非上場株式を評価するとき、「同じ会社の株式なのだから、1株当たりの価値も同じはずだ」と考えたくなるのは自然なことです。けれども、実務に入るとそう単純にはいきません。
同じ会社の同じ普通株式であっても、その株式を持つ人が会社を支配できる立場にあるのか、それとも経営に関与できない少数株主なのかによって、評価上の見方は大きく変わってきます。税務の世界でも、同族株主が取得する株式と、同族株主以外の少数株主等が取得する株式とでは、適用される評価方式が変わることがあります。
ここで取り違えてはいけないものが、三つあります。
ひとつは、M&Aにおける支配権付きの取引価格。次に、財産評価基本通達における同族株主・少数株主の評価区分。そして、会社法上の株式買取請求やスクイーズアウト等で問題となる公正価格です。
この記事では、二つ目に挙げた財産評価基本通達の評価区分を中心に据えながら、支配権の有無が株式価値にどう影響するのかを整理していきます。なお、個別の評価明細書の記載方法や、株主間紛争への具体的な対応、会社法上の公正価格決定手続の細部までは、ここでは扱いません。
非上場株式は「会社の価値」だけでは評価できない
非上場株式の価値を考えるとき、出発点になるのは会社全体の価値です。
その会社がどれだけの利益を継続的に生み出せるのか。資産と負債の実態はどうなっているのか。将来のキャッシュ・フローはどの程度見込めるのか。余剰資金や非事業資産はあるのか。簿外債務や偶発債務が潜んでいないか。こうした論点を丁寧に押さえることが、企業価値評価の基本になります。
ところが、非上場株式の場合はそれだけでは足りません。その株式を持つ人が、会社に対してどのような経済的・法的影響力を持っているのかまで見なければ、評価は完結しないのです。
支配株主にとっての株式は、経営方針、役員選任、配当政策、事業承継、組織再編、資産処分といった会社の根幹に影響を及ぼし得る株式です。一方、少数株主にとっての株式は、会社を支配する力に乏しく、配当を受ける期待や、将来の買取り・譲渡の可能性に依存しやすい株式だといえます。
つまり非上場株式では、会社そのものの価値と、その株式を持つ人の立場に応じた価値とを、分けて考える必要があります。
この考え方は、企業価値評価の一般論とも矛盾しません。価格と価値は異なる概念であり、価値は評価目的や当事者の立場、経営権取得の有無などによって変わり得る——この整理は、日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインにおいても示されている見方です。
出典:日本公認会計士協会|経営研究調査会研究報告第32号『企業価値評価ガイドライン』の改正について
支配権がある株式と、支配権がない株式は何が違うのか
支配権のある株式と、ない株式の違いは、単に議決権割合の大小だけにとどまりません。
支配権を持つ株主は、会社の意思決定に実質的な影響を与えられます。役員を選任し、経営方針を左右し、配当政策を決め、資産の活用や処分、M&A、組織再編、後継者への承継にまで関与できる立場にあります。
もちろん、支配株主であっても自由気ままに振る舞えるわけではありません。会社法や税法、定款、株主間契約、金融機関との契約、少数株主保護など、さまざまな制約を受けます。支配権があれば何でもできる、というものではないのです。
それでも、経営上の意思決定に影響を及ぼせる株式と、及ぼせない株式とでは、経済的な意味合いが異なります。
M&Aの場面では、この差が「支配プレミアム」や「少数持分ディスカウント」という形で表面化します。買主が会社の経営権を取得する場面では、単なる少数持分よりも高い価格を支払う合理性が生じることがあります。反対に、経営に関与できず、自由に換金もしにくい少数持分については、会社全体の価値を持株割合で単純按分した金額より低く評価されることがあるわけです。
ただし、ここで一点、注意しておきたいことがあります。税務上の配当還元方式は、M&A実務でいう少数持分ディスカウントそのものではありません。あくまで財産評価基本通達が、一定の少数株主等について、配当期待を中心に評価するために設けた特例的な評価方式です。
ですから、「少数株主だから常に安く買える」「配当還元価額なら会社法上もその価格で通る」と考えてしまうのは、危うい発想だといえます。
財産評価基本通達では、まず株主区分を判定する
財産評価基本通達によって取引相場のない株式を評価する際は、会社規模や評価方式を検討する前に、まず取得者がどの株主区分に当たるのかを確認する必要があります。
