非上場株式の評価で最初に判定するのは、「誰が取得する株式か」です。
同族株主等が取得する株式であれば、原則的評価方式に進みます。一方、経営支配力を持たない一定の少数株主が取得する場合には、配当還元方式が問題になります。前回の記事で取り上げた同族株主判定は、まさにこの入口を見極めるための作業でした。
今回は、その次の段階に進みます。
原則的評価方式で評価する場合に、その会社を大会社・中会社・小会社のどれに区分し、類似業種比準価額と純資産価額をどう組み合わせるか。 ここを整理していきます。
これは、単なる計算技術の話にとどまりません。
会社規模の判定を誤ると、非上場株式の評価額そのものが大きく動くことがあります。評価額が変われば、相続税額はもちろん、後継者が負う税負担、他の相続人との公平性、代償金、納税資金、さらには遺言や遺産分割の設計にまで影響が及びます。
非上場株式は、預金や上場株式のように市場価格がすぐ分かる財産ではありません。会社の財務内容、利益水準、内部留保、不動産の保有状況、株主構成、後継者の立場までを踏まえ、後から根拠を説明できる形で評価を積み上げていく必要があります。
この記事では、会社規模判定、類似業種比準価額、純資産価額、そして併用方式の基本を、相続税申告と事業承継の実務判断に結びつけながら解説します。
まず確認する順番を間違えない
非上場株式の評価では、いきなり決算書を開いて株価を計算するのではなく、次の順番で整理していきます。
- 取引相場のない株式に該当するか
- 株式取得者が同族株主等か、同族株主以外の株主等か
- 一般の評価会社か、特定の評価会社か
- 一般の評価会社であれば、大会社・中会社・小会社のどれか
- 会社規模に応じて、類似業種比準価額、純資産価額、併用方式を適用する
この順番が、思いのほか大切です。
会社規模判定は、すべての非上場株式評価に最初から使える万能の判定ではありません。特定の評価会社に該当する場合には、一般の評価会社とは異なる評価方法へ進むことがあるからです。
国税庁のタックスアンサーでも、取引相場のない株式については、取得した株主が経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または配当還元方式により評価すると整理されています。そのうえで原則的評価方式では、評価会社を総資産価額、従業員数、取引金額により大会社・中会社・小会社に区分して評価するとされています。
実務でも、一般の評価会社については、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用方式、という構造で整理します。ただし、土地や株式を多く保有する会社、比準要素が極端に欠ける会社などは、一般会社の規模区分だけで評価すると実態を反映しきれません。こうした会社では、特定の評価会社に該当するかどうかの判定が必要になります。
なお、特定の評価会社の詳細な判定は次の記事に譲ります。この記事では、一般の評価会社に該当することを前提に、会社規模判定と評価方式の組み合わせを扱います。
原則的評価方式の全体像
原則的評価方式は、会社の規模に応じて次のように整理されます。
| 会社規模 | 原則的な評価方法 | 選択できる評価方法 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額 | 純資産価額を選択可 |
| 中会社 | 類似業種比準価額と純資産価額の併用方式 | 類似業種比準価額部分を純資産価額に置き換えることが可 |
| 小会社 | 純資産価額 | 類似業種比準価額50%・純資産価額50%の併用方式を選択可 |
財産評価基本通達179では、大会社の株式は類似業種比準価額により評価し、納税義務者の選択により純資産価額で評価できること、中会社は類似業種比準価額と純資産価額をL割合で併用すること、小会社は純資産価額を原則としつつLを0.50として併用方式を選択できることが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
ここで押さえておきたいのは、「好きな方法を自由に選べる」という意味ではない、という点です。
まず会社規模に応じた原則的な評価方法があり、そのうえで、通達上認められている範囲で純資産価額を選択する、あるいは併用方式を選択する、という構造になっています。
たとえ評価額の低い方法を選べる場面であっても、なぜその方法を選んだのか、前提とした資料は何か、他の方式ではいくらになるのか。そこまで説明できる状態にしておくことが、申告後の説明可能性につながります。
会社規模判定で見る3つの指標
会社規模は、感覚的な「大きい会社」「小さい会社」では判定しません。
財産評価基本通達178では、取引相場のない株式の評価上の区分として、評価会社を大会社・中会社・小会社に区分します。その判定で確認するのは、主に次の3つです。
