相続税の申告で金融資産を確認するとき、預貯金であれば残高証明書を取得すれば足りると考えられがちです。証券口座についても、「証券会社から相続日の残高明細をもらえば評価は終わる」と受け止められることが少なくありません。
ただ、実務ではもう少し丁寧な確認が求められます。
上場株式、投資信託、ETF、REIT、債券、外貨建MMF、外貨預金、外国株式、未収配当、経過利息——これらは、それぞれ評価方法も確認すべき資料も異なります。相続開始日時点の残高だけを見て進めてしまうと、配当や利息の計上漏れ、外貨換算の誤り、投資信託の解約価額の誤認、相続後に売却する際の取得費資料の不足といった問題が起こり得ます。
相続税は、原則として、相続や遺贈によって取得した財産に課されます。その対象は、現金や預貯金、有価証券、土地や家屋にとどまりません。金銭に見積もることのできる経済的価値のあるものは、原則としてすべて対象に含まれます。
本記事では、未上場株式の評価は別の機会に譲り、証券会社や金融機関に残る上場株式、投資信託、債券、外貨建資産、配当・利息を中心に、相続税申告でどのように評価し、どのような資料を整理すべきかを整理します。
証券口座の評価は「残高」ではなく「財産ごとの評価」から始まる
証券会社の残高明細には、相続開始日時点の保有銘柄や参考評価額が表示されることがあります。これは重要な資料ですが、そこに表示された金額が、そのまま相続税評価額になるとは限りません。
相続税申告では、次のように財産の種類を分けて確認していきます。
| 財産の種類 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 上場株式 | 相続開始日の終値、月平均額、株数、権利落・配当落の有無 |
| ETF・上場投資信託 | 上場株式に準じた評価、取引所価格、口数 |
| 非上場の公募投資信託 | 基準価額、口数、信託財産留保額、解約手数料、源泉税相当額 |
| REIT・ETN | 上場株式に準じた評価、分配期待権の有無 |
| 債券 | 利付債・割引債・個人向け国債等の区分、経過利息、売買参考統計値 |
| 外貨建資産 | 外貨建の評価額、TTBによる邦貨換算、外国市場価格 |
| 未収配当・未収分配金 | 権利確定日、支払日、源泉徴収後の金額 |
| 未収利息・経過利息 | 利払日、相続開始日までの既経過分 |
| 相続後売却予定資産 | 取得費、取得時期、取得費加算の検討資料 |
実務では、証券会社が発行する「相続税評価額計算書」や「残高証明書」が出発点になります。ただし、その先にある金融商品ごとの評価根拠、相続開始日前後の売買、配当・分配金、外貨換算、相続後に売却する際の取得費資料まで確認しておくかどうかで、申告後の説明のしやすさは大きく変わってきます。
財産評価では、評価時点、個別評価、元物と果実、邦貨換算といった共通の原則が土台になります。金融資産は市場価格があるぶん単純に見えますが、実際には、商品性、取引市場、解約可能性、未収収益の有無によって評価方法が分かれていきます。
評価時点は相続開始日であり、申告日や売却日ではない
金融資産は日々価格が動きます。だからこそ、相続税申告では、いつの価格で評価するのかが大切になります。
相続税の課税時期は、相続によって財産を取得した時、つまり通常は被相続人が亡くなった時です。相続や遺贈によって取得した財産は、その財産を取得した時の価額で評価することになります。
たとえば、相続開始日の株価が1株2,000円で、その後申告までに1,500円へ下落したとしても、原則として申告時の1,500円で評価するわけではありません。逆に、相続後に値上がりしていても、相続税評価は相続開始日時点の評価に基づきます。
この点は、納税資金や遺産分割にも影響します。
| 状況 | 注意点 |
|---|---|
| 相続後に株価が下落した | 相続税評価額と実際の換金額がずれる可能性がある |
| 相続後に株価が上昇した | 相続税評価額より高く売却できる場合、譲渡所得税も確認する |
| 申告前に売却した | 売却価額で相続税評価するとは限らない |
| 遺産分割前に価格変動した | 相続税評価額と相続人間の分割上の評価が一致しない場合がある |
