生前贈与は、相続対策のなかでも特に身近な選択肢です。
- 「毎年110万円までなら贈与税がかからない」
- 「相続時精算課税を使えばまとまった財産を移せる」
- 「子や孫に住宅資金や教育資金を渡したい」
- 「配偶者に自宅を贈与したい」
- 「不動産や自社株を早めに移しておきたい」
実務のなかで、こうしたご相談をいただくことは少なくありません。
ただし生前贈与は、財産を前倒しで移すだけの手続ではありません。贈与者と受贈者の意思、財産の管理、贈与税申告、相続税への加算、名義財産の認定、みなし贈与、遺留分、二次相続、そして税務調査での説明可能性まで、幅広い論点につながっていきます。
民法上、贈与は、当事者の一方が財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することで効力を生ずる契約です。したがって、「親が子の名義に変えた」「通帳だけ作った」「家族のために動かした」というだけでは、贈与として十分に説明できるとは限りません。
出典:e-Gov法令検索|民法
このテーマでは、生前贈与を単なる「節税策」としてではなく、家族・資産・税務・法務・納税資金・将来承継を含む意思決定として整理していきます。
このテーマで理解できること
第4テーマでは、生前贈与を検討される方が、詳細な制度説明に入る前に、次のような論点地図を持てることを目指します。
まず確認したいのは、贈与が本当に成立しているのか、という点です。贈与契約、意思表示、受諾、財産移転、受贈者による管理、証拠の残し方。これらを確認しないまま進めてしまうと、将来の相続税申告で「贈与したつもりだった財産」が名義財産として問題になる可能性があります。
次に、暦年課税と相続時精算課税を比較します。暦年贈与は、令和6年以後の贈与について相続財産への加算期間が見直され、相続開始前7年以内の贈与が加算対象となる方向で、段階的に適用されていきます。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
一方、相続時精算課税については、令和6年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除が設けられました。ただし、いったん選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税へ戻ることはできません。「使えるか」だけでなく、「使うべきか」を検討する必要があります。
出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択
さらに、目的別の非課税制度も扱います。住宅取得等資金、教育資金、結婚・子育て資金の贈与は、要件や期限、管理方法、相続時の取扱いがそれぞれ異なります。
住宅取得等資金の非課税措置は、令和6年度税制改正により、令和6年から令和8年まで延長されています。教育資金の一括贈与に係る非課税措置は、令和8年3月31日までで終了し、令和8年4月1日以後は新たに適用を受けることができないとされています。結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置は、国税庁のタックスアンサー上、令和9年3月31日までの制度として案内されています。
出典:国土交通省|住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置
出典:国税庁|No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税
出典:国税庁|No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税
このテーマで重視するのは、制度の一覧を覚えることではありません。贈与を実行した後、相続税申告、遺産分割、税務調査、二次相続の場面でどのように説明できるか。そこに重点を置いて整理します。
生前贈与で最初に避けたい誤解
生前贈与では、次のような誤解が、実務上の問題につながりやすくなります。
まず、「110万円以下なら何をしても安全」という理解は危険です。基礎控除の範囲内であっても、贈与契約の成立、受贈者による管理、資金移動の記録が不十分であれば、将来の相続税申告で名義財産として問題になることがあります。
