相続税申告で財産評価を進める実務手順|資料・現地確認・評価明細・判断根拠の整え方

相続税の申告で財産評価に取りかかるとき、まず意識しておきたいのは、「評価額をいくらにするか」だけが問題ではない、ということです。

財産評価は、申告税額を決めるための作業であると同時に、遺産分割の前提となる数字を整え、納税資金の見通しを立て、後の税務調査で説明できる根拠を残していく作業でもあります。とりわけ不動産、非上場株式、貸付金、同族会社関係の資産、国外財産などが含まれる相続では、資料を集めて単価を当てはめれば足りる、というわけにはいきません。

たとえば同じ土地であっても、地目、評価単位、接道、利用状況、賃貸借、建築制限、共有関係によって評価は変わってきます。非上場株式であれば、株主構成や議決権割合、会社規模、決算内容、会社が所有する不動産、役員貸付金などを一つずつ確認していく必要があります。金融資産にしても、上場株式、投資信託、外貨建資産、未収配当、名義財産の有無を分けて整理しておかなければなりません。

財産評価の品質は、最後に作成する評価明細書だけで決まるものではありません。どの資料を確認し、どの現況を見て、どの通達・法令・評価資料を使い、どの論点を検討し、なぜその評価方法を採用したのか。そこまで記録して初めて、後から説明のできる相続税申告になります。

この記事では、相続税申告における財産評価の実務手順を、資料収集、不動産評価、金融資産評価、非上場株式評価、評価明細、そして判断根拠の残し方という流れに沿って整理していきます。

目次

財産評価は「評価額を下げる作業」ではなく「説明できる数字を作る作業」

相続税や贈与税の財産評価は、相続・遺贈・贈与によって取得した財産の課税価格を計算する際の基礎になります。国税庁の財産評価基本通達は、法令に別段の定めがあるものなどを除き、相続税・贈与税の課税価格計算の基礎となる財産評価について、その基本的な取扱いを定めたものです。

出典:国税庁|相続税財産評価に関する基本通達

相続税評価では、一般にこの財産評価基本通達に基づいて評価を行います。ただし、通達に従ってさえいれば常に問題がない、という意味ではありません。通達の定めによって評価することが難しい財産、特殊事情のある不動産、取引実態と評価額が大きく乖離する財産、租税回避的な取引が絡む財産などでは、評価の前提そのものを慎重に確認する必要があります。

財産評価で大切になるのは、次の3つの視点です。

視点内容
網羅性評価すべき財産が漏れていないか
適切性財産の種類・権利関係・利用状況に合った評価方法を選んでいるか
説明可能性資料、現地確認、計算過程、判断理由を後から説明できるか

評価額を低くできる可能性のある論点を検討すること自体は、もちろん重要です。しかし、根拠の薄い評価減を積み上げてしまうと、税務調査で説明が難しくなり、修正申告や附帯税のリスクを高めることにもなりかねません。反対に、評価上考慮できる事情を確認しないまま高く評価すれば、納税資金や遺産分割に過度な負担を生じさせてしまうこともあります。

つまり財産評価は、「低ければよい」ものでも、「安全のために高めならよい」ものでもありません。事実関係に基づいて、合理的な評価額を導き出すこと。それが実務の中心にあります。

相続税申告における財産評価の全体手順

財産評価は、いきなり評価明細書に数字を入力する作業ではありません。実務では、おおむね次の順序で進めていきます。

手順実務で行うこと主な成果物
1財産一覧を作成する財産・債務一覧、評価対象リスト
2評価基準日を確認する相続開始日、死亡日時点資料
3権利関係・取得者を整理する登記、契約、遺言、分割方針
4財産別に資料を集める固定資産資料、残高証明、決算書等
5現況・利用状況を確認する現地写真、聞き取りメモ、役所調査
6評価方法を選定する通達、評価方式、補正・調整
7評価額を計算する評価明細書、計算資料
8特例・分割・納税への影響を見る小規模宅地等、配偶者軽減、納税資金
9レビューするチェックリスト、論点整理表
10判断根拠を保存する判断メモ、添付資料、説明資料

