内部統制監査報告書は、J-SOX対応の最後に整える形式文書ではありません。
そこには、経営者評価の妥当性、評価範囲の合理性、統制不備の重要性、開示すべき重要な不備の有無、財務諸表監査への影響、監査役等とのコミュニケーション、そして審査対応までが集約されます。
実務上の難しさは、「内部統制が有効かどうか」を単純に判定することにあるのではありません。難しいのは、次のような問いに対して、後から説明できる判断過程を持てるかどうかです。
- 会社が決定した評価範囲は、財務報告に及ぼす影響の重要性を踏まえて合理的か。
- 期中で識別された不備は、期末日までに本当に是正されたといえるか。
- 財務諸表監査で発見された誤謬は、内部統制評価にどう反映すべきか。
- 開示すべき重要な不備がある場合、内部統制報告書の記載は十分か。
- 内部統制監査報告書では、無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明のどれを選択すべきか。
- 財務諸表監査報告書の意見やKAMと、内部統制監査報告書の判断は整合しているか。
内部統制監査報告書の判断を誤ると、J-SOX調書が弱いという問題にとどまりません。財務諸表監査のリスク評価、監査証拠の十分性、訂正報告、虚偽記載リスク、監査品質レビューにまで波及していきます。
本稿では、内部統制監査報告書を「J-SOX評価の出口」ではなく、「財務報告の信頼性について、監査人がどのように判断したかを示す制度的な成果物」として整理します。
なお、2023年4月7日に企業会計審議会が公表した改訂基準・改訂実施基準は、2024年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用されています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)
また、日本公認会計士協会は、財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正を2025年2月14日に公表し、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用することとしています。
出典:日本公認会計士協会|「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」の公表について
内部統制監査報告書は「内部統制そのもの」ではなく「内部統制報告書」に対する意見である
まず確認しておきたいのは、内部統制監査報告書が何を対象としているのか、という点です。
内部統制監査は、会社のすべての内部統制について、監査人が直接「良い」「悪い」と評価する制度ではありません。監査人は、経営者が作成した内部統制報告書が、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠し、財務報告に係る内部統制の評価について、すべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、内部統制監査報告書により意見を表明します。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
この点を曖昧にしたまま進めると、実務判断は足元から崩れます。
- 監査人は、経営者に代わって評価範囲を決定するわけではありません。
- 監査人は、会社の内部統制を設計し直すわけでもありません。
- 監査人は、内部統制報告書の記載について、独立の立場から意見を表明します。
したがって、内部統制監査報告書の判断では、会社の統制活動そのものを見るだけでは足りません。経営者評価のプロセス、評価範囲、評価手続、評価結果、そして内部統制報告書の記載の全体が検討対象になります。
実務上、「統制が運用されていたか」だけを追いかけていると、どうしても視野が狭くなります。監査報告の出口で問われるのは、次の4点です。
| 判断対象 | 問われる内容 |
|---|---|
| 経営者評価 | 経営者が自ら評価範囲・評価手続・評価結果を合理的に判断しているか |
| 評価範囲 | 財務報告に及ぼす影響の重要性を踏まえ、評価範囲が妥当か |
| 不備評価 | 識別された不備が、開示すべき重要な不備に該当するか |
| 報告書表示 | 内部統制報告書が、評価結果を適正に表示しているか |
この構造を押さえておけば、内部統制監査報告書が「J-SOXチェックの完了証明」ではなく、「経営者評価の適正表示に関する監査意見」であることが、はっきりと見えてきます。
内部統制報告書の記載事項を起点に考える
内部統制監査報告書の判断は、内部統制報告書の記載事項と対応させながら考える必要があります。
