個人事業税の対象と所得税申告との関係|個人事業主・副業・不動産収入で見落としやすい地方税の判断軸

個人事業主やフリーランスの方が確定申告に臨むとき、まず頭に浮かぶのは所得税ではないでしょうか。

「売上から経費を引いて、所得税はいくらになるのか」
「青色申告特別控除は使えるのか」
「還付になるのか、それとも納付か」

このあたりは、比較的意識しやすい論点だと思います。

ところが、所得税の確定申告を終えた後にも、住民税、国民健康保険料、消費税、そして個人事業税といった負担が控えていることがあります。

なかでも個人事業税は、申告書を提出したあとに都道府県から納税通知書が届いて、はじめて存在に気づく方が少なくありません。所得税の納税資金は用意していたのに、あとから個人事業税の納期を迎えて資金繰りに困る、というご相談も実際に耳にします。

個人事業税は、所得税とは別の税金です。とはいえ、所得税の確定申告と無関係というわけではありません。

所得税の申告で整理した事業所得、不動産所得、必要経費、専従者給与、青色申告特別控除、損失、非課税所得といった情報は、そのまま個人事業税の課税判断にもつながっていきます。

この記事では、税率や計算式そのものだけでなく、所得税申告との関係、対象になる方・ならない方、申告書で気をつけたい点、そして翌年以降の納税資金まで含めて、個人事業税を整理してみたいと思います。

目次

個人事業税とは何か

個人事業税は、個人が営む事業のうち、地方税法等で定められた事業、いわゆる「法定業種」に対して課される都道府県税です。現在は70の法定業種が定められており、ほとんどの事業がいずれかに該当します。出典:東京都主税局|個人事業税

ここで押さえておきたいのは、個人事業税は「個人事業主という肩書き」に対して自動的にかかる税金ではない、という点です。

確認すべきなのは、主に次のような点になります。

  • 個人として事業を営んでいるか
  • 都道府県内に事務所や事業所を設けているか
  • その事業が法定業種に該当するか
  • 前年の事業所得または不動産所得等が課税対象になる水準か
  • 所得税申告上の所得金額と、個人事業税上の課税所得に差異がないか
  • 非課税所得や控除、青色申告特別控除の取扱いを正しく整理できているか

所得税の世界では、「事業所得か、雑所得か」「不動産所得か」「給与所得か」といった所得区分が大きな意味を持ちます。

個人事業税でも、所得税申告上の事業所得や不動産所得の情報が出発点になります。ただし、両者は同じ税目ではありません。所得税では認められる控除が個人事業税では認められないこともありますし、所得税の申告書に記載された所得金額をそのまま眺めれば個人事業税が正確にわかる、というわけでもないのです。

個人事業税は「所得税の追加税」ではない

個人事業税を理解するうえで、まず切り分けておきたいのは、所得税との位置づけです。

所得税は国税です。個人の1年間の所得をもとに、所得控除を差し引き、税率を適用して計算します。

これに対して、個人事業税は地方税です。都道府県が、法定業種に該当する事業を営む個人に対して課税します。

ですから、所得税が発生したからといって、必ず個人事業税も発生するわけではありません。逆に、所得税の申告書を提出しているからといって、個人事業税の論点がなくなるわけでもないのです。

実務では、所得税申告をベースに個人事業税が計算されます。そのため、所得税申告の整理が甘いと、個人事業税の側にも影響が及びます。

とりわけ気をつけたいのは、次のような場面です。

  • 副業収入を雑所得として申告しているが、実態は継続的・独立的な事業に近い
  • 業務委託収入を事業所得として申告しているが、法定業種に該当するか確認していない
  • 不動産所得を申告しているが、不動産貸付業の認定基準を確認していない
  • 青色申告特別控除後の所得が低いから、個人事業税はかからないと思い込んでいる
  • 社会保険診療報酬など、個人事業税で非課税となる所得の記載をしていない
  • 所得税の確定申告後に届く個人事業税の納税通知を、資金繰りに織り込んでいない

