「副業は20万円以下なら申告不要」——そう耳にしたことのある方は、少なくないと思います。
ただ、この一言だけを頼りに判断してしまうのは、実務の現場ではかなり危うい話です。そもそも20万円という基準は、すべての人に共通して使える「副業の非課税枠」ではありません。判断の対象になるのも「売上」ではなく「所得」です。そのうえ、所得税の確定申告が不要であっても、住民税の申告は別に必要になることがあります。
副業収入の税務で本当に確認しておきたいのは、次のような順序です。
| 確認順序 | 見るべきこと |
|---|---|
| 1 | その収入は給与所得、事業所得、雑所得、不動産所得、譲渡所得などのどれか |
| 2 | 収入金額ではなく、必要経費を差し引いた所得金額はいくらか |
| 3 | 年末調整済みの給与所得者に該当するか |
| 4 | 所得税の確定申告が必要か、還付申告をするか |
| 5 | 所得税とは別に住民税申告が必要か |
| 6 | 帳簿・請求書・通帳・契約書など、後から説明できる資料があるか |
| 7 | 副業が継続・拡大し、青色申告、消費税、インボイスの検討が必要になっていないか |
このコラムでは、「申告するかどうか」という一点にとどまらず、所得区分、必要経費、資料の保存、住民税、青色申告、そして将来の税務リスクまで含めて、副業収入の全体像を順に整理していきます。
副業収入の判断で最初に捨てるべき誤解
副業のご相談で目にすることの多い誤解は、大きく次の3つです。
| 誤解 | 実務上の正しい見方 |
|---|---|
| 副業収入が20万円以下なら何もしなくてよい | 20万円基準は所得税の一定の確定申告不要制度であり、住民税申告や還付申告とは別に確認が必要 |
| 入金額が20万円以下かどうかで判断する | 判断するのは原則として収入ではなく、収入から必要経費を差し引いた所得金額 |
| 副業はすべて雑所得でよい | 継続性、独立性、営利性、帳簿・資料、契約関係によって事業所得、雑所得、給与所得などに分かれる |
実務上の整理としても、年末調整を終えた給与所得者であっても、給与以外の副収入による所得が20万円を超えれば、一定の場合を除いて確定申告が必要になります。フリマアプリなどの個人間取引、人的役務の提供、暗号資産の取引、民泊、NFTに関する所得といった副収入は、一般的には雑所得に該当するものとして扱われます。
出典:国税庁|No.1906 給与所得者がネットオークション等により副収入を得た場合
ここで押さえておきたいのは、「一般的には」という留保です。副業の名称や入金の経路だけで所得区分が決まるわけではありません。収入の性質、働き方、契約、継続性、帳簿、取引相手、そして資金の流れ——こうした実態を確認したうえで判断していくものです。
20万円基準は「副業収入20万円」ではなく「所得20万円」
副業の申告要否を考えるときは、まず「収入」と「所得」を切り分けてください。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 収入 | 入金額、売上額、報酬額など、受け取った総額 |
| 必要経費 | その収入を得るために直接必要な支出や業務上の費用 |
| 所得 | 収入から必要経費を差し引いた金額 |
たとえば、副業の売上が28万円あったとしても、その収入を得るために直接必要な経費が10万円かかっていれば、所得は18万円です。逆に、売上が19万円でも、経費がほとんどなければ所得もほぼ19万円ということになります。
雑所得のうち業務に係るものは、「総収入金額-必要経費」で所得金額を計算します。ここでいう業務に係る雑所得とは、副業に係る収入のうち、営利を目的とした継続的なものを指します。
出典:国税庁|No.1500 雑所得
そして必要経費に算入できるのは、総収入金額に対応する売上原価その他その収入を得るために直接要した費用や、その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用です。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
ですから、副業について最初に用意すべき資料は、単なる「入金一覧」ではありません。入金、支出、契約、請求、通帳、カード明細、領収書——これらをつなぎ合わせた「所得の計算資料」なのです。
20万円以下でも、確定申告するなら副業も含める
20万円基準については、もう一つ見落とされやすい点があります。
