監査計画の作り方と更新判断|リスクの変化に応じて監査を設計し直す実務

監査計画は、往査日程や担当者割当をまとめた管理表ではありません。

法定監査における監査計画とは、監査人が、どの財務諸表項目に、どの程度の虚偽表示リスクを見込むのか。どの内部統制を理解し、評価するのか。どの監査証拠を、いつ、どの深度で入手するのか。そして、最終的に監査意見をどのように形成するのか。それらを示す判断文書です。

したがって、監査計画の作成で重要なのは、標準的な手続を漏れなく並べることではありません。次の問いに答えられる状態を作ることこそが、本質だといえます。

  • なぜ、その領域を重要と判断したのか
  • なぜ、その手続をその時期に実施するのか
  • なぜ、内部統制に依拠する、または依拠しないのか
  • なぜ、その監査証拠で意見形成に足りると考えたのか
  • なぜ、期中で計画を更新した、または更新しなかったのか

監査計画は、期首に作成して監査調書に保存するための文書ではありません。監査期間を通じて、リスクの変化に応じて更新されるべき、実務上の設計図です。

日本公認会計士協会の監査実務指針等では、監査基準報告書300「監査計画」、315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」、320「監査の計画及び実施における重要性」、330「評価したリスクに対応する監査人の手続」、500「監査証拠」、701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」などが公表されています。監査計画を考えるうえでは、これらを個別に読むだけでは足りません。リスク評価、重要性、監査手続、証拠形成、監査報告までを接続して理解する必要があります。
出典:日本公認会計士協会|監査実務指針等

また、監査基準は、財務諸表監査の目的を次のように位置づけています。すなわち、経営者が作成した財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠し、全ての重要な点において適正に表示されているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を、意見として表明することにある、というものです。監査計画は、この目的から逆算して作成されるべきものだといえます。
出典:金融庁|監査基準

目次

監査計画を「手続表」として作ると、なぜ弱くなるのか

監査計画が弱くなる原因の多くは、監査計画を「前年調書の更新」として扱ってしまうところにあります。

前年度の計画をコピーし、勘定科目別の手続を少し修正し、日程と担当者を入れ替える。それだけでも、一見すると監査計画らしい文書は作れてしまいます。しかし、それでは当年度の事業環境、業績、組織体制、内部統制、会計上の見積り、資金繰り、開示、ガバナンス、IT環境の変化が、十分に反映されません。

監査計画が形式的になると、次のような問題が生じます。

形式的な監査計画で起こる問題実務上の影響
前年度と同じ重点領域を置く当年度固有のリスクを見落とす
勘定科目別手続だけで組み立てる事業リスク、内部統制、開示リスクとの接続が弱くなる
期末監査中心に設計する期中に把握すべき統制不備や不正リスクへの対応が遅れる
監査資源の配分根拠が不明確になる審査担当者に、なぜその深度で実施したかを説明しにくい
計画変更の記録が残らない後から見たときに、判断過程を追跡できない
監査役等との共有が不十分になる重要論点がガバナンス上の対話につながらない

監査計画は、監査の「予定」ではなく、監査人の「注意の向け方」を示すものです。

何を重点的に監査するかを決めることは、裏を返せば、何を重点的に監査しないかを決めることでもあります。すべての領域を同じ深度で見ることは現実的ではありませんし、監査基準が求めるリスク・アプローチとも整合しません。重要な虚偽表示リスクが高い領域に監査資源を集中させ、低い領域では合理的な範囲で手続を設計する。その判断を支えるのが、監査計画です。

監査リスク・アプローチは、重要な虚偽表示が生じる可能性が高い事項に監査の人員や時間を重点的に充てることで、監査を効果的かつ効率的に実施する考え方として位置づけられています。
出典:金融庁|監査基準の改訂に関する意見書

監査計画で最初に決めるべきこと

監査計画を作る際、最初から詳細な監査手続に入るべきではありません。

まず決めるべきなのは、監査の基本的な方針です。これは、監査業務全体の方向性を決める、上位の判断にあたります。財務諸表監査の流れとしても、監査契約に係る予備的活動、監査契約の締結、監査計画の策定、監査の実施、監査報告という道筋があります。監査計画は、予備的活動や契約前後の検討を踏まえて設計されるものです。

監査計画は、大きく分けて次の二層で考えると、整理しやすくなります。

内容主な判断事項
監査の基本方針監査全体の方向性監査範囲、重要性、リスクの高い領域、内部統制への依拠方針、監査資源、審査方針
詳細な監査計画個別領域ごとの手続設計手続の種類、時期、範囲、担当者、利用する専門家、必要資料、調書化方針

この二層を分けないまま、いきなり勘定科目別の手続へ進むと、監査計画は作業表になってしまいます。

たとえば売上について、「証憑突合を実施する」と書くだけでは、監査計画として不十分です。売上について、どのような不正リスクを想定しているのか。収益認識基準上のどの判断が重要なのか。販売プロセスの内部統制にどの程度依拠するのか。期中手続と期末手続をどう組み合わせるのか。開示やKAM候補にどうつながるのか。そこまで整理して初めて、監査計画として意味を持ちます。