個人事業税は、所得税の申告が終わってから「後で出てくる税金」として扱うものではありません。むしろ、所得税申告の段階であらかじめ見込んでおくべき税金だと考えています。

個人事業税の対象になる人

個人事業税を納めるのは、都内であれば、事務所や事業所を設けて法定業種の事業を行っている個人ということになります。出典:東京都主税局|個人事業税

ここで確認しておきたいのは、「個人事業税の対象になるかどうか」は、開業届を出したかどうかだけで決まるものではない、という点です。

開業届を提出しているかどうかは、所得税の手続や事業実態を考えるうえで確かに重要です。しかし個人事業税の課税判断では、実際にどのような事業を営んでいるか、法定業種に該当するか、所得金額がどう計算されるか、といった点が問われます。

たとえば、次のような方は、個人事業税の確認が必要になりやすい層です。

  • 個人事業主として継続的に事業を営んでいる方
  • フリーランスとして業務委託収入がある方
  • 副業収入が一定規模になっている方
  • 店舗、事務所、スタジオ、作業場などを構えて事業をしている方
  • コンサルタント業、請負業、デザイン業、広告業、物品販売業などを営んでいる方
  • 士業、医業、歯科医業、薬剤師業、美容業、理容業などの法定業種に該当する方
  • 不動産貸付業や駐車場業に該当する規模で不動産収入を得ている方

反対に、所得税上の所得があるからといって、必ず個人事業税がかかるわけでもありません。

たとえば、給与所得、退職所得、譲渡所得、一時所得、一定の雑所得などは、通常の個人事業税の課税対象とは別に整理します。

ただし、「雑所得だから絶対に個人事業税は関係ない」と機械的に判断してしまうのも危険です。税額の算出は事業所得または不動産所得を前提としますが、雑所得が課税の対象となる場合もあるためです。出典:東京都主税局|個人事業税

所得税申告上の区分名だけを頼りにするのではなく、実際の取引内容、継続性、独立性、顧客との契約関係、資料の保存状況、そして事業としての実態まで確認する必要があります。

法定業種に該当するかが重要になる

個人事業税は、すべての所得に対して課される税金ではありません。法定業種に該当する事業を営んでいるかどうかが、判断の軸になります。

法定業種と税率は、第1種事業、第2種事業、第3種事業に区分されています。第1種事業は原則5%、第2種事業は4%、第3種事業は多くが5%で、あん摩・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業など一部は3%とされています。出典:東京都主税局|個人事業税

第1種事業には、物品販売業、飲食店業、不動産売買業、不動産貸付業、駐車場業、請負業、広告業、製造業、出版業、運送業、旅館業などが含まれます。

第3種事業には、医業、歯科医業、薬剤師業、弁護士業、司法書士業、行政書士業、税理士業、公認会計士業、コンサルタント業、デザイン業、理容業、美容業、クリーニング業などが含まれます。

ここで注意していただきたいのが、業種名の付け方です。

ご本人が「コンサル」「制作」「サポート」「アドバイザー」「クリエイター」「講師」などと呼んでいたとしても、個人事業税上の法定業種に当たるかどうかは、肩書きだけで決まるものではありません。実際の業務内容まで確認する必要があります。

たとえば、同じ「制作」でも、請負業、デザイン業、広告業、出版業、あるいはその他の業種に近い場合があります。同じ「不動産関係」であっても、不動産貸付業、不動産売買業、駐車場業、管理受託、仲介、コンサルティングなど、内容次第で整理は変わってきます。

確定申告書の職業欄や屋号だけでは、判断材料として十分とはいえません。契約書、請求書、入金内容、成果物、提供している役務、そして事業の実態を見て判断する必要があります。

