非上場株式の評価では、まず会社規模を判定し、大会社・中会社・小会社に区分したうえで、類似業種比準価額、純資産価額、そしてその併用方式を使い分けていきます。
ただ、すべての会社がこの通常ルールどおりに評価されるわけではありません。
たとえば、次のような会社があります。
- 会社の資産の大部分が不動産である
- 会社の資産の大部分が上場株式や関係会社株式である
- 配当、利益、簿価純資産の比準要素がほとんどない
- 設立後間もない、または開業後3年未満である
- 事業を休止している
- 清算手続中である
こうした会社は、財産の構成や営業の状態が、通常の事業会社とは大きく異なります。
それにもかかわらず、「大会社だから類似業種比準方式」「中会社だから併用方式」と機械的にあてはめてしまうと、会社の実態とかけ離れた評価になってしまうことがあります。
そこで財産評価基本通達では、通常の一般評価会社とは性質の異なる会社を「特定の評価会社」として整理し、一般の評価会社とは別の評価方法を定めています。
国税庁の財産評価基本通達189では、特定の評価会社の株式を、評価会社の資産の保有状況や営業の状態などに応じて区分した一定の評価会社の株式と位置づけ、その価額はそれぞれの区分に従って評価するものとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
非上場株式の相続において、この判定を軽く見ることはできません。
特定の評価会社に該当するかどうかで評価方法が変わり、株価が大きく動くことがあるからです。評価額が変われば、相続税額そのものはもちろん、後継者の納税資金、他の相続人との公平性、遺留分、代償金、会社の資金繰り、自己株式取得の検討にまで影響が及びます。
本稿では、非上場株式評価のなかでも特に判断の難しい「特定の評価会社」について、制度の全体像、各類型の考え方、評価方法、そして実務上の注意点を整理していきます。
特定の評価会社は「例外」ではなく、実務でよく出てくる
「特定の評価会社」という言葉だけを見ると、何か特殊な会社に限った話のように感じられるかもしれません。
しかし、相続・贈与の実務では、決して珍しい論点ではありません。
特に同族会社では、次のような会社が少なくないのです。
| 会社の状態 | 特定の評価会社の判定が問題になりやすい理由 |
|---|---|
| 不動産管理会社 | 土地・建物を多く保有している |
| 資産管理会社 | 上場株式、投資信託、関係会社株式を多く保有している |
| 持株会社 | 子会社株式・関連会社株式が資産の大部分を占める |
| 休眠会社 | 事業活動が停止し、資産だけが残っている |
| 設立後間もない会社 | 利益・配当実績が十分に形成されていない |
| 赤字・無配の会社 | 類似業種比準方式の比準要素が欠ける |
| 清算中の会社 | 継続企業として評価する前提が合わない |
非上場株式の評価は、会社の「名前」や「業種」だけで判断できるものではありません。
同じ不動産業を営む会社でも、実態として通常の営業活動を行っているのか、土地を保有しているだけの会社に近いのかで、評価上の見方は変わってきます。
資産管理会社にしても同じです。株式等保有特定会社に該当するのか、土地保有特定会社に該当するのか、あるいは開業後3年未満の会社等にあたるのかによって、適用される評価方法が変わります。
特定の評価会社とは、会社が所有する特定資産の保有状況や経営状態が通常の事業会社と異なる場合に、一般の評価会社とは別の方法で評価するための枠組みである。実務上も、そのように整理しておくと考えやすいでしょう。
まず確認すべき評価の順番
非上場株式の評価では、特定の評価会社の判定だけを単独で行うわけではありません。次のような順番で整理していきます。
- 取引相場のない株式に該当するか
- 株式取得者が同族株主等か、同族株主以外の株主等か
- 一般の評価会社か、特定の評価会社か
- 特定の評価会社に該当しない場合に、会社規模判定へ進む
- 大会社・中会社・小会社に応じて、類似業種比準価額・純資産価額・併用方式を適用する
国税庁のタックスアンサーでも、取引相場のない株式については、株式を取得した株主が経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または配当還元方式により評価すると説明されています。さらに原則的評価方式では、評価会社を総資産価額、従業員数、取引金額によって大会社・中会社・小会社に区分して評価するものとされています。
