未分割申告・期限後の分割・更正の請求|遺産分割がまとまらない相続税申告の実務対応

相続税の申告で最も悩ましい場面のひとつが、申告期限までに遺産分割協議がまとまらないケースです。

「分割が決まっていないのだから、申告も待ってもらえるのではないか」。そう考えたくなる気持ちは、よく分かります。ところが、相続税の申告期限は、遺産分割協議の進み具合とは切り離されて進んでいきます。原則として、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告と納税を済ませなければなりません。遺産分割が未了であっても、期限そのものが延びることはないのです。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

未分割申告は、単なる「仮の申告」ではありません。期限内に税額を計算して納税を行い、その後の遺産分割で税額が変わった場合には、更正の請求や修正申告で調整していく――そうした一連の実務です。

とりわけ、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、未分割のままでは原則として適用できません。そのため、納税資金の確保や家族間の合意形成にも、大きく影響してきます。

本記事では、未分割申告を行う場合の基本的な考え方から、期限後に分割が成立したときの更正の請求・修正申告、申告期限後3年以内の分割見込書、そして3年を超える場合の承認申請まで、相続税申告実務の流れに沿って整理していきます。

目次

未分割申告とは何か

未分割申告とは、相続税の申告期限までに相続財産の全部または一部について遺産分割が成立していない場合に、その未分割の財産を、各相続人が民法上の相続分または包括遺贈の割合に従って取得したものとして相続税を計算し、期限内に申告・納税することをいいます。

国税庁も、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人などが民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税を計算し、申告と納税を行うものと説明しています。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

実務上は、次のように整理しています。

状況相続税申告での取扱い
すべての財産が分割済み実際の取得者・取得財産に基づいて申告する
一部だけ分割済み分割済み財産は実際の取得者で計算し、未分割財産は相続分等で取得したものとして計算する
すべて未分割原則として各相続人が相続分等に応じて取得したものとして計算する
遺言があり、取得者が確定している財産がある遺言により取得者が確定している財産は、その内容を踏まえて計算する
包括遺贈がある包括遺贈の割合を踏まえて計算する

ここで気をつけたいのは、未分割申告はあくまで「税務上いったん申告するための計算」であって、最終的な遺産分割の内容そのものを決めるものではない、という点です。未分割申告で法定相続分により計算したからといって、後日の遺産分割も法定相続分どおりにしなければならない、というわけではありません。

その一方で、税務上はその申告で税額がいったん確定し、納税も必要になります。ですから、未分割申告を軽く考えてしまうと、後になって「誰が追加で納税するのか」「誰が還付を受けるのか」「特例を使うための手続をきちんとしていたのか」といった、新たな対立が生じかねません。

未分割でも申告期限は延びない

相続税の申告期限は、原則として「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。遺産分割協議がまとまらないことを理由に、この期限が当然に延長されるわけではありません。

この点は、実務のうえで非常に重要です。

誤解正しい理解
遺産分割が終わらないと申告できない未分割でも申告しなければならない
分割協議中なら税務署が待ってくれる申告期限は原則として延びない
特例を後で使うから納税も後でよい未分割時点で特例なしの税額を納める必要がある場合がある
とりあえず申告しなければ、分割後にまとめて申告できる期限後申告・無申告リスク、延滞税・加算税リスクが生じる

未分割申告では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できない財産があるため、分割後と比べて当初の納税額が大きくなることがあります。

したがって、遺産分割協議がまとまらない場合であっても、申告期限から逆算して、税額の試算、納税資金の手当て、特例の後日適用の手続を、同時並行で検討しておく必要があります。

未分割申告で使えない代表的な特例

未分割申告でとりわけ問題になりやすいのが、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例です。

特例未分割時の原則後日適用の可能性
配偶者の税額軽減未分割財産については適用できない分割見込書を添付し、期限後の分割・更正の請求により適用できる場合がある
小規模宅地等の特例未分割の特例対象宅地等には適用できない申告期限後3年以内の分割等により適用できる場合がある
特定計画山林等の特例未分割では制限を受ける所定の届出・分割後の手続により適用できる場合がある
配偶者居住権や代償分割を含む分割設計分割内容が確定しないと評価・課税関係が固まらない分割成立後に申告内容の見直しが必要になることがある