監査の基本方針に含めるべき視点

監査の基本方針は、監査計画の中核です。

ここで、監査チームとしての注意の向け方、監査資源の配分、重要論点への対応方針が決まります。少なくとも、次の視点は整理しておきたいところです。

視点検討すべき内容
事業環境市場環境、規制、業績変動、資金調達、事業再編、新規事業
財務諸表上の重要性量的重要性、質的重要性、手続実施上の重要性、明らかに僅少な金額
重要な虚偽表示リスク財務諸表全体レベル、アサーションレベル、不正リスク、特別な検討を必要とするリスク
内部統制への依拠全社的統制、業務プロセス統制、IT統制、決算・財務報告プロセス
監査証拠の入手方針外部証拠、内部証拠、確認、立会、分析的手続、専門家利用
会計上の見積り減損、税効果、金融商品、退職給付、引当金、収益認識など
開示・KAM注記、有価証券報告書、内部統制報告書、KAM候補、監査役等との協議
品質管理・審査審査論点、専門的見解の相談、レビューに耐える調書化

特に注意したいのは、監査計画が財務諸表監査だけで完結しない、という点です。

上場会社監査では、有価証券報告書、決算短信、内部統制報告書、KAM、監査役等とのコミュニケーション、内部統制監査報告書まで、監査計画と密接に関連します。金融商品取引法は、投資家が事実を知らされないことや、不公正な取引によって不利益を受けることを防ぐため、企業情報の開示制度を整備する役割を担っています。

したがって監査計画は、財務諸表の数字だけを見るものではありません。開示制度における説明可能性まで見据えて設計する必要があります。

監査計画の出発点は「会社理解」である

監査計画を作る際の出発点は、会社理解です。

会社の事業を理解せずに、重要な虚偽表示リスクを識別することはできません。業務フロー、収益構造、主要契約、システム、組織体制、決算プロセス。これらを理解しないまま監査手続を並べても、その監査計画は会社固有のリスクを捉えられないままです。

業務フローを理解する意義は、典型的な業務上の課題やリスク、そしてそれを低減する内部統制を把握することにあります。業務フローを俯瞰することで、リスクの所在や必要な内部統制を、具体的にイメージしやすくなります。

会社理解で確認すべき事項は、次のように整理できます。

会社理解の領域監査計画への反映
ビジネスモデル収益認識、不正リスク、継続企業、KAM候補に影響する
主要取引売上、仕入、在庫、固定資産、金融商品、関連当事者のリスクに影響する
組織体制権限分掌、職務分離、内部統制、経営者による無効化リスクに影響する
システム環境IT全般統制、システム生成データの信頼性、外部委託に影響する
決算体制決算遅延、開示基礎資料、会計上の見積り、注記の信頼性に影響する
ガバナンス監査役等との連携、内部監査、三様監査、KAM協議に影響する
過年度論点当年度の重点監査項目、内部統制不備、審査論点に影響する

会社理解は、期首の一度きりの手続ではありません。

事業環境が変われば、会社理解も更新されます。新規事業、M&A、組織再編、重要なシステム導入、海外展開、資金調達、業績悪化、訴訟、不正発覚、経営者交代。こうした動きがあれば、監査計画の前提そのものが変わります。

重要性は監査計画の「基準線」である

監査計画では、重要性の設定が欠かせません。

重要性は、監査手続の範囲、虚偽表示の評価、監査意見の形成を左右します。ですから重要性は、単に計算ファイルで算定する数値ではなく、監査計画全体の基準線だと捉えるべきものです。

監査計画上は、少なくとも次のような重要性を区別して理解しておく必要があります。

種類役割
財務諸表全体の重要性財務諸表全体として重要な虚偽表示がないかを判断する基準
手続実施上の重要性監査手続の設計に用いる、より慎重な水準
特定の取引・勘定・開示に係る重要性利用者の判断に特に影響し得る領域に設定する基準
明らかに僅少な金額集計・評価対象から除外できる程度を判断する基準

ただし、重要性は数値だけで完結するものではありません。

少額であっても、経営者報酬、関連当事者取引、財務制限条項、業績予想、上場維持、配当可能性、債務超過、内部統制不備、法令違反に関連する事項は、質的に重要となる可能性があります。

監査計画の実務では、重要性を設定するだけでなく、次の点まで明確にしておく必要があります。

確認事項実務上の意味
どの指標を基礎にしたか会社の業績構造や利用者の着目点との整合性を説明する
なぜその割合・水準にしたか審査担当者や監査役等に判断根拠を説明する
手続実施上の重要性をどう設定したか未発見虚偽表示リスクを織り込む
特定領域の重要性を設定するか量的重要性だけでは捉えにくい領域を補完する
いつ見直すか業績見込みやリスク変化に応じて監査計画を更新する

なお、重要性の具体的な算定方法そのものについては、本稿では踏み込みません。監査上の重要性の設定と見直しは、別途、独立して扱うべき領域です。ここで押さえておきたいのは、重要性が監査計画の全体設計に直結する、という一点です。

