会社法計算書類と金商法財務諸表の関係|上場企業決算で混同しやすい制度目的・監査・開示・分配規制の整理

上場企業の決算実務において、「会社法の計算書類」と「金融商品取引法の財務諸表」を同じものとして扱ってしまうと、判断を誤ることがあります。

どちらも日本基準を前提に作成され、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記といった、似た名称の書類を含みます。実務上も、基礎となる会計データや決算整理仕訳は共通していることが多く、会計処理の結論も、通常は整合している必要があります。

しかし両者は、作成目的、利用者、法的効果、監査、開示範囲、訂正手続、そして分配規制との関係が異なります。

会社法計算書類は、株主・債権者に対する情報提供と、剰余金配当などの会社財産の流出を制限するための制度です。これに対して金商法財務諸表は、資本市場における投資者保護と企業内容開示を目的とする制度になります。会社法会計は主として利害調整機能を、金商法会計は主として情報提供機能を担うもの、と整理できます。

この違いを理解しないまま実務に臨むと、たとえば、会社法の計算書類では十分に見える注記が、有価証券報告書では不足するという事態が起こり得ます。会社法監査では一定の整理ができていても、金商法監査では、比較情報、記述情報、内部統制、KAM、訂正報告書との関係まで、追加で検討が必要になる場合もあります。

本稿では、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの決算実務を念頭に、会社法計算書類と金商法財務諸表の関係を整理します。

目次

会社法計算書類と金商法財務諸表は、同じ会計データから出発しても目的が異なる

会社法と金融商品取引法とでは、財務情報に期待されている役割そのものが異なります。

会社法は、株式会社の計算について、会計帳簿、計算書類等、連結計算書類、資本金・準備金・剰余金、剰余金の配当等を規律しています。その計算規定が果たすべき重要な目的は、株主・債権者に対する財務情報の提供と、剰余金分配の規制にあります。

会社財産が無制限に株主へ流出すれば、会社債権者の回収可能性は損なわれます。だからこそ会社法計算は、単なる情報開示ではなく、利害調整の制度でもあるわけです。
出典:e-Gov法令検索|会社法
出典:e-Gov法令検索|会社計算規則

一方の金融商品取引法は、企業内容等の開示制度を整備し、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等を通じて、投資者保護と資本市場の機能発揮を目的としています。

金商法上の財務諸表は、有価証券報告書等の企業内容開示の一部として位置づけられるものです。広範な投資者が、企業の財政状態、経営成績、キャッシュ・フロー、リスク、経営者の分析等を理解するための情報にあたります。
出典:e-Gov法令検索|金融商品取引法

つまり、会社法計算書類は「会社内部の意思決定と利害調整」に近く、金商法財務諸表は「資本市場に対する企業内容開示」に近い性格を持っている、ということです。

この違いは、単なる制度論にとどまりません。実務上は、同じ会計処理であっても、どの制度の下で説明するかによって、確認すべき論点が変わってきます。

会社法計算書類で重視されるのは、計算・承認・分配可能額との接続

会社法上、株式会社は、各事業年度に係る計算書類および事業報告ならびに附属明細書を作成する必要があります。大会社や会計監査人設置会社であれば、会計監査人監査、監査役等の監査、取締役会承認、株主総会への提供・報告または承認といった手続が関係してきます。

会社法計算書類の実務で重要なのは、単に貸借対照表と損益計算書を作成することではありません。会社法上の計算は、剰余金配当、資本金・準備金・剰余金、自己株式、組織再編、資本取引、分配可能額と、直接つながっているからです。

純資産の部の構成、株主資本と評価・換算差額等の区分、そして資本金、資本剰余金、利益剰余金の関係は、会社法計算において重要な意味を持ちます。純資産の部は、株主資本とそれ以外に大きく区分され、株主資本は資本金、資本剰余金、利益剰余金等から構成されます。

上場企業では、投資者向け開示の観点から、どうしても連結財務諸表に目が向きがちです。しかし、配当可能性、資本政策、自己株式取得、減資、準備金の取崩し、資本剰余金配当などを検討する場面では、会社法計算書類と個別財務諸表の数値が中心になります。

