内部統制監査と財務諸表監査の関係|J-SOXの結果を監査計画・統制リスク・実証手続へどう反映するか

内部統制監査と財務諸表監査は、同じ会社、同じ決算、同じ財務報告プロセスを対象としながら、その目的は異なります。

内部統制監査は、経営者が作成した内部統制報告書について、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価基準に準拠して適正に表示されているかどうか、監査人が意見を表明するものです。

ここで押さえておきたいのは、わが国の制度が、監査人が経営者の評価結果とは無関係に内部統制そのものへ直接意見を表明するダイレクト・レポーティングの形をとっていないという点です。あくまで、経営者による内部統制評価結果という主張を前提として、監査人が意見を表明する構造になっています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

一方の財務諸表監査は、財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠し、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を、すべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて意見を表明する監査です。

監査現場では、この二つを別々のチェックリストとして処理してしまいがちです。しかし本来は、重要な虚偽表示リスク、統制リスク、監査証拠、実証手続、監査報告へとつながる一連の判断として整理すべきものです。

本稿では、5-1から5-4までで整理した内部統制報告制度、評価範囲、整備評価・運用評価、不備評価を前提として、内部統制監査の結果を財務諸表監査へどう反映するか、そして財務諸表監査で得た事実を内部統制監査へどう戻すかを解説します。

目次

この記事で扱う範囲

本稿で扱うのは、内部統制監査と財務諸表監査の「関係」です。

内部統制報告制度の全体像は5-1、評価範囲は5-2、整備評価・運用評価・ロールフォワードは5-3、内部統制の不備・重要な不備・開示すべき重要な不備は5-4で扱いました。本稿ではそれらを踏まえ、評価結果が財務諸表監査のリスク評価、統制リスク、運用評価手続、実証手続、監査報告へどのように接続するかを中心に整理します。

なお、内部統制監査報告書の文例や意見区分の詳細は、11-5「内部統制監査報告書の判断と記載」で扱うべき論点です。ここでは報告書の文例ではなく、その前段階にある監査判断の接続に焦点を置きます。

内部統制監査と財務諸表監査は「目的が異なるが、一体で実施される」

内部統制監査と財務諸表監査を理解するうえで、最初に押さえるべきことは二つあります。

一つ目は、目的が異なることです。内部統制監査は、経営者による内部統制評価と内部統制報告書に対する監査です。これに対して財務諸表監査は、財務諸表に重要な虚偽表示がないかについて合理的保証を得たうえで意見を表明する監査です。

二つ目は、実施過程が密接に結びついていることです。内部統制監査は、原則として同一の監査人により、財務諸表監査と一体となって行われます。内部統制監査の過程で得られた監査証拠は財務諸表監査における内部統制評価の証拠として利用され、逆に財務諸表監査の過程で得られた監査証拠が内部統制監査の証拠として利用されることもあります。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

したがって、実務上の焦点は「二つの監査をどう区別するか」だけにとどまりません。

むしろ重要なのは、「目的が異なる二つの監査について、同じ事実、同じ統制、同じ証拠をどのように使い分け、どの結論に結びつけるか」という点です。

たとえば、売上計上プロセスの承認統制について運用評価手続を実施したとします。その結果は、J-SOX上は業務プロセス統制の有効性評価に関係します。一方で財務諸表監査上は、売上の発生、正確性、期間帰属、収益認識に関する重要な虚偽表示リスクへの対応として利用されます。

同じサンプル、同じ証跡、同じ例外事項であっても、内部統制監査上の意味と財務諸表監査上の意味は、分けて考える必要があるということです。

「内部統制が有効だから実証手続を省略できる」わけではない

内部統制監査と財務諸表監査の関係については、実務上よくある誤解があります。内部統制が有効であれば実証手続を大幅に省略できる、という理解です。

たしかに、内部統制が有効に整備・運用されている場合、財務諸表監査において統制リスクを低く評価し、発見リスクを相対的に高く設定できる余地はあります。しかし、それは実証手続を不要にするという意味ではありません。重要な虚偽表示リスクに対して、十分かつ適切な監査証拠を入手する責任は残ります。

