消費税の申告で最も実務リスクが大きいのは、「売上に係る消費税」ではありません。むしろ「仕入税額控除」のほうです。
売上については、請求書や入金、売上台帳、契約、納品記録などから比較的確認しやすいものです。ところが仕入や経費となると、取引先の登録状況、インボイスの記載事項、課税区分、用途区分、支払先、取引実態、電子保存、経費精算と、確認すべきポイントが一気に増えていきます。
しかも、仕入税額控除は「経費にできるか」とは別の論点です。
法人税上は損金になり得る支出であっても、消費税上は仕入税額控除できないことがあります。逆に、請求書があり、会計ソフトで「課税仕入」と入力されていても、取引実態や帳簿・請求書の保存要件を満たさなければ、税務調査で控除が否認される可能性があります。
本稿では、2026年7月2日現在の公表情報を前提に、仕入税額控除が否認される典型論点を取り上げます。単なる制度解説ではなく、「税務調査で何を説明できる状態にしておくべきか」という実務判断の視点から整理していきます。
仕入税額控除は「インボイスがあるか」だけで決まらない
仕入税額控除とは、課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を差し引く仕組みです。国税庁も、消費税の納付税額は課税期間中の課税売上げに係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いて計算するものであり、この差引きを仕入税額控除と説明しています。出典:国税庁|No.6355 課税売上げと課税仕入れ
この制度の性質からすると、仕入税額控除が認められるには、少なくとも次の4つが揃っている必要があります。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 課税仕入れであること | そもそも消費税上の課税仕入れに該当するか |
| 控除対象となる用途であること | 課税売上対応、共通対応、非課税売上対応の区分が妥当か |
| 帳簿・請求書等の保存要件を満たすこと | 帳簿と適格請求書等が保存され、記載事項が整っているか |
| 取引実態があること | 実際に資産の譲受け、借受け、役務提供を受けているか |
ここで押さえておきたいのは、インボイスはこのうちの一部にすぎない、という点です。
適格請求書が保存されていても、その支出が給与であれば課税仕入れではありません。非課税売上のみに対応する仕入れであれば、全額を控除できるとは限りません。架空外注費であれば、請求書の形式がどれほど整っていても、そこに取引実態はありません。
つまり、仕入税額控除の否認リスクは、「インボイスがない場合」だけに生じるものではないのです。
否認論点1 帳簿・請求書等の保存が不十分
仕入税額控除の基本要件は、帳簿および請求書等の保存です。
国税庁は、課税仕入れ等に係る消費税額を控除するには、その事実を記載し区分経理に対応した帳簿と、事実を証する請求書等の両方を保存する必要があると説明しています。請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書、仕入明細書等のほか、それらの電磁的記録も含まれます。出典:国税庁|No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存
さらに国税庁は、仕入税額控除の適用を受けるには法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存が要件であり、複数税率に対応するため税率ごとの区分経理が必要だとしています。出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項
実務で問題になりやすいのは、次のような状態です。
| 問題になりやすい状態 | 税務調査での弱点 |
|---|---|
| 請求書はあるが帳簿の摘要が曖昧 | 何の取引か、課税仕入れかを説明しにくい |
| 帳簿はあるが請求書・領収書がない | 取引の事実、税率、登録番号を確認できない |
| クレジットカード明細だけで処理している | 明細だけでは取引内容や適格請求書の記載事項を満たさない場合がある |
| PDF請求書を担当者個人のメールに保存したまま | 税務調査時に提示できない |
| 納品書と請求書を組み合わせて要件を満たすのに、一方しか保存していない | 記載事項の一部が欠ける |
| 経過措置や帳簿のみ保存特例の対象取引なのに、帳簿にその旨が残っていない | 特例適用の根拠を説明できない |
