保険金・年金・退職金の所得税と相続税の接点|受取原因・契約者・保険料負担者・受取人で変わる課税関係

保険金、年金、退職金は、口座に入る金額が大きくなりやすい一方で、税務上の整理を誤りやすい収入です。

まとまったお金が入金されたとき、多くの方がまず気になさるのは、「確定申告は必要なのか」「所得税がかかるのか」、あるいは「相続税や贈与税の話なのか」といったところではないでしょうか。

ただ、この分野は、入金の名目だけを見て判断できるものではありません。

同じ「保険金」でも、死亡保険金なのか、満期保険金なのか、解約返戻金なのかで扱いは変わってきます。「年金」もそうです。公的年金、遺族年金、個人年金、そして相続によって取得した年金受給権に基づく年金では、所得税・相続税・贈与税との接点がそれぞれ異なります。「退職金」も、本人が生前退職により受け取るものと、亡くなった後に遺族が受け取る死亡退職金とでは、所得税で扱うのか相続税で扱うのかが分かれます。

この記事では、保険商品そのものの良し悪しや加入の提案には立ち入りません。あくまで、確定申告・相続税申告・贈与税申告の前提として、受け取ったお金を税務上どう整理するか、という視点でお話しします。

目次

まず確認すべき5つの前提

保険金・年金・退職金の課税関係を見極めるとき、私がいつも最初に確認するのは、次の5点です。

確認事項なぜ重要か
何を原因として受け取ったか死亡、満期、解約、退職、年金受給、未支給分などで税目が変わる
誰が保険料・掛金を負担したか所得税、相続税、贈与税を分ける中核になる
誰が受取人か本人、配偶者、子、相続人、第三者で扱いが変わる
一時金か年金形式か一時所得、雑所得、退職所得、年金受給権評価に影響する
支給時期・確定時期はいつか死亡退職金、未支給年金、退職所得の年分判定に影響する

とりわけ大切なのは、「契約者」だけでなく、「実際に保険料を負担した人」を確かめることです。契約書上の契約者と、実際に保険料を支払っていた人が違う場合、税務上は保険料負担者を確認しなければ判断ができません。

所得税だけで完結しない収入である

このテーマが混乱しやすいのは、同じ入金が複数の税目にまたがって見えてしまうからです。

入金の種類主に確認する税目
本人が保険料を負担し、本人が受け取る満期保険金所得税
被相続人が保険料を負担していた死亡保険金相続税
第三者が保険料を負担し、別の人が受け取る保険金贈与税
本人が受け取る退職金所得税
死亡後3年以内に支給確定した死亡退職金相続税
国民年金・厚生年金などの遺族年金原則として所得税・相続税とも非課税
未支給年金を遺族が請求して受け取る場合遺族の一時所得となる場合がある

「保険会社で源泉徴収されているから申告は不要」「相続税の対象なのだから所得税は一切関係ない」「年金という名前だから、すべて雑所得だ」——こうした単純な割り切りは、思わぬ落とし穴になります。

税務の判断では、名称そのものよりも、支払原因、契約関係、保険料負担者、受取人、支払形態、支給確定時期を一つずつ確かめていきます。

死亡保険金は、誰が保険料を負担していたかで税目が変わる

死亡保険金は、被保険者、保険料負担者、保険金受取人の組み合わせによって、所得税、相続税、贈与税のいずれかの対象になります。

この点について国税庁も、死亡保険金は、被保険者・保険料の負担者・保険金受取人が誰であるかによって、所得税、相続税、贈与税のいずれかの課税対象になると整理しています。
出典:国税庁|No.1750 死亡保険金を受け取ったとき

被保険者保険料負担者保険金受取人主な税目
ABB所得税
AAB相続税
ABC贈与税

たとえば、夫が被保険者で、保険料も夫が負担しており、受取人が妻であれば、夫の死亡により妻が受け取る死亡保険金は、原則として相続税の対象になります。

これが、夫が被保険者、妻が保険料負担者、妻が受取人という組み合わせになると、話は変わります。妻が自分で負担していた契約に基づいて保険金を受け取るわけですから、所得税の対象です。この場合、一時金で受け取れば一時所得、年金形式で受け取れば公的年金等以外の雑所得として整理します。