次に、「相続時精算課税は2,500万円まで非課税だから有利」とだけ考えるのも、十分ではありません。相続時精算課税は、贈与時の負担を抑えつつ、相続時に精算する制度です。令和6年以後の基礎控除創設によって使い勝手は変わりましたが、選択の不可逆性、相続税への加算、対象財産の値下がり、小規模宅地等の特例との関係などを、あらためて確認する必要があります。
「名義を変えれば贈与になる」という理解も危険です。通帳、印鑑、キャッシュカード、証券口座、不動産収益、配当、賃料を誰が管理していたか。この点は、贈与の実態を説明するうえで重要な意味を持ちます。
「親族間だから時価を厳密に考えなくてもよい」という判断も避けるべきです。個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合には、時価と対価との差額が、贈与により取得したものとみなされることがあります。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
また、対価を支払わないで、または著しく低い対価で債務免除等による利益を受けた場合にも、一定の利益が贈与により取得したものとみなされることがあります。
出典:国税庁|No.4424 債務免除等を受けた場合
生前贈与は、形式だけを整えれば足りるものではありません。経済的利益の移転、財産管理、時価、証拠、相続時の説明を、一体として確認していく必要があります。
このテーマを読む前提
第4テーマは、第3テーマ「相続税・贈与税の基本構造と申告要否」を読んだ後に進むことを想定しています。
贈与税は、相続税と切り離された税金ではありません。贈与税は相続税を補完する性格を持ち、生前の財産移転が将来の相続税計算に反映される場面があります。生前贈与を考える前に、相続税の課税財産、基礎控除、相続税の総額、税額控除、配偶者の税額軽減、申告要否といった基本を押さえておくと、制度選択の意味が理解しやすくなります。
また、第5テーマ「遺言・遺産分割・遺留分と課税関係」とも強くつながります。生前贈与は、相続人間の公平感、特別受益、遺留分、代償金、遺言内容に影響するためです。税務上は問題の少ない贈与であっても、家族関係の面では紛争の火種になることがあります。
不動産や非上場株式を贈与する場合には、第6テーマ以降の財産評価、不動産、土地評価、小規模宅地等、非上場株式、生命保険・金融資産の各テーマも、あわせて参照してください。
推奨する読み順
第4テーマは、次の順番で読み進めていただくと、理解しやすくなります。
最初に、4-1で贈与の基本を確認します。ここでは、贈与契約、意思表示、受諾、財産移転、管理、証拠という、すべての生前贈与に共通する土台を扱います。贈与税の制度を比較する前に、「そもそも贈与として成立し、将来説明できる状態にあるか」を確認するための記事です。
次に、4-2で暦年贈与と相続財産への加算を整理します。毎年の贈与を相続税対策に使いたい方は、基礎控除だけでなく、令和6年以後の加算期間の見直し、加算対象者、贈与税申告、証拠管理まで理解しておく必要があります。
その次に、4-3で相続時精算課税制度を確認します。暦年課税との比較、対象者、届出、基礎控除、特別控除、相続時の加算、そして撤回できないという特徴を整理し、どのような場面で検討対象になるのかを考えます。
4-4では、住宅取得等資金、教育資金、結婚・子育て資金の贈与を扱います。目的別非課税制度は便利に見えますが、資金使途、年齢、期限、申告・金融機関管理、贈与者死亡時の取扱いを確認しなければなりません。
4-5では、贈与税の配偶者控除と居住用不動産の贈与を扱います。婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金の贈与が行われた場合には、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できる特例があります。ただし、登録免許税、不動産取得税、二次相続、小規模宅地等との関係を確認しなければ、税額だけで判断することはできません。
出典:国税庁|No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
