病院経営の数字を見るとき、よく登場するのが「病床稼働率」「入院単価」「平均在院日数」という三つの指標です。
ただ、この三つは、それぞれを単独で評価しようとすると、かえって判断を誤りやすい指標でもあります。
病床稼働率が高いからといって、経営が良いとは限りません。 入院単価が高いからといって、採算が良いとも限りません。 平均在院日数が短いからといって、効率的とは言い切れないのです。
病院の入院収益は、病床がどれだけ埋まっているかだけで決まるものではありません。
実際には、どのような患者さんが、どのルートで入院し、どれくらいの医療資源を使い、何日で退院し、空いた病床に次の患者さんを受け入れられているか。こうした流れ全体によって決まっていきます。
つまり、病院経営で大切なのは、病床稼働率・入院単価・在院日数を「別々の指標」として眺めることではありません。これらを「入院収益を生み出す一つの構造」として読み解くことです。
本稿では、病院経営の入口として、病床稼働率、入院単価、平均在院日数、新入院患者数、そして入院ルートの関係を整理します。
DPCや地域包括ケア病棟、施設基準といった細かな制度設計には、ここでは踏み込みません。それらは、次の記事で改めて扱うべき論点だと考えています。
本稿で焦点を当てるのは、院長・理事長・事務長・経営幹部の方々が、まず自院の入院収益をどう読み解くべきか、という点です。
入院収益は「延べ入院患者数 × 入院単価」で決まる
病院の入院収益を、最も単純な形で表すと、次の関係になります。
入院収益 = 延べ入院患者数 × 入院単価
ここでいう延べ入院患者数は、病床数、病床稼働率、在院日数、新入院患者数の影響を受けます。一方の入院単価は、病棟機能、診療内容、手術・処置・検査・リハビリ、重症度、DPCや包括評価、施設基準などの影響を受けます。
ですから、入院収益を改善しようとするときに、単に「もっと病床を埋めよう」と考えるだけでは不十分です。
- 病床を埋めているのは、どのような患者さんなのか
- その患者さんは、どの程度の入院単価を生んでいるのか
- 在院日数は、病棟機能に照らして適切なのか
- 退院後、次の新入院患者を受け入れる流れがあるのか
- 高い稼働を維持するあまり、救急や紹介の受入余力を失っていないか
ここまで見て初めて、病床稼働率という数字の意味が見えてきます。
病床稼働率と病床利用率は、まず定義を確認する
実務の現場では、「病床稼働率」という言葉が広く使われています。
一方、厚生労働省の病院報告で用いられるのは「月末病床利用率」という表現です。これは、月末在院患者数を月末病床数で割って算定します。
平均在院日数についても考え方が示されており、在院患者延数を、新入院患者数と退院患者数の平均で割って求めます。
なお療養病床については、同一医療機関内の他病床から移された患者数、また他病床へ移された患者数を加味した算定式が用いられます。
出典:厚生労働省|病院報告(令和8(2026)年2月分概数)
本稿執筆時点で公表されている令和8(2026)年2月分の概数を見ると、病院全体の月末病床利用率は77.0%、一般病床は73.1%、療養病床は86.2%となっています。
平均在院日数は、病院全体で25.3日、一般病床で15.7日、療養病床で111.8日です。
出典:厚生労働省|病院報告(令和8(2026)年2月分概数)
ただし、これらの全国値を、そのまま自院の目標値にしてはいけません。
急性期、回復期、地域包括ケア、療養、精神、専門病院、ケアミックス病院では、望ましい稼働率も在院日数も異なります。
東京都心部のように医療機関が密集し、紹介元・競合・人材確保・建物コストが複雑に絡む地域と、病院が少なく地域の受け皿機能を広く担う地域とでも、同じ数字が持つ意味は変わってきます。
全国平均は、あくまで自院の数字に違和感を持つための参考値です。経営判断に使うには、自院の病棟機能、地域での役割、患者構成、収益構造と照らし合わせる必要があります。
病床稼働率が高い病院ほど安全とは限らない
