新リース会計基準は「リース料の処理」ではなく、決算判断全体に影響する基準である
新リース会計基準への対応を、単に「オペレーティング・リースがオンバランスされる」という理解で止めてしまうと、実務上の重要な論点を見落とすことになります。
重要なのは、使用権資産とリース負債をいくら計上するかだけではありません。契約がリースを含むのか、リース期間をどこまで見積もるのか、割引率をどう設定するのか。短期リース・少額リースの簡便処理をどこまで適用するのか、契約変更時に再測定が必要になるのか。そして、注記やKAM、財務制限条項、会社法上の判定にどのような波及が生じるのか。
上場企業・IPO準備企業・大規模グループにとっては、これらを一連の決算判断として整理しておくことが求められます。
本稿は、シリーズ「企業会計・日本基準|上場企業の決算・開示と高度会計論点」におけるリース会計テーマの入口として、新リース会計基準の全体像と実務影響を整理するものです。個別契約ごとの詳細なリース識別、リース期間、測定、貸手会計、サブリース、契約変更、注記・監査対応の詳細は後続の記事で扱う前提とし、ここでは全体像と決算実務への影響を中心に解説します。
リース会計の実務論点は、適用範囲、リース識別、リース期間、借手会計、貸手会計、セール・アンド・リースバック、サブリース、開示、経過措置まで、広い範囲に及びます。
改正の背景:従来の日本基準で問題になっていたこと
従来の日本基準では、借手側のリース取引はファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類されていました。このうちオペレーティング・リース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて処理する実務が中心となっていました。
そのため、店舗、事務所、倉庫、車両、設備、IT機器などをリースや賃貸借で利用している企業では、将来の支払義務が存在していても、貸借対照表上は資産・負債として十分に表れないことがありました。
財務諸表利用者から見れば、同じように事業用資産を使用していても、自己所有・借入取得している企業と、リース・賃貸借で利用している企業とでは、総資産、負債、有利子負債、自己資本比率などの見え方が大きく異なることになります。
こうしたなか、2016年にIFRS第16号と米国Topic 842が公表され、借手について使用権資産とリース負債を計上する使用権モデルが採用されました。これにより、日本基準との間で特に負債認識に差異が生じ、国際的比較上の議論となり得る状況が生まれます。ASBJは、この状況を踏まえて新たなリース会計基準の開発に着手しました。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
ここで押さえておきたいのは、新基準の目的が「国際基準に近づけること」だけではない、という点です。実務上は、リース取引を通じて企業が使用している経済資源と、それに対応する将来支払義務を、財務諸表によりはっきりと反映させることが中心的な意味を持ちます。
したがって、新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更ではありません。契約管理、財務指標管理、開示、監査対応、経営者説明、金融機関・投資家への説明にまたがるプロジェクトとして捉える必要があります。
現行基準の位置づけと適用時期
ASBJは、2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を公表しました。
あわせて、固定資産の減損、連結キャッシュ・フロー計算書、資産除去債務、賃貸等不動産、収益認識、企業結合、関連当事者、金融商品など、関連する会計基準・適用指針・実務指針等にも改正が行われています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
新基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することも可能です。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
また、新基準の適用により、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」など、旧基準等に従って会計処理されていた取引については、これら旧基準等の適用が終了します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
なお、企業会計基準第34号には2025年4月23日までに公表された修正が反映されています。適用指針第33号についても、ASBJの適用指針一覧上、2024年9月13日公表、2025年10月16日修正として掲載されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針
新基準における「リース」の考え方