財務諸表監査では、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるため、固有リスク、統制リスク、発見リスクを踏まえて監査手続を設計します。内部統制が脆弱であれば統制リスクは高まり、発見リスクを低く抑えるために、より強い実証手続が必要になります。

逆に、内部統制の運用状況の有効性が確認できた場合には、重要な虚偽表示リスクへの対応として、実証手続の種類、時期、範囲を調整できることがあります。ただし、内部統制が有効に運用されていない場合には、内部統制に依拠せず、実証手続によって十分かつ適切な監査証拠を入手しなければなりません。

つまり内部統制監査の結果は、財務諸表監査において「手続をなくす根拠」ではありません。「どのリスクに、どの証拠を、どの深度で積み上げるかを決める根拠」なのです。

内部統制監査の結果が財務諸表監査へ及ぼす影響

JICPAの財務報告内部統制監査基準報告書第1号は、内部統制監査の結果の内容や影響の程度に応じて、財務諸表監査における監査計画を適時に見直さなければならないとしています。さらに、見直し後の監査計画によっても重要な監査手続を実施できず、財務諸表監査で無限定適正意見を表明できない場合には、財務諸表監査上の意見に影響し得ることも示されています。
出典:日本公認会計士協会|財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」

ここで重要なのは、「内部統制監査の結論」と「財務諸表監査の結論」が自動的に連動するわけではない、という点です。

内部統制監査で開示すべき重要な不備があると判断された場合でも、財務諸表が修正され、監査人が追加の実証手続により十分かつ適切な監査証拠を入手できれば、財務諸表監査では無限定適正意見となることがあります。

しかし、その場合であっても財務諸表監査の手続設計は変わります。統制に依拠した通常の試査だけでは十分といえなくなり、実証手続の種類、実施時期、実施範囲を再検討する必要が生じます。

金融庁の基準も、一般に、財務報告に係る内部統制に開示すべき重要な不備があり有効でない場合には、財務諸表監査において内部統制に依拠した通常の試査による監査は実施できないと考えられるとしています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

この場合、財務諸表監査上は、少なくとも次の判断が必要になります。

内部統制監査の結果財務諸表監査で検討すべきこと
統制が有効統制に依拠する範囲、運用評価手続と実証手続の組合せ
統制に不備あり不備がどのアサーションに影響するか、実証手続の追加要否
開示すべき重要な不備あり通常の統制依拠を前提にできるか、監査計画の全面的な見直し
評価範囲に問題あり経営者評価の妥当性、財務諸表監査で識別したリスクとの整合
IT統制に不備ありシステム生成データ、レポート、アクセス権限、変更管理への影響
決算・財務報告プロセスに不備あり期末仕訳、連結、注記、開示基礎資料への実証手続強化

内部統制監査の結果は、財務諸表監査の「前提」ではありません。財務諸表監査の計画を更新するための、重要な入力情報として位置づけるべきものです。

財務諸表監査の結果が内部統制監査へ及ぼす影響

この関係は、一方向ではありません。財務諸表監査で発見された事実は、内部統制監査にも戻されます。

財務諸表監査の過程で、経営者による内部統制評価の範囲外から内部統制の不備が識別された場合、監査人は、その不備が内部統制監査における評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮し、必要に応じて経営者と協議しなければなりません。
出典:日本公認会計士協会|財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」

これは、2023年4月公表の改訂基準・実施基準で特に重視された点でもあります。金融庁は、経営者による評価範囲外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や、内部統制の有効性評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例が見られること、そして評価範囲の検討に当たって財務報告の信頼性への影響の重要性が適切に考慮されていないのではないかとの懸念があったことを示しています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

