空き家・実家・遊休不動産を活用する場合の所得税判断|貸す・売る・解体する前に整理すべき税務論点

親が住んでいた実家が空き家になった。相続した土地建物を、使い道が決まらないまま保有している。使っていない土地を、駐車場にするか、貸すか、売るか迷っている。固定資産税や草刈り、修繕費はかかっているのに、収入はまだない。将来売るかもしれないので、今のうちにリフォームして貸したほうがよいのか悩んでいる。——このような相談は、実務のなかで本当によく寄せられます。

空き家・実家・遊休不動産の税務判断は、「申告が必要かどうか」だけでは整理できません。まず確認しておきたいのは、その不動産を今後どのような状態に置くのか、という点です。

保有するだけなのか。賃貸に出すのか。駐車場、民泊、レンタルスペースなどに活用するのか。解体して更地にするのか。売却するのか。あるいは相続人の間で共有したままにするのか。

この方針によって、所得税の所得区分、必要経費、減価償却、損益通算、譲渡所得、空き家特例、固定資産税、消費税、そして資料保存の考え方まで、すべてが変わってきます。

空き家の活用では、売却、賃貸、リフォーム、駐車場、トランクルーム、民泊、固定資産税、譲渡所得といった複数の論点が同時に立ち上がります。実務の感覚としても、空き家は単なる「住んでいない家」ではありません。保有・活用・処分のどの選択を取るかによって、法務と税務が交差してくる不動産だと考えていただくのが実態に近いと思います。

この記事では、空き家・実家・遊休不動産について、保有、賃貸、売却、解体、活用というそれぞれの場面ごとに、所得税を中心とした判断軸を整理していきます。

目次

この記事で扱う範囲

ここでは、空き家、相続した実家、使っていない土地建物、遊休不動産を、個人が保有・賃貸・売却・解体・活用する場合の所得税判断を取り上げます。

主に整理する論点は、次のとおりです。

  • 空き家を保有しているだけの場合の所得税と固定資産税
  • 賃貸に出した場合の不動産所得
  • 賃貸開始前の修繕費、管理費、固定資産税の扱い
  • 自宅・実家を非業務用から賃貸用に転用した場合の減価償却
  • 空き家を売却した場合の譲渡所得
  • 相続した空き家を売却する場合の3,000万円特別控除
  • 解体費用の経費性・譲渡費用性
  • 駐車場、民泊、レンタルスペース等に活用する場合の注意点
  • 相続登記、固定資産税、管理不全空家など所得税以外の周辺論点
  • 相談前に整理すべき資料

一方で、居住用財産の譲渡特例、空き家特例の詳細要件、民泊・駐車場・トランクルームの所得区分、共有不動産の紛争、相続税評価、建築・不動産法務の細部については、必要な範囲に絞って触れるにとどめます。

空き家は「持っているだけ」でも判断が必要になる

空き家を持っているというだけで、直ちに所得税の申告が必要になるわけではありません。

所得税は、原則として所得が発生したときに問題になります。空き家を保有しているだけで、家賃収入や売却収入といったものがなければ、不動産所得も譲渡所得も生じません。

ただ、ここで誤解が生まれやすいのが、「費用がかかっているのだから、経費にできるのではないか」という発想です。

固定資産税、火災保険料、草刈り、清掃、換気、管理会社への見回り費用、庭木の剪定、軽微な修繕費。これらは実際に支出があったとしても、それだけで所得税の必要経費になるわけではありません。

必要経費として認められるためには、事業所得、不動産所得、雑所得などの所得を得るために直接必要な費用であることが求められます。家事上の費用は必要経費になりませんし、業務と家事の両方に関係する家事関連費についても、取引記録などに基づいて業務遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる部分に限られます。出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識

したがって、単に「将来貸すかもしれない」「いずれ売るかもしれない」というだけでは、保有中の支出を当然に必要経費にすることはできません。

もっとも、すでに賃貸募集を始めている、管理会社と賃貸管理契約を結んでいる、入居者募集に向けて客観的な準備を進めているなど、貸付業務の開始や継続が具体的に認められる場合には、空室期間中の管理費、固定資産税、広告費、修繕費などが不動産所得の必要経費として検討の対象になることがあります。

