法人保険の提案では、次のような言葉をよく耳にします。
「退職金の原資を準備しながら節税できます」
「社長に万一のことがあっても、借入金を返済できます」
「解約返戻金を将来の資金として使えます」
「保険料を損金にしながら、会社に資金を残せます」
いずれも、実務のうえで一定の意味を持つ言葉です。実際、法人保険は、役員退職金の準備、経営者に万一のことがあった場合の事業保障、金融機関からの借入や個人保証への備えとして活用されることがあります。
ただ、その手前で、一つ線を引いておきたいことがあります。
法人保険は、税金を減らすための商品ではありません。その本質は、将来の資金需要に備えるための契約です。保険料を払えば、その分だけ会社の現金は外へ出ていきます。解約返戻金のある保険であっても、返戻率、解約時期、税務処理、資金拘束、保障内容までを見なければ、その会社にとって本当に有効な設計かどうかは判断できません。
本稿では、法人保険を「役員退職金」「事業保障」「借入金対策」に使う場面を取り上げます。保険商品そのものの比較ではなく、経営判断・税務判断として何を確認しておくべきかを整理していきます。
保険を使う前に、まず「何の資金を準備するのか」を決める
法人保険を検討するとき、最初に見るべきなのは、保険の種類でも損金割合でもありません。まず決めるべきは、何の資金を準備するのか、という一点です。
法人保険の目的は、大きく次の三つに分かれます。
| 目的 | 主な資金需要 | 判断の中心 |
|---|---|---|
| 役員退職金原資 | 生存退職金、死亡退職金、分掌変更時の資金 | 退職事実、退職給与の相当性、解約時期、税務処理 |
| 事業保障 | 経営者死亡・就業不能時の運転資金、採用・引継ぎ費用、売上減少への備え | 会社に必要な保障額、後継体制、資金繰り |
| 借入金対策 | 金融機関借入、個人保証、当面の返済資金 | 借入残高、返済期間、保証関係、金融機関への説明 |
同じ法人保険でも、目的が違えば、必要な保障額、契約者、受取人、保険期間、解約返戻金の見方、そして出口の税務処理まで変わってきます。
避けたいのは、「保険料が損金になるか」から入り、あとから目的を探すという順番です。損金算入の有無はたしかに大切ですが、それは法人保険を判断する要素の一部にすぎません。保険契約は長期にわたって資金を拘束します。出口の時期が少しずれるだけで、当てにしていた退職金原資にならないこともあるのです。
退職金原資としての保険は「退職金の設計」とセットで考える
役員退職金は、法人税と所得税の両面で大きな税務効果を持ち得る論点です。
法人側では、適正な役員退職給与であれば損金算入の対象になります。個人側では、退職所得として、原則として他の所得と分離して所得税額を計算します。退職所得は長年の勤務に対する後払い的な性格を持つため、通常の給与や賞与とは異なる課税の仕組みになっています。
出典:国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
出典:国税庁|法第30条《退職所得》関係
こうした背景から、会社が将来の退職金支給に備え、法人契約の保険で解約返戻金を積み立てておく設計は、実務でもよく検討されます。
ただ、ここで押さえておきたいのは、保険に加入したからといって退職金が自動的に認められるわけではない、という点です。
役員退職金として税務上きちんと説明するには、少なくとも次のような論点を整理しておく必要があります。
- 退職の事実があるか
- 分掌変更の場合、実質的に退職したと同様の事情があるか
- 退職金規程や株主総会決議が整っているか
- 支給額が、功績、在任期間、最終報酬月額、同業類似法人の水準などから見て相当か
- 法人側で損金算入できる時期はいつか
- 個人側で退職所得として処理できるか
- 源泉徴収と「退職所得の受給に関する申告書」の管理ができているか
役員が分掌変更した場合であっても、法人税基本通達では、役員としての地位または職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があると認められる場合には、退職給与として取り扱うことができるとされています。逆に、代表権を持ったまま実質的に経営上の主要な地位にとどまっているようなケースでは、退職と同様とは言いにくくなります。
出典:国税庁|第7款 退職給与
出典:国税庁|No.5203 使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金