給与所得者が、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であるために確定申告を要しない場合であっても、医療費控除などのために還付申告を行うのであれば、その20万円以下の所得も併せて申告する必要があります。
出典:国税庁|No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
つまり、次のように整理できます。
| 状況 | 副業所得20万円以下の扱い |
|---|---|
| 年末調整済みで、他に確定申告する理由がない | 所得税の確定申告が不要となる場合がある |
| 医療費控除を受けるために還付申告する | 副業所得も含めて申告が必要 |
| ふるさと納税で確定申告する | 副業所得も含めて申告が必要 |
| 住宅ローン控除初年度で確定申告する | 副業所得も含めて申告が必要 |
| 株式損失の繰越控除などで確定申告する | 副業所得も含めて申告が必要 |
| そもそも給与所得者の確定申告不要制度に該当しない | 20万円基準だけでは判断できない |
「20万円以下だから申告書に書かない」のではありません。あくまで、確定申告をする必要がない場合に限って、所得税の申告を省略できることがある——このように理解しておいてください。
所得税の確定申告が不要でも、住民税申告は別に確認する
所得税の20万円基準は、住民税の申告不要までを意味するものではありません。
たとえば横浜市では、給与収入以外の副収入について、その合計額が20万円以下であれば原則として所得税の確定申告は不要でも、市民税・県民税の申告は必要になるとされています。
出典:横浜市|市民税・県民税の申告について
住民税は、翌年度の税額はもちろん、自治体から勤務先への通知、国民健康保険料、各種の行政手続にまで影響することがあります。所得税だけを見て「申告不要」と判断してしまうと、住民税側で申告漏れになりかねません。
なお、住民税の申告方法や普通徴収の取扱いは、自治体によって実務運用が異なることがあります。副業を勤務先に知られたくない、というご相談もありますが、税務上は「隠す方法」を考えるのではなく、所得区分、申告方法、住民税の徴収方法、勤務先の就業規則を、それぞれ分けて確認していくことが大切です。
副業収入の主な所得区分
副業収入は、そのすべてが雑所得になるわけではありません。まずは次の表で、ご自身の収入がどこに近いかを確認してみてください。
| 副業の内容 | まず検討する所得区分 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| アルバイト、パート、非常勤勤務 | 給与所得 | 雇用契約、勤務時間、指揮命令、源泉徴収票 |
| 業務委託、請負、フリーランス報酬 | 事業所得または雑所得 | 継続性、独立性、営利性、帳簿、複数顧客 |
| 原稿料、講演料、デザイン料 | 事業所得または雑所得 | 本業性、継続性、取引規模、資料保存 |
| 配達代行、動画配信、アフィリエイト | 事業所得または雑所得 | 継続性、収益目的、経費管理、プラットフォーム明細 |
| フリマアプリ・ネットオークション | 雑所得、譲渡所得、非課税所得など | 不用品売却か、転売目的か、生活用動産か |
| 暗号資産、NFT関連取引 | 雑所得など | 取引内容、継続性、取得価額、交換・売却の記録 |
| 民泊、時間貸し、カーシェア | 雑所得、不動産所得、事業所得など | 役務提供、管理実態、貸付資産の性質 |
| 家賃収入、駐車場収入 | 不動産所得など | 不動産の貸付けか、サービス提供を伴うか |
| 株式、投資信託の売却 | 譲渡所得等 | 口座区分、源泉徴収、申告分離、損益通算 |
| 保険金、満期金、解約返戻金 | 一時所得、雑所得など | 契約者、保険料負担者、受取人、受取方法 |
給与所得とは、使用人や役員などが支払いを受ける給料、賃金、賞与といった所得をいいます。給与所得は、原則として給与所得控除により所得を計算し、通常は勤務先で源泉徴収と年末調整が行われます。
出典:国税庁|No.1400 給与所得
一方、事業所得は、サービス業その他の事業から生じる所得であり、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。この必要経費には、売上原価、給与・賃金、地代家賃、減価償却費などが含まれます。
出典:国税庁|No.1350 事業所得の課税のしくみ
給与所得になる副業|「源泉徴収票」がある場合
副業先から源泉徴収票を受け取る場合、その収入は給与所得として整理するのが通常です。