個人事業税の計算は、所得税の所得金額をそのまま使うわけではない

個人事業税の計算では、所得税の確定申告書、青色申告決算書、収支内訳書の所得金額が出発点になります。ただし、所得税とまったく同じ計算というわけではありません。

税額は、事業所得または不動産所得に対して、所得税の事業専従者給与・控除額と個人事業税上の事業専従者給与・控除額との差、青色申告特別控除額、各種控除額などを調整したうえで、税率を乗じて求めます。このうち青色申告特別控除額については、個人事業税には適用がないため、所得金額に加算することになります。出典:東京都主税局|個人事業税

つまり、所得税で青色申告特別控除を受けている場合に、その控除後の所得だけを見て「個人事業税はかからない」と判断するのは危険だ、ということです。個人事業税では、青色申告特別控除は適用されません。

たとえば、所得税申告上の事業所得が青色申告特別控除後の金額として表示されているなら、個人事業税の計算では、その控除額を足し戻すことになります。

この点は、実務上かなり重要です。

所得税の申告書では、青色申告特別控除によって所得税・住民税が軽減されます。しかし、個人事業税の課税所得を考えるときには、青色申告特別控除の効果を同じようには見込めません。

「青色申告だから個人事業税も軽くなる」と単純に考えるのではなく、所得税・住民税・個人事業税のそれぞれで何が控除されるのかを、分けて見ておく必要があります。

事業主控除は年290万円だが、所得税の基礎控除とは別物

個人事業税には、事業主控除があります。控除額は年間290万円で、営業期間が1年に満たない場合は月割額となります。出典:東京都主税局|個人事業税

この事業主控除は、所得税の基礎控除とは別物です。

所得税には、基礎控除、青色申告特別控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除など、さまざまな所得控除や特別控除があります。

一方、個人事業税では、所得税の所得控除がそのまま差し引かれるわけではありません。

個人事業税の計算で重要なのは、所得税の最終的な課税所得ではなく、事業から生じた所得を個人事業税のルールで調整した金額です。

したがって、所得税の課税所得が低い、あるいは所得税の納付額が少ないからといって、個人事業税も必ず少ないとは限りません。

とくに次のような場合は注意が必要です。

  • 青色申告特別控除後の所得だけを見ている
  • 小規模企業共済等掛金控除や社会保険料控除後の課税所得だけを見ている
  • 所得税の還付があるため、事業全体の税負担も軽いと考えている
  • 事業税の納税通知が届く時期を資金繰りに入れていない
  • 開業・廃業の年に、事業主控除が月割になることを確認していない

事業主控除は大きな控除ですが、所得税の各種控除と混同しないことが大切です。

所得税の確定申告をしていれば、個人事業税の申告は不要なのか

個人で事業を営む方は、原則として、毎年3月15日までに前年中の事業所得などを都道府県に申告することになっています。

ただし、所得税の確定申告や住民税の申告をした方は、個人事業税の申告を別途行う必要はありません。この場合には、それぞれの申告書の「事業税に関する事項」欄に、必要事項を記入することになります。出典:東京都主税局|個人事業税

ここで誤解しやすいのは、「所得税の確定申告をしていれば何も書かなくてよい」という意味ではない、という点です。

所得税の確定申告書には、住民税・事業税に関する事項を記載する欄があります。個人事業税に関係する非課税所得、事業用資産の譲渡損失、専従者給与、事業の開始・廃止、事業所の所在地など、該当する事項があれば、そこを正しく記載しなければなりません。

記載が不十分だと、都道府県側で正しい課税判断ができなかったり、後日あらためて確認が必要になったりします。

とくに、医業等の社会保険診療報酬に係る非課税所得、不動産貸付業の認定、事業税上の損失控除、事業用資産の譲渡損失などがある場合には、所得税申告書を作成する段階で個人事業税欄まで確認しておくことが重要です。