相続税申告の評価額と、遺産分割で相続人が納得するための時価感覚は、必ずしも同じではありません。評価額だけでなく、誰が価格変動リスクを負担するのか、納税資金をどの資産から確保するのか——そこまで整理しておくことが大切です。
上場株式の評価は、相続開始日の終値だけで判断しない
上場株式は、原則として、金融商品取引所が公表する課税時期、相続の場合でいえば被相続人の死亡日の最終価格で評価します。
ただし、相続開始日の終値が、次の3つの月平均額のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額で評価します。
| 比較する価額 | 内容 |
|---|---|
| 相続開始日の終値 | 課税時期の最終価格 |
| 相続開始月の月平均額 | 相続開始日の属する月の毎日の最終価格の平均 |
| 前月の月平均額 | 相続開始月の前月の毎日の最終価格の平均 |
| 前々月の月平均額 | 相続開始月の前々月の毎日の最終価格の平均 |
上場株式の評価は、課税時期の最終価格を原則としつつ、その価額が課税時期の属する月、前月、前々月の各月平均額のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額で評価します。
たとえば、相続開始日の終値が2,000円、相続開始月の月平均が1,950円、前月平均が1,850円、前々月平均が2,100円であれば、1,850円を採用できることになります。
これは、相続開始日のたまたまの高値だけで過大に評価しないための仕組みです。一方で、負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した上場株式については、月平均額との比較ではなく、原則として課税時期の最終価格で評価します。この点は混同しやすいので注意してください。
相続開始日が休日・権利落・配当落の日に近い場合は補正を確認する
上場株式については、相続開始日に取引がない場合や、権利落・配当落がある場合に、一定の修正が必要になります。
たとえば、相続開始日が土日祝日にあたり取引所の最終価格がないときには、直近の前後の価格を確認します。また、相続開始日が権利落・配当落の日から基準日までの間にある場合には、権利落等の前日以前の最終価格を用いるなど、通達上の調整が必要になります。
財産評価基本通達では、課税時期に最終価格がない場合の取扱いが定められています。原則として、課税時期の前日以前または翌日以後の最終価格のうち、課税時期に最も近い日の最終価格を用い、該当する価格が2つあるときはその平均額とします。さらに、権利落等が関係する場合には、別途の取扱いが置かれています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
実務では証券会社が評価明細を作成してくれることもありますが、次の点は申告する側でも確認しておきたいところです。
| 確認項目 | 理由 |
|---|---|
| 相続開始日が取引日か | 休日の場合、採用価格の確認が必要 |
| 配当落・権利落があるか | 配当期待権や株式関連権利の確認につながる |
| 複数市場に上場しているか | 採用市場の確認が必要 |
| 相続開始月・前月・前々月の月平均額 | 終値より低い価額を採用できる可能性がある |
| 株式分割・併合・TOB等の有無 | 株数・権利・評価額の整合性が必要 |
証券会社の評価額をそのまま転記して終わりにするのではなく、評価明細の計算根拠まで保存しておくことが大切です。
ETF・上場投資信託・REITは「投資信託」でも上場株式に準じる場面がある
投資信託といっても、評価方法はひとつではありません。
ETFのように金融商品取引所に上場されている投資信託は、市場で売買されるため、一般的な公募投資信託のように解約請求価額を前提に評価するのではなく、上場株式の評価に準じて評価します。
証券投資信託の受益証券のなかには金融商品取引所に上場されているものがあり、こうした受益証券については、解約請求等を前提とした評価方法がなじみません。そのため、上場株式の評価の定めに準じて評価することになります。
