不正・訂正局面における専門家活用と再発防止|会計・開示・内部統制をどう立て直すか

会計不正や過年度訂正が問題となる局面で、最初に問われるのは「誰が悪いのか」ではありません。

まず確認すべきなのは、何が起きたのか、どの財務諸表項目に影響するのか、過年度に遡るのか、開示はいつ必要なのか、監査人に何を説明すべきか、内部統制報告書に影響するのか、そして同じことが再び起きない仕組みにどう改めるのか、ということです。

この局面の対応が難しいのは、会計、監査、開示、法務、税務、内部統制、ガバナンス、IRが同時に動くためです。しかも、時間的余裕はほとんどありません。

決算発表、監査報告、適時開示、取引所照会、金融機関対応、株主・投資家への説明が重なり、社内の関係者は「どこから手を付けるべきか」を見失いやすくなります。

本稿では、外部専門家をどのように使い分け、どの順番で論点を整理し、どの水準まで再発防止策を具体化すべきかを整理します。調査委員会の運営実務そのものではなく、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの決算、開示、監査対応に関与する実務者が、専門家に相談する前に何を整理しておくべきか。そこに重点を置きます。

目次

不正・訂正局面で最初に避けるべきこと

この局面で最も危険なのは、初動で問題を小さく見せようとすることです。

「金額は大きくないはず」「担当者のミスにすぎない」「監査人に聞いてから考える」「開示は調査が終わってからでよい」「再発防止策は規程改訂で足りる」。こうした反応は、短期的には社内の混乱を抑えるように見えます。

しかし後から振り返ると、調査範囲の不足、証拠保全の遅れ、監査人への情報提供不足、適時開示の遅延、内部統制評価の不備として問題化しやすい対応です。

会計不正は、不正実行者が取引スキームを熟知し、内部統制上の弱点を突いて行われることがあります。また、実行者が社内で信頼され、長期間同一業務を担当し、周囲が取引の詳細を十分に把握していない場合には、通常の承認手続やモニタリングだけでは発見が遅れることがあります。

したがって初動では、次の5点を分けて考える必要があります。

初動論点すぐに整理すべき問い
事実関係いつ、誰が、どの取引・勘定科目・拠点で、何を行ったのか
会計影響売上、原価、資産、負債、税効果、注記、セグメントにどう影響するか
開示影響有報、半期報告書、決算短信、適時開示、内部統制報告書の訂正が必要か
監査影響監査人の追加手続、監査意見、KAM、経営者確認書にどう影響するか
再発防止個人処分で終わらず、どの統制・組織・文化を改める必要があるか

ここで重要なのは、初動段階で結論を急がないことです。とはいえ、何も判断しないまま時間だけが過ぎていくのも避けなければなりません。

初動で行うべきなのは、「暫定的な事実認定」と「判断保留事項」を明確に分けることです。

外部専門家の活用は「第三者委員会の設置」だけではない

不正・訂正局面で外部専門家というと、第三者委員会がすぐに想起されます。しかし、すべての事案で第三者委員会を設置すればよいわけではありません。

必要なのは、事案の性質に応じて、どの専門性を、どの独立性の水準で、どのタイミングで使うかを設計することです。

専門家主な役割起用を検討すべき局面
公認会計士・会計アドバイザー会計処理、影響額、訂正範囲、内部統制、監査人説明資料の整理収益認識、棚卸資産、減損、税効果、連結、組織再編など会計影響が大きい場合
弁護士法的責任、開示責任、取締役責任、調査体制、証拠保全、第三者委員会設計経営者関与、虚偽記載、法令違反、取引所・当局対応が想定される場合
不正調査・フォレンジック専門家データ分析、メール調査、証憑検証、関係者ヒアリング、資金流向分析循環取引、架空取引、横領、証憑改ざん、海外子会社不正が疑われる場合
IT・デジタルフォレンジック専門家PC・サーバ・メール・チャット・アクセスログの保全・解析電子証拠の削除・改ざんリスクがある場合
税理士・税務専門家法人税、消費税、移転価格、グループ通算、修正申告、税効果への影響過年度税務申告や繰延税金資産に影響する場合
評価専門家減損、金融商品時価、PPA、非上場株式評価、不動産評価資産評価・見積りが訂正原因となる場合
内部統制・J-SOX専門家統制不備の評価、開示すべき重要な不備、是正状況、評価範囲の見直し内部統制報告書や監査人との協議に影響する場合
開示・IRアドバイザー適時開示、有報訂正、投資家説明、開示資料間の整合性決算訂正、調査委員会設置、業績予想修正、取引所対応が必要な場合

