病院経営の現場で「外来を縮小する」という言葉を口にすると、多くの経営者がまず不安を覚えます。患者数が減ってしまうのではないか。地域からの評判が下がるのではないか。外来収益が落ち込むのではないか。紹介患者の入口を失ってしまうのではないか。医師やスタッフの稼働が下がるのではないか。
その感覚は、ごく自然なものです。病院にとって外来は、単なる収益部門ではありません。地域患者との接点であり、入院患者の入口であり、退院後フォローの場であり、診療科の存在感を示す場でもあるからです。
しかし、これからの病院経営において、外来を「多ければ多いほどよい」と見る発想は、もはや限界に近づいています。
医師の働き方改革、医療職不足、看護師・医療事務・コメディカルの採用難、患者の高齢化、紹介受診重点医療機関制度、外来機能報告、地域医療構想、在宅医療・介護連携の拡大。こうした流れが重なり合うなかで、病院外来は「量」ではなく「機能」を問われる時代に入りました。
本稿でいう外来縮小とは、単純に診療枠を減らすことではありません。本当に病院外来で診るべき患者に資源を集中させ、かかりつけ医・診療所・在宅医療・介護施設との役割分担を進め、医師の時間を入院・救急・手術・処置・専門外来・退院支援へ再配分していく。それが、ここで申し上げたい外来縮小の中身です。
言い換えれば、外来を「削る」のではなく、病院の機能に合わせて再設計するという経営判断にほかなりません。
まず押さえるべき前提:医師の働き方改革は、すでに経営条件である
医師の働き方改革の新制度は、2024年4月から施行されています。厚生労働省は、医師の働き方改革のページにおいて、2024年4月より新制度が施行されたこと、そして医療機関が行う必要のある手続や関連情報を案内しています。
出典:厚生労働省|医師の働き方改革
また、2024年度以降は、A水準では年960時間、B・連携B・C-1・C-2水準では年1,860時間が、時間外・休日労働の上限として整理されました。あわせて、月100時間以上が見込まれる医師への面接指導や、勤務間インターバルなどの追加的健康確保措置も、制度上に位置づけられています。
出典:厚生労働省|医師の働き方改革の制度について
ここで大切なのは、「労務管理上の上限ができた」という理解だけで止めないことです。
医師の働き方改革は、病院経営に対して、次のような問いを突きつけています。
- 医師の時間を、どの診療機能に使うのか
- 外来、入院、救急、手術、検査、カンファレンス、書類作成、説明、研究、教育のうち、どこに医師が直接関与すべきか
- 医師以外の職種へ移せる業務は何か
- 外来患者数を維持するために、医師の長時間労働を前提にしていないか
- 外来収益は出ているように見えても、医師負担、残業、人件費、離職、入院機能への圧迫まで含めたとき、本当に採算が合っているか
病院経営において、医師の時間は最も希少な経営資源の一つです。ですから、外来縮小を検討するかどうかは、単なる診療部門の問題ではありません。医師の時間配分をどう設計するかという、経営戦略そのものの問題なのです。
外来縮小は「患者を断ること」ではない
外来縮小という言葉は、どうしても誤解されやすいものです。
病院が外来を縮小するとは、必要な患者を断ることではありません。地域医療から撤退することでもありません。むしろ、病院として診るべき患者に、より確実に対応するための整理だとお考えください。
外来には、性質の異なる患者が混在しています。
- 初診で専門的判断が必要な患者
- 紹介状を持ち、高度検査や手術判断が必要な患者
- 急性期治療後の短期フォローを要する患者
- 慢性疾患で長期間安定している再診患者
- 薬の継続処方が中心の患者
- 検査予約・結果説明だけの患者
- 退院後に在宅医療や診療所へ移行できる患者
- 病院でなければ対応しにくい複合疾患・高リスクの患者
これらをすべて同じ外来枠で処理していると、病院外来はどうしても膨張します。医師は診察室に縛られ、入院患者の診療、手術、救急対応、病棟カンファレンス、退院支援、地域連携に使う時間が削られていきます。
外来縮小で最初に行うべきことは、患者数を減らすことではありません。外来患者を、病院で診るべき患者と、地域の診療所・かかりつけ医・在宅医療へつなぐべき患者とに分けることです。
この切り分けができないまま、曜日を減らす、受付時間を短くする、医師数を減らす、といった手を打てば、残るのは患者の不満だけになりかねません。