とりわけ注意したいのが、「資料はどこかにあるはず」という状態です。
税務調査で求められるのは、後から社内を探せば見つかるかもしれない、というレベルではありません。帳簿から請求書、契約書、納品書、検収書、支払記録へとたどれる状態です。
実務上も、帳簿等の確認ができない場合には難しさが残ります。消費税法上、仕入税額控除を受けるには帳簿等の保存が要件とされているため、推計によって仕入税額控除を認めることは難しい、と整理されるからです。
否認論点2 課税仕入れに該当しない支出を控除している
仕入税額控除は、課税仕入れに係る消費税額を控除する制度です。
国税庁は、課税仕入れとなる取引として、棚卸資産の購入、原材料の購入、事業用資産の購入・賃借、広告宣伝費、接待交際費、通信費、修繕費、外注費などを挙げています。その一方で、給与等の支払は課税仕入れにならないとしています。出典:国税庁|No.6451 仕入税額控除の対象となるもの
ここで典型的に問題になるのが、「外注費」と「給与」の区分です。
請求書に「業務委託料」と書かれていても、実態として会社の指揮命令下で働いているのであれば、税務上は給与と判断されることがあります。給与に該当すれば、消費税の課税仕入れにはなりません。
たとえば、フリーランスのSEと業務委託契約を締結し、報酬を外注費として処理していたケースです。実際には社員と同じチームで、チームリーダーの指揮命令の下で作業していたため、給与に該当すると判断され、源泉所得税の徴収漏れと仕入税額控除の過大計上が問題となる、といった事例があります。
この論点で確認すべきは、契約名ではなく実態です。
| 確認項目 | 外注費と説明しやすい方向 | 給与と見られやすい方向 |
|---|---|---|
| 指揮命令 | 成果物・納期を指定し、作業方法は委託先に委ねる | 勤務時間、作業場所、作業手順を会社が細かく指示する |
| 報酬計算 | 成果物、案件、作業範囲に応じる | 時間単価、日当、月額固定で社員に近い |
| 代替性 | 委託先が自ら補助者を使える | 本人の労務提供が前提 |
| 使用機材 | 委託先が用意する | 会社のPC、メール、ID、備品を使う |
| 損益リスク | 委託先が再作業・瑕疵対応のリスクを負う | 会社が業務遂行のリスクを負う |
| 社内組織性 | 独立した業務単位で関与 | 社員と同じ指揮系統に組み込まれる |
この判断は、消費税だけの問題にとどまりません。源泉所得税、社会保険、労務管理にも影響します。消費税を下げたいという理由だけで外注費処理を選ぶ発想は、実態と異なる場合には危険です。
否認論点3 非課税・不課税取引を課税仕入れにしている
消費税では、課税、非課税、不課税、免税の区分が重要になります。
なかでも、非課税と不課税は、どちらも消費税が課されない点では共通しますが、課税売上割合の計算では扱いが異なります。国税庁は、非課税取引は原則として課税売上割合の分母のみに算入し、不課税取引は消費税の適用対象外であるため分母にも分子にも算入しないと説明しています。出典:国税庁|No.6209 非課税と不課税の違い
仕入側で典型的に問題になるのは、不課税取引を課税仕入れとして処理してしまうケースです。
その代表例が軽油引取税です。
軽油の請求書には、軽油本体、消費税、軽油引取税がまとめて記載されることがあります。この合計額を会計ソフトに入力し、自動計算で仮払消費税を計上すると、軽油引取税の部分まで課税仕入れとして扱ってしまうことがあります。
しかし、軽油引取税は租税であり、対価性がないため不課税取引です。実務事例でも、軽油引取税の部分について消費税の仕入税額控除が否認され、法人税上はその分を認容する処理が示されています。
これは、金額の大小以上に、考え方として重要です。
会計ソフトは、入力された金額を機械的に税率で割り戻します。けれども税務判断は、請求書の合計額ではなく、その内訳ごとに行う必要があるのです。
| 支出の例 | 消費税上の注意点 |
|---|---|
| 軽油引取税 | 不課税部分を課税仕入れに含めない |
| 土地の購入・賃借 | 原則として非課税取引であり課税仕入れではない |
| 給与・賃金 | 課税対象外であり課税仕入れではない |
| 損害賠償金 | 対価性があるかを個別に確認する |
| 補助金・助成金の受領 | 原則として資産の譲渡等の対価ではないため不課税となる場面がある |
| 保険金収入 | 原則として不課税となる場面が多い |
