建設業の会計実務は、「完成したら売上を計上する」「原価を工事ごとに集計する」という理解だけでは、とても整理しきれません。
上場企業やIPO準備企業、大規模グループにおける建設業会計では、工事契約ごとの収益認識、履行義務の単位、進捗度、実行予算、追加変更工事、工事損失引当金、完成工事補償、JV、外貨建工事、未成工事支出金、契約資産・契約負債、KAM、適時開示までが、一本の線でつながって動きます。
とりわけ長期工事や大型工事では、決算日の時点で工事が完了していなくても、収益を認識する場面が出てきます。このとき財務諸表に載る売上高や利益は、完成済みの成果だけを映したものではありません。将来の原価見積り、工程の見通し、契約変更の見込み、発注者との協議状況までを織り込んだ、判断の結果として立ち上がってくる数値です。
そのため建設業の会計実務で最も重要になるのは、「工事が進んでいるか」ではありません。「その進捗を、どの契約、どの原価、どの根拠資料に基づいて、後から説明できるか」です。
本稿では日本基準を前提に、建設業の会計実務で実際に問題となる高度論点を、決算・開示・監査対応の観点から整理していきます。
建設業会計は、業種特性を理解しなければ判断を誤る
建設業法上、建設業とは、元請・下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいうとされています。
出典:e-Gov法令検索|建設業法
建設業は、日本標準産業分類上も総合工事業、職別工事業、設備工事業に分類されます。建築物・土木施設・土地に継続的に接着する工作物等の新設、改造、修繕、解体、除却、移設などを含む、幅の広い業種です。建設業法上の工事業種についても、土木工事業・建築工事業といった一式工事と、多数の専門工事に分かれています。
会計実務において、この業種特性は非常に重要な意味を持ちます。
建設業では、契約金額が大きく、工期が長く、工事ごとに仕様が異なり、現場条件も一様ではありません。さらに、元請・下請の重層構造、JV、設計変更、資材価格変動、労務費変動、発注者との協議、出来高査定、検収、瑕疵補修、保証義務が絡み合います。元請業者が工事全体の施工管理を行い、サブコン等の下請業者が専門工事を担う重層的な構造が一般的であることも、会計処理と内部統制の複雑さを高めています。
したがって建設業会計を検討する際には、まず次の事実関係を整理しておく必要があります。
| 確認領域 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 契約 | 工事請負契約、変更契約、追加工事、請負範囲、契約金額 |
| 施工体制 | 元請、下請、JV、分担施工、共同施工、外注契約 |
| 収益認識 | 一定期間認識か、一時点認識か、履行義務の単位 |
| 原価 | 実行予算、見積工事原価総額、発生原価、未発生原価 |
| 進捗 | 原価比例法、出来高、工程表、現場報告、検収状況 |
| 損失 | 工事損失見込み、受注損失、資材高騰、工程遅延 |
| 表示 | 完成工事高、完成工事原価、未成工事支出金、契約資産・契約負債 |
| 開示 | 収益認識注記、重要な会計上の見積り、KAM、適時開示 |
| 監査 | 実行予算の合理性、見積変更、内部統制、証拠資料 |
建設業会計では、これらを切り離したまま判断することはできません。
収益認識は「工事完成基準か工事進行基準か」だけでは整理できない
従来の建設業会計では、工事完成基準と工事進行基準という整理が実務上重要な意味を持っていました。現在は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」を前提に、顧客との契約から生じる収益について、5ステップに基づいて判断していきます。
収益認識基準の基本原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益を認識することにあります。同基準は、顧客との契約の識別、履行義務の識別、取引価格の算定、履行義務への配分、履行義務の充足に応じた収益認識という5つのステップを示しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
建設業でまず問題になるのは、工事契約が一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するのか、一時点で充足される履行義務に該当するのか、という点です。
収益認識基準では、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて顧客が便益を享受する場合、企業の履行により資産が生じ又は価値が増加し、顧客がその資産を支配する場合、または別の用途に転用できない資産が生じ、かつ完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有する場合に、一定の期間にわたり履行義務を充足するものとして収益を認識することとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