年の途中で廃業した場合は別途申告が必要になる

所得税の確定申告や住民税申告をしている場合、通常は個人事業税の申告書を別途提出する必要はありません。

しかし、年の途中で事業を廃止した場合は注意が必要です。

年の中途で事業を廃止したときは、所得税の確定申告や住民税の申告とは別に、廃止の日から1か月以内、死亡による廃止の場合は4か月以内に、個人事業税の申告が必要になります。この場合、廃止日までの期間の所得に基づいて課税され、個人事業者が死亡したときの納税義務は相続人に承継されます。出典:東京都主税局|個人事業税

ここは、通常の確定申告の感覚だけで処理してしまうと見落としやすい点です。

事業をやめた年には、所得税の確定申告だけでなく、都道府県税事務所への廃止手続や、個人事業税申告の要否も確認しておく必要があります。

また、廃業時には、次のような論点も一緒に出てきます。

  • 未収入金、売掛金、前受金の整理
  • 在庫、固定資産、事業用資産の売却・廃棄
  • 消費税の事業廃止届出や課税事業者関係の確認
  • 青色申告の取りやめ
  • 事業用口座、事業用借入金、家事関連費の整理
  • 個人事業税、住民税、国民健康保険料の翌年度負担

廃業は「売上がなくなったら終わり」ではありません。税務上は、最後の所得計算と周辺税目の整理まで含めて、はじめて完結します。

個人事業税の納付時期は所得税とずれる

個人事業税は、所得税の確定申告期限と同じタイミングで納める税金ではありません。

納付は、原則として8月と11月の年2回です。8月に都税事務所・支庁から送付される納税通知書によって納めます。ただし、所得税の修正申告、更正・決定、事業廃止などがある場合には、別途、納税通知書に記載された納期限までに納めることになります。出典:東京都主税局|個人事業税

この「時期のずれ」は、資金繰りのうえでとても重要です。

所得税の納税時期を越えると、いったん税金の支払いが終わったように感じるかもしれません。しかし、その後に住民税、国民健康保険料、個人事業税、場合によっては消費税が続いていきます。

とくに個人事業税は、前年の所得に基づいて後から通知されるため、前年が好調で当年の資金繰りが悪化しているようなときには、負担がずしりと重く感じられます。

ここで大切なのは、前年の確定申告を作成する段階で、翌年の個人事業税を概算で見込んでおくことです。

「所得税が払えるか」だけでなく、

「住民税はいつ来るのか」
「国民健康保険料はどう変わるのか」
「個人事業税はいくらくらいになりそうか」
「消費税の納税義務はあるのか」

ここまで含めて資金繰りを見ておく必要があります。

個人事業税は所得税の必要経費になる

個人事業税は、支払った後の所得税計算にも影響します。

事業所得、不動産所得、雑所得の必要経費には、総収入金額を得るために直接要した費用や、その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用を算入できます。そして、事業税は全額が必要経費になる一方で、所得税や住民税は必要経費になりません。出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識

この点は、個人事業税の特徴といえます。

所得税や住民税は、個人の所得に対して課される税金であり、事業所得の必要経費にはなりません。

一方、個人事業税は、事業に対して課される税金であるため、事業所得や不動産所得の計算上、必要経費になります。

ただし、注意点があります。

前年の所得に対する個人事業税が翌年に通知・納付される場合、その前年の所得税計算にさかのぼって控除するわけではありません。原則として、納税通知等により債務が確定した年、または実際に支払った年の必要経費として処理します。

そのため、個人事業税は「前年の利益に対して後から発生し、翌年の必要経費になる税金」として、資金繰りと会計処理の両面から見ておく必要があります。

不動産貸付業・駐車場業は所得税の不動産所得だけで判断しない

不動産収入がある場合、所得税では不動産所得として申告します。

しかし、個人事業税の不動産貸付業・駐車場業に該当するかどうかは、所得税の不動産所得に当たるかどうかだけでは決まりません。

不動産貸付業・駐車場業の認定は、貸付不動産の規模、賃貸料収入、管理等の状況などを総合的に勘案して行われます。共有物件については、持分にかかわらず共有物件全体の貸付状況によって認定し、税額は持分に応じて計算することになります。出典:東京都主税局|個人事業税