リスク評価を監査計画へ落とし込む

監査計画で最も重要なのは、リスク評価を監査手続へ落とし込むことです。

リスク評価がどれほど立派に書かれていても、手続の種類、時期、範囲に反映されていなければ、監査計画としては弱いままにとどまります。

監査計画上、リスク評価は次の流れで整理すると、手続設計につながりやすくなります。

ステップ検討内容
1. 事業上のリスクを把握する業績悪化、競争環境、規制変更、資金繰り、システム変更など
2. 財務諸表項目へ結びつける売上、棚卸資産、固定資産、金融商品、税効果、引当金など
3. アサーションへ落とし込む実在性、網羅性、評価、期間帰属、権利義務、表示・開示など
4. 内部統制と結びつけるどの統制がそのリスクに対応しているか
5. 監査手続へ反映する運用評価手続、実証手続、分析的手続、確認、立会、専門家利用など
6. 調書化するリスク、手続、証拠、結論のつながりを残す

たとえば、業績達成圧力が高まっている会社で、売上計上に経営者の強い関心があるとします。この場合、単に売上高が重要な勘定科目であるというだけでは足りません。不適切な収益認識、不正リスク、カットオフ、返品・値引き、契約条件、開示の十分性まで検討する必要があります。

会計不正の類型としても、不適切な収益認識、負債・費用の隠蔽、費用・収益の期間帰属の操作、不適切な資産評価、不適切な開示などが問題となり得ます。粉飾決算は、財務諸表の金額だけでなく、必要な開示を行わないことも含み得る。この点にも注意が必要です。

こうしたリスクを監査計画へ反映する際には、監査手続を増やすかどうかだけを考えれば済むわけではありません。どの証拠を重視するか。どの時点で手続を実施するか。誰がレビューするか。審査論点として早期に共有するか。そこまで検討して初めて、計画として機能します。

内部統制への依拠方針を明確にする

監査計画では、内部統制への依拠方針を明確にする必要があります。

内部統制に依拠するかどうかは、「J-SOXがあるから依拠する」「前年依拠したから今年も依拠する」といった判断で決めるものではありません。次の点を確認したうえで、方針を定めることになります。

確認事項判断への影響
統制がリスクに対応して設計されているか整備評価の前提になる
統制が実際に運用されているか運用評価の前提になる
例外事項があるか統制への依拠可能性に影響する
補完統制があるか不備の重要性評価に影響する
IT全般統制に問題がないか自動化統制やシステム生成データの信頼性に影響する
経営者による無効化リスクがあるか通常の統制依拠だけでは足りない可能性がある

2023年改訂の内部統制基準・実施基準では、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮すること、そして不正に関するリスク、情報システム、IT委託業務、サイバーリスクなどへの対応が、重要な論点として示されています。内部統制監査を年間計画に組み込む際には、形式的な評価範囲や前年踏襲ではなく、当年度のリスクに応じた検討が求められます。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

内部統制の実務では、リスクがあるからこそ統制が必要になります。そして、典型的な業務フローを理解して初めて、リスクを具体的に把握しやすくなります。

監査計画上は、内部統制評価を財務諸表監査から分断しないことが重要です。

内部統制評価の結果財務諸表監査への影響
統制が有効に整備・運用されている運用評価手続と実証手続を組み合わせて効率的に設計できる
統制不備がある実証手続の範囲拡大、手続時期の変更、追加証拠の入手を検討する
IT統制に不備があるシステム生成データの信頼性、自動化統制、レポート利用に影響する
決算統制に不備がある会計上の見積り、注記、開示基礎資料の監査手続を強化する
開示すべき重要な不備の可能性がある内部統制監査報告、財務諸表監査、監査役等報告へ波及する

監査資源の配分は、監査計画の品質そのものである

監査計画では、誰が、いつ、どの論点を担当するかを決めます。

しかし、監査資源の配分は、単なる人員配置ではありません。監査資源は、監査リスクに対する対応そのものです。

リスクの高い領域に経験の浅いメンバーだけを配置し、レビューや審査を後回しにすれば、監査計画上のリスク対応は不十分なものになります。逆に、リスクが低い領域に過大な工数をかければ、高リスク領域に必要な注意を向けられなくなります。

内部監査の実務でも、年次計画は事業体の目標達成を支援するためのロードマップであり、監査対象をリスクベースで優先順位付けし、監査時間、監査人員、監査費用などの監査資源を分配するものと整理されています。

財務諸表監査でも同様に、監査資源の配分は次の観点から検討すべきです。

観点確認すべきこと
経験・専門性見積り、金融商品、税効果、IT、連結、収益認識に対応できる人員か
レビュー体制高リスク領域に適切なレビュー者が割り当てられているか
専門家利用IT、評価、年金数理、税務、法律など外部・内部専門家が必要か
審査日程重要判断を監査報告直前ではなく早期に審査へ共有できるか
会社側体制会社が必要資料を準備できる時期と監査資源が整合しているか
監査役等対応計画説明、期中報告、期末報告の準備時間が確保されているか

監査資源が不足している場合、現場の残業で吸収しようとするのは適切ではありません。監査計画そのものを見直すべき場面です。監査時間、チーム構成、専門家利用、会社への資料依頼時期、期中手続の前倒し、審査日程の再設定。計画全体を再設計する必要があります。

