診療に採用、シフトの調整、スタッフ面談、クレーム対応、業者とのやり取り、支払いの承認、レセプトの確認、広告、設備投資、金融機関への対応、税理士とのやり取り、行政手続き、そして医療法人の議事録確認まで。
これらをほとんどすべて院長お一人で抱えている医療機関は、決して珍しくありません。開業直後や小規模な診療所であれば、院長が全体を把握し、細かな判断まで自ら下すのは、ある意味で自然なことでもあります。
しかし、患者数が増え、スタッフが増え、診療内容が広がり、医療法人化や分院、在宅医療、あるいは承継を考え始める段階に入ると、院長一人に依存した運営はやがて限界を迎えます。
役割分担は、院長の負担を軽くするためだけの話ではありません。医療機関を、院長個人の頑張りに支えられた組織から、患者さん・スタッフ・金融機関・後継者・外部関係者にきちんと説明できる事業体へと移していく、経営管理の取り組みです。
院長がすべてを抱える医療機関で起きること
院長がすべてを見ている医療機関は、一見すると統制が取れているように映ります。院長が判断すれば早い、院長が確認すれば間違いない、院長が説明すればスタッフも納得して動く。たしかに、そのように機能している時期はあります。
ところが、経営規模が大きくなるほど、次のような問題が表面化してきます。
- スタッフが、ごく小さな判断までいちいち院長に確認する
- 院長が診療中で手が離せず、現場の判断が止まってしまう
- 事務長や主任がいても、権限が曖昧で思うように動けない
- 院長の指示が日によって変わり、スタッフが混乱する
- クレーム、労務、現金、採用、会計資料といった論点が、一つの場所に集約されない
- 月次資料を見ても、現場で起きている出来事と数字がつながらない
- 院長が忙しすぎて、分院、法人運営、承継、投資判断に時間を割けない
この状態のまま、さらに成長しようとすると、組織はどうしても無理を重ねます。患者数を増やせば受付や会計が乱れ、新しいスタッフを採用しても教育が追いつかない。在宅医療や自由診療を始めれば既存業務と衝突し、医療法人化しても、理事会や社員総会、議事録、決算届がいつのまにか形式だけの対応になっていく。
院長依存は、短期的にはスピードを生みます。けれども長い目で見れば、院長自身が経営のボトルネックになりかねない――この点には、注意が必要です。
役割分担は、「任せる」前に責任の所在を整理することから始まる
役割分担というと、つい「事務長に任せる」「主任を置く」「外部の専門家に相談する」といった話になりがちです。しかし、最初に整理すべきは、誰に任せるかではありません。どの責任を、どのレベルで分けるのか。ここから始める必要があります。
医療機関には、少なくとも次のような責任があります。
- 診療の質と安全を守る責任
- 保険診療、診療録、診療報酬請求、施設基準を適正に管理する責任
- スタッフの労務、教育、評価、職場環境を整える責任
- 資金繰り、採算、人件費、設備投資を管理する責任
- 医療法人であれば、法人機関、議事録、決算届、監事監査などを適正に運営する責任
- 患者さん、スタッフ、行政、金融機関、後継者、買い手候補などに説明できる資料を整える責任
保険医療機関の管理者には、従業者の監督、管理運営への注意、療担規則の遵守監督、診療報酬請求や施設基準届出の適正な手続き、診療録や帳簿等の保存、院内外の連携といった責務が求められます。これは院長が現場業務をすべて自分の手で行うという意味ではありませんが、誰かに任せたあとも、管理責任そのものが消えるわけではない、ということです。
ですから、役割分担の実務では、「誰に任せたか」だけで終わらせてはいけません。どこまで任せたのか、何を報告させるのか、どの判断は院長に戻すのか、どの資料を残すのか。ここまで決めて、はじめて分担が機能します。
院長の役割は、現場作業ではなく判断軸を示すこと
院長の役割は、単に診療を行うことではありません。医療機関全体の方向性を定め、重要な経営判断に責任を持つことです。
具体的には、院長が担うべき役割は、おおよそ次のように整理できます。
