連結財務諸表の作成で最初に問われるのは、連結仕訳をどう作るかではありません。
それ以前に、どの会社を連結するのか。どの会社に持分法を適用するのか。ある投資先を単なる投資有価証券として扱ってよいのか。まず、この判断が必要になります。
この入口の判断を誤ると、影響は一箇所にとどまりません。その後の連結修正、内部取引消去、未実現損益、税効果、非支配株主持分、セグメント情報、関連当事者注記、KAM、適時開示、監査対応まで、連鎖的に及んでいきます。
連結範囲・持分法範囲の判断は、単なる連結決算の準備作業ではありません。企業集団をどの範囲で財務報告するかという、上場企業実務における重要な会計判断です。
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」は、連結財務諸表を、支配従属関係にある2つ以上の企業からなる企業集団を単一の組織体とみなし、親会社が企業集団の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況を総合的に報告するものと位置付けています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
本稿では、日本基準を前提に、連結範囲と持分法範囲を判断するための実務上の視点を整理します。
なお、企業結合における取得企業の決定、PPA、のれん、段階取得の損益処理、グループ内組織再編の会計処理そのものについては、ここでは深掘りしません。扱うのは、それらの前段階となる「この投資先を、連結上どのように位置付けるか」という範囲判定です。
連結範囲・持分法範囲の判断は、形式ではなく実質を見る
連結範囲の判断では、まず「子会社かどうか」を検討します。持分法範囲の判断では、「関連会社かどうか」、あるいは「非連結子会社として持分法を適用すべきか」を検討することになります。
このとき、実務上ありがちな誤りは、議決権比率だけで判断を終えてしまうことです。
もちろん、議決権割合は重要です。しかし、日本基準における子会社・関連会社の判断は、単なる持株比率判定ではありません。支配、重要な影響、自己の計算による所有、緊密な者、同意している者、役員派遣、資金関係、技術関係、取引関係、契約上の権利義務を含めて判断していきます。
したがって、連結範囲・持分法範囲の判断は、次の順序で検討する必要があります。
- 判定対象が「企業」に該当するか
- 議決権割合をどのように算定するか
- 自己の計算で所有している議決権か
- 緊密な者・同意している者の議決権を考慮すべきか
- 意思決定機関を支配しているか
- 子会社である場合、連結範囲に含めるか
- 子会社でない場合、重要な影響を与える関連会社か
- 非連結子会社または関連会社について持分法を適用するか
- 連結除外・持分法非適用とする場合、重要性・理由・開示を説明できるか
重要なのは、判断の結論だけでなく、この検討順序を残しておくことです。監査人、経営者、監査役等、開示担当者に説明する場面では、「議決権比率が何%だから」という説明だけでは不十分なことがあります。
子会社判定の中心は「支配」である
日本基準において、親会社とは、他の企業の財務および営業または事業の方針を決定する機関を支配している企業をいい、子会社とは当該他の企業をいいます。また、親会社および子会社、または子会社が他の企業の意思決定機関を支配している場合、その企業も親会社の子会社とみなされます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
この定義から分かるとおり、子会社判定の中心にあるのは、「財務および営業または事業の方針を決定する機関を支配しているか」です。
議決権の過半数を自己の計算で所有している場合は、通常、支配が認められます。
ただし、議決権の過半数を持っていない場合でも、支配が認められ得る場面があります。40%以上50%以下の議決権を自己の計算で所有し、かつ緊密な者や同意している者の議決権を合わせて過半数となる場合。役員等が取締役会等の構成員の過半数を占める場合。重要な方針決定を支配する契約等が存在する場合などです。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
実務上は、次のような事実関係を確認していきます。
- 議決権の所有割合
- 自己の計算による所有かどうか
- 子会社を通じた間接所有
- 緊密な者・同意している者の有無
- 役員派遣、役員兼任、取締役会構成
- 重要な契約上の権利
- 資金調達、融資、債務保証、担保提供
- 技術供与、ライセンス、システム依存
- 主要な販売・仕入・業務委託関係
- 事業計画、予算、資金繰り、人事に対する実質的関与
- 株主間契約、拒否権、種類株式、優先出資、匿名組合契約等
ここで押さえておきたいのは、支配とは「強い影響力」ではなく、「意思決定機関を支配しているか」という概念だという点です。
重要な取引関係や資金支援があるだけで、直ちに子会社になるわけではありません。一方で、議決権が過半数未満であっても、実質的に重要な方針決定を支配していれば、子会社と判断されることがあります。
