MS法人・関係事業者取引をどう管理するか|医療法人の非営利性・税務調査・説明責任の実務ポイント

医療法人の運営では、MS法人や親族会社、理事長・役員の関係会社、あるいは役員やその近親者との間で、さまざまな取引が生じます。

不動産の賃貸、医療事務の委託、経理・給与計算の委託、清掃、医療機器のリース、診療材料の仕入、売店の運営、サプリメントや化粧品の販売、コンサルティング、金銭の貸借など、その内容は多岐にわたります。

こうした取引は、それ自体が直ちに否定されるものではありません。診療に集中するために周辺業務を別法人へ委託することには、相応の合理性が認められる場面もあります。土地建物を親族会社から借りている、医療機器を別会社が保有している、事務作業を外部に委託している——こうしたケースは、実務ではむしろ珍しくないものです。

ただし、MS法人や関係事業者取引を「節税策」としてだけ捉えてしまうと、医療法人経営においては大きなリスクにつながります。

医療法人は、株式会社とは異なり、非営利性を前提とする法人です。医療法上、剰余金の配当は禁じられており、社員等への分配はもちろん、事実上の利益分配とみなされる行為も「配当類似行為」として問題になり得ます。たとえば、近隣相場と比べて著しく高額な賃借料、病院等の収入に応じた定率賃借料、役員等への不当な利益供与などは、注意すべき典型例といえます。
出典:厚生労働省|医療法人の剰余金の使途の明確化について

本稿では、MS法人・関係事業者取引を、単なる税務処理としてではなく、医療法人のガバナンス、非営利性、内部統制、税務調査、そして承継・M&Aに耐えうる説明責任という観点から整理していきます。

なお、本稿は2026年5月29日時点で確認できる公的情報等を前提としています。実際の判断にあたっては、最新の医療法、医療法施行規則、厚生労働省の通知、所管庁の手引、そして個別の契約内容や法人の実態を、必ずご確認ください。

目次

MS法人は「使えば節税になる箱」ではない

MS法人とは、一般に「メディカルサービス法人」と呼ばれるもので、医療法人やクリニックの周辺業務を担う株式会社・合同会社・有限会社などを指す、実務上の呼称です。医療法上「MS法人」という法人類型が定められているわけではありません。

実務でMS法人が関与しやすい取引には、次のようなものがあります。

取引類型内容
不動産賃貸診療所建物、土地、駐車場、職員宿舎などの賃貸
医療機器・備品リース医療機器、什器備品、車両、IT機器などの貸付
業務委託医療事務、経理、給与計算、清掃、受付補助、広報、採用支援
仕入・販売診療材料、医薬品周辺商品、物販品、サプリメント等の仕入・販売
経営管理支援コンサルティング、管理料、システム利用料、本部費
金銭貸借医療法人とMS法人、役員、親族会社間の貸付・借入
人材関連派遣、出向、人件費負担、給与計算、採用関連業務

不動産賃貸、コンサルティング、清掃、医療事務代行、経理事務委託、給与計算事務委託、売店、化粧品・サプリメント販売、メディカルフィットネスクラブの運営など、MS法人との取引の形は実に幅広いものです。そして、いずれの取引においても、契約書の整備、金額の算定根拠、MS法人側の原価・費用の確認が欠かせません。

ここで何より大切なのは、MS法人を「医療法人から資金を移すための器」として見ないことです。

医療法人からMS法人へ支払う委託料や賃借料、リース料、手数料が、実態に比べて過大であれば、医療法人の利益はそのまま外部へ流出します。さらに、MS法人の株主や役員が理事長本人やその配偶者、親族であれば、その流出は実質的な利益分配と評価されかねません。

税務上の損金になるかどうかだけを見ていては、不十分なのです。

医療法上の非営利性、関係事業者取引の報告、利益相反、理事会の承認、税務調査、そして将来の承継・M&Aにおける説明可能性まで含めて、一体で管理していく必要があります。