逆に、外来の機能を整理し、紹介・逆紹介の流れを整え、患者への説明を丁寧に重ねていけば、外来縮小は患者にとっても病院にとっても意味のある機能分化になります。
外来機能分化は、制度上も進んでいる
外来機能の見直しは、病院単独の経営判断にとどまる話ではありません。制度上も、外来機能の明確化と連携が求められています。
厚生労働省は、令和3年の医療法等改正により外来機能報告制度が創設され、地域の医療機関の外来機能の明確化・連携に向けて、地域においてデータに基づく議論を進めることとしている、と説明しています。この外来機能報告制度は、病院および有床診療所を対象とし、無床診療所は任意としたうえで、令和4年4月から施行されています。
出典:厚生労働省|外来機能報告について
また、紹介受診重点医療機関は、かかりつけ医などからの紹介状を持って受診することに重点を置いた医療機関です。手術・処置、化学療法、放射線治療、高額医療機器・設備を必要とする外来などを行う医療機関として位置づけられています。
出典:厚生労働省|紹介受診重点医療機関について
こうした流れを踏まえると、病院外来は今後ますます、次のような方向へ進んでいきます。
- 紹介患者を受ける
- 専門的な検査・処置・治療方針決定を担う
- 手術・入院・高度治療へつなげる
- 安定患者は地域へ戻す
- 退院後は必要な期間だけフォローし、その後はかかりつけ医へつなぐ
- 在宅医療・介護施設・診療所からの相談や、急変時の受入れを支える
したがって、外来縮小は「患者数を減らす話」ではありません。地域のなかで、病院外来の役割を明確にする話なのです。
外来収益だけを見ると、判断を誤る
外来縮小がなかなか進まない理由の一つは、外来収益が目に見えやすいからです。
外来患者数が減れば、外来収入は減ります。診療科別の外来売上が下がれば、現場からは反発も出るでしょう。紹介患者が減るのではないかという不安も、当然生まれます。
しかし、病院経営においては、外来収益だけを見ても採算は判断できません。本当に見るべきなのは、外来が病院全体にどのような影響を与えているか、という視点です。
- 外来から入院につながっているか
- 外来が手術・検査・処置につながっているか
- 外来が救急や地域連携と結びついているか
- 外来診療のために、医師がどの程度の時間を使っているか
- 外来のために、看護師、医療事務、検査技師、薬剤師、クラークがどれだけ稼働しているか
- 外来が病棟・手術・救急の人員配置を圧迫していないか
- 外来収益よりも、医師残業や人件費増の影響のほうが大きくなっていないか
病院財務の実務において、外来診療の経済性、外来縮小、医師等の負担軽減、補助者の活用は、本来一体で論じるべきテーマです。中核病院に求められる外来診療機能、働き方改革に必要な外来縮小、補助者の重要性は、病院経営の財務マネジメント上も主要な論点として整理されます。
外来が赤字か黒字かは、単純な部門損益だけでは判断できません。外来が入院や手術の入口になっている場合、外来単独では採算が低くても、病院全体としては必要な機能です。
一方で、長期安定患者の再診が外来枠を埋め、専門外来・紹介外来・入院対応を圧迫しているなら、その外来は収益があったとしても、機能戦略上は見直しの対象になります。
外来縮小の本質は、医師の時間を再配分すること
病院外来で最も重要な資源は、診察室ではなく、医師の時間です。
そしてその時間は、外来診察だけに使われるわけではありません。入院患者の診療、救急対応、手術、検査判断、術前術後の説明、退院支援、カンファレンス、紹介状・診断書・診療情報提供書の作成、スタッフ教育、医療安全、診療報酬上の記録、家族への説明。実に多くの場面で、医師の時間は費やされています。
外来患者数が多い病院では、この時間配分が崩れやすくなります。
- 午前外来が長引く
- 午後の手術開始が遅れる
- 病棟回診が夕方以降になる
- 診療録記載や文書作成が夜にずれ込む
- 医師が説明や書類を持ち帰る
- 若手医師の教育時間が削られる
- 救急対応に余力がなくなる
この状態で「外来患者数は維持している」と評価したとしても、実際には医師の時間を先食いしているだけ、ということが起こり得ます。
外来縮小を検討するときは、まず医師の時間を棚卸しすることから始めます。
- 診療科ごとに、外来、病棟、手術、検査、救急、文書、会議、教育、研究へ、それぞれ何時間使っているか