新基準における「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約、または契約の一部分をいいます。また「使用権資産」は、借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産とされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
この定義から分かるとおり、実務上の入口は契約名称ではありません。
「賃貸借契約」と記載されているからリースである、あるいは「業務委託契約」「サービス契約」と記載されているからリースではない、という判断はできません。契約の中に、特定された資産を一定期間使用する権利が含まれているか、その使用を支配する権利が移転しているかを検討する必要があります。
新基準では、契約の締結時に、契約の当事者が当該契約にリースが含まれるか否かを判断します。契約が、特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合には、その契約はリースを含みます。また、契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直しません。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
実務で問題になるのは、契約書の法的形式ではなく、契約上・実務上の使用実態です。特定設備の専用利用、倉庫スペースの専有、サーバーや通信設備の利用、車両・什器備品の利用、店舗不動産の賃借など、契約形態が多様であるほど、リース識別は経理部門だけでは完結しにくくなります。
購買部門、不動産部門、店舗開発部門、情報システム部門、総務部門、事業部門が保有している契約情報を集約し、会計上の判断に必要な情報へ変換する体制が必要です。
旧基準からの最も大きな変化:借手の分類が実質的に決算管理の中心ではなくなる
旧基準のもとでは、借手側でファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かの分類が、貸借対照表に資産・負債を計上するかどうかを大きく左右していました。
新基準では、借手について、原則としてリース開始日にリース負債を計上し、これに対応して使用権資産を計上します。リース負債は、リース開始日において未払である借手のリース料から利息相当額を控除し、現在価値により算定します。使用権資産は、リース負債に、リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用、資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除して計上します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
つまり借手側では、「オペレーティング・リースだから費用処理」という発想から、「リースに該当するなら、原則として使用権資産とリース負債を認識する」という発想へ移ることになります。
この変化は、会計処理の結論だけでなく、決算プロセスそのものを変えます。従来は支払リース料の把握で足りていた契約についても、新基準では、リース期間、リース料、支払時期、指数・レートに連動する変動リース料、購入オプション、解約オプション、残価保証、割引率、契約変更の有無など、現在価値計算と事後測定に必要なデータを継続的に把握しなければなりません。
借手会計の基本構造
借手の会計処理は、大きく次の流れで整理できます。
まず、契約にリースが含まれるかを判定します。次に、リースを構成する部分と、サービス等のリースを構成しない部分を区分します。借手および貸手は、リースを含む契約について、原則としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分に分けて会計処理します。ただし借手は、一定の単位ごとに、リースを構成する部分と関連する非リース部分を分けずに、合わせてリースを構成する部分として処理する選択もできます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
次に、借手のリース期間を決定します。借手のリース期間は、解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、借手が行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えた期間です。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
この「合理的に確実」という判断は、実務上きわめて重要です。契約書上の期間だけでなく、店舗投資、設備投資、撤退コスト、立地、事業計画、過去の更新実績、代替資産の有無、契約終了時の原状回復義務などを踏まえて判断する必要があります。