| 判定要素 | 内容 |
|---|---|
| 総資産価額 | 直前期末における各資産の帳簿価額の合計額 |
| 従業員数 | 直前期末以前1年間の継続勤務従業員等を一定の方法で計算した数 |
| 取引金額 | 直前期末以前1年間における事業収入金額 |
会社規模判定で用いる総資産価額は、原則として帳簿価額ベースです。純資産価額方式で使う相続税評価額ベースの資産価額とは異なる点に注意してください。
従業員数も同様で、単に給与台帳に載っている人数を数えるわけではありません。継続勤務従業員とそれ以外の従業員の労働時間を踏まえて計算します。社長、理事長、一定の役員は従業員に含まれません。
取引金額は、直前期末以前1年間における評価会社の目的とする事業に係る収入金額です。金融業・証券業については、収入利息および収入手数料とされています。
財産評価基本通達178では、総資産価額、従業員数、直前期末以前1年間の取引金額の定義に加え、業種区分の判定方法も定められています。業種区分は、取引金額に基づいて「卸売業」「小売・サービス業」「卸売業、小売・サービス業以外」のいずれかを判定し、2以上の業種の取引金額がある場合には、最も多い取引金額に係る業種で判定します。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
このように、会社規模判定は決算書の数字を転記すれば済むものではありません。
どの事業が主たる事業か、役員を従業員に含めていないか、非経常的な収入をどう見るか、直前期が通常の業績を反映しているか。こうした点を一つずつ確認していく必要があります。
大会社・中会社・小会社の判定の考え方
会社規模判定では、まず従業員数が70人以上であれば大会社に該当します。
従業員数が70人未満の場合には、業種ごとに、総資産価額・従業員数の組み合わせと、直前期末以前1年間の取引金額により、大会社・中会社・小会社を判定します。
概要を整理すると、次のようになります。
| 業種区分 | 大会社の取引金額基準 | 中会社の取引金額基準 | 小会社の取引金額基準 |
|---|---|---|---|
| 卸売業 | 30億円以上 | 2億円以上30億円未満 | 2億円未満 |
| 小売・サービス業 | 20億円以上 | 6,000万円以上20億円未満 | 6,000万円未満 |
| 卸売業、小売・サービス業以外 | 15億円以上 | 8,000万円以上15億円未満 | 8,000万円未満 |
ただし、実際の判定では、取引金額だけでなく、総資産価額と従業員数の組み合わせも確認します。たとえば総資産価額が一定額以上であっても、従業員数が35人以下の場合には大会社の総資産基準から除かれるなど、表面上の総資産額だけでは判定できません。
財産評価基本通達178では、大会社について、従業員数70人以上の会社、または業種ごとの総資産価額・従業員数基準、取引金額基準に該当する会社とし、中会社・小会社についても業種ごとの基準を定めています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
会社規模判定で実務上つまずきやすいのは、次のような会社です。
- 売上は大きいが、従業員数が少ない会社
- 不動産を多く保有しており、総資産価額が大きい会社
- 役員中心で、従業員が少ない会社
- グループ会社への売上が多い会社
- 複数事業を営み、業種判定が難しい会社
- 直前期だけ大きな取引があった会社
- 金融収益、不動産収益、営業外収益が混在している会社
会社規模は、会社の印象で判断するものではありません。数字の出どころと、通達上の定義に沿って判定していく必要があります。
会社規模判定は「税額だけ」ではなく「承継の現実」を映す
大会社に近づくほど、類似業種比準価額の比重が高くなります。
これは、上場会社に準ずるような規模の会社については、同業種の上場会社の株価、配当、利益、純資産との比較を通じて評価する、という考え方によるものです。
一方、小会社では、個人事業に近い性格が強くなるため、会社が保有する資産を積み上げる純資産価額方式が中心になります。
この違いは、相続実務において大きな意味を持ちます。
たとえば、会社に不動産や金融資産が多く蓄積されているものの、配当や利益が限定的な会社では、純資産価額が高くなりやすい一方で、類似業種比準価額は相対的に低く出ることがあります。逆に、資産は軽いが収益力が高い会社では、類似業種比準価額が高く出ることもあります。
つまり、評価方式の違いは、単なる税額差にとどまりません。
後継者が会社株式を集中して取得する場合、相続税の納税資金が大きな問題になります。会社に価値があっても、その価値がすぐに現金化できるとは限りません。非上場株式は売却先が限られ、会社経営を維持するうえで外部売却が現実的でないことも多いからです。
だからこそ、会社規模判定と株価の試算は、遺産分割や納税資金の検討とセットで行う必要があります。