議決権割合は、名義ではなく「自己の計算」で見る
議決権割合の算定では、まず、分母・分子を正しく把握する必要があります。
企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」は、子会社または関連会社の判定に用いる議決権の所有割合について、期末における議決権の数によることを定めています。また、自己株式、完全無議決権株式、会社法上の相互保有株式に係る議決権は、行使し得る議決権の総数に含まれないものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
さらに重要なのは、「自己の計算」で所有しているかどうかです。
適用指針第22号は、議決権のある株式または出資の名義が役員等の自己以外の者となっていても、当該株式・出資の取得資金、配当その他の損益の帰属関係を検討し、自己の計算で所有しているかを判断する必要があるとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
したがって、名義株、役員名義株式、従業員持株会、投資組合、ファンド、信託、SPC、議決権行使契約がある場合には、名義上の所有者だけで判断してはいけません。
確認すべきなのは、誰が経済的リスクとリターンを負担しているか。誰が議決権行使を実質的に決定しているか。そして、配当・売却損益が誰に帰属するかです。
緊密な者・同意している者をどう見るか
議決権割合が過半数に満たない場合でも、緊密な者や同意している者の議決権を考慮することで、支配または重要な影響の判断が変わることがあります。
適用指針第22号は、緊密な者について、両者の関係に至った経緯、関係状況、過去の議決権行使の状況、商号の類似性等を踏まえて実質的に判断するとしています。
また、次のような企業が例示されています。自己が20%以上の議決権を所有している企業、自己の役員または自己の役員が議決権の過半数を所有している企業、役員派遣先、資金調達額の概ね過半について融資・債務保証・担保提供を行っている企業、重要な技術援助契約に依存する企業、自己に対する事業依存度が著しく大きい企業などです。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
この領域は、監査上も説明が求められやすい部分です。
なぜなら、緊密な者や同意している者の判断は、形式資料だけで完結しにくいからです。契約書、議事録、資金支援の実態、過去の議決権行使、役員派遣の経緯、取引依存度、事業運営上の実態を、総合して判断する必要があります。
実務では、次のような問いを立てると整理しやすくなります。
- その株主は、実際に独立して議決権を行使しているか
- 親会社の意向と異なる議決権行使を行う現実的可能性があるか
- 資金、取引、人事、技術、ブランド、システム面で依存していないか
- 議決権行使契約、株主間契約、優先交渉権、拒否権がないか
- 形式的には第三者であっても、経済的には親会社のリスク・リターンに帰属していないか
この検討を省略すると、議決権割合だけを見た形式判断となり、連結範囲の誤りにつながります。
すべての子会社を連結するのが原則である
子会社に該当すると判断された場合、次に問われるのは、その子会社を連結範囲に含めるかどうかです。
企業会計基準第22号は、親会社は原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めると定めています。ただし、支配が一時的であると認められる企業や、連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業は、連結の範囲に含めないものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
ここで注意しておきたいのは、「連結しない」という結論は、あくまで例外であるという点です。
実務では、小規模子会社、休眠会社、清算予定会社、SPC、海外子会社、投資先会社などについて、連結除外が検討されることがあります。しかし、連結除外は、単に作業負荷が高い、資料入手が難しい、金額が小さい、管理が不十分であるといった理由だけで説明できるものではありません。
重要性が乏しい小規模子会社については、一定の要件の下で連結範囲から除外できる場合があります。もっとも、重要性が増加した場合には、新たに連結範囲に含める必要が生じます。在外子会社や在外持分法適用会社の場合には、連結範囲への新規取込み時に、取得後利益剰余金や為替換算調整勘定の処理が論点になることもあります。
したがって、連結除外を検討する場合には、次の観点を整理する必要があります。
- 総資産、売上高、利益、純資産、キャッシュ・フローに与える影響
- 損失、債務超過、保証、貸付、偶発債務の有無
- グループ内取引、資金移動、関連当事者取引の有無
- 連結除外により、企業集団の実態理解を損なわないか
- 前期から重要性が増加していないか
