病院の経営改善を考えるとき、まず気をつけていただきたいことがあります。それは、すべての病院を同じ物差しで比べないことです。
同じ「赤字」という言葉でも、公立病院と民間病院とでは、その意味合いがまるで違います。「給与費比率が高い」という指摘ひとつをとっても、急性期病院、慢性期病院、ケアミックス病院では、その背景が異なります。「病床稼働率が低い」という状況にしても、政策医療を担う病院と、地域包括ケアや慢性期を中心とする病院とでは、打つべき手が変わってきます。
病院経営では、診療所の経営以上に、固定費、病床機能、人員配置、施設基準、地域医療構想、設備投資、補助金、借入返済、そして行政との関係が、複雑に絡み合っています。
ですから、経営改善を考えるときに、
「病床稼働率を上げればよい」 「人件費を下げればよい」 「赤字部門をやめればよい」 「補助金があるから問題ない」 「公立病院は特殊だから、民間の経営改善とは関係ない」
このように単純に捉えてしまうと、判断を誤りかねません。
本稿では、公立病院、民間病院、ケアミックス病院の経営改善を、開設主体・病院機能・財務構造の違いから整理していきます。目指すのは、一般論としての病院経営論ではありません。自院の状態を第三者に説明できる形で把握し、どの順番で改善していくべきかを考えるための、実務的な視点です。
まず整理すべきは「開設主体」と「病院機能」が別の軸であるということ
公立病院、民間病院、ケアミックス病院という言葉は、実は同じ分類軸の上に並んでいるわけではありません。
公立病院と民間病院の違いは、主に開設主体の違いです。自治体が設置・関与する病院なのか、それとも医療法人、社会福祉法人、公益法人、個人などが運営する病院なのか、という違いになります。
一方で、ケアミックス病院という言葉は、主に病床機能・診療機能の組み合わせを示しています。急性期、回復期、地域包括ケア、療養、慢性期、在宅支援、外来などを組み合わせて運営する病院を指すことが多く、公立のケアミックス病院もあれば、民間のケアミックス病院もあります。
したがって、経営改善を考える際には、次の2つの軸で整理しておく必要があります。
| 分類軸 | 主な問い |
|---|---|
| 開設主体 | 公立か、民間か。意思決定、補助金、説明責任、経営自由度はどう違うか |
| 病院機能 | 急性期、回復期、慢性期、精神科、ケアミックスなど、どの機能を担っているか |
この2軸を混同してしまうと、改善策がずれていきます。
たとえば同じ赤字でも、公立病院であれば、政策医療や不採算医療をどこまで担うべきかを整理する必要があります。民間病院であれば、赤字機能を継続するための資金余力と事業継続性を、より厳しく見なければなりません。ケアミックス病院であれば、病棟ごとの役割と患者の流れが整理されていなければ、全体の黒字・赤字だけを見ても原因は見えてきません。
病院経営の基本指標としては、病床稼働率、初診率、入院ルート、診療圏、経常利益率、借入金水準、外来損益分岐点などが重要になります。ただし、これらの読み方も、病院の類型や機能によって変わってくるのです。
病院経営を取り巻く環境は、公立・民間を問わず厳しくなっている
病院経営は、公立・民間を問わず、年々厳しさを増しています。
独立行政法人福祉医療機構が公表した調査によれば、一般病院の経常利益率は2か年度連続でマイナスとなり、赤字病院の割合は約6割に上っています。経常利益率の低下はすべての病院類型で続いており、なかでも一般病院と精神科病院はマイナス値となっています。
出典:独立行政法人福祉医療機構|2024年度 病院の経営状況について
公立病院も例外ではありません。全国自治体病院協議会の調査では、高度急性期病床または急性期病床を有する会員病院のうち、令和6年度に経常損失を生じた病院の割合は91%にのぼりました。医業費用の構成比を見ると、職員給与費が51%、材料費が24%、その他が25%となっており、人件費と材料費の上昇が経営を大きく圧迫している様子がうかがえます。
出典:公益社団法人全国自治体病院協議会|会員病院の令和6年度決算状況調査結果