4-6では、名義預金・名義株式と贈与の証拠を整理します。子や孫名義の口座、証券口座、保険契約がある場合に、相続財産とされないために何を確認すべきかを扱います。
4-7では、定期贈与・連年贈与と税務上の誤解を整理します。毎年同じ金額を贈与している場合に、毎年の贈与契約として説明できるのか、それとも、あらかじめまとまった金額を分割で渡す契約になっていないかを確認します。
4-8では、低額譲渡、負担付贈与、債務免除のみなし贈与を扱います。親族間や同族会社との取引では、現金を渡していなくても、経済的利益の移転が贈与税の問題になることがあります。
4-9では、不動産、株式、保険を贈与するときの注意点を比較します。財産ごとに、評価方法、名義変更、管理負担、将来売却、所得税、相続時の特例、税務調査で見られる点が異なるためです。
最後に、4-10で、生前贈与を相続対策に組み込む判断手順を整理します。目的、対象者、財産、税額、証拠、相続時加算、遺留分、二次相続を一つの流れで確認し、ご自身に合う贈与方針を考えるための記事です。
4-1. 生前贈与を始める前に確認すべき基本
生前贈与を始めたい方は、まずこのコラムからお読みください。
ここでは、贈与税の制度比較に入る前に、贈与の目的、贈与契約の成立、贈与者と受贈者の意思、財産移転、受贈者による管理、証拠の残し方を整理します。
生前贈与は、相続税を減らすための単純な作業ではありません。贈与者本人の意思があり、受贈者がそれを受け取り、実際に管理できる状態になっていること。この点が何より重要です。
このコラムは、「贈与を始めたいが、何から確認すべきか分からない」「親名義の財産を子へ移してよいか迷っている」「将来、相続税申告で問題にならない贈与にしたい」という方に向いています。
4-2. 暦年贈与と相続財産への加算
毎年の贈与を相続税対策に使いたい方は、このコラムで暦年課税の基本と、相続財産への加算を確認してください。
暦年課税では、1年間に贈与を受けた財産から基礎控除110万円を差し引いて、贈与税を計算します。
出典:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
ただし、令和6年以後の贈与については、相続財産への加算期間の見直しが重要な意味を持ちます。相続直前の贈与だけで相続税対策を考えるのではなく、長期的な財産移転、受贈者の管理、贈与税申告、相続人間の公平までを確認しておく必要があります。
このコラムは、「毎年110万円ずつ贈与すればよいのか」「相続開始前の贈与はどこまで相続税に戻るのか」「子と孫のどちらに贈与すべきか迷っている」という方に向いています。
4-3. 相続時精算課税制度の使いどころと注意点
相続時精算課税を選ぶべきか迷っている方は、このコラムで制度の位置づけを確認してください。
相続時精算課税は、まとまった財産の移転、将来値上がりが見込まれる財産の承継、事業承継、不動産収益の移転といった場面で検討されることがあります。令和6年以後は基礎控除が設けられたため、以前よりも検討対象になる場面が増えています。
しかし、相続時精算課税は、選択した後に暦年課税へ戻ることができません。また、贈与者ごとに制度を選択するため、父からの贈与、母からの贈与、祖父母からの贈与を、それぞれ分けて整理する必要があります。
このコラムは、「相続時精算課税を使うと有利なのか」「令和6年以後の基礎控除をどう考えるべきか」「土地や株式の贈与に使ってよいか」を知りたい方に向いています。
4-4. 住宅取得等資金・教育資金・結婚子育て資金の贈与
子や孫の住宅、教育、結婚・子育てを支援したい方は、このコラムで目的別非課税制度を整理してください。
これらの制度は、単なる節税制度ではありません。資金の使途、受贈者の年齢、所得、期限、金融機関管理、申告手続、そして贈与者が亡くなったときの課税関係まで確認する必要があります。
特に、教育資金の一括贈与の非課税措置は、令和8年3月31日までで終了し、令和8年4月1日以後は新たに適用を受けることができないとされています。制度の期限、経過的な取扱い、すでに拠出した資金の管理については、慎重な確認が欠かせません。
出典:国税庁|No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税