認定基準としては、たとえば住宅の一戸建ては棟数10以上、一戸建て以外は室数10以上、住宅以外の独立家屋は棟数5以上、駐車場は一定の場合を除き駐車可能台数10台以上などが示されています。ただし、これらの基準に満たない場合でも、貸付用建物の総床面積や賃貸料収入金額などから、不動産貸付業と認定されることがあります。出典:東京都主税局|個人事業税

ここで注意したいのは、所得税上の「不動産所得」と、個人事業税上の「不動産貸付業」は、同じ言葉で語られがちでありながら、判断軸が完全に同じではない、という点です。

所得税では、不動産の貸付けによる所得は不動産所得になります。

一方、個人事業税では、法定業種としての不動産貸付業・駐車場業に該当するかどうかを、貸付規模や管理状況などから判断します。

とくに、共有不動産、相続直後の賃貸不動産、空き家の一部賃貸、駐車場収入、賃貸併用住宅などは、「家賃収入があるから個人事業税がかかる」「室数が少ないから絶対にかからない」と単純に判断しないほうがよい領域です。

不動産にかかる個人事業税は、物件ごとの契約、持分、収入、管理実態、空室、貸付面積、用途を整理したうえで判断する必要があります。

医業等では社会保険診療報酬に係る所得が非課税になる

医業、歯科医業、薬剤師業、あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業では、個人事業税特有の非課税所得という論点があります。

個人で医業等を営む方の医業に係る所得のうち、社会保険診療収入に係る所得金額については、地方税法の規定により個人事業税が非課税とされています。そのため個人事業税では、社会保険診療に係る収入を総収入金額に算入せず、当該診療に係る経費も必要経費に算入しません。出典:和歌山県|個人で医業等を営む方の個人事業税の所得計算について

この論点は、医業・歯科医業などでは非常に重要です。

所得税では、社会保険診療報酬も自由診療収入も、基本的には事業所得の収入として整理します。

しかし個人事業税では、社会保険診療に係る所得と、それ以外の所得を分ける必要があります。

たとえば医業等では、次のような区分が重要になります。

  • 社会保険診療収入
  • 自由診療収入
  • 労災保険診療収入
  • 公費負担医療のうち、社会保険診療に当たるもの・当たらないもの
  • 雑収入
  • 医療機器や固定資産の売却
  • 医業に付随する収入
  • 必要経費のうち、社会保険診療に対応するものとその他に対応するもの

社会保険診療に係る所得が非課税になるからといって、医業等の所得がすべて非課税になるわけではありません。

自由診療や社会保険診療以外の収入がある場合には、課税所得と非課税所得の区分が必要になります。

さらに、共通経費がある場合には、どのように按分するかが問題になります。この点については、課税所得・非課税所得が区分されている場合と、区分が明確でない場合とで、課税所得金額の算定方法が整理されています。出典:和歌山県|個人で医業等を営む方の個人事業税の所得計算について

医業等では、所得税申告書の「住民税・事業税に関する事項」の記載がとりわけ重要です。社会保険診療報酬に係る非課税所得を適切に記載しておかなければ、個人事業税の課税所得の整理に影響しかねません。

青色申告をしていれば個人事業税でも有利なのか

青色申告には、所得税上の大きなメリットがあります。

青色申告特別控除、青色事業専従者給与、純損失の繰越控除などは、個人事業者にとって重要な制度です。

ただし、個人事業税では、所得税と同じ効果がそのまま出るわけではありません。

とくに、青色申告特別控除は個人事業税では適用されません。個人事業税には青色申告特別控除の適用がないため、所得金額に加算することになります。出典:東京都主税局|個人事業税