- 外来患者1人あたり、診察・記録・説明・書類作成まで含めて何分かかっているか
- 外来のうち、医師が直接行う必要がある部分と、他職種が担える部分は何か
- 外来を減らした場合、その時間をどの機能へ再配分するのか
こうした問いを持たないまま外来枠だけを減らしても、経営改善にはつながりません。外来縮小とは、医師の時間を、病院が担うべき機能へ再配分するための設計なのです。
「外来を減らす」前に、外来を分類する
外来縮小の議論では、いきなり診療枠や曜日を減らしてはいけません。最初に行うべきは、外来の分類です。
たとえば、次のように分けて考えます。
| 外来の種類 | 主な役割 | 経営判断上の見方 |
|---|---|---|
| 紹介初診外来 | 専門的判断、入院・手術・検査への入口 | 病院機能として優先度が高い |
| 高度検査・処置外来 | CT・MRI・内視鏡・化学療法等 | 設備稼働・専門性と連動して判断 |
| 入院前外来 | 術前評価、入院説明、リスク評価 | 入院収益と医療安全に直結 |
| 退院後短期フォロー | 急性期後の確認、再入院予防 | 必要期間を明確にして運用 |
| 慢性疾患の安定再診 | 長期処方、定期検査、経過観察 | かかりつけ医との役割分担を検討 |
| 書類・説明中心外来 | 診断書、意見書、家族説明 | 医師事務作業補助者・事務設計が重要 |
| 予約外・軽症外来 | 軽症、相談、利便性対応 | 地域連携・受診導線を再設計 |
この分類をしないまま外来患者数だけを見ると、外来縮小はどうしても乱暴な議論になってしまいます。
重要なのは、「残すべき外来」と「移行すべき外来」を分けることです。病院に残すべき外来は、入院、救急、手術、専門治療、複合疾患、地域連携に結びつく外来です。移行を検討すべき外来は、地域の診療所や在宅医療でも継続管理できる、安定患者の再診です。
ただし、移行は機械的に進めるものではありません。患者の病状、認知機能、通院手段、家族の支援、地域の受け皿、診療情報提供の体制を、一つひとつ確認していく必要があります。
外来縮小は、患者を外へ出す作業ではなく、患者を適切な場所へつなぐ作業です。
働き方改革は、タスクシフトだけでは解決しない
医師の働き方改革への対応として、よくタスクシフト・タスクシェアが語られます。
これは確かに重要です。医師事務作業補助者、看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師、理学療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、事務職が、それぞれの専門性に応じて業務を分担すれば、医師の負担を減らし、医療の質を高めることにもつながります。
厚生労働省も、医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会を設置し、現行制度上実施可能な業務や、業務範囲の見直しを伴う教育・研修などを議論してきました。
出典:厚生労働省|医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会
ただし、タスクシフトは「医師の仕事を誰かに渡す」だけでは、うまくいきません。
- 業務範囲が曖昧なまま移す
- 教育しないまま移す
- 責任の所在を決めない
- 記録ルールを決めない
- 医師の確認タイミングを決めない
- 移された職種の負担を測定しない
- 人を増やしただけで業務フローを変えない
こうした進め方では、医師の負担が減ったように見えても、別の職種が疲弊してしまいます。看護師が事務的業務に追われ、医療事務が医師の指示待ちになり、クラークが診療録入力の責任範囲で迷い、薬剤師やリハ職が本来業務に集中できなくなる、ということも起こり得ます。
タスクシフトは、医師の労働時間短縮だけを目的にするのではなく、病院全体の業務設計として行う必要があります。
医師事務作業補助者は「人件費」ではなく、医師時間を生む投資として見る
医師事務作業補助者を配置すれば、当然ながら人件費は増えます。
そのため、経営会議では「人を増やして採算が合うのか」という議論になりがちです。しかし、医師事務作業補助者の採算は、単純な人件費の増減だけでは判断できません。
ここで見るべきなのは、医師時間の回収です。