また、上場REITや上場受益証券発行信託証券についても、財産評価基本通達において、上場株式の評価に準じて評価する取扱いが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第3節 定期金に関する権利等
そのため実務上は、名称だけで「投資信託」と一括りにせず、次のように分類します。
| 商品 | 評価の方向性 |
|---|---|
| ETF | 上場株式に準じて評価 |
| 上場REIT | 上場株式に準じて評価 |
| ETN・上場受益証券発行信託証券 | 上場株式に準じて評価 |
| 公募投資信託 | 解約請求・買取請求をした場合の価額を基に評価 |
| 日々決算型投信 | 基準価額、未収分配金、源泉税、手数料等を考慮 |
| 外貨建投信 | 投信としての評価に加え、邦貨換算を確認 |
上場されている不動産投資信託証券は、上場株式と同じように金融商品取引所で取引され、日々の取引価格や最終価格の月平均額が公表されます。そのため、上場株式に準じて評価する考え方が、実務のうえでも整理されています。
非上場の公募投資信託は「解約したら受け取れる金額」を基礎にする
上場していない公募投資信託は、相続開始日に証券会社等へ解約請求または買取請求をしたとした場合に、支払いを受けることができる価額で評価します。
一般的な投資信託では、次の要素を確認します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基準価額 | 相続開始日の1口当たりまたは1万口当たりの基準価額 |
| 口数 | 被相続人が保有していた受益権の口数 |
| 源泉徴収税相当額 | 解約時に源泉徴収されるべき所得税等の相当額 |
| 信託財産留保額 | 解約時に差し引かれる金額 |
| 解約手数料 | 解約・買取時の手数料 |
| 未収分配金 | 日々決算型などで再投資されていない収益分配金 |
財産評価基本通達199では、日々決算型以外の証券投資信託について、課税時期に解約請求等をした場合に証券会社等から支払いを受けることができる価額として、基準価額に口数を乗じ、そこから源泉徴収されるべき所得税額相当額、信託財産留保額、解約手数料を控除する趣旨の評価方法が定められています。
ここで気をつけたいのは、証券会社の画面に表示される「評価額」と、相続税評価で用いるべき「解約請求等をした場合の価額」が一致しないことがある点です。
特に、次のような商品では確認が欠かせません。
| 商品・状況 | 注意点 |
|---|---|
| 信託財産留保額がある投信 | 画面表示額から控除が必要な場合がある |
| 外貨建投信 | 基準価額の通貨と邦貨換算を確認する |
| 分配金再投資コース | 口数増加、未収分配金、再投資日を確認する |
| 相続開始日に基準価額がない | 直前の基準価額を確認する |
| 既に解約注文済み | 約定日、受渡日、相続開始日との関係を確認する |
投資信託の評価では、「商品名」「口数」「基準価額」「信託財産留保額」「解約時源泉税」「評価計算日」の資料をセットで残しておくことが大切です。
債券は、利付債・割引債・個人向け国債で評価が変わる
債券は、株式より価格変動が小さく見えるため、額面金額で評価してよいと誤解されることがあります。
しかし、相続税評価では、債券の種類ごとに評価方法が異なります。
公社債は、国や地方公共団体、事業会社などが一般の投資家から資金を調達するために発行する有価証券です。相続税評価では、銘柄ごとに評価上の区分に従い、券面額100円当たりの単位で評価します。
出典:国税庁|No.4641 利付公社債・割引発行の公社債の評価
主な区分は次のとおりです。
| 債券の種類 | 評価の考え方 |
|---|---|
| 上場利付公社債 | 取引所の最終価格等に、源泉所得税相当額控除後の既経過利息を加算 |
| 売買参考統計値公表銘柄 | 日本証券業協会の平均値等に、既経過利息を加算 |
| その他の利付公社債 | 発行価額に、既経過利息を加算 |
| 割引発行の公社債 | 上場価格、売買参考統計値、または発行価額に償還差益相当額を加味 |