そのうえで、リース料を現在価値に割り引いてリース負債を算定し、対応する使用権資産を計上します。リース負債に係る利息相当額は、借手のリース期間にわたり、原則として利息法により配分されます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
使用権資産については、所有権が移転すると認められるリースであれば、原資産を自ら所有していたと仮定した場合と同じ減価償却方法で償却します。一方、所有権が移転すると認められるリース以外では、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして償却します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
短期リース・少額リースの簡便処理は「楽にするための例外」ではなく、会計方針の判断である
新基準は、すべてのリースを無条件にオンバランスするわけではありません。短期リースや少額リースについては、一定の簡便処理が認められています。
短期リースとは、リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースをいいます。借手は、短期リースについて、リース開始日に使用権資産およびリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたり、原則として定額法で費用処理することができます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
また少額リースについても、一定の要件を満たす場合には、リース開始日に使用権資産およびリース負債を計上せず、リース料をリース期間にわたり原則として定額法で費用処理できます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
ただし実務上は、「簡便処理を使えるものはすべて使う」と考えるべきではありません。
簡便処理は、適用単位、重要性、継続適用、連結グループ内での整合性、注記、監査対応を伴う会計方針の選択です。とりわけ上場企業やIPO準備企業では、事業部門ごとに判断がばらつくと、契約管理・監査対応・開示作成の段階で問題になります。
したがって、短期リース・少額リースの実務対応では、次のような観点を事前に明確にしておく必要があります。
- どの原資産グループに簡便処理を適用するか
- 契約期間ではなく、会計上のリース期間で短期リースを判定しているか
- 購入オプション、延長オプション、解約オプションを適切に考慮しているか
- 少額リースの判定単位が契約単位なのか原資産単位なのか整理されているか
- 連結グループ内で方針が整合しているか
- 監査人に説明できる判断資料が残っているか
簡便処理は、実務負荷を軽減するための有効な手段です。しかし、決算品質を下げるための抜け道ではありません。
財務諸表への影響
貸借対照表への影響
新基準の最も分かりやすい影響は、使用権資産とリース負債の計上により、総資産と負債が増加することです。
使用権資産は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に表示する科目に含める方法、または対応する原資産の表示区分において使用権資産として区分する方法により表示します。リース負債は、貸借対照表に区分して表示するか、リース負債が含まれる科目および金額を注記します。1年以内に支払期限が到来するリース負債は流動負債、1年を超えるものは固定負債に分類されます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
これにより、自己資本比率、負債比率、D/Eレシオ、有利子負債倍率、ROAなど、貸借対照表を基礎とする指標が変動する可能性があります。
ただし、影響の方向や大きさは一律ではありません。リース契約の量、契約期間、残存期間、割引率、リース料の支払条件、既存のファイナンス・リース残高、簡便処理の適用方針によって異なります。
そのため経営者説明や投資家説明では、「新基準で負債が増えた」という表面的な説明ではなく、どの契約群が、どの判断により、どの程度影響したのかを説明できるようにしておく必要があります。
損益計算書への影響
従来、オペレーティング・リースとして賃借料・支払リース料を費用処理していた契約について、新基準では、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る利息費用に分解されることがあります。
その結果、営業費用、営業利益、EBITDA、営業外費用、経常利益、当期純利益の見え方が変わります。
特にEBITDAについては、従来の賃借料が減価償却費と利息費用に置き換わることで、指標上は改善して見える場合があります。一方で、リース負債に係る利息費用は利息法で配分されるため、契約の初期に費用負担が相対的に大きくなることがあります。
ここで重要なのは、実態としてのキャッシュ・アウトが変わらなくても、会計上の表示と費用配分が変わるという点です。経営管理指標、業績予想、役員報酬指標、金融機関とのコベナンツ、投資家向け説明資料でどの指標を使っているかによって、影響の出方が異なります。