診断書、紹介状、診療情報提供書、退院時要約、各種同意書、検査説明、予約調整、診療録の下書き、カンファレンス資料、返書管理、検査結果の整理。こうした業務を補助者が担うことで、医師がどれだけ診療・手術・入院管理・救急・説明へ時間を戻せるか。そこを見るのです。
採算を確認するときは、次のように整理します。
- 補助者配置による追加人件費
- 医師の残業時間の削減額
- 医師の外来・病棟・手術への再配分効果
- 診療録・文書作成の遅延の減少
- 診療報酬上の算定漏れ・記録漏れの減少
- 患者説明・紹介返書の迅速化
- 医師の離職リスクの低下
- 医療安全上の記録品質の向上
- 病棟・外来の回転改善
医師事務作業補助者は、医師の横に座る事務員ではありません。医師の時間を生むための、業務設計上の職種です。
ただし、ここでも「配置したから機能する」わけではありません。業務範囲、教育、医師との連携方法、記録の最終確認、電子カルテの権限、個人情報の管理、評価指標を、あらかじめ決めておく必要があります。
看護師・医療職の生産性は「忙しく働かせること」ではない
医療職の生産性という言葉も、誤解されやすい言葉です。
生産性を上げるとは、看護師やコメディカルに、より多くの業務を詰め込むことではありません。医療職が専門性の高い業務に集中できるよう、無駄な移動、重複記録、探し物、確認待ち、会議、属人的な調整、手書き作業を減らしていくことです。
看護師の生産性を見るなら、単に人員数や人件費率を眺めるだけでは足りません。
- 病棟ごとの患者数
- 重症度、医療・看護必要度
- 夜勤体制
- 入退院件数
- 緊急入院の受入れ
- 看護補助者の活用
- 事務作業の割合
- 移乗・介助・搬送に使う時間
- 記録時間
- 離職率
- 休職者数
- 応援勤務の頻度
- 時間外労働
- 有給取得の状況
これらを組み合わせて見ていきます。
2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%、新卒採用看護職員の離職率は8.4%、既卒採用看護職員の離職率は16.1%と報じられています。病院の人材戦略では、採用数だけでなく、定着、メンタルヘルス、教育、配置、業務設計を、あわせて見ていかなければなりません。
出典:労働政策研究・研修機構|正規雇用看護職員の離職率は11.0%/日本看護協会調査
医療職の生産性を上げるには、現場に「もっと頑張れ」と言うのではなく、まず業務の棚卸しを行うことが先です。高度専門職が本来担うべき業務と、他職種・補助者・ICT・外部委託で担える業務とを、分けていく必要があります。
医療機関の経営改善の論点としても、医療等従事者の勤続年数・定着率の引上げ、離職率の引下げ、離職した看護職員の積極採用、ワークシェア制度、電子カルテ等ICTの利活用、バックオフィス業務の効率化、入院・外来に対応する医師等の柔軟な配置などが整理されています。
勤務環境改善は、精神論ではなくPDCAで進める
医療機関の勤務環境改善は、「雰囲気をよくする」「スタッフに優しくする」だけで成り立つものではありません。経営管理の仕組みとして進めていく必要があります。
厚生労働省は、医療従事者の確保が困難ななかで質の高い医療提供体制を構築するためには、勤務環境の改善を通じて、医療従事者が健康で安心して働ける環境整備を促進することが重要である、としています。あわせて、医療機関がPDCAサイクルを活用して計画的に勤務環境改善へ取り組む仕組みとして、勤務環境改善マネジメントシステムを説明しています。
出典:厚生労働省|医療従事者の勤務環境の改善について
同システムに関する指針では、勤務環境の改善方針の表明、体制整備、現状分析、改善目標の設定、改善計画の作成、実施、評価、見直しを、体系的かつ継続的に実施することが示されています。
出典:厚生労働省|医療勤務環境改善マネジメントシステムに関する指針
この考え方は、病院経営にそのまま当てはまります。
外来縮小も、働き方改革も、生産性向上も、単発の施策ではうまくいきません。
- 現状を測る
- 課題を分ける
- 目標を決める
- 施策を実行する
- 月次で確認する
- 必要なら修正する
この繰り返しが必要です。
外来縮小でよくある失敗
外来縮小は、正しく進めれば病院機能を強化します。しかし、進め方を誤ると、患者の不満、紹介の減少、収益の悪化、現場の混乱を招きます。
失敗1:診療枠だけを減らす