ここで大切なのは、会社規模判定よりも前に、特定の評価会社に該当しないかを確認しておくという点です。
たとえ大会社に区分される規模の会社であっても、株式等保有特定会社や土地保有特定会社に該当すれば、通常の大会社とは異なる方法で評価することになります。
反対に、規模の小さな会社であっても、同族株主以外の少数株主が取得する株式であれば、配当還元方式の検討が必要になることがあります。ただし、開業前・休業中の会社や清算中の会社では、同族株主以外の株主が取得する場合でも、通常の配当還元方式の考え方とは異なる扱いになる点に注意が必要です。
特定の評価会社の6つの類型
財産評価基本通達では、主に次の6つの類型を、特定の評価会社として整理しています。
| 類型 | 会社の特徴 | 評価の基本 |
|---|---|---|
| 比準要素数1の会社 | 配当・利益・簿価純資産のうち、使える比準要素が1つしかない会社 | 純資産価額方式を原則。一定の併用方式を選択可 |
| 株式等保有特定会社 | 株式等の保有割合が高い会社 | 純資産価額方式を原則。S1+S2方式を選択可 |
| 土地保有特定会社 | 土地等の保有割合が高い会社 | 純資産価額方式 |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業後3年未満、または比準要素数0の会社 | 純資産価額方式 |
| 開業前または休業中の会社 | 事業開始前または事業活動を休止している会社 | 純資産価額方式 |
| 清算中の会社 | 清算手続中の会社 | 清算分配見込額の複利現価 |
特定の評価会社の評価方法は、一般の評価会社とは異なります。比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前または休業中の会社、清算中の会社のそれぞれについて、別々の評価方法が定められています。
以下、ひとつずつ確認していきましょう。
比準要素数1の会社
比準要素数とは何か
類似業種比準価額では、評価会社の次の3つの要素を使います。
| 比準要素 | 内容 |
|---|---|
| 配当金額 | 1株当たりの配当金額 |
| 利益金額 | 1株当たりの利益金額 |
| 純資産価額 | 1株当たりの簿価純資産価額 |
この3つの要素がある程度そろっている会社であれば、類似業種比準方式によって、同業種の上場会社と比較しながら評価することができます。
ところが、3つのうち2つがゼロで、実質的に1つの要素しか使えない会社では、類似業種比準方式の合理性が低くなってしまいます。
そこで通達では、一定の要件を満たす会社を「比準要素数1の会社」として、通常の一般評価会社とは異なる評価方法を定めています。
財産評価基本通達189では、1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額(帳簿価額)のうち、いずれか2つが0であり、かつ、直前々期末を基準に同様に計算した場合にもいずれか2つ以上が0となる評価会社を、一定の除外類型を除いて比準要素数1の会社としています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
比準要素数1の会社の評価方法
比準要素数1の会社の株式は、原則として純資産価額方式で評価します。
ただし、納税義務者の選択によって、類似業種比準価額を25%、純資産価額を75%とする併用方式を選ぶこともできます。
財産評価基本通達189-2では、比準要素数1の会社の株式の価額は原則として1株当たりの純資産価額により評価するとしたうえで、納税義務者の選択により、Lを0.25とする併用方式で計算した金額で評価できるものとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(比準要素数1の会社の株式の評価)
実務では、次のような点を確認していきます。
- 配当を意図的に止めていないか
- 利益金額に非経常損益が含まれていないか
- 役員報酬、役員退職金、保険差益、不動産売却益などの影響はないか
- 直前期だけでなく、直前々期も要件を満たすか
- 比準要素数0の会社や休業中の会社など、より優先して判定すべき類型に該当しないか
比準要素数1の会社とは、単に「業績が悪い会社」という意味ではありません。
類似業種比準方式で評価する前提となる比較要素そのものが欠けている会社、と理解する必要があります。ですから、評価額を下げるために利益や配当を操作しようという発想ではなく、そもそもこの会社に類似業種比準方式が適しているのかを見極めることが大切です。
