海外子会社との取引は、国内取引以上に「後から説明できるかどうか」が厳しく問われます。
日本親会社と海外子会社の間で、商品の販売価格を下げる。海外子会社のために日本側の社員が出張して技術支援を行う。出向者の給与を親会社が負担する。海外子会社へ貸付けを行う。現地法人に利益を残す。こうした取引は、海外展開の実務では決して珍しいものではありません。
ただ、税務調査では、その取引が「事業上必要だったか」だけでは終わりません。次のような視点が加わります。
- 本来、日本親会社が受け取るべき対価を、受け取っていないのではないか
- 海外子会社へ、利益を移しているのではないか
- 契約書はあるものの、実際の意思決定や資金の流れと合っていないのではないか
- インボイス、通関資料、送金記録、メール、稟議書の内容が、互いに矛盾していないか
- 海外当局から得られる情報と、日本側の説明が一致しているか
国際税務調査は、単に「海外取引の税務処理を確認する調査」ではありません。契約、価格、物流、資金、メール、会計処理、現地申告、そして海外当局から得た情報までをつなぎ合わせ、取引の実態そのものを確かめる調査だと考えたほうが実務に近いといえます。
この記事では、国際税務調査で実際に見られやすい資料、否認されやすい論点、そして調査前に整えておきたい実務対応を整理します。
「契約書どおり」よりも「実際に何が起きたか」が見られる
海外子会社との取引について、契約書や請求書をきちんと整えている会社は少なくありません。
しかし、調査で問われるのは、契約書がそろっているかどうかだけではありません。次のような点が確認されます。
- 契約書に書かれた役務提供が、本当に行われたのか
- 価格改定の理由を、原価、為替、需給、品質、競争環境などで説明できるのか
- 海外子会社から受け取るべき手数料、利息、ロイヤルティ、保証料を、あえて取っていないのではないか
- 海外子会社の赤字補填を、業務委託料や販売価格の調整という形にしていないか
- 社内メールや稟議書に、税務処理とは違う目的が書かれていないか
実務では、税務調査において請求書や契約書よりも、取引が実現する前の段階で作られた資料が重視される傾向があります。契約書や請求書は取引の下流でつくられる書類です。そのため調査官は、より上流にある稟議書、事業計画、収支予測、価格改定資料、メールなどから、事実関係をたどっていきます。とりわけメールは、現場の意思決定の過程を示す原始資料として扱われやすい点に注意が必要です。
「契約書があるから大丈夫」という感覚ではなく、「契約書、請求書、会計処理、入出金、メール、現地側の資料が、同じ事実を指し示しているか」という視点が欠かせません。
国際税務専門官・国税局の専門部署が関与することがある
国際取引は、通常の国内取引とは調査の見方が異なります。
輸出入、海外子会社取引、海外での役務提供、外国法人への支払、海外在庫、国外関連者への貸付け、外国子会社合算税制。こうした取引には、貿易条件、貿易決済、通関資料、外国語資料、現地税制への理解が求められます。
実務上も、貿易取引を対象とする税務調査では、取引先への国内反面調査が容易ではないため、帳簿調査やヒアリングを中心に確認が進められます。そのうえで貿易条件、貿易決済、貿易関係資料、外国語への理解が必要となり、国際取引を専門に担当する国際税務専門官などが対応にあたることがあります。
また国税庁は、国際税務関係情報として、移転価格税制、BEPS、CRS、租税条約等に基づく情報交換、グローバル・ミニマム課税などをまとめて公表しています。国際税務は、法人税だけでなく、源泉所得税、消費税、外国子会社合算税制、外国税額控除、情報交換までを横断して見られる領域だといえます。
出典:国税庁|国際税務関係情報
海外取引は、国外送金等調書や情報交換でも把握される
国際税務調査で誤解されやすいのが、「海外の取引先だから、日本の税務署には分からないだろう」という感覚です。
しかし現在の調査では、国内資料だけでなく、国外送金等調書、租税条約等に基づく情報交換、CRSによる金融口座情報、国別報告事項、事業概況報告事項、現地当局からの情報などが幅広く活用されています。