このコラムは、「住宅資金を援助したい」「教育資金を一括で渡したい」「制度終了や期限が気になる」「非課税制度を使った後の相続税が心配」という方に向いています。
4-5. 贈与税の配偶者控除と居住用不動産の贈与
配偶者へ自宅や自宅取得資金を贈与したい方は、このコラムで配偶者控除の役割を確認してください。
配偶者控除は、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産またはその取得資金を贈与する場合に、基礎控除110万円に加えて、最高2,000万円まで控除できる特例です。
ただし、自宅を生前贈与すれば常に有利になる、というわけではありません。登録免許税、不動産取得税、将来の相続税、小規模宅地等の特例、二次相続、そして配偶者の生活資金まで、あわせて検討する必要があります。
このコラムは、「配偶者に自宅を渡しておきたい」「配偶者の生活保障を考えたい」「自宅を贈与するか相続で承継するか迷っている」という方に向いています。
4-6. 名義預金・名義株式と贈与の証拠
子や孫名義の預金・証券口座がある方は、このコラムをぜひ確認しておいてください。
名義が子や孫であっても、資金の原資が親であり、通帳や印鑑を親が管理し、受贈者が自由に使えない状態であれば、相続税申告時に名義財産として問題になる可能性があります。
このコラムでは、贈与契約書、振込記録、贈与税申告、通帳・印鑑・キャッシュカードの管理、配当・利息・収益の帰属、そして税務調査で確認されやすい点を整理します。
このコラムは、「子や孫名義の預金がある」「過去に贈与したつもりの財産がある」「税務調査で名義財産とされないか不安」という方に向いています。
4-7. 定期贈与・連年贈与と税務上の誤解
毎年同じ金額を贈与している方、またはこれから毎年贈与を続けたい方は、このコラムで定期贈与・連年贈与の考え方を整理してください。
毎年贈与すること自体が、直ちに問題になるわけではありません。しかし、最初から一定額を分割して渡す合意があったと見られる場合には、単なる毎年の贈与とは異なる評価を受ける可能性があります。
このコラムでは、毎年の贈与契約、贈与時期、金額、証拠化、贈与税申告、受贈者の管理実態を中心に扱います。
このコラムは、「毎年110万円ずつ贈与している」「同じ日に同じ金額を振り込んでいる」「定期贈与と見られないか心配」という方に向いています。
4-8. 低額譲渡・負担付贈与・債務免除のみなし贈与
親族間取引や同族会社との取引がある方は、このコラムでみなし贈与の考え方を確認してください。
みなし贈与では、当事者が「贈与」と考えていなくても、経済的利益が移転していれば、贈与税の問題になることがあります。代表例は、著しく低い価額での財産譲渡、負担付贈与、債務免除、そして同族会社を介した価値移転です。
この領域では、不動産や非上場株式の時価判断が重要になります。相続税評価額を使えば必ず安全というわけではなく、取引目的、当事者関係、時価資料、法人税・所得税との関係まで確認する必要があります。
このコラムは、「親族間で不動産を売買したい」「会社への貸付金を放棄したい」「自社株や同族会社との取引で贈与税が心配」という方に向いています。
4-9. 不動産・株式・保険を贈与するときの注意点
どの財産を贈与すべきか迷っている方は、このコラムで財産別の論点を比較してください。
現金の贈与と、不動産、上場株式、非上場株式、保険契約、収益物件の贈与とでは、確認すべき事項が大きく異なります。
- 不動産:評価、登記、流通税、賃料収入、借入金、将来売却時の所得税、小規模宅地等との関係が問題になります。
- 上場株式:贈与時の評価、配当、取得費、将来売却時の課税を確認します。
- 非上場株式:株主判定、議決権、会社規模、純資産価額、類似業種比準価額、後継者、遺留分、納税資金まで関係します。
- 保険契約:契約者、被保険者、受取人、保険料負担者、契約者変更履歴を整理する必要があります。
このコラムは、「現金以外の財産を贈与したい」「収益物件や自社株を移すべきか迷っている」「保険契約の名義変更を検討している」という方に向いています。
4-10. 生前贈与を相続対策に組み込む判断手順
第4テーマのまとめとして、生前贈与を相続対策に組み込む前の判断手順を整理します。