内部監査の実務でも、限られた時間で監査目的を達成するためには、監査の性格や複雑性を踏まえ、適切かつ十分な監査資源を割り当てる必要があると整理されています。

詳細な監査計画は「手続の種類・時期・範囲」を結論づける

監査の基本方針を決めた後は、詳細な監査計画を作成します。

詳細な監査計画では、評価したリスクに対して、どの監査手続を、いつ、どの範囲で実施するかを決めます。ここで重要なのは、手続の列挙ではなく、手続の意味づけです。

項目検討すべき内容
手続の種類質問、閲覧、確認、再計算、再実施、分析的手続、立会、専門家利用
手続の時期期中、期末、期末日、監査報告日まで、後発事象期間
手続の範囲対象母集団、サンプル数、対象期間、対象拠点、対象取引
証拠の信頼性外部証拠か、内部証拠か、システム生成データか
内部統制との関係統制に依拠するか、実証手続中心とするか
監査調書化リスク、手続、証拠、結論をどう文書化するか

財務諸表監査では、監査時間や人的資源に制約があるため、すべての取引を精査することはできません。有効な内部統制が構築されていることを前提に、原則として試査により実施されます。監査人は、監査の基本方針として監査業務の範囲、実施時期、方向性を設定し、そのうえで、監査手続の種類、時期、範囲を含む詳細な監査計画を作成していきます。

詳細な監査計画で注意すべきなのは、手続がアサーションに対応しているかどうかです。

たとえば、売掛金の残高確認は、主として実在性や権利義務に関する証拠を提供します。しかし、回収可能性の評価については、入金状況、滞留状況、貸倒見積り、取引先の信用状態など、別の証拠が必要です。棚卸立会も同様で、実在性に関する重要な手続ではあるものの、棚卸資産の評価や滞留については追加の検討が求められます。

監査計画では、各手続がどのリスクとアサーションに対応しているのかを、明確にしておく必要があります。

監査計画と監査調書は最初からつながっていなければならない

監査計画は、監査調書と切り離して考えるべきものではありません。

監査調書は、実施した手続の記録にとどまりません。監査人がどのリスクを識別し、どの手続を実施し、どの証拠を入手し、どのように判断したかを、後から追跡できるようにする文書です。

内部監査の実務でも、監査計画の文書化要件として、監査の目的、範囲、方法、開始と終了の予定日、監査資源が挙げられています。また、計画策定の過程では、監査対象部署とのコミュニケーションも重要とされています。

財務諸表監査においても、計画段階から調書化を意識していないと、次のような問題が起こります。

問題監査調書上の弱点
リスク評価と手続がつながっていないなぜその手続を実施したか説明できない
重要性の判断根拠が薄い虚偽表示評価や審査で根拠が不足する
内部統制評価の結果が手続に反映されていない統制への依拠方針が不明確になる
計画変更の理由が残っていない当年度中のリスク変化への対応を説明できない
会社との協議記録が不十分重要判断の経緯が追跡できない
監査役等とのコミュニケーションが残っていないKAMや重要論点の選定経緯が弱くなる

監査計画の品質は、期末に調書を整える段階ではなく、計画時点で決まります。

「後で書けばよい」という発想では、判断過程の記録はどうしても弱くなります。とりわけ、計画変更、重要性の見直し、見積り論点、不正リスク、内部統制不備、KAM候補については、いつ、誰が、何を根拠に判断したかを残しておく必要があります。

監査計画を更新すべきタイミング

監査計画は、固定文書ではありません。

監査期間中に新しい情報を入手すれば、監査人は、当初計画した手続がなお適切かを検討しなければなりません。監査人は、監査期間中においても、必要に応じて監査の基本方針および詳細な監査計画を修正しなければならないと整理されています。

監査計画を更新すべき典型的なタイミングは、次のとおりです。

更新の契機見直すべき内容
業績予想・実績が大きく変動した重要性、継続企業、減損、税効果、KAM候補
新規事業・重要契約が発生した収益認識、契約資産・負債、注記、内部統制
M&A・組織再編があった企業結合、連結範囲、のれん、PPA、開示
資金繰りが悪化した継続企業、借入金、財務制限条項、後発事象
内部統制不備が識別された統制依拠方針、実証手続、内部統制監査報告
ITシステム変更があったIT全般統制、データ信頼性、自動化統制
不正疑義・内部通報があった不正リスク、仕訳テスト、経営者確認、監査役等報告
会計基準・法令改正があった会計方針、表示・開示、監査手続、注記
監査証拠が想定どおり入手できない代替手続、監査範囲制約、意見への影響
監査役等・審査担当者から重要な指摘があった追加手続、調書化、KAM、監査報告

ここで重要なのは、更新が必要かどうかを「作業量」ではなく「監査リスク」で判断することです。

作業が増えるから更新しない。期末が近いから変更しない。前年も同じだったから変えない。こうした判断は危険です。監査計画を更新しないのであれば、更新しないこと自体にも、説明可能な理由が求められます。

重要性の見直しと監査計画更新

監査計画の更新において、特に重要になるのが重要性の見直しです。

期首に設定した重要性は、その時点の業績見込みや財務状況を前提にしています。ところが、期中で業績が大きく変動した場合、当初の重要性が監査計画に適した水準でなくなることがあります。

たとえば、利益水準が大きく低下した場合。当初の利益指標に基づく重要性をそのまま使い続けると、監査手続の深度が不足する可能性があります。一方で、一時的要因による損失や特殊要因がある場合には、単純に当期利益だけで判断すると、財務諸表利用者の着目点とずれてしまうこともあります。