建設業でいえば、顧客の土地の上に建設を行う工事契約では、通常、顧客が企業の履行から生じる仕掛品を支配すると説明されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
ただし、すべての建設関連取引が当然に一定期間認識になるわけではありません。
たとえば、標準化された建材や設備を製造し、完成後に引き渡す契約なのか、顧客仕様に基づく一体不可分の工事なのか。発注者の土地・施設上で資産価値が増加しているのか。途中解約時に完了部分の対価を請求できるのか。こうした点によって、判断は変わってきます。
したがって、建設業における収益認識の入口では、次の順序で整理していくことになります。
- 顧客との契約は成立しているか
- 契約単位を結合・分割すべきか
- 設計、調達、施工、保守、保証を一つの履行義務と見るか、複数の履行義務に分けるか
- 工事の成果物に対する支配は、いつ顧客へ移転するか
- 一定期間認識の場合、進捗度を合理的に見積ることができるか
- 合理的に見積れない場合、原価回収基準による処理が必要か
- 契約変更、変動対価、工事損失をどの時点で反映するか
建設業会計の判断は、工事の名称からではなく、契約上の権利義務と工事実態から始める必要があります。
履行義務の単位は、工事契約書の単位と常に一致するわけではない
建設業では、1つの契約書の中に、設計、施工、資材調達、試運転、保守、長期メンテナンス、性能保証、追加サービスが含まれていることがあります。
収益認識上、契約書が1本であることと、履行義務が1つであることは同じではありません。
たとえば設計施工一括契約では、設計と施工が高度に相互関連しており、顧客に対して一体の建設成果物を提供する義務と見ることが自然な場合があります。一方で、工事完成後に提供される長期メンテナンス、法定保証を超える追加保証、運営支援サービスなどは、工事本体とは別個の履行義務になる可能性があります。
ここで重要なのは、履行義務を細かく分けすぎることでも、すべてを一括することでもありません。顧客に移転する財又はサービスが別個のものか、契約上の約束がどのように結合されているか、取引価格をどの単位に配分することが実態を表すか。この点を判断することです。
建設業で履行義務の単位が問題になりやすいのは、次のような場面です。
| 論点 | 判断の視点 |
|---|---|
| 設計施工一括契約 | 設計と施工が一体不可分か、別個に便益を享受できるか |
| 設備納入+据付工事 | 設備単体で使用可能か、据付が重要な統合サービスか |
| 複数棟・複数工区 | 各工区が独立した履行義務か、一体のプロジェクトか |
| 保守・メンテナンス | 品質保証にとどまるか、別個のサービス提供か |
| 追加変更工事 | 既存工事と区別できる追加か、既存履行義務の一部か |
| 性能保証 | 合意仕様を満たす保証か、追加的な保証サービスか |
履行義務の単位は、収益認識の単位、進捗度測定、工事損失引当金の認識単位、注記、KAMの検討単位にまで影響していきます。
そのため、契約書、仕様書、見積書、工程表、発注者との協議記録、追加変更契約、社内稟議を突き合わせ、どの単位で判断したのかを明確に残しておくことが重要です。
追加変更工事と変動対価は、建設業会計の重要な境界線になる
建設業では、契約締結後に設計変更、仕様変更、追加工事、減額変更、クレーム、ペナルティ、インセンティブが発生することがあります。
これらは会計上、単なる営業上の見込みにとどまらず、取引価格や履行義務に影響を及ぼす可能性があります。
収益認識基準では、取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額をいい、変動対価、重要な金融要素、現金以外の対価、顧客に支払われる対価を考慮して算定するものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
建設業における追加変更工事では、とりわけ次の判断が問題になります。
- 追加工事について、顧客との合意が成立しているか
- 契約変更として既存契約とは別個に処理すべきか
- 既存の履行義務の一部として処理すべきか
- 追加対価を取引価格に含められるか
- 収益の重大な戻入れが生じない程度に見積れるか
- 追加工事の原価だけが先行して発生していないか
- 未承認の設計変更やクレームを、収益に織り込みすぎていないか
実務では、設計変更工事について、原価は発生しているものの、発注者との協議がまとまっておらず請求可能性が不明である、という場面が少なくありません。こうした場合には、取引価格の変動をどの時点で反映するか、既存履行義務との関係でどう処理するかが重要になります。