- 連結除外の理由を注記・監査対応上説明できるか
- 連結対象に含めた場合と除外した場合の影響額を把握しているか
小さい会社だから重要ではない、とは限りません。損失、保証、資金支援、不正リスク、事業再編、適時開示に関係する会社であれば、規模が小さくても財務報告上重要となり得ます。
「支配が一時的」は限定的に考える
支配が一時的である子会社は、連結範囲に含めないものとされています。ただし、この判断も、安易に用いるべきものではありません。
適用指針第22号は、支配が一時的である場合について、当連結会計年度に支配に該当しているものの、直前連結会計年度において支配に該当しておらず、かつ、翌連結会計年度以降相当の期間にわたって支配に該当しないことが確実に予定されている場合をいうとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
したがって、「将来売却するつもりがある」だけでは不十分です。
売却等の合理的な計画、実行可能性、意思決定状況、契約状況、買手候補、売却までの期間、支配継続の見込みを確認する必要があります。特に、M&A、事業再編、ファンド投資、事業再生、保有株式の一時取得といった場面では、「一時的」の判断が監査上の争点になりやすい領域です。
連結すると利害関係者の判断を著しく誤らせる場合も限定的である
「連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある」場合も、連結範囲から除外されます。
しかし、適用指針第22号は、このケースは一般に限定的であるとしています。たとえば、匿名組合事業の営業者となっている子会社について、その損益のほとんどすべてが匿名組合員に帰属し、子会社や親会社に形式的にも実質的にも帰属せず、当該子会社との取引がほとんどない場合などが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
この例外は、「連結したくない会社を除外するための規定」ではありません。むしろ、連結すると企業集団に帰属しない損益や資産負債まで取り込んだように見えてしまい、利害関係者の判断を歪めるような、特殊な場合を想定したものです。
SPC、匿名組合、信託、流動化スキーム、不動産ファンド、投資事業組合などでは、法的形式と経済的帰属がずれることがあります。そのため、契約構造、リスク・リターンの帰属、意思決定権、残余利益、損失負担、親会社との取引関係を、丁寧に分解する必要があります。
子会社に該当しない場合でも、関連会社に該当するかを検討する
子会社に該当しない場合でも、関連会社に該当する可能性があります。
企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」は、関連会社を、企業が出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務および営業または事業の方針決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該他の企業と定義しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準
関連会社判定では、支配ではなく「重要な影響」が中心概念になります。
原則として、子会社以外の他の企業の議決権の20%以上を自己の計算で所有している場合には、重要な影響を与えることができる場合に該当します。また、15%以上20%未満であっても、役員派遣、重要な融資、重要な技術提供、重要な販売・仕入その他の営業上または事業上の取引などがある場合には、関連会社に該当し得ます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準
実務上は、20%基準に安心しすぎないことが大切です。
20%以上を保有していても、財務上または営業上若しくは事業上の関係からみて重要な影響を与えることができないことが明らかであれば、関連会社に該当しない場合があります。一方、20%未満であっても、役員派遣、資金支援、技術提供、取引依存、経営方針への関与があれば、関連会社に該当する可能性があります。
重要な影響の判断では、経営にどこまで関与しているかを見る
関連会社判定で確認すべきなのは、投資先の意思決定に対して重要な影響を与えることができるかどうかです。
ここでいう影響は、単なる情報収集権や、投資家としての関心では足りません。投資先の財務・営業・事業方針に対し、実質的に関与できるかを確認します。
実務上は、次のような事項を検討します。
- 取締役、監査役、執行役員等の派遣状況
- 重要な融資、債務保証、担保提供の有無
- 主要技術、ブランド、ライセンス、システムの提供
- 売上・仕入・製造・物流・販売チャネルへの依存
- 共同研究、共同開発、共同事業契約
- 予算、事業計画、資金繰りへの関与
- 拒否権、承認権、重要事項同意権
- 出資契約、株主間契約、合弁契約
- 過去の議決権行使状況
- 投資先が独立して事業運営しているか