さらに、地域医療構想をめぐる議論にも変化が見られます。厚生労働省のとりまとめでは、必要病床数は医療機関が目指すべき数値ではないこと、高度急性期・急性期については地域での協議の中で一体として取り扱うこと、そして病床機能報告が一定の客観性を持つよう、診療報酬の入院料の種類をガイドラインで示す必要があること、こうした点が整理されています。
出典:厚生労働省|新たな地域医療構想に関するとりまとめ
つまり、これからの病院経営の改善は、院内の努力だけで完結するものではありません。
地域の中で、どの機能を担うのか。 自院の病床機能は、将来の需要と合っているのか。 医師・看護師・薬剤師・リハ職・事務職を確保できるのか。 診療報酬改定や地域医療構想の方向性と、整合しているのか。 借入返済と設備更新を続けながら、医療提供体制を維持できるのか。
これらの問いに答えられなければ、経営改善は単なる経費削減に終わってしまいます。
公立病院の経営改善は「赤字をなくす」だけでは整理できない
公立病院の経営改善では、赤字を単純に「悪」と捉えることはできません。
公立病院は、救急、災害、感染症、周産期、小児、へき地、精神、政策医療など、民間の医療機関だけでは維持しにくい医療を担うことがあります。地域によっては、公立病院が最後の入院機能、救急受入機能、災害時医療機能を担っている場合もあるでしょう。
ですから、公立病院の経営改善でまず取り組むべきことは、「赤字を減らすこと」ではなく、赤字の中身を分けることです。
具体的には、次のように分解していきます。
| 区分 | 内容 | 改善の方向性 |
|---|---|---|
| 政策医療・不採算医療に伴う赤字 | 地域に必要だが、採算が取りにくい医療 | 必要性、範囲、補助・繰入の妥当性を説明する |
| 運営効率の低さによる赤字 | 病床稼働率、在院日数、人員配置、委託費、材料費などの問題 | 経営改善の対象として具体策を検討する |
| 機能選択の不整合による赤字 | 地域需要と病床機能、施設基準、診療体制が合っていない | 機能転換、連携、病床再編を検討する |
| 投資・借入による赤字 | 建設、医療機器、減価償却、支払利息、返済負担 | 投資回収、資金繰り、更新計画を見直す |
公立病院でしばしば問題になるのは、政策医療に必要なコストと、運営上改善すべきコストとが、混ざってしまうことです。
本来、地域に必要な不採算医療に対する負担は、自治体・住民・議会・関係機関に説明されるべきものです。その一方で、稼働率の低下、過剰な固定費、部門別採算の未把握、委託費の増加、材料費管理の不備、施設基準の取りこぼしといった問題まで、政策医療の名の下に曖昧にしてしまってはいけません。
公立病院の財務悪化を論じるうえでは、給与費比率や委託費比率の高さ、繰入金への依存、経営自由度の制約などが重要な論点になります。とりわけ、政策的医療に取り組む必要性と、財務的な規律を保つ必要性は、対立させるのではなく、同時に整理することが求められます。
公立病院では「繰入金を受けているから大丈夫」ではなく、説明可能性が問われる
公立病院では、自治体からの繰入金、補助金、地方財政措置が、経営を支えていることがあります。
しかし、繰入金があるということは、経営改善が不要であるという意味ではありません。むしろ、繰入金があるからこそ、どの医療機能に、どれだけの公的負担が必要なのかを説明する責任が、いっそう重くなります。
たとえば、次のような状態は危険です。
不採算医療の範囲が明確でない。 政策医療と通常診療の赤字が区分されていない。 病棟別・診療科別・機能別の採算が見えていない。 繰入金を除いた医業収支が把握されていない。 自治体や議会への説明が、前年度比較だけになっている。 住民に対して、病院が何を守っているのかを説明できていない。 赤字の原因が、医療機能の必要性によるものなのか、運営効率の問題なのか分からない。
公立病院の経営改善では、繰入金を「赤字の穴埋め」として扱うのではなく、地域医療を継続するための負担として、根拠を持って整理する必要があります。
そのためには、少なくとも次の資料が必要になります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 繰入金・補助金の内訳表 | どの機能に公的負担が入っているかを示す |