株式等保有特定会社
株式等保有特定会社とは
株式等保有特定会社とは、会社の資産のうち、株式・出資・新株予約権付社債などの「株式等」の保有割合が高い会社をいいます。
典型的には、次のような会社が当てはまります。
- 上場株式を多く保有する資産管理会社
- 子会社株式を多く保有する持株会社
- 関係会社株式が資産の大部分を占める会社
- 投資有価証券の含み益が大きい会社
財産評価基本通達189では、課税時期において、評価会社の有する各資産を評価通達により評価した価額の合計額のうち、株式等の価額の合計額が占める割合が50%以上である評価会社を、一定の除外類型を除いて株式等保有特定会社としています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
なぜ通常の類似業種比準方式では足りないのか
株式等保有特定会社では、会社の価値の多くが、保有している株式等の価値によって左右されます。
このとき、評価会社自体の配当、利益、簿価純資産だけを見ても、会社の実態を十分には反映できないことがあります。
たとえば、持株会社が子会社株式を保有しているケースを考えてみてください。持株会社そのものの営業利益は小さくても、保有する子会社株式の価値が大きいことがあります。また、上場株式を多く保有している会社では、その株式の時価変動や含み益が株価に大きく影響します。
こうした事情から、通常の類似業種比準方式だけでは、資産保有会社としての実態を十分にとらえきれない場合があるのです。
株式等保有特定会社の評価方法
株式等保有特定会社の株式は、原則として純資産価額方式で評価します。
ただし、納税義務者の選択により、S1+S2方式による評価を選ぶこともできます。
財産評価基本通達189-3では、株式等保有特定会社の株式の価額は原則として純資産価額により評価するとしたうえで、納税義務者の選択により、S1の金額とS2の金額との合計額で評価できるものとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(株式等保有特定会社の株式の評価)
S1+S2方式を簡単にいえば、評価会社を、株式等以外の事業部分と、株式等を保有する部分とに分けて評価する考え方です。
| 区分 | 考え方 |
|---|---|
| S1 | 株式等を除いた部分について、一般評価会社に準じて評価する部分 |
| S2 | 株式等の相続税評価額を基礎として評価する部分 |
この方式は、単に評価額を下げるための簡便法ではありません。
会社が実際に事業活動を行いながら、同時に株式等も多く保有している場合に、事業部分と株式等保有部分とを分けて評価するための方法です。
そのため、S1+S2方式を検討する際には、次の点を確認しておく必要があります。
- 株式等の範囲は正しく把握されているか
- 評価会社が保有する非上場株式の評価はできているか
- 関係会社株式、子会社株式、投資有価証券の明細が整っているか
- 評価時点の時価資料、決算書、申告書、株主名簿があるか
- 株式等保有特定会社への該当回避を目的とした資産構成の変動がないか
特に、複数の同族会社が相互に株式を保有している場合には、評価が循環しやすくなります。一社だけを見て判断するのではなく、グループ全体の株式保有関係を図にして整理することが欠かせません。
土地保有特定会社
土地保有特定会社とは
土地保有特定会社とは、会社の資産のうち、土地等の保有割合が著しく高い会社をいいます。
典型的には、次のような会社が当てはまります。
- 賃貸不動産を多く保有する会社
- 地主が法人化して設立した不動産管理会社
- 事業用不動産を会社名義で多く保有している会社
- 土地の含み益が大きい会社
- かつては事業をしていたが、現在は不動産保有会社に近い会社
土地保有特定会社では、会社価値の大部分が土地等の価値によって左右されます。
そのため、類似業種比準方式で利益や配当を基礎に評価してしまうと、土地の含み益や資産保有の実態が十分に反映されないことがあります。
土地保有割合の判定
土地保有特定会社の判定では、会社規模や総資産価額に応じて、土地保有割合の基準が変わります。
概要を整理すると、次のとおりです。
| 判定区分 | 土地保有割合の基準 |
|---|---|
| 大会社に区分される会社等 | 70%以上 |
| 中会社に区分される会社等 | 90%以上 |