類似業種比準価額とは何か
類似業種比準価額は、評価会社と類似する業種の上場会社の株価等を基に、評価会社の配当・利益・純資産を比準して株価を算定する方法です。
大まかにいえば、次のような考え方になります。
| 比準要素 | 見るもの | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 配当金額 | 直前期末以前2年間の配当状況 | 株主への利益還元 |
| 利益金額 | 法人税の課税所得を基礎とした利益 | 収益力 |
| 純資産価額(簿価) | 帳簿上の純資産 | 財務の蓄積 |
財産評価基本通達180では、類似業種比準価額は、類似業種の株価、1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額を基として計算するものとされています。評価会社の1株当たり資本金等の額が50円以外の場合に、50円基準へ調整する仕組みも定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
類似業種比準価額の特徴は、評価会社の会計数値だけで完結しないところにあります。
業種目別株価、類似業種の配当金額、利益金額、簿価純資産価額は、国税庁が年分ごとに公表する資料で確認します。令和8年分については、令和8年6月5日付の法令解釈通達において、取引相場のない株式を類似業種比準方式により評価する場合に必要な業種目別の1株当たり配当金額、利益金額、簿価純資産価額および株価が定められています。令和8年6月19日時点では、令和8年1・2月分までの一覧表が公表されています。
出典:国税庁|令和8年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について
したがって、類似業種比準価額を計算する際には、相続開始日や贈与日の属する年分・月に対応した最新の国税庁資料を確認しなければなりません。過年度の評価シートをそのまま使うと、類似業種の株価等が古いままになり、評価誤りにつながります。
類似業種比準価額で確認すべき実務ポイント
類似業種比準価額では、次の点を丁寧に確認していきます。
1. 業種目の選定
評価会社がどの業種目に該当するかは、取引金額に基づいて判定します。
複数事業を営んでいる会社では、どの事業が主たる事業かが問題になります。定款の目的欄や会社案内だけを見るのではなく、売上構成、事業別粗利、取引実態まで確認します。
財産評価基本通達181および181-2では、評価会社の事業が該当する業種目について、大分類・中分類・小分類の区分と、取引金額の割合に基づく判定が定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
2. 類似業種の株価の選択
類似業種の株価は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の株価のうち最も低いものを使うのが原則です。ただし、前年平均株価、または課税時期の属する月以前2年間の平均株価を選択することもできます。
財産評価基本通達182では、類似業種の株価について、課税時期の属する月以前3か月間の各月の株価のうち最も低いものを原則とし、納税義務者の選択により前年平均株価または課税時期の属する月以前2年間の平均株価によることができるとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
ここは、評価額に直接影響します。
ただし、低い株価を選べばよいというわけではありません。評価明細書上、どの株価を選んだのか、課税時期との関係はどうか、該当する業種目は妥当か。これらを説明できる状態にしておく必要があります。
3. 配当金額
配当金額は、直前期末以前2年間の剰余金の配当金額を基礎にします。ただし、特別配当や記念配当など、将来毎期継続することが予想できない金額は除かれます。
ここで難しいのは、同族会社では配当政策が必ずしも市場原理だけで決まらない、という点です。
相続対策のために配当を抑える、役員報酬で利益を調整する、内部留保を厚くするなど、オーナー経営ならではの意思決定が数字に反映されます。そのため配当金額を見る際には、金額だけでなく、配当方針、株主構成、過去の配当履歴も併せて確認する必要があります。
4. 利益金額
利益金額は、法人税の課税所得金額を基礎にしつつ、非経常的な利益を除くなどの調整を行います。
財産評価基本通達183では、評価会社の1株当たり配当金額、利益金額、純資産価額の計算方法が定められており、利益金額については、法人税の課税所得金額を基礎に、固定資産売却益、保険差益等の非経常的な利益を除くことなどが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