たとえば、次のような副業が該当します。
| 例 | 税務上の入口 |
|---|---|
| 休日だけ飲食店でアルバイトをしている | 給与所得 |
| 夜間に塾講師として雇用されている | 給与所得 |
| 非常勤職員として勤務している | 給与所得 |
| 複数の勤務先から給与を受けている | 給与所得の合算 |
| 勤務時間・場所を指定され、上司の指示で働いている | 給与所得の可能性が高い |
副業が給与所得にあたる場合、「必要経費を自分で自由に差し引く」という考え方は、原則として当てはまりません。給与所得には給与所得控除があり、一定の要件を満たす特定支出控除を除いて、個別の支出を通常の事業経費のように控除することはできないためです。
出典:国税庁|No.1400 給与所得
複数の給与がある場合は、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超えるかどうかなどを確認していきます。
出典:国税庁|令和7年分 確定申告特集 申告が必要かなどを調べる
業務委託・フリーランス収入は、事業所得か雑所得を検討する
業務委託契約や請負契約による報酬、プラットフォーム収入、原稿料、講演料、デザイン料、動画配信、アフィリエイト収入など。これらは給与所得ではなく、事業所得または雑所得として整理することが多い領域です。
ただし、事業所得と雑所得の境界は、「副業だから雑所得」「売上が多いから事業所得」というように単純に決まるものではありません。
確認すべき主な観点は、次のとおりです。
| 判断軸 | 事業所得に近い事情 | 雑所得に近い事情 |
|---|---|---|
| 継続性 | 毎年・毎月継続して取引がある | 単発、臨時的、継続性が弱い |
| 営利性 | 利益を得る目的で運営している | 趣味・偶発的収入に近い |
| 独立性 | 自己の計算と責任で業務を行う | 勤務先や発注者への従属性が強い |
| 規模 | 顧客、売上、設備、外注、広告などがある | 小規模で生活上の延長に近い |
| 社会的客観性 | 対外的に事業として活動している | 事業としての外形が弱い |
| 帳簿 | 取引を記録し、請求書・領収書を保存している | 入金だけを見ており、記録が弱い |
| 収支管理 | 売上、経費、未収、支払を整理している | 家計口座と混在し説明しにくい |
| 将来性 | 継続・拡大の事業計画がある | 一時的な副収入にとどまる |
所得税基本通達では、原稿、デザイン、講演料などの所得や、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生じる所得は、事業所得または山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当するとされています。事業所得と認められるかどうかは、その活動が社会通念上、事業と称するに至る程度で行われているかどうかで判定します。
出典:国税庁|所得税基本通達 法第35条《雑所得》関係
さらに、取引を記録した帳簿書類の保存がない場合には、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除き、業務に係る雑所得に該当する点にも留意が必要です。
出典:国税庁|所得税基本通達 法第35条《雑所得》関係
ここで誤解してはいけないのは、「300万円を超えれば自動的に事業所得になる」という意味ではないということです。帳簿書類の保存は重要な要素ではありますが、それだけでなく、活動の実態、継続性、規模、独立性を総合して判断していきます。
雑所得の赤字は、原則として他の所得と通算できない
副業を事業所得にしたい、というご相談の背景には、「赤字を給与所得と相殺したい」という意図が隠れていることがあります。
しかし、所得区分は、税額の面で有利かどうかで選ぶものではありません。
雑所得の金額の計算上生じた損失は、他の所得の金額と損益通算することができません。
出典:国税庁|No.1500 雑所得
一方、青色申告者については、事業所得などに損失がある場合、損益通算してもなお控除しきれない純損失の金額を、翌年以後3年間にわたって繰り越せる制度などが用意されています。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度
だからこそ、税務上は「事業所得として説明できる実態があるか」が問われます。赤字を通算したいから事業所得にするのではなく、事業としての実態、帳簿、契約、継続性があり、その結果として事業所得に該当するのかどうかを見ていく——この順序を守ることが大切です。