財産評価基本通達189では、大会社に区分される会社等で土地保有割合が70%以上である会社、中会社に区分される会社等で土地保有割合が90%以上である会社を、一定の除外類型を除いて土地保有特定会社としています。なお、小会社であっても、総資産価額が一定額以上の場合には、大会社または中会社に準じた土地保有特定会社判定の対象になります。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
ここで注意したいのは、土地保有割合の判定に用いる資産価額が、原則として相続税評価額ベースであるという点です。
帳簿上の土地価額が低くても、相続税評価額に洗い替えると、土地保有割合が大きく変わることがあります。古くから所有している土地、取得価額が低い土地、含み益の大きい土地を保有している会社では、とりわけ慎重な確認が求められます。
土地保有特定会社の評価方法
土地保有特定会社の株式は、原則として純資産価額方式で評価します。
財産評価基本通達189-4では、土地保有特定会社の株式の価額は純資産価額により評価するものとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(土地保有特定会社の株式又は開業後3年未満の会社等の株式の評価)
このことは、相続実務において大きな意味を持ちます。
不動産を多く持つ会社では、株式そのものは現金化しにくいにもかかわらず、評価額は高くなりやすいのです。後継者が株式を取得したとしても、相続税の納税資金を株式から直接生み出せるとは限りません。
会社が土地を所有している場合、その土地を売却すれば、事業や賃貸収入に影響します。会社が自己株式取得を行う場合にも、会社法上の財源規制、みなし配当、会社資金への影響を検討しなければなりません。
土地保有特定会社に該当する可能性があるときは、株価評価だけでなく、納税資金と不動産の保有方針を同時に考えていく必要があります。
開業後3年未満の会社等
開業後3年未満の会社
開業後3年未満の会社では、まだ通常の事業実績が十分に積み上がっていないことがあります。
設立直後、あるいは事業を始めて間もない会社では、配当、利益、簿価純資産の推移が安定しません。そのため、類似業種比準方式を使って上場会社と比較しても、会社の実態を適切に反映しにくいのです。
財産評価基本通達189では、課税時期において開業後3年未満である会社を、一定の除外類型を除いて開業後3年未満の会社等としています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
ここで気をつけたいのは、「設立日」だけで機械的に判断しないことです。
会社が設立された時期と、実際に事業を開始した時期とがずれていることがあります。休眠会社を利用して事業を始めた場合や、合併・事業譲受があった場合などは、事実関係をていねいに確認する必要があります。
比準要素数0の会社
開業後3年未満の会社等には、比準要素数0の会社も含まれます。
これは、1株当たりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額の3つがいずれも0である会社のことです。
財産評価基本通達189では、1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額(帳簿価額)のいずれもが0である会社を、一定の除外類型を除いて開業後3年未満の会社等に含めています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
比準要素数0の会社には、類似業種比準方式で比較する基礎そのものがありません。
そのため、評価方法は純資産価額方式となります。
評価方法
開業後3年未満の会社等の株式は、純資産価額方式で評価します。
このとき、株式取得者と同族関係者の議決権合計数が一定の要件を満たす場合には、純資産価額の80%評価が問題になります。
財産評価基本通達185では、純資産価額について、課税時期における各資産を評価通達により評価した価額の合計額から、負債および評価差額に対する法人税額等相当額を控除し、課税時期における発行済株式数で除して計算するとしています。あわせて、一定の場合には純資産価額に80%を乗じて計算する取扱いも定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(純資産価額)
ただし、80%評価が常に使えるわけではありません。取得者と同族関係者の議決権割合、評価方法の適用場面、同族株主等にあたるかどうかを確認しておく必要があります。