| 個人向け国債 | 相続開始日に中途換金した場合の価額 |
| 転換社債 | 上場・店頭・転換価値等を踏まえて区分評価 |
財産評価基本通達197-2では、利付公社債の評価について、上場されている利付公社債、日本証券業協会の売買参考統計値が公表される利付公社債、その他の利付公社債に区分したうえで、課税時期の最終価格または平均値等と、源泉所得税相当額控除後の既経過利息を組み合わせて評価する旨が定められています。
個人向け国債については、課税時期に中途換金した場合に取扱機関から支払いを受けることができる価額で評価します。具体的には「額面金額+経過利子相当額-中途換金調整額」で計算します。
債券評価で特に見落としやすいのは、利息です。相続開始日までに発生している経過利息を考慮すべき場面があり、単純に額面や時価だけを見て評価すると、評価額がずれてしまうおそれがあります。
外貨建資産は、評価額と為替換算を分けて考える
外貨建資産の相続税評価は、2段階で考えると整理しやすくなります。
まず、外貨建の資産そのものをどう評価するかを確認します。そのうえで、外貨建の評価額を日本円に換算します。
| 資産 | 最初に確認すること | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 外貨預金 | 外貨建残高、未収利息 | TTB等による邦貨換算 |
| 外国株式 | 外国市場での評価方法 | 外貨建価格を邦貨換算 |
| 外国ETF・外国投信 | 市場価格または解約価額 | 外貨建価格を邦貨換算 |
| 外貨建債券 | 債券評価、経過利息 | 外貨建金額を邦貨換算 |
| 外貨建MMF | 基準価額・口数等 | 外貨建金額を邦貨換算 |
外貨の邦貨換算は、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期における最終の対顧客直物電信買相場、いわゆるTTBまたはこれに準ずる相場によって行います。課税時期にその相場がない場合には、課税時期前の相場のうち、課税時期に最も近い日の相場によります。
外国の証券取引所に上場されている株式については、国内の上場株式と同じように、課税時期における客観的な交換価値が明らかです。そのため、財産評価基本通達に定める上場株式の評価方法に準じて評価します。邦貨換算は、原則として課税時期における最終の為替相場、すなわちTTBまたはこれに準ずる相場によります。
外貨建資産では、次のような誤りが起こりやすいので注意してください。
| 誤りやすい点 | 実務上の対応 |
|---|---|
| TTSで換算している | 相続税評価では原則TTBを確認する |
| 相続人の別金融機関レートを使っている | 納税義務者の取引金融機関の公表相場を確認する |
| 相続開始日後の換金レートを使っている | 課税時期の為替相場を確認する |
| 外国市場の休場日を考慮していない | 取引所価格の有無、直近価格を確認する |
| 外国配当・源泉税を確認していない | 配当・利息・外国税額控除の論点につなげて整理する |
国際相続や国外財産のある案件では、納税義務者、財産の所在地、国外財産の評価、外貨換算、外国税額控除などが連動します。外貨建金融資産は、単に「円換算すればよい」財産ではなく、国内外の資料を同時に整理していく必要があります。
配当・利息・分配金は「入金日」だけで判断しない
金融資産の相続税申告で見落とされやすいのが、配当、利息、分配金です。
相続開始日時点でまだ入金されていなくても、すでに権利が発生している場合には、相続財産として評価が必要になることがあります。
代表的なものは次のとおりです。
| 項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| 株式配当金 | 権利確定日、支払開始日、配当期待権 |
| 投資信託分配金 | 決算日、分配金再投資の有無、未収分配金 |
| REIT分配金 | 金銭分配期待権、利益超過分配金 |
| 債券利息 | 利払日、既経過利息、源泉税相当額 |
| 外国配当・外国利息 | 現地源泉税、日本円換算、支払通知書 |