さらに、夫が被保険者、妻が保険料負担者、子が受取人であれば、妻から子への贈与とみなされ、贈与税の確認が必要になります。

死亡保険金が相続税の対象になる場合

被相続人の死亡によって取得した生命保険金や一定の損害保険金のうち、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。
出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

死亡保険金は、民法上の遺産分割の対象財産とまったく同じように扱われるとは限りません。それでも、相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象に取り込まれることがあります。ここを混同してしまうと、相続税の申告漏れや、遺産分割の場面での説明のずれにつながります。

相続人が受け取った死亡保険金については、一定の非課税枠が設けられています。

項目内容
非課税限度額500万円 × 法定相続人の数
対象者相続人が受け取った死亡保険金
注意点相続人以外の人が受け取った死亡保険金には非課税枠なし
相続放棄相続放棄した人は、この非課税枠の適用上の相続人には含まれない

国税庁も、死亡保険金の非課税限度額を「500万円×法定相続人の数」とし、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用がないと説明しています。
出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

実務では、死亡保険金の入金が相続税の申告要否を左右することがあります。預金や不動産だけを見て「基礎控除以下だから相続税の申告はいらない」と判断していても、死亡保険金、死亡退職金、名義預金、未分割財産などを合わせると、申告が必要になるケースは珍しくありません。

死亡保険金が所得税の対象になる場合

保険料の負担者と保険金の受取人が同じ人である場合、死亡保険金は所得税の対象になります。

このとき、一時金で受け取るか、年金形式で受け取るかによって、所得区分が変わります。

受取方法所得区分
一時金で受け取る一時所得
年金形式で受け取る公的年金等以外の雑所得

一時金で受け取った死亡保険金は一時所得となります。一時所得の金額は、受け取った保険金の総額から、すでに払い込んだ保険料または掛金を差し引き、さらに特別控除額50万円を差し引いて計算し、課税対象となるのはその2分の1です。年金形式で受け取る場合は、公的年金等以外の雑所得になります。
出典:国税庁|No.1750 死亡保険金を受け取ったとき

ここで気をつけていただきたいのは、「保険金だから非課税」とは限らない、ということです。自分で保険料を負担し、自分で保険金を受け取る場合には、死亡という出来事がきっかけであっても、相続税ではなく所得税で整理する場面があります。

また、年金形式で受け取る場合は、毎年の受取額、対応する保険料、源泉徴収の有無、他の所得との合算、そして住民税・国民健康保険料への影響まで、あわせて確認しておく必要があります。

死亡保険金が贈与税の対象になる場合

被保険者、保険料負担者、保険金受取人がすべて異なる場合、死亡保険金は贈与税の対象になります。

たとえば、夫が被保険者、妻が保険料負担者、子が受取人という契約では、夫の死亡によって子が保険金を受け取りますが、実際に保険料を負担していたのは妻です。この場合は、税務上、妻から子へ経済的利益が移転したものとして、贈与税を確認することになります。

なお、年金形式で死亡保険金を受け取る場合は、その年金を受け取る権利そのものに対して相続税または贈与税が課税され、その後、毎年受け取る年金について、あらためて所得税の課税関係を確認する必要があります。
出典:国税庁|No.1750 死亡保険金を受け取ったとき

贈与税の判断では、契約者の名義だけでなく、誰の口座から保険料が支払われていたかを確かめます。保険料が長期間にわたって家族名義の口座から支払われている場合には、その資金の出どころを説明できる資料が重要になります。

契約者変更があった場合は、変更時点だけで判断しない

生命保険契約では、途中で契約者が変更されることがあります。

親が契約者だった保険を子に変更する、夫名義の契約を妻名義に変更する、といったケースです。こうした場面で、「契約者を変更した=ただちに贈与税」と単純に考えてしまうのは正確ではありません。

国税庁は、契約者の変更そのものに対して贈与税が課されることはないとしています。ただし、その契約者としての地位に基づいて保険契約を解約し、解約返戻金を取得した場合には、解約返戻金相当額を保険料負担者から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されると説明しています。
出典:国税庁|生命保険契約について契約者変更があった場合