最も多い失敗は、外来枠や診療日を減らすだけで、紹介・逆紹介、患者説明、予約設計、地域連携を整えないことです。
この場合、患者から見れば「予約が取りにくくなった」「診てもらえなくなった」と感じます。地域の診療所から見れば「紹介してよいのか分からない」となります。院内では予約外患者が増え、かえって現場が混乱してしまいます。
外来縮小は、必ず受け皿の設計とセットで進めるものです。
失敗2:安定再診を減らす基準がない
慢性疾患で安定している患者を地域へ戻すことは重要です。
しかし、どの患者を戻すのか、どのタイミングで戻すのか、急変時にはどう戻ってくるのか、紹介状に何を記載するのか。これらが曖昧なままだと、患者も診療所も不安になります。
逆紹介は、単なる患者の移管ではありません。診療情報、フォロー間隔、再紹介基準、薬剤変更時の注意点、検査予定、緊急時対応を整理して、はじめて機能します。
失敗3:医師の負担が減ったかを測らない
外来枠を減らしても、医師の残業が減らないことがあります。
その理由は、書類、説明、病棟対応、緊急入院、会議、診療録記載といった業務が残っているからです。外来患者数が減っても、医師が本当に時間を取り戻せているかを測らなければ、働き方改革にはつながりません。
ここで見るべき数字は、外来患者数だけではありません。医師の時間外労働、文書作成件数、診療録記載時間、退院サマリーの遅延、病棟回診時間、手術開始の遅延、救急応需率です。
失敗4:補助者を配置しただけで終わる
医師事務作業補助者や看護補助者を配置しても、業務設計がなければ効果は限定的です。
- 医師が補助者に何を依頼してよいか分からない
- 補助者がどこまで書いてよいか分からない
- 看護師が、補助者へ任せるより自分でやった方が早いと感じる
- 電子カルテの権限が不十分
- 教育担当がいない
- 評価指標がない
この状態では、人件費だけが増えていきます。補助者の活用は、配置ではなく運用設計こそが本体です。
失敗5:人件費率だけで判断する
働き方改革を進めると、人件費率が上がることがあります。
補助者を配置する。夜勤体制を厚くする。看護師を増やす。クラークを入れる。ICTを導入する。教育時間を確保する。これらは、短期的には費用増です。
しかし、それによって医師の長時間労働が減り、入院・救急・手術への対応力が上がり、離職が減り、患者安全が高まるのであれば、単なるコスト増ではありません。
問題は、人件費率が上がること自体ではないのです。上がった人件費が、病院の機能・収益力・安全性・定着率につながっているかを測れていないこと。そこにこそ問題があります。
外来縮小と生産性向上をつなぐKPI
外来縮小、働き方改革、医療職の生産性を経営判断に使うには、月次で見る指標を決めておく必要があります。
ただし、KPIを増やしすぎると運用されなくなります。経営会議で確認できる粒度に絞ることが大切です。
外来機能に関するKPI
- 初診患者数
- 紹介初診数
- 逆紹介数
- 紹介率・逆紹介率
- 予約外患者数
- 外来患者数のうち安定再診患者の割合
- 外来から入院につながった件数
- 外来から手術・処置につながった件数
- 診療科別外来単価
- 外来待ち時間
- 予約枠稼働率
- キャンセル率
- 再診期間の適正性
医師負担に関するKPI
- 医師の時間外労働時間
- 外来担当コマ数
- 医師1人あたり外来患者数
- 診療録記載遅延件数
- 退院サマリー遅延件数
- 診断書・紹介状の作成日数
- 病棟回診開始時刻
- 手術開始遅延件数
- 救急応需率
- 当直・オンコール回数
医療職の生産性に関するKPI
- 看護師1人あたり患者数
- 病棟別の夜勤負担
- 看護補助者の配置効果
- 医師事務作業補助者の担当業務件数
- 薬剤師による薬剤説明・処方支援件数
- リハビリ提供単位数
- 管理栄養士・MSWの介入件数
- 職種別残業時間
- 離職率
- 休職者数
- 採用充足率
- 教育進捗
財務に関するKPI
- 外来医業収益
- 外来部門損益
- 入院医業収益
- 外来から入院への転換収益
- 診療科別損益
- 人件費率
- 職種別人件費
- 補助者配置コスト
- 残業代
- 紹介患者1人あたり収益
- 入院単価
- 病床稼働率
- 資金繰りへの影響
ここで大切なのは、外来患者数を単独で見ないことです。
外来患者数が減っても、紹介患者が増え、入院・手術・救急対応が強まり、医師残業が減り、病床稼働率が安定し、離職が下がっているなら、経営としては前進している可能性があります。