つまり、法人保険を退職金原資として使う場合であっても、中心にあるのは保険ではなく、退職金の設計そのものだということです。
保険金が入ったからといって、多額の退職金が当然に認められるわけではない
法人契約の保険で特に注意しておきたいのが、死亡退職金の場面です。
代表者の死亡により、会社が保険金を受け取る。その保険金を原資として、遺族に死亡退職金を支払う。この流れ自体は、実務でも十分にあり得るものです。
ただし税務上は、保険金収入と役員退職給与の支給は、それぞれ別に判断されます。会社が受け取った保険金は、あくまで会社側の収入です。一方で、遺族に支払う死亡退職金は、役員退職給与として、その金額が相当かどうかを別途検討することになります。
実際、会社が「退職給与の原資は保険金であり、事業活動による利益ではない」と主張しても、保険金収入と退職給与の支給は別個に考えるべきであり、適正な役員退職給与額を超える部分は会社の経営上の損失補填のために留保されるべきものとして、過大部分の損金算入が認められなかった事例もあります。
ここは、保険を使った退職金設計のなかで、最も誤解されやすいところです。
保険金が1億円入ったから、そのまま1億円を死亡退職金として支給できる——。これは、税務判断としては危うい考え方です。
法人税では、役員給与のうち不相当に高額な部分は損金の額に算入されません。退職給与についても、業績連動給与に該当しない退職給与等という例外はあるものの、不相当に高額な部分は損金算入できないという制限が設けられています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
保険金は、退職金原資の一部にはなり得ます。しかし、退職金の適正額を決める根拠にはなりません。退職金の金額は、役員の功績、在任年数、最終報酬月額、会社規模、類似法人の水準、支給規程、過去の支給実績といった要素から説明できる必要があります。
生存退職金原資としての保険は、解約時期が合わなければ機能しない
法人保険を生存退職金の原資として活用する場合、多くは、将来の退職時期に合わせて解約返戻金を使う設計になります。
たとえば、代表者が65歳で退任する予定で、65歳前後に解約返戻金が高くなる保険に加入する。退任時に保険を解約して解約返戻金を受け取り、それを原資として役員退職金を支給する。設計としては、たしかに分かりやすい流れです。
ところが実務で問題になりやすいのは、退職時期が予定どおりには来ない、という点です。
- 代表者が予定より長く経営を続ける
- 後継者が育たず、退任できない
- 業績悪化により退職金を支給できない
- 保険料負担が重く、途中で解約せざるを得ない
- 解約返戻率のピークが退職時期より前に来る
- 退職金支給時に会社の資金繰りが悪化している
- 保険解約による益金と退職金損金の時期がずれる
こうしたずれが生じると、保険は退職金原資として十分に機能しなくなります。
だからこそ、法人保険は、加入の段階で出口まで設計しておく必要があります。ここでいう出口とは、解約、満期、死亡、払済変更、契約者変更、退職金支給、借入金返済のいずれで資金を使うのか、ということです。
出口を決めないまま加入した保険は、あとになって「節税にはなったが、必要な時期に資金が使えない」という状態に陥りやすくなります。
法人保険料は、現在の税務では「全額損金」を前提に考えにくい
かつては、法人保険について「保険料の損金算入」を前面に押し出した提案が数多く行われていました。
しかし現行の実務では、定期保険や第三分野保険の保険料について、最高解約返戻率に応じた資産計上ルールを確認する必要があります。
具体的には、法人が契約者となり、役員または使用人等を被保険者とする保険期間3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50%を超えるものに加入して保険料を支払った場合、原則として、支払保険料のうち最高解約返戻率の区分に応じて計算される一定額を一定期間資産計上し、所定期間の経過後に取り崩して損金算入する取扱いになります。
出典:国税庁|No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
また、法人税基本通達9-3-5では、法人が自己を契約者とし、役員または使用人等を被保険者とする定期保険または第三分野保険に加入して保険料を支払った場合の取扱いが、保険金または給付金の受取人の区分に応じて整理されています。
出典:国税庁|第3節 保険料等
したがって、退職金原資として法人保険を使う場合でも、次のように分けて考える必要があります。