この論点では、次のような資料を残しておくことが大切です。

資料確認する内容
保険証券契約者、被保険者、受取人
契約内容変更通知契約者変更・受取人変更の履歴
保険料払込履歴誰が実際に負担したか
通帳・カード明細保険料の出金元
解約返戻金の支払通知いつ誰がいくら受け取ったか
贈与契約書がある場合資金移転の意思と時期
相続税申告書契約者死亡時の保険契約に関する整理

保険契約は長い年月にわたって続くものですから、契約時、途中の変更時、解約時、死亡時とで、状況が変わっていることがあります。確定申告や相続税申告の段階になって過去の経緯を再現できないと、税目の判断は一気に難しくなります。

満期保険金・解約返戻金は、保険料負担者と受取人で判断する

満期保険金や解約返戻金は、死亡保険金とは異なり、通常は所得税または贈与税の問題として整理します。

国税庁も、生命保険契約の満期や解約により保険金を受け取った場合には、保険料の負担者と保険金受取人が誰であるかによって、所得税または贈与税のいずれかの課税対象になると説明しています。
出典:国税庁|No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき

保険料負担者保険金受取人主な税目
AA所得税
AB贈与税

保険料負担者と受取人が同じであれば、満期保険金等は所得税の対象です。一時金で受け取れば一時所得、年金で受け取れば公的年金等以外の雑所得になります。

一方、保険料を親が負担し、満期保険金を子が受け取るような場合には、贈与税の確認が必要です。「保険会社から子の口座に入金されたのだから、子の所得だ」と処理するのではなく、誰が保険料を負担していたかを確かめなければなりません。

一時所得と雑所得の違いを押さえる

保険金の所得税を判断するうえでは、一時所得と雑所得の違いが重要になります。

区分典型例所得計算の考え方
一時所得満期保険金を一時金で受け取る、死亡保険金を一時金で受け取る収入金額-払込保険料等-特別控除50万円。課税対象は原則2分の1
雑所得個人年金を毎年受け取る、死亡保険金を年金形式で受け取るその年の年金額-対応する払込保険料等

満期保険金等を一時金で受け取った場合は一時所得となり、年金で受け取った場合は公的年金等以外の雑所得となります。
出典:国税庁|No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき

一時所得には、50万円の特別控除や2分の1課税といった特徴があります。ただし、同じ年に他の一時所得がある場合には、それらを合算して判断します。保険金だけを見て「50万円以下だから問題ない」と考えるのではなく、懸賞金、解約返戻金、損害保険の満期返戻金など、その年の一時所得全体を確認しておく必要があります。

個人年金は、受取人と保険料負担者の関係で変わる

個人年金保険も、保険料負担者と年金受取人の関係によって課税関係が変わります。

保険料負担者年金受取人給付事由発生時毎年の年金
AA贈与税なし公的年金等以外の雑所得
AB年金受給権について贈与税2年目以降、課税部分を所得税で確認
死亡した人遺族年金受給権について相続税課税部分を所得税で確認

保険料負担者と年金受取人が同じ人であれば、個人年金保険に基づいて受け取る年金は、公的年金等以外の雑所得として所得税が課税されます。雑所得の金額は、その年中に受け取った年金額から、その金額に対応する払込保険料または掛金を差し引いて計算します。
出典:国税庁|No.1610 保険契約者(保険料の負担者)である本人が支払を受ける個人年金

これに対して、保険料負担者と年金受取人が異なる場合には、給付事由が発生した時点で、年金を受け取る権利が贈与されたものとみなされ、贈与税が課税されます。そのうえで、その後に毎年支払を受ける年金についても、所得税の課税部分を確認していきます。
出典:国税庁|No.1610 保険契約者(保険料の負担者)である本人が支払を受ける個人年金

見落とされがちなのは、贈与税や相続税がかかった年金受給権について、その後の年金受取時に所得税の確認も必要になる、という点です。二重課税を避けるために、年金の収入金額を非課税部分と課税部分に振り分ける仕組みが用意されていますが、実際の計算は契約内容によって変わってきます。

相続等で取得した年金受給権に基づく年金

死亡保険金を年金形式で受け取る場合や、個人年金保険の年金受給権を相続・贈与によって取得した場合には、年金受給権そのものについて相続税または贈与税が問題になります。