重要な影響は、支配ほど強い概念ではありません。しかし、単なる出資関係よりは、明らかに強い関係です。この中間領域を正しく捉えることが、持分法範囲の判断では重要になります。
持分法を適用する範囲
持分法は、投資会社が被投資会社の資本および損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、投資の額を連結決算日ごとに修正する方法です。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準
持分法の適用範囲について、企業会計基準第16号は、非連結子会社および関連会社に対する投資については、原則として持分法を適用するとしています。ただし、持分法の適用により連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には、持分法適用会社としないことができます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準
持分法は「一行連結」と説明されることがあります。連結子会社のように資産・負債・収益・費用を各科目ごとに取り込むわけではありません。もっとも、被投資会社の損益や純資産の変動を投資勘定に反映することで、投資先の業績を連結財務諸表に取り込む効果があります。
持分法の適用にあたっては、被投資会社の財務諸表の修正、資産・負債の評価に伴う税効果、会計方針の統一、決算日差異の調整、のれん、未実現損益など、原則として連結子会社の場合と類似した検討が必要になります。
企業会計基準第16号も、被投資会社の財務諸表の適正な修正や、資産・負債の評価に伴う税効果会計の適用、会計方針の統一、決算日差異に重要な取引または事象がある場合の修正・注記を定めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準
組織再編実務でも、持分法は連結法と同様の効果を持つものとして位置付けられ、投資日以降の損益、投資差額、のれん、負ののれん、会計方針統一が重要になります。
関連会社であっても、持分法を適用しない場合がある
関連会社に該当しても、常に持分法を適用するとは限りません。
影響が一時的である場合、持分法を適用することで利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある場合、または持分法適用による影響が重要でない場合には、持分法を適用しないことがあります。
適用指針第22号は、子会社の場合と同様に、財務および営業または事業の方針決定に対する影響が一時的であると認められる関連会社に対する投資については、持分法を適用しないものとしています。具体的には、当連結会計年度に重要な影響を与えているものの、直前連結会計年度において重要な影響を与えておらず、かつ、翌連結会計年度以降相当の期間にわたって重要な影響を与えないことが確実に予定されている場合が該当するとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
また、ベンチャーキャピタルや金融機関が、投資育成、事業再生、キャピタルゲイン獲得、債権回収を目的として投資している場合もあります。この場合、売却等により議決権の大部分を所有しないこととなる合理的な計画があること、投資・融資以外の取引がほとんどないこと、自己の事業を移転したものではないこと、シナジー効果や連携関係が見込まれないことなどを満たすときは、重要な影響を与えることができないことが明らかであると認められる場合があります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
この判断も、形式ではなく実質です。
投資目的、保有方針、売却計画、投資先との取引関係、役員派遣、事業上の連携、金融支援、グループ戦略上の位置付けを確認する必要があります。投資先の経営に実質的に関与している場合には、投資目的がキャピタルゲインであるという説明だけでは足りないことがあります。
共同支配・合弁会社は、子会社か関連会社かを慎重に見る
合弁会社では、複数の出資者が共同で意思決定を行うことがあります。この場合、特定の一社が意思決定機関を支配しているのか、それとも共同で支配しているのかを、慎重に確認する必要があります。
適用指針第22号は、共同で出資を行っている合弁会社についても、意思決定機関を支配しているか否かを判定することとしています。そして、共同支配企業の形成による処理方法が適用され、その後も共同で支配されている実態にある場合には、特定の会社の子会社には該当せず、それぞれの会社の関連会社として取り扱われるとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
合弁会社では、株主間契約や合弁契約が極めて重要です。
出資比率が50対50であっても、ある一方が実質的に重要事項を決定できる設計になっていれば、子会社該当性が問題になります。一方、拒否権や全会一致条項が設けられており、特定の一社が単独で財務・営業・事業方針を決定できない場合には、共同支配または関連会社としての整理が必要になります。