関係事業者取引は、事業報告書等の一部として見られる

医療法人は、毎会計年度の終了後、事業報告書等を都道府県知事へ届け出なければなりません。届出の期限は会計年度終了後3か月以内とされており、あわせて経営情報等の報告も義務づけられています。
出典:厚生労働省|医療法人に関する情報の調査及び分析等について

このうち「関係事業者との取引の状況に関する報告書」は、一定の関係者との一定規模以上の取引について、事業報告書等の一部として提出するものです。記載が求められるのは、関係事業者ごとの情報、医療法人との関係、取引内容、種類別の取引金額、取引条件とその決定方針、債権債務の期末残高、取引条件の変更内容と計算書類への影響など。この報告書も、会計年度終了後3か月以内に所管庁へ届け出ることとされています。
出典:厚生労働省|医療法人の計算に関する事項について

報告書の対象となる取引相手は、たとえば大阪府の案内では、医療法人の役員またはその近親者、役員・近親者が代表者である法人、役員・近親者が議決権の過半数を占める法人などと整理されています。対象取引についても、事業収益・事業費用、事業外収益・費用、特別利益・損失、資産・負債残高、資金貸借や固定資産・有価証券の売買、事業の譲受・譲渡などが挙げられ、それぞれに金額基準と、総資産・収益費用に対する比率基準が設けられています。
出典:大阪府|決算書(事業報告書等)の届出

ここで誤解してはならないのは、「報告書の対象にならない小規模な取引なら問題ない」というわけではない、という点です。

報告の対象範囲は、あくまで行政報告上の基準にすぎません。

税務調査、理事会の承認、非営利性、利益相反、承継・M&Aといった場面では、金額が報告基準を下回っていても、取引の実態や価格の合理性が問われることがあります。

とりわけ、毎月継続する委託料、長期にわたる不動産賃貸、役員・親族への貸付、医療法人の主要業務を実質的に担う会社への支払いなどは、金額の大小だけでなく、経営上の依存度や説明可能性まで含めて確認しておくべきでしょう。

MS法人・関係事業者取引で最初に確認すべきこと

MS法人・関係事業者取引を管理するうえで、最初に見るべきなのは「節税効果」ではありません。

確認すべきは、次の5つです。

確認項目見るべき内容
誰との取引か役員、近親者、親族会社、同族会社、議決権関係、役員兼務
何の取引か不動産、リース、業務委託、仕入、金銭貸借、人材、管理料
なぜその会社に委託するのか外部委託の合理性、専門性、コスト、医療法人側の必要性
金額は妥当か市場価格、近隣相場、同業他社比較、原価、業務量、利益率
証拠は残っているか契約書、見積書、請求書、業務報告、稟議、理事会議事録、支払履歴

この5つを説明できない取引は、どれほど税務処理が整っていても、経営管理上は不安が残ります。

医療法人とMS法人の間の取引は、契約書に基づく合理性と妥当性がなければ、取引そのものを否定されてしまう可能性があります。医薬品等の仕入や医療機器リースにおける手数料の適正性は慎重に判断すべきですし、医療法人の仕事を担う者にMS法人から給与が支払われている場合にも、それを正当化する理由が求められます。税務調査では、MS法人との取引の合理性・妥当性を示す書類が、何より重要になります。

つまり、MS法人取引の管理とは「会計入力」のことではなく、「その取引が存在する理由を、いつでも説明できる状態にしておくこと」なのです。

不動産賃貸は、もっとも問題化しやすい

MS法人・関係事業者取引のなかでも、不動産賃貸はとりわけ注意が必要な領域です。

診療所の建物や土地を、理事長個人や配偶者、親族会社、MS法人から借りているケースは少なくありません。開業時からその形になっていた、法人化の際に不動産は個人や親族会社に残した、相続対策として不動産会社を設立した——そうした経緯もよく見られます。