配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した財産を基に計算されます。そのため、申告期限までに分割されていない財産は、原則として税額軽減の対象になりません。

出典:国税庁|No.4158 配偶者の税額の軽減

小規模宅地等の特例についても同様です。未分割の特例対象宅地等には、当初申告の時点では特例を使えません。ただし、申告期限後3年以内の分割見込書を添付しておき、所定の期間内に分割された場合には、後日、更正の請求によって特例を適用できる場合があります。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告 Q&A

「申告期限後3年以内の分割見込書」はなぜ重要か

未分割申告を行ううえで、後日、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受ける可能性があるなら、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が極めて重要になります。

この書類は、申告期限までに分割されていない財産について、申告期限から3年以内に分割し、後日、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを受ける予定であることを届け出るための手続です。国税庁は、この分割見込書を相続税の申告書とともに提出するものとしています。

出典:国税庁|B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続

分割見込書を提出する意味は、次のように整理できます。

目的実務上の意味
後日特例を使う意思を示す配偶者軽減・小規模宅地等を後から適用する前提を整える
未分割の事情を明らかにする単なる失念ではなく、協議未了の状況を説明する
分割見込みを記録する後日の更正の請求や税務署への説明につながる
相続人間で期限意識を共有する「3年以内」「4か月以内」という期限管理を明確にする

未分割申告では、申告期限までに特例を使えないこと自体よりも、「後で使えるように、必要な手続をきちんとしておいたか」が大切になります。たとえ申告期限後3年以内に分割できたとしても、当初申告の段階で必要な届出を失念していると、後日の税額修正で問題になりかねません。

期限後に分割が成立した場合の流れ

申告期限の後に遺産分割が成立した場合は、当初申告で計算した税額と、実際の分割に基づいて計算した税額とを比較します。

比較結果手続
実際の分割に基づく税額が当初申告より少ない更正の請求
実際の分割に基づく税額が当初申告より多い修正申告
ある相続人は減額、別の相続人は増額減額される人は更正の請求、増額される人は修正申告または税務署長による更正の対象
税額に変動がない申告内容の変更が必要か、添付資料・取得財産の整理を確認

国税庁は、未分割の相続財産について申告した後に分割が行われ、その分割に基づく税額と申告税額が異なるときは、実際に分割した財産の額に基づいて修正申告または更正の請求をすることができる、と説明しています。更正の請求ができるのは、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内です。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

ここで見落としてはならないのが、「更正の請求をする相続人」と「修正申告が必要になる相続人」とが、同時に生じることがある点です。

たとえば、当初申告では法定相続分で計算していたものの、期限後の分割によって長男が大半の不動産を取得し、配偶者が金融資産を取得したとします。このとき、ある相続人は税額が下がり、別の相続人は税額が上がる、という事態が起こり得ます。還付を受ける人だけが更正の請求をして、追加納税が必要な人は何もしない――こうした進め方は、家族間に新たな紛争を招きやすいものです。

未分割申告の後に更正の請求を行うかどうかは、遺産分割協議の内容とあわせて、相続人全員で税負担の変動を理解しておくことが欠かせません。

更正の請求とは何か

更正の請求とは、申告した税額が過大だった場合に、納税者の側から税務署に対して税額の減額を求める手続です。

未分割申告との関係では、次のような場面で問題になります。

更正の請求が問題になる場面内容
期限後に遺産分割が成立した実際の取得財産に基づく税額が当初申告より少なくなる
配偶者が財産を取得した配偶者の税額軽減を後日適用する
小規模宅地等の対象宅地を取得者が確定した小規模宅地等の特例を後日適用する
一部の相続人が取得しないことが調停等で確定したその相続人について税額が減少する場合がある
遺留分侵害額請求などにより取得財産が変動した別途、相続税法上の更正の請求事由を検討する