確認すべき事項は、次のとおりです。
- 取締役会・経営会議の構成
- 代表者・CEO・CFO等の選任権
- 予算、事業計画、借入、投資、人事の承認権
- 重要事項の拒否権
- デッドロック条項
- 利益分配・損失負担の設計
- 片方の出資者への事業依存度
- 技術・ブランド・販売網・資金面での依存関係
合弁会社の範囲判定では、会社法上の議決権割合よりも、契約上の意思決定構造をどこまで読み込めるかが重要になります。
SPC・ファンド・組合は、法形式だけで判断しない
SPC、匿名組合、投資事業有限責任組合、信託、合同会社、不動産流動化スキームなどでは、議決権割合だけでは実態が見えにくい場合があります。
企業会計基準第22号には、一定の特別目的会社について、次のような取扱いがあります。適正な価額で譲り受けた資産から生じる収益を、当該特別目的会社が発行する証券の所有者等に享受させることを目的として設立され、その事業が目的に従って適切に遂行されているときは、資産譲渡企業から独立しているものと認め、当該資産譲渡企業の子会社に該当しないものと推定する、というものです。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
ただし、これは、形式的にSPCであれば連結不要という意味ではありません。
実務では、次の点を確認する必要があります。
- SPCの設立目的
- 資産譲渡の実態
- 劣後出資、劣後ローン、保証、流動性補完の有無
- 残余リスク・リターンの帰属
- 意思決定権限の所在
- 業務委託契約、アセットマネジメント契約、プロパティマネジメント契約
- 親会社グループとの取引依存度
- 資金調達に対する関与
- 損益が実質的に誰に帰属するか
SPCやファンドの判断は、会計処理、金融商品会計、開示、関連当事者、適時開示、内部統制に波及しやすい領域です。特に、オフバランスを意図したように見える取引や、資金支援・損失補填の可能性がある取引では、形式的な説明では監査対応に耐えにくくなります。
債務超過会社・再生会社・清算会社の扱い
債務超過会社や再生局面にある会社についても、連結範囲・持分法範囲の判断が問題になります。
適用指針第22号は、更生会社、破産会社その他これらに準ずる企業で、有効な支配従属関係が存在しないと認められる企業は、子会社に該当しないものとしています。その一方で、清算株式会社のように継続企業と認められない企業であっても、意思決定機関を支配していると認められる場合には、子会社に該当し、原則として連結範囲に含められるとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第22号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
つまり、債務超過である、清算予定である、休眠状態である、赤字である。こうした事実だけで、連結範囲から外れるわけではありません。
債務超過子会社については、連結範囲の判断だけでなく、子会社株式評価、貸倒引当金、債務保証損失引当金、非支配株主持分、親会社の損失負担、税効果、継続企業の前提にも影響します。緊密者等が保有する株式と合わせた議決権、債務超過の負担関係、親会社の個別財務諸表における評価損・引当金、連結上の投資と資本の相殺消去が、重要な論点となります。
債務超過会社を連結しない、または持分法を適用しないと判断する場合には、その判断が財務諸表利用者の理解を歪めないかを、慎重に検討すべきです。
連結範囲・持分法範囲は、期末だけでなく期中から管理する
連結範囲と持分法範囲は、期末に一度確認すれば足りるものではありません。
期中に次のような事象が発生すると、範囲判定が変わる可能性があります。
- 新会社設立
- 株式取得または追加取得
- 株式売却または一部売却
- 第三者割当増資による持分比率の変動
- 役員派遣・役員構成の変更
- 株主間契約・合弁契約の締結または変更
- 重要な融資、保証、担保提供
- 主要取引契約の開始または終了
- フランチャイズ契約、技術援助契約、ライセンス契約の変更
- 事業再生、私的整理、法的整理
- SPC・ファンド・信託の組成
- 海外子会社・海外関連会社の設立または取得
- M&A後のPMIに伴う実質的な支配関係の変化
- IPO準備に伴うグループ整理
これらは、経理部門だけでは把握しにくい場合があります。経営企画、法務、財務、税務、事業部門、海外子会社管理部門、M&A担当、開示担当との連携が必要です。
連結範囲・持分法範囲の判断は、期末決算の作業ではなく、グループ管理の一部として運用すべき論点だといえます。
重要性判断は、金額だけでなくリスクと開示影響を見る
連結範囲・持分法範囲では、重要性判断が避けられません。
しかし、重要性を売上高、総資産、利益、純資産だけで判断すると、実務上の重要論点を見落とすことがあります。
次のような会社は、金額規模が小さくても注意が必要です。