病床稼働率が高いことは、一般的には病床が有効に使われている状態を示します。固定費の大きい病院では、病床が空いている状態が続けば、採算は悪化しやすくなります。
しかし、病床稼働率が高いことには、別の側面もあります。
満床に近い状態が続くと、救急搬送を断らざるを得ないことがあります。紹介患者を受け入れられないこともあります。さらに、急性期病床に、本来は回復期や在宅・施設で対応すべき患者さんが長く残ってしまうこともあります。
実際、ある脳神経外科専門病院の事例では、病床稼働率は高い一方で平均在院日数が比較的長く、満床を理由に救急車の受入れを断ることがありました。そこで、あえて急性期病床に一定の空床を設け、在院日数の短縮と救急隊との連携強化に取り組んでいます。
これは、高い稼働を維持すること自体が目的ではなく、受け入れるべき患者さんを受け入れられる病床運用こそが重要であることを示す例だといえます。
病床稼働率を見るときは、次の問いを立てる必要があります。
- この高稼働は、医療機能に合った患者で埋まっている結果なのか
- 在院日数が長すぎるために、結果として病床が埋まっているだけではないか
- 救急・紹介・予定入院を受け入れる余力はあるか
- 病棟別に見ると、どの病棟が詰まり、どの病棟が空いているのか
- 空床は経営上の無駄なのか、それとも救急・紹介を受けるための必要な余力なのか
病院経営では、「空床=悪」とは限りません。必要な空床を確保しておくことが、結果として新入院患者数と入院単価を高める場合もあるのです。
平均在院日数は短縮すればよいわけではない
平均在院日数は、病床の回転を見るうえで重要な指標です。
一般に、急性期病院では在院日数が長すぎると、病床回転が落ち、新入院患者を受け入れにくくなります。DPC対象病院では、在院日数と包括評価、効率性係数などが関連するため、不要な長期入院を避けることは経営上も重要になります。DPC制度には、在院日数の短縮を促す仕組みが組み込まれており、急性期病院では在院日数を意識した病床運用が求められます。
しかし、平均在院日数を短縮すれば、必ず入院収益が改善するわけではありません。
在院日数を短縮すると、同じ病床数でも退院が早くなり、空床が生まれます。その空床に新しい患者さんを受け入れられれば、病床回転が上がり、入院単価の高い急性期患者を増やせる可能性があります。
一方で、退院を早めても新入院患者が増えなければ、単に病床稼働率が下がるだけです。
つまり、在院日数短縮の効果は、「短縮した後に、次の新入院患者を受け入れられるか」によって決まります。
在院日数の短縮は、病床管理だけの問題ではありません。救急受入れ、紹介元との関係、地域連携、退院支援、在宅医療、介護施設、後方病院との連携が整っていなければ、経営改善にはつながらないのです。
一般病床では、過去のデータ上、平均在院日数の短縮により病床利用率が低下した局面があり、その後、新入院患者数の増加によって一定の改善が見られたことが示されています。これは、在院日数の短縮と新入院患者数の増加を、セットで見なければならないことを示しています。
入院単価は「価格」ではなく「医療密度」の結果である
入院単価は、一般に次のように把握します。
入院単価 = 入院診療収益 ÷ 延べ入院患者数
ここで注意したいのは、入院単価は、自由に設定できる価格ではないということです。
入院単価は、患者構成、疾患、手術、処置、検査、リハビリ、重症度、病棟機能、DPC、施設基準などの結果として決まります。ですから「単価を上げる」といっても、単に請求を増やすという話ではありません。
急性期病院の入院診療単価の差については、ある地域中核病院のデータで、入院料部分だけで大きな差がつくのではなく、手術料こそが単価差の主要な要因であることが示されています。入院単価を高めるには、病院がどのような急性期機能を担い、どのような患者さんを受け入れ、どの医療資源を投入するかが重要になるわけです。
ただし、入院単価が高いことも、それ単独では良いこととは言えません。