配偶者の税額軽減について、国税庁は、相続税の申告後に行われた遺産分割に基づいて配偶者の税額軽減を受ける場合、分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求をする必要がある、としています。

出典:国税庁|No.4158 配偶者の税額の軽減

小規模宅地等の特例についても同じです。申告期限の後に特例対象宅地等が分割された場合は、分割された日の翌日から4か月以内に限って更正の請求を行うことができる点に、注意が必要です。

出典:国税庁|租税特別措置法関係通達 69の4-26

修正申告とは何か

修正申告とは、当初申告よりも納付すべき税額が増える場合に、納税者が自ら税額を修正して追加で納税する手続です。

未分割申告後の遺産分割では、次のような場面で修正申告が必要になることがあります。

修正申告が必要になりやすい場面
当初より多くの財産を取得した法定相続分申告後、特定の相続人が不動産や株式を多く取得した
他の相続人の更正の請求により、取得関係が明確になったある相続人が還付を受け、他の相続人の税額が増える
未分割中に見落としていた財産が判明した名義預金、貸付金、保険契約、国外財産など
評価額の見直しで税額が増えた土地評価、非上場株式評価、小規模宅地等の誤適用など

国税庁の質疑応答事例でも、調停によって共同相続人の1人が相続財産を取得しないことが確定した場合、その人については更正の請求が認められる一方で、他の相続人は修正申告をする必要がある、とされています。

出典:国税庁|共同相続人の1人が遺産分割の調停において相続財産を取得しないことが確定した場合の相続税法第32条第1項の規定に基づく更正の請求

実務では、分割協議書を作成する時点で、各相続人の相続税額がどう変わるのかを試算しておくことが大切です。「財産の分け方」だけ合意しても、「税金の増減」についての理解が共有されていなければ、分割後になって不満が表面化してしまいます。

3年以内に分割できた場合の実務手順

申告期限後3年以内に遺産分割が成立した場合、一般的な流れは次のとおりです。

手順内容注意点
1 当初申告未分割財産を相続分等で計算し、期限内申告・納税を行う配偶者軽減・小規模宅地等を使えない財産がある
2 分割見込書の添付後日特例を受ける予定がある場合に添付する申告書とともに提出する
3 遺産分割成立協議書、調停調書、審判書などで取得内容を確定する誰が何を取得したかを明確にする
4 税額再計算実際の取得財産、特例適用、評価単位を再確認する当初申告時と評価単位が変わることがある
5 更正の請求・修正申告税額が下がる人は更正の請求、上がる人は修正申告更正の請求は原則として分割日の翌日から4か月以内
6 還付・追加納税税務署の処理、還付、追加納税を行う延滞税・加算税の有無も確認する
7 資料保存分割協議書、評価資料、計算過程を保存する税務調査・将来説明に備える

ここでとりわけ注意したいのが、分割後の土地評価です。未分割申告の時点では一体の土地として評価していたものが、遺産分割によって取得者・利用単位・権利関係が変わることで、評価単位や小規模宅地等の適用関係まで変わってくることがあります。単に「取得割合を置き換える」だけでは足りない場合がある、ということです。

3年以内に分割できない場合の承認申請

申告期限から3年を経過しても遺産分割がまとまらない場合、原則として、未分割財産について配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を後から適用することはできません。

ただし、相続に関する訴えが提起されているなど、一定のやむを得ない事情がある場合には、別の道が残されています。「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して税務署長の承認を受けることで、3年を超えた後でも特例適用の余地が残る場合があるのです。

国税庁は、この承認申請について、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出するよう案内しています。

出典:国税庁|B1-6 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続

承認を受けた後、判決の確定日など、相続財産の分割ができることとなった日の翌日から4か月以内に分割された場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できる場合があります。その場合も、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行う必要があります。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告 Q&A