内部統制報告書の第一号様式では、主な記載項目として、財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項、評価の範囲・基準日・評価手続に関する事項、評価結果に関する事項、付記事項、特記事項が示されています。
出典:e-Gov法令検索|財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令 第一号様式
とりわけ重要なのが、評価結果に関する事項です。第一号様式では、評価結果として、財務報告に係る内部統制は有効である旨、評価手続の一部が実施できなかったが有効である旨、開示すべき重要な不備があり有効でない旨、重要な評価手続が実施できず評価結果を表明できない旨などの記載が想定されています。
出典:e-Gov法令検索|財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令 第一号様式
これを監査人の側から眺めると、内部統制監査報告書の判断は、次のように分岐していきます。
| 経営者の内部統制報告書 | 監査人の主な検討 |
|---|---|
| 有効である | 評価範囲、評価手続、評価結果が適切か |
| 評価手続の一部未実施だが有効 | 未実施範囲と理由が妥当か、なお有効といえるか |
| 開示すべき重要な不備があり有効でない | 不備の内容、未是正理由、財務諸表監査への影響の記載が適切か |
| 評価結果を表明できない | 重要な評価手続が実施できなかった理由と範囲が妥当か |
つまり監査人は、「有効」「有効でない」という結論だけを見ているのではありません。その結論に至る評価範囲、手続、証拠、不備評価、記載内容までを検討しています。
開示すべき重要な不備は、実際の誤謬額だけで判断しない
内部統制監査報告書の判断において、最も重い論点が開示すべき重要な不備です。
改訂基準では、「財務報告に係る内部統制が有効である」とは、当該内部統制が適切な内部統制の枠組みに準拠して整備及び運用されており、開示すべき重要な不備がないことをいうとされています。そして「開示すべき重要な不備」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い財務報告に係る内部統制の不備を指します。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
ここで注意したいのは、「実際に重要な虚偽表示が発生したか」だけで判断しない、ということです。
内部統制の不備は、発生済みの誤謬だけで測られるものではなく、潜在的に重要な虚偽表示を生じさせる可能性によって評価されます。実施基準では、開示すべき重要な不備について、一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものと整理され、金額的な面と質的な面の双方を検討することが求められています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
たとえば、実際の修正額が僅少であっても、次のような場合には慎重な検討が欠かせません。
| 不備の例 | なぜ重要になり得るか |
|---|---|
| 決算整理仕訳のレビューが実質的に機能していない | 見積り、組替、注記に広範な影響を及ぼす可能性がある |
| 連結パッケージの承認・レビューが形式化している | 子会社数値の誤謬が連結財務諸表に波及し得る |
| ITアクセス管理に重大な欠陥がある | 権限外入力・改ざん・証跡喪失により複数プロセスに影響し得る |
| 財務制限条項の管理が行われていない | 借入金表示、注記、継続企業の前提に影響し得る |
| 経営者による内部統制の無効化への対策が不十分 | 仕訳、見積り、非定型取引、不正リスクに波及し得る |
| 開示チェックが属人的で、記述情報との整合確認がない | 有報全体の虚偽記載リスクにつながる |
内部統制不備の重大性は、「このサンプルで例外が何件あったか」では測れません。内部監査の領域でも、発見事項の重要性は目的達成への影響や事故発生可能性を踏まえて説明されますし、J-SOXにおいても、不備と開示すべき重要な不備は区別して扱う考え方が定着しています。
監査人が審査で問われるのは、「不備があったか」ではありません。「その不備が財務報告全体にどの程度の影響を及ぼし得ると判断したか」です。
期末日までに是正されたかどうかが決定的に重要になる
内部統制監査報告書の意見は、期末日における財務報告に係る内部統制の有効性の評価について表明されます。したがって、期中に開示すべき重要な不備に相当する不備が発見されたとしても、それが期末日までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると判断される可能性があります。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