国税庁は、租税条約等に基づく情報交換について、納税者の取引などの税に関する情報を二国間の税務当局間で互いに提供する仕組みだと説明しています。そのうえで、要請に基づく情報交換、自発的情報交換、自動的情報交換の3つの形態を示しています。
このうち要請に基づく情報交換は、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、外国税務当局へ必要な情報の収集・提供を要請するものです。自発的情報交換は、自国の調査などで入手した情報のうち、外国税務当局にとって有益と認められるものを、こちらから進んで提供するものです。そして自動的情報交換では、利子、配当、不動産賃貸料、無形資産の使用料、給与・報酬、株式の譲受対価など、非居住者等への支払情報が一括して送られてくることがあります。
出典:国税庁|租税条約等に基づく情報交換
つまり海外取引は、相手先への直接確認が難しい一方で、別の情報ルートから事実が確認されることがあるのです。
調査でまず見られる資料
国際税務調査で確認される資料は、法人の業種、取引形態、海外子会社の所在国、取引規模によって変わります。ただ、次の資料は多くの案件で確認対象になります。
| 資料の区分 | 主な資料 | 調査で見られるポイント |
|---|---|---|
| 契約関係 | 売買契約書、業務委託契約書、ライセンス契約書、金銭消費貸借契約書、保証契約書 | 契約内容と実際の取引・資金移動が一致しているか |
| 価格決定資料 | 価格表、見積書、価格改定稟議、原価資料、利益率資料、為替影響資料 | 価格改定に経済合理性があるか |
| 貿易資料 | インボイス、パッキングリスト、B/L、AWB、輸出入許可通知、保険証券、インコタームズ資料 | 物流、通関価格、売上・仕入計上が一致しているか |
| 資金移動 | 銀行送金記録、SWIFT、外国送金依頼書、入金明細、相殺明細 | 請求額、入金額、相殺額、為替差額が説明できるか |
| 会計資料 | 総勘定元帳、補助元帳、売掛金・買掛金明細、未収入金、未払金、棚卸明細 | 取引の計上時期・金額・相手先が正しいか |
| 現地資料 | 海外子会社の財務諸表、現地申告書、現地税額計算書、現地取締役会議事録 | 日本側の説明と現地側処理が整合しているか |
| 社内資料 | 事業計画、予算、稟議書、会議資料、価格改定メモ、役員会資料 | 取引目的・意思決定経緯が説明できるか |
| 電子データ | メール、チャット、共有フォルダ、電子契約、電子請求書、ERPデータ | 契約書・請求書と異なる実態がないか |
| 移転価格資料 | ローカルファイル、マスターファイル、国別報告事項、機能リスク分析 | 独立企業間価格を説明できるか |
| CFC関係 | 外国関係会社判定、租税負担割合、経済活動基準、受動的所得明細 | 外国子会社合算税制の判定が妥当か |
ここで大切なのは、資料を単体でそろえることではありません。
インボイスの金額と会計処理が合っている。送金額と請求額が合っている。価格改定稟議とメールの内容が矛盾していない。現地子会社の財務諸表と日本親会社の申告書別表がつながっている。こうした「資料と資料の間の整合性」こそが、調査対応の土台になります。
否認リスク1:インボイス価格と実際の取引価格が違う
輸出入取引では、インボイスが非常に重要な資料になります。
インボイスは請求書であると同時に、通関、物流、会計処理、消費税、関税、移転価格を確認するための資料でもあります。実務上、国際取引の調査では、アンダーバリュー輸出、オーバーバリュー輸入、ノーコマーシャルバリュー取引を装った売上除外、海外在庫の取得価額の算定誤りなどが、否認事例として挙げられます。
たとえば、通関時のインボイス金額と、実際に相手先から受け取った金額が食い違っているケースです。
- 関税を抑える目的で、インボイスを低く作成している
- 海外子会社の利益を調整するため、通常価格より安く販売している
- 見本品、宣伝用品、クレーム代替品として無償扱いにしているが、実際には販売している
- 海外倉庫までの輸送費・保険料・関税等を、棚卸資産の取得価額に含めていない