国税庁も、相続等により取得した生命保険契約や損害保険契約等に係る年金受給権は、相続税や贈与税の課税対象となる一方で、毎年支払われる年金については所得税の課税関係を確認する必要があると説明しています。
出典:国税庁|No.1620 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係

この論点では、次のような確認が欠かせません。

確認項目内容
年金受給権を取得した原因相続、遺贈、贈与、契約者死亡
保険料負担者被相続人、贈与者、受取人本人、第三者
年金開始前か開始後か一時金受取時の所得税非課税の取扱いに影響する場合がある
年金の種類確定年金、保証期間付終身年金、変額年金など
相続税・贈与税の申告状況納税額が生じなかった場合でも所得税計算に影響することがある
源泉徴収の有無契約関係により源泉徴収されない場合がある
支払通知書年金額、必要経費相当額、源泉徴収額

特に変額年金や外貨建て年金では、毎年の受取額、解約、一部引出し、為替差、必要経費の計算などが複雑になります。保険会社の支払調書や計算書をそのまま入力して終わりにするのではなく、契約形態と過去の課税関係をきちんと確認しておくことが大切です。

公的遺族年金と未支給年金は分けて考える

「年金」という言葉で一括りにしてしまうと、判断を誤ります。

国民年金や厚生年金などの遺族年金は、原則として所得税も相続税も課税されません。
出典:国税庁|No.1605 遺族の方に支給される公的年金等

一方で、年金受給者が亡くなった時点でまだ支給されていなかった年金を、一定の遺族が請求して受け取る未支給年金については、その遺族固有の権利に基づいて支払われるものとして、遺族の一時所得の収入金額に該当する場合があります。
出典:国税庁|未支給の国民年金に係る相続税の課税関係

整理すると、次のようになります。

入金税務上の整理
遺族基礎年金・遺族厚生年金など原則として所得税・相続税とも非課税
死亡時点で未支給だった公的年金を遺族が請求して受け取る遺族の一時所得となる場合がある
企業年金等に基づく遺族年金相続税の対象となる場合があるが、毎年の年金に所得税が課税されないものもある
個人年金保険の受給権を遺族が取得年金受給権に相続税または贈与税、毎年の年金に所得税の確認

「遺族年金は非課税」とだけ覚えておくのでは、十分とは言えません。公的遺族年金なのか、未支給年金なのか、企業年金なのか、それとも個人年金保険なのかを、それぞれ分けて確認してください。

退職金は、本人が受け取る場合は退職所得

本人が生前に退職して勤務先から受け取る退職金は、原則として退職所得です。

退職所得の金額は、原則として「収入金額-退職所得控除額」に2分の1を乗じて計算します。ただし、短期勤続の退職手当等や特定役員退職手当等については、この2分の1計算が制限される場合があります。
出典:国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数。ただし80万円未満の場合は80万円
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年)

退職所得は、原則として他の所得と分離して所得税額を計算します。「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、退職金の支払者が税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は不要です。ただし、医療費控除や寄附金控除などのために確定申告をするときは、退職所得の金額を申告書に記載する必要があります。
出典:国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合には、退職金等の支払金額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、受給者本人が確定申告で精算することになります。
出典:国税庁|退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)

退職金を受け取った年の確定申告で注意すべきこと

退職金について源泉徴収が終わっていても、確定申告の全体を見渡すと、注意しておきたい点がいくつかあります。

注意点内容
医療費控除・寄附金控除確定申告をする場合、退職所得の記載が必要になる
退職・転職年末調整未了の給与、複数勤務、社会保険料控除を確認
住民税退職所得に係る住民税の徴収方法を確認
国民健康保険一部の所得・申告内容が保険料に影響する場合がある
2か所以上の退職金退職所得控除の計算が単純でなくなる
役員退職金勤続年数、役員等勤続年数、支給決議、金額の相当性を確認
短期退職手当等2分の1課税が一部制限される場合がある

退職金は、給与と同じような源泉徴収票が交付されるため、「もう処理は済んでいる」と感じやすい収入です。しかし、他の所得や控除を申告する場面では、退職所得を正しく反映しないと、所得税だけでなく住民税や各種の判定にまで影響が及ぶことがあります。