この論点で危ういのは、「現場では当然に請求できると考えている」「過去も認められていた」という実務感だけで収益を認識してしまうことです。
監査対応上は、少なくとも次の資料が必要になります。
- 変更指示書
- 発注者との協議記録
- 追加見積書
- 変更契約書又は覚書
- 取締役会・稟議資料
- 追加工事の実行予算
- 追加工事部分の原価集計
- 発注者による出来高確認資料
- 請求書・検収資料
- 過去の同種変更契約の成立実績
追加変更工事は、建設業の収益認識のなかでも、最も判断が揺れやすい領域です。見込収益を早く取り込みたい局面ほど、契約上の権利と証拠資料を厳格に確認する必要があります。
進捗度の測定は、実行予算の品質に依存する
一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、その進捗度に基づいて収益を一定の期間にわたり認識します。進捗度は各決算日に見直し、見積りを変更する場合には会計上の見積りの変更として処理します。また、進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ収益を認識し、合理的に見積ることができないものの費用回収が見込まれる場合には、合理的に見積ることができる時まで原価回収基準により処理することとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
建設業では、進捗度の測定に原価比例法が用いられることが多いと考えられます。しかし原価比例法は、発生原価を集計すれば自動的に正しい進捗度が出てくる方法ではありません。
原価比例法では、分母である工事原価総額の見積りと、分子である発生原価の正確性、その双方が重要になります。
特に、次のような原価が混在している場合には注意が必要です。
| 原価の種類 | 進捗度への影響 |
|---|---|
| 材料費 | 現場投入済みか、単なる先行購入かを区分する |
| 外注費 | 出来高に対応しているか、前払・仮払ではないかを確認する |
| 労務費 | 工事に直接対応する作業か、管理部門費かを区分する |
| 現場経費 | 工期延長、仮設費、重機費、保険料等の配賦方法を確認する |
| 異常原価 | 進捗を表さない非効率・手戻り・不具合対応を区分する |
| 追加変更工事原価 | 収益側の取引価格変更と整合しているかを確認する |
進捗度の測定は、実行予算の精度に強く依存します。
実行予算は、工事の採算管理と業績評価の基礎です。着工後も、追加変更工事、進捗遅延、資材価格高騰、工程変更等に応じて見直していく内部体制が求められます。実行予算を保守的に組んでいる場合や、VE・CDの見込額を織り込む場合には、その実現可能性を検討する必要があります。
実行予算が陳腐化したまま進捗度を計算すれば、売上・利益・工事損失引当金のすべてが歪みます。
建設業の決算では、工事台帳、実行予算、現場報告、工程表、原価実績、見込原価、変更契約の整合性を確認することが欠かせません。
未成工事支出金・完成工事未収入金・未成工事受入金は、収益認識後の表示と整合させる
建設業では、一般的な売掛金、仕掛品、前受金とは異なる、業種特有の科目が用いられます。
たとえば、国土交通省の建設業財務諸表様式に関する定義では、未成工事支出金は、引渡しを完了していない工事に要した工事費、材料購入・外注のための前渡金、手付金等とされています。ただし、長期の未成工事に要した工事費で工事進行基準によって完成工事原価に含めたものは除かれます。
出典:国土交通省|建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を定める件
収益認識基準上は、契約資産、契約負債、顧客との契約から生じた債権を、適切な科目をもって貸借対照表に表示します。契約資産については契約資産、工事未収入金等、契約負債については契約負債、前受金等、顧客との契約から生じた債権については売掛金、営業債権等として表示することが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
ここで重要なのは、勘定科目名だけで判断しないことです。
建設業では、同じ「工事未収入金」「未成工事受入金」という名称を使っていても、その中身が無条件の債権なのか、契約資産なのか、契約負債なのか、前受金なのかを整理する必要があります。
とりわけ一定期間にわたり収益を認識する場合には、発生した収益、請求済額、入金済額、契約上の請求権、履行義務の残高を整合させておかなければなりません。
実務上は、工事別に次の情報を管理することが重要です。
| 管理情報 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 契約金額 | 当初契約、変更契約、追加工事、減額変更 |
| 累計収益 | 進捗度に基づく累計認識額 |
| 請求済額 | 出来高請求、前受金、中間金、完成時請求 |
| 入金済額 | 現金入金、相殺、留保金 |