まず、診療方針を定めること。どの患者層に、どのような医療を、どの水準で提供するのか。待ち時間をどこまで許容するのか。説明にどれだけ時間をかけるのか。自由診療をどう位置づけるのか。在宅医療を担うのか。いずれも、医療機関が提供する価値そのものに関わる判断です。
次に、経営の優先順位を決めること。採用を先に行うのか、設備投資を先にするのか。分院を検討するのか、それとも既存院の生産性を高めるのか。患者数を増やすのか、診療単価や機能を見直すのか。これらの選択は、資金繰りや人件費、固定費、借入返済にまで影響します。
そして、組織の文化をつくること。患者さんへの対応で何を大切にするのか。ミスを隠さず報告できる組織にするのか。スタッフ間の不満を放置しないのか。数字を見て改善していく組織にするのか。院長の言動は、就業規則やマニュアル以上に現場へ響きます。
一方で、院長が日常的に抱え込まないほうがよい業務もあります。日々のシフト調整、通常の物品発注、定型的な請求書確認、患者さんからの軽微な問い合わせ、日次の現金照合、会計資料の回収、一次的なスタッフ相談――こうした業務は、ルールと報告ラインさえ整えれば、事務長や幹部スタッフに移していけます。
院長がすべきことは、細部のひとつひとつに口を出すことではありません。重要な判断軸を示し、その軸に沿って現場が自ら動ける状態をつくること。ここに本来の役割があります。
事務長は「院長の代わり」ではなく、経営管理の実務責任者
事務長を置いている医療機関でも、その役割が曖昧なままになっていることは少なくありません。
ある医院では、事務長が単なる総務担当にとどまっている。別の医院では、院長の伝言係のようになっている。さらに別の医院では、権限がないのに責任だけを負わされている。あるいは、ベテランの事務職員が実質的に事務長の役割を担っているにもかかわらず、職責や評価がまったく整理されていない――そんなケースもあります。
事務長の本来の役割は、医療機関の経営管理を日常業務に落とし込むことです。院長が決めた方針を、現場の業務、資料、数字、会議、ルールへと翻訳していく役割といえます。
事務長に任せるべき主な領域は、次のとおりです。
- 月次資料の準備、会計資料の回収、税理士・会計事務所との連絡
- 日計表、窓口現金、未収金、レセプト関連資料の取りまとめ
- 勤怠、シフト、有給休暇、残業、給与計算資料の確認
- 採用実務、入職手続き、雇用契約書、就業規則の運用
- スタッフ面談の一次対応、教育記録、評価資料の整理
- 物品購入、業者対応、契約書管理、設備保守の管理
- 行政届出、保健所・厚生局・年金事務所・労基署等への対応補助
- 会議資料の作成、議題整理、決定事項の記録
- 患者さんからのクレーム、スタッフ問題、施設基準、情報管理などのリスク報告
ただし、事務長に任せてはいけない領域もあります。診療方針そのもの、医師としての医学的判断、重要な人事処分、重大な投資判断、金融機関への最終説明、医療法人の重要決議――これらは、院長・理事長の責任領域です。
事務長に求められるのは、万能であることではありません。現場で起きている事実を拾い上げ、それを資料と数字に変え、院長が判断できる状態へ整理する力です。
幹部スタッフは現場のリーダーであって、「小さな院長」ではない
受付主任、看護師長、リーダースタッフ、教育担当、レセプト責任者――医療機関には、現場を支える幹部スタッフが欠かせません。
ただし、その位置づけを誤ると、組織はかえって不安定になります。たとえば、古参スタッフが院長の代弁者のように振る舞う。新人や若手が意見を言いにくくなる。幹部スタッフが他のスタッフを感情的に叱責する。正式な権限がないのに、シフトや評価へ強く介入する。院長が、現場の不満を幹部スタッフ経由でしか把握できなくなる。
これでは役割分担ではなく、属人的な支配関係になってしまいます。
幹部スタッフの役割は、現場の標準を守り、情報を上へ上げ、改善を回していくことです。
- 受付主任であれば、患者さんへの対応、電話対応、会計、予約、未収金、日計、レセプト補助などの日常品質を見る
- 看護師長・リーダー看護師であれば、診療補助、検査、物品管理、感染対策、医療安全、患者さんへの説明、他職種連携を支える