この順序を飛ばしてしまうと、評価額だけが先に独り歩きしてしまいます。たとえば土地の評価額を出した後になって、「実は一部が貸地だった」「地積が公簿と実測とで違っていた」「隣接地と一体利用されていた」「相続人の間で分筆が予定されていた」といったことが分かれば、評価単位や特例適用の判断そのものが変わる可能性があるのです。

財産評価は、財産調査、遺産分割、納税資金、特例適用と、いわば同時並行で進めていく必要があります。

手順1 財産一覧を「評価対象単位」に分解する

最初に行うべきは、財産一覧を作ることです。ただし、ここでいう財産一覧は、単に「土地」「建物」「預金」「株式」と並べただけのものでは足りません。評価の単位ごとに分解しておく必要があります。

たとえば不動産であれば、固定資産税課税明細書の1行が、そのまま評価単位になるとは限りません。複数筆を一体利用している宅地、1筆の中で自宅部分と貸付部分が分かれている土地、建物敷地と駐車場が一体なのか別利用なのか、共有持分なのか単独所有なのか。こうした点を一つずつ確認していきます。

財産の表示評価対象として確認すべきこと
土地1筆地目、利用状況、評価単位、権利関係、地積
複数筆の土地一体利用か、別利用か、所有者・権利関係が同じか
建物自用、貸家、未登記建物、固定資産税評価額
預貯金金融機関、支店、口座、既経過利息、外貨の有無
上場株式銘柄、株数、権利落、配当、証券会社
投資信託種類、口数、基準価額、解約価額、信託財産留保額
非上場株式発行会社、株数、議決権、株主区分、会社資料
貸付金相手先、契約、回収可能性、利息、会社帳簿
保険契約死亡保険金、保険契約に関する権利、契約者変更履歴
国外財産所在国、通貨、評価資料、換算レート

この段階で評価対象を粗く扱ってしまうと、その後の計算がどれほど精密でも、前提のほうが崩れてしまいます。とくに土地と非上場株式は、最初の分解が評価額に大きく影響する領域です。

手順2 評価基準日は「相続開始日」で固定する

相続税申告では、原則として相続開始日、すなわち被相続人が亡くなった日の時点で財産を評価します。上場株式、投資信託、外貨、預貯金、土地、建物、非上場株式など、財産ごとに必要となる資料は異なりますが、基準日は原則として同じです。

相続税の申告書は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出します。評価作業は、この10か月の中で、財産調査、戸籍確認、準確定申告、遺産分割、納税資金の検討と並行して進めていくことになります。

出典:国税庁|B1-2 相続税の申告手続

評価基準日を固定するうえで注意したいのは、次のような点です。

論点注意点
死亡後に売却した不動産売却価格をそのまま相続税評価額にできるとは限らない
死亡後に株価が下落した上場株式相続開始日時点の評価ルールで判定する
死亡後に入金された配当・利息権利確定日や既経過分を確認する
死亡後に分筆した土地相続開始日時点の現況・利用状況を確認する
死亡後に空室となった賃貸物件相続開始日時点の賃貸状況を確認する
死亡後に決算が確定した同族会社評価会社の課税時期に応じた資料を確認する

「相続後に売った価格があるのだから、それを使えばよい」「今の残高で見ればよい」といった判断は危険です。相続税評価では、あくまで相続開始日時点の権利関係と価値を捉える必要があります。

手順3 評価に必要な資料を財産別に集める

評価作業では、資料の不足がそのまま判断の遅れに直結します。先に評価方法を考えるより、まずは必要な資料を漏れなく集めること。これが何より重要です。

不動産評価で必要となる資料

資料確認する内容
固定資産税課税明細書評価額、地目、地積、家屋評価額、所在地
名寄帳課税明細に漏れた不動産、共有持分、非課税土地
登記事項証明書所有者、地目、地積、権利関係、抵当権
公図・地積測量図土地の形状、接道、隣接関係、地積
建物図面・各階平面図建物の位置、用途、区分、未登記部分
賃貸借契約書貸家、貸宅地、借地権、賃料、契約期間
管理会社資料入居状況、空室期間、賃料収入、修繕履歴
都市計画資料用途地域、建ぺい率、容積率、市街化区域等
道路台帳・建築計画概要書接道、道路種別、セットバック
現地写真形状、高低差、利用状況、道路、境界