- 通関資料と、会計処理上の売上計上時期が一致していない
これらは、法人税だけでなく、消費税、関税、移転価格、さらには重加算税の問題へと広がることがあります。
インボイスは、単なる貿易実務の書類ではありません。税務調査では、取引の実態を確認する中心的な資料になります。
否認リスク2:価格改定が「海外子会社への利益供与」と見られる
海外子会社との取引では、価格改定が調査の入口になることがあります。
たとえば、日本親会社が海外子会社に製品を販売している場合に、現地子会社の赤字を支援するため、期末近くに販売価格を大幅に引き下げるケースです。経営上は「海外子会社の販売網を守るため」「現地市場の競争に対応するため」といった説明が成り立つこともあるでしょう。
しかし税務調査では、その価格改定を客観的に説明できるかどうかが見られます。
- 価格改定の時期が、決算直前に偏っていないか
- 海外子会社だけに、特別価格を適用していないか
- 第三者向け価格や他国子会社向け価格と比べて、不自然ではないか
- 値下げ理由を、原価、為替、市況、品質、競合価格で説明できるか
- メールや稟議書に、「赤字補填」「利益移転」「税負担調整」といった表現が残っていないか
実務では、海外子会社とのイレギュラーな価格改定について、メール調査を通じて、正当な価格改定ではなく海外子会社への利益供与であると判断され、国外関連者に対する寄附金課税の対象とされた事例が整理されています。メールは、価格改定の本当の目的を示す原始資料として見られやすい点に、あらためて注意が必要です。
価格改定そのものが悪いわけではありません。問われるのは、その理由を、当時の資料できちんと説明できるかどうかです。
否認リスク3:海外子会社への無償役務提供
海外子会社の立ち上げ時には、日本親会社の社員が現地に出張し、技術指導、品質管理、製造ラインの改善、販売支援、管理業務の支援などを行うことがあります。
このとき、日本親会社が費用を負担したまま、海外子会社から対価を受け取っていないと、税務調査で問題になりやすくなります。
海外子会社へ社員が出張していれば、その子会社に対して何らかの役務提供が行われていると見られます。実務上も、海外子会社への無償の役務提供については、独立企業間価格に相当する対価を得ているかどうかが、検討の対象になります。
特に注意したい役務は、次のようなものです。
- 製造技術支援
- 品質管理支援
- 現地従業員への教育訓練
- 販売戦略支援
- 会計・税務・法務・人事・ITなどの管理支援
- 資金管理や債権回収の支援
- 広告宣伝やマーケティング支援
- 海外子会社の経営改善支援
実務では、親会社が行う海外子会社の管理事務のなかに、予算作成・管理、会計、税務、法務、債権管理、情報システム、資金管理、従業員管理、給与・保険事務、広告宣伝、一般事務管理などが含まれる場合、それが役務提供に該当するかどうかを検討することになります。そして役務提供に該当するのであれば、少なくとも役務提供に要した総原価相当額を収受しない限り、移転価格税制上の問題が生じ得ると整理されています。
「海外子会社のためではなく、親会社の管理目的だった」と説明する場合でも、具体的にどの業務が株主活動で、どの業務が子会社のための役務提供なのかを、切り分けて示す必要があります。
否認リスク4:出向者給与の親会社負担
海外子会社へ出向者を派遣する場合、人件費の負担関係も調査で確認されます。
出向者が海外子会社の指揮命令のもとで現地業務に従事しているのであれば、その労務提供の便益は海外子会社に帰属します。そのため、海外子会社が負担すべき給与相当額を日本親会社が負担したままにしていると、国外関連者に対する寄附金として損金不算入とされるリスクがあります。
実務上も、出向先法人が出向者の人件費を応分に負担していなかった事例では、海外子会社が負担すべき額について、国外関連者に対する寄附金として損金不算入とされる整理がなされています。また、出向者が製造ノウハウ等の無形資産を供与している場合には、人件費の負担だけでなく、無形資産供与の対価についても移転価格税制上の検討が必要とされています。
出向者給与については、次の資料を整えておく必要があります。
- 出向契約書