| 預金利息 | 相続開始日までの既経過利息、残高証明書への記載有無 |
財産評価基本通達193では、配当期待権の価額について、課税時期後に受けると見込まれる予想配当の金額から、その金額につき源泉徴収されるべき所得税額相当額等を控除した金額で評価すると定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資等
配当や利息は、相続開始日の後に入金されるため、相続人の手元では「相続後の収入」のように見えることがあります。しかし、権利確定日や利息の発生期間をたどると、本来は被相続人の相続財産として扱うべき部分が含まれていることがあります。
特に、次の時期に相続が発生した場合は注意が必要です。
| 時期 | 注意点 |
|---|---|
| 配当基準日直後 | 配当期待権の確認が必要 |
| 投資信託決算日前後 | 分配金・再投資口数の確認が必要 |
| 債券利払日前 | 既経過利息の確認が必要 |
| 外国株式の配当権利確定日前後 | 現地基準日、入金日、為替換算の確認が必要 |
| 相続開始後に証券口座へ入金が続く場合 | 相続財産か相続後収益かを区分する必要がある |
証券会社資料は「1枚の残高証明」だけでは足りないことがある
証券口座の相続税申告では、次の資料を取得・保存することが基本になります。
| 資料 | 確認目的 |
|---|---|
| 残高証明書 | 相続開始日時点の保有銘柄・数量の確認 |
| 相続税評価額計算書 | 証券会社が算定した評価額の確認 |
| 取引残高報告書 | 相続開始日前後の保有状況確認 |
| 取引履歴 | 相続開始日前後の売買、入出金、移管の確認 |
| 配当金・分配金支払通知書 | 未収配当・未収分配金の確認 |
| 特定口座年間取引報告書 | 相続後売却、所得税申告、取得費確認 |
| 取得価額資料 | 相続後譲渡の取得費確認 |
| 外貨建取引報告書 | 外貨建評価額、為替、外国税額の確認 |
| NISA口座資料 | 非課税口座内資産の把握、相続後の払出し確認 |
| 移管明細 | 相続人への承継後の口座移管内容確認 |
有価証券の調査では、上場株式、気配相場のある株式、国債、地方債、社債、外国公債、証券投資信託、貸付信託の受益証券などを分けて確認し、取引相場の分かる資料や証券会社資料、残高証明等をあわせて押さえていく必要があります。
特に重要なのは、証券会社資料の「日付」です。相続開始日時点の残高証明なのか、発行日時点の残高なのか、約定日ベースなのか受渡日ベースなのか——この違いによって、資料の読み方が変わることがあります。
相続開始日前後に売買がある場合は、約定日・受渡日・入出金を確認する
相続開始日の前後に株式や投資信託の売買があると、評価も財産範囲の確認も複雑になります。
たとえば、被相続人が死亡前に上場株式を売却していたものの、売却代金の受渡しが相続開始日の後だった場合には、相続開始日時点では株式ではなく、売却代金請求権として整理すべきかを確認します。
逆に、相続開始日の前に買付注文が約定していたが、受渡しが相続開始日の後だった場合には、株式等の取得状況と未払金を確認する必要があります。
| 状況 | 確認すべき点 |
|---|---|
| 死亡前に売却約定・死亡後に代金受渡し | 株式ではなく売却代金請求権として整理する可能性 |
| 死亡前に買付約定・死亡後に代金決済 | 有価証券と未払金の両方を確認 |
| 死亡後に相続人が売却 | 相続財産評価とは別に譲渡所得税を確認 |
| 死亡直前に大きな入出金 | 名義財産、贈与、現金化の確認 |
| 信用取引・デリバティブ取引がある | 建玉、評価損益、証拠金、債務性を確認 |
証券口座は、相続開始日時点の「保有銘柄」だけでなく、未決済の取引や受渡しが済んでいない資金まで確認する必要があります。証券会社の相続担当部署には、相続開始日時点の評価資料だけでなく、前後の取引履歴、未収配当、未収利息、未決済取引の有無もあわせて確認しておくと、実務上の取りこぼしを防げます。
NISA口座・特定口座・一般口座は「相続税の非課税判定」ではなく資料整理の区分として見る
証券口座には、特定口座、一般口座、NISA口座などの区分があります。