たとえば、財務諸表監査で次のような事実が発見された場合には、内部統制監査側で評価範囲や不備評価を見直す必要があります。

  • 売上のカットオフ誤りが、J-SOX評価範囲外の子会社で発見された
  • 連結パッケージの作成誤りが、重要な事業拠点以外の拠点で反復していた
  • 税効果会計の見積り誤りが、決算・財務報告プロセスのレビュー不足に起因していた
  • 開示注記の漏れが、開示基礎資料の網羅性確認の不備に起因していた
  • IT権限不備により、会計データの変更可能性が残っていた

こうした場合に、「財務諸表監査上は修正済みだから問題ない」と整理することはできません。財務諸表監査で識別された虚偽表示又は虚偽表示リスクが、内部統制評価の範囲、統制上の要点、不備評価、開示すべき重要な不備の判断に影響するかどうかを、あらためて検討する必要があります。

統制リスクの評価は、J-SOXの結論だけで決まらない

財務諸表監査における統制リスクの評価は、J-SOX上の「有効」「有効でない」という結論だけで機械的に決まるものではありません。

J-SOX上の評価範囲、評価単位、統制上の要点、評価手続、サンプル、ロールフォワード、不備評価は、いずれも財務諸表監査上の統制リスク評価と強く関係します。しかし、財務諸表監査で統制に依拠するためには、監査人自身が、評価したリスクに対応するための十分かつ適切な監査証拠を入手している必要があります。

たとえば、J-SOX上は評価範囲外とされた業務プロセスであっても、財務諸表監査上、そのアサーションに関する重要な虚偽表示リスクが高い場合があります。このとき監査人は、財務諸表監査の手続として運用評価手続を追加するのか、それとも統制には依拠せず実証手続を強化するのかを判断しなければなりません。

JICPAの基準報告書も、内部統制監査で評価範囲外となった業務プロセスについて、財務諸表監査では内部統制が有効に運用されていると想定する場合や、実証手続だけではアサーション・レベルで十分かつ適切な監査証拠を入手できないと判断する場合には、当該業務プロセスについて、内部統制監査とは別に、財務諸表監査の一環として運用評価手続の実施を検討しなければならないとしています。
出典:日本公認会計士協会|財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」

この点は、内部統制監査と財務諸表監査の関係を理解するうえで、きわめて重要です。

J-SOX上の評価範囲に入っていないからといって、財務諸表監査上、統制評価が不要になるわけではありません。財務諸表監査のリスク評価上、統制に依拠する必要があるのなら、財務諸表監査として必要な運用評価手続を実施することになります。

実証手続への影響は「量」だけではない

内部統制に不備がある場合、実証手続を増やすという発想になりがちです。しかし、重要なのは件数を増やすことだけではありません。

実証手続への影響は、少なくとも次の四つの観点で考えるべきです。

観点内容
種類確認、証憑突合、再計算、分析的手続、立会、専門家利用など、どの手続を選ぶか
時期期中で足りるか、期末日近く又は期末日後に実施すべきか
範囲サンプル件数、対象母集団、対象期間、対象拠点をどう広げるか
証拠力内部証拠で足りるか、外部証拠又は独立性の高い証拠が必要か

たとえば、売上承認統制に不備がある場合、売上の証憑突合件数を増やすだけでは不十分なことがあります。契約条件、出荷・検収、請求、入金、返品・値引、期末日後の取消し、関連当事者、非定型取引まで確認しなければ、期間帰属や実在性に対する十分な証拠にならない場合があるからです。

棚卸資産の棚卸統制に不備がある場合も同様です。立会範囲を広げるだけでなく、受払記録、滞留品、評価損、原価計算、期末日後販売、外部倉庫、委託在庫まで広げる必要があるかどうかを検討します。

決算・財務報告プロセスのレビュー統制に不備がある場合には、個別勘定の実証手続だけでなく、連結修正、組替、注記、開示基礎資料、有価証券報告書の記述情報との整合まで、確認範囲が広がる可能性があります。決算早期化の実務でも、単体決算、連結決算、開示業務を縦割りで見るのではなく、最終成果物から逆算して業務を組み立てる「森を見る視点」が重要とされます。