外部専門家を使う目的は、会社の結論を正当化することではありません。事実認定、会計判断、開示判断、再発防止策を、社内外の関係者に説明できる水準まで引き上げることにあります。

第三者委員会を設置すべき局面と、設置しても解決しない論点

第三者委員会は、不正・訂正局面における強力な選択肢です。ただし、設置しただけで調査の十分性や再発防止策の実効性が担保されるわけではありません。

不祥事又はその疑義を把握した企業には、必要十分な調査によって事実関係や原因を解明し、その結果をもとに再発防止を図ることが求められています。原因究明にあたっては、表面的な現象や因果関係を並べるだけでは足りず、背景を明らかにしながら根本原因まで掘り下げることが期待されています。
出典:日本取引所グループ|上場会社における不祥事対応のプリンシプル

そのうえで、内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義がある場合、企業価値の毀損度合いが大きい場合、複雑又は社会的影響が重大な事案では、調査の客観性・中立性・専門性を確保するために第三者委員会の設置が有力な選択肢になると整理されています。もっとも、第三者委員会という形式によって、不十分な調査に客観性・中立性の外観を与えることは避けるべきとされています。
出典:日本取引所グループ|上場会社における不祥事対応のプリンシプル

第三者委員会を検討する際には、次の分岐を明確にします。

判断項目第三者委員会を検討すべき方向に傾く事情
経営者関与代表取締役、CFO、子会社社長、経営幹部の関与又は黙認が疑われる
内部統制の信頼性承認、照合、モニタリング、内部監査が機能していなかった可能性が高い
影響額過年度訂正、業績予想修正、上場維持、財務制限条項、配当可能性に影響する
事案の複雑性循環取引、海外子会社、関連当事者、複数部門・複数年度にまたがる
社会的影響報道、投資者損害、行政対応、取引所措置、顧客・取引先への影響が大きい
社内調査の限界関係者が社内権限を持つ、証拠改ざんリスクがある、内部監査部門の独立性に疑義がある

一方で、第三者委員会を設置しても、会社側に残る作業があります。会計処理の確定、訂正仕訳、税務影響、内部統制報告書の評価、監査人対応、有報・短信・適時開示の作成責任は、会社から消えるわけではありません。

調査範囲は「疑義のある取引」から始め、「財務報告への波及」で広げる

調査範囲を狭く設定しすぎると、後から追加訂正が必要になるリスクがあります。一方、広げすぎれば決算・開示スケジュールが破綻します。

そこで調査範囲は、「不正の端緒」ではなく「財務報告への波及可能性」を軸に設計します。

たとえば循環取引が疑われる場合、調査対象は売上高だけではありません。売上原価、棚卸資産、売掛金、貸倒引当金、消費税、法人税、セグメント、キャッシュ・フロー、関連当事者、内部統制、適時開示にまで波及します。

循環取引では、物品や役務が実在する場合もあれば架空の場合もあり、薄いマージンを乗せた売上・仕入がほぼ同時に計上されることがあります。また、参加企業が取引全体を把握しておらず、特定の「胴元」から仕入先・販売先・価格を指示されるだけ、というケースもあります。証憑だけでは実態を把握しにくい点に注意が必要です。

調査範囲を設計する際には、次の順序で整理すると実務上扱いやすくなります。

検討順序確認内容
1. 端緒の特定内部通報、監査人指摘、取引先照会、残高確認差異、棚卸差異、報道、当局照会
2. 取引類型の把握架空取引、循環取引、前倒し売上、資産過大、費用先送り、関連当事者不記載
3. 対象期間当期のみか、過年度に遡るか、同一担当者の在任期間まで見るか
4. 対象会社・拠点親会社、子会社、海外拠点、関連会社、委託先、販売代理店
5. 対象勘定売上、売掛金、棚卸資産、固定資産、投資、引当金、税効果、注記
6. 対象証拠契約書、注文書、検収書、請求書、入出金、物流、メール、チャット、稟議
7. 経営者関与指示、黙認、目標設定、例外承認、監査人への説明との不整合
8. 類似取引同じ商流、同じ担当者、同じ取引先、同じ会計処理の横展開