したがって、会社法計算書類を検討する際には、次のような観点が必要になります。

  • 当期純利益だけでなく、利益剰余金、その他資本剰余金、準備金、自己株式の影響を確認すること
  • 会計処理の結論が、分配可能額や配当方針に影響するかを確認すること
  • 組織再編や資本取引が、損益取引なのか資本取引なのかを整理すること
  • 会計監査人監査、監査役等監査、株主総会手続に耐える資料を整えること

会社法計算書類は、金商法財務諸表より簡素な開示で足りる。その理解だけで済ませてしまうのは危険です。会社法には、会社法固有の法的効果があります。

特に、剰余金分配、資本政策、債務超過、組織再編が絡む場面では、会社法計算の意味を独立して検討する必要があります。

金商法財務諸表で重視されるのは、投資者向け開示としての網羅性・比較可能性・監査証明

金商法上の財務諸表は、有価証券報告書等の「経理の状況」に含まれる財務情報として作成されます。そこでは、個別財務諸表だけでなく、連結財務諸表、比較情報、注記、セグメント情報、キャッシュ・フロー情報、監査報告書、内部統制報告書等との整合性が問題になります。

金商法上、一定の財務計算に関する書類については、公認会計士または監査法人による監査証明が求められます。この監査証明は、財務諸表等の監査を実施した公認会計士または監査法人が作成する監査報告書によって行われます。
出典:e-Gov法令検索|財務諸表等の監査証明に関する内閣府令

また、金商法開示では、財務諸表等規則、連結財務諸表規則、企業内容等開示府令、監査証明府令、内部統制府令、EDINET関連の取扱いなど、多数の規則・ガイドラインが関係します。金融庁は、企業内容等開示ガイドライン、財務諸表等規則ガイドライン、連結財務諸表規則ガイドライン、監査証明府令ガイドライン、内部統制報告制度関連Q&Aなどを公表しています。
出典:金融庁|企業内容等開示ガイドライン等

金商法財務諸表では、会社法計算書類と異なり、比較情報が重要な位置を占めます。会計方針の変更や誤謬の訂正がある場合には、前期比較情報、主要な経営指標等の推移、経営者による財政状態・経営成績・キャッシュ・フローの分析、設備の状況、コーポレート・ガバナンスの状況等、有価証券報告書の「経理の状況」以外の記載との整合性も、検討対象に入ってきます。

この点は、上場企業実務で見落とされやすいところです。会計処理そのものは財務諸表本表に反映されますが、有価証券報告書には、財務諸表の外側にも、財務数値を基礎とした記述が数多く存在します。

過年度数値を修正再表示する場合、財務諸表だけを修正しても、記述情報と整合しない状態が残ってしまうことがあるのです。

「同じ日本基準」でも、会社法と金商法では基準の受け止め方が異なる

上場企業が日本基準に基づいて財務諸表を作成する場合、ASBJが公表する企業会計基準・適用指針等が中心になります。ただし、会社法と金商法とでは、会計基準の制度上の位置づけに違いがあります。

金商法に基づく財務諸表では、財務諸表等規則や連結財務諸表規則の枠組みの中で、金融庁長官が定める企業会計の基準として指定された会計基準が重要になります。ASBJが開発する会計基準は、金融庁告示により指定されることで、金商法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」として機能することになります。
出典:金融庁|連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件の一部を改正する件

一方、会社法では、第431条において「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う」とされています。会社計算規則もまた、用語の解釈や規定の適用にあたって、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌する枠組みを採っています。

実務上、上場企業では、会社法計算書類も金商法財務諸表も、日本基準に基づいて整合的に作成されます。しかし、「同じ日本基準だから、会社法と金商法の検討は同じでよい」とまではいえません。

たとえば会社法計算書類では、株主総会手続、剰余金配当、分配可能額、会計監査人監査、監査役等監査との関係が重視されます。他方、金商法財務諸表で重視されるのは、投資者向け開示、比較情報、有価証券報告書全体の整合性、監査証明、内部統制報告書、訂正報告書との関係です。