全社的統制の評価は、財務諸表監査の「監査環境」を左右する

内部統制監査で全社的統制に不備がある場合、その影響は特定プロセスにとどまりません。

全社的統制は、統制環境、リスク評価と対応、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応などを通じて、財務報告全体の信頼性を支えるものです。内部統制は、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応という基本的要素から構成されます。

全社的統制に弱さがある場合、財務諸表監査上は、次のような監査環境上の問題として捉える必要があります。

  • 経営者が財務報告リスクを適切に識別しているか
  • 取締役会・監査役等が財務報告プロセスを監督しているか
  • 内部監査が有効に機能しているか
  • 経理・開示部門に十分な能力と人員があるか
  • 子会社管理が機能しているか
  • 不正リスクや経営者による内部統制の無効化に対応できているか
  • IT環境の変化や外部委託先の統制を把握しているか

2023年改訂では、内部統制の基本的枠組みについて、報告の信頼性、不正リスクへの対応、情報と伝達、ITへの対応、監査役等や内部監査人の役割、そして内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理との関係が明確化されています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

このため、全社的統制の不備は、単にJ-SOX上の不備評価にとどまりません。財務諸表監査における職業的懐疑心、経営者バイアス、不正リスク、監査チームの関与度、審査対応にまで影響します。

決算・財務報告プロセスは、両監査が最も交差する領域である

内部統制監査と財務諸表監査が最も密接に交差するのは、決算・財務報告プロセスです。

販売や購買などの日常取引プロセスでは、反復継続的な統制が存在し、統制上の要点も比較的明確に設定しやすいことがあります。一方、決算・財務報告プロセスには、会計上の見積り、連結、組替、注記、開示、非定型仕訳、経営者判断が集中します。

とりわけ次の領域では、内部統制監査と財務諸表監査を切り離して考えることは困難です。

領域内部統制監査上の論点財務諸表監査上の論点
会計上の見積り見積り資料の作成・レビュー統制仮定、データ、経営者バイアス、感応度
連結決算子会社パッケージ、連結修正、消去仕訳連結範囲、内部取引消去、子会社数値の信頼性
開示資料開示チェック、注記作成、レビュー証跡表示・注記の網羅性、記述情報との整合
非定型仕訳承認、根拠資料、職務分掌経営者による内部統制無効化、不正リスク
税効果・減損回収可能性・将来CFレビュー統制見積りの合理性、KAM候補、開示
ITレポートシステム生成レポートの完全性・正確性監査証拠として利用可能か

会計上の見積りは、経営者が将来事象を予測して期末に金額を見積もるものであり、経営者バイアスや見積りの不確実性を伴います。また、見積額と実績との差異が生じた場合には、その原因が内部統制上の改善点を示唆することもあります。

こうした領域では、内部統制監査で「レビュー統制が運用されていたか」を確認するだけでは足りません。財務諸表監査上は、そのレビューが重要な仮定、基礎データ、外部情報、経営者バイアス、開示への影響を実質的に検討していたかどうかまで評価する必要があります。

IT統制の評価は、財務諸表監査の証拠利用可能性に直結する

IT統制は、内部統制監査上の一領域にとどまるものではありません。財務諸表監査で利用するデータやレポートの信頼性に、直接つながっています。

たとえば、売上一覧、在庫一覧、債権年齢表、固定資産台帳、仕訳データ、アクセスログ、連結パッケージ、例外レポートなどを監査証拠として利用する場合、そのデータが完全かつ正確であることをどのように確認するのかが問題になります。

IT全般統制に不備がある場合、アプリケーション統制が設計されていたとしても、アクセス権限、変更管理、運用管理、外部委託先管理の弱さによって、統制が継続的に機能しているという前提そのものが揺らぐことがあります。