ここで注意したいのは、NISA口座で保有していたからといって、その金融資産が相続税の対象から外れるわけではない、という点です。NISAは、あくまで所得税・住民税の非課税制度に関する口座区分です。被相続人が保有していた金融資産そのものは、相続財産として評価の対象になります。
また、相続後に売却する場合には、相続税評価額と所得税上の取得費が一致するとは限りません。
株式等を相続、遺贈、贈与によって取得した場合、原則として被相続人等の取得費を引き継ぎます。ただし、NISA口座等に受け入れられていた上場株式等が相続等によって払い出された場合には、原則として相続開始日等の終値に相当する金額で取得したものとみなす取扱いがあります。
そのため、相続税申告の段階から、次の資料を整理しておくと、相続後の譲渡所得申告にもつながります。
| 資料 | 相続後に役立つ理由 |
|---|---|
| 被相続人の取得価額資料 | 相続後売却時の取得費確認 |
| 特定口座年間取引報告書 | 取得費・譲渡損益の把握 |
| NISA口座の払出資料 | 相続後の取得価額確認 |
| 過去の買付報告書 | 古い銘柄の取得費確認 |
| 株式分割・併合履歴 | 取得単価の調整 |
| 相続税申告書・評価明細 | 取得費加算の検討資料 |
金融資産の評価は、相続税申告だけで完結するものではありません。相続後に売却する可能性が高い銘柄については、譲渡所得税まで見据えて資料を残しておくことが重要です。
金融資産は遺産分割と納税資金にも直結する
金融資産は換金性が高いため、相続税の納税資金として重要な役割を果たします。その一方で、価格変動が大きい資産でもあります。
上場株式や投資信託を誰が取得するかによって、相続後の値上がり・値下がりの影響を受ける人が変わります。また、相続税を納めるために売却する場合には、売却の時期によって、実際に確保できる資金が変わってきます。
相続対策では、相続争いの防止、納税資金の確保、相続税の軽減を、一体として考える必要があります。金融資産は、納税資金として使いやすい反面、価格変動や相続人間の分配方法によって不公平感が生じやすい財産でもあります。
遺産分割では、次のような方針を比較します。
| 分割方針 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 銘柄ごとに分ける | 現物で承継できる | 銘柄ごとの値動きや配当利回りに差が出る |
| 全銘柄を比例配分する | 公平感を出しやすい | 口座移管・端株・商品制限が煩雑 |
| 一部を売却して金銭分配する | 分かりやすい | 譲渡所得税、売却時期、価格変動が問題 |
| 納税資金分を先に確保する | 期限内納税に対応しやすい | どの資産を売るかで相続人間の調整が必要 |
| 特定相続人が取得し代償金を払う | 資産管理を集中できる | 代償金の支払能力が必要 |
相続税の申告書は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に提出する必要があります。
そのため、金融資産が多い相続では、評価作業と並行して、どの銘柄を納税資金に充てるのか、どの銘柄を長期で保有するのかを、早めに検討しておくことが望まれます。
税務調査では、証券口座の外側も確認される
金融資産の相続税申告では、被相続人名義の証券口座だけでなく、家族名義の証券口座や過去の資金移動も確認の対象になります。
名義預金のときと同じように、家族名義の証券口座であっても、購入資金の原資が被相続人であり、被相続人が管理・運用していた場合には、名義財産として相続財産に含めるべきかを検討する必要があります。
特に、次のような場合は注意が必要です。
| 状況 | 確認すべき点 |
|---|---|
| 子や孫名義の証券口座へ資金移動がある | 贈与契約、受贈者管理、贈与税申告の有無 |
| 被相続人が家族名義口座で売買していた | 実質所有者、運用指図者、収益帰属 |
| 配当・分配金が被相続人口座へ戻っている | 収益の帰属が誰か |
| 贈与したはずの株式を被相続人が管理している | 贈与成立・管理実態の確認 |