調査範囲は、最初から固定するものではありません。初期調査で新たな論点が見つかった場合には、調査範囲、影響額試算、開示スケジュールを更新し、監査人・監査役等・取締役会と共有する必要があります。

会計処理の訂正は「不正か誤謬か」だけで決まらない

会計実務では、不正か誤謬かの区分が重要です。ただし、過年度財務諸表の訂正処理そのものは、「意図的だったか」だけで決まるわけではありません。

誤謬は、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと、又は誤用したことによる誤りと定義されています。ここには、基礎データの収集・処理上の誤り、事実の見落としや誤解から生じる見積りの誤り、会計方針の適用誤り又は表示方法の誤りが含まれます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

このため、実務上は次のように分けて検討します。

区分会計・開示上の主な検討事項
不正な財務報告意図的な売上過大、費用隠蔽、資産過大、注記不記載。訂正範囲、重要性、内部統制、責任リスクが大きくなる
資産の流用横領、キックバック、架空支払。損失計上、債権回収可能性、関連当事者、内部統制を検討する
意図性のない誤謬会計基準の誤適用、見積り方法の誤り、データ処理ミス。過年度訂正と内部統制影響を検討する
見積りの変更新たに入手可能となった情報に基づく変更。過去の見積りが当時合理的だったかを確認する
見積り誤謬当時入手可能な情報を使用しなかった、又は不適切に使用した見積り。修正再表示の検討対象になる

会計上の見積りでは、後日実績と乖離したこと自体が直ちに問題になるわけではありません。重要なのは、乖離の原因です。

見積時点で当然考慮すべき情報を考慮していなかった場合や、楽観的な仮定を採用していた場合には、誤謬や内部統制上の改善点を示唆することがあります。

したがって不正・訂正局面では、次の資料を会計論点ごとに残しておくことが重要です。

資料後から問われるポイント
論点メモ事実、会計基準、処理案、反証情報、結論、未解決事項
影響額試算期間別、会社別、勘定科目別、セグメント別、税効果別の影響
重要性判断資料金額的重要性、質的重要性、投資者判断、業績予想、配当、財務制限条項
証拠リスト契約、証憑、入出金、物流、メール、議事録、外部確認
監査人協議記録提出資料、監査人コメント、追加要請、未解決論点
経営者・取締役会資料判断過程、承認、代替案、リスク認識
開示判断資料適時開示、有報訂正、内部統制報告書、短信、確認書への影響

訂正報告書と内部統制報告書は「自動連動」ではなく、原因分析で判断する

有価証券報告書の訂正報告書を提出する場合、内部統制報告書も必ず訂正するのか。この問いは、不正・訂正局面で頻出します。

結論から申し上げれば、有価証券報告書の訂正報告書を提出したことをもって、直ちに内部統制報告書も訂正しなければならないわけではありません。ただし、訂正原因となった誤りが、適切に決定された内部統制の評価範囲内からの、財務報告に重要な影響を及ぼす内部統制の不備から生じたと判断される場合には、内部統制報告書の訂正報告書の提出が必要になります。
出典:金融庁|内部統制報告制度に関するQ&A

この判断では、次の3つを混同しないことが重要です。

論点判断の焦点
財務諸表の訂正財務諸表・注記に重要な誤謬があったか
内部統制報告書の訂正誤謬が評価範囲内の重要な統制不備から発生したか
再発防止策同じ誤謬・不正が再発しないよう、統制設計・運用をどう変えるか

有価証券報告書を訂正したから内部統制報告書も自動的に訂正する、あるいは内部統制報告書を訂正しないから再発防止策も不要。こうした整理は誤りです。

内部統制報告制度上の結論と、会社としての再発防止策の必要性は、関連しますが同一ではありません。

内部統制の再評価では「評価範囲の機械的適用」が落とし穴になる

再発防止策を考える際には、内部統制評価の範囲を見直す必要があります。特に、売上高等のおおむね3分の2や、売上・売掛金・棚卸資産の3勘定といった例示を機械的に適用している会社では、リスクの高い拠点・取引・見積りプロセスが評価範囲から外れていることがあります。

2023年4月7日に公表された改訂内部統制基準・実施基準では、内部統制の目的の一つである「財務報告の信頼性」が「報告の信頼性」と整理され、その中に財務報告の信頼性が含まれることが示されました。あわせて、リスク評価において不正に関するリスクを考慮する重要性、経営者による内部統制の無効化、監査役等・内部監査人の役割、ガバナンス及び全組織的リスク管理との一体的な整備・運用などが強調されています。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