高単価の診療には、材料費、医薬品費、医師・看護師・技師の負荷、設備投資、医療安全管理、施設基準維持のコストが伴います。入院単価が高くても、それ以上に人件費・材料費・減価償却費が重ければ、利益にはつながりません。
入院単価を見るときは、次の問いが必要です。
- 単価は、どの病棟・診療科で上がっているのか
- 手術、検査、処置、リハビリ、重症患者対応のどれが単価を押し上げているのか
- その単価上昇に見合う材料費・人件費・設備負担になっているか
- 単価の高い患者を継続的に受け入れる、紹介・救急・地域連携の仕組みがあるか
- 単価上昇は一時的な要因によるものか、それとも病院機能の強化によるものか
入院単価は、経営者が「高くしたい」と思って上がるものではありません。病院の機能設計と現場運用の結果として、上がっていくものです。
3つの指標は、掛け算ではなく「流れ」で読む
病床稼働率、入院単価、在院日数は、次のような流れでつながっています。
- 新入院患者が増える
- 病床が埋まる
- 適切な在院日数で退院する
- 空いた病床に、次の患者さんが入る
- 医療密度に応じた入院単価が形成される
- その収益で、人件費、材料費、設備投資、借入返済を支える
この流れが整っていれば、病院の入院収益は安定しやすくなります。
反対に、どこかが詰まると、数字は歪んでいきます。
- 新入院患者が少なければ、在院日数を短縮しても空床が増える
- 退院支援が弱ければ、稼働率は高くても急性期患者を受けられない
- 単価の高い患者を受け入れても、材料費や人件費を管理できなければ利益は残らない
- 紹介ルートが弱ければ、病床機能に合った患者が集まらない
- 在宅・介護との連携が弱ければ、退院後の受け皿が不足し、病床が詰まる
このため、3つの指標は「どれを上げるか」ではなく、「どの流れが詰まっているか」を見るために使うべきものなのです。
入院ルートを見なければ、病床稼働率の原因は分からない
入院患者は、主に次の3つのルートから入ってきます。
一つ目は、外来・在宅からの入院です。日頃から外来や在宅で診ている患者さんの容態が悪化し、検査や治療を目的に入院する流れです。
二つ目は、救急からの入院です。救急外来、救急車、時間外受診などを経由して、そのまま入院する流れです。
三つ目は、紹介からの入院です。地域の診療所や他病院から紹介され、検査、手術、専門治療などにつながる流れです。
病院経営の実務では、これらの入院ルートを分けて見ることが重要になります。実務で見られるあるデータでは、一般病床の入院ルートについて、外来・在宅経由39%、救急12%、紹介49%という平均値が示されています。
ただし、この比率は全国のすべての病院にそのまま当てはまるものではなく、急性期、専門病院、ケアミックスなど、病院機能によって大きく異なります。
入院ルートを分けて見ると、経営課題が見えやすくなります。
外来・在宅経由が多い病院は、自院の継続患者を入院につなげる力があります。一方で、外来依存が強すぎると、外来の負荷が重くなり、紹介・救急の受け入れ余力が不足することがあります。
救急経由が多い病院は、地域の急性期機能を担っている可能性があります。ただし、救急受入れには、医師・看護師・検査・画像・当直体制の負荷が伴います。稼働率だけでなく、救急患者の入院単価、在院日数、材料費、人件費を合わせて見る必要があります。
紹介経由が多い病院は、地域の診療所や他病院から専門性を評価されている可能性があります。反面、紹介元との関係、逆紹介、地域連携室の機能、専門外来の質が崩れると、入院患者数が減少しやすくなります。
入院ルートの分析は、単なる集患分析ではありません。病床機能、地域連携、医師の専門性、外来運営、救急体制、在宅連携をつなぐ経営指標なのです。
病床稼働率・入院単価・在院日数の典型パターン
病院経営では、3つの指標の組み合わせから、ある程度の経営状態を読み取ることができます。
パターン1:稼働率が高く、在院日数が長く、入院単価が低い
この状態は、一見すると病床が埋まっているため、安定して見えます。しかし、実際には注意が必要です。