| 診療科別・病棟別損益 | 政策医療と運営効率の問題を分ける |
| 救急・災害・感染症等の実績 | 公立病院としての役割を説明する |
| 医業収支・経常収支の推移 | 補助前後の収支構造を把握する |
| 職種別人員・給与費分析 | 人員体制と固定費の妥当性を検討する |
| 地域医療構想との整合資料 | 自院機能の必要性を地域単位で説明する |
公立病院にとっての経営改善は、民間企業のような利益最大化ではありません。地域に必要な医療を残すために、どこまでを公的負担で支え、どこからを経営努力で改善するのかを、明確にすることなのです。
民間病院の経営改善は、資金繰りと意思決定の早さが問われる
民間病院は、公立病院に比べて経営判断の自由度が高い反面、資金繰りに対する責任がより直接的にのしかかります。
赤字が続けば、借入返済、賞与、設備更新、採用、修繕、医療機器の更新に、すぐに影響が出ます。補助金や一時的な外部要因で収支が改善しているように見えても、本業の医業収支が悪化していれば、長期的には厳しくなっていきます。
民間病院でとくに注意したいのは、「利益」と「資金」の違いです。
損益計算書の上では赤字幅が小さくても、借入元本の返済、設備更新、リース料、税金、賞与、未収金の増加が重なれば、手元資金は急速に減っていきます。逆に、会計上は減価償却費が重く見えても、返済が少なく、現預金が十分に残っていれば、短期的な安全性は保たれている場合もあるのです。
民間病院では、次の順番で経営改善を整理していきます。
- 医業収支は黒字化できる構造か
- 補助金や一過性収益を除いた実力値はどうか
- 借入返済後に資金が残るか
- 病棟別・診療科別に赤字要因を把握しているか
- 人件費・材料費・委託費の増加を、価格・診療報酬・稼働率で吸収できているか
- 設備更新と建物修繕の資金を確保できているか
- 承継・M&A時に説明できる財務内容か
民間病院は、公立病院より意思決定が速い一方で、判断を誤ったときの影響もまた、早く表れます。
不採算病棟を維持するのか。 地域包括ケア病棟を強化するのか。 在宅後方支援を担うのか。 リハビリを伸ばすのか。 外来を縮小するのか。 急性期を維持するのか。 慢性期・療養を中心にするのか。
これらは、理念や地域貢献だけで決めるものではありません。人員、施設基準、稼働率、診療報酬、借入返済、将来需要を合わせて判断する必要があります。
民間病院では「自由度」があるからこそ、撤退基準と投資基準が必要になる
民間病院の強みは、経営判断の自由度にあります。新規機能の立ち上げ、病棟転換、外来の見直し、採用強化、業務委託の見直し、ICT投資、広報強化などを、比較的迅速に進めやすい面があります。
しかし、自由度があるからこそ、判断の基準が欠かせません。
採算が悪いからすぐやめる。 患者が多いからすぐ増やす。 補助金があるから投資する。 医師が希望するから機器を買う。 金融機関が貸してくれるから建て替える。
こうした判断は、短期的には合理的に見えても、長期的にはリスクを増やしてしまうことがあります。
民間病院では、次のような基準をあらかじめ持っておくべきです。
| 判断領域 | 必要な基準 |
|---|---|
| 新規投資 | 投資額、回収期間、稼働率、必要人員、資金繰りへの影響 |
| 病棟転換 | 施設基準、人員配置、地域需要、単価、退院支援体制 |
| 不採算部門 | 赤字額、地域必要性、代替機能、撤退時の患者・職員への影響 |
| 設備更新 | 故障リスク、診療停止リスク、収益貢献、更新資金 |
| 採用 | 人件費率、生産性、教育期間、離職率、資金負担 |
| 借入 | 返済原資、既存借入、金利、返済後キャッシュ |
自由度の高さは、場当たり的な判断を許すためのものではありません。数字に基づく意思決定を、速やかに行うためのものなのです。
ケアミックス病院の経営改善は、全体損益だけでは見えない
ケアミックス病院の経営改善で最も大切なのは、全体損益だけで判断しないことです。
ケアミックス病院では、急性期、地域包括ケア、回復期、療養、慢性期、在宅支援、外来が組み合わさっています。病棟ごとに、患者像、在院日数、入院単価、人員配置、リハビリ提供量、退院支援、材料費、看護必要度、施設基準が異なります。