同じ改訂のなかで、評価対象とする重要な事業拠点や業務プロセスを選定する際に、売上高等のおおむね3分の2や売上・売掛金・棚卸資産の3勘定を機械的に適用すべきでないことが明確化され、財務報告への影響の重要性を勘案すべきことが示されています。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

不正・訂正局面では、次のような業務プロセスを評価範囲に追加すべきかを検討します。

追加検討すべきプロセス追加を検討すべき事情
非定型取引期末集中取引、例外承認、大口取引、複合契約、特殊商流
見積りプロセス減損、税効果、引当金、時価評価、返品、ポイント、貸倒
子会社決算海外子会社、買収子会社、経理人材が不足する子会社
関連当事者取引役員関係会社、実質支配先、資金支援、保証、無償取引
IT統制手作業補正、アクセス権、マスタ変更、ログ管理、外部委託
決算・開示プロセス注記、記述情報、適時開示、開示委員会、経営者確認
内部通報・内部監査通報受付、調査、監査役等への報告、フォローアップ

再発防止策は、評価範囲を広げることだけではありません。統制がリスクに対応しているか、統制責任者が明確か、証跡が残るか、例外処理を誰が承認するか、運用状況を誰が検証するか。そこまで落とし込む必要があります。

監査人との関係|監査人は重要な相手だが、会社の判断を代行しない

不正・訂正局面では、監査人との協議が欠かせません。ただし、監査人に会社の意思決定を代行させることはできません。

不正には不正な財務報告と資産の流用があり、不正を防止・発見する基本的な責任は経営者にあること、そして取締役会や監査役等も責任を負うことが示されています。監査人は、不正によるか誤謬によるかを問わず、財務諸表全体に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得る責任を負いますが、不正の発生に関する法的判断までは行いません。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240 財務諸表監査における不正

監査人対応では、次の整理が重要になります。

会社が準備すべき事項監査人との協議で問われるポイント
事実関係取引実態、関係者、期間、対象会社、証拠の十分性
調査範囲なぜその範囲で十分と考えるのか、類似取引をどう確認したか
影響額金額算定方法、税効果、表示・注記、比較情報、過年度影響
不正性意図性、経営者関与、隠蔽、内部統制無効化
内部統制統制不備の原因、開示すべき重要な不備、評価範囲、是正状況
開示訂正報告書、適時開示、内部統制報告書、KAM、確認書
経営者確認経営者がどの範囲で責任を負って説明するか

監査人への説明資料は、単なる調査報告書の要約では足りません。監査上必要となる証拠、会計処理の根拠、重要性判断、反証情報の検討、内部統制の評価、経営者の判断過程を、監査人が検証可能な形に整理する必要があります。

再発防止策は「規程を改めること」ではなく「業務が変わること」である

再発防止策でよく見られる失敗は、原因分析と対策が対応していないことです。

原因が経営者の過度な業績プレッシャーであったにもかかわらず、対策が経理マニュアル改訂だけになっている。原因が子会社管理の不備であったにもかかわらず、親会社承認フローの追加だけになっている。原因が取引実態を確認しない売上計上であったにもかかわらず、証憑添付欄の追加だけになっている。

こうした再発防止策は、見た目は整っていますが、現場の行動を変えません。

再発防止策については、根本原因に即した実効性の高い方策を迅速かつ着実に実行すること、そして組織変更や社内規則の改訂にとどまらず、日々の業務運営に具体的に反映され、定着しているかを検証することが重要であるとされています。
出典:日本取引所グループ|上場会社における不祥事対応のプリンシプル

再発防止策は、次のように原因と対策を対応させる必要があります。

根本原因不十分な対策実効性を高める対策
業績目標の過度な圧力コンプライアンス研修のみ予算管理、評価制度、例外取引承認、経営者メッセージの見直し
取引実態の確認不足証憑添付ルールの追加商流図、物流、入出金、エンドユーザー確認を含む収益認識統制
長期固定担当者担当者処分のみ職務分掌、ローテーション、強制休暇、上長レビュー、内部監査
子会社管理不足子会社への注意喚起子会社決算パッケージ、重要取引報告、親会社レビュー、現地監査
経営者による統制無効化承認権限表の改訂監査役等への直接報告経路、内部通報、例外承認のモニタリング
IT権限不備パスワード変更権限棚卸、ログレビュー、マスタ変更承認、外部委託管理
見積り偏向見積り資料の様式化反証情報の明示、感応度分析、事業計画との整合性検証
開示判断の属人化開示チェックリスト追加開示委員会、法務・経理・IR連携、適時開示判断メモ