病床が長期入院で埋まり、急性期患者や紹介患者を受け入れられていない可能性があります。入院単価が低ければ、病床は使われていても、収益力は高くありません。
この場合に確認すべきなのは、退院支援、後方連携、地域包括ケア病棟や回復期・療養機能との役割分担、そして患者構成です。
打ち手は、単純な稼働率向上ではありません。病床の中身を見直すことです。
パターン2:稼働率が低く、在院日数が短く、入院単価が高い
この状態は、急性期らしい医療密度はあるものの、新入院患者数が不足している可能性があります。
在院日数を短縮できていて、単価も高い。しかし、空いた病床に次の患者さんが入ってこない。その結果、病床稼働率が下がっている状態です。
この場合は、紹介ルート、救急受入れ、外来からの入院導線、地域連携室の活動、診療圏内でのポジショニングを見直す必要があります。
在院日数の短縮そのものは、悪いことではありません。問題は、短縮によって空いた病床を埋める新入院患者の流れが足りないことです。
パターン3:稼働率が高く、在院日数が短く、入院単価が高い
この状態は、入院収益の面では強い構造に見えます。急性期患者を受け入れ、医療密度が高く、病床回転も良い状態です。
ただし、現場負荷には注意が必要です。
高単価・短在院日数・高稼働は、医師、看護師、コメディカル、地域連携室、医事課に大きな負担をかけます。退院支援が追いつかない、看護師が疲弊する、医療安全リスクが高まる、紹介元対応が遅れる。こうした問題が起きれば、持続可能性を失ってしまいます。
このパターンでは、利益だけでなく、職員の稼働、離職、残業、インシデント、クレーム、紹介元満足度も確認すべきです。
パターン4:稼働率が低く、在院日数が長く、入院単価が低い
この状態は、病院機能と地域ニーズが合っていない可能性があります。
患者数が不足し、病床回転も遅く、単価も上がらない。固定費の大きい病院では、赤字が構造化しやすい状態です。
この場合、単なる広告や営業で解決するとは限りません。病棟機能、診療科構成、医師体制、地域連携、在宅・介護との接続、病床転換、ダウンサイジング、場合によっては経営再生や承継も含めて検討する必要があります。
パターン5:稼働率は適度、在院日数も適正、入院単価も安定している
この状態は、一見すると大きな問題がないように見えます。
しかし、病院経営では「現在安定していること」と「将来も安定すること」は別の話です。
地域の人口動態、医師・看護師の採用、建物の老朽化、医療機器の更新、診療報酬改定、後継者、借入返済、競合病院の機能転換によって、数年後の状態は変わっていきます。
安定している病院ほど、早い段階で月次管理、部門別採算、資金繰り表、中期計画を整えておくべきです。
在院日数を短縮するなら、新入院患者数を同時に見る
在院日数の短縮を検討する際、必ず確認すべき指標があります。
それは、新入院患者数です。
在院日数を短縮するだけでは、入院収益は増えません。短縮によって空いた病床に、新しい患者さんが入るからこそ、収益が増えるのです。
たとえば、急性期病棟の平均在院日数を短縮し、病床回転を上げられたとしても、新入院患者数が増えなければ、延べ入院患者数は減少し、病床稼働率も下がってしまいます。
一方で、在院日数の短縮とともに、新入院患者数、手術件数、救急受入れ、紹介患者数が増えれば、入院単価と医業収益が改善する可能性があります。ある病院の事例では、急性期病棟の平均在院日数を14.5日から11.7日前後まで短縮しつつ、1日当たり入院診療単価、手術件数、救急受入れ、紹介率・逆紹介率を高め、経常利益の改善につなげています。
このような改善は、単なる在院日数の短縮ではありません。
病床運用、手術室運用、救急受入れ、地域連携、紹介・逆紹介、医師・看護師の動線、医事課の請求管理を、一体で整えた結果です。
在院日数を短くすることだけを現場に求めても、経営改善にはつながりません。新入院患者をどこから受け入れるのか、退院後の受け皿をどう確保するのか、どの病棟でどの患者を診るのか。これらを同時に設計する必要があります。