したがって、重要性の見直しでは、次の観点を確認する必要があります。

観点確認すべきこと
業績見込みの変化期首計画と実績・見込みに大きな差があるか
財務諸表利用者の着目点利益、売上、総資産、純資産、キャッシュ・フローのどれが重要か
質的重要性財務制限条項、上場維持、配当、業績予想、管理指標への影響があるか
未修正虚偽表示累積差異が重要性に近づいていないか
開示影響金額は小さくても、注記や記述情報に重要な影響がないか

重要性を見直した場合、その影響は監査手続の範囲、サンプル設計、未修正虚偽表示の評価、審査対応、監査役等への説明にまで及びます。

重要性の見直しは、監査計画ファイル上の数値変更ではありません。監査全体の再設計につながる判断です。

会計上の見積りが変化した場合の計画更新

会計上の見積りは、監査計画更新の中心論点になりやすい領域です。

会計上の見積りとは、将来事象の結果に依存するため正確に測定できない金額について、経営者が期末時点で合理的に見積もるものです。そこには、見積りの不確実性、経営者の仮定、そして経営者バイアスの可能性が含まれます。

見積り論点は、期首計画の時点では通常リスクと評価していても、期中の状況変化により、特別な検討を必要とするリスクやKAM候補へと姿を変えることがあります。

たとえば、次のような変化があれば、監査計画の更新を検討すべきです。

変化影響する可能性のある見積り
業績悪化固定資産の減損、のれん、繰延税金資産
金利・為替・市場価格の変動金融商品、退職給付、デリバティブ、時価評価
主要顧客の信用不安貸倒引当金、収益認識、棚卸資産評価
訴訟・紛争の発生引当金、偶発債務、開示
事業計画の見直し減損、税効果、継続企業、KAM
人員制度・年金制度の変更退職給付債務、引当金
新会計基準の適用リース、収益認識、金融商品、注記

会計上の見積りに関する監査計画を更新する際には、単に追加資料を依頼するだけでは足りません。

見積方法、主要な仮定、基礎データ、専門家利用、感応度、過年度見積りとの差異、内部統制、開示、KAM候補、審査対応。これらを一体のものとして見直す必要があります。

内部統制不備が識別された場合の計画更新

内部統制不備が識別された場合、監査計画は必ず見直しの対象になります。

ただし、不備があるから直ちに監査意見に影響する、という単純な話ではありません。不備の内容、発生可能性、潜在的な虚偽表示の重要性、補完統制、実際に発生した虚偽表示、そして財務諸表監査への影響を、順を追って評価する必要があります。

2023年改訂の内部統制基準・実施基準の背景には、評価範囲外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や、内部統制の有効性評価の訂正理由の開示が十分でない事例があったとされています。内部統制評価は、形式的な範囲選定ではなく、財務報告の信頼性に及ぼす重要性を踏まえて行う必要があります。

内部統制不備が見つかった場合、監査計画上は次の判断が必要になります。

判断事項検討内容
不備の性質整備不備か、運用不備か、IT統制不備か、決算統制不備か
影響する勘定・開示どの財務諸表項目、注記、開示基礎資料に影響するか
発生可能性潜在的な虚偽表示が発生する可能性はどの程度か
重要性金額的・質的に重要な影響があり得るか
補完統制他の統制によりリスクが低減されているか
実証手続追加または拡大すべき手続は何か
内部統制監査報告開示すべき重要な不備に該当する可能性があるか
監査役等報告いつ、どの程度の内容で共有すべきか

内部統制不備は、J-SOXの評価ファイルだけに閉じ込めるべきものではありません。財務諸表監査のリスク評価、実証手続、監査証拠、監査報告、監査役等とのコミュニケーションへと、確実に波及していきます。

不正リスクが変化した場合の計画更新

不正リスクは、監査計画の更新のなかでも、とりわけ慎重な判断が求められる領域です。

不正リスクが識別された場合、監査人は、通常の誤謬リスクとは異なる深度で検討する必要があります。特に、経営者による内部統制の無効化、不適切な収益認識、非定型取引、関連当事者取引、会計上の見積りの偏り、期末仕訳。これらは監査計画上の重要な論点になります。

会計不正は、取引スキームを熟知している者が内部統制の欠陥を突いて行うことが多いといわれます。不正実行者以外が取引の詳細を把握していない、長期間同一業務を担当している、モニタリングが行われていない。そうした特徴も指摘されています。

不正リスクが高まった場合には、監査計画を次の観点から見直します。

観点見直し内容
監査チーム討議不正リスク、経営者バイアス、期末仕訳、非定型取引を再討議する
仕訳テスト抽出条件、対象期間、承認者、異常パターンを見直す
収益認識カットオフ、契約条件、返品・値引き、架空売上、循環取引を確認する
見積り楽観的仮定、過年度差異、経営者の説明の一貫性を確認する
内部統制経営者による無効化、職務分離、承認統制、モニタリングを確認する
監査役等連携早期に重要論点として共有する
審査・専門相談監査報告直前ではなく早期に論点化する

不正リスク対応において、「疑義があるが証拠がないから通常どおりでよい」という判断は危険です。疑義の内容、根拠、追加で入手すべき証拠、実施した代替手続、会社の説明、そして監査人の評価。これらを調書に残しておく必要があります。