副業収入別に見る注意点
1. フリマアプリ・ネットオークション
家にある不要品を売った場合と、仕入れて転売している場合とでは、税務上の見方が変わります。
| 内容 | 税務上の見方 |
|---|---|
| 自宅の古着、家財、生活用品を売却 | 生活に通常必要な動産の譲渡として非課税となる場合がある |
| 継続的に商品を仕入れて販売 | 事業所得または業務に係る雑所得を検討 |
| 高額な貴金属、骨董品、美術品などの売却 | 譲渡所得等を検討 |
| 損をして売った | 生活用動産の損失は原則として税務上の損失として扱わない |
衣服・雑貨・家電など、生活の用に供している資産の売却による所得は非課税とされ、確定申告は不要で、損失も生じていないものとみなされます。
出典:国税庁|No.1906 給与所得者がネットオークション等により副収入を得た場合
ただし、転売目的で仕入れ、継続的に販売しているのであれば、これはもはや「不要品の処分」ではありません。仕入記録、販売履歴、送料、手数料、在庫、プラットフォーム明細を、しっかり整理しておく必要があります。
2. 原稿料・講演料・デザイン料
会社員の方が単発で原稿料や講演料を受け取る場合は、雑所得として整理することが多い領域です。ただし、継続的に執筆・講演・研修・制作を行い、営業活動、複数の顧客、契約書、請求書、帳簿が整っているようなら、事業所得を検討することになります。
原稿料や講演料などは、支払時に源泉徴収されることがあります。雑所得として源泉徴収されていても、確定申告で精算が必要になる場合があります。雑所得の取扱いにおいても、原稿料・講演料などは原則として支払時に源泉徴収が行われるとされています。
出典:国税庁|No.1500 雑所得
「源泉徴収されているから申告不要」とは限りません。源泉徴収税額は、最終的な税額の前払いに近い役割を持つことがあるため、所得全体で見て精算が必要かどうかを確認してください。
3. 配達代行・動画配信・アフィリエイト
配達代行、動画配信、アフィリエイト、有料メルマガ、アプリ配信など。収入の経路が新しくても、所得区分の基本的な考え方は変わりません。
確認するのは、次のような資料です。
| 資料 | 確認内容 |
|---|---|
| プラットフォーム明細 | 売上、手数料、源泉徴収、入金日 |
| 通帳・決済口座 | 入金額と明細の一致 |
| 経費資料 | 通信費、機材、消耗品、外注費、交通費 |
| 契約・利用規約 | 収入の発生条件、手数料、支払タイミング |
| 作業記録 | 業務実態、使用時間、成果物 |
| 家事関連費の按分根拠 | 通信費、車両費、自宅費用などの事業使用部分 |
フリマアプリ、ネット通販、転売、ドロップシッピング、配達代行業、動画配信、アプリ作成・配信、有料メルマガ、アフィリエイト、民泊、カーシェアリング、自宅などの時間貸し。こうした収入は、原則として事業所得または雑所得として確定申告が必要になる点に注意が必要です。
出典:国税庁|こんな収入の申告漏れにご注意
4. 民泊・時間貸し・カーシェア
民泊やカーシェア、自宅や駐車スペースの時間貸しは、一見すると不動産所得のように見えることがあります。しかし、単なる不動産の貸付けなのか、利用者対応、安全管理、清掃、サービス提供を伴う役務提供なのかによって、所得区分は変わってきます。
個人が空き部屋などを有料で旅行者に宿泊させる民泊は、一般に利用者の安全管理、衛生管理、観光サービスの提供などを伴うため、単なる不動産賃貸とは異なり、その所得は不動産所得ではなく雑所得に該当するとされています。
出典:国税庁|No.1906 給与所得者がネットオークション等により副収入を得た場合
ただし、規模、運営体制、許認可、管理委託、継続性によっては、事業所得や不動産所得との境界を慎重に見極めるべき場合もあります。
5. 家賃収入・駐車場収入
給与所得者が自宅の一部や所有不動産を貸している場合、ご本人の感覚としては副業であっても、税務上は雑所得ではなく不動産所得を検討するのが基本です。
ただし、駐車場、トランクルーム、民泊、レンタルスペースのように、設備、管理、サービス提供が絡んでくると、不動産所得、事業所得、雑所得、そして消費税の区分が複雑になります。
「副業だから雑所得」とひとまとめにするのではなく、何を貸しているのか、誰に、どの契約で、どの程度の管理・サービスを提供しているのか。この点を一つずつ確認していきます。
6. 暗号資産・NFT・ポイント
暗号資産やNFT、ポイント、電子マネーに関する収入は、取引の記録が分散しやすく、取得価額や交換時点の把握が難しくなりがちです。