実務上の期限を整理すると、次のようになります。

時点必要な対応
相続開始を知った日の翌日から10か月以内未分割でも相続税申告・納税を行う
当初申告時後日特例を使う可能性がある場合、申告期限後3年以内の分割見込書を添付する
申告期限から3年以内に分割成立分割日の翌日から4か月以内に更正の請求を検討する
3年以内に分割できないやむを得ない事情あり3年経過日の翌日から2か月以内に承認申請書を提出する
やむを得ない事情が解消一定の日の翌日から4か月以内に分割し、分割後4か月以内に更正の請求を行う

この承認申請は、単なる事後報告ではありません。提出期限を過ぎてしまったり、やむを得ない事情を証明する資料が不足したりすると、後日の特例適用が難しくなる可能性があります。分割見込書と承認申請は性質の異なる手続ですから、両者を混同しないことが大切です。

未分割申告で特に注意すべき財産

未分割申告では、どの財産が未分割なのかを、はっきりと区分しておく必要があります。とりわけ注意したい財産は、次のとおりです。

財産注意点
自宅敷地小規模宅地等の特例、配偶者居住権、二次相続に影響する
賃貸不動産貸付事業用宅地等、貸家建付地、空室、賃料収入の帰属を確認する
同族会社株式後継者、議決権、株式評価、事業承継税制との関係を確認する
生命保険金みなし相続財産であり、原則として遺産分割対象財産とは異なる
名義預金未分割以前に、そもそも誰の財産かが問題になる
貸付金・未収金回収可能性、同族会社・親族との関係を確認する
債務・保証債務誰が負担するか、債務控除できるかを確認する
海外財産評価資料、為替換算、現地手続の遅れを確認する
農地・生産緑地納税猶予、農地法、承継者の意思に注意する

未分割申告では、相続税法上の課税価格を計算するために財産評価を行います。しかし、後日の分割によって、土地の利用単位、取得者、共有関係、売却予定などが変わってくることがあります。そのため、当初申告時点での評価根拠と、分割後の再計算の根拠とを、分けて記録しておくことが望ましいといえます。

一部だけでも分割した方がよい場合がある

遺産分割協議が全体としてまとまらない場合でも、すべての財産を未分割のままにするしかない、とは限りません。

たとえば、自宅敷地について小規模宅地等の特例を適用できる見込みが高く、取得者をめぐる相続人間の争いが少ないようなケースです。このような場合には、その宅地だけを先に一部分割しておくことが、実務上の選択肢になることがあります。金融資産や他の不動産について争いが残っていても、特例対象宅地の取得者が申告期限までに確定していれば、当初申告で特例の適用を検討できる場合があるのです。

ただし、一部分割には注意すべき点もあります。

一部分割のメリット一部分割の注意点
特例を当初申告で使える可能性がある他の財産の分割交渉に影響する
当初納税額を抑えられる場合がある不公平感が強まることがある
生活・事業に必要な財産を早く確定できる遺留分、代償金、特別受益との関係を整理する必要がある
相続登記や金融機関手続が進みやすい後日の全体分割との整合性が必要

一部分割は、税額だけで判断すべきものではありません。「特例を使うために先に分ける」ことが、かえって家族間の納得を損なってしまうこともあります。税務上の有利・不利と、分割協議全体の進行、親族関係、納税資金とをあわせて検討することが欠かせません。

未分割申告後の更正の請求で見落としやすい点

未分割申告の後に更正の請求を行う際は、単に「分割協議書を添付して税額を下げる」だけでは不十分です。

見落としやすい点確認すべきこと
分割日更正の請求期限である4か月の起算点に関係する
分割の範囲全部分割か一部分割かを確認する
税額が増える相続人修正申告や税務署長による更正の対象になる
小規模宅地等の選択取得者・対象地・限度面積・同意を確認する
配偶者軽減配偶者が実際に取得した財産額を確認する
評価単位の変動分割後の土地評価が当初申告と異なる可能性がある
名義財産分割協議以前に、そもそも相続財産かを確認する
債務負担誰が債務を負担したかを反映する
添付書類遺産分割協議書、印鑑証明書、明細書等を整える
説明記録なぜその特例・評価・分割を採用したかを残す