「支払っているから仕入税額控除できる」という理解は誤りです。控除できるのは、あくまで消費税法上の課税仕入れに係る消費税額に限られます。
否認論点4 用途区分を誤っている
課税売上高が5億円以下で、かつ課税売上割合が95%以上であれば、原則として課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除できます。一方、課税売上高が5億円を超える場合や、課税売上割合が95%未満の場合には、全額ではなく、課税売上げに対応する部分のみを控除することになります。出典:国税庁|No.6401 仕入控除税額の計算方法
この場合、個別対応方式または一括比例配分方式で計算します。
個別対応方式では、課税仕入れ等に係る消費税額を次の3つに区分します。
| 区分 | 内容 | 控除の考え方 |
|---|---|---|
| 課税売上対応 | 課税売上げにのみ要する課税仕入れ | 全額控除 |
| 非課税売上対応 | 非課税売上げにのみ要する課税仕入れ | 控除不可 |
| 共通対応 | 課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ | 課税売上割合で按分 |
国税庁も、個別対応方式では課税仕入れ等に係る消費税額を「課税売上げにのみ要するもの」「非課税売上げにのみ要するもの」「共通して要するもの」に区分して仕入控除税額を計算すると説明しています。出典:国税庁|No.6401 仕入控除税額の計算方法
用途区分で典型的に問題になるのは、次のような処理です。
| 誤りやすい処理 | 問題点 |
|---|---|
| 非課税売上対応の仕入れを課税売上対応として処理 | 本来控除できない消費税を控除している |
| 共通対応仕入れをすべて課税売上対応にしている | 課税売上割合による按分を回避している |
| 部門別管理をしていないのに個別対応方式を選択 | 用途区分の根拠がない |
| 不動産賃貸と物販を兼業しているが、経費を一律課税仕入れにしている | 非課税売上対応・共通対応の区分が漏れる |
| 医療・介護・金融・住宅賃貸など非課税売上があるのに全額控除している | 課税売上割合、用途区分の検討不足 |
不動産、医療、介護、金融、教育、住宅賃貸を含む事業では、非課税売上が混在しやすいものです。そのぶん、用途区分の誤りが大きな否認額につながります。
たとえば農業収入と不動産賃貸収入のように、課税売上と非課税売上が混在する場合には、仕入に係る消費税を課税売上対応、非課税売上対応、共通対応に区分したうえで、個別対応方式または一括比例配分方式で計算する必要がある、と整理されています。
ここで大切なのは、用途区分は決算時に帳尻を合わせるものではない、という点です。取引の時点で、何の売上に対応する支出なのかを説明できるようにしておく必要があります。
否認論点5 架空取引・水増し取引・名義貸し取引
仕入税額控除の否認のなかでも、最も重い問題になりやすいのが、架空取引や水増し取引です。
この場合、形式的な請求書や領収書があっても、取引実態がなければ仕入税額控除は認められません。
税務調査では、次のような点が確認されます。
| 確認される事項 | 調査で見られる資料 |
|---|---|
| 実際に役務提供・納品があったか | 納品書、検収書、作業報告書、成果物、メール |
| 支払先が実在するか | 登記、住所、電話、Webサイト、反面調査 |
| 資金が戻っていないか | 振込記録、現金引出し、代表者・親族口座 |
| 金額が実態に見合うか | 見積書、相場、契約内容、数量、工数 |
| 取引先が独立した第三者か | 関係会社、親族、従業員、協力業者との関係 |
| 同一書式の請求書が多数ないか | 請求書の作成者、印影、フォーマット |
| 支払後の現金化がないか | 出金日、ATM引出し、領収書、使途 |
建設業や卸売業などでは、架空外注費、架空仕入、水増し仕入、キックバックが問題になりやすい傾向があります。税務調査の事例でも、架空外注費や使途秘匿金が問題となり、資金の流れや関係者への支払が追跡される場面があります。
そしてこの論点は、仕入税額控除の否認だけでは終わりません。
取引実態がないのに請求書を作成した、支払先から現金が戻っている、代表者や役員が関与している、税務調査で虚偽の説明をした――こうした事情があると、重加算税の問題にも発展します。
一方で、単なる税区分の誤りや計算ミスと、架空取引とは分けて考える必要があります。