開業前または休業中の会社
開業前の会社
開業前の会社は、まだ事業活動を始めていません。
そのため、将来の事業計画や見込利益ではなく、課税時期における会社の財産状態を基礎に評価します。
休業中の会社
休業中の会社は、形式上は会社が存在していても、通常の営業活動を行っていない状態です。
ここで難しいのが、単なる売上減少と休業中との違いです。
一時的に売上が落ちているだけなのか、それとも実質的に事業活動を停止しているのか。従業員、事務所、取引先、売上、仕入、金融機関取引、許認可、経営者の意思などをひとつずつ確認していきます。
財産評価基本通達189では、開業前または休業中である評価会社の株式を、特定の評価会社の一類型として定めています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
開業前または休業中の会社の株式は、純資産価額方式で評価します。
財産評価基本通達189-5では、開業前または休業中の会社の株式の価額は純資産価額により評価するとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(開業前又は休業中の会社の株式の評価)
実務では、休業中の会社に不動産、貸付金、保険契約、有価証券、未収金などが残っているケースがあります。
「もう動いていない会社だから価値はない」と考えるのは危険です。事業活動が止まっていても、会社に資産が残っていれば、その株式には相続税評価上の価値があるからです。
清算中の会社
清算中の会社には、通常の継続企業として評価する前提がありません。
会社は事業を続けるのではなく、資産を換価し、債務を弁済し、残余財産を株主に分配する段階にあります。
そのため、清算中の会社の株式は、清算によって株主が受け取る見込みの分配額を基礎に評価します。
財産評価基本通達189-6では、清算中の会社の株式の価額について、清算の結果分配を受ける見込みの金額を、課税時期から分配を受ける見込日までの期間に応ずる基準年利率による複利現価の額で評価するとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(清算中の会社の株式の評価)
清算中の会社では、次の点の確認が重要になります。
- 清算手続が法的に開始しているか
- 残余財産の分配見込額はいくらか
- 資産の換価見込額は合理的か
- 債務、未払税金、清算費用は見込まれているか
- 分配時期はいつ頃と見込まれるか
- 複数回に分けて分配される可能性があるか
「将来廃業する予定」というだけでは、清算中の会社とはいえません。清算手続の有無と、課税時期における会社の状態を、しっかり確認する必要があります。
判定の優先順位を意識する
特定の評価会社の判定では、複数の類型に該当しそうな会社が出てきます。
たとえば、土地を多く保有していて、かつ休業中である会社。株式等を多く保有していて、かつ開業後3年未満である会社。あるいは、比準要素数が1で、かつ土地保有割合も高い会社。
こうした場合には、どの類型を優先して評価するのかを確認しなければなりません。
実務では、次のような順番で整理すると混乱しにくくなります。
- 清算中の会社か
- 開業前または休業中の会社か
- 開業後3年未満の会社等か
- 土地保有特定会社か
- 株式等保有特定会社か
- 比準要素数1の会社か
財産評価基本通達189は、各類型ごとに、後続の類型に該当する会社を除外する形で定められています。たとえば、株式等保有特定会社は土地保有特定会社等に該当するものを除き、土地保有特定会社は開業後3年未満の会社等、開業前・休業中の会社、清算中の会社に該当するものを除く、という構造になっています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
評価明細書を作成する際にも、特定の評価会社の判定はこの順番を意識して記載します。株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前または休業中の会社、清算中の会社のどれに該当するかによって、記載すべき欄や評価方法が変わってくるからです。
資産構成を直前に変えた場合の注意点
特定の評価会社の判定で、とりわけ注意したいのが資産構成の変動です。
たとえば、相続・贈与の直前に、次のような対応がとられるケースがあります。
- 会社が保有株式を売却して現金化する
- 会社が土地を売却して別の資産に変える
- 会社が借入をして資産を取得する
- 関係会社株式を移動させる