死亡退職金は、所得税ではなく相続税の対象になることがある

被相続人の死亡後に遺族が受け取る退職金は、本人が受け取る退職所得とは扱いが異なります。

被相続人の死亡によって、本来であれば被相続人に支給されるはずだった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与を受け取る場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象になります。
出典:国税庁|No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

死亡退職金にも、死亡保険金と同じように、一定の非課税枠があります。

項目内容
非課税限度額500万円 × 法定相続人の数
対象者相続人が受け取った死亡退職金
注意点相続人以外の人が受け取った死亡退職金には非課税枠なし
課税対象非課税限度額を超える部分など

国税庁も、相続人が受け取った退職手当金等について、すべての相続人が取得した退職手当金等の合計額が「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額を超える場合には、その超える部分が相続税の課税対象になると説明しています。
出典:国税庁|No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

この場合は、所得税の退職所得ではありません。したがって、遺族が「退職所得として確定申告する」のではなく、相続税の申告要否を確認することになります。

死亡後3年を超えて支給確定した退職金は別整理になる

死亡退職金は、「死亡後3年以内に支給が確定したもの」が相続税の対象になります。

亡くなった方の退職金であっても、死亡後3年を経過してから支給が確定したものについては、相続税の課税価格計算の基礎には算入されず、遺族の一時所得として所得税の課税対象になるとされています。
出典:国税庁|死亡による退職の場合

そのため、死亡退職金については、次のような時系列を確認します。

確認事項内容
死亡日相続開始日
退職金規程死亡退職金・弔慰金・功労金の根拠
支給決議日役員退職金などで重要
金額確定日3年以内かどうかの判定に影響
支払日入金時期と支給確定時期を分けて確認
受取人相続人か相続人以外か
支払調書退職手当金等受給者別支払調書の有無

入金日だけで判断せず、支給が確定した日を確認することが大切です。

弔慰金・花輪代・葬祭料も実質で見る

被相続人の死亡に伴い、勤務先から弔慰金、花輪代、葬祭料などの名目で金銭が支給されることがあります。

これらは通常、相続税の対象にはなりません。ただし、名目が弔慰金であっても、実質的に退職手当金等に該当する部分は相続税の対象になります。また、実質的には退職手当金等に該当しない部分であっても、一定額を超える部分は退職手当金等として扱われることがあります。
出典:国税庁|No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い

国税庁は、業務上の死亡である場合は死亡当時の普通給与の3年分、業務上の死亡でない場合は普通給与の半年分に相当する額を弔慰金等に相当する金額とし、これを超える部分を退職手当金等として相続税の対象とする取扱いを示しています。
出典:国税庁|No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い

ここでも、名称ではなく実質が問われます。

名称税務上確認すること
弔慰金実質的に退職金に代えて支払われたものか
功労金生前の役務提供の対価か
葬祭料社会通念上相当な弔慰の性質か
遺族補償金業務災害・労災・社内規程との関係
特別弔慰金雇用主からか、元勤務先からか、役務対価性があるか

役員や創業者が亡くなったときには、死亡退職金、弔慰金、功労金、役員退職慰労金が同時に問題になることがあります。法人側の損金算入、相続税側のみなし相続財産、受取人側の所得税非課税・一時所得の整理が交差するため、金額を決める前に確認しておきたい論点です。

所得区分を誤ると何が起きるか

このテーマで所得区分や税目を誤ると、次のような影響が生じます。

誤り起こり得る影響
相続税対象の死亡保険金を所得税の一時所得で処理する相続税申告漏れ、所得税申告の誤り
贈与税対象の満期保険金を所得税で処理する贈与税申告漏れ
死亡退職金を遺族の退職所得として処理する相続税申告漏れ
遺族年金と未支給年金を混同する非課税所得と一時所得の誤分類
個人年金の必要経費を確認しない雑所得の過大・過少申告
契約者名義だけで判断する実際の保険料負担者とずれる
退職所得申告書の提出漏れを放置する20.42%源泉徴収後の精算漏れ
相続放棄後の保険金非課税枠を誤る相続税計算の誤り
複数の退職金を別々に処理する退職所得控除の重複適用リスク