ただし、ここでいう「是正」は、再発防止策を決めたことと同義ではありません。
- 規程を改訂した。
- 担当者を変更した。
- 再発防止策を取締役会で承認した。
- チェックリストを作成した。
- 研修を実施した。
これらはいずれも是正措置の一部ではありますが、それだけで「期末日時点で有効に機能している」といえるわけではないのです。
是正の判断にあたっては、少なくとも次の観点を確認しておく必要があります。
| 観点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 設計の是正 | 不備の原因に対応する統制が設計されたか |
| 運用開始 | 新しい統制が実際に運用開始されたか |
| 運用実績 | 期末日までに評価可能な運用実績があるか |
| 証拠 | 承認記録、レビュー証跡、ログ、再計算資料などが残っているか |
| 例外処理 | 是正後にも例外が発生していないか |
| 補完統制 | 主統制が十分でない場合、補完統制でリスクが低減されているか |
| 残存リスク | 期末日時点でなお重要な虚偽表示リスクが残っていないか |
たとえば、期中に売上カットオフ統制の不備が発見され、会社が12月に新しい承認手続を導入したとします。3月決算であれば、監査人は12月以降の運用証拠を確認し、期末日までに統制が有効に機能していたかを評価することができます。
一方、3月末の直前に統制を設計したものの、実質的な運用実績がないという場合には、「設計は改善されたが、運用の有効性を確認できない」という結論に至ることもあり得ます。
内部統制監査報告書の判断では、期末日までの是正か、期末日後の是正かを、明確に区別しなければなりません。
期末日後の是正は、意見を変えるのではなく追記情報・付記事項で扱う
期末日後に開示すべき重要な不備を是正するための措置が実施された場合、その事実はもちろん重要です。しかし、内部統制監査報告書の意見は期末日時点の評価に対して表明されるものである以上、期末日後の是正によって、期末日時点の有効性が遡って有効になるわけではありません。
第一号様式では、期末日後、内部統制報告書提出日までに、開示すべき重要な不備を是正するために実施された措置がある場合には、その内容を付記事項に記載することが求められています。あわせて、提出日までに当該措置により不備を是正し、財務報告に係る内部統制が有効であると判断した場合には、措置の内容と併せて措置が完了した旨を記載できるとされています。
出典:e-Gov法令検索|財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令 第一号様式
また、改訂後の報告制度では、前年度に開示すべき重要な不備を報告した場合、その是正状況が付記事項に記載すべき項目として追加された点も見逃せません。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)
実務上は、次の区別が必要になります。
| 状況 | 内部統制報告書 | 内部統制監査報告書 |
|---|---|---|
| 期末日までに是正済み | 有効と判断し得る | 無限定適正意見の可能性 |
| 期末日に不備が存在 | 有効でない旨と不備内容・未是正理由を記載 | 記載が適切なら無限定適正意見+追記情報 |
| 期末日後に是正措置を実施 | 付記事項で是正措置を記載 | 必要に応じて追記情報 |
| 提出日までに是正完了 | 付記事項で完了した旨を記載可能 | 期末日時点の意見とは区別して扱う |
この切り分けを誤ると、「提出日までに改善したから有効」という誤った説明に流れやすくなります。
監査報告書の意見は、あくまで期末日時点の状態に対する判断です。期末日後の是正は、その後の情報として扱うべきものだと理解しておく必要があります。
評価範囲の妥当性は、内部統制監査報告書の核心である
内部統制監査のなかで、最も形式化しやすく、しかも最も重大な誤りにつながりやすいのが評価範囲です。
評価範囲は、売上高のおおむね3分の2や、売上・売掛金・棚卸資産の3勘定といった形式的な発想だけで決めるものではありません。2023年改訂では、これらの考え方を機械的に適用せず、評価範囲の選定に当たって財務報告に対する影響の重要性を適切に勘案することが強調されています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)
評価範囲の判断で問われるのは、次のような点です。