- 不動産を個人から法人へ移す
- 有価証券を別会社へ移す
これらの取引には、経営上の合理的な理由がある場合もあります。
一方で、特定の評価会社に該当することを避けるためだけに、合理的な理由なく資産構成を変えたと認められる場合には、その変動がなかったものとして判定される可能性があります。
財産評価基本通達189では、株式等保有特定会社または土地保有特定会社に該当するかどうかを判定する場合に、課税時期前に合理的な理由なく評価会社の資産構成に変動があり、それが該当判定を免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定するとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(特定の評価会社の株式)
ここは、単なる技術的な判定の話にとどまりません。
相続対策として資産構成を変える場合には、税額だけでなく、経営上の必要性、資金繰り、取締役会・株主総会の意思決定、取引価格の妥当性、会社法手続、そして法人税・所得税・贈与税への影響まで確認する必要があります。
「判定を外すために資産を動かす」という発想は、後から説明しにくい判断になりやすい。この点は、くれぐれも注意していただきたいところです。
純資産価額方式で評価する場合の実務上の重さ
特定の評価会社に該当すると、多くの場合、純資産価額方式が評価の中心になります。
純資産価額方式は、会社の貸借対照表をそのまま使う方法ではありません。
会社の各資産を相続税評価額に洗い替え、負債を確認し、評価差額に対する法人税額等相当額を控除したうえで、1株当たりの純資産価額を計算していきます。
財産評価基本通達185では、純資産価額について、課税時期における各資産を評価通達により評価した価額の合計額から、負債および評価差額に対する法人税額等相当額を控除し、課税時期における発行済株式数で除して計算するとしています。また、課税時期前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する取扱いも定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(純資産価額)
令和8年6月19日時点で公表されている現行通達では、評価差額に対する法人税額等相当額は38%とされています。過去の相続・贈与、修正申告、更正の請求を検討する場合には、その取得時期に対応する当時の通達を確認する必要があります。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資(評価差額に対する法人税額等に相当する金額)
特定の評価会社では、この純資産価額方式の精度が、評価全体の品質を左右します。
なかでも、次の資産は慎重に確認したいところです。
| 資産・負債 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 土地 | 路線価、倍率、地目、評価単位、貸宅地、借地権、利用制限 |
| 建物 | 固定資産税評価額、賃貸状況、3年以内取得・新築の有無 |
| 上場株式 | 課税時期の評価額、配当期待権、銘柄別明細 |
| 非上場株式 | 発行会社の評価資料、相互保有、関係会社評価 |
| 貸付金 | 回収可能性、役員貸付金、関係会社貸付金 |
| 借入金 | 金融機関借入、役員借入金、債務の実在性 |
| 保険契約 | 解約返戻金、契約者・被保険者・受取人、法人契約の内容 |
| 退職金 | 死亡退職金、役員退職金規程、支給決議、未払計上 |
| 未払税金 | 法人税、消費税、事業税、固定資産税等の未払額 |
会社の資産が複雑であればあるほど、非上場株式評価は「株式だけの評価」ではなくなっていきます。
土地評価、金融資産評価、同族会社間取引、法人税、所得税、会社法、相続法務。これらが互いにつながりあってくるのです。
特定の評価会社と遺産分割・納税資金
特定の評価会社に該当する場合、評価額が高く出ることがあります。
特に、不動産や株式を多く持つ会社では、会社に含み益が蓄積されている一方で、株式そのものは換金しにくいという問題が生じます。
たとえば、後継者が会社株式をすべて取得する場合、相続税評価額が大きくなれば、その分、後継者の取得財産額も大きくなります。
しかし、会社株式は上場株式のように自由に売却できるものではありません。会社の支配権を維持するためには、外部への売却が現実的でないこともあります。
その結果、次のような課題が浮かび上がってきます。