一時的な不動産売却益、保険差益、補助金、役員退職金、災害損失などがある場合には、直前期の利益が通常の収益力を反映しているかどうか、慎重に確認します。
5. 純資産価額(簿価)
類似業種比準価額で使う純資産価額は、相続税評価額による純資産ではなく、帳簿価額による純資産です。
ここを混同すると、類似業種比準価額と純資産価額方式の計算が混ざってしまいます。
類似業種比準価額で使う純資産は、会社の会計・税務上の内部留保を反映する要素です。これに対して純資産価額方式で使う純資産は、各資産を相続税評価額等に洗い替えたうえで計算するものです。両者は別物として扱う必要があります。
純資産価額とは何か
純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価の考え方で洗い替え、会社の清算価値に近い発想で株式を評価する方法です。
大まかには、次のように考えます。
相続税評価額による総資産価額 - 負債 - 評価差額に対する法人税額等相当額 = 純資産価額
財産評価基本通達185では、1株当たりの純資産価額について、課税時期における各資産を評価通達により評価した価額の合計額から、課税時期における各負債の金額および評価差額に対する法人税額等相当額を控除し、課税時期における発行済株式数で除して計算するとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
純資産価額方式では、会社の貸借対照表をそのまま使うわけではありません。
土地、建物、上場株式、非上場株式、貸付金、保険契約、借地権、営業権など、各資産について相続税評価上の取扱いを確認していきます。帳簿価額が低いまま残っている不動産や、含み益のある有価証券がある会社では、純資産価額が大きく上がることがあります。
純資産価額で特に注意すべき点
1. 課税時期前3年以内に取得した土地・建物
純資産価額方式では、評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等について、通常の取引価額に相当する金額で評価する取扱いがあります。
財産評価基本通達185では、評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等および家屋等について、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価するものとされています。ただし、帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合には、帳簿価額によることができるとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
これは、相続直前に会社で不動産を取得した場合などに重要になります。
「会社が不動産を買えば株価が下がる」といった単純な理解は危険です。取得時期、取得価額、通常の取引価額、評価通達による評価額、借入金、賃貸実態、そして総則6項のリスクまで、確認すべき点は数多くあります。
2. 負債に含めるもの・含めないもの
純資産価額方式では、貸借対照表上の引当金や準備金をそのまま負債にできるわけではありません。
財産評価基本通達186では、貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金その他の引当金・準備金に相当する金額は負債に含まれないとされています。一方で、課税時期の属する事業年度に係る法人税額等のうち一定の未払税額、固定資産税の未払額、被相続人の死亡により支給が確定した退職手当金等は、負債に含まれるものとして整理されています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
役員退職金、死亡退職金、未払税金、役員借入金、金融機関借入金などは、会社財務と相続税評価が接する場面です。
とくに被相続人が代表者であった場合には、死亡退職金の支給決議や規程、支給時期、金額の相当性が問題になることがあります。これは非上場株式評価だけでなく、みなし相続財産、法人税、相続人の納税資金にも影響します。
3. 評価差額に対する法人税額等相当額
純資産価額方式では、相続税評価額による純資産と帳簿価額による純資産との差額に対して、法人税額等相当額を控除します。
財産評価基本通達186-2では、評価差額に対する法人税額等相当額について、一定の差額に38%を乗じて計算するものとされています。令和8年改正後の通達では、法人税、地方法人税、防衛特別法人税、事業税、特別法人事業税、道府県民税、市町村民税の税率の合計に相当する割合として38%が示されています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