そのため、病院全体では黒字でも、特定の病棟が赤字を生み、他の病棟がそれを補っている、ということがあります。反対に、全体では赤字でも、一部の病棟や診療機能には明確な強みがある、という場合もあるのです。
ケアミックス病院では、次のように機能別に見ていきます。
| 機能 | 見るべき数字 |
|---|---|
| 急性期 | 新入院患者数、救急・紹介件数、入院単価、平均在院日数、材料費率 |
| 地域包括ケア | 在宅復帰率、入院ルート、退院支援、在院日数、リハビリ提供量 |
| 回復期 | リハビリ単位数、実績指数、在宅復帰、職種別人員、病床稼働率 |
| 療養・慢性期 | 医療区分、介護度、看護・介護職員配置、長期入院患者構成 |
| 外来 | 外来患者数、初診率、紹介率、逆紹介率、外来単価、医師負担 |
| 在宅支援 | 訪問件数、看取り、連携先、後方病床、オンコール負担 |
ケアミックス病院の本質は、「複数の機能を持っていること」ではありません。患者の流れを設計できていることです。
急性期で受け入れ、状態が安定したら地域包括ケアや回復期へつなぐ。 在宅や施設からの急変を受け入れる。 退院支援を強化し、在宅復帰につなげる。 慢性期・療養機能を、地域の高齢者医療と結びつける。 外来を、入院・在宅・紹介の入口として位置づける。
この流れがないまま病床機能だけを並べても、ケアミックスの強みは発揮されません。
近年は、病床数を見直して一部を地域包括ケア病床へ転換し、在宅療養支援病院として近隣の診療所の後方ベッドを担う病院も増えています。
ケアミックス病院では、病棟間の「内部紹介」と「滞留」を見る
ケアミックス病院の改善では、病棟ごとの損益を見るだけでは不十分です。病棟と病棟のあいだで、患者がどのように動いているかを見ていきます。
急性期から地域包括ケアへ、適切に転棟できているか。 回復期へ移るべき患者が、急性期に滞留していないか。 慢性期病床に、医療必要度の低い患者が長期滞留していないか。 在宅復帰の調整が遅れ、平均在院日数が伸びていないか。 外来が入院につながっているか。 紹介患者が入院に結びついているか。 在宅・施設からの受入れが、病床稼働に寄与しているか。
ここで大切なのは、入院単価だけを上げようとしないことです。
単価を上げるには、患者構成、診療密度、施設基準、人員配置、リハビリ提供量、入退院支援が伴っていなければなりません。単価だけを目標にしても、現場が対応できなければ、返戻・査定・施設基準リスク・職員疲弊につながってしまいます。
ケアミックス病院では、次の3つの滞留を見つけることが、改善の入口になります。
| 滞留の種類 | 問題点 | 改善視点 |
|---|---|---|
| 急性期病棟での滞留 | 単価低下、病床回転低下、新入院受入れ困難 | 転棟基準、退院支援、地域包括ケア活用 |
| 回復期・地域包括ケアでの滞留 | 在宅復帰遅れ、リハ資源の非効率 | 退院調整、家族説明、介護連携 |
| 療養・慢性期での滞留 | 医療必要度と機能の不整合 | 患者構成、施設・在宅連携、病床機能見直し |
ケアミックス病院の経営改善は、病床稼働率を上げることだけではありません。適切な病床に、適切な患者が、適切な期間入院しているかを確認することなのです。
給与費比率は「高い・低い」だけでは判断できない
病院経営では、給与費比率がよく問題になります。
たしかに、病院は労働集約型の事業です。医師、看護師、薬剤師、リハ職、技師、医療事務、管理部門など、多職種の人員によって医療が提供されています。給与費比率が高すぎれば、利益を圧迫します。
しかし、給与費比率だけを下げようとすると、医療の質、施設基準、職員定着、患者対応、救急受入れ、稼働率に、悪影響が出てしまいます。
とりわけ急性期病院や公立病院では、24時間体制、救急、災害、感染症、政策医療を維持するために、一定の人員が欠かせません。ケアミックス病院でも、病棟ごとの看護師、介護職、リハ職、退院支援担当などの配置が、収益構造と直結しています。
ですから、給与費比率を見るときは、次のように分解していきます。
| 視点 | 確認する内容 |
|---|---|
