事業承継・非上場株式・株主構成戦略|法人税務から承継を考える論点地図

事業承継という言葉を聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは、「相続税対策」「自社株対策」「事業承継税制」といったところではないでしょうか。

もちろん、税負担をどう抑えるかは重要な論点です。非上場株式の評価が高くなれば、贈与税・相続税の負担や納税資金の問題が、そのまま経営の制約になります。事業承継税制を使えるかどうかも、会社によっては極めて重要な判断になります。

ただ、事業承継を税金だけで見てしまうと、肝心の視点が抜け落ちます。「会社を誰に、どのような状態で引き継ぐのか」という視点です。

後継者が引き継ぐのは、株式だけではありません。会社の利益構造、借入金、経営者保証、役員退職金、オーナー貸付金、過去の税務判断、株主構成、少数株主との関係、定款、議事録、金融機関との関係、そして将来のM&Aや組織再編の選択肢まで、まとめて引き継ぐことになります。

第12テーマでは、事業承継を「税金を下げる手段」としてではなく、法人税務・資本政策・株主構成・経営権・資金繰り・後継者への引継ぎを一体で設計する経営判断として整理していきます。

中小企業庁も、事業承継については「承継の形はさまざま」であるとしたうえで、親族内承継・従業員承継・M&Aという類型ごとに、ステップやサポート体制を示しています。承継を検討する際には、自社がどの類型に近いのか、どの支援策・税制・法務手続が関係してくるのかを、早い段階で把握しておくことが大切です。
出典:中小企業庁|事業承継

このテーマで扱うこと

第12テーマでは、事業承継を次の順番で整理します。

まず、事業承継における法人税務の全体像を確認します。承継とは、株式を移すだけの行為ではなく、会社の税務状態を後継者へ引き継ぐ行為でもあります。役員退職金、貸付金、自己株式、組織再編、M&Aが、それぞれどこで関係してくるのかを最初に押さえます。

次に、非上場株式評価を確認します。自社株式の評価は、承継時の税負担だけでなく、自己株式取得、株式譲渡、持株会社化、少数株主対応にも影響します。相続税評価上の株価と、法人税・所得税上で問題になる時価、そしてM&Aでの企業価値は、それぞれ同じものではありません。

その後、贈与・相続と法人税務の接点を整理します。役員退職金を支給する、オーナー貸付金を放棄する、自己株式を取得する、配当を行う。こうした法人側の処理は、株主側の相続税・贈与税・所得税にも影響が及びます。

さらに、法人版事業承継税制、株主構成の整理、種類株式・持株会社・信託等の承継スキーム、M&A・組織再編の活用へと進みます。

最後に、承継相談の前に整理しておくべき資料を確認します。株主名簿、申告書、決算書、貸付金、役員退職金、株価資料、定款、議事録。これらが整っていなければ、どの承継方法が適切かを判断することはできません。

このテーマを読む前に意識しておきたいこと

事業承継では、「早く株価を下げたい」「税制を使いたい」「後継者へ株式を渡したい」といった結論が、どうしても先に出やすいものです。

しかし、法人税務の視点からは、いきなり手法を選ぶのではなく、次の順番で整理していく必要があります。

  • 自社の株主構成はどうなっているか
  • 誰が議決権を持ち、誰が経営権を握っているか
  • 非上場株式の評価はどの程度か
  • 会社にオーナー貸付金や役員貸付金は残っていないか
  • 先代経営者の退職金を支給する予定はあるか
  • 自己株式取得や持株会社化を行う余地はあるか
  • 事業承継税制を使う場合、将来の継続要件を管理できるか
  • 親族内承継が難しい場合、従業員承継や第三者承継を検討できるか
  • 将来のM&Aや組織再編の可能性を狭めないか

この順番を飛ばしてしまうと、短期的には税負担を下げられても、後継者が経営しにくい会社になってしまうことがあります。株主間のトラブルが残る、金融機関への説明や将来のM&Aで支障が生じる、といった事態も起こり得ます。

第12テーマは、こうした論点を一つずつ分解し、読者の皆さまが自社の承継課題について専門家と対話できる状態になるための入口です。

推奨する読み進め方

このテーマは、12-1から12-8まで順番にお読みいただくことをおすすめします。

最初に12-1で事業承継と法人税務の全体像をつかみ、12-2で非上場株式評価の基本を確認します。そのうえで、12-3で贈与・相続と法人側処理の接点を整理し、12-4で法人版事業承継税制を検討します。