- 保険料を支払った時点の損金算入額
- 資産計上される金額
- 将来取り崩して損金算入される時期
- 解約時に益金となる金額
- 退職金支給時に損金となる金額
- 保険金収入と退職金支給の時期のずれ
保険料の損金処理だけを見ていると、全体の税負担や資金繰りを見誤ります。節税効果があるように見えても、実際には課税の繰延べにすぎない場合があるからです。さらに、保険料という現金の流出は先に発生します。資金繰りに余裕のない会社では、税金よりも先に、キャッシュそのものが問題になってきます。
事業保障としての保険は「会社に残す資金」を設計する
法人保険が担う重要な役割の一つが、事業保障です。
中小企業では、代表者や主要役員に事業が強く依存していることが少なくありません。代表者が突然亡くなったり、長期間就業不能になったりした場合、会社には次のような資金需要が生じます。
- 売上減少を補う運転資金
- 取引先・従業員への信用維持のための資金
- 後継者や外部人材への引継ぎ費用
- 金融機関への説明と当面の返済資金
- 退職慰労金や弔慰金の支給資金
- 遺族から会社株式や貸付金を整理するための資金
- 事業を縮小・売却・清算する場合の費用
ここで大切なのは、保険金の全額を遺族に支払う設計が、常に正しいとは限らないという点です。
会社が保険金を受け取った場合、その保険金は、まず会社の事業を守るための資金になります。死亡退職金や弔慰金として遺族に支払うべき金額は別途検討するとしても、会社に必要な資金をすべて無視して、受け取った保険金の全額を退職金として支給する設計では、事業保障としては弱くなってしまいます。
とりわけ、経営者が金融機関借入の個人保証をしている会社では、代表者の死亡後に、金融機関、後継者、遺族、株主、取引先の関係が一気に不安定になることがあります。保険は、その混乱を避けるための資金クッションとして機能します。
この場面での判断軸は、「税金が減るか」ではありません。次のような問いが中心になります。
- 代表者に万一のことがあったとき、会社は何か月分の固定費を確保すべきか
- 売上減少にどの程度耐えられるか
- 後継者が意思決定できるようになるまで、どのくらいの時間が必要か
- 金融機関に対して、どの返済計画を示せるか
- 従業員の雇用をどの程度維持するのか
- 遺族にどの程度の死亡退職金を支給するのか
- 会社に残すべき保険金はいくらか
このように、事業保障としての保険は、会社の危機対応資金として設計すべきものです。
借入金対策としての保険は「返済原資」と「信用維持」を分けて考える
法人保険は、借入金対策として提案されることもあります。
経営者に万一のことがあった場合、保険金で借入金を返済する。金融機関への返済不安を下げる。個人保証をしている遺族の負担を軽くする。後継者が引き継ぎやすい財務状態にする。いずれも、経営のうえで重要な視点です。
ただし、借入金対策として保険を使う場合も、単純に「借入残高と同額の保険に入ればよい」とは限りません。
借入金には、運転資金、設備資金、不動産借入、保証協会付き融資、プロパー融資、役員借入金など、性質の異なるものがあります。返済期間、担保、保証人、金融機関との関係、期限の利益喪失条項、代表者変更時の対応も、それぞれ違います。
確認しておきたいのは、次のような点です。
- 現在の借入残高はいくらか
- 今後5年、10年でどのように減っていく見込みか
- 代表者の個人保証はどこまで残っているか
- 担保不動産は何か
- 後継者が保証を引き継ぐ可能性はあるか
- 代表者死亡時に、金融機関へどのような説明が必要か
- 保険金を全額返済に充てるべきか、運転資金として残すべきか
- 解約返戻金を平時の資金繰りに使う可能性があるか
- 保険料負担が返済能力を圧迫していないか
借入金対策としての保険は、返済原資であると同時に、金融機関への説明材料にもなります。とはいえ、保険に入っていることだけで金融機関対応が万全になるわけではありません。金融機関が見るのは、保険契約の有無だけでなく、会社の利益、キャッシュフロー、担保、後継者、資金繰り表、返済計画です。
保険は、あくまで資金繰り計画の一部として位置付けておく必要があります。
死亡退職金は、生命保険金とは別枠で非課税枠を確認する
代表者の死亡時には、法人契約の保険金と死亡退職金を混同しやすくなります。
まず、個人契約の死亡保険金についてです。被相続人が保険料を負担していた生命保険金等は、相続等により取得したものとみなされ、一定の場合に「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があります。