| 契約資産 | 履行済みだが無条件の請求権に至っていない部分 |
| 債権 | 無条件の請求権がある部分 |
| 契約負債 | 対価を受け取っているが未履行の部分 |
| 未成工事支出金 | 収益認識に対応して費用化されていない工事原価等 |
上場企業では、これらが決算短信、有価証券報告書、セグメント情報、収益認識注記、KAMと連動していきます。表示科目の整合性だけでなく、注記の説明可能性まで見ておく必要があります。
工事原価の集計は「現場管理」と「財務報告」の接点である
建設業の工事原価は、単なる費用集計ではありません。収益認識、進捗度、工事損失引当金、完成工事補償、棚卸資産、税効果、KAMの基礎になるものです。
棚卸資産会計の観点からも、棚卸資産は、企業が営業目的を達成するために所有し、売却を予定する資産であり、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等が含まれます。建設業における仕掛中の長期請負作業は、一般的な仕掛品と近い性質を持っています。
もっとも、建設業の工事原価は、製造業の標準的な仕掛品管理よりも個別性が強いのが通常です。
工事ごとに、以下を明確にしておく必要があります。
- どの工事に直接対応する原価か
- 共通仮設費・現場管理費をどう配賦するか
- 本社経費と現場経費をどう区分するか
- 追加変更工事に対応する原価をどう識別するか
- 未承認変更工事の原価をどの工事に紐づけるか
- 異常原価を進捗度計算に含めるか
- 工期延長による追加原価をどの時点で見積りに反映するか
- 損失見込工事をどのタイミングで識別するか
ここで原価管理が弱いと、進捗度を正しく計算できません。進捗度が正しく計算できなければ、完成工事高、完成工事原価、工事利益、工事損失引当金、契約資産、契約負債のすべてに影響が及びます。
監査対応の場面でも、単に総勘定元帳や工事台帳を提示するだけでは足りません。工事原価総額の見積りがどのように作られ、誰が承認し、いつ見直され、実績との差異がどのように分析されているのか。そこが問われます。
工事損失引当金は、赤字が確定してから計上するものではない
建設業会計において、工事損失引当金は非常に重要な論点です。
収益認識適用指針では、工事契約について、工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上するものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
また同適用指針では、工事損失引当金は貸借対照表の流動負債に表示し、繰入額は損益計算書の売上原価として表示すること、同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上される場合には相殺表示できることが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
工事損失引当金は、「将来赤字になったら計上する」というものではありません。決算日の時点で、工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、合理的に見積れるのであれば、その時点で損失を認識します。
計上の要否を判断する際には、実行予算が重要な意味を持ちます。受注時の概算見積りは短期間で作成されるため、金額の信頼性や合理性が十分でないことがあります。一方、受注後に施工方法、仕様書、作業工程、原材料単価等を積み上げて作成される実行予算は、合理的な見積りの基礎になることが多いと考えられます。
ただし、実行予算があるだけでは十分ではありません。次のような状況が見られる場合には、工事損失の兆候として慎重に確認する必要があります。
- 受注時点から低採算・赤字受注である
- 資材価格・外注費・労務費が上昇している
- 工期が延長されている
- 追加変更工事の承認が遅れている
- 発注者との協議が難航している
- 施工方法の変更が必要になった
- 下請業者の倒産・施工不良が発生している
- 瑕疵補修・手戻りが生じている
- 実行予算の見直しが遅れている
- 現場損益と会計上の損益に大きな乖離がある
工事損失引当金の見積りは、決算日時点で利用可能な情報に基づく最善の見積りでなければなりません。後から実績と乖離すること自体が直ちに誤謬になるわけではありませんが、決算日時点で当然考慮すべき情報を無視していた場合には、見積りの誤謬や内部統制上の不備につながります。会計上の見積りでは、乖離が生じた原因を分析し、見積時点で最善の見積りであったかを慎重に検討する必要があります。
完成工事補償は、引当金で済む場合と収益認識上の履行義務になる場合がある
建設業では、完成後に瑕疵補修、性能保証、保守対応、メンテナンスサービスが発生することがあります。
ここで重要になるのは、完成工事補償が、品質保証型の保証なのか、サービス型の保証なのかを区分することです。