監査計画とKAM候補の関係

KAMは、監査報告書の作成段階で突然選定するものではありません。

KAM候補は、監査計画の段階から意識しておくべきものです。特に、特別な検討を必要とするリスク、重要な会計上の見積り、経営者判断が大きい領域、監査役等と重点的にコミュニケーションした事項については、年間を通じてKAM候補として管理していく必要があります。

金融庁は、KAMについて、監査報告書における記載が監査人の監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高める意義を有するとしています。KAMは2021年3月期から、一部を除く金融商品取引法監査が適用される会社について、監査報告書への記載が求められています。
出典:金融庁|「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」の公表

監査計画上は、KAM候補について次のように整理しておくと、期末での手戻りを減らせます。

KAM候補管理の観点確認すべきこと
候補論点どの論点が監査上特に注意を払った事項になり得るか
選定理由なぜ監査上重要と考えるのか
関連する注記財務諸表注記と整合しているか
監査上の対応実施予定の手続が十分に説明可能か
監査役等との協議いつ、どの内容で共有するか
審査対応早期に審査担当者と協議すべきか
期中更新リスク変化により候補から除外・追加すべきか

KAM候補を計画段階で整理する目的は、監査報告書の記載を早く作ることではありません。重要な監査判断について、監査証拠、開示、監査役等とのコミュニケーション、審査対応を、早期から接続しておくことにあります。

監査役等とのコミュニケーションを計画に組み込む

監査計画は、監査チーム内部だけの文書ではありません。

監査役等への計画説明、期中報告、期末前の重要論点共有、監査結果報告。これらを、年間計画の中に組み込んでおく必要があります。

監査役は、取締役の職務執行を監査する立場にあります。会社法上の機関設計や監査役会の有無に応じて、会計監査人との関係も重要になります。監査役会は、監査役が組織的・効率的な監査を行い、よりレベルの高い監査を実現するための機能を果たすことが期待されています。

監査計画上、監査役等とのコミュニケーションでは、次の事項を整理しておくとよいでしょう。

時期共有すべき内容
計画段階監査の基本方針、重要性、重点監査領域、不正リスク、内部統制評価方針
期中段階内部統制不備、期中で識別した重要論点、会社対応状況
期末前見積り論点、KAM候補、未解決論点、審査論点
意見形成前未修正虚偽表示、監査意見への影響、内部統制監査報告、KAM最終案
監査後改善事項、次年度への引継ぎ、監査計画上の反省点

監査役等との対話を後回しにすると、期末に重要論点が突然共有されることになります。その結果、監査役等が十分に検討できないまま監査報告へ進んでしまいます。

監査計画は、監査役等との実効的なコミュニケーションを成立させるためのスケジュールでもあります。

会社の決算・開示体制を監査計画へ反映する

監査計画は、会社の決算・開示体制と切り離して作ることはできません。

会社がいつ単体決算を締めるのか。いつ連結パッケージを回収するのか。いつ注記資料を作成するのか。いつ決算短信や有価証券報告書のドラフトが出るのか。これらによって、監査手続の実施時期は大きく変わります。

決算早期化を実現している会社では、経理担当者全員が有価証券報告書や決算短信等の最終成果物を把握し、最終成果物から逆算して決算・開示業務を組み立てています。一方で、単体、連結、開示が縦割りになると、手待ち、手戻り、重複が生じ、決算工数が増大しやすくなります。

監査計画上、会社側の決算・開示体制については、次の点を確認すべきです。

確認事項監査計画への影響
決算スケジュール期末監査開始日、資料依頼日、レビュー日程に影響する
開示基礎資料注記、記述情報、監査証拠の整合性に影響する
連結体制子会社監査、連結パッケージ、内部取引消去に影響する
会計論点管理見積り、収益認識、減損、税効果の早期検討に影響する
内部統制不備管理J-SOX、財務諸表監査、監査役等報告に影響する
経理人員の体制監査資料の提出時期、説明能力、手戻りリスクに影響する

会社側の決算体制が弱い場合、監査人はそれを期末監査だけで吸収しようとすべきではありません。期中における資料依頼の前倒し、開示基礎資料の確認、会計論点の早期共有、内部統制上の改善依頼、監査役等との共有。これらを計画に組み込んでおくことが求められます。

監査計画を更新しない判断も調書化する

監査計画の更新判断では、「更新した場合」だけでなく、「更新しなかった場合」も同じくらい重要です。

新しい情報を入手したにもかかわらず監査計画を変更しないのであれば、なぜ変更不要と判断したのかを説明できなければなりません。

たとえば、期中で業績が下方修正されたものの、重要性の見直しは不要と判断した場合。次のような理由が整理されているべきです。

判断対象説明すべき内容
業績変動重要性の基礎指標への影響が限定的か
質的重要性財務制限条項、配当、上場維持、業績予想への影響がないか
監査手続当初計画した手続でリスクに対応できるか
見積り減損、税効果、継続企業などに新たなリスクがないか
開示注記や記述情報の追加検討が不要か
KAMKAM候補の追加・変更が不要か

「結果として問題がなかった」ことは、計画更新が不要であったことの根拠にはなりません。監査人がその時点で入手可能な情報に基づき、どのように判断したか。そこが問われます。