金融資産評価で必要となる資料

資料確認する内容
残高証明書相続開始日現在の預金・証券残高
通帳・取引履歴直前出金、名義財産、既経過利息
証券会社の残高明細上場株式、投信、債券、外貨建資産
配当・分配金資料未収配当、権利確定日、源泉税
保険証券・契約照会死亡保険金、保険契約に関する権利
外貨残高資料通貨、残高、金融機関のTTB
暗号資産取引履歴保有数量、取引所、ウォレット、評価資料

非上場株式評価で必要となる資料

資料確認する内容
株主名簿株主、株数、議決権、同族株主判定
定款株式の種類、譲渡制限、議決権
決算書・申告書会社規模、利益、純資産、税務上の調整
勘定科目内訳書役員貸付金、役員借入金、有価証券、不動産
法人所有不動産資料土地・建物評価、含み益、特定会社判定
議事録自己株式、退職金、種類株式、配当
直前期から課税時期までの資料重要な資産移動、増資、配当、退職金決議

資料が不足している場合は、評価を急ぐよりも、何が足りていないのか、そしてそれが評価にどう影響するのかを明確にしておきます。とくに非上場株式は、会社側の資料が揃わないと、そもそも評価方式の判定自体ができないことがあります。

手順4 不動産評価は「現況・評価単位・方式・補正・権利関係」の順で進める

不動産評価は、相続税申告の中でも最も判断量の多い領域です。土地評価では、固定資産税評価額や路線価を確認する前に、まず現況と評価単位を確認しておく必要があります。

国税庁は、土地について、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価し、その評価方法には路線価方式と倍率方式があると説明しています。家屋については、固定資産税評価額に1.0を乗じて評価するのが基本です。

出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

4-1 現況を確認する

土地評価では、登記地目や固定資産税上の地目だけでなく、相続開始日時点の現況を確認します。

たとえば、登記上は「畑」であっても、現況が駐車場であれば、評価上の地目や評価方法に影響します。登記上は宅地でも、実際には山林・雑種地・農地として使われている場合もあります。相続人が遠方に住んでいるようなケースでは、固定資産税資料だけでは現況が分からない、ということも少なくありません。

現地確認では、次のような点を見ていきます。

現地確認項目評価への影響
実際の利用状況地目、評価単位、貸付状況
接道状況無道路地、私道、セットバック
土地の形状不整形地、間口狭小、奥行長大
高低差・がけがけ地補正、造成費、利用制限
建物・駐車場の配置貸家建付地、自用地、一体利用
境界・越境地積、利用制限、評価リスク
周辺環境騒音、墓地近接、土砂災害区域等
賃貸状況貸宅地、貸家建付地、空室

現地写真は、評価明細書そのものには表れない、重要な説明資料になります。税務調査で「なぜこの補正をしたのか」「なぜこの評価単位としたのか」を説明する際にも役立ちます。

4-2 評価単位を判定する

評価単位は、土地評価の中核です。評価単位を誤ると、路線価や補正率の計算以前に、評価の前提そのものが変わってしまいます。

評価単位で問題になりやすいのは、次のような場面です。

場面主な確認事項
複数筆を一体利用している筆ごとではなく一団の土地として評価すべきか
自宅と駐車場が隣接している自宅用駐車場か、月極駐車場か
アパートと駐車場がある入居者専用か、外部貸しか
自用地と貸宅地が隣接している利用形態ごとに評価単位を分けるか
地目が異なる土地が連続している地目別評価か、一体評価か
共有地と単独所有地が隣接している所有者の違いをどう見るか
分筆予定がある相続開始日時点の現況と分割後利用可能性を確認する

「固定資産税課税明細書に1筆ずつ載っているから、1筆ごとに評価する」とは限りません。逆に、複数筆が隣接していても、利用形態や権利関係が違えば、別評価になることもあります。

4-3 路線価方式か倍率方式かを確認する

評価単位を判定したら、次は路線価方式か倍率方式かを確認します。

路線価方式は、路線価が定められている地域の土地を評価する方法で、路線価を土地の形状などに応じた補正率で補正し、これに地積を乗じて評価します。一方の倍率方式は、路線価が定められていない地域で用いる方法で、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価します。