不祥事予防の視点まで戻さないと、再発防止策は定着しない

再発防止策は、不祥事発覚後の処理にとどまってはいけません。不正が起きる前に、会社がどのように不正の芽を察知し、どのように対処するのか。そこまで戻す必要があります。

不祥事予防の取組みにおいては、経営陣、とりわけ経営トップによるリーダーシップが重要であるとされています。あわせて、制度・実態の両面から自社の状況を把握すること、社内慣習や業界慣行を無反省に所与のものとしないこと、経営陣がコンプライアンスにコミットすること、現場と経営陣の双方向コミュニケーションを充実させること、不正の芽を早期に把握し機敏に対処すること、グループ全体に実効的な経営管理を行うことが示されています。
出典:日本取引所グループ|上場会社における不祥事予防のプリンシプル

この視点から見ると、再発防止策は次の3層で設計する必要があります。

内容
取引統制個々の会計処理・承認・照合を正す売上計上統制、棚卸統制、見積りレビュー、アクセス権管理
管理統制部門・子会社・経営会議の管理を正す子会社モニタリング、予算差異分析、内部監査、重要取引報告
ガバナンス経営者・取締役会・監査役等の監督を正す例外取引の取締役会報告、監査役等への直接報告、内部通報制度

特にグループ会社の不正では、親会社の連結決算上の重要性だけで評価すると、リスクを見落とします。

金額的重要性が小さくても、海外子会社、買収子会社、少人数経理、現地経営者への権限集中、関連当事者取引、現地監査の弱さといった事情がある場合には、質的重要性は高くなります。

開示方針は、調査の進捗に応じて更新する

不正・訂正局面では、開示を「調査完了後の作業」と考えると遅れます。実務上は、疑義の把握、調査体制の決定、調査途中の影響額見込み、調査報告書の受領、訂正内容の確定、再発防止策の決定という各段階で、開示の要否を検討します。

適時開示の観点では、決定事実、発生事実、決算情報、業績予想修正、包括条項を横断的に確認する必要があります。開示内容を訂正する場合や不適正な開示があった場合には、口頭注意、公表措置、上場契約違約金、改善報告書、特別注意銘柄などの取引所措置につながる場合があります。

開示判断では、少なくとも次の事項を管理します。

開示局面主な検討事項
疑義把握時重要事実に該当するか、報道対応、インサイダー情報管理
調査体制決定時社内調査か、第三者委員会か、委員の独立性・専門性
調査中影響額見込み、決算発表延期、監査手続、業績予想修正
調査結果受領時原因、関与者、影響額、再発防止策、責任、開示資料
訂正確定時有報、半期報告書、短信、適時開示、内部統制報告書
再発防止実行時改善報告書、改善状況報告、内部統制の是正状況

開示方針は、法務、経理、IR、総務、監査役等、外部専門家、監査人との間で共有すべきものです。特に、財務諸表の訂正内容と適時開示の説明、調査報告書の原因分析、内部統制報告書の記載、経営者メッセージが不整合になると、信頼回復を妨げます。

専門家相談前に整理すべき資料

外部専門家に相談する前に、すべてを完璧に整理する必要はありません。しかし、何が分かっていて、何が分かっていないかを区別しておくことが重要です。

資料相談前に整理する内容
事案概要メモ発覚経緯、関係者、対象取引、対象期間、対象会社
取引資料契約書、発注書、納品・検収、請求、入出金、物流、在庫資料
会計処理資料仕訳、補助元帳、決算整理、注記、セグメント、税効果
影響額試算最小・最大レンジ、確定額・未確定額、過年度別影響
開示資料有報、半期報告書、決算短信、適時開示、業績予想、IR資料
内部統制資料業務記述書、RCM、承認フロー、運用評価、内部監査報告
監査人協議状況監査人指摘、追加依頼、未解決論点、監査スケジュール
ガバナンス資料取締役会、監査役等、経営会議、内部通報、コンプライアンス委員会
税務資料法人税申告書、消費税、グループ通算、修正申告要否
スケジュール決算発表、有報提出、監査報告、取引所対応、株主総会