| 職種別 | 医師、看護師、リハ職、薬剤師、技師、事務、委託の構成 |
| 機能別 | 急性期、回復期、療養、外来、在宅、手術、検査ごとの人員 |
| 生産性 | 医師1人当たり入院患者、看護師1人当たり病床、リハ単位数 |
| 固定性 | 患者数が減っても下げられない人件費がどれだけあるか |
| 収益貢献 | 人員配置により取得できる施設基準・加算・稼働率 |
| 離職影響 | 離職率、採用費、教育期間、残業、メンタル不調 |
給与費比率が高い原因が、必要な人員配置によるものなのか、過剰配置なのか、稼働率の不足なのか、単価の不足なのか、それとも委託費との二重負担なのか。これらをきちんと分けて考えなければなりません。
人件費は、削減の対象であると同時に、医療機関の提供価値と生産性の基盤でもあります。職種別の人員、生産性、売上に対する人件費、採用投資、教育期間、離職コストを合わせて見ていくことが重要です。
公立病院・民間病院・ケアミックス病院で、同じ指標でも見方が違う
病院経営には、共通して見るべき指標があります。しかし、その意味は病院の類型によって変わってきます。
| 指標 | 公立病院での見方 | 民間病院での見方 | ケアミックス病院での見方 |
|---|---|---|---|
| 医業収支比率 | 繰入金前の本業収支を確認し、政策医療と運営効率を分ける | 本業で資金を生めるかを確認する | 病棟・機能別に本業収支を分解する |
| 経常収支比率 | 補助金・繰入金を含む全体収支と説明責任を見る | 一過性収益を除いた実力値を確認する | 機能別損益と全体収支の関係を見る |
| 病床稼働率 | 地域機能維持と効率性の両立を見る | 採算ラインと返済能力を見る | 病棟間の患者流れと滞留を見る |
| 入院単価 | 政策医療との関係を踏まえて見る | 診療密度と収益性を確認する | 急性期・回復期・慢性期で別々に見る |
| 給与費比率 | 必要体制と過剰固定費を分ける | 固定費負担と生産性を見る | 職種別・病棟別配置の妥当性を見る |
| 材料費率 | 高度医療・救急・手術との関係を見る | 利益率と仕入管理を見る | 診療機能ごとの材料費構造を見る |
| 補助金・繰入金 | 必要性と使途の説明が重要 | 一時的収益として依存度を管理する | 病棟転換・在宅支援等との関係を見る |
| 借入金 | 建設・設備投資と自治体関与を含めて見る | 返済後キャッシュで見る | 機能転換・設備更新との整合性を見る |
大切なのは、「指標を並べること」ではありません。自院の開設主体と病院機能に合わせて、その指標の意味を読み取ることです。
公立病院の改善順序
公立病院では、まず役割を明確にします。
地域において、何を守る病院なのか。救急なのか、災害なのか、感染症なのか、周産期なのか、へき地医療なのか、精神医療なのか、高齢者救急なのか、それとも在宅後方支援なのか。
そのうえで、経営改善は次の順番で進めていきます。
| 順番 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 地域で担う役割・機能を明確にする |
| 2 | 政策医療・不採算医療と通常診療の収支を分ける |
| 3 | 繰入金・補助金の使途と根拠を整理する |
| 4 | 病床機能と地域医療構想との整合性を確認する |
| 5 | 給与費・委託費・材料費の改善余地を分析する |
| 6 | 経営形態、連携、再編、指定管理、地方独立行政法人化等の選択肢を検討する |
| 7 | 住民・議会・金融機関・関係医療機関に説明できる資料を整える |
公立病院の改善では、経営そのものだけでなく、説明責任が極めて重要になります。
「赤字だが必要です」では、不十分です。「何が必要で、いくら必要で、何を改善し、どこまでの公的負担が妥当なのか」を、説明できるようにしておく必要があります。
民間病院の改善順序
民間病院では、まず本業収支と資金繰りを確認します。
経常利益が黒字かどうかだけでは足りません。補助金や一過性収益を除いた医業収支、借入返済後のキャッシュ、設備更新の余力を見ておく必要があります。
改善の順番は、次のとおりです。