したがって、内部統制監査で識別されたIT統制の不備は、財務諸表監査上、次のような問いに変換されます。

  • このシステムから出力されたレポートは、監査証拠として利用できるか
  • 誰がマスタや取引データを変更できたか
  • 未承認のプログラム変更が財務報告に影響していないか
  • 外部委託先の統制をどのように確認したか
  • IT統制不備を補う手作業統制は、十分な精度で機能しているか

内部統制監査上は「IT全般統制の不備」に見える論点であっても、財務諸表監査上は、証拠の信頼性、サンプル母集団の完全性、実証手続の設計に直結するということです。

開示すべき重要な不備がある場合でも、財務諸表監査の意見は自動的に変わらない

内部統制監査で開示すべき重要な不備がある場合、内部統制監査報告書では、内部統制が有効でない旨の意見が問題になります。

しかし、それだけで財務諸表監査が自動的に限定付適正意見、不適正意見、意見不表明になるわけではありません。

財務諸表監査上の意見は、財務諸表に重要な虚偽表示があるか、又は十分かつ適切な監査証拠を入手できたかによって判断されます。したがって、内部統制に開示すべき重要な不備があっても、監査人が追加手続により重要な虚偽表示がないことについて合理的保証を得られれば、財務諸表監査では無限定適正意見となる可能性があります。

ただし、ここで注意しておきたいことがあります。財務諸表監査の無限定適正意見は、内部統制不備を軽視してよいことを意味するものではない、という点です。

内部統制が有効でない場合、財務諸表監査では、統制に依拠した通常の監査アプローチを見直し、追加的な実証手続を実施した結果として意見を形成することになります。その判断過程が調書上明確でなければ、審査やレビューに耐えられません。

つまり、内部統制監査報告と財務諸表監査報告は別々の意見でありながら、同じ監査判断プロセスから生じる二つの出口なのです。

財務諸表監査で修正済みでも、内部統制の評価は残る

財務諸表監査で誤謬が発見され、会社が修正仕訳を計上した場合、財務諸表自体の虚偽表示は解消されることがあります。

しかし、それによって内部統制上の問題まで消えるわけではありません。

たとえば、税効果会計の回収可能性判断に誤りがあり、監査人の指摘で修正したとします。財務諸表監査上は、修正後の数値を検証すれば足りるかもしれません。しかし内部統制監査上は、なぜ会社の決算・財務報告プロセスでその誤りを発見できなかったのかを評価する必要があります。

同じことは、減損、退職給付、引当金、収益認識、棚卸資産評価、関連当事者注記にも当てはまります。

財務諸表が修正済みであることは、内部統制が有効であることの証明ではありません。むしろ、監査人の指摘によって修正された事項は、内部統制上の不備を示している可能性があります。

この点を見落とすと、「財務諸表監査上は解決済みだが、内部統制監査上の評価が未整理」という状態が生じます。審査担当者から見れば、そこは監査判断の空白にほかなりません。

監査役等とのコミュニケーションにおける位置づけ

内部統制監査と財務諸表監査の関係は、監査チーム内部だけで整理すればよいものではありません。監査役等、内部監査、経営者とのコミュニケーションにも反映されていきます。

JICPAの財務報告内部統制監査基準報告書第1号は、内部統制監査を含めた一体監査において、監査役等とのコミュニケーションとして、内部統制監査に関連する監査人の責任等についてもコミュニケーションを行うことを求めています。
出典:日本公認会計士協会|財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」

監査役等に対して説明すべきことは、単なる「J-SOXの評価結果」ではありません。

  • 評価範囲は、財務諸表監査上の重要リスクと整合しているか
  • 内部統制の不備は、財務諸表監査の追加手続にどう反映されたか
  • 財務諸表監査で発見された誤謬は、内部統制評価にどう反映されたか
  • 開示すべき重要な不備の有無は、どの根拠で判断されたか
  • 監査意見形成に必要な証拠は、統制評価と実証手続の組合せで十分か

監査役等は、会計監査人監査の結果だけでなく、内部統制システムの運用状況、内部監査との連携、取締役の職務執行の監視という観点からも関心を持ちます。監査役の実務においては、監査報告にサインするために、会計監査人の仕事、内部統制システム、監査手続、意思疎通を理解することが重要になります。