- 出向元・出向先の雇用関係
- 指揮命令系統
- 職務内容
- 給与・賞与・社会保険・海外勤務手当の内訳
- 出向先負担額の計算根拠
- 現地での役割と、日本親会社への報告内容
- 無形資産やノウハウの提供の有無
単に給与較差補填金を日本親会社が負担した、という説明だけでは足りません。海外子会社が本来負担すべき部分と、日本親会社が負担すべき部分を分けて説明できる状態を整えておくことが求められます。
否認リスク5:低利・無利息貸付け、保証料の不収受
海外子会社への資金支援として、親会社が貸付けを行うことがあります。
このとき、利息を取っていない、あるいは極端に低い利率にしていると、移転価格税制上の問題になります。さらに、銀行借入や取引保証について親会社が保証しているにもかかわらず、保証料を受け取っていない場合も、調査の対象になり得ます。
確認される資料は、次のようなものです。
- 金銭消費貸借契約書
- 貸付実行日、返済期日、返済スケジュール
- 通貨、為替リスクの負担者
- 利率の決定根拠
- 親会社・子会社それぞれの借入利率
- 現地子会社の信用力
- 銀行借入契約
- 保証契約
- 保証対象債務の内容
- 保証料率の算定根拠
- 返済実績、延滞状況、債権管理資料
実務上、海外子会社に対する無利息・低利貸付けは、比較的簡易に独立企業間価格を算定できる取引として、一般の税務調査のなかで簡易な移転価格調査として扱われることがあります。
「子会社支援だから利息を取らない」という説明は、税務上は通りにくいことがあります。金融機関対応や海外事業の継続のために必要な支援であっても、税務の観点では、支援の方法、利率、返済可能性、債権管理、保証料の有無を、あらためて整理しておく必要があります。
否認リスク6:架空の業務委託料・紹介料・謝礼金
国際取引では、海外の取引先、現地エージェント、購買担当者、紹介者に対して、手数料や紹介料を支払うことがあります。
これらは、実態があれば事業上必要な支出になり得ます。しかし資料が弱い場合には、架空費用、交際費、寄附金、役員等への利益供与、重加算税といった問題につながりやすい支出でもあります。
特に危ういのは、実態としては受注謝礼金やリベートであるにもかかわらず、形式上は業務委託契約書を作成し、業務委託手数料として処理しているケースです。
実務では、海外取引に関連して架空の業務委託契約書を作成し、謝礼金を一般経費として処理した事例において、在外企業の信用調査報告書や外国税務当局との情報交換によって、事実関係が確認され得ることが示されています。
また、実態のない業務委託契約書を作成して支払手数料として処理していたものについて、その実態は受注謝礼金であると認定され、架空契約書の作成を含む一連の行為が隠蔽・仮装行為として重加算税の対象になり得ると整理された例もあります。
海外取引の手数料・紹介料については、次の点を確認しておきたいところです。
- 誰が、どのような役務を提供したのか
- 役務提供の成果物はあるか
- 相手方が、取引先の役員・従業員・購買担当者ではないか
- 利益相反や贈賄リスクはないか
- 契約書、請求書、業務報告書、メール、送金記録が一致しているか
- 支払額の算定根拠はあるか
- 相手国側で申告されているか
- 源泉税や租税条約の確認をしているか
国際税務の問題は、税務にとどまらず、コンプライアンス、内部統制、法務リスクにも広がっていきます。
否認リスク7:外国子会社合算税制の判定漏れ
国際税務調査では、海外子会社との日常取引だけでなく、外国子会社合算税制の適用の有無も確認されます。
軽課税国に所在する海外子会社、持株会社、金融会社、知的財産保有会社、地域統括会社、休眠会社などを有している場合は、特に注意が必要です。
- 海外子会社に実体があるか
- 現地で管理支配されているか
- 経済活動基準を満たしているか
- 租税負担割合はどう計算されているか
- 受動的所得があるか
- 申告書別表や添付・保存資料は整っているか
実務上、軽課税国に子会社があれば、調査官は外国子会社合算税制上の問題がないかを検討します。会社が適用除外と判断して所得を合算していない場合には、その判断が適正かどうかを確かめていきます。経済活動に関する要件を1つでも満たさなければ、実体と機能が備わっていても対象となる可能性がある、という点にも注意が必要です。