この割合は、過去の評価時点では異なる場合があります。したがって、過年度相続、過去贈与、修正申告、更正の請求を検討する場合には、その財産取得時期に対応する通達・明細書を確認する必要があります。
4. 80%評価の可否
純資産価額方式では、一定の場合に、算定された純資産価額の80%相当額で評価できる場面があります。
財産評価基本通達185では、中会社の併用方式や小会社の純資産価額について、株式取得者とその同族関係者の議決権合計が評価会社の議決権総数の50%以下である場合に、一定の純資産価額に80%を乗じて計算する取扱いが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
ただし、純資産価額を選択適用する場合など、80%評価が使えない場面もあります。評価実務でも、類似業種比準価額に代えて純資産価額を選択適用する場合の純資産価額については、80%相当額による評価ができないものとして整理されます。
この点は、評価額に大きく影響します。
「純資産価額だから80%できる」と決めつけるのではなく、どの場面の純資産価額か、取得者グループの議決権割合はどうか、選択適用なのか原則適用なのか。ここを一つずつ確認する必要があります。
中会社の併用方式とL割合
中会社では、類似業種比準価額と純資産価額を組み合わせます。
算式は、概念的には次の形になります。
類似業種比準価額 × L + 純資産価額 ×(1 − L)
L割合は、会社規模に応じて0.90、0.75、0.60のいずれかになります。大会社に近い中会社ほど類似業種比準価額の比重が高くなり、小会社に近い中会社ほど純資産価額の比重が高くなります。
財産評価基本通達179では、中会社のL割合について、総資産価額および従業員数、または直前期末以前1年間の取引金額に応じて、0.90、0.75、0.60のいずれか大きい方の割合とすることが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
ここでも重要なのは、L割合を「なんとなく中くらい」で決めるものではない、という点です。
総資産価額・従業員数による区分と、取引金額による区分を確認し、いずれか大きい方のLを使います。売上規模は大きいが資産規模は小さい会社、資産規模は大きいが売上は少ない会社などでは、この判定が評価額を左右します。
類似業種比準価額と純資産価額のどちらが高くなるか
非上場株式評価では、「類似業種比準方式の方が安い」「純資産価額方式は高い」と言われることがよくあります。
たしかに、内部留保や含み益の大きい会社では、純資産価額が高くなりやすい傾向はあります。
しかし、常にそうとは限りません。
| 会社の特徴 | 類似業種比準価額の傾向 | 純資産価額の傾向 |
|---|---|---|
| 利益が大きい会社 | 高くなりやすい | 資産内容次第 |
| 配当が多い会社 | 高くなりやすい | 資産内容次第 |
| 含み益不動産が多い会社 | 利益が少なければ低めに出ることもある | 高くなりやすい |
| 内部留保が厚い会社 | 簿価純資産要素に反映 | 高くなりやすい |
| 赤字・無配の会社 | 低くなりやすい | 資産があれば高くなる |
| 資産が軽く高収益の会社 | 高くなりやすい | 比較的低くなることもある |
大切なのは、どちらが有利かを一般論で決めつけないことです。
実際には、会社規模、類似業種の株価、利益水準、資産内容、含み益、負債、取得者の議決権割合、80%評価の可否によって結論は変わります。
評価方式を選択できる場面では、複数の方式を試算し、どの方法が通達上認められ、どの評価額になるかを確認します。そのうえで、申告書に添付する評価明細書と、内部の判断メモとを整合させておくことが大切です。
評価額が下がることだけを目的にしない
非上場株式評価では、評価額を下げることばかりに目が向くと、かえって承継設計を誤ることがあります。
たとえば、次のような発想です。
- 利益を下げれば類似業種比準価額が下がる
- 配当を止めれば評価額が下がる
- 不動産を会社で取得すれば評価額が下がる
- 株式を分散すれば配当還元方式を使える
- 役員退職金を支給すれば純資産価額が下がる
これらは、たしかに一定の場面では評価に影響します。
しかし、税務上・経営上・親族関係上のリスクを無視して実行すべきものではありません。
利益を過度に圧縮すれば、金融機関からの評価、後継者の経営力、役員報酬の妥当性に影響します。配当を止めれば、少数株主との関係が悪化することがあります。不動産取得には、借入金、空室、修繕、相続後の管理負担が伴います。株式分散は、次世代で支配権が不安定になる原因にもなります。
相続対策は、相続税の軽減だけでなく、争族の防止、納税資金、事業承継を一体で考える必要があります。とくに換金困難な財産が多い場合には、相続税の納税資金確保が重要であり、相続税対策として行った借入や不動産投資が、かえって相続人の負担になることもあります。