一方で、青色申告が個人事業税にまったく関係しないかというと、そうではありません。

たとえば、事業の所得が赤字となった場合の損失の繰越控除については、青色申告者で一定の要件を満たすときには、翌年以降3年間の繰越控除ができます。出典:東京都主税局|個人事業税

また、専従者給与の取扱いについても、青色申告か白色申告かによって、個人事業税上の控除の扱いが変わります。

つまり、青色申告は個人事業税にも関係するものの、所得税と同じように「青色申告特別控除でそのまま課税所得が下がる」とは理解しないほうがよい、ということです。

青色申告は、税額を下げるためだけの制度ではありません。帳簿、資料保存、損失管理、専従者給与、そして税務調査対応の説明可能性を整えるための制度として捉えるべきものだと考えています。

個人事業税と専従者給与の関係

家族が事業に従事している場合、所得税では青色事業専従者給与や事業専従者控除が問題になります。

個人事業税でも、専従者給与・控除の取扱いがあります。

事業主と生計を一にする親族が、専らその事業に従事しているときは、一定額を必要経費として控除できます。青色申告の場合はその給与支払額、白色申告の場合は配偶者86万円、その他の方は1人50万円が限度とされています。出典:東京都主税局|個人事業税

ここで注意しておきたいのは、所得税の申告で専従者給与を計上しているからといって、個人事業税上も無条件にそのまま通る、と考えないことです。

家族への支払は、税務調査でも確認されやすい論点です。

実際にその事業へ専ら従事しているか、職務内容は何か、支払額は労務の対価として相当か、支払記録は残っているか、タイムカードや業務日報などの客観的な資料があるか。これらが重要になります。青色事業専従者給与については、労務の性質、事業の種類や規模、同種事業の給与状況などから妥当性が判断されますので、客観的な資料を残しておくことが欠かせません。

個人事業税は所得税申告を基に計算されるため、所得税上の専従者給与の整理が甘いと、個人事業税にも波及します。

家族への支払は、節税目的だけで処理するのではなく、実際の労務、勤務実態、支払実績、資料保存まで含めて説明できる形に整えておく必要があります。

個人事業税と消費税は別の税金だが、同時に見ておくべき

個人事業税と消費税は、まったく別の税金です。

個人事業税は、法定業種に該当する個人の事業所得・不動産所得等に対して、都道府県が課税する地方税です。

一方、消費税は、事業者が行う資産の譲渡、貸付け、役務提供などに対して課税される国税・地方消費税です。消費税では、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を控除して、納付税額を計算する仕組みが基本になります。出典:国税庁|消費税のしくみ

両者は別物ですが、個人事業主の実務では、同時に見ておくべき税目です。

理由は、どちらも「事業の実態」に関わるからです。

たとえば、次のような場面が挙げられます。

  • 副業が継続的な事業になっている
  • 外注・業務委託として報酬を受けている
  • 不動産収入がある
  • 駐車場収入がある
  • インボイス登録を検討している
  • 消費税の課税事業者になった
  • 法人成りを検討している
  • 設備投資が大きい
  • 所得税の事業所得と、消費税上の事業者性を混同している

所得税では、所得の源泉や性質によって10種類の所得に区分します。これに対して消費税では、規模の大小にかかわらず、対価を得て行われる資産の譲渡・貸付け・役務提供が、反復、継続、独立して行われることを「事業」と捉えます。

つまり、所得税、個人事業税、消費税では、それぞれ「事業」という言葉が関わってくるものの、その判断軸は同じではないのです。

個人事業税だけを見るのではなく、所得税上の所得区分、消費税上の事業者性、インボイス登録、源泉徴収、帳簿保存を一体で整理していく必要があります。

個人事業税を見落としやすい場面

副業が継続的になっている場合

会社員が副業をしている場合、最初は雑所得として整理していたものが、収入規模、継続性、独立性、営業活動、顧客との契約関係、帳簿の状況などから、しだいに事業に近い実態になっていくことがあります。

