病院経営で最初に見るべき経営指標|病床稼働率・入院単価・費用構造・借入をどう読むか

病院経営を考えるとき、多くの方はまず売上や患者数に目を向けます。

たしかに、医業収益や患者数は欠かせない指標です。ただ、病院の場合は、診療所と同じように「外来患者数が増えた」「売上が伸びた」「黒字だった」という見方だけでは、経営の実態を正しくつかむことができません。

病院には、病床があります。病棟ごとの人員配置があります。そして、入院診療、外来診療、救急、手術、検査、リハビリ、地域連携、施設基準、医療機器、建物投資、借入返済といった要素が、複雑に絡み合っています。さらに、診療報酬制度によって、収益の取り方そのものが大きく左右されます。

ですから、病院経営で最初に見るべき数字は、単なる売上高ではありません。

最初に押さえておきたいのは、次の3つの層です。

1つ目は、病院がどれだけ稼働しているか。 2つ目は、その稼働が、どれだけ採算につながっているか。 3つ目は、その採算で、人件費・材料費・設備投資・借入返済を支えられるか。

病院の経営状態は、この3層を重ね合わせて見て、はじめて構造的に理解できるものだと考えています。

目次

病院経営を診療所と同じ指標だけで見てはいけない

診療所の経営では、外来患者数、診療単価、初診率、再診率、診療圏、人件費率などが、まず大切な入口になります。これらは病院でも無関係ではありません。

しかし病院では、外来患者数を増やすことが、そのまま経営改善につながるとは限りません。

外来は、入院につながる入口であると同時に、医師の時間を大きく使う部門でもあります。外来患者数が多くても、入院につながらず、医師・看護師・事務部門の負荷だけが増えているのであれば、経営上はむしろ課題が隠れている、というケースもあります。

また、病床稼働率が高くても、入院単価が低ければ収益は伸びません。逆に入院単価が高くても、平均在院日数や病棟機能が制度上求められる水準とずれていれば、将来の診療報酬改定や施設基準対応の場面でリスクになりかねません。

病院経営では、財務状況、利益率、給与費率、借入金比率といった財務指標に加えて、病床稼働率、平均在院日数、外来患者数、診療機能、地域連携といった臨床・運営面の指標を、あわせて見ていく必要があります。

最初に見るべき指標は「稼働」「採算」「財務安全性」に分ける

病院経営の数字は、たいへん多岐にわたります。すべてを一度に見ようとすると、かえって判断がぼやけてしまいます。

そこで、最初は次の順番で見ていくと、頭の中が整理しやすくなります。

まず、病床稼働率、入院患者数、外来患者数、平均在院日数などから、病院がどのように利用されているかを確認します。

次に、入院単価、外来単価、医業収益、給与費比率、材料費率、委託費率、減価償却費比率などから、その利用が利益につながっているかを確認します。

最後に、現預金、借入金、返済額、設備更新予定、自己資本、キャッシュ・フローから、その利益構造で将来の投資と返済に耐えられるかを確認します。

この順番を飛ばして、いきなり「赤字だから人件費を下げる」「稼働率が低いから病床を埋める」「借入が多いから投資を止める」と判断してしまうと、経営改善の方向そのものを誤ることがあります。

病院経営で大切なのは、数字を単独で見ることではありません。数字同士の関係を見ることです。

1. 病床稼働率|病院経営の入口になるが、単独では判断できない

病院経営で最初に確認したい指標の一つが、病床稼働率です。

病床稼働率は、病床がどれだけ使われているかを示す指標です。厚生労働省の病院報告では、月末病床利用率を「月末在院患者数 ÷ 月末病床数 × 100」として示しています。また同じ病院報告のなかで、平均在院日数についても、新入院患者数と退院患者数を用いた計算方法が示されています。
出典:厚生労働省|病院報告(令和8(2026)年2月分概数)

令和8(2026)年2月分概数によれば、病院全体の月末病床利用率は77.0%、一般病床は73.1%、療養病床は86.2%とされています。平均在院日数は、病院全体で25.3日、一般病床で15.7日、療養病床で111.8日です。
出典:厚生労働省|病院報告(令和8(2026)年2月分概数)