逆に、外来患者数が増えても、医師の残業が増え、入院対応が遅れ、患者の待ち時間が伸び、スタッフが疲弊し、紹介患者が減っているなら、その外来拡大は成長ではなく、負荷の増大にほかなりません。
実務ステップ1:外来患者を「病院で診るべき理由」で棚卸しする
最初に、外来患者を診療科別に棚卸しします。
ここで見るべきなのは、単なる患者数ではありません。
- なぜ病院外来で診ているのか
- 診療所では対応できない理由は何か
- 入院・手術・高度検査・専門治療につながっているか
- 安定再診として地域へ戻せるか
- 退院後フォローは何か月必要か
- 再紹介基準は決まっているか
- 患者説明はできているか
この棚卸しを行うと、外来縮小の対象がおのずと見えてきます。
「減らす患者」を探すのではありません。「病院外来で診る意味」を確認するのです。
実務ステップ2:紹介・逆紹介の設計を行う
外来縮小は、地域連携なしには成立しません。
紹介患者を受ける病院であるなら、逆紹介を設計する必要があります。診療所へ戻す患者の基準、戻すタイミング、診療情報提供書の内容、再紹介基準、急変時の連絡ルートを、あらかじめ決めておきます。
診療所側から見て、「この病院は紹介しやすい」「必要なときに戻せる」と感じてもらえること。これが何より重要です。
逆紹介を単なる件数目標にしてしまうと、患者も診療所も不安になります。逆紹介とは、地域で患者を支えるための情報連携であり、同時に病院の信頼形成でもあります。
実務ステップ3:外来予約枠を機能別に組み替える
外来枠は、単に午前・午後、曜日、診療科で決めるだけでは不十分です。
- 紹介初診枠
- 術前評価枠
- 検査結果説明枠
- 退院後短期フォロー枠
- 処置・化学療法枠
- オンライン説明・電話再診等の対象検討
- 緊急相談枠
- 逆紹介前の最終確認枠
このように、外来枠を機能別に設計していきます。
すべてを同じ診察枠で運用すると、重い患者と軽い患者、説明が必要な患者と定型処方の患者が混ざり合い、待ち時間も医師負担も増えてしまいます。
外来縮小では、患者数だけでなく、外来枠の中身を変えることが重要なのです。
実務ステップ4:タスクシフトの対象業務を明確にする
次に、医師が外来で行っている業務を分解します。
- 問診
- 検査説明
- 予約調整
- 診療録入力
- 文書作成
- 処方確認
- 患者への一般的説明
- 同意書準備
- 紹介状・返書作成
- 次回受診案内
- 電話問い合わせ対応
このなかで、医師が直接行うべき業務と、補助者・看護師・薬剤師・事務職が担える業務とを分けていきます。
ただし、法令上・職種上の業務範囲、医師の指示・確認、記録責任、患者への説明責任については、慎重に確認する必要があります。タスクシフトは、業務を曖昧に渡すことではありません。
職種別に、次のような整理が欠かせません。
- 誰が実施するか
- 誰が確認するか
- どの記録を残すか
- 患者へどの範囲まで説明するか
- 医師へ戻す基準は何か
- 教育は誰が行うか
- 評価指標は何か
この設計がないままでは、タスクシフトはかえって現場の負担増になってしまいます。
実務ステップ5:人件費を「率」ではなく「機能別」に見る
病院経営では、人件費率がよく見られます。
もちろん重要な指標です。しかし、人件費率だけを見ていても、医療職の生産性は判断できません。
同じ人件費率でも、次のように中身はまったく違ってきます。
- 医師が外来に張り付いている
- 看護師が事務作業に追われている
- 医師事務作業補助者が機能している
- 薬剤師が病棟業務に関与している
- リハ職が退院支援に結びついている
- MSWが入退院支援を円滑にしている
- 医療事務が返戻・査定を減らしている
- 看護補助者が看護師の専門業務時間を生んでいる
見るべきなのは、人件費率の高さだけではありません。職種ごとの時間が、病院機能に結びついているかどうかです。
人件費を削れば、短期的には利益が増えるかもしれません。しかし、病棟稼働、救急受入れ、退院支援、紹介対応、医師の働き方、看護師の定着が悪化すれば、中長期的にはむしろ病院の収益力を下げてしまいます。
人件費はコストであると同時に、病院機能を支える投資でもあるのです。
実務ステップ6:ICT・DXは、業務フロー変更とセットで導入する