このあたりは、単なる保有費なのか、それとも賃貸事業・不動産貸付業務のための支出なのかを、資料できちんと説明できるように分けておく必要があります。

まず決めるべきは「保有・貸す・売る・解体する」の順番

空き家の税務判断で最初に整理すべきことは、税額計算ではありません。先に決めておきたいのは、その不動産をどうするかという方針そのものです。

1. 当面保有する

当面は家族で管理し、売却も賃貸もしないという選択です。

この場合、通常は不動産所得も譲渡所得も発生しません。その一方で、固定資産税、都市計画税、保険料、管理費、修繕費といった支出は続いていきます。所得税上の経費にはなりにくいにもかかわらず資金の流出は続きますので、納税資金や維持費を家計で負担できるかどうかを確認しておく必要があります。

不動産は「資産があるから安心」と見られがちですが、実際には固定資産税・都市計画税、維持管理費、空室、借入返済によって資金繰りに悩むケースが少なくありません。遊休地や先代名義のままの不動産が残り、活用や処分の選択に迷う——そうした状況も、実務ではよく目にします。

2. 賃貸に出す

住宅として貸す、店舗・事務所として貸す、定期借家契約で貸す、リフォームしてから貸す、管理会社に委託して貸す。いくつかのかたちが考えられます。

この場合、家賃収入は原則として不動産所得になります。不動産所得とは、土地や建物などの不動産の貸付け、不動産の上に存する権利の設定・貸付けなどから生じる所得のうち、事業所得または譲渡所得に該当するものを除いたものをいいます。出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

3. 売却する

土地建物を売却する場合は、原則として譲渡所得の問題になります。

土地や建物を売ったときの譲渡所得は、事業所得や給与所得などとは分離して計算します。売却金額から取得費と譲渡費用を差し引いて算出し、所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分されます。出典:国税庁|No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

4. 解体して更地にする

解体は、所得税だけで判断してはいけない選択です。

売却のために建物を取り壊す場合には、一定の解体費用が譲渡費用に該当することがあります。一方、単に危険防止や管理のために取り壊すのであれば、譲渡費用ではなく保有コストとして処理される場面もあります。

さらに、建物を取り壊すと、固定資産税の住宅用地特例に影響が及ぶことがあります。一般の住宅用地については、固定資産税の課税標準が小規模住宅用地で6分の1、一般住宅用地で3分の1に減額される制度がありますが、建物を取り壊して住宅用地でなくなる場合や、管理不全空家・特定空家として勧告を受ける場合には、この軽減措置に影響が出ます。出典:国土交通省|空き家対策 特設サイト

保有しているだけの空き家では、維持費を安易に経費にしない

空き家を保有していると、さまざまな費用が発生します。たとえば次のようなものです。

  • 固定資産税
  • 都市計画税
  • 火災保険料
  • 草刈り費用
  • 庭木の剪定費用
  • 害虫駆除費用
  • 屋根や外壁の応急修繕
  • 水道・電気の基本料金
  • 管理会社への巡回費用
  • 近隣対応費用

これらが所有者として必要な支出であることは、確かにそのとおりです。しかし、所得税の必要経費は「支出したから認められる」というものではありません。

不動産収入を得るために直接必要な費用であり、なおかつ家事上の経費と明確に区分できることが求められます。不動産所得の必要経費としては、貸付資産に係る固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などが挙げられています。出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

つまり、同じ固定資産税であっても、貸付用不動産に対応するものは必要経費になり得ますが、単なる自家保有の空き家に係るものは、通常は家計上の支出にとどまります。

「空き家だから経費」ではなく、「いつから貸付用不動産として業務に供したのか」「その支出は貸付収入を得るために直接必要だったのか」を確認していく——ここが判断の分かれ目になります。

賃貸に出した場合は、不動産所得として整理する

空き家や実家を賃貸に出すと、家賃収入は原則として不動産所得になります。

不動産所得の金額は、次の式で計算します。

総収入金額 - 必要経費 = 不動産所得の金額

総収入金額には、毎月の家賃だけでなく、更新料、名義書換料、承諾料、返還を要しない敷金・保証金、共益費名目で受け取る電気代・水道代・掃除代なども含まれます。出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

必要経費として検討されるものには、次のようなものがあります。

  • 固定資産税・都市計画税
  • 損害保険料
  • 管理委託料
  • 入居者募集の広告費
  • 修繕費
  • 減価償却費
  • 借入金利子
  • 賃貸借契約書の印紙代
  • 清掃費
  • 管理組合費
  • 賃貸に必要な設備交換費