基準適用の結論は整合していても、説明すべき相手と、説明すべき範囲が異なる。ここが要点です。

表示範囲の違い|会社法は「計算書類」、金商法は「有価証券報告書全体」まで波及する

会社法計算書類と金商法財務諸表の大きな違いのひとつが、表示範囲です。

会社法計算書類では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表などが中心となります。会社法上の連結計算書類を作成する場合もありますが、会社法計算の目的は、あくまで会社法上の計算・株主総会・配当規制との関係にあります。

これに対し金商法開示では、有価証券報告書全体の中に財務諸表が位置づけられます。有価証券報告書には、企業の概況、事業の状況、設備の状況、提出会社の状況、経理の状況、監査報告書などが含まれます。

財務諸表本体だけではありません。主要な経営指標、MD&A、事業等のリスク、サステナビリティ情報、コーポレート・ガバナンス、役員報酬、株式保有状況など、財務数値と関係する記載が広く存在しています。

そのため金商法財務諸表において、会計方針変更、誤謬訂正、減損、税効果、組織再編、連結範囲変更などが生じた場合、検討対象は財務諸表本表や注記にとどまりません。

たとえば減損損失を計上した場合には、損益計算書、貸借対照表、注記だけでなく、事業等のリスク、経営者による分析、設備の状況、セグメント情報、業績予想修正、適時開示との関係まで検討する必要があります。税効果会計で繰延税金資産の回収可能性に重要な判断がある場合も同様で、注記、KAM、事業計画、経営者説明との整合性が問題になります。

このように、会社法計算書類が「計算書類としての妥当性」を中心に見るのに対し、金商法財務諸表には「有価証券報告書全体の中での説明可能性」まで求められるわけです。

比較情報と過年度事項の違い|会社法と金商法で実務対応が変わる

会社法計算書類と金商法財務諸表では、比較情報の扱いにも違いがあります。

金商法に基づく有価証券報告書では、当期の財務諸表に加えて、比較情報として前期財務諸表が表示されます。会計方針の変更や過去の誤謬の訂正がある場合には、比較情報の修正再表示が問題になります。

これに対し、会社法計算書類の表示期間は基本的に1期間です。会計方針の変更があった場合、会社法計算書類でも遡及適用の考え方は問題になりますが、金商法財務諸表のように比較財務諸表を表示する構造とは異なります。

会社法計算書類で前期貸借対照表や前期損益計算書を併記する場合であっても、それは計算書類に含まれる比較情報ではなく、参考情報として位置づけられる場合があります。

この違いは、監査対象の理解にも影響します。金商法財務諸表における比較情報は監査対象に含まれますが、会社法計算書類において参考情報として併記された過年度事項は、会社法上の計算書類そのものではないため、会計監査人の監査対象に含まれない場合があるのです。

実務では、前期情報を併記することで読者に有用な情報を提供できる一方、監査対象であるかのような誤解を与える可能性があります。そのため、「前期(ご参考)」などの表示によって、監査対象となる計算書類と参考情報とを明確に区分する工夫が必要になります。

監査の違い|会社法監査と金商法監査は、目的もタイミングも同一ではない

上場企業では、会社法監査と金商法監査の双方が関係します。いずれも公認会計士または監査法人が関与するため、実務上は連続した監査プロセスとして進むことが多いのですが、制度上の位置づけは異なります。

会社法監査は、会社法上の計算書類等について、株主総会手続や会社法上の計算制度に対応するために行われる監査です。会計監査人の監査報告書、監査役等の監査報告、取締役会承認、株主総会への提供・報告または承認が関係します。

金商法監査は、有価証券報告書等に含まれる財務計算に関する書類について、投資者保護の観点から監査証明を行うものです。監査報告書は有価証券報告書とともに開示され、広範な投資者が閲覧することを前提としています。
出典:e-Gov法令検索|財務諸表等の監査証明に関する内閣府令

また、会社法監査と金商法監査とでは、後発事象や訂正の局面で実務対応が変わります。たとえば、会計監査人の会社法監査報告書日までに修正後発事象が発生した場合には、会社法計算書類の修正が必要になることがあります。その後、株主総会、金商法監査報告書、有価証券報告書提出という流れの中で、金商法側の対応も別途検討されることになります。

