務超過だけで十分とは限らず、回収不能の客観資料が必要 |
| 破産・再生・更生・特別清算等が開始している | 回収不能または困難部分の評価減を検討 |
| 金融機関のあっせんによる債権カット等が成立している | その内容に応じて評価を検討 |
| 担保・保証がある | 担保・保証で回収できる部分は評価に反映する必要がある |
貸付金債権等については、元本と利息で評価するという原則と、回収が不可能または著しく困難な場合に元本価額へ算入しないという例外を、分けて考える姿勢が欠かせません。実務でも、単なる業績不振や赤字だけでは足りず、債務者の破綻状況、担保、法的手続、再建計画といった客観資料が判断の決め手になります。
同族会社への貸付金は、相続財産と会社財務を同時に見る
被相続人が同族会社を経営していた場合、会社の決算書に「役員借入金」「代表者借入金」「短期借入金」などとして計上されている金額は、被相続人の側では貸付金債権にあたります。
そして、この貸付金は、相続税の申告上、れっきとした相続財産です。
| 会社側の表示 | 被相続人側の表示 | 相続税上の論点 |
|---|---|---|
| 役員借入金 | 会社への貸付金 | 被相続人の相続財産 |
| 役員貸付金 | 会社からの借入金 | 被相続人の債務控除の検討 |
| 未払役員報酬 | 会社への未収金 | 相続財産・会社側未払金 |
| 仮払金 | 使途により貸付金・給与・贈与等を検討 | 実質確認が必要 |
| 未収賃料 | 会社からの未収入金 | 相続財産・小規模宅地等や貸付実態にも影響 |
同族会社への貸付金では、「会社が返せそうにないから評価しない」という判断が、しばしば問題になります。会社が債務超過であっても、事業を続け、将来の収益や資産の売却によって返済できる見込みがあれば、税務上は額面で評価するよう求められる可能性があるのです。
とりわけ、非上場株式も相続財産に含まれる場合には、会社への貸付金と株式評価とが連動します。被相続人の貸付金を相続財産に計上する一方で、それは会社側の負債として株式評価に反映されます。貸付金の評価と株式の評価を別々に判断してしまうと、両者の整合が取れなくなることがあります。
役員借入金は、役員の側から見れば会社に対する貸付金であり、相続時には貸付金債権として評価されます。だからこそ、事業承継の前に整理しておきたい重要な論点といえます。
同族会社への貸付金を放棄するときは、相続税だけで判断しない
同族会社への貸付金について、「相続財産になるのなら、生前に放棄してしまえばよい」と考えられることがあります。
たしかに、債権放棄が有効に行われれば、被相続人の相続財産である貸付金は減少します。しかし、債権放棄は相続税だけの問題にとどまりません。
確認しておくべき税務上の論点は、次のとおりです。
| 論点 | 確認事項 |
|---|---|
| 法人税 | 会社側に債務免除益が生じる可能性 |
| 繰越欠損金 | 免除益と相殺できるか、期限・制限はどうか |
| 贈与税 | 他の株主の株式価値が増加し、みなし贈与となる可能性 |
| 相続税 | 貸付金が本当に消滅したと説明できるか |
| 会社法・会計 | 取締役会議事録、債権放棄通知、会計処理の整合性 |
| 家族関係 | 後継者以外の相続人から不公平と見られないか |
相続税法基本通達9-2は、同族会社の株式または出資の価額が、会社に対する無償の財産提供、債務免除、債務引受、債務弁済などによって増加した場合、株主等はその増加部分に相当する金額を贈与により取得したものとして取り扱う旨を定めています。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係
一方、同じ通達9-3では、会社が資力を喪失した場合の私財提供等について一定の取扱いが設けられています。ただし、単に一時的に債務超過となっているだけでは、これには該当しないとされています。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係
同族会社への貸付金を債権放棄する際は、債務免除益、繰越欠損金、そして既存株主へのみなし贈与の可能性を、あらかじめ検証しておく必要があります。相続財産を減らす効果だけを見て実行してよいものではありません。
親族への貸付金は、贈与・特別受益・遺産分割とつながる
親が子に住宅資金や事業資金を貸している場合、相続税の申告では、その貸付金が相続財産になります。
ただし、親族間の貸付では、次の点を確認しておく必要があります。