| 相続開始直前に大きな移管がある | 贈与、売買、貸付、名義移転の区分 |
金融資産は履歴が残りやすい財産です。だからこそ、申告前に取引履歴、入出金、贈与契約、名義人の管理状況を確認しておくことが、申告後の説明のしやすさにつながります。
金融資産評価で専門家に相談すべき場面
証券口座の評価は、比較的資料が整いやすい分野です。それでも、次のような場合に自己判断で進めてしまうと、評価漏れや申告後のリスクが残りやすくなります。
| 相談を検討すべき場面 | 理由 |
|---|---|
| 上場株式や投資信託の銘柄数が多い | 評価資料・配当・取得費の整理が煩雑 |
| 外国株式・外貨建投信・外貨建債券がある | 外国市場価格、為替、外国税額の確認が必要 |
| 相続開始日前後に売買が多い | 約定日・受渡日・未決済取引の整理が必要 |
| 家族名義の証券口座がある | 名義財産・贈与履歴の確認が必要 |
| NISA口座や古い取得銘柄がある | 相続後売却時の取得費確認が重要 |
| 未収配当・経過利息が多い | 相続財産への計上漏れが起こりやすい |
| 納税資金として売却予定がある | 相続税評価と譲渡所得税を併せて検討すべき |
| 未上場株式も併せて保有している | 評価方法が大きく異なり、別途専門的検討が必要 |
未上場株式がある場合には、上場株式や投資信託とは異なり、同族株主判定、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額、特定の評価会社といった論点が生じます。本記事では詳しく触れませんが、未上場株式は、稿を改めて整理すべき難度の高い財産です。
有価証券・投資信託・外貨建資産のご相談について
証券口座の相続税評価は、資料を集めれば機械的に終わるように見えて、実際には、評価時点、商品区分、未収配当、経過利息、外貨換算、名義財産、相続後の売却まで、確認すべき論点が幾重にも重なります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、証券会社の残高証明書や評価明細を出発点として、上場株式、投資信託、債券、外貨建資産、配当・利息、相続後の取得費資料までを整理し、相続税申告とその後の資産管理を見据えた検討を行います。
「証券口座の評価資料をどこまで集めればよいか分からない」「外国株式や外貨建投信がある」「相続後に売却して納税資金を確保したい」「家族名義の証券口座や過去の贈与が気になる」——こうした場合は、残高証明書、取引履歴、配当通知、投資信託の評価資料、外貨建資産の明細などを整理したうえで、早めにご相談ください。
この記事の重要ポイント
| 論点 | 振り返り |
|---|---|
| 評価時点 | 相続税評価は原則として相続開始日時点で行う |
| 上場株式 | 相続開始日の終値と、相続開始月・前月・前々月の月平均額を比較する |
| 休日・権利落 | 相続開始日に終値がない場合や権利落等がある場合は補正が必要 |
| ETF・上場投信 | 上場されているものは上場株式に準じて評価する |
| 非上場の公募投信 | 解約請求等をした場合に支払いを受ける価額を基礎に評価する |
| REIT・ETN | 上場株式に準じた評価、分配期待権の確認が必要 |
| 債券 | 利付債、割引債、個人向け国債、転換社債で評価方法が異なる |
| 個人向け国債 | 中途換金した場合の価額を基礎に評価する |
| 外貨建資産 | 外貨建評価額とTTB等による邦貨換算を分けて確認する |
| 外国株式 | 外国市場の価格を上場株式に準じて評価し、邦貨換算を行う |
| 配当・利息 | 入金日ではなく、権利確定日や既経過期間で確認する |
| 証券会社資料 | 残高証明書だけでなく、評価計算書、取引履歴、配当通知、取得費資料が重要 |
| NISA口座 | 所得税上の非課税口座であっても、相続財産として評価が必要 |
| 相続後売却 | 相続税評価額と譲渡所得の取得費は同じとは限らない |
| 名義財産 | 家族名義の証券口座でも、資金原資や管理実態によって相続財産となる可能性がある |
| 納税資金 | 金融資産は換金しやすいが、価格変動と譲渡所得税を見据えて判断する |