ただし、支出したものをすべて一括で経費にできるわけではありません。

特に注意したいのが、空き家を貸す前に行うリフォーム、設備交換、耐震工事、内装工事です。これらは、修繕費なのか資本的支出なのかを判断する必要があります。貸付けや事業の用に供している建物等の、通常の維持管理や修理のための支出は修繕費になりますが、使用可能期間を延長させたり資産価値を高めたりする部分については、資本的支出として減価償却の対象になります。出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定

「古くなった実家を貸すために大規模リフォームした」という場合、それが通常の修繕なのか、用途変更や価値向上のための改装なのか、工事明細ごとに確認していくことになります。

実家を賃貸用に転用した場合は、減価償却の開始点に注意する

親が住んでいた家、自分が以前住んでいた家、別荘として使っていた家を賃貸に出す場合、その建物は「非業務用」から「業務用」へと転用されることになります。

このとき問題になるのが、賃貸開始時点で建物の減価償却をどう計算するか、という点です。

中古資産を非業務用から業務用に転用した場合には、業務の用に供する前の期間に係る減価の額を考慮したうえで、業務の用に供した日における未償却残高相当額を基礎として、その後の減価償却費を計算します。また、業務用期間の償却方法は、転用日ではなく資産の取得年月日によって異なります。出典:国税庁|No.2108 中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却

ここを誤ると、賃貸開始後の不動産所得だけでなく、将来売却したときの建物取得費にも影響が及びます。

空き家を貸す前には、少なくとも次の資料を確認しておきたいところです。

  • 購入時の売買契約書
  • 建築請負契約書
  • 増改築工事の契約書・請求書
  • 固定資産税課税明細書
  • 相続税申告書または財産評価資料
  • 登記事項証明書
  • 過去のリフォーム履歴
  • 賃貸開始日
  • 賃貸借契約書
  • リフォーム工事の明細

「親から相続した実家なので取得価額が分からない」という場合でも、すぐに概算で処理してしまうのではなく、まずは過去の資料を探すことが大切です。取得費資料があるかどうかは、賃貸中の減価償却だけでなく、将来の譲渡所得にも大きく響いてきます。

空き家を貸すと、将来の空き家特例が使えなくなることがある

相続した実家について、よくある判断ミスがあります。それは、売却する前に一度貸してしまうことです。

相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば、被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除、いわゆる「空き家3,000万円特別控除」を受けられる可能性があります。

この特例は、相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋またはその敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売り、一定の要件を満たす場合に、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できる制度です。ただし、令和6年1月1日以後の譲渡で、対象となる家屋・敷地等を取得した相続人の数が3人以上の場合は、控除額は2,000万円までとされています。出典:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

この特例では、相続時から譲渡時まで、対象となる家屋や敷地等が、事業の用、貸付けの用、居住の用に供されていないことが重要な要件になります。出典:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

つまり、相続後に一度でも貸付けに使ってしまうと、その後に売却しても、この空き家特例の対象外となる可能性があるのです。

これは実務上、非常に重要な点です。「売れるまでの間だけ貸しておこう」「数年間貸してから売却すればよい」「家賃収入を得ながら、あとで空き家特例を使えばよい」——こうした発想は、税務の観点からは慎重に検討する必要があります。

賃貸による数年分の手取り収入と、売却時に使える可能性のある譲渡所得の特別控除。この両者を比較しないまま貸してしまうと、結果的に不利になってしまうことがあります。

老人ホーム入所後の実家も、特例対象になる場合がある

親が亡くなる直前まで自宅に住んでいなかった場合でも、直ちに空き家特例が使えないとは限りません。

被相続人が老人ホーム等に入所していた場合であっても、要介護認定等、入所後の家屋の使用状況、被相続人以外の居住・貸付・事業使用の有無など、一定の要件を満たせば、その家屋が被相続人居住用家屋として特例の対象になる場合があります。出典:国税庁|No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋

この判断では、次のような資料が重要になります。

  • 老人ホーム等への入所時期
  • 要介護認定・要支援認定等の資料
  • 住民票の異動状況
  • 実家に保管されていた家財道具の状況
  • 入所後に他の人が住んでいないこと
  • 入所後に貸付け・事業使用をしていないこと
  • 相続開始日
  • 売却日
  • 市区町村の被相続人居住用家屋等確認書