キャッシュ・フロー計算書への影響
リース会計基準の適用は、キャッシュ・フロー計算書にも影響します。従来、賃借料として営業活動によるキャッシュ・フローに含まれていた支払いが、新基準ではリース負債の元本返済部分として財務活動によるキャッシュ・フローに表示されるなど、区分が変わる可能性があります。支払利息部分については、企業が採用する表示方針との整合性も確認が必要です。
実務上も、旧基準と新基準を対比しながら、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書、さらにEBITDA、ROA、自己資本比率への影響を整理していく形が有効です。
キャッシュ・フロー表示の変化は、単に表示科目の問題にとどまりません。営業キャッシュ・フロー、フリーキャッシュ・フロー、借入返済能力、金融機関説明、投資家説明に影響します。特に、外部向けに営業キャッシュ・フローを重要指標として説明している企業では、新基準適用前後の比較可能性をどのように補足するかを検討する必要があります。
財務指標・契約・経営管理への波及
新リース会計基準の影響は、財務諸表の作成部署だけにとどまりません。
まず、総資産と負債が増加するため、自己資本比率、ROA、負債比率、有利子負債関連指標に影響します。財務制限条項が総負債、有利子負債、純資産、EBITDA、D/Eレシオなどを参照している場合には、会計基準変更による影響をどのように取り扱うか、契約上の定義を確認しておく必要があります。
次に、会社法上の大会社判定など、貸借対照表上の負債総額が影響し得る制度にも注意が必要です。会社法上の大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表において資本金として計上した額が5億円以上、または負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます。
出典:e-Gov法令検索|会社法
もちろん、リース負債を計上したからといって、直ちに制度上の取扱いが変わるとは限りません。個別事情、貸借対照表日、会社法・会社計算規則上の整理、監査役・会計監査人設置義務、既存の機関設計を踏まえて確認する必要があります。
とはいえ、負債総額に影響する基準改正である以上、経理部門だけでなく、法務・総務・経営企画部門との連携が欠かせません。
さらに、社内の業績管理にも影響が及びます。店舗別損益、事業部別損益、投資判断、撤退判断、設備投資とリースの比較、社内ROIC、EBITDA管理などに、リース会計の影響を織り込むかどうかを検討する必要があります。
会計基準変更後も、経営管理上は従来どおりの賃借料ベースで管理するという選択もあり得ます。ただしその場合でも、財務報告上の数値との差異を説明できるようにしておくことが前提です。管理会計と財務会計の不一致を放置すると、監査対応だけでなく、経営者説明・投資家説明の場面で混乱が生じます。
導入対応で最初に行うべきこと
新リース会計基準への対応で最初に行うべきことは、会計処理の仕訳を検討することではありません。まず必要なのは、契約の棚卸しと、判断に必要な情報の所在確認です。
上場企業や大規模グループでは、リース契約や賃貸借契約が経理部門に集約されていないことが少なくありません。店舗賃貸借契約は店舗開発部門、社宅契約は人事総務部門、車両契約は総務部門、IT機器契約は情報システム部門、物流倉庫契約は物流部門、製造設備契約は工場・生産管理部門が管理している、というケースです。
そのため導入初期には、少なくとも次の情報を収集できる状態にしておく必要があります。
- 契約名称、契約先、契約開始日、契約終了日
- 対象資産、使用場所、使用目的
- 契約金額、支払条件、変動リース料の有無
- 延長オプション、解約オプション、購入オプション
- 原状回復義務、資産除去債務、敷金・保証金、建設協力金等
- リース部分とサービス部分の内訳
- 更新実績、解約実績、事業計画との関係
- 契約変更、再リース、サブリースの有無
特に重要なのは、契約書だけでは判断できない情報です。延長オプションを行使することが合理的に確実かどうかは、契約書の条項だけでは判断できません。店舗の収益性、設備の専用性、移転コスト、代替物件の有無、過去の更新実績、経営計画など、事業上の判断を会計判断に取り込む必要があります。
移行対応で問題になりやすい論点
新リース会計基準には経過措置が設けられています。適用指針では、リースの識別について、適用初年度の前年度末に企業会計基準第13号を適用しているリース取引について改めてリース識別を行わずに新基準を適用する方法や、適用初年度の期首時点で存在する旧基準未適用契約について、その時点の事実および状況に基づいてリースが含まれるか判断する方法などが定められています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