病床稼働率を上げる前に確認すべきこと
病床稼働率が低いとき、経営者は「もっと患者を入れなければ」と考えがちです。
しかし、病床稼働率を上げる前に、次の点を確認する必要があります。
- どの病棟の稼働率が低いのか
- 稼働率の低下は、新入院患者数の減少によるものか、在院日数短縮の結果なのか
- 入院単価の高い患者が減っているのか、低単価の患者が増えているのか
- 救急・紹介・外来・在宅のどのルートが弱っているのか
- 退院調整が進みすぎて、空床が増えているのか
- 医師不足・看護師不足で、受入制限をしていないか
- 施設基準や病棟機能が、地域ニーズと合っているか
稼働率が低い原因が患者不足であれば、紹介元の開拓、救急受入れ、外来導線、在宅・施設連携が課題になります。
稼働率が低い原因が、医師・看護師不足による受入制限であれば、採用、人員配置、業務負荷、病棟再編が課題になります。
稼働率が低い原因が、病棟機能と地域ニーズの不一致であれば、機能転換や病床再編が課題になります。
同じ「稼働率低下」でも、打ち手はまったく異なるのです。
入院単価を上げる前に確認すべきこと
入院単価を上げたい場合も、まずは単価の内訳を確認する必要があります。
- 入院料部分なのか
- 手術料なのか
- 処置・検査なのか
- リハビリなのか
- 薬剤・材料を多く使う治療なのか
- DPCの診断群分類や医療機関別係数の影響なのか
- ICU、HCU、SCUなど特定入院料の影響なのか
- 施設基準の届出状況の影響なのか
入院単価は、医療内容の結果です。
単価を上げるには、高度な医療を提供する体制、紹介される専門性、手術・処置・検査の実施体制、重症患者対応、医療安全、スタッフ配置、設備投資が必要になります。
そのため、入院単価を上げる判断は、単なる収益改善策ではありません。病院の機能をどこに置くかという、経営戦略そのものです。
また、単価を上げるほど、材料費、医薬品費、医療機器、医師・看護師の負荷が増える場合があります。単価の上昇が利益につながっているかどうかは、部門別・病棟別・診療科別の採算で確認する必要があります。
在院日数を短縮する前に確認すべきこと
在院日数の短縮には、慎重な設計が必要です。
確認すべきなのは、単に「平均在院日数が長いか短いか」ではありません。
- 疾患別に在院日数が長いのか
- 診療科別に偏りがあるのか
- 退院支援が遅れているのか
- 後方病院、介護施設、在宅医療との連携が弱いのか
- 社会的入院が残っているのか
- 医師の退院判断が遅いのか
- 家族説明や退院前カンファレンスが遅れているのか
- 入院早期から退院支援が始まっているか
在院日数は、医療の質、患者安全、家族支援、地域連携と関わります。短縮ありきで進めると、現場に無理がかかり、再入院やクレーム、スタッフの疲弊につながることがあります。
経営上必要なのは、在院日数を短くすることそのものではありません。自院の病棟機能に照らして、「長すぎる入院」「短すぎる入院」「次につながる入院」を分けて見ることです。
病棟別に見なければ、病院全体の平均は役に立たない
病院全体の病床稼働率や平均在院日数は、最初の入口にはなります。しかし、実務判断には不十分です。
急性期病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、療養病棟では、目的も患者構成も在院日数も単価も異なります。
病院全体の平均在院日数が改善していても、急性期病棟だけを見ると詰まっていることがあります。全体の病床稼働率が高くても、特定の病棟だけが空いていることがあります。全体の入院単価が上がっていても、材料費が増えすぎて採算が悪化している診療科があるかもしれません。
病床稼働率、入院単価、在院日数は、少なくとも次の単位で見るべきです。
- 病棟別
- 診療科別
- 入院ルート別
- 疾患群別
- 予定入院・緊急入院別
- 手術あり・手術なし別
- 紹介元別
- 退院先別