税務署に説明する際には、「保険会社からの通知書にこう書いてある」というだけでは足りない場合があります。契約者、被保険者、保険料負担者、受取人、契約変更履歴、支払形態、支給確定時期を、一体のものとして示せることが大切です。

確定申告が必要かどうかの判断

保険金・年金・退職金を受け取った場合、確定申告が必要かどうかは、次のように整理します。

入金確定申告判断の基本
所得税対象の死亡保険金を一時金で受け取った一時所得として申告要否を確認
所得税対象の死亡保険金を年金で受け取った雑所得として申告要否を確認
満期保険金・解約返戻金を受け取った一時所得または雑所得として確認
個人年金を受け取った公的年金等以外の雑所得として確認
退職所得申告書を提出して退職金を受け取った原則申告不要。ただし他の理由で申告する場合は退職所得を記載
退職所得申告書を提出せず退職金を受け取った確定申告で精算
相続税対象の死亡保険金所得税ではなく相続税申告要否を確認
相続税対象の死亡退職金所得税ではなく相続税申告要否を確認
公的遺族年金原則として所得税・相続税とも非課税
未支給年金遺族の一時所得として確認する場合あり
贈与税対象の保険金・年金受給権贈与税申告要否を確認

大切なのは、所得税の確定申告だけで完結させないことです。所得税の申告書に入力すべきもの、相続税申告書に含めるべきもの、贈与税申告が必要なもの、そしてそもそも非課税として整理するものを、それぞれ切り分けてください。

住民税・国民健康保険料・翌年以降への影響も見る

所得税の税額だけで判断すると、実務上の見落としが生じます。

一時所得や雑所得として確定申告をすると、住民税や国民健康保険料などに影響することがあります。退職所得については原則として分離課税で整理されますが、確定申告書を提出する場合には、退職所得の記載が必要になる場面があります。

また、個人年金は一度きりではなく、毎年続いていく収入です。初年度だけを処理して終わり、というわけにはいきません。年金額、必要経費、源泉徴収、他の所得との合算、扶養判定、配偶者控除、国民健康保険料への影響を、継続して確認していく必要があります。

保存すべき資料

保険金・年金・退職金の税務判断では、資料の保存が判断の質を大きく左右します。

資料確認する内容
保険証券契約者、被保険者、受取人、保険種類
契約内容変更通知契約者変更、受取人変更、減額、転換
保険料払込証明書保険料負担者、払込期間、払込額
通帳・カード明細実際の保険料負担者
支払通知書保険金、年金、解約返戻金、源泉徴収額
支払調書税務上の参考資料
相続税申告書死亡保険金、死亡退職金、年金受給権の申告状況
贈与税申告書年金受給権や満期保険金の贈与税整理
年金額計算書雑所得の必要経費計算
退職所得の源泉徴収票退職所得、勤続年数、源泉徴収額
退職所得の受給に関する申告書提出有無、退職所得控除の計算
退職金規程・役員退職慰労金規程支給根拠、金額算定
株主総会議事録・取締役会議事録役員退職金の支給決議
退職手当等受給者別支払調書死亡退職金の確認
弔慰金支給通知・社内規程弔慰金と死亡退職金の区分
年金事務所からの通知遺族年金、未支給年金の確認

資料がそろっていないと、税目の判断はどうしても曖昧になります。とりわけ保険料負担者は、契約書だけでは分からないことがあります。誰の口座から、いつ、どのように保険料が支払われたかを、ぜひ確認してください。

よくある判断ミス

よくある誤解実務上の注意点
保険金はすべて非課税死亡保険金、満期保険金、解約返戻金で扱いが異なる
契約者を見れば税目が分かる実際の保険料負担者を確認する必要がある
死亡保険金はすべて相続税保険料負担者と受取人が同じなら所得税対象になる場合がある
満期保険金はすべて一時所得保険料負担者と受取人が異なれば贈与税対象になる
個人年金はすべて雑所得年金受給権の取得時点で相続税・贈与税が問題になる場合がある
遺族年金はすべて非課税未支給年金や企業年金、個人年金は別途確認が必要
退職金は源泉徴収済みなら申告書に書かなくてよい他の理由で確定申告する場合、退職所得の記載が必要なことがある
死亡退職金は遺族の退職所得死亡後3年以内に支給確定したものは相続税対象
弔慰金という名目なら非課税実質退職金や一定額超過部分は相続税対象となることがある
保険会社の資料だけで足りる契約変更履歴、払込口座、相続税・贈与税申告との整合性が必要