外国子会社合算税制は、前回の記事で整理したとおり、税率差だけで判断する制度ではありません。国際税務調査では、現地財務諸表、現地申告書、組織図、株主名簿、取締役会議事録、現地人員、オフィス、売上先・仕入先、受動的所得明細まで確認されます。
否認リスク8:源泉税の漏れ
海外取引では、法人税だけでなく、源泉所得税も重要な論点になります。
外国法人や非居住者に対して支払う次のような対価は、国内法や租税条約に基づいて、源泉徴収の要否を確認する必要があります。
- ロイヤルティ
- 工業所有権、著作権、ノウハウ等の使用料
- 人的役務提供事業の対価
- 利子
- 配当
- 不動産賃貸料
- 役員報酬
- 芸能・スポーツ関連の支払
- ソフトウェア、クラウド、デジタルサービス関連の支払
国税局の公表資料でも、海外取引法人等に対する取組として、国外送金等調書や租税条約等に基づく情報交換制度を活用した深度ある調査が行われていること、そして令和5事務年度に海外取引等に係る源泉所得税等の課税漏れが把握されていることが示されています。
出典:仙台国税局|令和5事務年度法人税及び源泉所得税等の課税状況
源泉税の判断にあたっては、相手国との租税条約、届出書、受益者の確認、支払内容、契約書の文言、実際の役務提供地を、ひとつずつ確認していく必要があります。
否認リスク9:消費税・リバースチャージ・国外サービス
国外事業者から、広告配信、クラウドサービス、SaaS、デジタルコンテンツ、コンサルティング、データ利用サービスなどを受けている場合、消費税の処理も確認対象になります。
特に、次の論点は誤りやすい部分です。
- 国内取引に該当するか
- 電気通信利用役務の提供に該当するか
- 事業者向け電気通信利用役務の提供か
- リバースチャージ方式の対象か
- 仕入税額控除できるか
- インボイスや請求書保存の要件を満たすか
- 国外事業者への支払が、源泉税の対象にもなるか
海外取引では、法人税、源泉税、消費税が同時に問題になることが少なくありません。ある支払を「海外広告費」として処理していても、法人税上の損金性、消費税上の課税区分、源泉所得税、移転価格、契約の実態を、それぞれ確認する必要があります。
移転価格調査では「価格設定の考え方」まで問われる
国外関連者との取引がある会社では、移転価格税制が大きな論点になります。
移転価格税制では、国外関連者との取引が、独立企業間で行われたとした場合の価格、すなわち独立企業間価格で行われたかどうかが問われます。
ここで重要なのは、ローカルファイルの作成義務があるかどうかだけではありません。作成義務の有無にかかわらず、価格設定の合理性を説明できるかどうかが問われます。
国税庁は、多国籍企業情報の報告に関して、移転価格文書化制度FAQ、ローカルファイル作成例示集、国別報告事項、事業概況報告事項などを公表しています。
出典:国税庁|多国籍企業情報の報告
また移転価格文書化制度FAQでは、ローカルファイルの同時文書化義務が、一定の国外関連取引規模・無形資産取引規模を下回る場合に免除されることが示されています。あわせて、調査で提示・提出を求められた日から45日を超えない範囲で指定された日までにローカルファイルの提示・提出がなかった場合には、推定課税等が行われ得ることも示されています。
出典:国税庁|移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)令和6年6月
したがってローカルファイルは、「調査が来たら作る資料」ではありません。取引の開始時、価格改定時、決算時に、価格設定の考え方を残しておくための資料だと捉えるのが実務的です。
「利益B」への対応も、海外子会社側で問題になる可能性がある