| 評価範囲の論点 | 監査上の確認 |
|---|---|
| 重要な事業拠点 | 売上・利益・資産・リスクの観点から選定が妥当か |
| 重要な勘定科目 | 財務諸表への影響が大きい勘定が漏れていないか |
| リスクの高いプロセス | 非定型取引、見積り、連結、開示、IT、関連当事者が考慮されているか |
| 全社的統制 | 統制環境が弱い拠点を範囲外にしていないか |
| IT統制 | 重要システム、アクセス管理、変更管理、外部委託が考慮されているか |
| 財務諸表監査との整合 | 監査上の重要な虚偽表示リスクと評価範囲が矛盾していないか |
とりわけ、財務諸表監査で重要な誤謬が識別された場合には、その誤謬が内部統制評価の範囲外の事業拠点や業務プロセスから発生していないかを検討する必要があります。この点については、評価範囲外から開示すべき重要な不備が識別された場合、その事業拠点又は業務プロセスについて、少なくとも当該不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切であると整理されています。
出典:日本公認会計士協会|改正内部統制報告制度についての期末監査での留意事項
評価範囲を決定するのは、あくまで経営者です。もっとも監査人には、独立性を損なわない範囲で、指導的機能の一環として経営者と協議することが想定されています。改訂基準においても、評価範囲に関する監査人との協議は、評価計画段階及び状況変化があった場合に必要に応じて実施することが適切であるとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)
この協議は、監査人が会社に代わって評価範囲を決めることではありません。監査人が問うべきなのは、「その範囲で、本当に財務報告の信頼性に対する重要なリスクを評価したといえるのか」という一点です。
内部統制監査と財務諸表監査は一体で行われる
内部統制監査は、財務諸表監査と切り離された別プロジェクトではありません。
改訂基準は、内部統制監査は原則として同一の監査人により、財務諸表監査と一体となって行われるものとし、内部統制監査の過程で得られた監査証拠は財務諸表監査の内部統制の評価における監査証拠として利用され、財務諸表監査の過程で得られた監査証拠もまた内部統制監査の証拠として利用されることがあるとしています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
この一体性は、実務のうえできわめて重要な意味を持ちます。
たとえば、財務諸表監査で次のような事象が発見された場合、その影響は内部統制監査にも及びます。
| 財務諸表監査での発見 | 内部統制監査への波及 |
|---|---|
| 重要な修正仕訳 | どの統制が防止・発見できなかったのかを検討 |
| 見積りの前提誤り | 決算財務報告プロセス統制の不備を検討 |
| 子会社パッケージ誤謬 | 連結プロセス統制・子会社統制の不備を検討 |
| 開示漏れ | 開示統制・レビュー統制の不備を検討 |
| 不正リスクへの対応不足 | 経営者による内部統制の無効化への対応を検討 |
| ITログ欠落・権限不備 | IT全般統制・業務処理統制への影響を検討 |
逆に、内部統制監査で運用不備や開示すべき重要な不備が識別されれば、財務諸表監査の側では、統制リスク評価、実証手続の時期・範囲、後発事象、経営者確認書、監査役等報告、場合によっては監査意見にまで影響が及びます。
ここで押さえておきたいのは、内部統制監査の結果が財務諸表監査の意見を自動的に決めるわけではない、ということです。
開示すべき重要な不備があるからといって、ただちに財務諸表監査が除外事項付意見になるわけではありません。必要な追加手続により、財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて十分かつ適切な監査証拠を入手できれば、財務諸表監査は無限定適正意見となることもあります。
もっとも、内部統制不備によって重要な領域について十分な監査証拠を入手できない場合には、財務諸表監査の意見形成にも影響し得ます。
内部統制監査報告書において重要なのは、「J-SOXとしての結論」と「財務諸表監査としての結論」が、同じ事実認識と証拠に基づいて整合していることです。
内部統制監査報告書の意見類型
内部統制監査報告書の意見は、財務諸表監査報告書と同様に、無限定適正意見だけではありません。評価範囲、評価手続、評価結果、内部統制報告書の表示に不適切な点がある場合や、監査手続に制約がある場合には、除外事項付意見、不適正意見、意見不表明が検討されます。