問題となるのは、賃借料の金額と、その決定方法です。

確認したいのは、次のような点です。

  • 近隣相場と比べて高すぎないか
  • 契約期間や更新条件が、通常の取引と比べて不自然でないか
  • 賃料が医業収入に連動していないか
  • 敷金・保証金・更新料が過大でないか
  • 修繕費や内装費を、どちらが負担する契約になっているか
  • 実際の使用面積、駐車場、共用部分の扱いが明確か

公的な整理においても、近隣の土地建物の賃借料と比べて著しく高額な賃料の設定や、病院等の収入に応じた定率賃料の設定は、配当類似行為の例として示されています。
出典:厚生労働省|医療法人の剰余金の使途の明確化について

不動産賃貸で大切なのは、「毎月払っているから正しい」ではなく、「なぜその金額なのか」を説明できることです。

賃料相場の資料、不動産鑑定や簡易査定、近隣類似物件との比較、固定資産税評価、契約時の稟議、理事会の議事録——こうした記録を残しておきましょう。更新の際にも、少なくとも定期的に賃料水準を見直す体制を整えておく必要があります。

業務委託料・管理料は、実態と成果物が問われる

医療事務、経理、給与計算、清掃、広報、採用、コンサルティング、本部管理といった業務委託料も、MS法人取引でよく見られるものです。

この場合に問われるのは、次のような点です。

  • 本当に業務を行っているか
  • 誰が、いつ、どの業務を担当しているか
  • 医療法人側の職員と役割が重複していないか
  • 業務量に対して委託料が過大でないか
  • 委託料の算定方法が明確か
  • 業務報告書、成果物、作業時間の記録があるか
  • 再委託がある場合、その内容と費用が整理されているか

とくに「経営指導料」「管理料」「本部費」「コンサルティング料」といった名目は、内容が抽象的になりがちです。

抽象的な名目のまま毎月定額で支払っていると、後になって説明することが難しくなります。

経営指導料であれば、経営会議の資料、予実管理資料、資金繰り表、採用施策、広報改善資料、分院検討資料など、具体的な成果物との対応関係を示す必要があります。

経理委託料であれば、入力件数、月次の締め日、試算表の作成、決算補助、支払管理、証憑確認の範囲を明らかにします。

給与計算委託料であれば、対象人数、勤怠確認、給与明細、社会保険手続との分担を整理しておきます。

「親族会社だから、説明しなくても分かるだろう」という発想は危険です。

親族の間では分かっていても、税務署、行政、金融機関、後継者、買い手には伝わりません。

リース・医療機器取引は、購入価格・料率・所有者を整理する

医療機器やIT機器をMS法人が保有し、医療法人へリースする形もあります。

この場合に確認したいのは、次の点です。

  • MS法人が本当に機器を取得しているか
  • 取得価額、契約書、請求書、支払証憑がそろっているか
  • 医療法人が直接購入した場合と比べて、リース料が過大でないか
  • リース期間が、機器の耐用年数や更新サイクルと整合しているか
  • 保守費、修繕費、保険料、固定資産税・償却資産税の負担者は誰か
  • 中途解約、買替、除却時の処理はどうなるか
  • 医療法人側の会計処理、税務処理、資金繰りへの影響が整理されているか

医療機器の取引は、税務だけでなく、投資判断そのものに関わります。

医療法人が直接購入するのか、金融機関からの借入で取得するのか、リース会社からリースを受けるのか、それともMS法人を介すのか。

どの形を選ぶにしても、税務上の見え方だけでなく、資金繰り、更新サイクル、採算、契約条件、そして承継時の扱いまで含めて比較すべきです。

MS法人を介した場合だけ説明が薄い、という状態は避けなければなりません。

金銭貸借は、最も説明が難しくなる取引の一つ

医療法人とMS法人、理事長、親族会社との間で金銭貸借が生じている場合は、とりわけ慎重に確認する必要があります。

  • 貸付契約書があるか
  • 利率が、市場金利や金融機関の借入条件と比べて合理的か
  • 返済期限と返済実績があるか
  • 長期間にわたって未返済になっていないか
  • 追加の貸付が繰り返されていないか
  • 返済能力のある相手なのか
  • 利息を未収計上しているか
  • 回収不能となった場合の会計・税務処理をどうするか