- 債務超過会社
- 多額の損失を計上する可能性がある会社
- 親会社が保証・貸付・担保提供をしている会社
- 重要な知的財産、ライセンス、技術を保有する会社
- グループの主要な商流を担う会社
- 内部取引が多い会社
- 関連当事者取引が発生している会社
- 投資家説明上重要な事業を行う会社
- 不正リスクや内部統制上の懸念がある会社
- 上場準備上、グループ整理の対象となる会社
- 将来の売却、清算、再編が予定されている会社
重要性判断は、連結財務諸表への金額影響だけで終わるものではありません。財務諸表利用者の判断に影響するか、監査上の重要論点となるか、注記・適時開示・KAMに波及するかを含めて検討する必要があります。
監査対応で問われるのは「結論」ではなく「判断過程」である
連結範囲・持分法範囲の判断は、監査人から詳細な説明を求められやすい領域です。
特に、次のような判断は、監査上の争点になりやすいといえます。
- 議決権が40%以上50%以下で、子会社該当性を判断する場合
- 議決権が15%以上20%未満で、関連会社該当性を判断する場合
- 緊密な者・同意している者の有無が問題になる場合
- 役員派遣、資金支援、取引依存がある場合
- SPC、ファンド、組合、信託が関係する場合
- 小規模子会社を連結除外する場合
- 関連会社に持分法を適用しない場合
- 債務超過会社、清算会社、再生会社を扱う場合
- 前期と範囲が変わる場合
- M&A、追加取得、一部売却、グループ再編がある場合
監査対応で必要なのは、「当社では従来からこのように処理している」という説明ではありません。現時点の事実関係を確認し、基準に照らして判断し、その判断が財務諸表利用者の理解を損なわないことを示す資料が必要になります。
後から説明できる判断資料
連結範囲・持分法範囲の判断では、次の資料を整備しておくことが望まれます。
- グループ会社一覧
- 資本関係図
- 議決権割合の算定表
- 自己の計算による所有の検討資料
- 子会社・関連会社判定表
- 緊密な者・同意している者の検討資料
- 役員派遣・役員兼任一覧
- 株主間契約、合弁契約、投資契約
- 融資契約、保証契約、担保契約
- 技術援助契約、ライセンス契約、業務委託契約
- 販売・仕入・取引依存度の分析
- SPC・ファンド・組合契約の概要
- 連結除外・持分法非適用の重要性判断資料
- 前期からの範囲変更一覧
- 監査人との協議記録
- 取締役会・経営会議等への報告資料
- 開示影響の検討資料
これらを期末に慌てて作るのではなく、グループ管理資料として継続的に更新しておくことが重要です。
開示への影響
連結範囲・持分法範囲の判断は、注記にも影響します。
企業会計基準第16号は、連結財務諸表において、持分法を適用した非連結子会社および関連会社の範囲に関する事項、これらに重要な変更があった場合の内容と理由、持分法適用手続について特に記載する必要がある事項を注記するとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準
また、有価証券報告書における企業グループの記載では、親会社、子会社、関連会社、連結範囲、持分法適用会社が、投資者にとって重要な情報となります。企業グループを連結ベースで開示する必要性、連結範囲、持分法適用会社は、法定開示制度の基礎として整理される事項です。
したがって、連結範囲・持分法範囲の判断は、連結精算表の中だけで完結しません。以下の開示項目との整合性を確認する必要があります。
- 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項
- 連結の範囲に関する事項
- 持分法の適用に関する事項
- 連結範囲・持分法範囲の重要な変更
- 関連当事者情報
- セグメント情報
- 重要な会計上の見積り
- 事業等のリスク
- 経営者による財政状態・経営成績の分析
- KAMとの整合性
- 適時開示との整合性
特に、連結範囲や持分法範囲の変更が、売上高、利益、総資産、負債、キャッシュ・フロー、セグメントに大きな影響を与える場合には、会計処理だけでなく、開示全体としての説明可能性を確認する必要があります。
連結範囲・持分法範囲の判断を誤ると何が起こるか
連結範囲・持分法範囲の判断ミスは、個別仕訳の誤りよりも、影響が広くなりがちです。
連結すべき会社を連結していなければ、資産、負債、売上、利益、キャッシュ・フロー、内部取引、債務保証、偶発債務、関連当事者取引が漏れる可能性があります。持分法を適用すべき会社に適用していなければ、投資先の損益や純資産の変動が、連結財務諸表に反映されません。
逆に、連結すべきでない会社を連結してしまえば、企業集団に帰属しない資産・負債・損益まで取り込んだように見えるおそれがあります。
このような誤りは、過年度訂正、内部統制上の不備、監査意見への影響、適時開示、投資者説明、場合によっては虚偽記載リスクにもつながります。会計不正の文脈でも、財務諸表の利用者を欺く意図的な虚偽表示には、財務諸表に計上すべき金額を計上しないことだけでなく、必要な開示を行わないことも含まれる点に注意が必要です。