「親は施設に入っていたから無理だろう」と早合点するのではなく、入所前後の生活実態と資料を丁寧に確認していくことが大切です。

売却する場合は、譲渡所得の資料整理が最重要になる

空き家や遊休不動産を売却する場合、譲渡所得は次の流れで計算します。

譲渡収入 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除 = 譲渡所得

このなかで、実務上もっとも問題になりやすいのが取得費です。

取得費には、購入代金、購入時の仲介手数料、取得時の登録免許税、不動産取得税、設備費、改良費などが含まれます。建物については、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。また、取得費が分からない場合や、実際の取得費が譲渡価額の5%より少ない場合には、譲渡価額の5%を概算取得費とすることができます。出典:国税庁|No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

譲渡費用には、土地建物を売るために直接かかった仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、借家人への立退料、建物を取り壊して土地を売る場合の取壊し費用などが含まれます。出典:国税庁|No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

そのため、売却の際には、次のような資料を探しておく必要があります。

  • 購入時の売買契約書
  • 建築請負契約書
  • 過去の登記費用資料
  • 不動産取得税の納付資料
  • 仲介手数料の領収書
  • 増改築・リフォームの請求書
  • 相続税申告書
  • 固定資産税評価証明書
  • 譲渡時の売買契約書
  • 譲渡時の仲介手数料
  • 測量費、解体費、立退料、印紙代
  • 耐震工事や解体工事の契約書・完了資料

空き家は古い物件であることが多く、取得時の資料が散逸しがちです。申告期限の直前になって探し始めても、間に合わないことがあります。売却を考え始めた段階で、取得費資料の有無を確認しておくことをおすすめします。

自分が住んでいた家を売る場合と、相続した実家を売る場合は特例が異なる

空き家の売却では、「3,000万円控除」という言葉だけが独り歩きしがちです。

しかし、同じ3,000万円控除でも、自分が住んでいたマイホームの特例と、相続した空き家の特例とは、まったく別の制度です。

自分が住んでいたマイホームを売った場合には、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります。以前住んでいた家屋については、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合など、一定の要件が定められています。出典:国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例

一方、相続した実家については、被相続人の居住用財産に係る空き家特例の要件を検討することになります。建築時期、区分所有でないこと、相続開始直前の居住状況、貸付・事業・居住使用の有無、売却期限、売却代金1億円以下、耐震または取壊しなど、確認すべき事項が異なってきます。

「空き家だから3,000万円控除が使える」と考えるのではなく、いま検討しているのはどちらの特例なのかを、最初に切り分けておくことが肝心です。

解体費用は、目的によって扱いが変わる

空き家を解体した場合、その解体費用が所得税上どう扱われるかは、解体の目的によって変わってきます。

売却のために解体した場合

土地を売るために建物を取り壊した場合、その取壊し費用は譲渡費用として検討の対象になります。国税庁も、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用を、譲渡費用の例として挙げています。出典:国税庁|No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

ただし、解体した後に長期間売却せず保有し続けている場合や、売却との直接の関係を説明しにくい場合には、譲渡費用に該当するかどうか、慎重な判断が必要になります。

賃貸のために改修・解体した場合

賃貸用に改修するため、一部の解体や設備撤去を行う場合には、修繕費、資本的支出、除却損、取得価額への算入といった論点を検討します。建物全体の価値を高める改装であれば、単年の修繕費ではなく、減価償却の対象になることがあります。

危険防止・管理目的で解体した場合

老朽化して危険なため、売却予定も賃貸予定もなく解体した場合には、原則として、所得税の必要経費や譲渡費用として処理できるとは限りません。

この場合でも、固定資産税、土地利用、近隣リスク、安全管理、将来の売却のしやすさなどを含めて判断する必要があります。所有者としては老朽建物の管理責任が問われることもありますし、登記名義が残ったままの不動産では、責任関係がさらに複雑になりがちです。

固定資産税・管理不全空家の影響を軽視しない

空き家を放置していると、所得税以外の負担が重くなってくることがあります。なかでも重要なのが固定資産税です。

住宅用地には固定資産税の住宅用地特例がありますが、適切に管理されていない空き家については、令和5年の空家法改正により、特定空家になる前の段階である「管理不全空家」に対する措置が新設されました。指導しても改善されず勧告を受けた管理不全空家は、特定空家と同様に、敷地に係る固定資産税などの軽減措置を受けられなくなります。出典:政府広報オンライン|空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化