予約システム、Web問診、電子カルテ、音声入力、文書作成支援、RPA、オンライン説明、患者アプリ、院内チャットなどは、外来再設計に役立つ可能性があります。
しかし、ICTを導入すれば自動的に生産性が上がる、というわけではありません。
予約システムを入れても、予約枠の設計が悪ければ待ち時間は減りません。Web問診を入れても、医師が読みにくい形で出てくれば、診療時間は短縮されません。電子カルテを更新しても、入力テンプレートが現場に合っていなければ、記録時間はかえって増えます。文書作成支援を入れても、確認責任や運用ルールがなければ、医師は安心して使えません。
ICT投資は、次の問いとセットで判断します。
- どの業務時間を削減するのか
- どの職種の負担を減らすのか
- 医師時間を何分回収できるのか
- 患者待ち時間は減るのか
- レセプト・文書・説明の品質は上がるのか
- 導入費用と保守費用はどれくらいか
- 現場教育にどれくらい時間がかかるか
- セキュリティ・個人情報管理は十分か
医療機関の効率化においては、電子カルテ等ICTの利活用やバックオフィス業務のICT化も重要な論点になりますが、投資判断には業務フローの変更と採算の検証が伴っていなければなりません。
実務ステップ7:月次で「外来を減らした効果」を確認する
外来縮小を実行したら、必ず月次で確認します。
このとき、外来患者数が減ったかどうかだけを見てはいけません。次のように、複数の指標で確認します。
- 紹介患者は増えたか
- 逆紹介は進んだか
- 入院患者数は維持・改善しているか
- 救急受入れは改善しているか
- 手術件数や検査件数はどう変化したか
- 医師の時間外労働は減ったか
- 診療録記載の遅延は減ったか
- 患者待ち時間は減ったか
- 看護師・医療事務の負担はどう変わったか
- 人件費率はどう変化したか
- 外来収益の減少を、入院・手術・救急機能の強化が補っているか
- 資金繰りに悪影響はないか
外来縮小は、1か月で評価できるものではありません。それでも、月次で見ていなければ、早期の修正はできません。
月次決算、部門別損益、KPI、勤怠データ、医事データを、同じ会議の場で確認していく必要があります。数字を別々に持っているだけでは、経営判断にはなりません。
外来縮小は、承継・M&Aにも影響する
外来機能、働き方改革、人材の生産性は、将来の承継・M&Aにおいても見られる論点です。
買い手や後継者は、売上総額だけを見ているわけではありません。
- 医師に過度に依存していないか
- 特定の医師が外来を抱え込んでいないか
- 医師の時間外労働は管理されているか
- 紹介・逆紹介の仕組みはあるか
- 外来患者の構造を説明できるか
- 病棟・外来・手術・救急の人員配置は持続可能か
- 看護師・医療職の離職率はどうか
- 補助者活用やタスクシフトは属人的になっていないか
- 月次で部門別採算を把握しているか
- 勤務環境改善の取り組みは記録されているか
外来患者数が多くても、それが特定の医師の過重労働で成り立っているのであれば、承継可能性が高いとは言えません。
逆に、外来患者数を適正化し、紹介・逆紹介、入院機能、タスクシフト、医師事務作業補助者、看護師配置、月次管理が整っている病院は、第三者にも説明しやすい経営になります。
守りの管理体制を整えることは、将来の成長・承継・M&Aの選択肢を広げることにつながります。
経営者が毎月確認すべき問い
外来縮小と働き方改革を経営判断に変えていくために、院長・理事長・事務長には、毎月、次の問いを確認していただきたいと思います。
- 外来患者数は、病院機能に合った中身になっているか
- 紹介初診と安定再診を、分けて見ているか
- 外来から入院・手術・検査につながる流れを把握しているか
- 逆紹介の基準と件数を確認しているか
- 医師の外来時間、文書時間、病棟時間を把握しているか
- 医師の時間外労働を、制度対応だけでなく機能戦略として管理しているか
- 医師事務作業補助者や看護補助者の効果を、数字で確認しているか
- 看護師・医療職の残業、離職、休職、教育の状況を見ているか
- ICT投資は、具体的な業務時間の削減につながっているか
- 外来縮小による収益減と、入院・救急・手術・地域連携への効果を、あわせて見ているか
- 金融機関、後継者、外部関係者に説明できる数字になっているか
これらの問いに答えられる状態をつくること。それこそが、外来縮小の実務です。