改訂基準では、経営者が作成した内部統制報告書が、内部統制の評価の基準に準拠し、財務報告に係る内部統制の評価について、すべての重要な点において適正に表示していると判断した場合に、監査人は無限定適正意見を表明するとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
意見類型は、次のように整理できます。
| 監査人の判断 | 意見類型 | 典型例 |
|---|---|---|
| 内部統制報告書が適正に表示されている | 無限定適正意見 | 経営者評価、評価範囲、結果表示が妥当 |
| 不適切な事項が重要だが、内部統制報告書全体が虚偽表示とはいえない | 限定付適正意見 | 一部の評価範囲や評価手続が不適切 |
| 不適切な事項が内部統制報告書全体として虚偽表示に当たるほど重要 | 不適正意見 | 開示すべき重要な不備があるのに有効と表示 |
| 重要な監査手続を実施できず、意見表明の基礎を得られない | 意見不表明 | 重要な評価資料が入手不能、評価未実施範囲が広範 |
ここで注意しておきたいのが、会社が開示すべき重要な不備を正しく記載している場合の扱いです。
開示すべき重要な不備があること自体は、内部統制監査報告書の無限定適正意見を妨げるものではありません。内部統制報告書に、開示すべき重要な不備の内容及び是正されない理由が適切に記載されており、その記載が適正であると判断される場合、監査人は無限定適正意見を表明したうえで、当該不備がある旨及び財務諸表監査に及ぼす影響を追記します。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
したがって、次の2つを混同してはいけません。
- 会社の内部統制が有効でない。
- 内部統制報告書が適正に表示されていない。
前者の場合であっても、会社が有効でない旨を適切に開示していれば、内部統制報告書自体は適正に表示されている可能性があります。内部統制監査報告書の意見は、内部統制そのものへの直接の意見ではなく、内部統制報告書の適正表示に対する意見だからです。
追記情報は「補足説明」であり、意見の代替ではない
内部統制監査報告書では、強調すること又はその他説明することが適当と判断した事項を、追記情報として記載します。
改訂基準では、追記情報として、開示すべき重要な不備がある旨及び当該不備が財務諸表監査に及ぼす影響、財務報告に係る内部統制の有効性評価に重要な影響を及ぼす後発事象、期末日後に実施された是正措置等、やむを得ない事情により十分な評価手続を実施できなかった範囲及びその理由などが示されています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
追記情報は、意見を曖昧にするためのものではありません。
開示すべき重要な不備があるにもかかわらず、会社が有効と表示しているとき、追記情報で補えばよいという話にはならないのです。その場合は、内部統制報告書の表示が不適切であるとして、除外事項付意見又は不適正意見を検討することになります。
追記情報は、内部統制報告書が適正に表示されていることを前提に、利用者の理解のために重要な事項を補足する区分です。
この点は、財務諸表監査における強調事項やKAMと同じく、報告書における区分の役割を混同しないことが大切です。
財務諸表監査への影響を記載できなければ、内部統制監査報告は完結しない
開示すべき重要な不備がある場合、内部統制監査報告書には、その不備が財務諸表監査に及ぼす影響を追記する必要があります。ここでいう影響は、定型句で済ませられる性質のものではありません。
監査人は、次のような観点から財務諸表監査への影響を整理していきます。
| 不備の領域 | 財務諸表監査への影響 |
|---|---|
| 決算財務報告プロセス | 見積り、組替、注記、開示の追加手続が必要になる |
| 収益認識 | 売上の発生、期間帰属、取引価格、カットオフの実証手続を拡大する |
| 棚卸資産 | 実在性、評価、原価計算、滞留評価の手続を強化する |
| IT全般統制 | システム生成データの信頼性を再評価し、代替手続を検討する |
| 連結プロセス | 子会社数値、内部取引消去、連結修正、表示組替の検証を強化する |
| 開示統制 | 有報、短信、記述情報、注記の整合確認を強化する |
| 経営者による内部統制の無効化 | 仕訳テスト、見積りバイアス、非定型取引の検討を強化する |
内部統制監査報告書における「財務諸表監査に及ぼす影響」は、財務諸表監査チームの監査戦略そのものと直結しています。
「必要な追加手続を実施した」とだけ記載するのでは、審査担当者に対する説明としては弱いといわざるを得ません。監査調書上は、どのリスク評価を変更し、どの手続を追加し、どの証拠によって財務諸表監査意見を支えたのかを、明確にしておく必要があります。