令和7年6月時点で、国税庁は、移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化アプローチ、いわゆる「利益B」に関するFAQを公表しています。OECD・G20のBEPS包摂的枠組みにおいて、基礎的なマーケティング・販売活動を行う販売会社の一定取引について、移転価格税制の適用を簡素化・合理化するアプローチが合意されました。令和7年1月1日以後に開始する事業年度から、実施する国・地域では対象取引に適用できるとされています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化アプローチに関するFAQ(令和7年6月)
もっとも国税庁は、日本では当面の間、この簡素化・合理化アプローチを実施しないとしています。ただし、日本法人の国外関連者が所在する国・地域では実施される可能性があります。そのため、現地側の移転価格対応と日本側の移転価格対応にズレが生じないよう、確認しておく必要があります。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化アプローチに関するFAQ(令和7年6月)
国際税務では、日本の制度だけでなく、現地側の制度改正も、日本側の説明に影響してきます。
電子データ保存とメール管理は、実務上の重要論点
国際取引では、契約書、請求書、注文書、送金依頼、価格改定資料、現地とのやり取りが、電子データで残っていることが多くなっています。
国税庁は、電子帳簿等保存制度について、会計ソフトで作成した帳簿のデータ保存、紙で受け取った請求書のスキャナ保存、取引先とデータで請求書・領収書などをやりとりした場合の保存方法も対象になると説明しています。
出典:国税庁|国税庁の取組紹介 電子帳簿保存
電子取引データについては、注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、請求書などに相当する電子データをやりとりした場合、その電子データを保存する必要があります。あわせて、改ざん防止措置、日付・金額・取引先で検索できる状態、ディスプレイやプリンタ等の備付けが求められます。
出典:国税庁|電子取引データの保存方法をご確認ください
国際税務調査では、メールや電子データが、取引の目的や価格改定の理由を示す重要な資料になります。都合の悪いメールを削除する、後から契約書を作る、過去の稟議書を改ざんする。こうした対応は、税務否認だけでなく、重加算税リスクにもつながります。
調査で説明できる会社は、資料の「時系列」が整っている
国際税務調査で強い資料とは、単に量が多い資料のことではありません。取引の時系列を説明できる資料のことです。
たとえば、海外子会社への販売価格を改定した場合、次の流れを資料で示せるかどうかが重要になります。
- 現地市場で価格競争が激化した
- 現地子会社から、販売価格の見直し要請があった
- 日本親会社が、原価、為替、競合価格、利益率を分析した
- 価格改定案が稟議に上がった
- 役員会または権限者が承認した
- 契約書または価格表を改定した
- 改定後の価格でインボイスを発行した
- 実際に代金が入金された
- 会計処理と移転価格資料に反映した
この一連の流れが残っていれば、価格改定の合理性を説明しやすくなります。
反対に、契約書だけがあって、稟議もメールも価格分析もない場合、「後から作った資料ではないか」と疑われることがあります。
重加算税リスクは「誤り」ではなく「隠したか・仮装したか」で変わる
国際税務では、処理が難しい論点が数多くあります。移転価格、CFC、源泉税、消費税、租税条約、現地税制が絡み合うため、結果として申告誤りが生じることもあります。
しかし、すべての誤りが重加算税になるわけではありません。
重加算税で問題になるのは、単なる判断誤りではなく、隠蔽・仮装と評価される行為です。たとえば、次のような行為は危険です。
- 実際には受注謝礼金なのに、架空の業務委託契約書を作る
- 海外子会社への赤字補填を、実態のない役務提供費として処理する
- インボイス金額を、実際の取引価格と変える
- 現地口座に売上を入金させ、帳簿に記録しない
- 価格改定の本当の目的を示すメールを隠す
- 出向者の実際の職務内容と異なる説明資料を作る
- 現地子会社の実体がないのに、会議録や業務資料だけを形式的に整える