収益認識基準のもとでは、提供する保証が、完成工事が合意された仕様どおりのものであることを保証する品質保証型の保証にとどまる場合と、追加の保証サービスを提供するサービス型の保証を含む場合とで、処理が異なります。サービス型の保証が含まれる場合には、取引価格のうちサービス型の保証に配分された金額を契約負債として計上することになります。
完成工事に対する瑕疵担保責任として補修工事を実施することのみである場合には、引き続き引当金として処理することになります。一方、長期メンテナンスなど追加的なアフターサービスが含まれる場合には、別個の履行義務として取引価格を配分し、サービス提供に応じて収益を認識することになります。
したがって、完成工事補償については、次のように整理します。
| 補償内容 | 会計上の方向性 |
|---|---|
| 仕様どおりの完成物であることの保証 | 完成工事補償引当金等の検討 |
| 法定・契約上の瑕疵補修 | 引当金の認識要件・見積りを検討 |
| 長期メンテナンスサービス | 別個の履行義務として収益配分を検討 |
| 無償点検・保守パッケージ | 契約内容に応じてサービス型保証該当性を検討 |
| 性能保証と運用支援の組合せ | 品質保証部分とサービス提供部分を切り分ける |
完成工事補償をすべて引当金で処理してしまうと、将来サービスの収益配分を誤る可能性があります。逆に、単なる瑕疵補修をサービス型保証と誤って扱えば、収益認識が過度に繰り延べられる可能性があります。
契約書の保証条項、保守契約、発注仕様、工事引渡後の対応内容を確認し、品質保証とサービス提供を分けて説明できるようにしておくことが重要です。
JVは、契約・施工・資金・損益配分を分けて整理する
建設業では、JV、すなわち共同企業体が用いられることがあります。
国土交通省は、共同企業体を、複数の建設企業が一つの建設工事を受注・施工することを目的として形成する事業組織体と説明しています。
出典:国土交通省|共同企業体制度(JV)
JVでは、会計上、次の論点が生じます。
- JV自体をどのような会計単位として扱うか
- 構成員の出資割合・損益配分割合はどうなっているか
- 共同施工方式か、分担施工方式か
- 幹事会社がどの範囲まで収益・原価を認識するか
- 構成員間の請求・精算をどう処理するか
- JVの工事原価、未成工事支出金、前受金をどのように管理するか
- 連結グループ内外のJV構成員がいる場合、連結上どう整理するか
- 工事損失が見込まれる場合、構成員ごとにどの範囲で引当てるか
JVは、建設業の実務慣行に基づいて会計処理が行われる場面もあり、明確な基準だけで機械的に処理できないことがあります。そのため、JV協定書、出資割合、損益配分、施工方式、資金管理、代表会社の権限、各構成員の責任範囲を確認する必要があります。
特に上場企業では、JV会計について、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続として、重要な会計方針に記載すべきかを検討する場面があります。
JVは、「発注者との工事契約」と「構成員間の協定」が重なるため、収益認識と原価認識の単位を誤りやすい領域です。決算前に、JVごとの会計処理方針を統一し、監査人と確認しておくことが望まれます。
外貨建工事契約では、収益認識と為替換算・ヘッジ会計が交差する
海外工事や外貨建の大型設備工事では、収益認識と外貨建取引会計が交差します。
外貨建工事契約については、工事契約会計に特有の換算方法だけで完結するのではなく、外貨建取引会計基準に従った会計処理を行う必要があります。工事進行基準により発生した完成工事未収入金については、外貨建金銭債権として決算時の為替相場で換算する旨の整理がされています。
また、工事完成基準を適用する場合には、完成・引渡しまでは未履行の確定契約として繰延ヘッジの適用が検討され、為替予約により外貨建金銭債権の決済金額を固定できる場合には振当処理の適用が検討されます。工事進行基準を適用する場合にも、認識済み部分と未履行部分とで、振当処理や繰延ヘッジの検討が分かれることがあります。
外貨建工事では、次の点を整理する必要があります。
| 論点 | 確認事項 |
|---|---|
| 契約通貨 | 請負金額、出来高請求、前受金、外注費の通貨 |
| 収益認識 | 円貨収益の測定時点、進捗度、契約資産・債権 |
| 為替換算 | 完成工事未収入金、未成工事受入金、前受金の換算 |
| ヘッジ | 為替予約、予定取引、金銭債権、未履行部分の区分 |
| 工事損失 | 為替変動を含めた損失見込みの算定 |
| 開示 | 為替リスク、ヘッジ方針、金融商品注記、MD&A |
外貨建工事は、売上計上だけでなく、為替差損益、ヘッジ会計、工事損失引当金、税効果にまで影響します。契約締結の段階から、為替リスク管理方針と会計方針を整合させておく必要があります。
建設業の税務・税効果は、工事損益と一体で整理する
建設業では、会計上の収益認識と税務上の益金・損金認識が一致しない場合があります。