会計上の見積りでも、実績との差異が生じたこと自体が、直ちに誤謬になるわけではありません。問題となるのは、差異が生じた原因です。見積時点で当然考慮すべき情報を考慮していなかった場合や、楽観的な見積りをしていた場合には、当時の見積りが最善の見積りであったかを、慎重に検討する必要があります。

監査計画の更新判断も、これと同じです。後から見て結果がどうだったかではなく、その時点での情報、判断、根拠、代替案を説明できるかどうかが重要になります。

監査計画の更新を審査対応に接続する

監査計画の更新は、審査対応とも密接に関係します。

審査担当者が確認したいのは、監査チームが予定どおり作業したかどうかだけではありません。むしろ、当初計画と異なるリスク変化に対して、監査チームがどのように判断し、どのように追加対応し、どのように結論づけたのか。そこが問われます。

特に、次の論点は、計画更新と審査対応を早期に接続しておくべきです。

論点審査で問われやすい事項
重要性の変更変更理由、変更時期、監査手続への影響
特別な検討を必要とするリスク識別理由、対応手続、証拠の十分性
会計上の見積り方法、仮定、データ、経営者バイアス、開示
内部統制不備財務諸表監査への影響、開示すべき重要な不備の判断
不正リスク仕訳テスト、非定型取引、経営者関与、追加手続
KAM選定理由、監査上の対応、注記との整合
継続企業経営者評価、資金繰り、対応策、監査報告への影響

審査対応を期末監査の後にまとめて行うと、手戻りが大きくなります。

監査計画の更新が必要になるような論点は、原則として早期に審査担当者へ共有し、論点の見方、必要な証拠、調書化の水準を確認しておくべきです。

IPO準備監査に見る、計画更新の重要性

IPO準備監査では、監査計画と計画更新の重要性が、より明確なかたちで表れます。

IPO準備会社では、上場会社水準の管理体制や内部統制が整備途上であることが多く、監査計画は会社の整備状況に応じて柔軟に更新されていきます。

IPO準備監査の実務では、直前々期にビジネス理解、リスク評価、内部統制のデザイン評価、内部統制のブラッシュアップ状況の確認、期中取引記録の確認、期末監査を通じた決算体制の確認などが、時系列に沿って整理されています。あわせて、課題管理表を通じた進捗確認が重要とされています。

さらに、IPO準備監査では、N-2期の初度監査において、内部統制を含めたビジネス理解を通じて実質的なリスク評価を行い、早期にQCR等と監査リスクについて協議する必要があるとされています。

この考え方は、通常の上場会社監査にも通じるものです。

会社の体制やリスクは、計画時点で完全に固定されているわけではありません。監査計画は、課題管理、内部統制の改善、決算体制、審査、監査役等報告と連動しながら、更新されていくべきものです。

監査計画の作成手順

ここまでの内容を踏まえると、監査計画は次の順序で作成すると整理しやすくなります。

手順内容
1. 予備的活動を整理する独立性、受嘱・継続、監査前提条件、監査資源を確認する
2. 会社理解を更新する事業、組織、業務フロー、IT、決算体制、開示体制を把握する
3. 前年度論点を引き継ぐ未解決事項、内部統制不備、審査指摘、KAM、監査役等指摘を確認する
4. 重要性を設定する財務諸表全体、手続実施上、特定領域、明らかに僅少な金額を整理する
5. リスク評価を行う重要な虚偽表示リスク、不正リスク、特別な検討を必要とするリスクを識別する
6. 内部統制への依拠方針を決める全社的統制、業務プロセス、IT統制、決算統制を評価する
7. 監査資源を配分するチーム、専門家、レビュー、審査、会社対応日程を決める
8. 詳細な監査手続を設計する手続の種類、時期、範囲、対象母集団、必要証拠を決める
9. 監査役等との共有計画を決める計画説明、期中報告、KAM候補、重要論点共有を組み込む
10. 更新判断のルールを決めるどの変化があれば計画を見直すかを明確にする

この順序で考えると、監査計画は単なる手続一覧ではなく、監査全体の論理構造として立ち上がってきます。

監査計画更新時に確認すべきチェックポイント

監査計画を更新する際には、変更後の手続だけでなく、変更前後の論理を整理する必要があります。

確認項目実務上の問い
変化の内容何が、いつ、どの程度変化したのか
影響領域どの財務諸表項目、注記、内部統制、開示に影響するのか
リスク評価重要な虚偽表示リスクの評価は変わるのか
重要性当初設定した重要性はなお適切か
内部統制統制への依拠方針は維持できるか
監査手続種類、時期、範囲を変更すべきか
証拠追加証拠、代替証拠、外部証拠が必要か
監査役等共有すべき重要論点か
審査早期審査・専門的見解の相談が必要か
調書化更新理由、判断根拠、結論が追跡できるか

このチェックポイントを用いれば、更新判断を「ケースバイケース」で終わらせず、必要な観点を漏れなく整理できます。

監査計画で避けるべき実務上の落とし穴

前年踏襲で計画を作る

前年踏襲は、監査計画の出発点にはなり得ても、結論にはなりません。

会社の事業環境、内部統制、業績、会計基準、開示制度、IT環境、監査役等の体制。これらに変化がないかを確認し、変化がない場合であっても、「なぜ前年と同様でよいのか」を説明できる必要があります。