このとき、所得税上の事業所得・雑所得の判断だけでなく、個人事業税の法定業種に該当するかどうかも確認が必要です。

「副業だから個人事業税は関係ない」とは、言い切れません。

青色申告特別控除後の所得だけを見ている場合

所得税申告書に表示される所得金額が、青色申告特別控除後の金額である場合、その金額だけを見て個人事業税を判断すると、誤ってしまいます。

個人事業税では青色申告特別控除が適用されないため、足し戻しが必要になります。

不動産所得がある場合

不動産所得がある場合、所得税では不動産所得として申告します。

しかし個人事業税では、不動産貸付業または駐車場業に該当する規模か、管理実態はどうか、共有物件はどう扱うか、といった点を確認する必要があります。

所得税の「事業的規模」と、個人事業税の認定基準を混同しないことが重要です。

医業・歯科医業で社会保険診療と自由診療が混在する場合

医業等では、社会保険診療報酬に係る所得が個人事業税で非課税となる一方、自由診療等に係る所得は課税対象となる可能性があります。

そのため、収入と経費を区分し、共通経費の按分も含めて整理しなければなりません。

所得税の事業所得として一体で見ているだけでは、個人事業税の課税所得を正しく把握することはできません。

廃業・死亡・事業承継があった場合

年の途中で廃業した場合、または事業者が死亡した場合には、通常の所得税確定申告とは別に、個人事業税の申告期限が問題になります。

廃業年は、所得税、消費税、住民税、個人事業税、固定資産、在庫、未収未払を一体で整理する必要があります。

納税通知が届く時期を資金繰りに入れていない場合

個人事業税は、所得税の申告時に自分で納付額を計算して同時に納める税金ではなく、原則として後日、都道府県から納税通知書が届きます。

前年の利益に基づく税金が翌年に出てくるため、翌年の業績が悪化していると、負担感がいっそう大きくなります。

所得税申告書を作るときに確認したい個人事業税の論点

所得税の確定申告書を作成する段階で、個人事業税について最低限確認しておきたいのは、次の事項です。

  • 営んでいる事業が法定業種に該当するか
  • 事業所得、不動産所得、雑所得の区分が実態に合っているか
  • 複数の事業がある場合、業種ごとに区分できているか
  • 所得税の青色申告特別控除を個人事業税でも控除できると誤解していないか
  • 専従者給与・専従者控除の内容に説明可能性があるか
  • 事業主控除の適用期間を確認しているか
  • 損失の繰越控除や事業用資産の譲渡損失があるか
  • 不動産貸付業や駐車場業の認定基準を確認しているか
  • 社会保険診療報酬など、個人事業税で非課税となる所得があるか
  • 確定申告書の「住民税・事業税に関する事項」を正しく記載しているか
  • 翌年の納付時期と資金繰りを見込んでいるか

個人事業税は、所得税申告後に都道府県が計算する税金です。そのため、申告書の記載が不十分でも、その場でエラーが出るとは限りません。

だからこそ、所得税申告の段階で、個人事業税に関係する情報を漏らさず整理しておくことが大切になります。

相談前に整理しておくべき資料

個人事業税の対象になるか、税額がどの程度になるか、所得税申告書にどう反映すべきか。こうした点を相談する際には、次の資料を整理しておくと、判断が進みやすくなります。