出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
一方、法人が受け取った保険金を原資として、遺族に死亡退職金を支給する場合、その死亡退職金についても、相続税上、一定の非課税限度額があります。被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等は相続税の課税対象となりますが、相続人が受け取った退職手当金等については、「500万円×法定相続人の数」まで非課税限度額があります。
出典:国税庁|No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
実務でも、法人契約の保険金を会社が受け取り、それを原資として役員の死亡退職金を遺族に支払った場合、死亡退職金については、生命保険金の非課税枠とは別枠で死亡退職金の非課税枠を使うことができます。
ただし、非課税枠があるからといって、死亡退職金の支給額がいくらでもよいわけではありません。
法人税の側では、役員退職給与として相当な金額かどうかが問われます。相続税の側では、誰が受け取るか、相続人かどうか、支給確定の時期、遺産分割や遺留分との関係が問われます。会社法・実務の側では、株主総会決議、退職慰労金規程、弔慰金規程、取締役会や株主間の合意が問われます。
つまり、保険金、死亡退職金、弔慰金、遺族の生活保障、会社に残す資金を、一体として整理しておかなければならないということです。
「保険で退職金を準備する」場合の実行前チェック
法人保険を役員退職金の原資として使う場合、少なくとも次の順番で確認していきます。
1. 退職予定時期と後継者計画
退職金原資としての保険は、退職時期が見えていなければ設計できません。
代表者が何歳で退任するのか。退任後は完全に経営から離れるのか。非常勤役員、相談役、会長として残るのか。代表権を持ち続けるのか。後継者はいつから経営判断を担うのか。
ここを曖昧にしたまま保険だけ加入すると、将来の退職金支給時に「実質退職かどうか」が争点になります。
2. 退職金の適正額
退職金の予定額は、保険金額や解約返戻金から逆算するのではなく、退職金規程、在任期間、最終報酬月額、功績倍率、会社規模、業績、過去の支給実績から検討します。
保険金があるから高額退職金が認められる、という考え方は避けるべきです。
3. 保険料負担に耐えられる資金繰り
保険料は、税金ではなく現金支出です。毎年の保険料が、借入返済、納税、賞与、設備投資、運転資金を圧迫しないかを確認します。
黒字の年だけでなく、売上減少時、資金繰り悪化時、金利上昇時、設備投資時にも払い続けられるかまで見ておく必要があります。
4. 解約返戻金のピークと退職時期
解約返戻金のピークと退職時期が合っているかを確認します。
ピークが早すぎれば、退職前に解約の判断を迫られます。ピークが遅すぎれば、退職時に十分な返戻金がありません。途中解約時の元本割れが大きい場合には、会社の選択肢そのものが狭くなります。
5. 保険料の税務処理
保険料が全額損金か、一部資産計上か、どの期間で取り崩すかを確認します。
税務上の損金処理と、資金繰り上の支出は別のものです。節税額だけでなく、税引後のキャッシュフローで見ていきます。
6. 解約時・保険金受取時の課税
解約返戻金や保険金収入が法人側の益金になる場合、その期の利益や税負担が増えます。
退職金支給と同じ期に対応できるか。解約時期と退職金決議の時期がずれないか。保険金収入だけが先に発生し、退職金支給が翌期になる可能性はないか。この点を、事前に確認しておきます。
事業保障・借入金対策として使う場合の実行前チェック
事業保障や借入金対策として保険を使う場合には、退職金原資とはまた違った観点が必要になります。
1. 保障額は「借入残高」だけで決めない
保障額を借入残高と同額にする設計は分かりやすいものの、それだけでは足りない場合もあります。
代表者の死亡後には、借入金返済だけでなく、売上減少、採用費、後継者支援、取引先対応、専門家費用、株式承継、遺族対応といった資金需要が生じます。逆に、借入残高が大きくても、不動産担保や返済計画が安定している場合には、保険金を全額返済に使う必要がないこともあります。
2. 会社に残す資金と遺族へ支払う資金を分ける
法人契約の保険金を会社が受け取る場合、その使途を事前に分けておくべきです。
- 会社に残す運転資金
- 借入金返済に充てる資金
- 死亡退職金として遺族へ支払う資金
- 弔慰金として支払う資金