出典:国税庁|財産評価基準書 路線価図・評価倍率表

ここで注意したいのが、どの年分の路線価図・評価倍率表を使うのか、という点です。相続開始日の属する年分のものを確認します。相続開始が年初で、当年分の路線価がまだ公表されていない場合には、申告準備のスケジュール管理が必要になります。

4-4 画地補正・特殊事情を検討する

路線価方式では、奥行価格補正、不整形地補正、間口狭小補正、奥行長大補正、がけ地補正、無道路地評価、容積率の異なる地域にわたる宅地の評価など、土地の形状や利用上の制約を反映していきます。

ただし、補正は「使えるものを探す」作業ではありません。現地の状況と図面に照らして、なぜその補正が必要なのかを説明できること。それが前提になります。

補正・調整確認資料
不整形地補正公図、測量図、現地写真、想定整形地
無道路地評価接道状況、建築基準法上の道路、通路
セットバック道路台帳、役所調査、現地幅員
がけ地補正高低差、傾斜、擁壁、写真
容積率の異なる地域都市計画図、用途地域図
土砂災害特別警戒区域ハザードマップ、指定区域資料
私道評価道路利用状況、所有関係、通行者
土壌汚染・埋蔵文化財行政資料、調査報告書、費用見積

補正率を適用するかどうかだけでなく、あえて補正をしないという判断についても記録しておくと、後日の説明がしやすくなります。

4-5 貸家建付地・貸宅地・借地権を整理する

賃貸不動産では、権利関係が評価に影響してきます。

貸家建付地とは、所有者が建築したアパートやビルなどを他に貸し付けている場合の、その敷地である宅地をいいます。国税庁は、貸家建付地の評価対象となる宅地や、一時的な空室の取扱いについても説明しています。

出典:国税庁|No.4614 貸家建付地の評価

確認すべきポイントは、次のとおりです。

論点確認すること
貸家建付地建物所有者、賃貸借契約、賃貸割合、空室状況
貸宅地借地権の有無、借地権割合、地代、契約内容
使用貸借権利関係、無償使用、親族・同族会社との関係
サブリース契約形態、一括借上げ、入居実態
駐車場自用、入居者専用、外部貸し、構築物の有無
同族会社への貸付無償返還届出、相当地代、株式評価との関係

同じ賃貸不動産でも、契約の実態と利用状況によって評価は変わります。契約書だけでなく、賃料の入金状況、管理会社資料、空室募集の状況、そして現地確認を合わせて判断していきます。

4-6 マンション・居住用区分所有財産の評価を確認する

分譲マンションについては、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した居住用の区分所有財産に、一定の評価方法が適用されています。国税庁は、敷地利用権と区分所有権に区分所有補正率を乗じる場合があることを案内しています。

出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

マンション評価では、次の資料を確認します。

資料確認内容
登記事項証明書専有部分、敷地権割合、取得者
固定資産税課税明細書家屋評価額、土地評価額
管理規約・パンフレット用途、専有面積、建物情報
賃貸借契約書貸付物件か自用物件か
評価計算資料区分所有補正率、適用対象外の有無

マンションについて、「固定資産税評価額と敷地権割合だけで終わる」と考えてしまうと、令和6年以後の評価見直しを見落としてしまう可能性があります。

手順5 金融資産評価は「残高」だけでなく「既経過分・未収分・外貨」を見る

金融資産は、資料が揃えば評価が容易に見えることがあります。しかし実際には、残高証明書だけでは評価が完結しないものもあります。

預貯金

預貯金は、相続開始日現在の残高を確認します。定期預金では、既経過利息の評価が必要になることがあります。外貨預金であれば、通貨残高を円に換算します。

上場株式

上場株式は、原則として金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格で評価します。ただし、その価額が、課税時期の属する月・前月・前々月の月平均額のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する取扱いがあります。

出典:国税庁|No.4632 上場株式の評価

確認すべき資料は、証券会社の残高証明、取引残高報告書、配当金通知、権利落や株式分割の資料などです。相続開始日に取引がない場合や、権利落がある場合には、一定の修正を確認します。

投資信託

証券投資信託は、原則として、課税時期に解約請求または買取請求をしたとした場合に支払いを受けることができる価額によって評価します。国税庁は、基準価額、口数、未収分配金、源泉徴収されるべき所得税相当額、信託財産留保額などを考慮する評価方法を示しています。