  • 前年分の所得税確定申告書
  • 青色申告決算書または収支内訳書
  • 事業内容がわかる資料
  • 契約書、請求書、領収書、入金明細
  • 売上先・取引先の一覧
  • 業務内容、提供サービス、成果物がわかる資料
  • 専従者給与に関する届出書、給与明細、勤務実態資料
  • 固定資産台帳、減価償却明細
  • 不動産の賃貸借契約書、物件一覧、管理明細
  • 駐車場の区画数、契約件数、収入資料
  • 医業等の場合、社会保険診療収入と自由診療等の区分資料
  • 共通経費の按分根拠
  • 過去の個人事業税納税通知書
  • 住民税通知書、国民健康保険料通知書
  • 消費税申告書、インボイス登録資料
  • 開業、廃業、事業所移転に関する届出資料

とくに、法定業種に該当するかどうか、不動産貸付業の認定、医業等の非課税所得、専従者給与の相当性は、申告書だけでは判断しきれないことがあります。

帳簿や申告書だけでなく、事業の実態を示す資料が重要になります。

個人事業税は「後から通知が来る税金」ではなく、事前に見込むべき税金

個人事業税は、所得税の確定申告を終えた後に通知されるため、どうしても後回しにされがちです。

しかし、事業を続けていくうえでは、所得税、住民税、国民健康保険料、消費税、個人事業税を一体で見ておく必要があります。

とくに利益が増えている年は、所得税の納税額だけを見て安心しないことです。翌年には、住民税、国民健康保険料、個人事業税、場合によっては予定納税や消費税の納付が続いていきます。

個人事業税を正しく把握することは、単に税額を知るためだけのものではありません。

  • 自分の事業が法定業種に該当するかを理解する
  • 所得税と地方税の違いを理解する
  • 青色申告特別控除の効果を過大に見積もらない
  • 不動産や医業等の特殊論点を整理する
  • 翌年の納税資金を準備する
  • 申告書の記載漏れを防ぐ
  • 税務署や都道府県に説明できる資料を整える

こうした実務判断につながっていきます。

個人の確定申告は、所得税の申告書を提出したら終わり、というものではありません。個人事業税まで含めて見ることで、事業の数字と税負担の全体像がはじめて見えてきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

個人事業税は、所得税の確定申告さえしていれば自動的にすべて正しく処理される、というものではありません。

法定業種に該当するか、事業所得・雑所得・不動産所得の区分が妥当か、青色申告特別控除をどう見直すか、専従者給与や不動産貸付業の認定、医業等の非課税所得をどう整理するか。こうした点によって、判断は変わってきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、所得税の申告書作成だけでなく、住民税、個人事業税、消費税、国民健康保険料、納税資金、そして将来の税務リスクまで含めて、後から説明できる数字を整えることを大切にしています。

「所得税申告はしているが、個人事業税まで見込めていない」
「副業や不動産収入が個人事業税の対象になるのか確認したい」
「医業・士業・不動産貸付など、周辺税目も含めて整理したい」

そのような場合は、現在の申告書、帳簿、契約書、入出金資料を整理したうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

確認項目重要なポイント
個人事業税の性質個人が営む法定業種に対して課される都道府県税
所得税との関係所得税申告書を基に計算されるが、所得税と同じ計算ではない
法定業種70業種が定められており、業務内容の実態確認が必要
税率業種区分により原則3%〜5%
事業主控除年間290万円。開業・廃業年は月割になる
青色申告特別控除所得税では有効だが、個人事業税では適用されず足し戻される
専従者給与所得税だけでなく個人事業税でも確認が必要。勤務実態と資料保存が重要
不動産貸付業所得税の不動産所得だけでなく、貸付規模・管理状況等で認定される
医業等の非課税所得社会保険診療報酬に係る所得は個人事業税で非課税となるが、自由診療等との区分が必要
申告手続所得税申告または住民税申告をしていれば通常は別途申告不要。ただし事業税欄の記載が重要
廃業時年途中の廃業や死亡時は、所得税申告とは別に個人事業税申告が必要になる場合がある
納付時期原則として後日通知され、8月・11月の年2回納付。納税資金の見込みが重要
所得税の必要経費個人事業税は全額必要経費になるが、所得税・住民税は必要経費にならない
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