- 教育担当であれば、新人教育の進捗、OJT、マニュアル更新、ミスの振り返りを行う
- レセプト責任者であれば、算定確認、返戻・査定、施設基準関連資料、締めスケジュールを管理する
幹部スタッフに必要なのは、院長に近いことではなく、医院の方針を現場で再現できることです。任命にあたっては、勤続年数だけで判断せず、報告力、再現性、後輩指導、感情の安定、ルール遵守、数字への理解といった点を見極めたいところです。
会議体を整えると、役割分担は機能し始める
役割分担を決めても、情報を共有する場がなければ機能しません。院長、事務長、幹部スタッフがばらばらに動き、重要な情報が口頭で流れて消えてしまう――それでは、判断は属人的なままです。
医療機関に必要な会議体は、規模に応じて段階的に整えていきます。
まず、日次の短時間共有です。その日の予約状況、欠勤者、注意すべき患者さん、検査予定、クレームの兆候、現金差異、物品不足などを共有します。長い時間をかける必要はありませんが、現場の事故防止には確かな効果があります。
次に、週次または隔週の運営ミーティングです。スタッフ配置、患者動線、待ち時間、電話対応、クレーム、教育進捗、レセプト締め、物品管理など、現場運営の改善を扱います。ここで大切なのは、院長がすべてを決めるのではなく、事務長や幹部スタッフが課題と改善案を持ち寄ることです。
さらに、月次の経営会議です。患者数、初診率、診療単価、売上、利益、人件費、現預金、未収金、借入返済、採用状況、離職、残業、広告効果、設備投資予定などを確認します。月次決算や資金繰り表を、現場の出来事と結びつけて読み解く場です。
医療法人の場合は、これに加えて、法令・定款に基づく法人機関の運営が必要になります。社員総会、理事会、監事、理事長の権限や責任は、法人類型、定款、そして最新の医療法に基づいて確認する必要があります。重要な意思決定を、院内会議や口頭合意だけで済ませてしまうと、承継、M&A、金融機関対応、行政対応の場面で、後から説明に苦労することになります。
会議体は、会議の数を増やすためのものではありません。判断、報告、記録、改善を切り分けるための仕組みです。
権限委譲は「金額」「範囲」「例外」を決めて行う
院長は「任せた」つもりでいても、スタッフのほうは「どこまで自分で判断してよいのか分からない」と感じている。逆に、院長が想定していない範囲まで現場が判断してしまい、後から問題になる。どちらもよく見られる光景です。
権限委譲では、金額、業務範囲、例外の三つを決めることが欠かせません。
たとえば物品購入であれば、日常消耗品は事務長または主任が一定金額まで承認し、それを超えるものは院長承認にする。医療機器やリース契約は、金額にかかわらず、院長・会計事務所・必要に応じて専門家の確認を経る。こうした基準が必要です。
採用であれば、求人票の作成や面接日程の調整は事務長が行い、採用基準と最終判断は院長が担う。入職後の教育計画は幹部スタッフが運用し、試用期間終了時の判断は院長と事務長で行う。これも一つの役割分担です。
労務対応であれば、遅刻や軽微な注意はリーダーが記録し、反復する場合は事務長へ報告する。解雇・退職勧奨・休職・ハラスメントといった事案は、院長と外部専門家を交えて判断する。ここを曖昧にすると、現場が感情で動いてしまいます。
権限委譲とは、院長が責任を手放すことではありません。判断の入口を現場に移し、重要な例外は院長へ戻す。その設計こそが、権限委譲の本質です。
労務管理は、事務長任せにしても院長の経営課題である
勤怠、残業、有給休暇、休職、給与、社会保険、雇用契約、就業規則。これらは日常業務では、事務長や担当者が処理することの多い領域です。しかし、労務管理を単なる事務処理ととらえてしまうと、後で大きなリスクとして跳ね返ってきます。
なかでも労働時間の管理は、医療機関でも重要です。労働時間の適正な把握にあたっては、使用者が労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することなどの措置が求められています。院長や事務長が「現場は忙しいから仕方ない」と曖昧にしていると、未払残業、過重労働、スタッフの不満、そして離職へとつながっていきます。