国際税務調査では、税務処理の結論だけでなく、説明資料の作り方そのものも見られます。形式だけを整える行為は、かえってリスクを高めてしまいます。
税務調査前に確認しておきたい実務チェック
国際税務調査で慌てないためには、毎期の決算時に、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
1. 海外子会社取引の一覧化
海外子会社ごとに、売上、仕入、役務提供、貸付、保証、出向、人件費負担、ロイヤルティ、配当、資本取引を一覧にまとめます。
取引が一覧化されていない会社では、申告書別表、源泉税、移転価格、外国子会社合算税制の確認漏れが起きやすくなります。
2. 契約と実態の一致確認
契約書があっても、実際の取引と合っていなければリスクになります。
契約開始日、対価、支払条件、通貨、役務内容、成果物、知的財産の帰属、保証条件、利率、費用負担を確認します。
3. 価格改定理由の資料化
海外子会社との価格改定は、必ず理由を資料として残します。
為替、原価、物流費、関税、競合価格、市場価格、販売数量、品質問題、現地規制など、価格改定の根拠を残しておきます。
4. メール・稟議書の整合性確認
税務調査では、メールと正式書類の不一致が問題になります。
「税金を減らすため」「海外子会社に利益を残すため」「赤字補填のため」といった表現がある場合には、その取引が税務上どう説明できるのかを、事前に確認しておく必要があります。
5. 海外在庫・物流の確認
海外倉庫、保税倉庫、委託在庫、船積中在庫がある場合は、所有権の移転時期、売上計上時期、取得価額、輸送費、保険料、関税、棚卸計上を確認します。
6. 源泉税・租税条約の確認
外国法人への支払は、源泉税の要否を確認します。
租税条約を適用する場合は、届出書や相手方の居住者証明など、適用に必要な資料を整えておきます。
7. 移転価格文書の確認
ローカルファイルの作成義務があるかどうかだけでなく、機能・リスク・資産、比較対象、利益水準、価格設定方針を説明できるかを確認します。
8. CFC判定の確認
海外子会社の所在国税率、実効税負担、事業実体、管理支配、経済活動基準、受動的所得を確認します。
9. 電子取引データの保存
電子契約、電子請求書、PDFインボイス、メール添付資料、クラウド上の資料について、電子帳簿保存法に対応した保存体制を確認します。
相談前に整理しておきたい資料
国際税務調査や海外子会社取引について専門家に相談する場合、次の資料を準備しておくと、論点整理が進みやすくなります。
| 分野 | 準備すべき資料 |
|---|---|
| グループ構造 | 資本関係図、組織図、海外子会社一覧、所在地、設立目的、役員一覧 |
| 海外子会社取引 | 取引先別・国別の売上、仕入、役務提供、貸付、保証、ロイヤルティ一覧 |
| 契約 | 売買契約、業務委託契約、ライセンス契約、出向契約、金銭消費貸借契約、保証契約 |
| 貿易 | インボイス、パッキングリスト、B/L、AWB、輸出入許可通知、インコタームズ資料 |
| 資金 | 銀行送金記録、SWIFT、入出金明細、相殺明細、外貨建債権債務明細 |
| 価格 | 価格表、価格改定稟議、原価計算、利益率分析、為替影響資料、第三者取引資料 |
| 役務提供 | 出張記録、業務報告書、成果物、工数表、給与・旅費明細、配賦計算資料 |
| 出向 | 出向契約、職務内容、指揮命令系統、給与負担計算、現地役割資料 |
| 移転価格 | ローカルファイル、マスターファイル、国別報告事項、比較対象分析、機能リスク分析 |
| CFC | 現地財務諸表、現地申告書、租税負担割合、経済活動基準、受動的所得明細 |
| 源泉税 | 外国法人への支払明細、租税条約届出書、居住者証明、支払内容別判定資料 |
| 電子データ | メール、チャット、電子契約、電子請求書、共有フォルダ、バックアップ方針 |
| 過去対応 | 過去の税務調査資料、修正申告書、専門家意見書、現地税務調査結果 |
国際税務は、資料が散らばりやすい分野です。経理部門だけでなく、海外事業部、営業部、購買部、物流部、法務部、情報システム部、そして現地子会社まで巻き込んで整理していく必要があります。
国際税務調査で守れる節税は、事前設計で決まる