医療法人とMS法人の間では、貸付金の利率や返済条件が、市場金利や医療法人の資金調達状況と比べて合理的であることが重要です。

金銭貸借は、単なる資金の移動ではありません。

医療法人の資金を外部へ移す行為であり、医療法人の資産保全に直結します。

医療法人が金融機関から借入をしている一方で、MS法人や理事長・親族会社へ貸付を行っている場合には、金融機関から資金使途や返済原資について説明を求められることもあります。

税務調査では、利息の有無、返済の意思、そして実質的に役員給与・寄附・利益供与ではないか、といった点が問題になります。

承継・M&Aでは、回収可能性、純資産の調整、価格の調整、表明保証の対象となります。

「一時的な立替」のつもりでも、長期化すればそれは貸付金です。

月次で残高を確認し、返済計画を作っておく必要があります。

役員兼務は「絶対禁止」ではなくても、慎重な確認が必要

医療法人の理事長や理事が、MS法人の役員を兼務している場合、非営利性や利益相反の観点から慎重な確認が求められます。

医療法人運営管理指導要綱では、医療法人と関係のある特定の営利法人の役員が理事長に就任したり、役員として参画したりすることは、非営利性という観点から適当でないとされています。
出典:厚生労働省|医療法人運営管理指導要綱

一方で、医療法人と他の法人の役職員を兼務しても問題ないと考えられる範囲を明確化する趣旨で、既往の通知が改正されています。そこでは、開設・経営上の利害関係にある営利法人等の役職員を原則として兼務していないこととしつつ、医療機関の非営利性に影響を与えない場合などには、例外として取り扱える旨が示されています。
出典:厚生労働省|医療法人の役員と営利法人の役職員の兼務について

そこで実務上は、次のように考えるとよいでしょう。

  • 兼務しているかどうか
  • 兼務先は、医療法人と取引関係があるか
  • 取引金額は大きいか
  • 医療法人の意思決定に影響を与える立場か
  • MS法人側の利益を優先する構造になっていないか
  • 理事会で利益相反取引として承認しているか
  • 当該理事を議決から外しているか
  • 監事が内容を把握しているか

医療法人の役員と、MS法人など経営上の利害関係にある営利法人等の役職員を兼務しようとする場合には、通知が定める例外要件を満たしているかどうかを確認することが、チェックリスト上も求められています。
出典:厚生労働省|医療法人の適正な運営に関するチェックリスト

役員兼務は、形式だけでなく、実質が重要です。

名前だけMS法人の役員になっている場合も、実際に意思決定へ関与している場合も、いずれも整理が必要です。

理事会・監事の関与を「実務で機能する形」にする

MS法人・関係事業者取引は、院長や理事長だけで判断して終わらせるべきものではありません。

医療法人としての意思決定と監督が必要です。

とくに、次のような取引は、理事会の承認や稟議の対象とすべきです。

  • 高額な不動産賃貸契約
  • 長期のリース契約
  • MS法人への業務委託契約
  • 親族会社との継続取引
  • 役員・親族への貸付
  • 医療法人の主要業務をMS法人へ委託する取引
  • 取引条件の変更
  • 契約の更新
  • 債権放棄、返済猶予、条件変更

理事会は、法人の業務執行を決定し、理事の職務執行を監督し、競業・利益相反取引を承認する権限を持つ機関です。理事は善管注意義務と忠実義務を負い、法人に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときには、監事へ報告しなければなりません。

ただし、小規模な医療法人で、理事会を大企業の取締役会のように重く運用することは、現実的ではありません。

大切なのは、実務で機能する最低限の仕組みを作ることです。

たとえば、次のような運用が考えられます。

  • 毎年1回、MS法人・関係事業者取引の一覧を理事会で確認する
  • 新規契約・契約更新・金額変更は、稟議または理事会承認を必要とする
  • 一定金額以上の取引には、相見積や相場資料を添付する
  • 利益相反のある理事は、決議に加わらない
  • 監事へ、契約書・請求書・支払実績・残高一覧を共有する
  • 決算時に、関係事業者取引報告書との整合性を確認する