まとめ:病院外来は「量」から「機能」へ移る
これからの病院経営において、外来患者数を増やすことだけを目標にするのは、危険な発想です。
医師の働き方改革により、医師の時間はこれまで以上に明確に管理されていきます。さらに2040年を見据えると、現役世代の担い手が急減し、「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場」を実現することが必要であると、厚生労働省も示しています。
出典:厚生労働省|2040年を展望した社会保障・働き方改革について
外来縮小は、患者数を減らすための施策ではありません。
- 病院外来で診るべき患者を明確にすること
- 紹介・逆紹介を整えること
- 医師の時間を、入院・救急・手術・専門機能へ再配分すること
- 医師事務作業補助者や看護補助者を活用し、専門職が本来業務に集中できるようにすること
- 人件費を単なるコストではなく、病院機能を支える投資として管理すること
- 外来、入院、人件費、勤怠、紹介、資金繰りを、月次で結びつけること
これらを一体で進めていくことが、外来縮小の本質です。
病院経営は、診療報酬制度、医師の働き方、医療職の採用・定着、患者導線、地域連携、部門別採算、資金繰りが、複雑に絡み合っています。だからこそ、感覚ではなく、数字と仕組みで判断していく必要があるのです。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
外来縮小、医師の働き方改革、医療職の生産性向上は、労務だけ、医事だけ、会計だけで判断できるテーマではありません。
外来患者数、紹介・逆紹介、入院収益、病棟稼働、医師の時間外労働、職種別人件費、補助者配置、離職率、資金繰り、設備・ICT投資。これらを同じ前提で整理しなければ、自院にとってどの施策が必要なのかは、見えてきません。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関を単なる申告対象ではなく、継続的に経営管理されるべき事業体として捉えています。そのうえで、月次決算、部門別・機能別採算、資金繰り、事業計画、人件費管理、承継・M&Aを見据えた管理体制の整備を支援しています。
外来機能を見直したい、医師の働き方改革に対応しながら収益力を維持したい、医師事務作業補助者や看護補助者の採算を整理したい、病院全体の人件費と生産性を月次で見える化したい。そうお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
最初のご相談では、外来患者数だけでなく、外来から入院への流れ、医師の時間配分、職種別人件費、勤怠、紹介・逆紹介、部門別損益を並べて、自院がどこから整えるべきかを整理していくことが重要です。
この記事の振り返り
| 論点 | 経営上の意味 | 確認すべき数字・資料 |
|---|---|---|
| 外来縮小 | 患者数削減ではなく、病院外来の機能再設計 | 外来患者分類、紹介初診、安定再診、逆紹介対象患者 |
| 医師の働き方改革 | 医師時間をどの機能へ配分するかを問う経営条件 | 時間外労働、外来コマ数、病棟時間、文書作成時間 |
| 外来機能分化 | 病院と診療所・在宅・介護の役割分担を明確にする | 外来機能報告、紹介率、逆紹介率、紹介受診重点医療機関該当性 |
| 外来収益 | 外来単独の売上ではなく、入院・手術への貢献を見る | 外来収益、外来部門損益、外来から入院への転換件数 |
| タスクシフト | 医師の業務を多職種で再設計する | 業務棚卸表、職種別業務範囲、記録・確認ルール |
| 医師事務作業補助者 | 人件費ではなく、医師時間を生む投資として見る | 補助者人件費、文書作成件数、医師残業、診療録遅延 |
| 看護師・医療職の生産性 | 忙しく働かせることではなく、専門性に集中できる設計 | 職種別残業、離職率、休職者数、夜勤負担、教育進捗 |
| ICT・DX | ツール導入ではなく、業務フロー変更とセットで判断 | 導入費用、削減時間、予約稼働率、Web問診活用、記録時間 |
| 勤務環境改善 | 精神論ではなくPDCAで進める管理体制 | 現状分析、改善目標、改善計画、評価、見直し記録 |
| 月次管理 | 外来縮小の効果を継続的に確認する仕組み | 月次試算表、部門別損益、勤怠、医事データ、資金繰り表 |