危険なのは、「資料を作ればよい」という発想です。資料は、実態を証明するために残すものであって、実態のない取引を作り出すためのものではありません。
否認論点6 インボイスの形式不備だけに意識が偏っている
インボイス制度が始まって以降、実務では登録番号や適格請求書の記載事項に意識が向きがちです。
もちろん、適格請求書等の保存は重要です。国税庁も、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、原則として仕入税額控除の対象とならないと説明しています。出典:国税庁|No.6355 課税売上げと課税仕入れ
しかし、インボイスの形式確認だけでは、否認リスクを防ぎきれません。
たとえば、次のような状態です。
| 形式上は整って見える状態 | 実務上のリスク |
|---|---|
| 登録番号付き請求書がある | 取引内容が実在しない可能性 |
| 適格請求書発行事業者からの請求書である | 支出が給与、損害賠償、不課税取引かもしれない |
| 10%・8%の区分がある | 用途区分が誤っている可能性 |
| 会計ソフトで課税仕入になっている | 入力者が税区分を誤っている可能性 |
| 電子請求書が保存されている | 帳簿との紐づけや検索性が不十分な可能性 |
インボイスは、あくまで仕入税額控除の入口です。最終的な判断は、課税仕入該当性、取引実態、用途区分、帳簿保存、支払事実を合わせて行うことになります。
否認論点7 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の誤り
インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れは、原則として仕入税額控除の対象になりません。
ただし、一定期間は経過措置が設けられています。免税事業者等からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合を控除できる仕組みです。
令和8年度税制改正では、この経過措置について適用期限を2年間延長し、控除可能割合を70%、50%、30%へ見直す内容が公表されています。あわせて、一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額が、その年または事業年度で1億円を超える場合には、その超える部分について経過措置の適用を認めない、という見直しも示されています。出典:国税庁|インボイス制度に関する令和8年度税制改正について
この経過措置で問題になりやすいのは、次のような処理です。
| 誤りやすい処理 | 問題点 |
|---|---|
| 免税事業者等からの仕入れを通常の課税仕入れとして全額控除 | 控除割合を超過している |
| 経過措置対象である旨を帳簿に残していない | 適用根拠を説明できない |
| 適用割合の切替時期を誤る | 令和8年10月1日前後などで計算を誤る |
| 取引先別の年間金額を管理していない | 1億円超の制限に対応できない |
| 登録番号のない請求書をすべて経過措置対象にしている | 実際には登録事業者の記載漏れ、または課税仕入れでない可能性がある |
経過措置は、「インボイスがなくても何となく控除できる制度」ではありません。取引先、課税仕入該当性、控除割合、帳簿記載、区分記載請求書等に相当する資料を確認して、初めて適用できるものです。
否認論点8 居住用賃貸建物・高額資産に係る控除制限を見落としている
居住用賃貸建物の取得については、仕入税額控除が制限されます。
国税庁も、仕入税額控除の対象となるものの説明のなかで、密輸品や免税購入品と知りながら行った課税仕入れ、そして居住用賃貸建物の取得については、仕入税額控除が制限されるとしています。出典:国税庁|No.6451 仕入税額控除の対象となるもの
不動産取引では、建物の用途が課税売上対応なのか、非課税売上対応なのかが大きな問題になります。
たとえば、店舗・オフィス賃貸であれば課税売上に対応する部分があります。一方、住宅賃貸であれば、家賃収入は非課税売上です。居住用賃貸不動産については、取得に係る消費税額が仕入税額控除の対象とならない場合があり、税務調査でも重要な確認対象になります。
この論点は消費税還付スキームとも関係しますが、本稿で強調したいのは次の点です。
建物を取得した時点で、用途を説明できる資料が必要だということです。賃貸借契約書、募集資料、用途区分、建物の間取り、事業計画、融資資料、入居者属性などが整合していなければ、後から「課税売上用だった」と説明しても、説得力を欠いてしまいます。