この程度の運用でも、属人的な取引から、説明できる取引へと大きく変わります。

取引条件は、定期的に見直す

MS法人・関係事業者取引でよくある問題は、設立時や法人化時に決めた条件を、そのまま何年も放置してしまうことです。

  • 10年前の賃料
  • 開業時のリース料
  • 業務量が変わったのに、同じままの委託料
  • スタッフ数が減ったのに、同じままの給与計算委託料
  • 医療法人の売上が増えたからと、根拠なく管理料だけを上げた
  • 金利環境が変わったのに、貸付金利を見直していない

取引条件は、一度決めたら終わり、というものではありません。

市況、業務量、資産価値、金利、物価、人件費、診療報酬、そして医療法人側の利用実態に応じて、定期的に見直すべきです。

取引条件は、正当な理由なく変更すべきではありません。そのうえで、現行の条件が適切かどうかを、可能であれば年に一度、少なくとも3年に一度は検討することが望まれます。仕入・販売価格、決済条件、貸付金利、不動産賃料、派遣職員の人件費、事務委託料などの適正性を、あらためて確認していきます。

見直しは、単に金額を下げるためのものではありません。

合理的な理由があれば、金額が上がることもあります。

大切なのは、変更の理由を記録しておくことです。相場資料、業務量、物価、人件費、契約条件、理事会議事録、稟議書を残し、後から「なぜその金額になったのか」を説明できるようにしておきましょう。

税務調査では「名目」より「実態」が見られる

MS法人取引は、税務調査で論点になりやすい領域です。

税務調査で確認されるのは、請求書の有無だけではありません。

  • 実際に役務の提供があったか
  • 契約内容と実態が一致しているか
  • 金額が過大でないか
  • 役員給与や賞与を、別の名目で支払っていないか
  • 医療法人の経費に、理事長個人の費用が混ざっていないか
  • MS法人側に、売上の計上と原価・人件費があるか
  • 親族への所得移転になっていないか
  • 消費税の課税・非課税の判断が正しいか
  • 源泉徴収、給与課税、外注費処理に誤りがないか

たとえば、医療法人の業務を担うスタッフに、MS法人から給与が支払われている場合には、医療法人側の人件費逃れ、役務提供の実態の不明確さ、社会保険・源泉徴収、消費税、労務管理の問題が、いくつも重なってきます。

また、MS法人への支払いが実質的に役員報酬であれば、法人税法上の役員給与規制、源泉徴収、社会保険、医療法人の決議手続、利益相反取引が、連動して問題になります。

「契約書があるから大丈夫」ではありません。

契約書、実態、金額、成果物、支払、会計処理、税務処理——これらが一貫していることが重要です。

関係事業者取引報告書と会計注記・決算資料をつなげる

一定規模以上の医療法人や、医療法人会計基準の適用対象となる法人では、関係事業者との取引に関する注記も重要になります。

関係事業者との取引については、取引条件、その決定方針、債権債務の残高、取引条件変更の影響などを、関係事業者ごとに記載することが求められます。医療法人会計基準を適用している場合には、関係事業者に関する注記例と同一の様式である旨も示されています。
出典:厚生労働省|医療法人の計算に関する事項について

このとき、決算書、総勘定元帳、補助元帳、契約書、請求書、支払明細、そして関係事業者取引報告書の数字が、互いに一致している必要があります。

実務では、次のようなズレが起こりがちです。

  • 会計上は「支払手数料」だが、報告書では「業務委託料」としている
  • 補助科目がなく、MS法人別の金額がすぐに出てこない
  • 期末残高が、元帳と報告書で一致しない
  • 契約書では月額50万円だが、実際には毎月金額が変動している
  • 取引条件の決定方針が書けない
  • 取引条件の変更があったのに、議事録や稟議が残っていない