| 順番 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 月次決算を早期化し、医業収支と資金繰りを確認する |
| 2 | 病棟別・診療科別・機能別の採算を分ける |
| 3 | 赤字機能の原因を、単価・稼働率・人件費・材料費・施設基準に分解する |
| 4 | 継続・縮小・転換・撤退の判断基準を作る |
| 5 | 借入返済と設備更新を織り込んだ3年から5年の計画を作る |
| 6 | 採用・離職・人件費計画を収支計画に接続する |
| 7 | 承継・M&Aでも説明できる資料管理と内部統制を整える |
民間病院では、改善策を実行するスピードが重要です。
ただし、スピードだけでは危うさが残ります。数字の前提が曖昧なまま病棟転換や設備投資を進めてしまうと、後になって資金繰りが苦しくなってしまいます。
ケアミックス病院の改善順序
ケアミックス病院では、まず「どの機能が、どの患者を、どの期間、どの収益構造で受け入れているか」を整理します。
改善の順番は、次のとおりです。
| 順番 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 病棟ごとの機能、施設基準、人員配置を一覧化する |
| 2 | 入院ルート、転棟ルート、退院先を可視化する |
| 3 | 病棟別の稼働率、単価、在院日数、職種別人員を確認する |
| 4 | 急性期・地域包括ケア・回復期・療養の役割分担を見直す |
| 5 | 滞留患者、転棟遅れ、退院支援遅れを把握する |
| 6 | 在宅、施設、診療所、介護事業者との連携を強化する |
| 7 | 病院全体の中期計画に、病床機能転換と資金計画を織り込む |
ケアミックス病院は、複数の機能を持つだけに、経営改善の余地もまた大きいといえます。その一方で、機能と機能の境界が曖昧だと、どこで利益が出て、どこで損失が出ているのかが、分からなくなってしまいます。
全体では黒字に見えても、将来の病床転換に耐えられない場合があります。逆に全体では赤字でも、地域で必要な機能に絞り込めば再生できる場合もあるのです。
補助金・繰入金・不採算医療をどう扱うか
公立病院でも民間病院でも、補助金や助成金は重要です。とくに感染症対応、地域医療構想、病床再編、医師確保、設備整備などでは、公的支援が経営に影響します。
ただし、補助金や繰入金は、経営改善を先送りするためのものではありません。
見るべきなのは、次の3つです。
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| 継続性 | その補助金・繰入金は今後も続くのか |
| 対象性 | どの医療機能・費用を支えるものなのか |
| 依存度 | 補助金がなくなった場合、本業収支はどうなるのか |
公立病院では、公的負担の必要性を説明するために使います。 民間病院では、一過性収益を除いた実力値を把握するために使います。 ケアミックス病院では、病床転換や地域連携投資の採算を確認するために使います。
補助金を受け取ること自体が問題なのではありません。問題なのは、補助金込みの収支を、実力値と誤認してしまうことです。
経営改善に必要な月次資料
病院の類型を問わず、経営改善には月次の資料が必要です。年1回の決算書だけでは、改善はどうしても遅れてしまいます。
少なくとも、次の資料を毎月確認できる状態を作っておくべきです。
| 資料 | 見るべき内容 |
|---|---|
| 月次試算表 | 医業収益、医業費用、経常収支、補助金、一過性損益 |
| 資金繰り表 | 現預金、借入返済、税金、賞与、設備支払、補助金入金 |
| 病棟別損益 | 病棟ごとの売上、直接費、人件費、共通費、利益 |
| 診療科別損益 | 診療科ごとの収益性、材料費、医師人件費、検査・手術 |
| 稼働率表 | 病床稼働率、平均在院日数、新入院患者数、退院患者数 |
| 入院ルート表 | 救急、紹介、外来、在宅、施設からの入院 |
| 職種別人員表 | 医師、看護師、薬剤師、リハ職、技師、事務、委託 |
| 施設基準管理表 | 届出、要件、実績、研修、定例報告、返還リスク |
| 借入一覧 | 借入残高、返済額、金利、担保、保証、返済期限 |