配偶者の税額軽減では、戸籍謄本等、遺言書の写し、遺産分割協議書の写し、相続人全員の印鑑証明書など、配偶者が取得した財産が分かる書類の添付が必要になります。

出典:国税庁|No.4158 配偶者の税額の軽減

また、小規模宅地等の特例では、対象宅地等の取得者、利用状況、継続要件、同意関係、そして申告書・明細書の整備が問題になります。未分割の事案では、当初申告、3年以内の分割、承認申請、分割後4か月以内の更正の請求と、複数の期限が重なり合います。そのため、手続の管理そのものが、重要な品質管理項目になってきます。

未分割申告と納税資金の問題

未分割申告では、特例なしの税額でいったん納税しなければならない場合があります。ここで現実の問題として立ちはだかるのが、納税資金です。

資金面の問題実務上の対応
遺産の多くが不動産売却予定、担保借入、延納・物納の可能性を早期に検討する
預金口座が凍結されている金融機関の相続手続、仮払い制度、相続人の立替可能性を確認する
特例が使えず当初税額が大きい分割見込書、3年以内の分割方針、後日の還付見込みを整理する
相続人ごとに資金力が違う誰が納税し、後日どう精算するかを協議する
還付を見込んでいる還付時期は確定ではないため、短期資金繰りを別途考える

未分割申告にあたって、「最終的には税額が下がる見込みだから大丈夫」と考えるのは危険です。更正の請求による還付は、分割が成立し、必要書類を整え、税務署の処理を経て、ようやく行われます。申告期限の時点では納税のほうが先に来ますから、当初の納税資金をどう確保するかを、現実的に検討しておく必要があります。

遺産分割協議と税務手続は同時に設計する

未分割申告でよくある失敗が、遺産分割協議と税務手続を、別々のものとして進めてしまうことです。

遺産分割協議では、「誰がどの財産を取得するか」だけでなく、次の点もあわせて整理しておく必要があります。

協議で確認すべき税務論点理由
各相続人の相続税額取得財産と税負担のバランスを確認する
更正の請求をする人還付を受ける人がいるかを確認する
修正申告が必要な人追加納税が必要な人を確認する
小規模宅地等の選択誰の取得分でどの宅地に適用するかを確認する
配偶者軽減の使い方一次相続と二次相続のバランスを確認する
代償金支払能力、税務上の取扱い、協議書の記載を確認する
売却予定財産換価分割、譲渡所得、取得費加算との関係を確認する
税務調査対応分割理由、評価根拠、資料保存を確認する

遺産分割は法務上の合意であり、相続税申告は税務上の手続です。この二つは別物のようでいて、実際には密接に結びついています。分割協議書の記載が曖昧だと、税務上、誰がどの財産を取得したのか、それは代償金なのか贈与なのか、換価分割なのか単独取得後の譲渡なのか――こうした点が不明確になってしまうことがあります。

「期限に間に合わない」と感じたときの優先順位

申告期限が迫っているのに遺産分割がまとまらない。そんなときこそ、優先順位を誤らないことが重要です。

優先順位対応
1 申告期限を守る未分割でも期限内申告・納税を行う
2 財産評価を固める不動産、株式、名義財産、債務を確認する
3 特例対象財産を把握する配偶者軽減、小規模宅地等の後日適用可能性を整理する
4 分割見込書を提出する後日特例を使う可能性を残す
5 納税資金を確保する特例なし税額での納税可能性を確認する
6 分割協議の争点を整理する税務と法務を分けて論点化する
7 期限後手続を管理する3年、2か月、4か月の期限を管理する

この段階で大切なのは、「早く分けること」だけを目的にしない、ということです。十分な事実確認をしないまま分割協議を成立させてしまうと、後になって財産漏れや評価誤りが見つかったときに、再協議や修正申告、場合によっては贈与税・譲渡所得税の問題にまで発展しかねません。