関係事業者取引報告書は、決算後に作る「別紙」ではありません。

日々の会計処理、勘定科目、補助科目、契約管理、理事会承認と、ひと続きにつながっているものです。

承継・M&Aでは、MS法人取引が価格と条件に影響する

MS法人・関係事業者取引は、承継・M&Aで必ず確認されます。

買い手や後継者は、過去の取引を引き継ぐ立場になるからです。

そのため、次の点が確認されます。

  • MS法人は譲渡対象に含まれるのか
  • 医療法人だけを承継するのか、MS法人も一緒に承継するのか
  • 不動産の所有者は誰か
  • 医療法人が、診療所を継続して利用できる契約か
  • MS法人への委託料を、承継後も支払う必要があるか
  • 理事長・親族会社への貸付金は回収できるか
  • MS法人を外すと、医療法人の実態損益はどう変わるか
  • 取引価格が、正常収益力に与える影響はどの程度か
  • 税務リスク、利益相反リスク、非営利性リスクはあるか

MS法人取引が不透明な医療法人では、譲渡価格の調整、表明保証、補償条項、クロージング条件に影響が及ぶことがあります。

たとえば、MS法人への委託料が過大であれば、正常収益力を修正する必要があります。親族会社への貸付金が回収困難であれば、純資産から控除される可能性があります。不動産賃貸契約が短期で、承継後の利用継続が不安定であれば、事業継続リスクとなります。

MS法人取引を整えておくことは、将来の承継可能性を高めることにもつながります。

実務で整えるべき管理資料

MS法人・関係事業者取引を管理するには、次の資料を整えておくことが有効です。

資料確認すべき内容
関係事業者一覧役員、近親者、親族会社、議決権関係、役員兼務
取引一覧取引先、取引内容、金額、頻度、契約期間、担当者
契約書・覚書役務内容、金額、期間、解約、更新、責任範囲
価格算定根拠相見積、相場資料、原価、業務量、料率、近隣賃料
業務報告書委託業務の実施内容、成果物、作業時間、担当者
請求書・支払証憑請求内容、支払日、支払先、会計処理との一致
補助元帳MS法人別・取引別の金額と期末残高
理事会議事録新規契約、更新、条件変更、利益相反承認
稟議書取引理由、比較検討、承認者、添付資料
関係事業者取引報告書取引内容、金額、条件、残高、変更内容
税務判断メモ法人税、消費税、源泉所得税、役員給与、寄附金等
承継・M&A用整理表譲渡対象、継続条件、正常収益力、リスク

この一覧を毎年更新するだけでも、管理の水準は大きく上がります。

なかでも、関係事業者一覧は重要です。

誰が役員で、誰が近親者なのか、どの会社の代表者・株主・役員なのかを把握していなければ、関係事業者取引を漏れなく管理することはできません。

まず着手すべき優先順位

MS法人・関係事業者取引が複数ある場合、すべてを一度に完璧へ整える必要はありません。

優先順位をつけて対応していくのが、現実的です。

第一に、金額の大きい取引を確認します。不動産賃貸、医療機器リース、業務委託料、本部管理料、金銭貸借は、優先度の高い領域です。

第二に、理事長・親族・役員兼務が関わる取引を確認します。金額が小さくても、非営利性・利益相反の観点から説明が必要になるからです。

第三に、契約書のない取引を洗い出します。継続取引でありながら契約書がない場合は、内容、金額、期間、責任範囲を文書化します。

第四に、価格根拠のない取引を確認します。相場、業務量、原価、見積書、近隣賃料など、合理的な根拠を整理します。

第五に、理事会・監事への報告体制を作ります。新規契約、更新、金額変更、債権放棄、返済猶予などは、議事録に残る形で承認します。

第六に、会計処理と報告書をつなげます。勘定科目、補助科目、元帳、関係事業者取引報告書、注記が、互いに一致するよう整えます。

この順番で進めれば、現場の負担を抑えながら、重要なリスクから順に整備していくことができます。

まとめ:MS法人取引は「節税」ではなく「説明責任」で管理する

MS法人や関係事業者取引は、医療法人経営において、便利な仕組みになり得ます。

周辺業務を切り出すことで、診療に集中できることもあります。不動産管理、事務管理、採用広報、物品販売などを、医療法人本体と分けて整理することに、経営上の意味がある場合もあります。