ただし、この全国平均を、そのまま自院の合格ラインにしてはいけません。

急性期病院、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病床、精神病床では、求められる稼働率や在院日数の意味合いがそれぞれ異なります。都市部と地方でも、紹介患者の流れ、救急受入れ、後方支援先、介護施設との連携状況には違いがあります。

病床稼働率を見るときは、少なくとも次のような問いを立ててみてください。

  • どの病棟の稼働率が下がっているのか
  • 稼働率の低下は、入院患者数の不足によるものか、それとも在院日数の短縮によるものか
  • 退院調整が進んだ結果なのか、紹介患者が減った結果なのか
  • 病床機能と地域ニーズが合っているのか
  • 稼働率を上げることで、本当に利益が改善するのか

病床稼働率は、たしかに重要です。しかし、稼働率だけを追いかけてしまうと、低単価の入院で病床を埋める、退院調整が遅れる、急性期らしい患者を受け入れられなくなる、といった別の問題を招くことがあります。

病床稼働率は、あくまで入口の指標です。次に必ず、入院単価と平均在院日数を見ていく必要があります。

2. 入院単価|稼働率とセットで見なければ意味がない

病院経営では、病床稼働率と入院単価を、セットで見ていきます。

入院単価は、一般に「入院診療収益 ÷ 入院延患者数」で把握します。病床稼働率が同じであっても、入院単価が違えば、収益力は大きく変わってきます。

たとえば、同じ100床で稼働率が80%の病院でも、入院単価が4万円の病院と6万円の病院とでは、収益構造はまったく異なります。さらに、同じ入院単価であっても、人件費、材料費、医薬品費、減価償却費が違えば、最終的に残る利益は変わってきます。

入院単価を見るときは、単価が高いか低いかだけでなく、なぜその単価になっているのかを確認することが大切です。

急性期患者が十分に入っているか。手術、検査、処置、リハビリの実施状況はどうか。DPC対象病院であれば、診療密度や効率性はどうか。地域包括ケア病棟であれば、受入患者と在宅復帰の流れはどうか。療養病床であれば、医療区分や患者構成はどうか。

このように見ていくと、入院単価は単なる収益指標ではないことが分かります。自院がどのような患者を受け入れ、どのような医療機能を担っているかを映し出す指標でもあるのです。

なお、本記事では、DPC、地域包括ケア病棟、施設基準の詳細までは踏み込みません。これらは、病院機能と診療報酬を結びつけて検討すべき、別のテーマだからです。ここではまず、病院経営の入口として、入院単価を病床稼働率と切り離して見てはいけない、という点を押さえておいてください。

3. 外来患者数|多ければよいとは限らない

病院経営では、外来患者数も重要な指標です。

ただし、病院の外来は、診療所の外来とは意味合いが異なります。病院外来には、入院につながる入口としての役割、専門外来としての役割、そして地域の診療所を支える役割があります。その一方で、外来が多すぎると、医師の時間を圧迫し、病棟管理、手術、救急、カンファレンス、地域連携に影響が及ぶこともあります。

厚生労働省の病院報告によれば、令和8(2026)年2月の病院における1日平均外来患者数は1,176,623人、1日平均在院患者数は1,163,667人とされています。
出典:厚生労働省|病院報告(令和8(2026)年2月分概数)

病院外来を見るときは、単に「患者数が多いか少ないか」ではなく、次のように分解して考えていきます。

  • 初診患者は増えているか
  • 紹介患者は増えているか
  • 逆紹介は進んでいるか
  • 外来から入院につながっているか
  • 慢性疾患の定期通院が、病院外来に過度に残っていないか
  • 医師の働き方や病棟運営に、悪影響が出ていないか

病院外来は、集患だけでなく、地域連携と病床運営の入口でもあります。

外来患者数が減っていても、紹介患者や入院につながる患者が増え、病床機能が明確になっているのであれば、必ずしも悪いとは限りません。反対に、外来患者数が増えていても、低単価で長時間を要し、入院や専門医療につながらない外来が増えているのであれば、経営改善には結びつきにくい場合があります。

4. 平均在院日数|短ければよい、長ければ悪いとは言えない

平均在院日数は、病床の回転と診療機能を見るための重要な指標です。

平均在院日数が長くなると、病床の回転は遅くなります。急性期病院では、在院日数が長期化すると、急性期病床としての機能や、診療報酬上の評価に影響する可能性があります。