副業としての収入が少額であっても、次の資料は保存しておきたいところです。
| 資料 | 確認内容 |
|---|---|
| 取引履歴CSV | 取得、売却、交換、送金、手数料 |
| ウォレット情報 | 入出庫、移転、保有残高 |
| 日本円換算資料 | 取引時点のレート |
| プラットフォーム明細 | 報酬、手数料、源泉徴収の有無 |
| 必要経費資料 | ガス代、手数料、制作費等 |
| 取引目的 | 投資、制作販売、ゲーム内収益、報酬受取 |
取引履歴は、後から取得できなくなると、所得金額そのものを説明しづらくなります。税額の計算に入る以前の段階として、資料の保存をどう設計しておくかが重要になります。
必要経費にできるもの・できないもの
副業の必要経費は、「副業に関係ありそうだから」ではなく、「その収入を得るために直接必要か」「業務上必要な部分を区分できるか」という視点で判断します。
| 支出 | 経費判断のポイント |
|---|---|
| 通信費 | 業務利用割合を合理的に区分できるか |
| パソコン・スマホ | 取得価額、使用実態、減価償却、私用部分 |
| 書籍・教材 | 副業収入との関連性、業務目的 |
| 交通費 | 取引先訪問、取材、納品などとの対応 |
| 打合せ費 | 相手、目的、内容、金額の合理性 |
| サブスク費用 | 業務利用部分、私用部分の区分 |
| 自宅費用 | 面積、時間、使用実態による按分 |
| 車両費 | 走行距離、業務利用記録、私用部分 |
| 外注費 | 契約、請求書、成果物、支払実態 |
| 衣服・美容費 | 原則として家事費性が強く、業務専用性の説明が必要 |
個人の業務では、一つの支出が家事上と業務上の両方に関わる「家事関連費」となることがあります。この場合に必要経費とできるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる金額に限られます。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
副業で最も危ういのは、経費を多く入れること自体ではありません。根拠がないまま「だいたい半分」「仕事でも使ったから全額」と処理してしまうことです。税務署や金融機関に後から説明できるよう、使用実態と按分の基準を残しておく必要があります。
帳簿・資料保存は「事業所得にしたい人」だけの話ではない
副業が雑所得であっても、資料の保存は欠かせません。
令和4年分以後、業務に係る雑所得があり、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える方は、現金預金取引等関係書類を保存する必要があります。また、前々年分の収入金額が1,000万円を超える方が確定申告書を提出する場合には、総収入金額や必要経費の内容を記載した収支内訳書などの添付が求められます。
出典:国税庁|No.1500 雑所得
そもそも所得税は申告納税制度をとっており、1年間の所得金額を正しく計算するためには、収入金額や必要経費に関する日々の取引状況を帳簿に記帳し、取引に伴って作成・受領した書類を保存しておく必要があります。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度
さらに、電子メールで受け取った請求書、PDFの支払明細、クラウド上の取引データなどは、電子取引データとして保存すべき対象になることがあります。電子帳簿保存法は、帳簿の電子保存、書類の電子保存、スキャナ保存、電子取引の保存義務を区分しており、メールでの請求書データの授受など、紙を最初から使わない取引についてデータ保存を義務付ける制度です。
副業の資料保存は、次のように整理しておくと、後から申告しやすくなります。
| 種類 | 保存する資料 |
|---|---|
| 収入 | 支払通知書、売上明細、プラットフォームCSV、請求書控、支払調書 |
| 入金 | 通帳、ネット銀行明細、決済サービス明細 |
| 経費 | 領収書、請求書、カード明細、契約書、サブスク明細 |
| 業務実態 | 契約書、発注書、納品書、成果物、作業記録、メール |
| 家事按分 | 使用時間、面積、走行距離、通信利用状況 |
| 源泉税 | 支払調書、支払明細、源泉徴収額の記載資料 |
| 電子取引 | PDF、メール、クラウド明細、ダウンロードデータ |
| 消費税 | インボイス、登録番号、税率別金額、課税売上の集計 |
青色申告を検討すべき副業