税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合に、法人税等の額を適切に期間配分し、法人税等控除前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させる手続です。
建設業では、次の項目が税効果の論点になりやすいと考えられます。
- 工事損失引当金
- 完成工事補償引当金
- 貸倒引当金
- 減損損失
- 資産除去債務
- 固定資産の減価償却
- 受注損失
- 税務上の損金算入時期との相違
- 海外工事に係る外貨建債権債務
- グループ通算制度下の回収可能性
ここで注意しておきたいのは、「会計上引当金を計上したから税務上も損金になる」とは限らない、という点です。税務と会計は目的が異なりますから、税務上の損金算入要件は別途確認する必要があります。
建設業の税効果では、個別工事の損益見込みと、会社全体の将来課税所得見込みがつながっていきます。大型赤字工事や工事損失引当金が発生している場合には、繰延税金資産の回収可能性、将来課税所得、受注残、利益計画、工事損益見通しの整合性を確認する必要があります。
建設業のKAMでは、工事原価総額の見積りと工事損失引当金が中心になりやすい
建設業の監査では、工事収益と工事原価総額の見積り、そして工事損失引当金がKAMになりやすい領域です。
金融庁は、KAMについて、2018年7月公表の監査基準の改訂により日本の監査実務に導入され、2021年3月期から一部を除く金融商品取引法監査が適用される会社に対して監査報告書への記載が求められていると説明しています。また、KAMの記載は監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高める意義があるとされています。
出典:金融庁|監査上の主要な検討事項(KAM)の実務の定着と浸透に向けた取組みについて
実際のKAM分析でも、工事請負契約に係る受注工事損失引当金の見積りや、工事請負契約における収益認識が、KAMとして取り上げられることがあります。
工事進行基準の適用に関連する工事原価総額の見積りについては、工事契約の着手後に判明する事実や現場状況の変化により作業内容が変更される可能性があり、実行予算の策定には作業内容や工数の見積りに不確実性を伴います。そのため、監査上の重要な論点となることがあります。
KAMや重要な会計上の見積りの開示に備えるためには、次の説明資料を整備しておく必要があります。
| 領域 | 説明資料 |
|---|---|
| 工事収益 | 契約書、変更契約、取引価格算定資料 |
| 履行義務 | 工事範囲、設計・施工・保守の切り分け資料 |
| 進捗度 | 工程表、原価比例法の計算表、出来高資料 |
| 実行予算 | 初回予算、改定予算、承認履歴、差異分析 |
| 原価総額 | 材料費、外注費、労務費、現場経費の見積根拠 |
| 工事損失 | 赤字見込工事一覧、損失見込額計算、引当金資料 |
| 見積変更 | 変更理由、影響額、過年度見積りとの差異分析 |
| 内部統制 | 予算承認、原価集計、変更契約管理、現場報告統制 |
| 開示 | 収益認識注記、見積り開示、KAMとの整合性 |
会計上の見積りの開示基準では、識別した会計上の見積りについて、項目名、当年度の財務諸表に計上した金額、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を注記することが求められます。その情報には、算出方法、主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響などが含まれます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準
建設業では、見積りの内容を抽象的に書くだけでは足りません。投資家や監査人が理解したいのは、「どの工事で、どの仮定が、どの程度財務諸表に影響し得るのか」という点です。
建設業では、不正・訂正リスクにも注意が必要である
建設業は、会計不正リスクが相対的に高まりやすい業種の一つです。
工事ごとに契約内容が異なり、収益認識に見積りが多く、原価の発生と収益認識が長期間にわたり、現場と経理の情報格差が生じやすい。これが、その理由です。
会計不正の類型としては、不適切な収益認識、負債・費用の隠蔽、費用・収益の期間帰属の操作、不適切な資産評価、不適切な開示などが挙げられます。
建設業で注意すべき不適切会計には、次のようなものがあります。
- 未承認の追加工事を過大に収益認識する
- 進捗度を過大に見積る
- 工事原価総額を過小に見積る
- 赤字工事の識別を遅らせる
- 工事損失引当金を過小に計上する
- 未成工事支出金に費用を滞留させる
- 原価を別工事へ付け替える
- 完成工事補償引当金を計上しない
- 変更契約の成立時期を恣意的に扱う
- JV損益を誤って取り込む