内部統制監査と財務諸表監査の接続を説明できることは、三様監査の実効性を高めるうえでも重要な意味を持ちます。

審査担当者に説明できる調書化のポイント

内部統制監査と財務諸表監査の関係は、調書で最も弱くなりやすい領域です。

内部統制評価調書には「有効」と書かれている。財務諸表監査調書には「実証手続で問題なし」と書かれている。しかし、その二つがどう結びついているのかが分からない。

このような調書は、後から見ると判断過程が途切れています。

審査担当者に説明するためには、少なくとも次の接続を明確にしておくべきです。

調書上の接続残すべき内容
リスク評価との接続どの重要な虚偽表示リスクに対して、どの統制を評価したか
J-SOX評価範囲との接続評価範囲が財務諸表監査上の重要リスクと整合しているか
統制上の要点との接続どのアサーションをどの統制が低減しているか
運用評価結果との接続例外事項の原因、母集団への影響、補完統制の評価
実証手続との接続統制に依拠した範囲、依拠しなかった範囲、追加手続
不備評価との接続不備が財務諸表監査の監査計画にどう影響したか
財務諸表監査結果との接続監査修正、未修正差異、開示指摘が内部統制評価にどう反映されたか
報告との接続監査役等報告、内部統制監査報告、財務諸表監査報告への影響

監査現場で求められるのは、内部統制監査調書と財務諸表監査調書を別々に完成させることではありません。両者の判断が一貫していることを、後から追える状態にしておくことです。

実務で迷いやすい判断場面

1. J-SOXでは評価範囲外だが、財務諸表監査では高リスクの場合

評価範囲外であっても、財務諸表監査上のリスクが高い場合には、財務諸表監査として運用評価手続又は強い実証手続が必要になります。評価範囲外であることは、財務諸表監査上のリスク対応を省略する根拠にはなりません。

2. J-SOXでは有効だが、財務諸表監査で誤謬が発見された場合

財務諸表監査で発見された誤謬が、統制で防止又は発見・是正されるべきものだったかどうかを検討します。修正済みであっても、内部統制上の不備、不備の重要性、評価範囲の妥当性を再評価する必要があります。

3. 開示すべき重要な不備があるが、財務諸表は修正済みの場合

財務諸表監査では、追加手続により無限定適正意見が可能な場合があります。しかし内部統制監査では、期末日時点で財務報告に係る内部統制が有効でない旨の判断が問題になります。二つの意見の違いを、明確に説明する必要があります。

4. IT統制に不備があり、監査データを利用したい場合

IT統制不備が、監査で利用するデータの完全性・正確性に影響するかどうかを評価します。影響がある場合には、データ抽出の再実施、外部証拠との照合、システム外資料による補完、母集団の完全性確認が必要になります。

5. 決算・財務報告プロセスのレビュー統制が形式化している場合

承認印やチェックリストがあったとしても、重要な仮定、注記、組替、連結修正、開示基礎資料が実質的に検討されていなければ、統制が有効とはいえない場合があります。財務諸表監査では、見積り・開示・非定型仕訳への手続を強化する必要があります。

内部統制監査報告への接続

内部統制報告書の第一号様式では、財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項、評価の範囲・基準日・評価手続に関する事項、評価結果に関する事項、付記事項、特記事項が、記載項目として示されています。
出典:金融庁|内部統制報告書 第一号様式

また、令和5年8月改訂の金融庁Q&Aでは、内部統制報告書の記載内容について、関係法令等に従い、投資家と企業との建設的な対話に資する開示が期待されるとされています。
出典:金融庁|内部統制報告制度に関するQ&A

内部統制監査報告書の詳細な記載判断は11-5で扱いますが、ここで押さえておきたいのは、内部統制監査報告は財務諸表監査から独立して存在するものではない、という点です。