ここでは、贈与の目的、対象者、財産、税額、証拠、相続時加算、遺留分、二次相続を、一つの流れとして確認します。
生前贈与は、制度を単独で選ぶものではありません。財産全体、家族関係、遺産分割、遺言、納税資金、財産評価、申告実務と、すべてつながっています。
このコラムは、「自分に合う贈与方針を整理したい」「詳細コラムを読んだうえで全体をまとめたい」「専門家相談の前に論点を整理したい」という方に向いています。
このテーマで特に重視する判断軸
第4テーマでは、贈与の有利不利を、単純な税額だけで判断しません。重視するのは、次のような判断軸です。
第一に、本人の意思が明確かどうか
高齢の親の財産を動かす場合、本人が贈与の内容を理解し、自ら意思決定できる状態にあるかを確認する必要があります。判断能力に不安がある場合は、第15テーマの認知症、任意後見、家族信託の論点と接続します。
第二に、受贈者が財産を管理できるかどうか
受贈者が自由に管理・処分できない財産は、名義だけを移したものとして問題になる可能性があります。
第三に、相続人間の公平を説明できるかどうか
生前贈与は、特別受益、遺留分、代償金、遺言内容に影響します。税務上の加算対象と、民法上の公平調整は、同じものではありません。
第四に、財産評価と時価の根拠を残せるかどうか
不動産、非上場株式、同族会社取引では、時価や評価根拠が特に重要になります。
第五に、相続税申告時に説明できるかどうか
贈与契約書、振込記録、申告書、評価資料、受贈者の管理実態が残っていなければ、相続発生後に説明することは難しくなります。
第六に、二次相続まで見て合理的かどうか
一次相続の税額だけを抑えても、配偶者や子世代の次の相続で負担が増えてしまうことがあります。
詳細コラムの選び方
はじめて生前贈与を検討する方は、4-1、4-2、4-3、4-10の順に読むと、基本から制度選択、全体判断までつながります。
毎年の贈与をすでに続けている方は、4-2、4-6、4-7を優先してください。基礎控除だけでなく、相続財産への加算、名義財産、定期贈与の誤解を整理できます。
相続時精算課税を検討している方は、4-3を中心にお読みください。贈与する財産が不動産・株式・保険であれば、4-9もあわせて確認しておくと安心です。
住宅・教育・結婚子育て資金の支援を考えている方は、4-4を確認してください。制度の期限や管理方法が変わるため、最新の公式情報と、実際の資金使途を照合する必要があります。
配偶者へ自宅を贈与したい方は、4-5を読み、その後、第9テーマの小規模宅地等、第5テーマの遺言・遺産分割、第13テーマの二次相続・納税資金へ進むと、判断しやすくなります。
子や孫名義の預金・株式がある方は、4-6を優先してください。相続税申告で名義財産と見られないためには、贈与の成立と管理実態を説明できることが重要です。
親族間売買、同族会社への貸付金放棄、不動産の低額譲渡、自社株の移転を考えている方は、4-8と4-9をあわせてお読みください。ここでは、贈与税だけでなく、所得税、法人税、株式評価、不動産時価が関係します。
生前贈与と他テーマのつながり
生前贈与は、第4テーマだけで完結するものではありません。
遺言との関係では、第5テーマを確認します。生前贈与を受けた方と、遺言で財産を取得する方が異なる場合、相続人間の公平や遺留分の問題が生じることがあります。
財産評価との関係では、第6テーマ、第7テーマ、第11テーマを確認します。不動産や非上場株式の贈与では、評価根拠が申告後の説明可能性を左右します。
不動産との関係では、第8テーマ、第9テーマ、第10テーマを確認します。自宅、収益物件、農地、貸地、借地権、共有持分を贈与する場合には、税務だけでなく、登記、建築、権利関係、将来利用も問題になります。
生命保険・金融資産との関係では、第12テーマを確認します。保険契約者変更、保険料負担者、受取人、名義預金、名義株式は、生前贈与と相続税申告の両方で重要な意味を持ちます。
納税資金との関係では、第13テーマを確認します。贈与によって財産を移しても、相続時に納税資金が不足しては本末転倒です。
申告実務との関係では、第14テーマを確認します。生前贈与の履歴は、相続税申告で確認される重要な資料です。なお、贈与税の申告と納税は、原則として財産をもらった人が、もらった年の翌年2月1日から3月15日までに行います。