その後、12-5で株主構成と経営権を、12-6で種類株式・持株会社等の承継スキームを、12-7でM&A・組織再編という親族内承継以外の選択肢を確認します。

最後に12-8で、承継相談の前に整理すべき法人税務・株主資料を確認してください。

すでに承継相談が進んでいる会社や、税理士・金融機関・M&A支援機関から具体的な提案を受けている会社は、12-8から読み始めていただいても構いません。資料の不足や前提の不明点が見えてきたところで、12-1から順に戻っていただくと、論点の位置づけが整理しやすくなります。

第12テーマの詳細コラム案内

12-1. 事業承継における法人税務の全体像

最初に読んでいただきたい記事です。

事業承継を、株式移転や相続税対策としてだけでなく、会社の税務状態を後継者へ引き継ぐ行為として整理します。株式承継、経営権、株価、役員退職金、オーナー貸付金、組織再編、M&Aが、それぞれどう関係し合うのかを俯瞰していきます。

「事業承継で法人税務がなぜ関係するのか」「自社株対策と会社の決算・申告がどうつながるのか」。ここが見えていない場合は、このコラムから読み進めると全体像をつかみやすくなります。

ここでは、個別の株価計算や税制適用の細部には立ち入りません。後続の記事で扱う論点の地図を、先に手元に持っていただくための記事です。

12-2. 非上場株式評価の基本

事業承継の中心となる「自社株式の評価」を理解するための記事です。

取引相場のない株式は、株式を取得する株主が同族株主等かどうかによって、原則的評価方式または配当還元方式により評価されます。原則的評価方式では、会社規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、あるいは両者の併用方式が用いられます。
出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

このコラムで行うのは、個別の評価額の算定ではありません。株価がどの要素で動くのか、同族株主・少数株主・会社規模・純資産・利益・配当が、それぞれどのように評価へ影響するのかを整理します。

「自社株が高いと言われたが、何が原因なのか分からない」「相続税評価額とM&A価格の違いが分からない」「自己株式取得や従業員への株式譲渡で、どの時価を見ればよいか不安がある」。そうした方にとって、土台となる基礎記事です。

12-3. 贈与・相続・法人税務が交差する承継論点

事業承継では、個人側の贈与税・相続税だけでなく、法人側の処理が大きく影響してきます。

たとえば、先代経営者に役員退職金を支給すれば、法人側では損金算入や資金流出が問題になり、個人側では退職所得や相続財産の構成が変わります。オーナー貸付金を放棄すれば、会社側では債務免除益が問題になり、株価上昇によるみなし贈与リスクも検討しなければなりません。自己株式取得や配当もまた、法人税務と株主課税の両方に影響します。

このコラムでは、承継対策として行われる法人側の処理が、株主側の課税や株価にどう波及していくのかを整理します。

「相続税対策として、会社側で何か処理をすればよい」。そう単純に考えている場合ほど、先に読んでおいていただきたい記事です。

12-4. 法人版事業承継税制の基本と注意点

法人版事業承継税制を使うべきかどうかを検討するための記事です。

この制度は、円滑化法に基づく認定を受けた非上場会社の株式等を、後継者が贈与・相続等により取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等によって猶予税額の納付が免除されるというものです。特例措置は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの措置とされています。
出典:国税庁|事業承継税制特集

また、特例措置の適用を受けるには、令和9年9月30日までに特例承継計画を都道府県庁へ提出し、確認を受ける必要があります。特例承継計画には、後継者、承継予定時期、承継前後の経営見通し、承継後5年間の事業計画等を記載し、認定経営革新等支援機関による指導・助言を受けなければなりません。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

このコラムでは、事業承継税制を「使えるかどうか」だけで捉えるのではなく、使った後にどのような継続管理が必要になるのか、将来の売却・廃業・組織再編にどのような制約が生じるのかまでを整理します。

税負担の軽減効果だけを見て判断するのではなく、後継者が長期にわたって制度要件を管理していけるのかを確認したい。そうお考えの場合に読んでいただきたい記事です。

12-5. 株主構成と経営権を整える資本政策

承継後の経営権を安定させるための記事です。

事業承継で問われるのは、株価や税額だけではありません。誰がどれだけ議決権を持つのか。ここが重要な意味を持ちます。株式が親族に分散している、少数株主がいる、名義株の疑いがある、相続によってさらに分散する可能性がある。こうした状況では、後継者が代表取締役に就いても、重要な意思決定を安定して行えないことがあります。