否認論点9 会計ソフトの税区分を信じすぎている
近年、会計ソフトや経費精算システムはずいぶん便利になりました。
しかし、税区分の自動判定は、取引実態までは判断してくれません。
次のような処理は、税務調査で問題になります。
| 自動処理されやすい内容 | 実際に確認すべきこと |
|---|---|
| 勘定科目が外注費だから課税仕入 | 実態は給与ではないか |
| 勘定科目が地代家賃だから課税仕入 | 土地賃借や住宅家賃ではないか |
| 支払額全体を課税仕入 | 不課税部分や租税部分が含まれていないか |
| 交際費を課税仕入 | 私的支出や役員給与認定リスクはないか |
| クレジットカード明細を課税仕入 | 適格請求書等が保存されているか |
| 経費精算アプリの領収書画像で処理 | 記載事項、取引内容、登録番号が確認できるか |
税区分の誤りが続くと、たとえ少額でも、複数年で大きな否認額になります。税賠事故の分析でも、消費税では届出書の提出失念だけでなく、税区分の誤りの継続が重要な事故類型として整理されています。
経理実務では、勘定科目ごとに税区分を固定するのではなく、取引内容ごとの判断ルールを作ることが求められます。
仕入税額控除の否認は、資金繰りに直接響く
仕入税額控除が否認されると、追加で消費税を納めることになります。
これは、法人税のように「所得が増える」問題とは、少し性質が異なります。消費税は、赤字であっても納税が発生することがあるからです。仕入税額控除が否認されれば、利益の少ない会社であっても、資金流出が生じます。
さらに、次の負担が重なります。
| 影響 | 内容 |
|---|---|
| 本税 | 控除できない消費税額の追加納付 |
| 延滞税 | 納付遅れに伴う負担 |
| 過少申告加算税 | 申告税額が過少だった場合の負担 |
| 重加算税 | 隠蔽・仮装がある場合の重い負担 |
| 税理士対応・調査対応コスト | 資料収集、説明、修正申告等 |
| 金融機関対応 | 納税資金、資金繰り悪化の説明 |
| 社内管理コスト | 経費精算、取引先管理、電子保存の見直し |
仕入税額控除の否認は、単なる税務処理の誤りにとどまりません。資金繰り、信用、内部管理、そして将来の税務調査対応にまで影響していきます。
税務調査で守れる処理にするための確認順序
仕入税額控除を安全に管理するには、次の順番で確認していきます。
1. 取引実態を確認する
まず、実際に資産の購入、借受け、役務提供を受けているかを確認します。
請求書だけでなく、契約書、発注書、納品書、検収書、作業報告書、メール、チャット、成果物、入出金記録まで見ていきます。
2. 課税仕入れに該当するか確認する
次に、その支出が課税仕入れかを確認します。
給与、賃金、土地取引、住宅家賃、租税、保険金、損害賠償金など、課税仕入れにならないものが混在していないかを見ます。
3. インボイス・請求書等を確認する
適格請求書発行事業者からの課税仕入れであれば、適格請求書等の記載事項と保存状況を確認します。
登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの金額、消費税額等、宛名、そして複数書類の組み合わせを確認します。
4. 帳簿に必要事項を記録する
帳簿には、相手方、取引日、取引内容、支払対価、税率、用途区分、特例適用の有無を残します。
帳簿から証憑へ、証憑から支払記録へたどれる状態が必要です。
5. 用途区分を確認する
課税売上高が5億円超、または課税売上割合が95%未満の場合には、用途区分を確認します。
課税売上対応、非課税売上対応、共通対応の判断根拠を残しておきます。
6. 特例・経過措置の適用を確認する
少額特例、帳簿のみ保存特例、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置、簡易課税、2割特例・3割特例などは、適用要件を確認します。
特例は「楽をするための処理」ではなく、要件を満たす場合に認められる処理です。
社内で整備すべき資料
仕入税額控除を税務調査で守るには、次の資料を整えておきたいところです。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 取引先マスター | 登録番号、登録状況、免税事業者等の区分を管理する |
| 税区分ルール表 | 勘定科目ではなく取引内容ごとの判断基準を示す |
| 経費精算ルール | 領収書、インボイス、カード明細、立替精算の扱いを定める |