- 外貨建工事の為替影響を適切に反映しない
とりわけ、実行予算の見直しが遅れている会社では、赤字工事が工事損失引当金に反映されず、将来の損失が先送りされるリスクがあります。
建設業の不正リスクを抑えるには、営業・現場・原価管理・経理・内部監査・監査人が、同じ工事別データを見ていることが重要です。現場の採算管理資料と、会計上の収益認識・原価認識・引当金が別々に作られている場合、決算時に説明できない差異が生じやすくなります。
建設業会計で専門家に相談する前に整理すべき事項
建設業の高度会計論点について専門家に相談する場合、会計処理の結論だけを求めても、十分な検討はできません。
少なくとも、次の事項を整理しておくことが望まれます。
| 整理事項 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 工事の概要 | 工事名、発注者、元請・下請、JV、工期、契約金額 |
| 契約資料 | 請負契約書、仕様書、変更契約、追加工事資料 |
| 収益認識 | 一定期間認識・一時点認識の判断、履行義務の単位 |
| 進捗度 | 原価比例法、出来高資料、工程表、現場報告 |
| 実行予算 | 初回予算、改定予算、承認履歴、差異分析 |
| 原価資料 | 発生原価、未発生原価、外注費、材料費、労務費、現場経費 |
| 変更工事 | 承認済・未承認の区分、請求可能性、発注者協議状況 |
| 損失見込み | 工事損失引当金の要否、見積損失額、過去計上損益 |
| 保証・補償 | 瑕疵補修、完成工事補償、メンテナンスサービス |
| 表示・開示 | 契約資産、契約負債、未成工事支出金、注記、KAM |
| 税務 | 税務上の損金算入、税効果、グループ通算への影響 |
| 監査対応 | 監査人指摘事項、提出資料、論点メモ、経営者説明資料 |
建設業の会計判断は、工事別に整理しなければ実務に落ちません。逆にいえば、工事別の事実関係、実行予算、契約変更、原価見積り、監査上の争点が整理されていれば、会計処理・注記・監査対応を一体で検討することができます。
まとめ|建設業会計は「現場の数字」を「説明できる財務報告」に変換する実務である
建設業の会計実務では、工事現場の進捗、実行予算、原価見積り、契約変更、工事損失、補償義務を、財務諸表に反映できる形へ整理していく必要があります。
重要なのは、会計基準を形式的に当てはめることではありません。
工事契約の実態を理解し、履行義務を識別し、取引価格を見積り、進捗度を測定し、実行予算を更新し、損失見込みを早期に把握し、注記・KAM・監査対応に耐える資料を整えること。そこに尽きます。
建設業会計では、「工事は順調に進んでいる」という現場感覚だけでは足りません。「その進捗と利益を、契約・原価・見積り・証拠資料に基づいて説明できるか」が問われます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、日本基準に基づく建設業の収益認識、工事損失引当金、実行予算管理、工事原価、注記・KAM・監査対応、税効果まで、決算・開示に耐える形での論点整理を支援しています。建設業の決算論点について、社内での判断や監査対応にご不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り|建設業会計の重要論点
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 建設業の範囲 | 建設業法上の請負、元請・下請、工事種類、施工体制を確認する |
| 収益認識 | 工事契約を5ステップで整理し、履行義務の単位を判断する |
| 一定期間認識 | 顧客による支配、別用途転用不可、対価請求権を確認する |
| 進捗度 | 原価比例法等を用いる場合、実行予算と発生原価の合理性を確認する |
| 実行予算 | 初回予算、改定予算、承認履歴、差異分析を残す |
| 追加変更工事 | 契約変更、変動対価、請求可能性、収益の戻入れリスクを確認する |
| 未成工事支出金 | 収益認識済み原価との区分、契約資産・契約負債との整合性を確認する |
| 工事損失引当金 | 工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性と合理的見積りを確認する |
| 完成工事補償 | 品質保証型の保証か、サービス型の保証かを区分する |
| JV | 出資割合、施工方式、損益配分、構成員間精算を確認する |
| 外貨建工事 | 収益認識、為替換算、ヘッジ会計、工事損失への影響を整理する |
| 税効果 | 工事損失引当金、補償引当金、減損等の一時差異を確認する |
| KAM | 工事原価総額の見積り、進捗度、工事損失引当金が重要論点になりやすい |
| 内部統制 | 現場・原価管理・経理・開示の情報が一致しているか確認する |
| 相談前整理 | 契約書、実行予算、原価資料、変更契約、監査指摘事項を工事別に整理する |