このコラムでは、株主構成、議決権、自己株式、譲渡制限、相続人に対する売渡請求、株主間契約などを、法人税務と会社支配の接点から整理します。

「後継者に株を渡すこと」と「後継者が会社を安定して経営できること」は、同じではありません。承継後の経営権に不安がある場合、このコラムを読むことで、株主構成をどの視点から見直すべきかが見えてきます。

12-6. 種類株式・持株会社・一般社団法人等の承継活用

高度な承継スキームを検討する前に、目を通しておいていただきたい記事です。

種類株式、持株会社、一般社団法人、信託といった手法は、支配権と財産権を分ける、株式を集約する、後継者へ経営権を移すといった目的で検討されることがあります。うまく設計できれば、承継上の課題整理に役立つ場合もあります。

一方で、これらの手法を、税負担を下げるための形式的なスキームとして使ってしまえば、時価、経済合理性、みなし贈与、同族会社の行為計算否認、将来のM&A対応といったリスクが問題になります。

このコラムで行うのは、特定のスキームの推奨ではありません。種類株式や持株会社等を検討する際に、何を目的として使うのか、どの資料を整えるべきか、どこで専門家の判断が必要になるのかを整理します。

「提案を受けた承継スキームは、本当に自社に合っているのだろうか」「節税効果だけで判断してよいのだろうか」。そう感じている方に向けた、注意点の記事です。

12-7. 事業承継におけるM&A・組織再編の活用

親族内承継以外の選択肢を整理する記事です。

後継者が親族内にいない場合、従業員承継や第三者承継、M&A、会社分割、持株会社化、グループ内再編が選択肢になることがあります。中小企業庁も、中小M&Aガイドライン第3版や中小PMIガイドラインなど、第三者承継・M&Aに関する資料を公表しています。
出典:中小企業庁|事業承継

このコラムでは、親族内承継、従業員承継、第三者承継、M&A、会社分割、持株会社化を、承継手段として比較するための視点を整理します。

ここで大切なのは、「売るか、継がせるか」という二択で考えないことです。事業の一部を切り出す、グループ内で再編する、後継者候補に段階的に経営を移す、M&Aを承継の出口として準備しておく。こうした複数の選択肢を残せる状態に、会社を整えておくことが重要になります。

M&A仲介の実務や個別スキームの詳細ではなく、法人税務・組織再編税制・株主構成の観点から、承継の選択肢を広く捉えるための記事です。

12-8. 事業承継前に整理すべき法人税務・株主資料

テーマの最後に読んでいただく、相談前整理の記事です。

承継の相談は、最初から「どの方法がよいか」を決めるところから始まるものではありません。株主名簿、法人税申告書、決算書、貸付金、役員退職金、株価資料、定款、議事録。これらが整理されて初めて、承継方法を比較できる状態になります。

このコラムでは、専門家へ相談する前に会社側で準備しておくべき資料と、その資料がどの判断に使われるのかを整理します。

「何から準備すればよいか分からない」「顧問税理士や金融機関に相談する前に、自社の状況を把握しておきたい」「過去の株式異動やオーナー貸付金が整理できていない」。そうした会社は、12-8を先に読むことで、承継相談の入口をつくることができます。

第12テーマと他テーマとのつながり

第12テーマは、単独で完結するテーマではありません。事業承継は、シリーズ内の複数のテーマと密接につながっています。

まず、第11テーマ「資本等取引・みなし配当・自己株式・オーナー貸付金」との関係です。自己株式取得、資本払戻し、みなし配当、DES、債権放棄、オーナー貸付金は、事業承継の場面で頻繁に問題になります。第12テーマでは承継目的での使い方を扱い、第11テーマでは税務処理そのものを深掘りします。

次に、第9テーマ「組織再編税制」と第10テーマ「M&A税務」との関係です。持株会社化、会社分割、株式交換等、承継M&Aを検討する場合には、適格要件、時価課税、繰越欠損金、税務DD、契約上の税務リスクを確認していく必要があります。

さらに、第16テーマ「税務上の時価・否認リスク」ともつながります。非上場株式や不動産を親族・同族会社・関係会社間で移転する場合、その価格の妥当性と経済合理性を、後から説明できるかどうかが問われます。

最後に、第18テーマ「税務判断の品質管理・資料管理・相談前整理」との接続です。承継の判断は、一度の申告で終わるものではありません。数年後、十数年後に、後継者、株主、税務署、金融機関、M&Aの相手先へ説明する場面が訪れる可能性があります。判断の過程を会社に残しておくことが、承継後の会社を守ることにつながります。