| 確認項目 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 金銭消費貸借契約書の有無 | 貸付の存在・条件を説明する資料 |
| 返済予定表 | 本当に貸付として管理されていたか |
| 返済履歴 | 贈与ではなく貸付であることの裏付け |
| 利息の定め | 無利息・低利の場合の経済的利益の確認 |
| 担保・保証 | 回収可能性の判断材料 |
| 借主の資産・収入 | 評価減や回収困難性の検討 |
| 過去の贈与税申告 | 贈与との区分 |
| 遺言の記載 | 免除・相続分調整・遺留分への影響 |
親族の間では、「親は貸したと言っていた」「子はもらったと思っていた」といった認識のずれが生じやすいものです。相続税の申告では貸付金として計上したのに、遺産分割協議ではその貸付金の扱いを決めていない、という状況も見受けられます。
たとえば、長男に対する貸付金1,000万円を相続財産に含めるとき、長男がその債務を実際に返済するのか。遺産分割上は長男の取得分から控除するのか。あるいは他の相続人がその債権を取得するのか。こうした点を、ひとつずつ整理しておかなければなりません。
親族への貸付金は、相続税上の評価だけでなく、民法上の特別受益、遺留分、代償金、さらには相続人どうしの納得感にも関わってきます。とりわけ、貸付金の存在を一部の相続人だけが知らなかったような場合には、相続開始後に不信感が生まれやすいものです。だからこそ、生前から資料として残しておくことが大切になります。
未収金は「死亡後に入金されたか」ではなく「いつ発生した権利か」で見る
相続開始の後に入金された金額であっても、その原因が相続開始の前に生じているのであれば、相続財産として確認が必要です。
代表的なものを挙げると、次のとおりです。
| 未収金の種類 | 確認ポイント |
|---|---|
| 未収家賃・地代 | 支払期日、賃貸借契約、入金日 |
| 未収利息 | 貸付契約、利息計算期間、支払期日 |
| 売掛金 | 請求書、納品日、役務提供日 |
| 未収給与・未収役員報酬 | 支給対象期間、給与規程、会社資料 |
| 未収年金・給付金 | 受給権者、支給対象期間、非課税・一身専属性 |
| 還付金 | 所得税・住民税・保険料等の還付原因 |
| 損害賠償請求権 | 権利発生の有無、確定状況、係争状況 |
| 売買代金未収金 | 売買契約、引渡し、所有権移転時期 |
未収金では、支払期限が到来しているか、権利が確定しているか、金額を合理的に算定できるか、という点が重要です。単に死亡後に入金されたから相続財産ではない、という判断はできません。
また、係争中の権利については、財産評価基本通達210が、課税時期の現況によって係争関係の真相を調査し、訴訟の進行状況も参酌して適正に評価するとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第6節 その他の財産
未収金は、金融機関の残高証明書だけでは把握しきれません。通帳に記録された死亡後の入金、賃貸借契約、会社の未払金内訳、請求書、確定申告書、そして準確定申告の資料まで、あわせて確認していく必要があります。
債務控除は「存在」と「確実性」を分けて確認する
被相続人が負っていた債務は、相続税の計算上、一定の範囲で遺産総額から差し引くことができます。
ただし、債務控除では、次の二段階に分けて確認します。
| 確認段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 債務の存在 | 相続開始時点で被相続人の債務が存在していたか |
| 2. 債務の確実性 | 金額または範囲が確実と認められるか |
相続税法基本通達14-1は、債務が確実かどうかについて、必ずしも書面の証拠を必要とはしないとしています。そのうえで、金額が確定していなくても、債務の存在が確実と認められるものは、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するとしています。
主な債務控除の対象・対象外を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 債務控除の方向性 | 注意点 |
|---|---|---|
| 金融機関借入金 | 対象になり得る | 残高証明書、返済予定表を確認 |
| 親族・会社からの借入金 | 対象になり得る | 契約書、返済履歴、実質確認が重要 |