| 用途区分一覧 | 課税売上対応、非課税売上対応、共通対応を整理する |
| 電子保存ルール | PDF、Web明細、電子請求書の保存場所と検索方法を定める |
| 高額取引ファイル | 契約書、発注書、納品書、検収書、支払記録を一式保存する |
| 免税事業者等取引一覧 | 経過措置の適用割合、取引金額、1億円制限を管理する |
| 月次チェックリスト | 税区分誤りを決算前に発見する |
これらは、税務署に見せるためだけの資料ではありません。会社自身が、どの支出についてどのような判断をしたのかを説明できるようにするための資料です。
専門家に相談すべき場面
次のような場合は、仕入税額控除の否認リスクを早めに確認しておくとよいでしょう。
| 状況 | 相談すべき理由 |
|---|---|
| 外注費が多い | 給与該当性、源泉所得税、消費税の論点が重なる |
| 非課税売上がある | 用途区分、課税売上割合、控除対象外消費税額が問題になる |
| 不動産取引がある | 居住用賃貸建物、課税・非課税区分、還付リスクが大きい |
| 免税事業者等との取引が多い | 経過措置、価格条件、帳簿記載、将来負担を管理する必要がある |
| 経費精算が多い | 領収書不備、私的支出、カード明細のみ処理が起きやすい |
| 電子請求書が多い | 電子保存、検索性、担当者退職時の資料喪失リスクがある |
| 税区分を会計ソフト任せにしている | 課税仕入れ該当性や用途区分を誤る可能性がある |
| 消費税還付申告を予定している | 税務調査で重点確認されやすい |
| 過去に税区分誤りが見つかった | 複数年にわたり同じ誤りが継続している可能性がある |
仕入税額控除は、税額計算の技術論であると同時に、会社の内部管理の問題でもあります。
仕入税額控除を「守れる処理」にしたい方へ
仕入税額控除を否認されないためには、インボイスを集めるだけでは足りません。
取引実態があるか。
課税仕入れに該当するか。
帳簿と請求書等が保存されているか。
用途区分が説明できるか。
免税事業者等との取引を区分できているか。
会計ソフトの税区分が実態と合っているか。
税務調査で、契約・請求・納品・支払の流れを説明できるか。
この一連の確認ができて、初めて仕入税額控除は「守れる処理」になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税の仕入税額控除について、インボイス確認、課税区分、用途区分、免税事業者等との取引、電子保存、経費精算、税務調査対応まで含めて整理します。
「請求書は保存しているが、税務調査で本当に大丈夫か不安がある」「外注費や業務委託費の消費税処理を確認したい」「非課税売上があり、用途区分に自信がない」「過去の税区分誤りを整理したい」――そうした場合は、現在の消費税申告書、総勘定元帳、請求書サンプル、取引先一覧、経費精算ルールを整理したうえで、お問い合わせページよりご相談ください。
振り返り
| 重要論点 | 否認されやすい処理 | 守るための確認ポイント |
|---|---|---|
| 帳簿・請求書等の保存 | 請求書だけ保存し、帳簿の記載が曖昧 | 帳簿と請求書等の両方を保存し、取引内容まで記録する |
| 課税仕入該当性 | 給与、租税、非課税取引を課税仕入れにしている | 支出の実態が課税仕入れか確認する |
| 外注費と給与 | 業務委託契約書だけで外注費処理している | 指揮命令、報酬計算、独立性、成果物を確認する |
| 非課税・不課税 | 軽油引取税や土地取引を課税仕入れにしている | 請求書の内訳ごとに課税区分を判断する |
| 用途区分 | 非課税売上対応仕入を全額控除している | 課税売上対応、非課税売上対応、共通対応を区分する |
| 架空取引 | 形式的な請求書だけで仕入税額控除している | 契約、納品、検収、成果物、支払先、資金の流れを確認する |
| インボイス | 登録番号だけを見て安心している | 取引実態、課税仕入該当性、帳簿記載まで確認する |
| 免税事業者等からの仕入れ | 経過措置割合を超えて控除している | 控除割合、帳簿記載、取引先別金額を管理する |
| 居住用賃貸建物 | 建物取得時の消費税を安易に控除している | 用途、賃貸契約、収入区分、控除制限を確認する |
| 会計ソフトの税区分 | 勘定科目だけで自動判定している | 取引内容ごとに税区分ルールを整備する |
| 税務調査対応 | 資料が社内に散在している | 帳簿から契約書・請求書・支払記録へたどれる状態にする |