- 後継者の相続税納税資金が不足する
- 他の相続人から「会社株式を多く取得した」と見られる
- 代償金の支払いが必要になる
- 遺留分への対応が必要になる
- 会社による自己株式取得を検討する必要がある
- 会社資金を使うことで経営に影響が出る
- 不動産や有価証券の売却が必要になる
相続対策では、相続税額の軽減だけを優先するのではなく、争族防止、納税資金、税額軽減、申告実務を一体で考えていく必要があります。とりわけ換金困難な財産が多い場合、納税資金の不足は、相続人の負担や資産処分の順序に大きく影響します。
特定の評価会社に該当する可能性があるときは、早い段階で次の検討をしておくべきでしょう。
- 株価の概算試算
- 特定の評価会社への該当可能性
- 後継者が取得する株式数
- 他の相続人に配分できる財産
- 代償金の支払可能性
- 生命保険や死亡退職金の活用余地
- 自己株式取得の可否
- 事業承継税制の検討余地
- 遺言による株式承継の必要性
非上場株式の評価は、税額計算だけの問題ではありません。
後継者が会社を守れるか、他の相続人に説明できるか、相続税を期限内に納められるか。つまりは、承継設計そのものの問題なのです。
税務調査で問われやすいポイント
特定の評価会社に関する相続税申告では、税務調査で次のような点が確認されやすくなります。
| 確認されやすい点 | 説明に必要な資料・視点 |
|---|---|
| 特定の評価会社に該当しないと判断した理由 | 判定明細、資産構成、会社資料 |
| 株式等保有割合 | 有価証券明細、関係会社株式評価、時価資料 |
| 土地保有割合 | 土地評価明細、固定資産税資料、登記、賃貸借契約 |
| 比準要素数 | 配当、利益、簿価純資産の計算資料 |
| 休業中かどうか | 売上、仕入、従業員、事務所、取引実態 |
| 開業後3年未満かどうか | 設立日、事業開始日、許認可、売上開始時期 |
| 純資産価額 | 資産・負債の相続税評価、評価差額、未払税金 |
| 資産構成の変動 | 取引の時期、合理的理由、契約書、議事録 |
| 同族株主以外の株主の評価 | 議決権割合、役員該当性、株主名簿 |
国税庁は、取引相場のない株式等を評価するための「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」を公表しています。相続税・贈与税の申告にあたっては、この評価明細書を用いて評価内容を整理する実務が行われています。
出典:国税庁|B2-1 取引相場のない株式(出資)の評価明細書
評価明細書は、単なる提出書類ではありません。
どの会社資料をもとに判定したのか、どの資産をどの価額で評価したのか、どの類型に該当し、どの類型には該当しないのか。それらを説明するための土台となるものです。
特に、特定の評価会社に該当するかどうかは、評価額を大きく左右します。判断の過程を記録しておかなければ、申告後の説明が難しくなってしまいます。
特定の評価会社の判定で準備すべき資料
ご相談の前に、少なくとも次の資料を整理しておいていただくと、判断がスムーズに進みます。
会社の基本資料
- 直近3期分の決算書
- 法人税申告書
- 勘定科目内訳書
- 法人税申告書別表二
- 法人税申告書別表五(一)
- 株主名簿
- 定款
- 登記事項証明書
- 株主総会議事録、取締役会議事録
- 発行済株式数、自己株式、種類株式の有無が分かる資料
資産構成の確認資料
- 固定資産台帳
- 不動産登記事項証明書
- 固定資産税課税明細書
- 路線価図、評価倍率表
- 賃貸借契約書
- 有価証券明細
- 関係会社株式の資料
- 保険契約資料
- 貸付金・借入金の契約書、残高資料
- 役員貸付金、役員借入金の明細
特定の評価会社判定に必要な資料
- 配当実績が分かる資料
- 利益金額の計算資料
- 簿価純資産の計算資料
- 土地保有割合の計算資料
- 株式等保有割合の計算資料
- 開業日、事業開始日が分かる資料
- 休業状態の有無を示す資料
- 清算手続に関する資料
- 課税時期前の資産構成変動に関する契約書・議事録
資料が不足している場合でも、評価を進めること自体はできます。
ただし、資料が不足しているほど、判断の不確実性は高まり、税務調査時の説明リスクも大きくなります。特定の評価会社の判定では、数字そのものだけでなく、その数字の根拠をどこまで確認できるかが重要なのです。
「該当を避ける」という発想だけで判断しない
特定の評価会社に該当すると、純資産価額方式が中心となり、評価額が高くなることがあります。