しかし、平均在院日数を短縮すれば、必ず経営が改善するというわけでもありません。

退院を早めた結果、入院単価が下がることがあります。退院後の受け皿が不足している地域では、退院調整に時間がかかります。在宅医療、介護施設、回復期、慢性期との連携が弱ければ、病床回転だけを上げることはできません。患者構成によっては、一定の在院日数が、医療の質や安全性のために必要となる場合もあります。

ですから、平均在院日数は、病床稼働率、入院単価、新入院患者数、退院患者数、紹介・逆紹介、地域連携と、セットで見ていく必要があります。

平均在院日数だけを短縮目標にしてしまうと、現場に無理がかかります。逆に、在院日数が長くても、患者構成、病棟機能、地域での役割に合っているのであれば、単純に否定すべきものではありません。

経営者が見るべきなのは、「自院の病棟機能に照らして、在院日数が長すぎるのか、短すぎるのか」「在院日数の変化が、入院単価や病床稼働率にどう影響しているのか」という、その関係性です。

5. 給与費比率|病院経営の重心になる指標

病院経営で最も重い費用は、多くの場合、給与費です。

医師、看護師、薬剤師、リハビリ職、検査技師、放射線技師、医療事務、看護補助者、管理部門。病院は専門職の集合体であり、人件費をかけずに医療を提供することはできません。

第25回医療経済実態調査の概要によれば、一般病院全体の令和6年度における医業・介護収益に対する給与費の構成比率は56.2%、医療法人の一般病院では57.4%とされています。
出典:厚生労働省|第25回医療経済実態調査の概要(令和7年11月26日版)

給与費比率を見るときに注意したいのは、「高いから悪い」と単純に判断しないことです。

給与費比率が高くなる理由は、少なくとも次のように分かれます。

  • 人員数が多い
  • 給与水準が高い
  • 夜勤、救急、手術、重症患者対応など、必要な体制を維持している
  • 入院単価や外来単価が低く、収益が人件費に追いついていない
  • 病床稼働率が低く、人員体制に対して患者数が不足している
  • 委託から直雇用へ切り替えた影響が出ている
  • 診療報酬上の施設基準を維持するために、必要な配置を行っている

このように、給与費比率は人件費の問題であると同時に、収益力の問題でもあります。

同じ人件費でも、入院単価が上がれば、給与費比率は下がります。同じ給与水準でも、病床稼働率が下がれば、給与費比率は上がります。給与費比率だけを見て人員削減を考えるのではなく、診療機能、患者構成、稼働率、生産性、配置基準まで、あわせて確認する必要があります。

給与費は、削る対象であると同時に、医療の質を支える投資でもあります。病院経営では、この両面を分けて考えることが欠かせません。

6. 材料費率・医薬品費率|診療機能と収益構造を映す指標

病院の費用構造では、材料費や医薬品費も重要です。

第25回医療経済実態調査の概要によれば、一般病院全体の令和6年度における医業・介護収益に対する医薬品費は13.8%、診療材料費・医療消耗器具備品費は10.1%とされています。
出典:厚生労働省|第25回医療経済実態調査の概要(令和7年11月26日版)

材料費率が高い病院は、手術、検査、高度医療、院内処方、抗がん剤治療、カテーテル治療、整形外科手術などの影響を受けている可能性があります。

したがって、材料費率が高いからといって、直ちに無駄が多いとは言えません。重要なのは、材料費に見合う診療収益が上がっているか、そして診療科別・部門別に採算が取れているか、という点です。

確認しておきたい観点は、次のとおりです。

  • 診療科別に、材料費率を把握しているか
  • 医薬品、診療材料、医療消耗器具備品を分けて見ているか
  • 購入単価、使用量、廃棄、在庫、期限切れを管理しているか
  • 高額材料を使用する診療が、診療報酬上どの程度回収できているか
  • 薬価差益や購入条件を、部門別に把握しているか
  • 棚卸や購買管理が、現場任せになっていないか

材料費は、診療機能と直結する費用です。削減だけを目的にすると、医療の質に影響します。その一方で、購買管理、在庫管理、使用量管理を怠れば、利益を大きく圧迫してしまいます。