出典:国税庁|No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価

投資信託は、商品ごとに評価資料の表示が異なります。証券会社の相続評価明細を取り寄せるだけでなく、基準価額の日付、未収分配金、外貨建てかどうかを確認しておきます。

外貨建資産

相続税・贈与税を計算する場合の外貨は、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期の最終の対顧客直物電信買相場、いわゆるTTBまたはこれに準ずる相場によって邦貨に換算します。

出典:国税庁|No.4665 外貨(現金)の邦貨換算

外貨建預金、外国株式、海外証券、外貨建保険、海外口座などがある場合には、評価額だけでなく、換算レート、換算日、金融機関名まで記録しておく必要があります。

手順6 非上場株式評価は「会社の数字」だけでなく「株主の立場」から始める

非上場株式の評価は、単に会社の純資産や利益を見ればよい、というものではありません。最初に確認すべきなのは、誰がその株式を取得するのか、その株主が同族株主等に該当するのか、議決権割合はどうなるのか、という点です。

国税庁は、取引相場のない株式について、株式を取得した株主が会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または配当還元方式により評価すると説明しています。

出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

非上場株式評価の基本手順

手順確認内容
1株主名簿・議決権を確認する
2同族株主等・中心的同族株主等の判定を行う
3原則的評価方式か配当還元方式かを判定する
4会社規模を判定する
5類似業種比準価額・純資産価額等を計算する
6特定の評価会社に該当するか確認する
7会社所有不動産・有価証券・貸付金等を評価する
8評価明細書を作成し、根拠資料を添付・保存する

非上場株式は、会社の決算書だけを見ても評価できません。会社の資産に不動産が含まれる場合、その不動産の相続税評価が株式評価に影響します。会社に役員貸付金・役員借入金がある場合には、被相続人個人の相続財産・債務と、会社側の評価とがつながってきます。

また、会社が土地保有特定会社、株式等保有特定会社、比準要素数1の会社、開業後間もない会社、休業中の会社などに該当するかどうかによっても、評価方法が変わることがあります。このあたりは、専門的な判断が必要になりやすい領域です。

取引相場のない株式の評価明細書は、相続税または贈与税の申告に際して、取引相場のない株式等の価額を評価するために使用し、申告書に添付します。

出典:国税庁|B2-1 取引相場のない株式(出資)の評価明細書

手順7 評価明細書は「結果」ではなく「判断過程」を示す資料として作る

評価明細書は、税務署に提出するための形式的な資料に見えるかもしれません。しかし実務上は、評価判断の骨格を示す重要な資料です。

たとえば土地評価明細書には、所在地、地積、路線価、奥行補正、不整形地補正、借地権割合、貸家建付地評価などが反映されます。非上場株式評価明細書であれば、株主区分、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額、特定会社判定などが反映されます。

ただし、明細書だけでは分からない判断もあります。

明細書に出にくい判断別途残すべき資料
なぜその評価単位にしたか評価単位メモ、現地写真、利用状況図
なぜその地目にしたか現況写真、役所調査、聞き取り記録
なぜその補正を適用したか公図、測量図、計算メモ
なぜ貸家建付地評価をしたか賃貸借契約書、入居状況表
なぜ空室を一時的と判断したか募集資料、入退去履歴、管理会社資料
なぜ配当還元方式を採用したか株主名簿、議決権判定表
なぜ特定会社に該当しないと判断したか会社資産内訳、判定資料
なぜ鑑定評価を使わなかったか通達評価との比較、特殊事情の検討メモ

評価明細書は、計算の結果だけでなく、判断資料とセットになって初めて意味を持ちます。申告後に担当者が変わっても、相続人が説明を求めても、税務調査で確認されても、評価の考え方を追える状態にしておくこと。これが大切です。

手順8 評価額を遺産分割・特例・納税資金に反映する

財産評価は、申告書を作成するためだけに行うものではありません。評価額が見えてくると、遺産分割、特例適用、納税資金の判断が、いよいよ現実的なものになってきます。

たとえば、自宅敷地の評価額が大きい場合には、小規模宅地等の特例を誰が使えるのかが重要になります。賃貸不動産が多い場合には、評価額だけでなく、賃料収入、借入金、修繕負担、将来売却の可能性まで考える必要があります。非上場株式が高額な場合には、後継者に株式を集中させるべきか、代償金をどう確保するか、納税猶予を検討するか、といった点が問題になってきます。