| 未払医療費 | 対象になり得る | 相続開始前の診療分かを確認 |
| 未払税金 | 対象になり得る | 被相続人に課される税金かを確認 |
| クレジットカード未払 | 対象になり得る | 利用日・内容を確認 |
| 事業上の買掛金・未払費用 | 対象になり得る | 事業帳簿、請求書と照合 |
| 葬式費用 | 債務ではないが控除対象 | 範囲に制限あり |
| 墓地・仏壇等の未払代金 | 原則対象外 | 非課税財産に関する債務 |
| 遺言執行費用・相続税申告報酬 | 原則対象外 | 相続開始後に発生する費用 |
| 保証債務 | 原則対象外 | 例外的に控除できる場合あり |
| 時効完成債務 | 原則対象外 | 確実な債務とはいえない |
債務控除の対象となるのは、相続開始時に現存し、確実と認められる債務に限られます。実務でも、団体信用生命保険によって完済される住宅ローンや、相続開始後に発生する税理士報酬・遺言執行費用などについては、被相続人の確実な債務として控除できるかどうかを、ひとつずつ慎重に区分していく必要があります。
保証債務は、原則として債務控除できない
被相続人が他人や会社の借入金について保証人・連帯保証人になっていると、相続人としては大きな不安を覚えるものです。
しかし、相続税の債務控除では、保証債務は原則として控除できません。保証債務は、主たる債務者が弁済すれば保証人が履行する必要はなく、仮に保証人が弁済したとしても主たる債務者に求償できる性質を持っています。そのため、相続開始の時点では確実な債務とはいえないのです。
国税庁も、保証債務は原則として債務控除の対象にならないとしています。そのうえで、主たる債務者が弁済不能の状態にあるために保証人が履行しなければならず、かつ主たる債務者に求償権を行使しても弁済を受ける見込みがない場合には、その弁済不能部分の金額について控除の対象となるとしています。
出典:国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務 保証債務の債務控除
相続税法基本通達14-3もまた、保証債務は控除しないことを原則としています。例外として控除できるのは、主たる債務者が弁済不能で、保証債務者が履行しなければならず、求償しても返還を受ける見込みがない場合に限られ、その弁済不能部分が対象となります。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第14条《控除すべき債務》関係
保証債務の例外適用にあたっては、次の資料が重要になります。
| 確認資料 | 確認目的 |
|---|---|
| 保証契約書・金銭消費貸借契約書 | 保証債務の内容を確認 |
| 主債務者の決算書・財産資料 | 弁済不能状態の確認 |
| 金融機関からの請求書・期限の利益喪失通知 | 保証人への履行請求の有無 |
| 主債務者の破産・再生等の資料 | 法的整理の状況 |
| 担保評価資料 | 回収可能額の確認 |
| 求償権の回収見込み資料 | 保証人が弁済後に回収できるか |
| 相続開始日時点の状況メモ | 後日の説明資料 |
保証債務については、裁判例においても、単に保証しているというだけでは「確実と認められる債務」には当たらないとされています。主債務者の弁済不能や求償不能を厳格に確認する姿勢が、そこには示されています。
連帯債務は、内部負担割合と求償可能性を確認する
保証債務とよく似ていますが、連帯債務は少し性質が異なります。
複数の人が連帯債務者となっている場合、相続税の債務控除では、まず被相続人が内部的にどの部分を負担すべきかを確認します。
相続税法基本通達14-3は、連帯債務について、控除を受けようとする者の負担すべき金額が明らかな場合には、その金額を控除するとしています。そして、連帯債務者のなかに弁済不能の者がいて、求償しても弁済を受ける見込みがなく、その者の負担部分まで引き受けなければならないと認められる場合には、その部分も控除するとしています。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第14条《控除すべき債務》関係
たとえば、父と長男が連帯債務者となっている借入金があるとします。金融機関との契約上は両者が全額について責任を負うとしても、税務上はそれだけで判断しません。内部負担割合、実際の返済原資、担保の状況、長男の資力などを確認したうえで、被相続人の負担部分を整理していきます。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 借入契約上の債務者 | 誰が債務者か |