内部統制監査報告書とKAMの関係
内部統制監査報告書に、KAMを記載するわけではありません。
しかし、内部統制監査の結果が、財務諸表監査報告書のKAM判断に影響することはあります。
たとえば、固定資産の減損、税効果、収益認識、棚卸資産評価、金融商品の時価、継続企業の前提といった領域で、経営者の重要な判断や見積りの不確実性が高く、さらに決算財務報告プロセスや開示統制に重要な不備があるとすれば、その論点は監査上特に重要な事項としてKAM候補になり得ます。
ただし、内部統制の不備そのものをKAMに記載すれば足りる、という話ではありません。
KAMは、財務諸表監査における監査上の主要な検討事項です。内部統制監査報告書の追記情報、財務諸表監査報告書のKAM、財務諸表注記、内部統制報告書の不備記載は、それぞれ制度上の役割が異なります。KAM制度は監査報告書の透明性を高めるものですが、会社が開示すべき事項や除外事項、内部統制監査報告書の判断を代替するものではありません。
実務上は、次の整理を押さえておきたいところです。
| 区分 | 役割 |
|---|---|
| 内部統制報告書 | 経営者が内部統制評価結果を開示する |
| 内部統制監査報告書 | 監査人が内部統制報告書の適正表示に意見を表明する |
| 財務諸表注記 | 財務諸表利用者に必要な会計・開示情報を提供する |
| 財務諸表監査報告書のKAM | 財務諸表監査上、特に重要な検討事項を説明する |
| 財務諸表監査意見 | 財務諸表全体の適正表示について意見を表明する |
この切り分けを誤ると、「内部統制報告書に書くべき事項をKAMで補う」「追記情報で意見修正を回避する」「財務諸表注記の不足を内部統制監査報告書で補足する」といった、不適切な構造に陥りかねません。
監査役等とのコミュニケーション
内部統制監査報告書の判断は、監査役等とのコミュニケーションとも密接に関係しています。
改訂基準は、内部統制の基本的枠組みにおいて、監査役等が財務報告プロセスの合理性や内部統制システムの有効性に関して適切な監視を行っているかを、統制環境の要素として位置づけています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準
監査役等との協議では、少なくとも次の事項を共有しておきたいところです。
- 経営者が決定した評価範囲
- 評価範囲外から識別された不備の有無
- 期中で識別された重要な不備と是正状況
- 開示すべき重要な不備に該当するかどうかの判断
- 財務諸表監査で識別された誤謬との関係
- 内部統制報告書の記載案
- 内部統制監査報告書の意見類型
- 追記情報の必要性
- 財務諸表監査報告書との整合性
- 審査上の重要論点
監査役等は、会計監査人と同じ監査を行うわけではありません。しかし、監査役等は取締役の職務執行や内部統制システムを監視する立場にあり、会計監査人の監査結果や内部統制不備の情報は、監査役等の監査報告にも影響します。監査役の実務においても、内部統制システムの理解、会計監査人との意思疎通、監査調書・監査計画の整理は、重要な位置づけを持ちます。
内部統制監査報告書を作成する直前になって、監査役等へ結論だけを報告するのでは遅すぎます。重要な不備の識別、是正状況、報告書への影響は、期中から共有し、監査役等が監視機能を発揮できる状態にしておく必要があります。
訂正内部統制報告書への対応
内部統制監査報告書の判断では、訂正対応も避けて通れません。
近年の改訂の背景としては、評価範囲外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や、内部統制の有効性評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例が、一定程度見受けられたことが指摘されています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)
訂正が必要になる典型例としては、次のような場合が挙げられます。
| 訂正につながる状況 | 監査上の検討 |
|---|---|
| 過年度財務諸表の訂正 | 当時の内部統制不備が開示すべき重要な不備だったか |
| 不正発覚 | 経営者による内部統制の無効化、統制環境、不正リスク対応を再評価 |
| 評価範囲外で重要な誤謬発見 | 評価範囲の妥当性、範囲外とした理由を検討 |
| 開示漏れ | 開示統制、決算財務報告プロセスの不備を検討 |
| IT不備の遡及発見 | システム生成データの信頼性と過年度影響を検討 |
訂正対応は、「財務諸表を訂正したから内部統制報告書も自動的に訂正する」という単純な話ではありません。