副業が拡大し、事業所得として説明できる実態が整ってきた場合には、青色申告を検討する余地が出てきます。
青色申告ができるのは、不動産所得、事業所得、山林所得のある方です。雑所得は、青色申告の対象にはなりません。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度
青色申告では、一定の帳簿を備え、期限内に申告することで、青色申告特別控除などの特典を受けられる場合があります。最高55万円の青色申告特別控除を受けるには、正規の簿記の原則による記帳、貸借対照表・損益計算書の添付、期限内申告などが必要で、e-Taxまたは電子帳簿保存によって最高65万円となる場合もあります。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度
青色申告を検討したいのは、たとえば次のような場合です。
| 状況 | 検討すべき理由 |
|---|---|
| 副業収入が毎年継続している | 事業としての管理体制が必要 |
| 複数の取引先がある | 売掛金・請求管理が必要 |
| 経費が増えてきた | 証憑・按分・固定資産管理が必要 |
| 外注先や協力者がいる | 支払管理、源泉徴収、消費税の確認が必要 |
| 設備投資がある | 減価償却、消費税、償却資産の確認が必要 |
| 赤字が出る可能性がある | 所得区分と損益通算・繰越の判断が重要 |
| 将来独立や法人化を考えている | 単年申告ではなく継続管理が必要 |
ただし、青色申告のメリットだけに目を向けて、実態の伴わない副業を無理に事業所得へ寄せるのは危険です。申告上の有利・不利よりも先に、事業として説明できる資料と運営の実態があるかどうかを確認してください。
消費税・インボイスは、所得税の所得区分とは別に考える
副業収入が増えてくると、所得税だけでなく、消費税の確認も必要になってきます。
消費税の世界では、所得税でいう事業所得、雑所得、不動産所得といった区分が、そのまま当てはまるわけではありません。所得税の所得区分とは切り離して、「事業として」行われる課税取引かどうか、課税売上高がどれだけあるかを確認していきます。実際、消費税の納税義務の判定に所得税の所得区分は一切関係せず、雑所得や譲渡所得に見える取引であっても、事業として行われる限りは課税対象に組み込まれる点に注意が必要です。
消費税では、基準期間——個人事業者であれば原則としてその年の前々年——の課税売上高が1,000万円以下であれば、納税義務が免除されるのが原則です。ただし、インボイス登録を受けている場合など、免税とならないケースもあります。
出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除
インボイス制度のもとでは、適格請求書発行事業者の登録を受けた課税事業者は、基準期間の課税売上高にかかわらず、消費税の納税義務が免除されません。
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式
副業でインボイス登録を検討する際は、取引先からの要請だけでなく、次の点も確認してください。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 取引先 | 課税事業者との取引が中心か、消費者向けか |
| 売上規模 | 課税売上高、今後の見込み |
| 価格交渉 | 消費税相当額を価格に反映できるか |
| 事務負担 | 請求書、税率、帳簿、申告の管理 |
| 納税資金 | 消費税の納付資金を確保できるか |
| 所得税との関係 | 所得区分とは別に消費税の課税関係を整理できているか |
| 登録後の継続 | 一時的な登録で終わらせられない影響がないか |
副業が小規模な段階では、所得税の確定申告だけで手一杯になりがちです。しかし、継続的な外注収入や事業者向けの取引があるのなら、所得税、消費税、インボイスを一体で管理していく必要があります。
副業収入が扶養・配偶者控除に与える影響
副業収入は、ご本人の確定申告だけでなく、家族の扶養控除・配偶者控除などにも影響することがあります。
ここでも見るのは「収入」だけではありません。所得税上の扶養控除や配偶者控除では、合計所得金額を確認します。給与収入であれば給与所得控除後の所得が、事業・雑所得であれば収入から必要経費を差し引いた所得が、それぞれ関係してきます。