出典:国税庁|No.4429 贈与税の申告と納税
認知症・高齢期の財産管理との関係では、第15テーマを確認します。判断能力が低下した後に贈与を進めることは、税務以前に、法務上の有効性や家族間紛争の問題を生じさせます。
相談前に整理しておきたいこと
生前贈与について専門家に相談される前に、次の情報を整理しておいていただくと、制度選択の議論が現実的なものになります。
- 家族関係:推定相続人、相続人以外で贈与を検討している方、過去の援助や贈与、将来の不公平感が生じそうな点を整理します。
- 財産:現預金、不動産、有価証券、非上場株式、保険契約、貸付金、債務、同族会社関係資産を一覧化します。
- 過去の贈与:贈与契約書、振込記録、贈与税申告書、相続時精算課税選択届出書、受贈者の管理状況を確認します。
- 不動産:登記事項証明書、固定資産税課税明細、賃貸借契約、借入金、路線価、評価資料、共有関係を整理します。
- 非上場株式:決算書、申告書、株主名簿、定款、議事録、役員貸付金・借入金、会社保有不動産を確認します。
- 保険:保険証券、契約者、被保険者、受取人、保険料負担者、契約者変更履歴、解約返戻金資料を整理します。
- 本人意思:誰に何を渡したいのか、生活資金は足りるのか、介護費や医療費をどう確保するのかを確認します。
このテーマを読むうえでの注意点
このテーマは、生前贈与を否定するものではありません。適切に設計された贈与は、相続税対策、納税資金対策、生活支援、事業承継、家族間の調整に役立つことがあります。
しかし、贈与は一度実行すると、簡単に元へ戻せるものではありません。相続税額だけを見て財産を移してしまうと、将来の分割、税務調査、二次相続、財産管理の場面で問題になることがあります。
生前贈与を考えるときは、「できるか」だけでなく、「行うべきか」「後から説明できるか」「親族関係と税務の双方に耐えられるか」を確認していただきたいと思います。
生前贈与の方針を整理したい方へ
生前贈与は、制度を知っているだけでは十分ではありません。
家族関係、財産構成、過去の贈与、相続税試算、二次相続、遺言、納税資金、財産評価、税務調査リスク。これらを並べたうえで、どの財産を、誰に、いつ、どの制度で移すのかを判断する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、生前贈与について、単に贈与税額を計算するだけでなく、将来の相続税申告、名義財産、相続時加算、遺留分、二次相続、財産評価、申告後の説明可能性まで含めて整理いたします。
「毎年の贈与を続けてよいか」「相続時精算課税を選ぶべきか」「不動産や自社株を贈与してよいか」「過去の贈与が相続税申告で問題にならないか」。このように感じておられる方は、財産資料と贈与履歴を整理したうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り
| 確認項目 | このテーマでの位置づけ |
|---|---|
| 生前贈与の基本 | 4-1で、贈与契約、意思表示、受諾、財産移転、管理、証拠を確認する |
| 暦年贈与 | 4-2で、基礎控除、相続財産への加算、加算対象者、証拠管理を整理する |
| 相続時精算課税 | 4-3で、令和6年以後の基礎控除、特別控除、相続時の精算、撤回不可を確認する |
| 目的別非課税制度 | 4-4で、住宅取得等資金、教育資金、結婚・子育て資金の要件と期限を確認する |
| 配偶者への居住用不動産贈与 | 4-5で、配偶者控除、流通税、二次相続、小規模宅地等との関係を整理する |
| 名義財産 | 4-6で、名義預金・名義株式と贈与の証拠を確認する |
| 定期贈与・連年贈与 | 4-7で、毎年の贈与契約と証拠化を確認する |
| みなし贈与 | 4-8で、低額譲渡、負担付贈与、債務免除、同族会社取引を整理する |
| 財産別の贈与 | 4-9で、不動産、株式、保険ごとの税務リスクと管理負担を比較する |
| 贈与方針のまとめ | 4-10で、目的、対象者、財産、税額、証拠、遺留分、二次相続を総合判断する |
| 他テーマとの接続 | 遺言、財産評価、不動産、非上場株式、保険、納税資金、申告実務とつなげて読む |
| 相談前整理 | 家族関係、財産一覧、贈与履歴、評価資料、本人意思を整理する |