これは、所得税の申告書だけを見ていると、見落としやすい論点です。

「収入がないのだから申告は関係ない」と考えて放置していると、固定資産税の負担増、近隣トラブル、修繕費の増加、売却価値の低下、解体費用の増加につながっていくことがあります。

空き家の判断は、所得税だけでなく、固定資産税、都市計画税、相続登記、建物管理、安全管理までを視野に入れて見ていく必要があります。

相続した不動産は、相続登記の義務化にも注意する

相続した実家や土地を活用・売却しようとする場合、登記名義が亡くなった親や祖父母のままになっていることがあります。

この状態のままでは、売却、賃貸、担保設定、共有解消、解体後の土地活用がスムーズに進まないことがあります。

相続登記については、令和6年4月1日から義務化されています。相続人は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があり、正当な理由なく相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。令和6年4月1日より前に相続した不動産で未登記のものも義務化の対象であり、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。出典:法務省|相続登記の申請義務化に関するQ&A

税務申告と登記は別の手続ですが、実務上は強く結びついています。

売却時の譲渡所得、賃貸時の所得帰属、共有者間の家賃分配、相続税申告、空き家特例の確認書、取得費の資料整理、売却契約。これらの前提として、誰が所有者で、誰が相続人で、誰が売主になれるのかを整理しておく必要があります。

活用方法によって、所得区分と消費税も変わる

空き家や遊休不動産の活用方法は、住宅賃貸だけではありません。次のように、さまざまな選択肢があります。

  • 駐車場にする
  • 月極駐車場として貸す
  • コインパーキング業者に一括で貸す
  • 民泊に使う
  • レンタルスペースにする
  • トランクルームにする
  • 事務所・店舗として貸す
  • 倉庫として貸す
  • 太陽光発電設備を設置する
  • 定期借地で貸す

こうした活用にあたっては、所得区分が不動産所得でよいのか、それとも事業所得や雑所得に近い実態があるのか、さらに消費税の課税売上になるのか、といった点を確認していく必要があります。

たとえば、住宅の貸付けは消費税の非課税取引とされる一方で、事務所、店舗、駐車場、設備利用、サービス提供を伴う取引では、消費税の課税関係が問題になります。消費税では、所得税の事業所得・不動産所得の区分とは別に、対価を得て行われる資産の貸付けや役務提供が、反復・継続・独立して行われているかどうかを見ていきます。

特に、住宅賃貸から事務所賃貸に切り替えた場合、空き家を民泊にした場合、駐車場やトランクルームにした場合には、所得税と消費税を分けて確認する必要があります。

青色申告を使うなら、開始時期と届出を確認する

空き家を貸し始める場合には、不動産所得について青色申告を選択するかどうかも、検討の対象になります。

青色申告をするためには、原則として、青色申告をしようとする年の3月15日までに、青色申告承認申請書を提出する必要があります。年の途中で新たに業務を開始した場合は、業務開始日から2か月以内の提出が必要です。相続によって業務を承継した場合には、被相続人が青色申告者だったかどうか、死亡日がいつかによって、提出期限が変わってきます。出典:国税庁|No.2070 青色申告制度

また、不動産貸付けが事業的規模かどうかによって、青色申告特別控除、専従者給与、資産損失などの取扱いに差が出る場合があります。不動産貸付けが事業として行われているかどうかは、社会通念上、事業と称するに至る程度の規模かどうかで実質的に判断され、建物貸付けについては、おおむね10室以上、または独立家屋おおむね5棟以上といった形式基準も示されています。出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分

空き家を1軒だけ貸す場合、多くは事業的規模に満たない不動産所得として整理されますが、他の賃貸物件と合わせて規模判定が必要になることもあります。

赤字が出ても、常に給与所得と相殺できるわけではない

空き家を賃貸に出すと、初年度はリフォーム費用や減価償却費が大きくなり、不動産所得が赤字になることがあります。

不動産所得の赤字は、原則として損益通算の対象になり得ます。ただし、すべての赤字を給与所得などと相殺できるわけではありません。

不動産所得の損失のうち、別荘等のように主として趣味・娯楽・保養・鑑賞を目的として所有する不動産の貸付けに係るものや、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分などは、損益通算の対象外とされています。出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