過年度に重要な虚偽表示があった場合には、その原因となった内部統制不備が、当時の期末日時点で開示すべき重要な不備であったかを評価する必要があります。そのうえで、なぜ当初の評価で識別されなかったのか、評価範囲が適切だったのか、経営者評価手続に欠陥がなかったのかを検討していくことになります。
会計不正の実務を見ていると、粉飾決算は財務諸表本体だけでなく、必要な開示を行わないという形でも現れます。また、不正実行者以外が取引の詳細を把握しておらず、モニタリングが働いていないことも少なくありません。
こうした状況においては、内部統制報告書の訂正は単なる書類の訂正にとどまりません。財務報告プロセス、統制環境、監査対応、開示統制の再評価を伴うものになります。
IPO・上場後移行における内部統制監査報告書の注意点
IPO準備会社では、内部統制監査報告書の作成時期そのものよりも、上場会社水準の内部統制をいつまでに整備・運用し、どの程度の運用実績を確保するかが重要になります。
IPO準備監査では、直前々期、直前期、申請期を通じて、管理体制の整備・運用・改善、内部統制の整備評価、運用評価、決算体制の確認が進められます。IPO実務では、直前期に上場会社と同水準の管理体制で、一定期間の運用実績を示すことが重視されます。
また、新規上場会社については、一定の場合に上場後3年間、内部統制報告書に対する監査証明の免除制度があります。ただし、監査証明の免除は、内部統制報告書の作成・提出義務や、内部統制評価そのものを不要にするものではありません。この点は、個別の上場時期、会社規模、適用要件を確認する必要があります。
出典:e-Gov法令検索|金融商品取引法
内部統制監査報告書が提出される段階になって初めてJ-SOXを整える、という発想では遅すぎます。
内部統制監査報告書の判断は、上場後に突然発生するものではありません。IPO準備段階からの業務フロー、決算体制、開示統制、IT統制、監査役等との連携の積み上げが、そのまま結果として表れます。
審査担当者に説明できる内部統制監査調書
内部統制監査報告書の判断は、審査で重点的に確認されやすい領域です。
審査担当者が確かめたいのは、監査報告書の文例に沿っているかどうかではありません。むしろ、次の判断が一貫しているかどうかです。
- 監査計画上、どの内部統制リスクを重視したか
- 経営者評価の範囲をどう検討したか
- 重要な事業拠点・業務プロセスの選定がなぜ妥当か
- 全社的統制、決算財務報告プロセス、IT統制をどう評価したか
- 不備をどのように識別し、重要性をどう評価したか
- 開示すべき重要な不備に該当しないと判断した根拠は何か
- 期末日までに是正されたと判断した証拠は何か
- 財務諸表監査のリスク評価と手続にどう反映したか
- 内部統制報告書の記載は十分か
- 追記情報、除外事項、意見不表明の要否をどう判断したか
- 監査役等とどのようなコミュニケーションを行ったか
監査調書では、次のような弱点が指摘されやすくなります。
| 弱い調書 | 問題点 |
|---|---|
| 評価範囲の選定理由が数値基準だけ | リスクの高いプロセスや全社的統制の影響が説明できない |
| 不備一覧に例外件数しかない | 重要な虚偽表示をもたらす可能性が評価されていない |
| 是正済みとだけ記載 | 設計・運用・証拠・期末日時点の有効性が不明 |
| 財務諸表監査への影響が未記載 | 一体監査としての判断が説明できない |
| 監査役等報告が会議体記録のみ | 重要判断の共有内容が不明 |
| 追記情報の要否が未検討 | 監査報告書上の利用者説明が不足する |
| 内部統制報告書の記載チェックのみ | 経営者評価の妥当性検討が不足する |
内部統制監査報告書の判断は、監査調書の「結論欄」だけで支えられるものではありません。評価範囲、統制評価、不備評価、財務諸表監査への影響、報告書記載が、一本の線としてつながっている必要があります。
決算・開示プロセスから逆算する
内部統制監査報告書の品質は、期末の報告書作成段階だけで決まるものではありません。
決算早期化や開示の実務では、経理担当者全員が有価証券報告書や決算短信といった最終成果物を理解し、そこから逆算して決算・開示業務を組み立てる「森を見る視点」が重要になります。
内部統制監査報告書も、まったく同じです。
内部統制報告書と内部統制監査報告書は、単体決算、連結決算、決算整理仕訳、注記、開示基礎資料、監査調書、監査役等報告の最終成果物にほかなりません。期末の直前になって不備評価を始めるのではなく、次のように逆算して設計しておく必要があります。
| 時期 | 実務上の焦点 |
|---|---|
| 期首・計画段階 | 評価範囲、重要リスク、全社的統制、IT統制、監査計画との整合 |
| 期中 | 整備評価、運用評価、例外事項、不備の早期是正 |