しかし、それはあくまで、適切に管理されていることが前提です。

実態のない委託料。相場より高い賃料。根拠の薄い管理料。返済されない貸付金。親族会社への利益移転。役員兼務による利益相反。契約書のない継続取引。理事会で承認されていない重要契約。関係事業者取引報告書と会計帳簿の不一致。

これらは、平常時には目立たなくても、税務調査、行政対応、金融機関の融資、承継、M&Aといった場面で、必ず表面化します。

MS法人・関係事業者取引は、「うまく使う」よりも前に、「後から説明できる形で管理する」ことが必要なのです。

その管理こそが、医療法人の非営利性を守り、税務リスクを抑え、将来の承継・M&Aの選択肢を広げる基盤になります。

守りの仕組みを整えることは、成長を止めることではありません。医療法人が次の投資、分院、在宅医療、そして承継へと進んでいくために、第三者へ説明できる経営管理を整えること——それが、この取り組みの本質です。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

MS法人・関係事業者取引の整理は、ただ契約書を作るだけでは足りません。

取引の実態、価格の根拠、税務処理、消費税、源泉徴収、役員給与、利益相反、理事会議事録、関係事業者取引報告書、決算書、資金繰り、そして承継・M&Aでの見え方まで、一体で確認していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療法人のMS法人・関係事業者取引について、短期的な節税ではなく、後から説明できる数字と資料を整えるという視点を大切にしています。

  • MS法人との取引が適正か確認したい
  • 親族会社への賃料や委託料の根拠を整理したい
  • 関係事業者取引報告書の対象取引を確認したい
  • 理事長・親族・MS法人間の貸付金や未収金を整理したい
  • 将来の承継・M&Aに備えて、取引関係を見直したい

こうした課題をお持ちの場合は、まず現在の契約書、関係会社一覧、役員名簿、直近3期分の決算書・総勘定元帳、関係事業者取引報告書、理事会議事録、支払明細を確認するところから始めると、整理が進めやすくなります。

医療法人を、感覚ではなく、数字と事実に基づいて説明できる状態へ整えたい——そのようにお考えの場合は、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

重要事項軽視すると起こる問題整えるべき視点
MS法人の位置づけ節税目的の資金移転と見られる周辺業務を担う合理性と実態を説明する
非営利性配当類似行為・特別利益供与と評価される医療法上の剰余金配当禁止を前提に判断する
関係事業者取引報告行政報告・会計注記・決算資料との不一致が起こる取引内容、金額、条件、残高、変更理由を整理する
不動産賃貸高額賃料・収入連動賃料が問題化する近隣相場、契約条件、修繕負担、更新根拠を残す
業務委託料・管理料実態のない支払い、過大委託料と見られる業務内容、成果物、作業量、算定根拠を明確にする
医療機器リース料率や取得価額が不透明になる取得証憑、リース条件、保守・修繕負担を整理する
金銭貸借返済不能、利益供与、寄附、役員給与と見られる契約書、利率、返済計画、残高管理を徹底する
役員兼務利益相反・非営利性の疑義が生じる兼務状況、例外要件、理事会承認、監事報告を確認する
理事会承認重要取引が属人的判断になる新規契約、更新、条件変更、利益相反を議事録に残す
取引条件の見直し古い条件が放置され、相場から乖離する年1回または少なくとも数年ごとに価格根拠を見直す
税務調査契約名目と実態の不一致を指摘される契約書、請求書、成果物、会計処理、税務判断を一貫させる
承継・M&A正常収益力、価格、表明保証、補償条項に影響するMS法人を含む取引関係を事前に棚卸しする

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