| 連帯債務か連帯保証か | 債務控除の判断が異なる |
| 内部負担割合 | 被相続人が実際に負担すべき金額 |
| 返済原資 | 誰の収入・財産で返済していたか |
| 担保提供者 | 担保実行リスクと求償関係 |
| 他の債務者の資力 | 弁済不能部分の有無 |
| 金融機関との交渉状況 | 債務の現実性・確実性 |
不動産賃貸や同族会社の経営に関係する借入では、債務者、担保提供者、物件所有者、賃料収入の帰属が、それぞれ一致していないことがあります。こうした場合には、債務控除だけでなく、不動産評価、賃貸収入、遺産分割、そして納税資金までを一体として検討する必要があります。
債務免除は、相続税対策ではなく「課税関係の再編」として見る
貸付金や債務が整理されないまま相続を迎えると、相続財産や債務控除の判断が難しくなります。そこで、生前のうちに債務免除や債権放棄を検討することがあります。
しかし、債務免除は、単純な節税策ではありません。債務免除とは、債務者に経済的利益を与える行為です。個人どうしであれば贈与税が、会社が関係すれば法人税や株主へのみなし贈与が、それぞれ問題になります。
相続税法基本通達8-1は、相続税法第8条にいう「債務の免除」には、債務者の扶養義務者以外の者によってされた免除も含まれるとしています。また、保証人が主たる債務者の債務を弁済したあとに求償権を放棄した場合には、代わって弁済した金額について贈与があったものとみなす取扱いが定められています。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第8条《免除等を受けた債務》関係
一方で、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難な場合などには、みなし贈与の範囲について別途の検討が必要になります。相続税法基本通達7-4は、「資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合」とは、債務の金額が積極財産の価額を超えるときのように、社会通念上、債務の支払が不能と認められる場合をいうとしています。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合》関係
| 債務整理の方法 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 親族への貸付金を免除 | 贈与税、遺留分、他の相続人との公平 |
| 同族会社への貸付金を放棄 | 法人税、繰越欠損金、株主へのみなし贈与 |
| 役員借入金を資本化するDES | 法人税、株式評価、会社法手続、債務消滅益 |
| 役員退職金と相殺 | 退職金の適正額、所得税、会社の損金性 |
| 遺言で債務免除を指示 | 遺贈・相続分調整・遺留分への影響 |
| 相続後に相続人間で調整 | 贈与税・譲渡所得税・遺産分割協議書の記載 |
債務免除は、実行する時期と相手方によって、課税関係が変わります。とくに同族会社を介する場合には、被相続人の相続財産だけでなく、会社の決算書、株主構成、非上場株式の評価、さらには後継者の支配権まで確認しておかなければなりません。
相続開始前に整理すべき貸付金・債務の資料
貸付金・未収金・債務は、相続開始の後にはじめて調べようとすると、事実の確認が難しくなることがあります。とりわけ親族間貸付や同族会社貸付では、被相続人ご本人しか経緯を知らない、というケースも少なくありません。
生前、あるいは申告の前に、次の資料を整理しておくと、判断がぐっとしやすくなります。
| 資料 | 確認できること |
|---|---|
| 金銭消費貸借契約書 | 貸付日、金額、利息、返済期限 |
| 返済予定表 | 返済条件、残高 |
| 通帳・振込履歴 | 実際の資金移動 |
| 借用書・念書 | 親族間貸付の存在 |
| 利息計算表 | 未収利息・既経過利息 |
| 残高確認書 | 相続開始日時点の債権債務残高 |
| 会社の決算書・申告書 | 同族会社への貸付・借入の確認 |
| 勘定科目内訳書 | 役員借入金・役員貸付金・未収入金の内訳 |
| 取締役会議事録 | 債務免除、DES、退職金支給等の意思決定 |
| 債権放棄通知書 | 債権放棄の時期・内容 |
| 金融機関残高証明書 | 借入金・担保・保証の確認 |
| 保証契約書 | 保証債務・連帯保証の内容 |