したがって、「空き家を貸して赤字にすれば給与と相殺できる」という安易な判断は危険です。

そもそも、実態として賃貸業務があるのか。支出は修繕費なのか資本的支出なのか。土地の借入金利子が含まれていないか。別荘的・保養目的の貸付けではないか。家族利用と混在していないか。資料保存は整っているか。こうした点を確認したうえで、損益通算の可否を判断する必要があります。

使い道がない土地は、国庫帰属制度も選択肢になるが税務だけで判断しない

相続した土地のなかには、売却も賃貸も難しく、管理費や固定資産税だけがかかり続けるものがあります。

このような土地については、相続土地国庫帰属制度も選択肢のひとつになり得ます。

相続等により土地の所有権または共有持分を取得した人は、一定の要件のもとで、法務大臣に対し、土地の所有権を国庫に帰属させる承認申請をすることができます。共有地については、共有者全員が共同して申請する必要があります。また、制度開始前に相続等で取得した土地も対象になります。出典:法務省|相続土地国庫帰属制度の概要

ただし、建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、境界が明らかでない土地などは、申請できないケースがあります。出典:法務省|相続土地国庫帰属制度の概要

この制度は、所得税の節税制度ではありません。固定資産税や管理負担から将来解放される可能性はありますが、申請手数料、負担金、境界確認、建物解体、相続人・共有者間の合意など、別のコストや手続が発生します。税務だけでなく、法務・不動産・家族関係まで含めて判断する必要があります。

よくある誤り

空き家の固定資産税をすべて経費にしている

賃貸に出していない空き家の固定資産税は、通常、不動産所得の必要経費にはなりません。賃貸募集の開始、賃貸契約、貸付業務の実態があるかどうかを確認します。

リフォーム費用をすべて修繕費にしている

空き家を貸すためのリフォームは、修繕費と資本的支出の区分が必要です。用途変更、価値向上、耐用年数の延長に該当する部分は、減価償却の対象になる可能性があります。

売却前に貸してしまい、空き家特例を失う

相続した空き家について、相続後に貸付けに使うと、空き家3,000万円特別控除の要件を満たさなくなる可能性があります。貸す前に、売却時の特例適用の可能性を検討すべきです。

取得費資料を探さずに概算取得費で申告している

取得費が不明な場合、概算取得費を使えることはありますが、実際の取得費を示す資料が残っていれば、税額が大きく変わることがあります。古い契約書、建築請負契約書、相続税申告書、登記資料を確認します。

解体すれば必ず有利になると思っている

解体費用が譲渡費用になるかどうかは、売却との直接の関係が必要です。また、解体によって固定資産税の住宅用地特例に影響が出ることがあります。

相続登記を後回しにしている

登記名義が先代のままだと、売却、賃貸、共有解消、担保設定が難しくなります。令和6年4月1日から、相続登記は義務化されています。

消費税を見落としている

住宅賃貸は非課税でも、事務所、店舗、駐車場、民泊、レンタルスペース、トランクルームなどは、消費税の課税関係を確認する必要があります。

相談前に整理しておきたい資料

空き家・実家・遊休不動産の相談では、次の資料を整理しておくと、判断がより正確になります。

物件の権利関係に関する資料

  • 登記事項証明書
  • 固定資産税課税明細書
  • 公図、地積測量図、建物図面
  • 共有者一覧
  • 相続人関係図
  • 遺産分割協議書
  • 遺言書
  • 相続税申告書
  • 相続登記の状況

取得費に関する資料

  • 購入時の売買契約書
  • 建築請負契約書
  • 購入時の仲介手数料領収書
  • 登録免許税、不動産取得税の資料
  • 増改築・リフォームの請求書
  • 住宅ローン資料
  • 相続時の評価資料

賃貸に関する資料

  • 賃貸借契約書
  • 管理委託契約書
  • 家賃入金明細
  • 敷金・保証金の契約内容
  • 修繕費、管理費、広告費の請求書
  • 賃貸募集開始日が分かる資料
  • 入居者募集広告
  • 管理会社とのやり取り

売却に関する資料

  • 売買契約書
  • 譲渡代金の入金資料
  • 仲介手数料
  • 測量費
  • 解体費
  • 立退料
  • 印紙代
  • 耐震証明書
  • 被相続人居住用家屋等確認書
  • 住民票、戸籍の附票
  • 老人ホーム入所関係資料

管理・保有に関する資料

  • 固定資産税納税通知書
  • 火災保険証券
  • 草刈り、清掃、修繕の請求書
  • 管理会社の巡回報告書
  • 近隣対応記録
  • 市区町村からの通知
  • 空家法に関する指導・勧告の有無