材料費率は、医療の内容と経営の採算をつなぐ指標だといえます。

7. 委託費比率|外注化された人件費として読む

病院では、清掃、給食、医事業務、検査、警備、設備管理、システム保守、人材派遣など、多くの業務が外部に委託されています。

第25回医療経済実態調査の概要によれば、一般病院全体の令和6年度における医業・介護収益に対する委託費は7.6%とされています。
出典:厚生労働省|第25回医療経済実態調査の概要(令和7年11月26日版)

委託費は、単なる外注費ではありません。実質的には、人件費的な性格を持つものも多く含まれています。

そのため、病院の費用構造を見るときは、給与費比率だけでなく、委託費比率もあわせて確認しておく必要があります。給与費比率は低く見えても、医事課、給食、清掃、設備管理、派遣人材などの委託費が大きければ、実質的な人件費負担は重い、というケースもあるからです。

委託費を見るときは、次の観点が重要になります。

  • 委託の目的が明確か
  • 直雇用よりも、本当に効率的か
  • 契約内容、単価、業務範囲、更新条件を把握しているか
  • 人材派遣や紹介手数料が、慢性的に増えていないか
  • 委託先任せになり、院内にノウハウが残らない状態になっていないか
  • 施設基準や診療報酬請求に関わる業務を、適切に管理できているか

病院経営では、給与費と委託費を別々に見るだけでは不十分です。人件費と外注費を合わせた「人を使うコスト」として捉えなければ、実態を見誤ってしまいます。

8. 経常利益率|赤字か黒字かではなく、再投資できる利益かを見る

病院経営では、医業利益、経常利益、当期純利益を、それぞれ分けて見ていく必要があります。

医業利益は、本業である医療提供から利益が出ているかを示します。経常利益は、本業に加えて、補助金、受取利息、支払利息など、通常の経常的な収益・費用を含めた利益です。当期純利益は、特別利益や特別損失、税金等も反映した、最終的な利益です。

病院経営で特に注意したいのは、「黒字か赤字か」だけで判断しないことです。

黒字であっても、借入返済、設備更新、賞与、退職給付、医療機器更新、建物修繕に必要な資金が残っていなければ、安全とは言えません。逆に、単年度が赤字であっても、それが構造的な赤字なのか、一時的な設備投資や特殊要因による赤字なのかで、意味はまったく違ってきます。

第25回医療経済実態調査の概要では、一般病院の損益率について、令和6年度の平均値がマイナスで推移していることが示されています。また同資料では、損益率を「医業・介護収益-医業・介護費用 ÷ 医業・介護収益」とし、総損益率についても定義しています。
出典:厚生労働省|第25回医療経済実態調査の概要(令和7年11月26日版)

経常利益率を見るときは、次のような問いを立ててみてください。

  • 本業で利益が出ているか
  • 補助金や一時的な収益に、依存していないか
  • 減価償却費を考慮したうえで、借入返済の原資があるか
  • 医療機器や建物の更新資金を、内部で蓄積できているか
  • 赤字の原因が、稼働率、単価、人件費、材料費、委託費、減価償却費のどこにあるか

病院は、設備投資型の事業です。利益は、配当のためではなく、医療を継続するための再投資原資だと考えています。

経常利益率は、「儲かっているか」ではなく、「将来の医療提供体制を維持できるだけの余力があるか」を見る指標として読むべきものなのです。

9. 借入金と返済能力|病院は利益より先に資金が苦しくなることがある

病院経営では、借入金の確認が欠かせません。

病院は、建物、病床、医療機器、電子カルテ、空調、給排水、耐震化、改修工事などに、大きな投資を必要とします。そのため、損益計算書の上では黒字でも、借入返済が重く、資金繰りが厳しい、という状況が起こり得ます。

借入金を見るときは、残高だけで判断してはいけません。重要なのは、返済能力です。

  • 毎年の元金返済額はいくらか
  • 営業キャッシュ・フローで返済できているか
  • 減価償却費を、設備更新資金として残せているか
  • 短期借入で、長期投資を賄っていないか
  • 金利上昇や返済条件の変更に耐えられるか
  • 新棟建設や、大型医療機器更新の予定があるか
  • 後継者や買い手に説明できる借入構造になっているか

病院の借入は、単なる負債ではありません。過去の投資判断の結果であり、将来の自由度を制約する要因でもあります。

資金繰りが苦しくなってから金融機関に説明するのでは、遅い場合があります。月次で、現預金、借入残高、返済予定、設備投資予定、税金・賞与の支払予定を確認しておきたいところです。