| 請求書・領収書 | 未払金・未収金の根拠 |
| 税金・保険料の通知書 | 未払公租公課・還付金の確認 |
| 賃貸借契約・家賃台帳 | 未収家賃・敷金保証金の確認 |
貸付金や未収金は、金額だけでなく、「いつ発生したか」「誰が管理していたか」「どこまで回収できるか」が重要になります。そして債務控除は、「支払ったか」ではなく、「相続開始の時点で被相続人の確実な債務だったか」が出発点です。
申告実務での判断手順
貸付金・未収金・債務を相続税の申告に反映する際は、次の順序で整理していくと、論点の抜け漏れを防ぎやすくなります。
| 手順 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 被相続人名義・会社帳簿・親族間資料から債権債務を洗い出す |
| 2 | 被相続人が債権者か債務者かを区分する |
| 3 | 相続開始日時点の元本・利息・未収金・未払金を確定する |
| 4 | 回収不能・著しく困難な債権がないか確認する |
| 5 | 債務控除できる債務とできない債務を分ける |
| 6 | 保証債務・連帯債務の例外適用を検討する |
| 7 | 同族会社貸付は非上場株式評価と整合させる |
| 8 | 債務免除・債権放棄がある場合、贈与税・法人税を確認する |
| 9 | 遺産分割協議書で貸付金・債務の承継方法を明確にする |
| 10 | 税務調査で説明できる資料と判断メモを残す |
この順序で整理しておくと、「貸付金を計上したが、誰が取得するのか決まっていない」「会社の役員借入金と相続税申告の貸付金額が一致していない」「保証債務を控除したが、主債務者の弁済不能を示す資料がない」といった問題を避けやすくなります。
貸付金・未収金・債務のご相談について
貸付金・未収金・債務は、相続税申告のなかでは、一見すると地味な論点に見えるかもしれません。けれども実際には、同族会社の財務、親族間の資金移動、過去の贈与、遺産分割、債務控除、保証債務、みなし贈与、そして非上場株式の評価にまでつながる、重要な領域です。
特に、同族会社への貸付金や親族への貸付金が多額にある場合、相続開始の後に「返ってこないからゼロでよい」「相続人どうしで調整すればよい」と処理してしまうと、申告のあとで説明が難しくなることがあります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、貸付金・未収金・債務について、契約書、通帳、会社決算書、勘定科目内訳書、残高確認書、保証契約書などを確認したうえで、相続税評価、債務控除、同族会社株式の評価、債務免除の課税関係を、一体として整理いたします。
「会社への貸付金が相続財産になるのか不安」「親族への貸付金をどう扱えばよいか分からない」「保証債務や連帯債務を控除できるか確認したい」「債権放棄を検討しているが税務リスクが心配」。そうしたお悩みがありましたら、資料が散逸してしまう前に、一度整理してみることをおすすめします。
この記事の重要ポイント
| 論点 | 振り返り |
|---|---|
| 基本整理 | 被相続人から見て、債権か債務かを最初に分ける |
| 貸付金評価 | 貸付金債権等は、原則として元本と利息の合計で評価する |
| 未収金 | 支払期限が到来している未収家賃・地代・利息等は相続財産として確認する |
| 回収困難性 | 「返ってこないと思う」だけでは評価減できず、客観資料が必要 |
| 同族会社貸付 | 会社の役員借入金は、被相続人側では貸付金債権になる |
| 非上場株式との整合 | 貸付金評価と会社側負債、株式評価を整合させる必要がある |
| 親族間貸付 | 契約書、返済履歴、利息、贈与との区分を確認する |
| 債務控除 | 相続開始時に現存し、確実と認められる債務が対象 |
| 未払費用 | 未払医療費、未払税金、事業上の買掛金などは内容確認が必要 |
| 控除対象外 | 墓地・仏壇等の未払代金、相続開始後の費用は原則として控除に注意 |
| 保証債務 | 原則として債務控除不可。主債務者の弁済不能・求償不能が例外要件 |
| 連帯債務 | 内部負担割合と他の連帯債務者への求償可能性を確認する |
| 債務免除 | 贈与税、法人税、株主へのみなし贈与の検討が必要 |
| 債権放棄 | 相続税だけでなく、会社財務・株主構成・繰越欠損金を確認する |
| 資料整理 | 契約書、通帳、会社資料、残高確認書、保証契約書を保存する |
| 説明可能性 | 税務調査や相続人間説明に耐えられる判断メモを残す |