病院全体の平均値は、経営者に違和感を持たせるための入口です。実際の打ち手は、病棟別・機能別の数字から考える必要があります。
月次で確認すべき入院収益ダッシュボード
病床稼働率、入院単価、在院日数の関係を経営判断に使うには、月次で同じ基準の数字を確認する仕組みが必要です。
最低限、次の指標を月次で確認します。
- 病棟別病床稼働率
- 病棟別延べ入院患者数
- 新入院患者数
- 退院患者数
- 平均在院日数
- 入院単価
- 入院診療収益
- 入院ルート別患者数
- 救急入院件数
- 紹介入院件数
- 外来・在宅経由入院件数
- 手術件数
- リハビリ単位数
- 退院先別件数
- 再入院率
- 病棟別人件費
- 病棟別材料費
- 病棟別・機能別損益
ここで大切なのは、指標を並べることではありません。
前月との差、前年同月との差、予算との差を見て、変化の理由を確認することです。
- 稼働率が上がった理由は何か
- 単価が下がった理由は何か
- 在院日数が伸びた理由は何か
- 新入院患者数が増えたルートはどこか
- 救急受入れを断った件数はあるか
- 紹介患者が減った診療科はどこか
- 退院支援が遅れている病棟はどこか
これらを月次で確認できるようになると、病院経営は「結果を眺める経営」から「原因を追う経営」へと変わっていきます。
会計数値と医事データをつなげることが前提になる
病床稼働率、入院単価、在院日数は、医事データから把握できます。
一方で、人件費、材料費、委託費、減価償却費、借入返済、現預金は、会計・財務データから把握します。
病院経営の難しさは、この2つが分断されやすいことにあります。
医事課は、患者数、点数、請求を見ている。 経理は、試算表、資金繰り、支払を見ている。 看護部は、病床運用と人員配置を見ている。 医局は、診療内容と患者対応を見ている。 経営者は、最終損益と資金繰りを見ている。
これらが別々に管理されていると、病床稼働率と利益の関係が分かりません。入院単価が上がっても、材料費や人件費の増加を把握できません。在院日数を短縮しても、空床が収益にどう影響したかが見えてこないのです。
医療法人の経理規程や内部管理では、医業収益管理、債権債務管理、棚卸資産管理、固定資産管理、予算管理、管理会計などが、重要な管理領域として整理されます。入院収益を経営判断に使うには、医事データと会計データを結びつける管理体制が必要です。
数字を経営に使うためには、まず数字が正しく、早く、同じ基準で出てくる仕組みを整えることが欠かせません。
経営者が毎月確認したい問い
病院経営の会議では、単に数字を報告して終わらせるのではなく、次の問いを確認することが重要です。
- 今月の病床稼働率は、病棟機能に照らして適正か
- 稼働率の変化は、新入院患者数によるものか、在院日数によるものか
- 入院単価の変化は、患者構成、手術、検査、リハビリ、救急、施設基準のどれによるものか
- 在院日数の変化は、退院支援、患者重症度、後方連携、病棟運用のどれによるものか
- 入院ルート別に、外来・在宅、救急、紹介のどこが増減しているか
- 稼働率を上げるべき病棟と、空床を確保すべき病棟を区別できているか
- 入院単価の上昇は、利益につながっているか
- 在院日数の短縮によって空いた病床に、次の患者さんが入っているか
- 病床運用の変化が、資金繰りや借入返済にどう影響するか
この問いに答えられる状態こそが、病院経営における「数字が使える状態」です。
病床稼働率・入院単価・在院日数は、承継やM&Aでも問われる
病床稼働率、入院単価、在院日数は、日常の経営改善だけでなく、将来の承継やM&Aでも重要になります。
買い手や後継者は、単に売上や利益だけを見るわけではありません。
- 病床は本当に機能しているか
- 入院患者はどのルートから来ているか
- 紹介元は、特定の医師や院長個人に依存していないか
- 在院日数は、病棟機能に照らして適正か
- 入院単価は維持可能か
- スタッフ体制は持続可能か
- 施設基準や医事請求に問題はないか