未分割申告で専門家に相談すべき場面

次のような場合には、未分割申告の段階から、相続税に詳しい税理士だけでなく、必要に応じて弁護士・司法書士・不動産鑑定士などとの連携も検討すべきでしょう。

状況相談すべき理由
相続人間で対立がある税理士だけでは代理交渉ができないため、弁護士連携が必要になる
判断能力に不安がある相続人がいる成年後見、特別代理人、利益相反を確認する必要がある
未成年者がいる特別代理人の要否、遺産分割協議の有効性を確認する
行方不明者・海外居住者がいる署名、証明書、管轄、期限管理に時間がかかる
不動産が多い評価単位、小規模宅地等、共有、売却、登記が複合する
非上場株式がある評価、議決権、後継者、納税資金を同時に考える必要がある
名義預金や生前贈与がある財産範囲と贈与加算を確認する必要がある
申告期限が近い未分割申告、分割見込書、納税資金を急ぎ整理する必要がある
3年以内に分割できそうにない承認申請の要否を早期に確認する必要がある

未分割申告とは、遺産分割協議がまとまっていない中で、税務上の期限を守り、将来の特例適用の可能性を残し、家族間の税負担の変動をきちんと説明できるようにしておく実務です。形式的に申告書を提出するだけでは、足りないのです。

まとめ|未分割申告は「期限内申告」と「後日の修正」を一体で考える

遺産分割が相続税の申告期限までにまとまらない場合でも、相続税の申告と納税は、原則として期限内に行わなければなりません。未分割財産については、相続分等に従って取得したものとして申告しますが、その際には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えない財産が生じるため、当初税額が大きくなることがあります。

その後、申告期限後3年以内に分割が成立すれば、分割日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで、配偶者軽減や小規模宅地等の特例を適用できる場合があります。そのためにこそ、当初申告の時点で、申告期限後3年以内の分割見込書を添付しておくことが重要になります。3年以内に分割できないやむを得ない事情がある場合には、3年経過日の翌日から2か月以内の承認申請も検討しなければなりません。

未分割申告は、相続人間の対立が残ったまま進める申告です。税額計算、財産評価、特例適用、納税資金、そして分割後の更正の請求・修正申告まで――こうした流れをあらかじめ見通しておかなければ、申告後にさらに大きな不満や追加負担が生じてしまうことがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、遺産分割がまとまっていない相続税申告について、期限内申告、未分割財産の評価、配偶者軽減・小規模宅地等の後日適用、分割見込書、更正の請求・修正申告までを、一体として整理いたします。

申告期限が近い。特例を使えるかどうか不安だ。相続人間で取得財産や税負担の認識が合っていない。3年以内に分割できるか見通せない。そうした状況では、早い段階で論点と期限を見える化しておくことが何より大切です。未分割のまま申告期限を迎えそうな場合は、必要資料と現在の協議状況を整理したうえで、当事務所のお問い合わせページからご相談ください。

振り返り|未分割申告・期限後分割・更正の請求の重要ポイント

論点重要ポイント実務上の注意点
未分割申告分割未了でも相続税申告期限は延びない10か月以内に申告・納税が必要
未分割財産の計算相続分または包括遺贈割合に従って取得したものとして計算分割協議の最終内容を決めるものではない
配偶者の税額軽減未分割財産は原則対象外後日適用には分割見込書・更正の請求が重要
小規模宅地等の特例未分割の特例対象宅地等には原則適用できない取得者・継続要件・選択同意を確認する
分割見込書申告期限後3年以内に分割する見込みを届け出る原則として相続税申告書とともに提出する
3年以内の分割分割後に更正の請求で特例を適用できる場合がある分割日の翌日から4か月以内の期限管理が必要
3年超の未分割やむを得ない事情があれば承認申請を検討3年経過日の翌日から2か月以内に提出
更正の請求税額が減る場合の手続期限を過ぎると還付を受けられない可能性がある
修正申告税額が増える場合の手続還付を受ける相続人と追加納税する相続人が同時に生じることがある
納税資金特例なし税額でいったん納税する場合がある還付見込みとは別に当初納税資金を確保する
家族間合意分割内容と税額変動を同時に確認する税負担の説明不足が新たな紛争につながる
専門家連携法務・登記・評価・税務が重なる弁護士、司法書士、不動産鑑定士との連携が必要な場合がある
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