重要性とリスク評価が分断される

重要性を計算し、リスク評価を別ファイルで行い、監査手続を別表で作る。それだけでは、計画としての一貫性が弱くなります。

重要性、リスク評価、手続設計、証拠評価、未修正虚偽表示の評価。これらがつながっているかを確認すべきです。

内部統制評価をJ-SOXだけの作業にする

内部統制評価は、内部統制報告制度のためだけに行うものではありません。

財務諸表監査におけるリスク評価、統制リスク、実証手続の範囲、監査証拠の信頼性に影響します。J-SOX担当と財務諸表監査担当が分断されると、監査計画の整合性は崩れてしまいます。

見積り論点を期末まで先送りする

会計上の見積りは、期末残高が確定してから初めて検討するものではありません。

減損、税効果、金融商品、退職給付、引当金、収益認識などは、事業計画、将来キャッシュ・フロー、仮定、経営者判断、開示と関係します。だからこそ、期中から監査計画に組み込んでおく必要があります。

計画更新を調書化しない

実務では、監査チーム内で計画を変更しているにもかかわらず、監査調書上は当初計画のままになっている、という場面があります。

これは、後から見たときに、なぜその手続を追加したのか、なぜ一部手続を省略したのか、なぜリスク評価を変更したのかが分からなくなる原因になります。

監査役等・審査担当者との共有が遅れる

重要論点を期末監査の後にまとめて共有すると、監査役等や審査担当者が十分に検討する時間を確保できません。

監査計画の段階で、いつ、どの論点を、どの関係者へ共有するのかを決めておく必要があります。

監査計画は「説明可能な監査判断」の入口である

監査計画の質は、監査の出口に表れます。

計画段階で、重要性、リスク評価、内部統制、監査証拠、会計上の見積り、KAM、開示、審査、監査役等とのコミュニケーションが接続されていれば、期末監査で論点を収束させやすくなります。

一方で、計画段階が弱いと、期末に次のような問題が生じます。

計画段階の弱さ期末に生じる問題
会社理解が浅い期末に重要論点が突然発見される
リスク評価が形式的手続がリスクに対応していない
内部統制依拠方針が曖昧実証手続の範囲が説明しにくい
見積り論点の把握が遅い経営者との協議、審査、開示が遅れる
KAM候補が未整理監査報告書作成時に議論が集中する
監査役等との共有が遅いガバナンス上の対話が形式化する
計画更新が記録されていないレビュー・審査で判断過程を説明できない

監査計画は、監査を効率的に進めるためだけのものではありません。

監査計画は、監査人が一年を通じてどのように専門的判断を積み上げていくかを示す、入口です。監査意見、KAM、内部統制監査報告、監査役等報告、審査対応、品質管理レビューに耐える監査調書は、すべて監査計画の質に左右されます。

監査計画を作るとは、監査人として、どのリスクに、どの証拠で、どの関係者に説明できる状態を作るかを決めることにほかなりません。

監査計画の作成・更新に課題がある場合

監査計画に課題がある場合、その影響は、期末監査の作業遅延だけにとどまりません。

リスク評価と手続の不整合、内部統制評価との分断、見積り論点の検討遅れ、KAM候補の整理不足、監査役等への説明不足、審査対応の手戻り、監査調書の弱さ。こうした形で、影響は静かに広がっていきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法定監査、内部統制、決算・開示、会計上の見積り、監査役等との連携を一体として整理し、説明可能な監査判断プロセスを組み立てるためのご相談を承っています。

監査計画の作成、監査計画の更新判断、重要性・リスク評価・内部統制評価との接続、監査役等や審査担当者への説明に課題を感じておられる場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。現在の監査計画書、課題管理表、監査役等報告資料、内部統制評価資料をお手元にご用意いただけると、どの論点を前倒しし、どこを更新判断として明確化すべきかを整理しやすくなります。

振り返り

重要事項実務上の意味
監査計画は予定表ではなく判断文書である監査人がどのリスクにどう対応するかを説明する
監査の基本方針と詳細な監査計画を分けて考える上位方針と個別手続のつながりを明確にする
会社理解が監査計画の出発点になる事業、業務フロー、IT、決算体制を理解しなければリスク評価はできない
重要性は監査計画の基準線である手続範囲、虚偽表示評価、監査意見形成に影響する
リスク評価は手続へ落とし込む必要があるリスク、アサーション、統制、証拠を接続する
内部統制への依拠方針を明確にするJ-SOXと財務諸表監査を分断しない
監査資源配分は監査品質そのものである高リスク領域に適切な人員、専門家、レビューを配置する
監査計画は監査期間中に更新される業績変動、内部統制不備、不正疑義、見積り変化などを反映する
更新しない判断も説明可能にする新情報を得ても計画変更不要と判断した根拠を残す
監査役等・審査対応を計画に組み込む重要論点を期末に集中させず、早期に共有する
KAM候補は計画段階から管理する監査報告書作成時ではなく、年間を通じて検討する
最終目的は説明可能な監査判断である監査意見、開示、内部統制監査報告、品質管理に耐える判断過程を作る
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