専門家への相談では、「不正ですか」「訂正が必要ですか」と結論だけを尋ねるのではなく、次のように相談事項を分けると有効です。

相談事項問いの立て方
調査範囲この事実関係で、どこまで類似取引を調べるべきか
会計処理どの基準に基づき、どの期間・科目を訂正すべきか
重要性金額的重要性・質的重要性をどう整理すべきか
開示どの書類を、いつ、どの程度訂正・公表すべきか
内部統制開示すべき重要な不備に該当する可能性はどこにあるか
再発防止原因に対応した統制設計・運用検証になっているか
監査対応監査人が追加で求める証拠は何か
税務修正申告、税効果、加算税・延滞税、グループ影響はあるか

不正・訂正局面でやってはいけない整理

最後に、実務上とりわけ避けるべき整理を挙げておきます。

避けるべき整理なぜ危険か
担当者の問題で終わらせる統制不備、経営目標、承認構造、監督不足を見落とす
調査範囲を初期疑義だけに限定する類似取引、過年度、子会社への波及を見落とす
監査人に結論を決めてもらう財務諸表作成責任と開示責任は会社にある
規程改訂だけを再発防止策にする業務運用、証跡、検証、定着確認がなければ再発防止にならない
開示を調査完了まで完全に止める適時開示、インサイダー管理、投資者説明に支障が出る
調査報告書と会計処理を分離する調査結果が訂正仕訳・内部統制・開示に反映されない
税務影響を後回しにする修正申告、税効果、課税所得、グループ通算への影響を見落とす
内部統制報告書を形式的に扱う訂正原因と統制不備の関係を説明できなくなる
再発防止策の実行状況を検証しない改善報告書や監査人対応で実効性を示せない

不正・訂正対応の本質は、過去の誤りを正すことだけではありません。将来の財務報告を、信頼できる状態に戻すことにあります。

まとめ|専門家活用の目的は、会社の説明責任を再構築すること

不正・訂正局面における専門家活用は、単なる調査委託でも、会計処理の外注でもありません。

外部専門家を活用する目的は、事実関係を整理し、会計処理を確定し、影響額を測定し、開示方針を整え、監査人に説明し、内部統制を見直し、再発防止策を実行可能な形にすることです。

「見せたい数字」を守るのではなく、「後から説明できる数字」と「再び同じ誤りを起こさない仕組み」を整える。これが、不正・訂正局面における会計実務者の役割です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、会計不正、不適切会計、過年度訂正、内部統制報告書、適時開示、監査人協議、再発防止策の整理について、会計・税務・開示・内部統制を横断して支援しています。

事実関係や影響額がまだ確定していない段階でも、論点の切り分け、専門家の役割分担、監査人・開示担当者への説明資料の整理から対応できます。社内判断だけで進めることに不安がある場合は、当事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

重要事項実務上の確認ポイント
初動対応問題を小さく見せず、事実関係・会計影響・開示影響・内部統制影響を分けて整理する
専門家活用第三者委員会だけでなく、会計、法務、税務、フォレンジック、IT、内部統制の専門性を使い分ける
第三者委員会経営者関与、内部統制への疑義、社会的影響、事案の複雑性がある場合に検討する
調査範囲端緒となった取引だけでなく、類似取引、過年度、子会社、注記・開示への波及を確認する
不正と誤謬意図性の有無だけでなく、財務諸表作成時に利用可能だった情報を適切に使ったかを検討する
訂正報告書有報訂正、半期報告書、短信、適時開示、内部統制報告書の関係を整理する
内部統制報告書有報訂正と自動連動ではなく、訂正原因が評価範囲内の重要な統制不備から生じたかを判断する
評価範囲売上高等の割合や3勘定を機械的に適用せず、財務報告への影響と不正リスクを踏まえる
監査人対応監査人に結論を委ねず、会社としての事実認定・会計判断・開示判断を資料化する
再発防止策規程改訂ではなく、日々の業務運営に反映され、運用・定着が検証できる対策にする
不祥事予防経営トップの姿勢、現場との双方向コミュニケーション、グループ管理、不正の芽の早期把握まで戻す
相談前整理事実関係、影響額、対象書類、内部統制、監査人協議、スケジュールを一覧化して相談する
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