- 後継者への引継ぎ資金
この配分を決めないまま保険に入ると、代表者の死亡後に、遺族、後継者、株主、金融機関の間で認識が食い違ってしまいます。
3. 金融機関への説明資料を整える
借入金対策として保険に加入するなら、金融機関に説明できる資料を整えておくことが重要です。
- 現在の借入一覧
- 返済予定表
- 担保・保証の一覧
- 保険契約の一覧
- 死亡時の資金使途メモ
- 後継者体制
- 代表者死亡後の資金繰り表
- 株主構成と事業承継方針
金融機関対応で必要になるのは、「保険に入っています」という一言ではなく、「代表者に万一のことがあっても、会社がどのように返済と事業継続を行うか」を説明できる資料です。
4. 役員借入金・個人保証との関係も確認する
オーナー会社では、代表者が会社へ貸付をしていることがあります。代表者の死亡時には、その貸付金が相続財産となり、後継者や相続人にとって大きな問題になることがあります。
また、代表者が金融機関借入の個人保証をしている場合、相続人が保証関係に不安を持つこともあります。
保険金を使って、役員借入金の返済、借入金の一部返済、個人保証の解除交渉、後継者の資金繰り支援を検討することはありますが、これらには法人税、相続税、金融機関交渉、株価評価が絡みます。保険だけで解決できる論点ではありません。
法人保険が向いていない場合
法人保険は、有効に機能する場面があります。その一方で、次のような会社では、加入を急ぐべきではありません。
- 保険料を払うと運転資金が不足する
- 借入返済や納税資金が、すでに重くのしかかっている
- 役員の退職時期がまったく見えていない
- 後継者が決まっていない
- 退職金規程や株主総会決議の整備がない
- 加入目的が「決算対策」だけになっている
- 解約返戻金のピーク時期を理解していない
- 解約時の益金課税を見ていない
- 保険金を会社に残すのか遺族に支払うのか、決めていない
- 金融機関借入や役員借入金の全体像を把握していない
こうした状態で加入すると、保険は会社を守る仕組みではなく、資金繰りを圧迫する固定費になってしまいます。
保険提案を受けたときに確認すべき質問
法人保険の提案を受けたときは、次の質問をそのまま投げかけてみると、判断の精度が上がります。
- この保険の主目的は、退職金原資、事業保障、借入金対策のどれか
- 毎年の保険料はいくらで、何年間払い続ける必要があるか
- 保険料のうち、当期損金になる部分と資産計上される部分はいくらか
- 最高解約返戻率はいくらか
- 解約返戻金のピークはいつか
- 途中解約した場合の返戻金はいくらか
- 解約時に、法人側でどの程度の益金が出るか
- 退職金支給と同じ期に対応できるか
- 役員退職金の適正額は、保険金額とは別に計算されているか
- 死亡時に、保険金を会社にいくら残す設計か
- 借入金返済、運転資金、死亡退職金への配分は決まっているか
- 後継者や金融機関に説明できる資料があるか
- 解約、払済、契約者変更をする場合の税務処理は確認済みか
これらに明確な答えがない場合、その保険はまだ実行段階ではありません。
法人保険を「守れる設計」にするために残すべき資料
保険を使った退職金・事業保障・借入金対策では、資料の整備が重要になります。最低限、次の資料は残しておきたいところです。
- 保険証券
- 設計書
- 解約返戻金推移表
- 保険料の損金・資産計上の処理メモ
- 契約者、被保険者、受取人の整理表
- 加入目的を記載した稟議書または取締役会メモ
- 役員退職金規程
- 弔慰金規程
- 株主総会議事録
- 退職金計算資料
- 借入金一覧表
- 返済予定表
- 担保・保証一覧
- 後継者計画
- 代表者死亡時の資金使途メモ
- 税理士・会計士・保険担当者との検討記録
税務調査で問われるのは、保険に入っていたかどうかだけではありません。
なぜ加入したのか。誰のための保障だったのか。保険料処理は正しいか。解約時の処理は正しいか。退職金の支給額は相当か。死亡退職金と会社に残す資金の配分は合理的か。資料と会計処理と資金移動が一致しているか。
こうした説明に耐えられる状態をつくっておくことが、正しい法人保険活用の前提になります。
役員退職金・事業保障・借入金対策として保険を検討している方へ
法人保険は、うまく設計すれば、退職金原資、事業保障、借入金対策として有効な選択肢になり得ます。ただし、その判断は、保険料の損金算入だけでは下せません。
退職金の適正額。退職の事実。解約返戻金の時期。保険金収入と退職金支給の税務処理。会社に残す資金。借入金と個人保証。後継者への引継ぎ。相続税・死亡退職金の非課税枠。金融機関への説明可能性。