海外子会社を使った税負担の最適化は、制度上認められる場合があります。
ただし、その前提となるのは、利益配分が事業の実態に合っていることです。
- 海外子会社に、どの機能があるのか
- どのリスクを負っているのか
- どの資産を使っているのか
- どこで意思決定しているのか
- どの対価を、誰が受け取るべきなのか
- それを、資料で説明できるか
税率差を利用するという発想だけでは、国際税務調査には耐えられません。
むしろ国際税務調査で問われるのは、「海外子会社を使った節税かどうか」ではありません。「その海外取引は、第三者間でも同じように行われる取引か」「その処理は、契約・資料・資金・現地の実態で説明できるか」という点です。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
海外子会社取引は、税務調査が入ってから資料を整えようとしても、間に合わないことがあります。
契約書、インボイス、送金記録、メール、価格改定資料、移転価格文書、外国子会社合算税制の判定、源泉税、消費税、現地申告資料を、横断して確認する必要があるためです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、海外子会社取引について、税務調査で説明できる資料整理、移転価格・国外関連者寄附金・外国子会社合算税制・源泉税・消費税の論点整理、調査前のリスクレビューを支援しています。
海外子会社との価格改定、役務提供、出向者給与、貸付利息、保証料、ロイヤルティ、海外在庫、現地税制優遇、軽課税国子会社がある場合は、早めに論点を整理しておくことが大切です。国際税務調査への備えを進めたい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 調査で見られること | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 国際税務調査の基本 | 契約書だけでなく、実際の取引、資金、メール、現地資料が見られる | 資料間の整合性を確認する |
| 国際税務専門官 | 貿易条件、決済、外国語資料、海外取引特有の否認リスクが見られる | 海外取引を通常取引と分けて管理する |
| 情報交換 | 国内資料だけでなく、外国税務当局からの情報も活用される | 現地申告と日本側処理を一致させる |
| インボイス | 通関価格、請求額、会計処理、入金額の不一致が問題になる | 貿易資料と会計資料を突合する |
| 価格改定 | 海外子会社への利益供与ではないかが見られる | 価格改定理由を稟議・分析資料で残す |
| 無償役務提供 | 親会社が海外子会社へ役務を提供していないかが見られる | 役務内容、工数、原価、対価を整理する |
| 出向者給与 | 海外子会社が負担すべき人件費を親会社が負担していないか | 出向契約、職務内容、給与負担計算を残す |
| 貸付・保証 | 利息や保証料が独立企業間価格になっているか | 利率・保証料率の根拠を保存する |
| 業務委託料・紹介料 | 実態のない手数料や謝礼金ではないか | 役務内容、成果物、相手方属性を確認する |
| 移転価格文書 | ローカルファイルだけでなく価格設定の考え方が問われる | 機能・リスク・資産、比較対象、利益水準を整理する |
| CFC税制 | 外国子会社合算税制の判定漏れがないか | 租税負担割合、経済活動基準、受動的所得を確認する |
| 源泉税 | 外国法人・非居住者への支払で源泉漏れがないか | 租税条約、届出書、支払内容を確認する |
| 消費税 | 国外サービス、リバースチャージ、仕入税額控除が見られる | 課税区分と請求書保存を確認する |
| 電子データ | メール、電子契約、電子請求書が原始資料として見られる | 電子帳簿保存法に対応した保存体制を作る |
| 重加算税 | 架空契約、資料改ざん、売上除外など隠蔽・仮装が問題になる | 後付け資料ではなく、当時資料を残す |
| 相談前整理 | 海外取引は部門横断で資料が分散しやすい | 経理・海外事業・法務・物流・現地子会社で資料を集約する |