内部統制監査の過程で得た証拠は財務諸表監査に影響し、財務諸表監査で得た証拠は内部統制監査に戻されます。したがって内部統制監査報告の結論は、監査計画、評価範囲、統制評価、不備評価、実証手続、監査役等とのコミュニケーションの整合性の上に成り立つものだといえます。

内部統制監査と財務諸表監査を一体で捉えるための判断軸

最後に、実務判断として重要な軸を整理しておきます。

第一に、目的を混同しないことです。内部統制監査は内部統制報告書への意見であり、財務諸表監査は財務諸表への意見です。

第二に、証拠を分断しないことです。同じ統制、同じサンプル、同じ例外事項であっても、内部統制監査上の意味と財務諸表監査上の意味を、それぞれ整理します。

第三に、J-SOXの結論を財務諸表監査計画へ反映することです。統制の有効性、不備、開示すべき重要な不備、IT統制不備、評価範囲の問題は、実証手続の種類・時期・範囲に反映されなければなりません。

第四に、財務諸表監査の発見事項を内部統制評価へ戻すことです。監査修正、未修正差異、開示指摘、見積り誤り、不正リスクの兆候は、内部統制の不備評価と評価範囲の妥当性に影響します。

第五に、監査役等と審査担当者に説明できる調書化を行うことです。二つの監査が同じ事実からどのように異なる結論へ至ったのかを、後から追える状態にしておく必要があります。

内部統制監査と財務諸表監査は、別々の作業ではありません。財務報告の信頼性を、統制と証拠の両面から検証する、二つの監査判断です。

内部統制監査と財務諸表監査の接続に迷う場合

内部統制監査と財務諸表監査の関係は、単純な整理では片づかない場面が少なくありません。

  • J-SOX評価範囲外で監査上の重要論点が発見された場合
  • 開示すべき重要な不備があるが、財務諸表は修正済みである場合
  • IT統制不備が、監査で利用するデータの信頼性に影響する場合
  • 決算・財務報告プロセスの統制不備が、見積り・注記・KAM候補に波及する場合
  • 財務諸表監査で発見した誤謬を、内部統制評価にどこまで戻すべきか迷う場合

こうした場面では、内部統制監査だけ、あるいは財務諸表監査だけを見ていても、判断が分断されてしまいます。重要なのは、評価範囲、統制上の要点、不備評価、統制リスク、実証手続、監査役等報告、監査意見形成までを、一つの流れとして整理することです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、J-SOX評価、内部統制監査、財務諸表監査、決算・開示、監査役等対応を横断し、説明可能な判断過程を整理する支援を行っています。内部統制監査の結果を財務諸表監査へどう反映すべきか、財務諸表監査で得た発見事項をJ-SOX評価へどう戻すべきかについて検討したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点実務上の要点
目的の違い内部統制監査は内部統制報告書への意見、財務諸表監査は財務諸表への意見
一体的実施原則として同一の監査人により実施され、監査証拠が相互に利用される
直接報告業務ではない日本のJ-SOXは、経営者の内部統制評価結果を前提に監査人が意見を表明する構造
統制リスク内部統制の有効性は、財務諸表監査上の統制リスク評価に影響する
実証手続統制不備がある場合、実証手続の種類・時期・範囲・証拠力を見直す
評価範囲外プロセスJ-SOX評価範囲外でも、財務諸表監査上必要なら運用評価手続又は実証手続を実施する
開示すべき重要な不備財務諸表監査意見が自動的に変わるわけではないが、通常の統制依拠は困難になる
財務諸表監査からの戻し監査修正、開示指摘、見積り誤りは内部統制評価へ戻して検討する
決算・財務報告プロセス見積り、連結、注記、開示、非定型仕訳が集中し、両監査が最も交差する領域
IT統制データ・レポートの完全性と正確性に影響し、監査証拠の利用可能性を左右する
監査役等報告J-SOX結果だけでなく、財務諸表監査への影響を説明する必要がある
調書化内部統制監査調書と財務諸表監査調書の判断過程を接続して残す
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