また、旧基準でファイナンス・リース取引に分類していた借手のリースについては、適用初年度の前年度末におけるリース資産およびリース債務の帳簿価額を、適用初年度の期首における使用権資産およびリース負債の帳簿価額とすることができるなど、移行時の処理が定められています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
移行対応で実務上問題になりやすいのは、経過措置の選択そのものよりも、その選択を裏付けるデータと判断過程です。
たとえば、適用初年度の期首時点で存在する契約を対象にする場合、どの契約が存在していたか、その契約条件は何か、残存期間はどれだけか、どの割引率を用いたか、リース期間をどのように判断したかを説明できなければなりません。
また、グループ会社ごとに契約管理水準が異なる場合には、連結決算上、重要な子会社の契約漏れが問題になります。海外子会社、店舗子会社、不動産子会社、物流子会社、システム子会社など、契約量が多い会社ほど、早い段階で対象範囲と重要性を整理しておく必要があります。
開示への影響
新リース会計基準では、注記の開示目的が明確にされています。リースに関する注記は、財務諸表本表で提供される情報とあわせて、リースが借手または貸手の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに与える影響を、財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することを目的とします。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
借手の注記には、会計方針に関する情報、リース特有の取引に関する情報、当期および翌期以降のリースの金額を理解するための情報が含まれます。貸手についても、リース特有の取引に関する情報、当期および翌期以降のリースの金額を理解するための情報が求められます。ただし、開示目的に照らして重要性に乏しい注記事項は記載しないことができます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
この開示目的からすると、注記は単なる数値表の作成ではありません。財務諸表利用者が、企業のリース取引の性質、金額、将来キャッシュ・アウト、財務指標への影響を理解できるようにする必要があります。
実務上は、次のような事項が監査上の検討対象になりやすいと考えられます。
- 使用権資産とリース負債の網羅性
- 短期リース・少額リースの適用方針
- リース期間の判断根拠
- 割引率の設定方法
- 変動リース料の処理
- リース部分と非リース部分の区分または一体処理の方針
- 契約変更、再測定、サブリース、セール・アンド・リースバックの有無
- 注記の開示目的に照らした十分性
特に、リース負債が重要な金額となる企業では、KAMや監査上の重要論点に関連する可能性があります。リース会計は見積りや判断を伴うため、単に計算結果を提示するだけでなく、判断過程を文書化しておくことが重要です。
監査対応で求められる資料
監査対応では、リース計算シートやシステム出力だけでは十分とはいえません。監査人が確認したいのは、計算結果が契約実態と会計基準に照らして合理的かどうかだからです。
そのため、少なくとも次のような資料を整備しておくことが望ましいといえます。
- 契約棚卸しの対象範囲と抽出方法
- 契約にリースが含まれるか否かの判断メモ
- 重要な契約についてのリース期間判定資料
- 延長・解約オプションの判断根拠
- 割引率の設定方針と算定資料
- 短期リース・少額リースの適用方針
- リース部分と非リース部分の区分方針
- 使用権資産・リース負債の計算根拠
- 移行時の経過措置の選択理由
- 会計方針案、注記案、監査人との協議記録
監査対応上のポイントは、「計算が合っていること」だけではありません。なぜその契約を対象に含めたのか、なぜその期間を採用したのか、なぜその割引率を使ったのか、なぜ簡便処理を適用したのか。これらを説明できることが求められます。
上場企業の決算においては、後から説明できない会計処理は、実務上大きなリスクになります。決算短信、有価証券報告書、監査人対応、取締役会・監査役等への説明、金融機関対応、投資家説明まで考えると、判断過程の文書化は新基準対応の中心的な作業になります。
新リース会計基準対応はいつ始めるべきか
適用時期だけを見ると、まだ時間があるように見える企業もあるかもしれません。しかし、契約棚卸し、対象契約の判断、システム対応、会計方針決定、影響額試算、監査人協議、開示方針の検討まで考えると、対応開始を遅らせるほど、決算直前の負荷が高まります。
特に、次のような企業は早期に影響調査を始めるべきです。
- 店舗、倉庫、工場、事務所などの賃貸借契約が多い
- 車両、設備、IT機器、通信設備などの利用契約が多い
- グループ会社ごとに契約管理方法が異なる
- 海外子会社や地域子会社を多数有する
- 財務制限条項や格付、金融機関説明に財務指標を用いている
- IPO準備中で、監査対応・内部統制整備が同時進行している
- 決算早期化、開示早期化が求められている