なお、令和7年度税制改正により、所得税の基礎控除や給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設などが行われました。これらの改正は原則として令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税に適用されます。扶養・配偶者控除の判定は、その年分ごとの最新制度で確認する必要があります。
出典:国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
また、税務上の扶養と、社会保険上の扶養、勤務先の家族手当の判定は、それぞれ基準が同じではありません。副業を始める配偶者やお子さんの収入については、所得税、住民税、社会保険、勤務先規程を分けて確認してください。
副業の申告要否を判断する実務フロー
副業収入がある場合は、次の順番で整理していきます。
1. 収入の種類を洗い出す
まず、1年間の副業に関する収入を、すべて洗い出します。
| 確認する収入 | 例 |
|---|---|
| 給与 | アルバイト、パート、非常勤勤務 |
| 業務委託報酬 | 原稿料、講演料、デザイン料、配達代行、コンサル |
| プラットフォーム収入 | 動画配信、アフィリエイト、販売サイト、スキルシェア |
| 売却収入 | フリマ、ネットオークション、転売 |
| 貸付収入 | 車両、スペース、機材、部屋 |
| 投資・資産収入 | 暗号資産、NFT、株式、投資信託 |
| 不動産収入 | 家賃、駐車場、レンタル収納 |
| 一時的収入 | 賞金、保険金、解約金など |
確定申告をするのであれば、原則としてすべての収入を申告する必要があります。
出典:国税庁|こんな収入の申告漏れにご注意
2. 所得区分を仮置きする
次に、給与所得、事業所得、雑所得、不動産所得、譲渡所得、一時所得などに仮分類します。
この段階では、見た目の名称ではなく、契約、働き方、役務提供、資産の利用、継続性といった実態を確認します。
3. 必要経費を集計する
業務に直接関係する支出を集計します。
このとき、プライベートと共用の支出については、合理的な基準で按分できるかを確認してください。按分の根拠がなければ、後から説明しにくい経費になってしまいます。
4. 所得金額を計算する
所得区分ごとに、所得金額を計算します。
| 区分 | 基本計算 |
|---|---|
| 給与所得 | 収入金額-給与所得控除 |
| 事業所得 | 総収入金額-必要経費 |
| 業務に係る雑所得 | 総収入金額-必要経費 |
| 不動産所得 | 不動産収入-必要経費 |
| 譲渡所得 | 譲渡収入-取得費-譲渡費用等 |
| 一時所得 | 総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額 |
5. 所得税の確定申告要否を確認する
年末調整済みの給与所得者であれば、20万円基準を確認します。ただし、還付申告をする場合や、複数給与、給与収入2,000万円超、源泉徴収されない給与、同族会社役員の特定収入などがある場合は、別途の確認が必要です。
出典:国税庁|No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
6. 住民税申告を確認する
所得税の確定申告をしない場合でも、住民税申告が必要かどうかを、お住まいの市区町村で確認します。副業所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要な場合であっても、住民税申告は必要となる自治体が多い点に注意してください。
出典:横浜市|市民税・県民税の申告について
7. 翌年以降の管理方法を決める
副業が継続するのであれば、翌年以降に向けて、次の管理を始めておきます。
| 管理項目 | 内容 |
|---|---|
| 口座 | 生活用口座と副業用口座を分ける |
| 請求 | 請求書、支払通知、入金消込を保存 |
| 経費 | 領収書・カード明細を月次で整理 |
| 帳簿 | 売上、経費、未収、支払を記録 |
| 電子保存 | PDF、メール、CSVを保存 |
| 税金 | 所得税、住民税、消費税の納税資金を確保 |
| 届出 | 青色申告、開業届、インボイス登録の必要性を検討 |
| 相談 | 所得区分や家事按分が曖昧な段階で確認 |
副業収入で専門家に相談すべきタイミング
次のいずれかに当てはまる場合は、早めに専門家へ相談する価値があります。
| 状況 | 相談すべき理由 |
|---|---|
| 副業所得が20万円を超えそう | 所得区分、経費、申告要否の整理が必要 |
| 還付申告をする予定がある | 20万円以下の副業所得も申告に含める必要がある |