非上場株式の評価は、税額を下げるためだけの作業ではありません。
後継者が会社を引き継げるか。 他の相続人にどう公平性を説明するか。 納税資金をどう準備するか。 会社の資金を過度に流出させないか。 申告後に評価根拠を説明できるか。
こうした視点が欠かせません。
会社規模判定・評価計算で必要となる資料
会社規模判定と評価計算では、少なくとも次の資料を確認します。
会社規模判定に必要な資料
- 直前期の決算書
- 法人税申告書
- 勘定科目内訳書
- 法人税申告書別表五(一)
- 従業員数が分かる資料
- 就業規則、雇用契約、労働時間資料
- 売上構成、事業別売上資料
- 関連会社取引の資料
- 定款、登記事項証明書
- 株主名簿、法人税申告書別表二
類似業種比準価額に必要な資料
- 直前期および直前々期の決算書
- 法人税申告書
- 配当実績が分かる株主総会議事録等
- 利益金額の計算に必要な法人税別表
- 非経常損益の内容が分かる資料
- 業種目判定のための売上内訳
- 国税庁の業種目別株価等一覧表
純資産価額に必要な資料
- 貸借対照表の各資産・負債の明細
- 不動産の固定資産税課税明細書
- 路線価図、評価倍率表
- 土地・建物の登記事項証明書
- 賃貸借契約書、借地権関係資料
- 上場株式・投資信託等の時価資料
- 非上場株式を保有している場合の発行会社資料
- 保険契約に関する資料
- 貸付金・借入金の契約書、残高確認資料
- 役員退職金、死亡退職金に関する規程・議事録
- 課税時期前3年以内に取得した土地・建物の取得資料
国税庁は、取引相場のない株式および出資等の価額を評価するために「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」を使用し、相続税または贈与税の申告書に明細書として添付することを案内しています。令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産については、対応する評価明細書様式が公表されています。
出典:国税庁|B2-1 取引相場のない株式(出資)の評価明細書
評価明細書は重要ですが、明細書を埋めるだけでは十分とはいえません。
明細書の数字の根拠となる資料、判断の過程、選択した方式、採用しなかった方式の検討結果まで残しておくことで、申告後の税務調査や相続人間の説明に耐えやすくなります。
よくある誤りと注意点
誤り1:売上だけで会社規模を判定する
会社規模判定では、取引金額だけでなく、総資産価額と従業員数も確認します。売上が少ないからといって、小会社とは限りません。不動産や金融資産を多く保有している会社では、総資産価額によって中会社・大会社の判定が問題になることがあります。
誤り2:従業員数に役員を含めてしまう
通達上、一定の役員は従業員に含まれません。役員中心の同族会社では、人数の数え方一つで規模判定が変わることがあります。
誤り3:業種判定を定款だけで行う
業種判定は、取引金額に基づいて行います。定款上の目的や名刺上の業種ではなく、実際の収入構成を確認します。
誤り4:類似業種比準価額で古い業種目別株価等を使う
類似業種比準価額では、評価時期に対応する年分・月の資料が必要です。古い評価シートや過年度の国税庁資料を流用すると、評価誤りにつながります。
誤り5:帳簿上の純資産をそのまま純資産価額と考える
純資産価額方式では、資産を相続税評価額等に洗い替えます。帳簿価額が低い不動産や含み益のある有価証券がある場合には、帳簿上の純資産とは大きく異なることがあります。
誤り6:80%評価を無条件に使う
80%評価が使えるかどうかは、取得者と同族関係者の議決権割合、適用場面、選択適用の有無によって異なります。自動的に80%できるわけではありません。
誤り7:特定の評価会社の判定を後回しにする
一般の評価会社として会社規模判定を進めても、土地保有特定会社、株式等保有特定会社、比準要素数1の会社、開業後3年未満の会社等に該当すれば、評価方法が変わります。会社規模判定と並行して、特定の評価会社の該当性を確認する必要があります。
遺産分割・納税資金との接点
非上場株式の評価額は、相続人間の分割協議にも影響します。
たとえば、後継者が会社株式をすべて取得する場合、相続税評価額が高くなると、後継者の取得財産額も大きくなります。他の相続人との公平性を確保するために、代償金や生命保険金を使うこともありますが、後継者に十分な資金がなければ、分割協議が難航する可能性があります。
しかも、非上場株式は換金が難しい財産です。
評価額が高くても、その株式を売って相続税を納められるとは限りません。会社が自己株式として買い取る方法もありますが、会社法上の手続、財源規制、みなし配当、会社資金への影響、他株主との関係を検討する必要があります。
したがって、会社規模判定と株価計算は、次の判断に直結します。
- 後継者に株式を集中させるか