出典:厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
役割分担の観点では、次のように整理できます。
- 勤怠記録の回収と確認は、事務長または担当者
- 残業申請と承認ルールの運用は、事務長
- シフトの一次作成は、幹部スタッフ
- 人員不足や残業増加の原因分析は、事務長と院長
- 採用、人件費計画、診療時間の変更は、院長の経営判断
- 労務トラブル、休職、解雇、ハラスメントは、外部専門家と連携
労務管理は、事務長が処理するものではあっても、院長が無関心でいてよいものではありません。人件費、採用、診療体制、患者さんへの対応品質に直結する、経営課題そのものです。
医師の働き方改革は、組織全体の業務設計の問題でもある
病院だけでなく、クリニックや診療所にとっても、医師の働き方改革やタスク・シフト/シェアの考え方は無縁ではありません。医師が健康に働き続けられる環境を整えることは、医療の質と安全、そして持続可能な医療提供体制の確保につながります。医師の時間外労働の上限規制は、令和6年4月から始まっています。
院長の業務が膨らみすぎている医療機関では、診療以外の業務が院長に集中していないかを、一度確認してみる必要があります。
- 診断書や書類作成の補助
- 予約調整
- 問診票の整理
- 検査説明の補助
- 物品や薬剤の補充管理
- 患者導線の調整
- 会計・請求前の確認
- 行政資料の準備
- 月次会議資料の作成
これらのうち、医師でなければ判断できない領域と、スタッフや事務長が補助・整理できる領域とを分けていくことが大切です。
ただし、タスク・シフトは「医師の仕事を何でもスタッフへ移す」ことではありません。医療資格、法令、診療報酬、患者さんへの説明、個人情報、医療安全を確認したうえで、現行制度上、実施可能な範囲を明確にしておく必要があります。
出典:厚生労働省|医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理
外部専門家は「代わりに経営する人」ではなく、判断材料を整える人
役割分担を考えるとき、外部専門家の位置づけも見過ごせません。
税理士、会計士、社会保険労務士、弁護士、行政書士、医療コンサルタント、金融機関、システム会社。医療機関には、実に多くの外部関係者が関わります。とはいえ、外部専門家に依頼しているから安心、というわけではありません。
重要なのは、誰が何を支援するのかを明確にしておくことです。
- 公認会計士・税理士は、月次決算、資金繰り、税務、管理会計、投資判断、金融機関対応、医療法人運営、承継・M&Aに向けた数字と資料の整理を支援します
- 社会保険労務士は、就業規則、雇用契約、労働時間、社会保険、休職、労務トラブルなどの労務実務を支援します
- 弁護士は、労働紛争、契約、クレーム、医療法務、M&A契約、法人内紛などの法的判断を支援します
- 行政書士は、医療法人設立認可、各種届出、許認可関連の実務を支援します
- 医療コンサルタントは、診療圏、集患、業務改善、組織運営、在宅医療や分院展開などの実行支援を行う場合があります
ただし、最終的な判断はあくまで医療機関側にあります。専門家の役割は、経営者の代わりに答えを決めることではなく、経営者が納得して判断できるよう、制度、数字、リスク、資料、選択肢を整理することにあります。
役割分担を整える順番
院長依存から組織経営へ移っていくとき、最初から大きな組織図を描く必要はありません。むしろ小規模な医療機関では、現実に動く順番で一つずつ整えていくことが大切です。
1. 業務を棚卸しする
まずは、院内で発生している業務をすべて洗い出します。
診療、受付、会計、電話、予約、レセプト、未収金、現金、勤怠、採用、教育、面談、発注、棚卸、固定資産、業者対応、行政対応、会計資料、広告、Webサイト、患者さんからのクレーム、スタッフ相談、医療安全、感染対策、施設基準。
この棚卸しを飛ばして役割分担を決めてしまうと、必ずどこかに抜け漏れが生まれます。
2. 院長しか判断できない業務を分ける