そのため、相談の現場では「土地保有特定会社に該当しないようにしたい」「株式等保有特定会社を外したい」といった声が出ることがあります。
しかし、該当回避だけを目的にした対策は、慎重に考える必要があります。
特に、次のような対応は、税務上・経営上・親族関係上のリスクをともないます。
- 相続直前に不動産や有価証券を売却する
- 会社資産を別会社に移す
- 個人と法人の間で低額譲渡を行う
- 合理性の乏しい借入や資産取得を行う
- 配当や利益を意図的に調整する
- 株式を形式的に分散させる
これらの取引には、法人税、所得税、贈与税、みなし贈与、みなし配当、会社法手続、そして税務調査リスクが関係してきます。
さらに、会社の資産構成を変えることで、会社の経営安定性や納税資金にも影響が及ぶことがあります。
評価額を下げることだけに意識が向いてしまうと、後継者が会社を承継しにくくなったり、他の相続人から不公平だと受け止められたりすることもあるのです。
非上場株式の相続では、次の3つを同時に見ていく必要があります。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| 税務 | 評価方法、相続税額、贈与税、法人税、所得税 |
| 法務 | 株主権、議決権、遺留分、遺言、会社法手続 |
| 経営 | 後継者、資金繰り、借入、配当、会社資産の維持 |
「できるか」だけでは足りません。
「なぜ行うのか」「会社にとって合理性があるか」「相続人に説明できるか」「申告後に税務上説明できるか」。ここまで確認しておくことが大切です。
特定の評価会社について相談したい方へ
土地や株式を多く保有する同族会社の株式評価では、会社規模判定だけでは足りません。
株式等保有特定会社、土地保有特定会社、比準要素数1の会社、開業後3年未満の会社等、休業中の会社、清算中の会社に該当するかどうかを確認し、評価方法を正しく選択する必要があります。
この判定を誤ると、相続税額だけでなく、後継者の納税資金、他の相続人との公平性、遺言・遺産分割、会社の資金繰りにまで影響します。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、非上場株式を含む相続・贈与について、会計数値、税務評価、会社法上の支配権、遺産分割、納税資金を横断して整理することを大切にしています。
土地や株式を多く持つ同族会社がある、資産管理会社・不動産管理会社の株価を確認したい、後継者へ株式を承継させたいが評価額や納税資金が不安――。そうした場合は、直近の決算書・法人税申告書・株主名簿・不動産資料・有価証券明細を整理いただいたうえで、お問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 特定の評価会社の位置づけ | 一般評価会社と異なる資産構成・営業状態か | 会社規模判定だけで評価方法を決めない |
| 比準要素数1の会社 | 配当・利益・簿価純資産のうち2つが0か | 直前期だけでなく直前々期も確認する |
| 株式等保有特定会社 | 株式等保有割合が50%以上か | 関係会社株式・非上場株式の評価が必要 |
| 土地保有特定会社 | 土地保有割合が基準以上か | 土地を相続税評価額ベースで確認する |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業後3年未満、または比準要素数0か | 設立日だけでなく実際の開業時期を見る |
| 開業前・休業中の会社 | 通常の営業活動を行っているか | 売上減少と休業を混同しない |
| 清算中の会社 | 清算手続中か、分配見込額はいくらか | 将来廃業予定というだけでは清算中ではない |
| 評価方法 | 純資産価額方式、S1+S2方式、清算分配見込額等 | 類似業種比準方式が使えるとは限らない |
| 80%評価 | 取得者と同族関係者の議決権割合 | 無条件に使えるわけではない |
| 資産構成の変動 | 相続・贈与前に合理性の乏しい資産移動がないか | 判定回避目的と見られると否認リスクがある |
| 純資産価額 | 不動産、有価証券、貸付金、保険、負債を洗い替える | 帳簿価額をそのまま使わない |
| 納税資金 | 株式評価額に見合う現金があるか | 非上場株式は評価額が高くても換金しにくい |
| 遺産分割 | 後継者に株式を集中させるか | 代償金、遺留分、他の相続人への説明が必要 |
| 記録化 | 判定過程、資料、採用方式を残す | 税務調査と相続人間説明に備える |