事業承継で早めに専門家へ相談すべき場面

事業承継には、まだ具体的な贈与や相続が発生していない段階であっても、早めに整理しておいた方がよい論点が数多くあります。

たとえば、株式が親族や少数株主に分散している場合。承継の直前になってから集約しようとしても、価格、合意、資金、税務処理の面で、時間が足りないという事態になりかねません。

オーナー貸付金が多額に残っている場合も同様です。相続発生後に、相続人と会社との間で債権債務関係が残り、後継者の経営を妨げる要因になることがあります。

役員退職金を検討する場合には、退職の事実、金額の相当性、支給手続、資金繰り、株価への影響を、事前に整理しておく必要があります。

事業承継税制を検討する場合であれば、特例承継計画の提出期限、都道府県知事の認定、継続届出、年次報告、担保、そして将来の打切りリスクまで管理していかなければなりません。制度を使うかどうかは、税額だけの問題ではなく、後継者がその管理を引き受けられるかという経営判断でもあります。

M&Aや組織再編を承継の選択肢に入れる場合は、過去の税務申告、株主構成、契約、許認可、従業員、金融機関対応、経営者保証まで確認が必要になります。

こうした論点を抱えている会社では、「承継すると決めてから相談する」のではなく、「どの選択肢を残せるか」を確認する段階で相談することが重要です。

このテーマのゴール

第12テーマのゴールは、読者の皆さまが「自社の事業承継で何を検討すべきか」を把握できる状態になることです。

この記事群を読み進めることで、次のような整理ができるようになります。

  • 自社の承継が、親族内承継、従業員承継、第三者承継、M&A、組織再編のどの方向に近いのか
  • 非上場株式評価のどの要素が、自社の株価に影響しているのか
  • 役員退職金、貸付金、自己株式、債権放棄が、承継にどう影響するのか
  • 事業承継税制を検討する前に、何を確認すべきか
  • 株主構成や定款を、どのように見直す必要があるのか
  • 承継相談の前に、どの資料を整えるべきか
  • 短期的な税負担だけでなく、後継者経営、金融機関説明、将来のM&Aや再編の選択肢を、どう守るべきか

事業承継に唯一の正解はありません。しかし、判断に必要な前提を整理しないまま進めてしまうことは、できてしまいます。むしろ、そうした進め方こそが、後から大きなリスクになるのです。

このテーマで重視しているのは、制度の名称を覚えることではありません。自社の承継判断について、専門家と対話できる水準まで引き上げていただくことです。

ご相談について

事業承継は、税務・会計・株主構成・資本政策・相続贈与・M&A・組織再編が重なり合う領域です。

自社株評価だけを見ていても、会社全体の承継設計はできません。事業承継税制だけを見ていても、後継者が安定して経営できるとは限りません。株主構成を整えないまま株式を移せば、将来の意思決定に支障が出ることもあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継を単なる節税策としてではなく、後継者が引き継げる会社を整えるための法人税務・株主構成・財務資料の整理として支援しています。

非上場株式評価、役員退職金、オーナー貸付金、自己株式、事業承継税制、持株会社化、M&A・組織再編まで含めて、自社の承継論点を一度整理しておきたい。そうお考えの場合は、お問い合わせページよりご相談ください。

重要事項の振り返り

項目振り返り
第12テーマの位置づけ事業承継を、相続税対策ではなく、法人税務・株主構成・経営権・後継者への引継ぎを含む経営判断として整理するテーマ
最初に読む記事12-1で全体像を確認し、承継が会社の税務状態の引継ぎであることを理解する
株価の理解12-2で非上場株式評価の基本を確認し、株価がどの要素で動くかを把握する
税目横断の論点12-3で役員退職金、貸付金、自己株式、配当などが法人側・株主側双方に与える影響を整理する
事業承継税制12-4で納税猶予制度のメリットだけでなく、計画提出、認定、継続届出、打切りリスクを確認する
株主構成12-5で後継者が安定して経営できる議決権構成になっているかを確認する
高度な承継スキーム12-6で種類株式、持株会社、信託等を検討する際の目的・資料・リスクを整理する
M&A・組織再編12-7で親族内承継以外の選択肢を税務面から確認する
相談前整理12-8で株主名簿、申告書、決算書、貸付金、役員退職金、株価資料、定款、議事録を整える
他テーマとの関係第11テーマの資本等取引、第9・10テーマの再編・M&A、第16テーマの時価、第18テーマの資料管理とつながる
相談すべきタイミング承継方法を決めてからではなく、どの選択肢を残せるかを確認する段階で相談することが重要