専門家に相談した方がよい場面

次のような場合は、自己判断で進める前に、専門家へ相談されることをおすすめします。

  • 相続した実家を売るか貸すか迷っている
  • 空き家特例を使えるかどうか分からない
  • 売却前に一時的に貸してよいか判断できない
  • 取得費資料が見つからない
  • 大規模リフォームを予定している
  • 解体してから売る予定がある
  • 固定資産税の負担が大きく、活用を検討している
  • 共有者や相続人が複数いる
  • 登記名義が先代・先々代のままになっている
  • 駐車場、民泊、レンタルスペース等に活用したい
  • 消費税やインボイスの影響が分からない
  • 将来の売却、相続、承継まで見据えたい

空き家の判断は、単年度の確定申告だけで完結するものではありません。

保有中の固定資産税、賃貸中の不動産所得、売却時の譲渡所得、相続時の資産承継、登記や共有関係、家族間の合意、そして将来の資金繰り。これらを同時に見ながら、どの時点でどの選択をするかを整理していく必要があります。

空き家・実家・遊休不動産の活用でお悩みの方へ

空き家や実家は、感情的にも、税務的にも、判断を先送りしやすい資産です。

しかし、何もしないまま時間が経つと、固定資産税や管理費がかかり続けるだけでなく、建物の劣化、資料の散逸、相続人の増加、登記未了、特例期限の経過、売却価値の低下といった問題が重なっていきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、空き家・実家・遊休不動産について、保有、賃貸、売却、解体、相続、資料整理、所得税申告までを一体で整理する支援を行っています。

「貸すべきか、売るべきか」「空き家特例を使えるか」「賃貸開始前の費用をどう扱うか」「固定資産税や将来の相続まで含めて判断したい」といった方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

出典・参考情報

重要ポイントの振り返り

論点基本判断確認すべき資料注意点
空き家の保有収入がなければ通常は所得税申告の対象にならない固定資産税課税明細書、管理費資料維持費を安易に必要経費にしない
固定資産税貸付用なら不動産所得の必要経費になり得る納税通知書、賃貸開始資料単なる自家保有の空き家分は通常経費にならない
賃貸開始家賃収入は原則として不動産所得賃貸借契約書、家賃明細、管理契約貸付開始日を明確にする
賃貸開始前費用業務開始準備か単なる保有費かを判断募集広告、管理会社契約、工事資料「将来貸す予定」だけでは根拠が弱い
リフォーム修繕費か資本的支出かを判断見積書、請求書、工事明細大規模改装は減価償却対象になりやすい
減価償却非業務用から業務用へ転用した場合は未償却残高を整理取得資料、相続資料、賃貸開始日転用日ではなく取得年月日も重要
売却土地建物の譲渡所得として分離課税売買契約書、取得費、譲渡費用取得費資料の有無で税額が変わる
空き家特例相続した一定の空き家は最高3,000万円控除の可能性登記、住民票、確認書、耐震・解体資料令和6年以後、相続人数3人以上は2,000万円上限
売却前の賃貸貸付けに使うと空き家特例に影響賃貸契約、募集履歴、使用状況売るか貸すかを先に比較する
老人ホーム入所一定要件で被相続人居住用家屋に該当する可能性要介護認定、入所資料、家財状況入所後に貸付・居住・事業使用していないか確認
解体費用売却目的なら譲渡費用になる場合がある解体契約書、売却契約書、時系列管理目的の解体は譲渡費用とは限らない
管理不全空家勧告により住宅用地特例に影響市区町村通知、管理記録所得税以外に固定資産税負担が増えることがある
相続登記令和6年4月1日から義務化戸籍、遺産分割協議書、登記資料未登記だと売却・賃貸・共有解消に支障
遊休地活用活用方法により所得区分・消費税が変わる契約書、入金資料、利用形態駐車場・民泊・倉庫等は消費税も確認
青色申告不動産所得で青色申告を選択できる場合がある青色申告承認申請書、帳簿提出期限と事業的規模を確認
赤字・損益通算不動産所得の赤字は通算対象になり得るが制限あり借入資料、経費明細土地借入金利子や別荘的貸付に注意
相談前整理物件別・期間別・目的別に資料を分ける契約書、通帳、固定資産税、相続資料申告期限直前では資料不足になりやすい
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