なお医療法人については、会計、資金調達、病院経営指標、病院経営管理指標などに関する情報が、厚生労働省の医業経営関連ページでも整理されています。
出典:厚生労働省|医療法人・医業経営のホームページ

10. 月次で見るべき病院経営ダッシュボード

病院経営では、年1回の決算書だけでは、判断が遅れてしまいます。

特に病院は、固定費が大きく、収益構造の変化が資金繰りに反映されるまでに時間差があります。月次で見ていなければ、赤字の原因が分からなくなってしまうのです。

最初に整えておきたい月次ダッシュボードには、次のような指標を入れるとよいでしょう。

  • 病床稼働率
  • 入院延患者数
  • 新入院患者数
  • 退院患者数
  • 平均在院日数
  • 入院単価
  • 外来患者数
  • 外来単価
  • 紹介患者数
  • 逆紹介患者数
  • 救急受入件数
  • 手術件数
  • リハビリ単位数
  • 医業収益
  • 医業利益
  • 経常利益
  • 給与費比率
  • 材料費率
  • 医薬品費率
  • 委託費率
  • 減価償却費
  • 現預金残高
  • 借入金残高
  • 月次返済額
  • 未収金残高

ただし、指標を増やせばよいというものではありません。

大切なのは、経営会議で「見て終わり」にしないことです。前月との差、前年同月との差、予算との差を確認し、その原因と対応策を決めていく必要があります。

病院経営の月次管理は、単なる数字確認ではありません。現場の動き、診療機能、患者の流れ、資金繰りを結びつけるための仕組みなのです。

数字を見るときに避けたい3つの誤解

誤解1:全国平均と比べれば経営状態が分かる

全国平均は参考になりますが、自院の答えそのものではありません。

急性期、回復期、慢性期、精神科、ケアミックス、専門病院では、見るべき水準が異なります。東京都心部の病院と地方の中小病院でも、患者動向、紹介元、採用環境、建物コストには違いがあります。

全国平均との比較は、自院の違和感を見つけ出すために使うものです。全国平均に近いから安心、離れているから危険、という使い方はできません。

誤解2:利益率が悪いから人件費を下げればよい

病院の人件費は大きな費用ですが、安易な削減は危険です。

人件費を下げた結果、施設基準を維持できない、夜勤体制が組めない、看護師が離職する、手術件数が減る、紹介患者を受けられない、といったことが起きれば、収益力そのものを失ってしまいます。

給与費比率が高い場合に確認すべきなのは、給与水準だけではありません。稼働率、入院単価、患者構成、配置基準、職種別の生産性、委託費との関係まで、あわせて見ていく必要があります。

誤解3:黒字なら資金繰りは安全である

利益と資金は、一致しません。

減価償却費、借入返済、設備投資、税金、賞与、退職給付、未収金、補助金の入金タイミングによって、黒字であっても資金が不足することがあります。

病院経営では、損益計算書だけでなく、貸借対照表、資金繰り表、借入返済予定表を、あわせて確認しておく必要があります。

病院経営の指標は、将来の判断に使えて初めて意味がある

病院経営の指標は、過去を評価するためだけのものではありません。

本来は、将来の判断に使うためのものです。

  • 病棟機能を見直すべきか
  • 外来を縮小すべきか、強化すべきか
  • 在宅医療や地域包括ケアとの連携を進めるべきか
  • 医師・看護師を採用すべきか
  • 医療機器を更新すべきか
  • 建替えや改修に進むべきか
  • 金融機関にどう説明するか
  • 承継やM&Aに向けて、何を整えるか

これらの判断には、単年度の利益だけでは足りません。

病床稼働率、入院単価、平均在院日数、外来患者数、給与費比率、材料費率、委託費率、経常利益率、借入返済能力を、一体で見ていく必要があります。

病院の数字は、申告や決算のためだけに作るものではありません。経営者が、自院の状態を第三者に説明し、次の一手を判断するための、共通言語なのです。

まず整えるべきは「正しい数字が毎月出る仕組み」

病院経営指標を活用する前提は、数字が正しく、早く、同じ基準で出てくることです。

たとえば、次のような状態に心当たりはないでしょうか。

  • 月次決算が遅い
  • 部門別の数字が分からない
  • 未収金が正しく整理されていない
  • 委託費や材料費の分類が、毎月ぶれる
  • 固定資産台帳と現物が合っていない
  • 借入返済予定が、経営資料に反映されていない
  • 病床稼働率や入院単価と、会計数値がつながっていない