- 設備投資や借入返済に耐えられるか
こうした点が確認されます。
病床稼働率が高くても、長期入院で埋まっているだけであれば、承継後の成長余地は限定的かもしれません。入院単価が高くても、特定医師への依存が強ければ、承継リスクになります。在院日数が短くても、新入院患者の流れが院長個人の人脈に依存していれば、持続性に課題が残ります。
日常の月次管理は、将来の承継可能性を高めるための準備でもあるのです。
病院経営の数字は、現場を責めるためではなく、判断を整えるために使う
病床稼働率、入院単価、在院日数の分析は、現場を責めるためのものではありません。
稼働率が低いから病棟が悪い。 在院日数が長いから医師が悪い。 単価が低いから医事課が悪い。
そのような見方では、数字はかえって組織を硬直させてしまいます。
本来、数字は、現場で起きていることを経営者が理解するための共通言語です。病棟、医局、看護部、地域連携室、医事課、経理、経営者が、同じ数字を見ながら、原因と打ち手を一緒に考えるための材料なのです。
病院は、公共性の高い医療機関であると同時に、継続的に経営管理されるべき事業体でもあります。医療の質を守るためにも、経営の持続性を守るためにも、病床稼働率・入院単価・在院日数を構造的に読むことが欠かせません。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
病床稼働率、入院単価、在院日数の関係を正しく読むには、医事データだけでも、会計データだけでも足りません。
病棟別の稼働、入院ルート、患者構成、診療単価、材料費、人件費、借入返済、設備投資、月次決算、資金繰り。これらを、一つの経営資料として整理する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関を単なる申告対象としてではなく、継続的に経営管理されるべき事業体として捉え、数字と仕組みに基づく経営判断を支援しています。
病院の入院収益構造を整理したい、病床稼働率や在院日数の見方を見直したい、入院単価の変化が利益につながっているか確認したい、病棟別・機能別の採算を把握したい。そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
最初のご相談では、結論を急ぐよりも、まず自院の病床稼働率・入院単価・在院日数・新入院患者数・資金繰りを、どの順番で確認すべきかを整理することが重要だと考えています。
この記事の振り返り
| 論点 | 確認すべき数字 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 入院収益の基本構造 | 入院収益、延べ入院患者数、入院単価 | 入院収益は「延べ入院患者数 × 入院単価」で考える |
| 病床稼働率 | 病棟別病床稼働率、空床数 | 高ければ良いとは限らず、救急・紹介を受ける余力も見る |
| 平均在院日数 | 病棟別・疾患別平均在院日数 | 短縮だけでなく、短縮後に新入院患者を受け入れられるかを見る |
| 入院単価 | 入院診療収益、延べ入院患者数、診療科別単価 | 単価は価格ではなく、医療密度と患者構成の結果として読む |
| 新入院患者数 | 新入院患者数、退院患者数 | 在院日数短縮の効果は、新入院患者数の増加とセットで判断する |
| 入院ルート | 外来・在宅、救急、紹介の入院件数 | どのルートが強いかで、経営改善の打ち手が変わる |
| 高稼働のリスク | 救急断り件数、紹介受入不可件数、空床数 | 満床が続くと、受け入れるべき患者を逃す場合がある |
| 単価上昇のリスク | 材料費、人件費、減価償却費 | 入院単価が上がっても、費用増で利益が残らない場合がある |
| 月次管理 | 月次試算表、医事データ、病棟別損益 | 医事データと会計データをつなげて、原因と打ち手を確認する |
| 将来への影響 | 承継、M&A、設備投資、借入返済 | 入院収益構造は、将来の承継可能性や金融機関説明にも影響する |