上場企業決算では、会社法監査で一度整理した論点が、金商法監査で再び問題になることがあります。監査人が同じであっても、監査対象、開示範囲、比較情報、投資者向け説明の範囲が異なるためです。

特に、会計上の見積り、減損、税効果、企業結合、継続企業、収益認識といった論点は、会社法監査では計算書類の妥当性として検討され、金商法監査では有価証券報告書全体、KAM、記述情報、内部統制報告制度との関係まで広がることがあります。

訂正・誤謬対応の違い|修正再表示と訂正報告書は同じではない

会社法計算書類と金商法財務諸表の違いが最も明確に表れるのが、過年度誤謬や訂正の局面です。

会計基準上、過去の財務諸表に誤謬が発見された場合には、重要性に応じて修正再表示が問題になります。ただし修正再表示は、あくまで会計基準上の比較情報の処理です。すでに公表された有価証券報告書等をどのように訂正するかは、各開示制度に従って別途判断されます。

金商法では、有価証券報告書等の提出者は、記載すべき重要な事項に変更があった場合や、公益または投資者保護のために訂正が必要とされる場合には、訂正報告書の提出が問題になります。したがって、当期の有価証券報告書において前期比較情報を修正再表示したからといって、過去に提出済みの有価証券報告書について訂正報告書の提出が当然に不要になるわけではありません。

一方、会社法計算書類について過年度誤謬が判明した場合には、臨時株主総会による再承認手続の要否、過年度の計算書類に係る再監査の要否、監査報告書の取扱いなど、会社法上の手続として別途検討すべき論点が生じます。

実務上は、次の順序で整理することが重要です。

  • 誤謬が会計基準上、修正再表示を要する重要性を有するか
  • 金商法上、訂正報告書の提出が必要か
  • 会社法上、過年度計算書類の再承認や再監査が必要か
  • 内部統制報告書や内部統制監査報告書への影響があるか
  • 適時開示や公表済み決算短信への訂正が必要か
  • 監査人、監査役等、取締役会、開示担当との協議が必要か

「会計上は修正再表示する」で止めてしまってはいけません。「どの制度上、どの開示書類を、どの手続で訂正するのか」まで整理しなければ、上場企業実務としては不十分です。

分配規制との関係|金商法財務諸表ではなく、会社法計算が配当可能性を支える

会社法計算書類と金商法財務諸表の違いを理解するうえで、分配規制は避けて通れない論点です。

会社法は、剰余金の配当等について、分配可能額を基礎とする規制を設けています。会社法計算は、株主・債権者への情報提供に加えて、会社財産の流出を制限する役割を担っているわけです。会社法会計の根底には、債権者保護という基本理念があると整理できます。
出典:e-Gov法令検索|会社法

この点、金商法財務諸表は、投資者向けの開示情報として極めて重要ではあるものの、剰余金配当の可否を直接決める制度ではありません。配当可能性を検討する場合には、会社法上の分配可能額、個別計算書類、資本金・準備金・剰余金、自己株式、その他資本剰余金、利益剰余金などを確認する必要があります。

ここで注意したいのは、連結上は十分な利益が出ていても、個別財務諸表・会社法計算上の分配可能額が十分でなければ、配当政策に制約が生じ得るということです。

逆のケースもあります。個別では配当原資があっても、連結上の財政状態、減損リスク、税効果、継続企業の前提、資金繰り、適時開示上の説明責任を踏まえると、単純に配当可能額だけで判断できない場面もあるのです。

したがって、上場企業の配当・自己株式取得・資本政策を検討する際には、会社法計算上の分配可能額と、金商法開示上の投資者説明とを分けて整理することが重要になります。

連結の位置づけ|金商法では連結中心、会社法では個別計算との関係を見落とさない

上場企業の開示において、投資者は企業グループ全体の業績や財政状態を重視します。そのため、金商法上の有価証券報告書では、連結財務諸表が中心的な情報になります。連結財務諸表規則や財務諸表等規則に基づく表示、注記、セグメント情報、キャッシュ・フロー情報は、投資者向け開示の中核といえます。
出典:e-Gov法令検索|連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則