- 株式以外の財産を他の相続人にどう配分するか
- 代償金を支払えるか
- 生命保険や死亡退職金をどう活用するか
- 会社による自己株式取得を検討するか
- 事業承継税制を検討するか
- 遺言で株式取得者を指定するか
非上場株式の評価は、申告書の作成にとどまらず、家族と会社の将来を左右する判断材料になります。
会社規模判定は「試算」と「記録化」が重要
相続発生前の事業承継対策では、1回の株価計算で終わらせるべきではありません。
会社の利益、配当、内部留保、不動産取得、借入、役員退職金、株主構成は、時間とともに変わっていきます。だからこそ、相続開始前の早い段階から定期的に株価を試算し、次の点を確認しておくことが重要です。
- 現在の会社規模区分
- 類似業種比準価額と純資産価額の差
- 中会社のL割合
- 特定の評価会社への該当可能性
- 後継者取得時の相続税負担
- 他の相続人との公平性
- 納税資金の不足可能性
- 事業承継税制の検討余地
一方、相続発生後の申告実務では、評価時点は課税時期、つまり相続または遺贈の場合は被相続人の死亡日です。死亡日時点の会社財務、株主構成、発行済株式数、自己株式、種類株式、未分割株式などを確認し、評価明細書に反映します。
評価根拠を残す際には、少なくとも次の記録を残しておくとよいでしょう。
- 同族株主判定の結果
- 会社規模判定の計算過程
- 業種判定の根拠
- 使用した国税庁の業種目別株価等
- 類似業種比準価額の計算過程
- 純資産価額の資産・負債別調整表
- 80%評価の適用可否
- 特定の評価会社の該当性検討
- 採用した評価方式と採用しなかった方式の比較
税務調査では、評価額そのものだけでなく、なぜその方式を採用したのか、資料に基づいて説明できるかが問われます。とくに非上場株式は、土地評価、役員貸付金、同族会社間取引、保険契約、退職金、自己株式取得などが絡みやすく、会社資料と個人の相続資料を一体で確認する必要があります。
会社規模判定・非上場株式評価について相談したい方へ
非上場株式の評価は、決算書の数字を入力すれば自動的に結論が出るものではありません。
同族株主判定、会社規模判定、業種判定、類似業種比準価額、純資産価額、特定の評価会社の判定、納税資金、遺産分割、後継者の支配権を、一体で整理していく必要があります。
とくに、同族会社の株式が相続財産の大きな割合を占める場合には、評価額の大小だけでなく、誰が株式を取得し、どのように納税し、他の相続人にどう説明するかが重要になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、非上場株式を含む相続・贈与について、会計数値、税務評価、会社法上の支配権、遺産分割、納税資金を横断して整理することを重視しています。
会社規模判定が難しい、類似業種比準価額と純資産価額の差を把握したい、後継者へ株式を集中させたいが相続税や他の相続人との公平性が不安、という場合には、直近の決算書・法人税申告書・株主名簿・定款・不動産資料などを整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 評価の順番 | 同族株主判定、特定の評価会社判定、会社規模判定 | いきなり株価計算を始めない |
| 会社規模判定 | 総資産価額、従業員数、取引金額 | 売上だけで大会社・中会社・小会社を決めない |
| 業種判定 | 卸売業、小売・サービス業、それ以外 | 定款ではなく取引金額に基づいて判定する |
| 大会社 | 原則として類似業種比準価額 | 純資産価額も選択できるが、80%評価の可否に注意 |
| 中会社 | 類似業種比準価額と純資産価額の併用方式 | L割合は0.90、0.75、0.60のいずれか |
| 小会社 | 原則として純資産価額 | 類似業種比準価額50%・純資産価額50%の併用方式も選択可 |
| 類似業種比準価額 | 配当、利益、簿価純資産、類似業種株価 | 最新の国税庁業種目別株価等を確認する |
| 純資産価額 | 相続税評価額による資産、負債、法人税額等相当額 | 帳簿上の純資産をそのまま使わない |
| 3年以内取得不動産 | 課税時期前3年以内に取得・新築した土地建物 | 通常の取引価額に相当する金額で評価する取扱いに注意 |
| 評価差額に対する法人税額等相当額 | 現行通達上の割合 | 令和8年改正後は38%。過去評価では当時の取扱いを確認 |
| 80%評価 | 取得者グループの議決権割合、適用場面 | 無条件に使えるわけではない |
| 遺産分割との関係 | 誰が株式を取得するか | 後継者の税負担、代償金、他の相続人への説明が必要 |
| 納税資金 | 株式評価額と現金化可能性 | 非上場株式は評価額があっても換金しにくい |
| 申告後の説明 | 評価明細書、判断メモ、根拠資料 | 税務調査や相続人間説明に備えて記録化する |