| 収入が複数種類ある | 雑所得、事業所得、不動産所得、譲渡所得が混在しやすい |
| 赤字を給与と相殺したい | 所得区分を誤ると損益通算が否認される可能性 |
| 事業所得として申告したい | 継続性、事業性、帳簿、資料保存の確認が必要 |
| インボイス登録を求められた | 消費税の納税義務や事務負担が発生する可能性 |
| プラットフォーム収入がある | 明細、手数料、源泉徴収、CSV保存が必要 |
| 家事関連費を経費にしたい | 按分基準と使用実態の根拠が必要 |
| 家族の扶養に影響しそう | 所得税、住民税、社会保険、勤務先規程を分けて確認 |
| 将来独立を考えている | 青色申告、資金管理、消費税、法人化前の整理が必要 |
副業は、始めた年よりも、むしろ2年目、3年目に問題が表面化しやすいものです。初年度は少額であっても、収入が継続して増え、経費も増え、取引先からインボイスを求められ、住民税や国民健康保険料への影響が出てくる——こうした変化が、後から重なってくるためです。
単年の申告書を作成して終わりにするのではなく、翌年以降の管理まで見据えて整理しておくことが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
副業収入の税務判断は、「20万円を超えたかどうか」だけで終わるものではありません。
重要なのは、収入の性質、所得区分、必要経費、資料の保存、住民税、青色申告、消費税、インボイス、そして将来の独立・事業化までを、一つの流れとして整理していくことです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、個人の確定申告について、単なる申告書の作成にとどまらず、取引実態、契約、入出金、証憑、家計との線引き、翌年以降の税務リスクまで含めた判断支援を大切にしています。
副業収入について、次のようなご不安がある場合は、申告期限の直前ではなく、早い段階で整理しておくことをおすすめします。
| 不安 | 相談で整理できること |
|---|---|
| 申告が必要か分からない | 所得税・住民税の申告要否 |
| 事業所得か雑所得か分からない | 継続性、事業性、帳簿、資料保存の確認 |
| 経費にできる範囲が不安 | 必要経費、家事関連費、按分根拠 |
| 副業が赤字になった | 損益通算、雑所得損失、青色申告の可否 |
| インボイス登録を求められた | 消費税の納税義務、登録判断、価格設定 |
| 将来独立を考えている | 開業届、青色申告、帳簿設計、納税資金 |
ご相談は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより承っています。数字を都合よく整えるのではなく、税務署・金融機関・そして将来のご自身に対して説明できる副業管理を整えたい——そうお考えの方は、現在の収入資料、経費資料、通帳、契約書、プラットフォーム明細をご準備のうえ、ご相談ください。
振り返り|副業収入の所得区分と申告要否の重要ポイント
| 論点 | 押さえるべきポイント |
|---|---|
| 20万円基準 | すべての副業に共通する非課税枠ではなく、一定の給与所得者の所得税の確定申告不要制度 |
| 収入と所得 | 判断するのは原則として入金額ではなく、必要経費を差し引いた所得金額 |
| 還付申告 | 医療費控除などで確定申告する場合は、20万円以下の副業所得も含めて申告する |
| 住民税 | 所得税の確定申告が不要でも、住民税申告が必要になる場合がある |
| 給与所得 | アルバイト・パート・非常勤勤務など、雇用関係がある場合は給与所得を検討 |
| 事業所得 | 継続性、独立性、営利性、規模、帳簿、資料保存から事業として説明できるかを確認 |
| 雑所得 | 副業的・小規模・資料保存が弱い収入は業務に係る雑所得となることが多い |
| 300万円基準 | 300万円超なら自動的に事業所得という意味ではなく、帳簿書類と事業実態が重要 |
| 雑所得の赤字 | 雑所得の損失は原則として他の所得と損益通算できない |
| 必要経費 | 業務との直接関連性、金額の合理性、証憑、家事按分の根拠が必要 |
| 資料保存 | 副業が雑所得でも、収入・経費・通帳・契約・電子取引データの保存が重要 |
| 青色申告 | 事業所得、不動産所得、山林所得が対象であり、雑所得は対象外 |
| 消費税 | 所得税の所得区分とは別に、事業としての課税売上やインボイス登録を確認する |
| 将来影響 | 住民税、扶養、国保、納税資金、独立・法人化まで見据えて整理する |