評価結果が影響する判断具体例
遺産分割不動産を誰が取得するか、代償金はいくらか
小規模宅地等対象宅地、取得者、限度面積、選択適用
配偶者の税額軽減一次相続と二次相続のバランス
納税資金現預金で納税できるか、売却が必要か
延納・物納財産の適格性、担保、測量・権利関係
申告期限分割未了の場合の未分割申告、後日手続
税務調査評価根拠、資料保存、判断メモ

評価額だけを先に確定させても、取得者が変われば、特例適用や二次相続の見通しが変わることがあります。評価と分割は切り離さず、申告期限までに並行して検討していく必要があります。

手順9 レビューでは「計算ミス」よりも「前提ミス」を重点的に見る

財産評価のレビューでは、計算式の誤りだけでなく、評価の前提を重点的に確認します。

レビュー項目確認内容
財産漏れ名義財産、未収金、保険、貸付金、国外財産
評価基準日相続開始日時点の残高・現況・価格か
評価単位土地の利用状況・権利関係に合っているか
地目登記地目ではなく現況を確認したか
地積公簿・実測・測量図の差異を確認したか
補正適用根拠と資料があるか
権利関係賃貸借、使用貸借、借地権、抵当権を確認したか
非上場株式株主判定・会社規模・特定会社判定を確認したか
外貨・国外財産換算レート、評価資料、所在国資料を確認したか
特例との整合小規模宅地等・配偶者軽減・未分割対応と整合するか

国税庁も、相続税申告書の誤りやすい事例やチェックシートを公表しています。実務では、こうした公的なチェック項目に加えて、財産構成ごとに独自のレビュー項目を設けておくことが重要です。

出典:国税庁|相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集

レビューでよく見つかるのは、計算ミスよりも前提ミスのほうです。たとえば、土地を筆ごとに評価していたが実際には一体利用だった、貸家建付地として評価していたが賃貸の実態がなかった、非上場株式で株主区分の判定が誤っていた、外貨建資産の換算レートが違っていた、といったものです。

手順10 判断根拠を「申告後に説明できる形」で保存する

相続税申告では、申告書を提出した後に、税務調査や問い合わせが行われる可能性があります。その際に重要になるのは、「評価額が正しい」と主張することではなく、「その評価額に至った資料と判断過程を示せること」です。

保存しておきたい資料は、次のとおりです。

保存資料目的
財産一覧・評価一覧全体像と評価対象の確認
資料依頼一覧どの資料を依頼し、取得したか
不足資料メモ取得できなかった資料と代替確認
評価単位メモ土地評価の前提説明
現地写真現況、接道、利用状況の説明
役所調査メモ都市計画、道路、農地、規制の確認
評価明細書計算過程の整理
評価判断メモ補正・特例・方式選択の理由
非上場株式判定表株主区分、会社規模、特定会社判定
相続人説明資料遺産分割・納税資金との関係
レビュー記録誰が、いつ、何を確認したか

とりわけ、評価額が大きい財産、判断に迷った財産、評価減を適用した財産、そしてあえて評価減を適用しなかった財産については、判断の記録を残しておくべきです。

財産評価で短絡的に判断してはいけない場面

相続税申告の現場では、次のような短絡的な判断が問題になりやすいものです。

短絡的判断実務上の問題
固定資産税評価額をそのまま土地評価に使う路線価地域では路線価方式が必要な場合がある
登記地目だけで評価する現況地目と異なる可能性がある
1筆ごとに土地を評価する一体利用の場合、評価単位が異なる可能性がある
駐車場をすべて雑種地とする自宅用・入居者専用・外部貸しで判断が変わる
空室があるから賃貸割合を下げる一時的空室として扱えるか確認が必要
マンションを従来どおり評価する令和6年以後の居住用区分所有財産評価を確認する
非上場株式を純資産だけで見る株主区分、会社規模、類似業種比準、特定会社判定が必要
外貨を任意の為替レートで換算するTTB等、評価通達上の換算ルールを確認する
評価額だけを相続人に示す分割・納税・特例への影響を説明できない