一方、会社法にも連結計算書類の制度はありますが、会社法計算の実務では、個別計算書類と分配規制との接続が極めて重要です。純資産の部の表示ひとつをとっても、個別財務諸表と連結財務諸表とでは、資本剰余金、利益剰余金、評価・換算差額等、その他の包括利益累計額、非支配株主持分などの表示に違いが生じます。

このため、上場企業の決算判断では、連結と個別の両方を見なければなりません。

たとえば、子会社株式の減損は個別財務諸表で問題になりますが、連結上は子会社の資産・負債・損益が取り込まれるため、連結上の減損、のれん、税効果、セグメント、KAMと、別の形で問題になります。退職給付会計では、個別財務諸表と連結財務諸表とで表示や未認識項目の扱いが異なります。為替換算調整勘定は、在外子会社等の財務諸表換算から生じる調整項目として、連結純資産の理解に影響します。

「連結で重要だから金商法だけ見ればよい」わけでもなく、「会社法で承認される個別計算書類だけ見ればよい」わけでもありません。上場企業実務では、個別・連結・会社法・金商法を往復しながら判断する必要があります。

期中開示制度の変更も、会社法と金商法の関係整理に影響する

会社法計算書類と金商法財務諸表の関係を整理するにあたっては、制度改正にも注意が必要です。

2024年4月1日から、金融商品取引法上の四半期報告書制度は廃止され、四半期開示制度は証券取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されました。また、第2四半期については、四半期報告書に代えて半期報告書の提出が求められることとなっています。
出典:金融庁|四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂等

この改正により、上場企業の期中開示では、法定開示、取引所開示、監査人レビュー、決算短信の関係を、改めて整理する必要が生じています。金融庁の企業内容等開示ガイドライン等でも、中間財務諸表等規則ガイドラインや四半期財務諸表等規則ガイドライン等について、令和6年4月1日廃止の情報が示されています。
出典:金融庁|企業内容等開示ガイドライン等

本稿の主題は、年度決算における会社法計算書類と金商法財務諸表の関係にあります。とはいえ、期中開示制度の変更は、年度決算にも影響します。期中で公表した業績、会計上の見積り、減損兆候、税効果、収益認識、後発事象、適時開示との整合性が、年度の有価証券報告書や会社法計算書類の説明に跳ね返ってくるためです。

実務で混同しやすい論点

会社法計算書類と金商法財務諸表について、実務で混同しやすいのは、次のような論点です。

会社法計算書類が確定すれば、金商法財務諸表も機械的に確定するという誤解

会社法計算書類と金商法財務諸表は、基礎となる会計数値が整合している必要があります。しかし金商法財務諸表では、比較情報、有価証券報告書全体の記述情報、監査証明、内部統制、KAM、訂正報告書との関係が、追加で問題になります。

会社法上の手続が完了していても、金商法開示上の注記や記述情報が十分かどうかは、別途検討が必要です。

会社法注記と有価証券報告書注記を同じ粒度で作ればよいという誤解

会社法計算書類と金商法財務諸表とでは、利用者と開示目的が異なります。金商法開示では、投資者が企業内容を理解し、投資判断を行うための情報として、より広い説明が求められる場面があります。

特に、会計上の見積り、収益認識、金融商品、税効果、関連当事者、セグメント、企業結合、後発事象などは、有価証券報告書全体との整合性を意識する必要があります。

連結財務諸表だけ見れば足りるという誤解

上場企業の投資者向け開示では連結財務諸表が重要ですが、会社法計算、分配可能額、資本政策、子会社株式評価、配当、自己株式取得などについては、個別計算書類・個別財務諸表との関係が重要になります。

連結と個別とで、同じ論点が異なる形で表れることがあります。そのため、両者を切り分けて確認する必要があります。

修正再表示をすれば訂正報告書は不要という誤解

会計基準上の修正再表示と、金商法上の訂正報告書の提出は、別の問題です。過年度誤謬が発見された場合には、会計基準、金商法、会社法、取引所開示、内部統制報告制度のそれぞれについて、対応を検討する必要があります。