連結範囲・持分法範囲は、財務報告の入口です。それだけに、誤った場合の影響は、出口である開示・監査・責任リスクにまで及びます。
実務上の判断フロー
連結範囲・持分法範囲の検討は、次の流れで整理すると、判断過程を残しやすくなります。
1. 投資先・関係先を網羅する
まず、株式保有先だけでなく、出資、組合、SPC、信託、合同会社、海外法人、休眠会社、清算会社、合弁会社、ファンド、役員・従業員名義の保有先を含めて、判定対象を網羅します。
2. 議決権割合を正しく算定する
期末時点の行使し得る議決権を基礎に、自己株式、完全無議決権株式、相互保有株式、間接所有、自己の計算による所有を整理します。
3. 子会社該当性を検討する
議決権の過半数所有、40%以上50%以下での支配要件、緊密な者・同意している者、役員派遣、契約上の支配、資金関係、取引関係を確認します。
4. 連結範囲に含めるかを判断する
子会社に該当する場合、原則として連結します。例外的に連結範囲に含めない場合は、一時的支配、利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれ、重要性を慎重に検討します。
5. 関連会社該当性を検討する
子会社に該当しない場合、20%以上所有、15%以上20%未満での重要な影響、緊密な者・同意している者、役員派遣、融資、技術提供、取引関係を確認します。
6. 持分法適用の要否を判断する
非連結子会社および関連会社について、原則として持分法を適用します。影響が一時的、重要性が乏しい、適用すると利害関係者の判断を著しく誤らせる場合などは、その理由を文書化します。
7. 開示・監査対応へ接続する
連結範囲・持分法範囲の変更、除外理由、非適用理由、重要な判断、注記、監査人との協議事項を整理します。
この流れを毎期同じ粒度で運用することで、属人的な判断や、過年度からの惰性的な処理を防ぎやすくなります。
連結範囲・持分法範囲の判断で専門家に相談すべき場面
連結範囲・持分法範囲は、基準の文言を確認すれば機械的に結論が出る領域ではありません。特に、出資、人事、資金、技術、取引、契約が複雑に絡む場合には、事実関係を分解し、会計基準に照らして、監査・開示に耐える形で判断過程を整理する必要があります。
次のような状況では、早い段階で論点整理を行うことが望まれます。
- 議決権が50%以下だが、実質的に支配している可能性がある
- 15%以上20%未満または20%以上の出資先について、関連会社該当性に迷いがある
- 役員派遣、融資、保証、重要取引、技術提供がある
- SPC、ファンド、匿名組合、信託、合同会社が関係している
- 合弁会社の契約上の意思決定構造が複雑である
- 小規模子会社を連結除外しているが、重要性が増している
- 債務超過会社、清算会社、再生会社がある
- M&A、追加取得、一部売却、組織再編により範囲が変わる
- 監査人から連結範囲・持分法範囲の根拠資料を求められている
- 有価証券報告書や決算短信で、企業グループの説明を整合させたい
犬飼公認会計士・税理士事務所では、上場企業・IPO準備企業・大規模グループにおける連結範囲・持分法範囲の判断について、単なる判定表の作成にとどまらず、事実関係の整理、会計基準への当てはめ、監査人説明、注記・開示への影響まで含めて検討を支援しています。
連結範囲・持分法範囲の判断に迷いがある場合は、資本関係図、議決権割合、契約書、役員派遣状況、融資・保証関係、グループ内取引の状況を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。判断の前提を早い段階で整理しておくことで、決算期末の監査対応や開示対応を、より円滑に進めやすくなります。
振り返り
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 子会社判定 | 議決権割合だけでなく、意思決定機関を支配しているかを確認する |
| 議決権割合 | 期末時点の行使し得る議決権、自己の計算による所有、間接所有を整理する |
| 緊密な者・同意している者 | 出資、人事、資金、技術、取引、過去の議決権行使を踏まえて実質判断する |
| 連結範囲 | 子会社は原則としてすべて連結する。連結除外は例外として慎重に判断する |
| 一時的支配 | 支配が短期的に存在するだけでなく、将来支配しないことが確実に予定されているかを確認する |
| SPC・ファンド | 法形式ではなく、リスク・リターン、意思決定権、損益帰属、取引関係を見る |
| 関連会社判定 | 支配ではなく、財務・営業・事業方針に重要な影響を与えることができるかを判断する |
| 持分法範囲 | 非連結子会社および関連会社には、原則として持分法を適用する |
| 重要性判断 | 金額だけでなく、損失、保証、資金支援、開示影響、監査上の重要性を見る |
| 開示・監査対応 | 範囲変更、除外理由、非適用理由、判断根拠を文書化し、注記・KAMとの整合性を確認する |