財産評価では、「大体このくらい」「前回もこうだった」「固定資産税評価額でよいはず」といった感覚的な判断を避ける必要があります。評価対象ごとに、確認すべき資料と判断の順序があるからです。

専門家に相談すべき評価論点

次のような財産がある場合には、財産評価の段階から専門家に相談する必要性が高くなります。

財産・状況専門的判断が必要になる理由
複数の土地・共有不動産評価単位、共有、分割、将来売却が絡む
賃貸不動産貸家建付地、賃貸割合、空室、借入金を確認する必要がある
農地・生産緑地地目、農地法、納税猶予、転用可能性が絡む
借地権・貸宅地契約実態、地代、権利金、使用貸借を確認する必要がある
同族会社株式株主判定、会社規模、不動産評価、役員貸付金が絡む
同族会社への貸付金個人財産と会社財務の両面で判断する
国外財産課税範囲、評価資料、外貨換算、現地手続が必要
高額マンション居住用区分所有財産の評価見直しを確認する
相続人間で分割方針が未定評価額が代償金・特例選択・納税資金に影響する
生前対策で不動産取得・贈与をしていた通達評価、総則6項、贈与加算、名義財産の論点が生じ得る

専門家に相談する価値は、単に計算を代行してもらうことにあるのではありません。どの資料を集めるべきか、どの論点を優先して確認すべきか、そして評価額が分割・納税・申告後のリスクにどう影響するのかを整理できる。そこにこそ意味があります。

まとめ|財産評価の実務は、資料・現地・法令・通達・記録の積み重ねで決まる

相続税申告における財産評価は、申告書の数字を作るだけの作業ではありません。

不動産評価では、現況、評価単位、地目、評価方式、画地補正、権利関係、特例との関係を確認します。金融資産では、残高だけでなく、上場株式の評価方法、投資信託の解約価額、外貨換算、未収配当、既経過利息を確認します。非上場株式では、株主の立場、会社規模、評価方式、会社所有資産、役員貸付金を確認していきます。

そして、これらの評価結果は、遺産分割、納税資金、二次相続、税務調査対応にも影響していきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告における財産評価について、資料収集、現地確認、評価単位の判定、非上場株式評価、評価明細書の作成、判断根拠の整理までを、一体のものとして確認しています。

不動産や同族会社株式がある場合、評価額が大きい場合、相続人の間で分割方針を検討している場合、過去の生前対策が評価に影響しそうな場合には、申告期限が近づく前にご相談ください。評価額そのものだけでなく、なぜその評価になるのか、それが分割や納税にどう影響するのかを整理し、申告後にも説明できる形に整えていきます。

振り返り|相続税申告で財産評価を進める実務手順

手順確認すること実務上のポイント
1 財産一覧の作成不動産、金融資産、株式、保険、債権債務を整理財産名ではなく評価対象単位に分解する
2 評価基準日の確認相続開始日現在の財産状況死亡後の売却価格や残高と混同しない
3 資料収集固定資産資料、残高証明、決算書、契約書不足資料と代替確認を記録する
4 現地確認土地の利用状況、接道、形状、高低差写真・役所調査・聞き取りを残す
5 不動産評価地目、評価単位、路線価、倍率、補正評価単位の誤りが評価全体に影響する
6 賃貸不動産評価貸家建付地、貸宅地、借地権、空室契約書だけでなく実際の賃貸状況を確認する
7 マンション評価敷地利用権、区分所有権、補正率令和6年以後の居住用区分所有財産評価を確認する
8 金融資産評価預金、上場株式、投資信託、外貨残高証明だけでなく既経過分・未収分も確認する
9 非上場株式評価株主区分、会社規模、評価方式、会社資産決算書だけでなく株主名簿・不動産資料も必要
10 評価明細書作成土地評価明細、株式評価明細等明細書は判断資料とセットで保存する
11 特例・分割への反映小規模宅地等、配偶者軽減、代償金評価額は遺産分割と納税資金に直結する
12 レビュー財産漏れ、前提誤り、計算誤り計算ミスより前提ミスを重点的に確認する
13 判断根拠の保存判断メモ、写真、役所調査、レビュー記録税務調査や相続人説明に備える
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