実務判断では、「どちらが優先か」ではなく「どの場面で何を説明するか」で整理する

会社法計算書類と金商法財務諸表の関係を整理する際、「どちらが上位か」「どちらを優先すべきか」という考え方に寄りすぎると、実務判断を誤ることがあります。

重要なのは、どの制度の下で、誰に対して、何を説明する必要があるのか。この一点です。

会社法では、株主・債権者に対する情報提供、株主総会、会計監査人監査、監査役等監査、剰余金配当、分配可能額が中心となります。金商法では、投資者保護、有価証券報告書、連結財務諸表、比較情報、監査証明、内部統制報告書、訂正報告書が中心です。そして取引所規則では、決算短信、適時開示、業績予想修正、重要事実の開示が中心になります。

したがって、会計処理を検討する際には、次の順序で整理していくと、実務上の漏れを防ぎやすくなります。

  1. まず、論点が会社法計算書類、金商法財務諸表、取引所開示のどこに影響するかを整理する
  2. 次に、個別財務諸表と連結財務諸表のどちらに影響するかを確認する
  3. そのうえで、会計処理、表示、注記、比較情報、記述情報、監査、内部統制、分配可能額への影響を分解する
  4. 最後に、経営者、監査人、監査役等、開示担当、投資者に対して説明できる資料を整える

この整理を重ねていくことで、会社法と金商法の違いは、単なる制度知識ではなく、実務判断の道具として使えるようになります。

まとめ

会社法計算書類と金商法財務諸表は、同じ日本基準を前提に作成されることが多く、基礎となる会計数値も整合している必要があります。しかし、両者は同じものではありません。

会社法計算書類は、株主・債権者に対する情報提供、会社法上の承認手続、剰余金配当、分配可能額、資本政策と結びついています。

金商法財務諸表は、有価証券報告書を通じた投資者向け開示、連結財務諸表、比較情報、監査証明、内部統制、訂正報告書、KAM、記述情報との整合性に結びついています。

上場企業の決算実務では、会計処理の結論だけでなく、その結論が会社法計算書類、金商法財務諸表、有価証券報告書、適時開示、監査対応、分配規制にどのように波及するのかを整理することが重要です。

「同じ数字を使っているから同じ制度」と考えるのではなく、「同じ会計数値を、それぞれ異なる制度目的に応じて説明する」と捉えること。それが、後から説明できる決算判断につながります。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

会社法計算書類と金商法財務諸表の関係は、平常時には見落とされやすいものです。その一方で、会計方針変更、誤謬訂正、減損、税効果、組織再編、資本政策、配当、IPO準備、監査対応の場面では、判断の前提になります。

特に、会社法上の計算・分配規制と、金商法上の開示・監査証明・訂正対応が同時に問題となる場合には、会計処理だけでなく、資料整理、注記、開示影響、監査人との協議事項まで、一体で整理することが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、日本基準に基づく上場企業・IPO準備企業の決算、開示、監査対応、高度会計論点について、後から説明できる判断過程の整理を支援しています。会社法計算書類と金商法財務諸表の関係を踏まえて、会計処理・開示・監査対応を整理したいとお考えの場合は、お問い合わせページよりご相談ください。

重要事項の振り返り

論点会社法計算書類金商法財務諸表
主な目的株主・債権者への情報提供、利害調整、分配規制投資者保護、企業内容開示、資本市場への情報提供
中心となる書類計算書類、事業報告、附属明細書、連結計算書類有価証券報告書、連結財務諸表、財務諸表、監査報告書
主な利用者株主、債権者、会社機関投資者、市場関係者、金融機関、監督当局
監査会計監査人監査、監査役等監査、株主総会手続との関係公認会計士または監査法人による監査証明
表示・比較情報基本的に1期間表示。過年度事項は参考情報となる場合がある比較情報を含む財務諸表、有報全体との整合性が必要
連結の位置づけ会社法上の連結計算書類制度があるが、個別計算・分配規制との関係が重要投資者向け開示では連結財務諸表が中心
分配規制分配可能額、剰余金配当、資本政策と直接関係配当可能額を直接決める制度ではないが、投資者説明に影響
訂正対応過年度計算書類の再承認・再監査等が問題となる場合がある修正再表示、訂正報告書、内部統制、適時開示への影響を検討
実務上の要点会社法固有の法的効果を踏まえて判断する有報全体、監査証明、投資者向け説明まで見通して判断する
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