これらを一体として整理して、はじめて保険は会社を守る仕組みになります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人保険を商品販売の視点ではなく、税務・会計・資金繰り・役員退職金・事業承継・金融機関対応の視点から整理しています。
「保険で退職金を準備したいが、税務上どこまで認められるか確認したい」
「代表者に万一のことがあった場合の事業保障額を整理したい」
「借入金や個人保証に備えて法人保険を設計したい」
「過去に加入した保険が、今の会社に合っているか見直したい」
「保険解約と退職金支給のタイミングを決算前に確認したい」
こうした段階であれば、保険証券、設計書、解約返戻金推移表、決算書、申告書、借入金一覧、退職金規程をもとに、実行前の論点を整理できます。
ご相談をご希望の方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、現在の契約内容と検討している目的をお知らせください。保険を「節税商品」としてではなく、将来の資金需要に耐える設計として確認いたします。
本稿で参照した主な公式情報
出典:国税庁|No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
出典:国税庁|第3節 保険料等
出典:国税庁|第7款 退職給与
出典:国税庁|No.5203 使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
出典:国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
出典:国税庁|No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
出典:国税庁|No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)
出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
出典:国税庁|No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
振り返り|役員退職金・事業保障・借入金対策としての保険の判断ポイント
| 論点 | 確認すべきこと | 誤りやすい判断 |
|---|---|---|
| 保険の目的 | 退職金原資、事業保障、借入金対策のどれを主目的にするか | 保険料の損金算入から加入を決める |
| 退職金原資 | 退職予定時期、後継者計画、退職金規程、株主総会決議を確認する | 保険に入れば退職金が自動的に認められると考える |
| 退職金の適正額 | 功績、在任期間、最終報酬月額、会社規模、類似水準を確認する | 保険金額や解約返戻金から退職金額を逆算する |
| 保険金収入 | 法人が受け取る保険金は会社の収入として処理を確認する | 保険金収入と退職金支給を当然に相殺できると考える |
| 過大退職金リスク | 不相当に高額な部分が損金不算入にならないか確認する | 原資が保険金なら高額でも認められると考える |
| 解約返戻金 | 返戻率のピーク、途中解約時の返戻額、退職時期との一致を確認する | 返戻率だけを見て退職時期とのずれを見落とす |
| 保険料処理 | 損金算入額、資産計上額、取崩時期を確認する | 全額損金を前提に節税効果を計算する |
| 資金繰り | 保険料支払が納税、借入返済、賞与、運転資金を圧迫しないか確認する | 税金が減るなら現金流出は問題ないと考える |
| 事業保障 | 代表者死亡時の運転資金、売上減少、後継者支援資金を見積もる | 借入残高だけを保障額の基準にする |
| 借入金対策 | 借入残高、返済予定、担保、個人保証、金融機関対応を確認する | 保険に入れば金融機関対応が万全と考える |
| 死亡退職金 | 相続税上の死亡退職金非課税枠、支給確定時期、受取人を確認する | 生命保険金の非課税枠と混同する |
| 会社に残す資金 | 保険金を会社に残す部分と遺族へ支払う部分を分ける | 保険金全額を死亡退職金として支給する前提にする |
| 資料保存 | 保険証券、設計書、返戻金推移表、退職金計算資料、議事録を残す | 保険会社の提案資料だけで説明できると考える |
| 専門家相談 | 税務、会計、資金繰り、承継、金融機関対応を横断して検討する | 保険商品の条件だけで実行を決める |