| 設備更新表 | 固定資産、耐用年数、保守、修繕、更新予定 |
内部統制の観点からも、施設基準、医業収益管理、資金管理、固定資産管理、予算管理、内部・外部監査といった領域は、病院経営の説明責任を支える重要な部分です。
「公立か民間か」よりも、最後は説明できる病院かどうかが問われる
公立病院と民間病院とでは、制度も、資金も、意思決定の仕組みも異なります。ケアミックス病院では、病棟機能の組み合わせが複雑になります。
しかし、最後に問われることは、どの病院にも共通しています。
自院は、地域で何を担う病院なのか。 どの機能が収益を生み、どの機能が政策的・地域的に必要なのか。 赤字の原因は、必要な不採算医療なのか、それとも運営改善の余地なのか。 人件費は高いのか、それとも必要な体制なのか。 病床稼働率は、なぜ下がっているのか。 補助金や繰入金を除いた実力値は、どうなっているのか。 将来の設備更新、借入返済、採用に、耐えられるのか。 後継者、金融機関、行政、買い手、地域関係者に、説明できるのか。
病院経営の改善は、単なる赤字削減ではありません。医療を継続するために、何を守り、何を変え、何を数字で説明するかを決めていく作業です。
公立病院では、公的な役割と財務規律を両立させる必要があります。 民間病院では、資金繰りと機能選択を直視する必要があります。 ケアミックス病院では、病棟機能と患者の流れを設計し直す必要があります。
そして、どの病院にも共通するのは、感覚ではなく、数字と事実に基づいて経営を説明することです。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
公立病院、民間病院、ケアミックス病院の経営改善は、決算書を読むだけでは整理しきれません。
医業収支、経常収支、補助金、繰入金、病棟別損益、診療科別損益、病床稼働率、入院単価、平均在院日数、給与費比率、材料費、委託費、借入返済、設備更新、施設基準、地域医療構想。これらを同じ前提でつなげて見ていく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関を「継続的に経営管理されるべき事業体」として捉え、月次決算、資金繰り、部門別・機能別採算、医療法人会計、税務、内部統制、事業計画、そして承継・M&Aを見据えた資料整備を支援しています。
自院の赤字要因を整理したい、病棟別採算を見える化したい、補助金や繰入金を除いた実力値を確認したい、金融機関や後継者に説明できる経営改善計画を作りたい。そうしたお考えがありましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
経営改善の第一歩は、結論を急ぐことではありません。自院の数字を、第三者に説明できる状態に整えることです。
この記事の振り返り
| 論点 | 重要な視点 | 確認すべき資料・数字 |
|---|---|---|
| 分類軸 | 公立・民間は開設主体、ケアミックスは病院機能の分類 | 開設主体、病床構成、施設基準一覧 |
| 公立病院 | 政策医療と運営効率を分けて考える | 繰入金内訳、政策医療実績、医業収支 |
| 民間病院 | 本業収支と返済後キャッシュを見る | 月次試算表、資金繰り表、借入一覧 |
| ケアミックス病院 | 全体損益ではなく、病棟別・機能別に見る | 病棟別損益、入院ルート、転棟・退院先 |
| 給与費比率 | 高い・低いではなく、職種別・機能別に分解する | 職種別人員表、人件費率、離職率 |
| 補助金・繰入金 | 収支の実力値と公的負担の根拠を分ける | 補助金一覧、繰入金内訳、補助前後収支 |
| 病床稼働率 | 稼働率だけでなく、患者構成と在院日数を合わせて見る | 稼働率、平均在院日数、入院単価 |
| 施設基準 | 取得ではなく、維持管理と返還リスクを見る | 届出一覧、要件管理表、定例報告 |
| 経営改善順序 | 機能整理、採算把握、資金繰り、実行管理の順で進める | 事業計画、予実管理、改善アクション表 |
| 将来説明 | 金融機関、行政、後継者、買い手に説明できる状態にする | 決算書、月次資料、契約、議事録、内部管理資料 |