この状態では、どれほど指標を並べても、経営判断には使えません。

医療法人会計基準、病院会計準則、事業報告書等、外部監査、内部管理に関する制度や実務は、単なる形式ではなく、医療機関の透明性と説明責任を支える基盤です。厚生労働省の医業経営ページでも、病院会計準則、医療法人会計基準、運用指針、医療法人会計基準Q&Aなどが整理されています。
出典:厚生労働省|医療法人・医業経営のホームページ

経営指標を見る前に、まず数字を信頼できる状態にする。これが、病院経営改善の最初の一歩です。

病院経営の初期診断で確認したい資料

病院経営の現状を把握する際には、少なくとも次の資料を確認していきます。

  • 過去3期分の決算書
  • 直近12か月の月次試算表
  • 病床稼働率、入院単価、外来単価の月次推移
  • 病棟別・診療科別の入院患者数
  • 新入院、退院、平均在院日数の推移
  • 紹介患者数、逆紹介患者数
  • 給与費、材料費、委託費、減価償却費の内訳
  • 借入金一覧と返済予定表
  • 現預金残高と資金繰り表
  • 医療機器・建物・設備の更新予定
  • 施設基準の届出状況
  • 主要な委託契約
  • 未収金残高と回収状況
  • 医師・看護師・その他職員の職種別人員表

これらを確認していくと、病院の課題が「患者数の問題」なのか、「単価の問題」なのか、「病棟機能の問題」なのか、「人件費の問題」なのか、それとも「設備投資と借入の問題」なのかが、見えやすくなります。

ここで重要なのは、最初から細かな改善策に飛びつかないことです。

まず、数字をそろえる。次に、数字の関係を見る。そのうえで、経営課題の優先順位を決める。

この順番を守ること。病院経営の改善においては、これが何よりも大切だと考えています。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

病院経営の数字は、単に会計処理を正しく行うためだけのものではありません。

病床をどう使うか。どの診療機能を伸ばすか。どの費用を管理すべきか。どの投資に進むべきか。金融機関に何を説明すべきか。そして、将来の承継やM&Aに向けて、いま何を整えるべきか。

こうした判断の前提となるのが、月次決算、管理会計、資金繰り、部門別採算、医療法人会計、税務、内部管理をつなげた経営資料です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関を単なる申告対象としてではなく、継続的に経営管理されるべき事業体として捉え、数字と仕組みに基づく経営判断を支援しています。

病院経営の現状を数字で整理したい、月次管理を見直したい、資金繰りや借入返済に不安がある、病棟別・機能別の採算を確認したい。そうお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、お気軽にご相談ください。

最初のご相談では、結論を急ぐよりも、まず自院の数字と資料を、どの順番で確認していくべきかを整理することが大切だと考えています。

この記事の振り返り

確認すべき事項見るべき指標判断のポイント
病床の使われ方病床稼働率、入院延患者数、新入院患者数稼働率だけでなく、病棟機能・入院ルート・地域連携と合わせて見る
入院収益の質入院単価、平均在院日数稼働率と単価をセットで確認し、単価の背景にある患者構成を読む
外来の役割外来患者数、初診、紹介、逆紹介外来数が多いかではなく、入院・専門医療・地域連携につながっているかを見る
人件費の重さ給与費比率、職種別人員、委託費削減ありきではなく、配置基準・稼働率・収益力と合わせて判断する
診療材料・医薬品材料費率、医薬品費率、在庫、廃棄診療機能に必要な費用か、採算を圧迫する管理不足かを分ける
外部委託委託費比率、契約内容、人材委託費給与費と合わせて、実質的な「人を使うコスト」として読む
利益の質医業利益率、経常利益率、総損益率黒字・赤字だけでなく、再投資と借入返済に耐えられる利益かを見る
財務安全性現預金、借入金、返済予定、資金繰り表利益と資金は一致しないため、返済能力と設備更新余力を確認する
管理体制月次決算、部門別損益、資料管理指標を経営判断に使うには、正しい数字が毎月出る仕組みが必要

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