| 第3四半期頃 | 是正状況、残存不備、評価範囲変更、審査相談 |
| 期末 | 期末日時点の有効性、決算財務報告プロセス、開示統制 |
| 監査報告前 | 内部統制報告書、内部統制監査報告書、財務諸表監査報告書の整合 |
| 提出日まで | 後発事象、期末日後の是正措置、付記事項、追記情報 |
内部統制監査報告書は、最後に書くものです。しかし、最後に考えるものではありません。
主な参照情報
本稿は、2026年7月時点で公表されている金融庁、企業会計審議会、日本公認会計士協会、e-Gov法令検索等の公的・公式情報を確認したうえで作成しています。個別の監査判断にあたっては、最新の法令、内閣府令、監査基準、内部統制基準・実施基準、JICPAの実務指針、監査法人の品質管理方針・審査方針をご確認ください。
- 出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)
- 出典:金融庁|「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について
- 出典:金融庁|「内部統制報告制度に関するQ&A」等の改訂について
- 出典:e-Gov法令検索|金融商品取引法
- 出典:e-Gov法令検索|財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令
- 出典:日本公認会計士協会|「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」の公表について
- 出典:日本公認会計士協会|財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正の公表について
- 出典:日本公認会計士協会|改正内部統制報告制度についての期末監査での留意事項
振り返り
| 論点 | 実務上の意味 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 内部統制監査報告書の対象 | 内部統制そのものではなく内部統制報告書への意見 | 経営者評価の適正表示を判断する |
| 経営者責任 | 内部統制の整備・運用・評価・報告は経営者の責任 | 監査人が評価範囲を代替決定しない |
| 監査人責任 | 独立の立場から内部統制報告書に意見を表明する責任 | 評価範囲、手続、結果、表示を検討する |
| 開示すべき重要な不備 | 財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い不備 | 金額的重要性と質的重要性の双方を見る |
| 是正判断 | 期末日時点で有効に機能していたか | 設計改善だけでなく運用実績と証拠が必要 |
| 期末日後の是正 | 意見を遡って変えるものではない | 付記事項・追記情報として扱う |
| 評価範囲 | 内部統制監査の核心論点 | 数値基準を機械的に適用せずリスクを勘案する |
| 財務諸表監査との関係 | 内部統制監査は財務諸表監査と一体で行われる | 双方の監査証拠・リスク評価・手続を整合させる |
| 無限定適正意見 | 内部統制報告書が適正に表示されている場合 | 開示すべき重要な不備が適切に記載されていても可能 |
| 限定付適正意見 | 不適切事項が重要だが広範ではない場合 | 除外事項と財務諸表監査への影響を記載する |
| 不適正意見 | 内部統制報告書全体として虚偽表示に当たる場合 | 開示すべき重要な不備を隠して有効とする場合など |
| 意見不表明 | 監査証拠が不足し意見形成の基礎を得られない場合 | 重要な監査手続を実施できなかった範囲と理由を整理する |
| 追記情報 | 利用者の理解を補う情報 | 意見修正や会社開示の代替にしない |
| 監査役等連携 | ガバナンス上の重要対話 | 不備、是正状況、監査報告への影響を期中から共有する |
| 審査対応 | 判断の一貫性が問われる | 評価範囲、不備評価、財務諸表監査影響、報告書記載をつなげる |
内部統制監査報告書は、J-SOX作業の最後に付ける文書ではありません。経営者評価、統制不備、財務諸表監査、開示、監査役等とのコミュニケーションを、利用者に説明できる形へ収束させる、監査判断の成果物です。
内部統制報告書の評価範囲、不備評価、開示すべき重要な不備の判断、内部統制監査報告書の意見類型、財務諸表監査との整合、審査対応に課題を感じておられる場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所へご相談ください。内部統制評価を形式的なチェックで終わらせず、監査調書・開示・監査報告に耐える判断プロセスとして整理するご支援を行っています。