次に、院長が必ず関与すべき判断を切り分けます。
診療方針、重要な患者さんへの対応、医療安全上の重大な事案、採用の最終判断、重要な人事処分、診療時間の変更、設備投資、借入、分院、在宅医療の展開、医療法人の重要決議、承継方針など。
ここを曖昧にすると、院長が細部に介入し続けるか、逆に現場が重大事項まで判断してしまうか、どちらかに傾いてしまいます。
3. 事務長・幹部スタッフ・外部専門家へ分ける
棚卸しを終えたら、事務長、幹部スタッフ、外部専門家へ割り振っていきます。
- 日常運営は、幹部スタッフ
- 資料・労務・会計連携は、事務長
- 重要判断は、院長
- 制度・税務・法務・労務の判断材料は、外部専門家
この4層を分けるだけでも、院内の混乱は大きく減ります。
4. 報告ラインを決める
役割を分けたら、続いて報告ラインを決めます。
- 患者さんからのクレームは、誰から誰へ報告するのか
- 現金差異は、いくらから院長へ報告するのか
- 残業が何時間を超えたら、院長へ上げるのか
- スタッフ同士のトラブルは、誰が一次対応するのか
- 返戻・査定が増えた場合、誰が原因を分析するのか
- 設備故障は、誰が業者へ連絡し、誰が修繕を承認するのか
報告ラインがなければ、情報は人間関係に沿って流れます。それでは、組織管理ではなく、噂と気遣いに依存した運営になってしまいます。
5. 月次会議で数字と現場をつなぐ
役割分担を維持するうえで、月次会議は有効です。患者数、売上、利益、人件費、現預金、未収金、採用、離職、残業、クレーム、返戻・査定を、現場の出来事と照らし合わせながら確認します。
医療勤務環境改善マネジメントシステムでも、勤務環境の改善について、現状分析から課題を明確にし、改善に取り組むという考え方が示されています。医療機関の組織改善は、感覚的な不満対応で終わらせるのではなく、現状把握、課題抽出、改善計画、実行、検証という流れで進めていくことが大切です。
出典:厚生労働省|医療分野の「雇用の質」向上のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き(改訂版)
事務長を置くべきタイミング
すべてのクリニックに、最初から専任の事務長が必要というわけではありません。規模、診療科、スタッフ数、法人形態、そして院長の得意・不得意によって、必要なタイミングは異なります。
ただし、次のような状態が見られるなら、事務長機能を整える時期に来ているといえます。
- スタッフが5人を超え、院長が労務や教育を直接見るのが難しくなっている
- 月次資料の準備が遅れ、経営判断に使えていない
- 患者数は増えているが、待ち時間やクレームも増えている
- 採用と離職が繰り返されている
- 院長が診療後に、会計資料、支払い、採用、業者対応を処理している
- 医療法人化、分院、在宅医療、移転、設備投資を検討している
- 金融機関や専門家に説明する資料が整っていない
- 承継やM&Aを、将来の選択肢として考え始めている
専任の事務長を採用できない場合でも、事務長機能を分解して整えることはできます。既存スタッフの中から事務主任を置く、会計資料は外部会計事務所と締め日を決めておく、労務は社労士と連携する、月次会議の資料はテンプレート化する。このように、内部人材と外部専門家を組み合わせる方法もあります。
大切なのは、「事務長という人を置くこと」ではありません。経営管理を日常業務として回す機能を、組織として持つことです。
役割分担が不十分なまま分院・承継に進むリスク
分院、在宅医療、移転、法人化、承継、M&A。こうした局面では、院長依存の弱さが一気に表面化します。
本院が院長の判断だけで回っている状態のまま分院を出せば、分院長、事務長、幹部スタッフの役割が曖昧になり、同じ混乱が2拠点に広がっていきます。
在宅医療を始める場合も、訪問スケジュール、24時間対応、同意書、診療報酬、連携先、車両、物品、看護師・事務スタッフの役割を決めておかなければ、外来運営にまで影響が及びます。