新基準対応は、会計基準の適用開始年度だけの作業ではありません。適用前年度の比較情報、期首残高、経過措置、内部統制、監査計画、予算・業績予想への反映を考えると、少なくとも事前の影響額試算と論点整理は、早めに行っておく必要があります。
実務上の判断軸
新リース会計基準への対応では、次の順番で論点を整理すると、判断の漏れを防ぎやすくなります。
まず、契約がリースを含むかを判定します。次に、リース部分と非リース部分を区分するか、一体処理を選択するかを検討します。そのうえで、リース期間を判断し、リース料を把握し、割引率を設定して、使用権資産とリース負債を測定します。さらに、短期リース・少額リースの適用方針、契約変更時の再測定、表示・注記、税務・内部統制・監査対応まで接続していきます。
この流れを飛ばして、いきなり契約一覧から金額計算に入ると、後になってリース識別やリース期間の判断が揺らぎます。結果として、影響額の再計算、監査人との追加協議、開示作成のやり直しにつながります。
リース会計は、計算技術の問題である前に、事実認定と判断の問題です。
「契約上の期間は何年か」ではなく、「会計上のリース期間は何年と判断すべきか」。
「支払予定表はいくらか」ではなく、「リース負債に含めるリース料はいくらか」。
「契約書の名称は何か」ではなく、「原資産を使用する権利が移転しているか」。
「簡便処理できるか」ではなく、「その方針を継続的に適用し、開示・監査に耐えられるか」。
このように問いを立て直すことが、新リース会計基準対応の実務品質を左右します。
専門家に相談すべき場面
新リース会計基準対応のすべてを外部専門家に委ねる必要はありません。契約一覧の作成、支払予定データの整理、基本的な契約情報の収集は、社内で進めるべき領域です。
一方で、次のような場面では、公認会計士・税理士等の専門家を交えて検討することが有効です。
- サービス契約、業務委託契約、物流契約、IT契約にリースが含まれるか判断が難しい
- 店舗や工場の延長オプション、解約オプションの判断に経営計画が関係する
- リース負債の金額が財務指標やコベナンツに重要な影響を与える
- グループ会社ごとに契約管理・会計処理がばらついている
- 短期リース・少額リースの会計方針を監査人に説明できる形で整えたい
- 適用初年度の経過措置をどのように選択すべきか判断したい
- 注記、KAM、監査人協議、経営者説明まで見据えた論点整理が必要である
犬飼公認会計士・税理士事務所では、新リース会計基準への対応について、契約棚卸し、論点整理、影響額試算、会計方針の整理、監査人協議資料、開示・注記への影響整理まで、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの実務判断に沿った支援を行っています。
新基準対応で重要なのは、単に会計処理を合わせることではなく、後から説明できる判断を整えることです。自社の契約にどの程度影響があるか、監査人との協議前に論点を整理したいとお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
主な出典
- 出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
- 出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
- 出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
- 出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針
- 出典:e-Gov法令検索|会社法
振り返り
| 重要論点 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 改正の本質 | 借手のリースについて、原則として使用権資産とリース負債を認識する方向へ移行する |
| 適用時期 | 原則適用は2027年4月1日以後開始年度、早期適用は2025年4月1日以後開始年度から可能 |
| リース識別 | 契約名称ではなく、特定された資産の使用を支配する権利が移転しているかを確認する |
| リース期間 | 解約不能期間に加え、合理的に確実な延長・解約オプションを反映する |
| 借手の測定 | リース料を現在価値に割り引いてリース負債を算定し、対応する使用権資産を計上する |
| 財務指標への影響 | 総資産・負債、自己資本比率、ROA、EBITDA、営業CFなどに影響する可能性がある |
| 簡便処理 | 短期リース・少額リースは会計方針として整理し、継続適用と監査対応を意識する |
| 移行対応 | 契約棚卸し、経過措置、期首残高、影響額試算、監査人協議を早期に進める |
| 開示・監査対応 | 注記目的に照らし、財政状態・経営成績・キャッシュ・フローへの影響を説明できる資料を整える |
| 専門家活用 | リース識別、期間判断、割引率、経過措置、開示・監査対応で判断が難しい場合に有効 |