この分野は、結論だけを急ぐと誤りやすいものです。まずは「受け取ったお金が、どの契約・どの原因・どの負担関係から生じたものなのか」を落ち着いて整理してください。

専門家に相談する前に整理すべき事項

保険金・年金・退職金についてご相談いただく際は、次の事項を整理しておいていただくと、判断がスムーズに進みます。

整理事項内容
入金の種類死亡保険金、満期保険金、解約返戻金、個人年金、退職金、死亡退職金、弔慰金、未支給年金
入金日・支給確定日所得税の年分、相続税対象期間、死亡後3年以内判定
契約者契約書上の名義
被保険者・年金受給者死亡保険金や年金受給権の判断に必要
保険料負担者実際の保険料支払者
受取人本人、相続人、相続人以外、第三者
支払形態一時金、年金、分割、一部解約
源泉徴収の有無支払通知書、源泉徴収票、支払調書
相続税申告の有無死亡保険金、死亡退職金、年金受給権との整合性
贈与税申告の有無満期保険金、年金受給権、契約者変更後の解約など
他の所得・控除一時所得、雑所得、退職所得、医療費控除、寄附金控除
家族間の資金移動名義預金、保険料の立替え、贈与契約

資料と事実関係が整っていれば、税務判断の精度は大きく上がります。逆に、保険証券や通帳を確認しないまま、入金の名目だけで処理してしまうと、所得税・相続税・贈与税のいずれかを見落とすリスクが残ります。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

保険金、年金、退職金は、受け取った瞬間には「臨時収入」や「老後資金」として映るものです。けれども税務上は、所得税、相続税、贈与税、住民税、社会保険料、さらには翌年以降の年金収入にまでつながっていく、判断の難しい領域です。

とりわけ、死亡保険金や死亡退職金を受け取った方、満期保険金や解約返戻金がある方、個人年金を受け取り始めた方、退職金と他の所得・控除が同じ年に重なった方、そして家族の間で保険料負担者と受取人が異なる方は、申告書を作成する前に、課税関係を一度整理しておく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、保険証券、支払通知書、通帳、退職所得の源泉徴収票、相続税申告資料、贈与税申告資料などを確認しながら、所得税・相続税・贈与税を横断して整理することを重視しています。

保険金・年金・退職金の課税関係にご不安がある方は、資料をお手元にそろえたうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

項目重要なポイント
判断の出発点入金名ではなく、受取原因・保険料負担者・受取人・支払形態を確認する
死亡保険金被保険者、保険料負担者、受取人の組み合わせで所得税・相続税・贈与税が変わる
死亡保険金の相続税被相続人が保険料を負担していたものは、みなし相続財産として相続税対象
死亡保険金の非課税枠相続人が受け取る場合、500万円×法定相続人の数が基本
相続放棄と保険金相続放棄した人は死亡保険金を受け取れても、非課税枠の適用には注意
満期保険金・解約返戻金保険料負担者と受取人が同じなら所得税、異なれば贈与税を確認
一時所得一時金で受け取る保険金などが対象。50万円控除と2分の1課税を確認
雑所得個人年金や年金形式の保険金などが対象。対応する保険料を差し引く
個人年金保険料負担者と年金受取人が異なる場合、年金受給権に贈与税がかかることがある
相続等で取得した年金受給権相続税・贈与税と、その後の所得税の両方を確認
公的遺族年金原則として所得税・相続税とも非課税
未支給年金遺族の一時所得となる場合がある
退職金本人が受け取る退職金は退職所得として分離課税が基本
退職所得申告書提出していない場合は20.42%源泉徴収後、確定申告で精算
死亡退職金死亡後3年以内に支給確定したものは相続税対象
弔慰金名目ではなく実質で判断し、一定額超過部分は退職手当金等となる場合がある
資料保存保険証券、払込履歴、通帳、支払通知書、源泉徴収票、相続税申告書を保存する
相談の要点保険料負担者・受取人・支払原因・支給確定時期を整理して相談する
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