承継やM&Aでは、後継者や買い手は、院長がいなくても運営できるかどうかを見ています。スタッフは定着しているか。幹部は育っているか。会計資料は整っているか。労務資料はあるか。議事録や契約書は保管されているか。現金や未収金の管理は属人的になっていないか。
つまり役割分担は、日常運営の効率化だけにとどまりません。将来の成長と出口戦略にも、深く関わってくるのです。
院長依存から組織経営へ移行するための実務チェック
役割分担を整える際には、次の問いを院内で確認してみると、課題が見えやすくなります。
- 院長しか知らない業務は何か
- 院長が診療時間外に処理している業務は何か
- 事務長または事務主任に任せている業務は、明文化されているか
- 幹部スタッフの役割を、他のスタッフに説明できるか
- スタッフからの相談窓口は決まっているか
- クレーム、医療安全、労務、現金、個人情報の重大事項は、誰に報告されるか
- 購入承認、採用、シフト、残業、休職、退職対応の判断権限は決まっているか
- 月次会議で、数字と現場課題を一緒に確認できているか
- 医療法人の理事会・社員総会・議事録は、実態を伴って運営されているか
- 外部専門家に何を依頼し、何を院内で判断するかが明確になっているか
これらに答えられない場合、役割分担が人間関係や慣習に依存している可能性があります。
相談導線
院長・事務長・幹部スタッフの役割分担は、単なる組織図の問題ではありません。月次決算、資金繰り、人件費、採用、労務、内部統制、医療法人運営、分院、承継、M&Aにまで関わる、経営管理の基盤です。
院長がすべてを抱え込んでいる。事務長に任せたいが、権限設計ができていない。幹部スタッフが育たない。月次資料と現場課題がつながらない。こうした状態が続いているなら、自院の組織運営を「人頼み」から「仕組み」へと移す、ちょうどよいタイミングなのかもしれません。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関の月次決算、資金繰り、人件費、管理会計、内部統制、医療法人運営、そして承継・M&Aを見据えた資料整備の観点から、院長・事務長・幹部スタッフ・外部専門家の役割分担を、経営判断に使える形へと整理する支援を行っています。院長依存から組織経営へ移行し、次の成長や承継に耐えうる管理体制を整えたい方は、お問い合わせページよりお気軽にご相談ください。
本記事の振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 整備しない場合に起きやすい問題 |
|---|---|---|
| 院長の役割 | 診療方針、経営判断、採用の最終判断、投資、承継方針を担えているか | 院長が日常業務に埋もれ、重要な経営判断が後回しになる |
| 事務長の役割 | 月次資料、労務、会計資料、業者対応、会議運営、リスク報告を担っているか | 院長の伝言係や何でも屋になり、責任と権限が一致しない |
| 幹部スタッフの役割 | 現場標準、教育、情報共有、改善提案を担えているか | 古参スタッフの属人的影響が強まり、組織が閉鎖的になる |
| 権限委譲 | 金額、範囲、例外、報告ラインが決まっているか | 任せたつもりでも判断が止まる、または重大事項まで現場判断になる |
| 会議体 | 日次共有、運営会議、月次経営会議、法人機関の役割が分かれているか | 口頭対応が増え、決定事項や責任の所在が残らない |
| 労務管理 | 勤怠、残業、有給、休職、評価、面談の責任者が明確か | 未払残業、過重労働、離職、スタッフの不満につながる |
| タスク・シフト/シェア | 医師でなければできない業務と、補助可能な業務を分けているか | 院長の負担が減らず、診療・経営の両方が圧迫される |
| 外部専門家 | 税務、会計、労務、法務、行政手続きの相談先と役割が整理されているか | 専門家に依頼していても、院内の判断材料が整わない |
| 分院・在宅・承継 | 院長が不在でも説明できる運営体制になっているか | 成長投資や承継時に、属人化リスクとして評価される |
| 最初の整備順序 | 業務棚卸し、院長判断業務、事務長・幹部への分担、報告ライン、月次会議を整える | 組織図だけ作っても、実際の運用は変わらない |