確認すべきは、たとえば次のような点です。その人は同族株主なのか、同族株主以外の株主なのか。中心的な同族株主に当たるのか。同族株主のいない会社における同族株主等なのか。中心的な株主はいるのか。取得後の議決権割合は5%未満なのか。役員であるか、あるいは役員になる予定があるのか。
この判定を誤ると、本来は原則的評価方式を使うべき株式に配当還元方式を当ててしまったり、逆に配当還元方式を使える株式に原則的評価方式を当ててしまったりします。
財産評価基本通達188は「同族株主以外の株主等が取得した株式」の範囲を定めており、続く188-2が、その株式を配当還元方式によって評価することを定めています。なお、配当還元方式による価額が原則的評価方式による価額を超える場合には、原則的評価方式による価額によることとされている点にも、注意が必要です。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
同族株主とは何か
財産評価基本通達でいう「同族株主」とは、平たくいえば、一定の同族関係者グループで評価会社の議決権を相当程度保有している株主グループのことを指します。
通達の定めをもう少し正確になぞると、同族株主とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合における、その株主およびその同族関係者をいいます。
ただし例外があります。株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの議決権割合が50%超となる会社では、その50%超のグループが同族株主となります。
この判定で押さえておきたいのは、「納税義務者本人を中心に判定するわけではない」という点です。国税庁の質疑応答事例においても、同族株主の判定における「株主の1人」は、納税義務者に限られないとされています。
実務では、まさにこの点で誤りが生じやすくなります。
評価対象株式を取得する人だけに目を向けて、「この人は少数だから配当還元でよいだろう」と判断してしまうことがあるのです。しかし財産評価基本通達では、評価会社全体の株主構成を見渡したうえで、どの株主グループが同族株主に当たるのかを判定します。
本人の持株割合が小さくても、親族や関係法人を含めたグループで見れば同族株主に該当することがあります。逆に、単独では一定割合を持っていても、他の筆頭株主グループとの関係によって判定結果が変わることもあります。
同族関係者をどこまで見るか
同族株主の判定では、「株主の1人」と「その同族関係者」の議決権を合算します。
ここでいう同族関係者には、親族だけでなく、一定の特殊関係のある法人も含まれます。ですから、個人株主の家族構成を確認するだけでは足りません。関連会社、資産管理会社、持株会社、従業員持株会、投資育成会社、公益法人等が株主に名を連ねている場合には、慎重に確認する必要があります。
さらに、議決権の委任、名義株、相互保有株式、自己株式、種類株式、議決権制限株式が存在する場合には、形式的な株数だけでは判断しきれないことがあります。
同族株主の判定は、単に持株割合表を眺める作業ではありません。誰と誰が同一グループとして扱われるのか、どの議決権を分母・分子に算入するのか、評価基準日時点でどの関係が存在しているのか——そうした事実を一つひとつ整理していく作業なのです。
議決権割合は、株式数だけでは決まらない
同族株主・少数株主の判定では、議決権割合が決定的な意味を持ちます。
ところが、その議決権割合は、発行済株式数に対する持株割合と常に一致するとは限りません。
会社法308条は、株主が株主総会において1株につき1個の議決権を有することを原則としつつ、単元株式数を定款で定めている場合には1単元につき1個の議決権を有すること、そして会社が自己株式について議決権を有しないことを定めています。
加えて会社法108条は、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会で議決権を行使できる事項、譲渡制限、取得請求権、取得条項などについて、内容の異なる種類株式を発行できることを定めています。種類株式が存在する場合には、普通株式だけを前提とした単純な議決権割合では判断できません。
財産評価基本通達の側でも、自己株式がある場合の議決権総数、会社法308条1項によって議決権を有しないこととされる株式がある場合、種類株式がある場合の議決権総数などについて、別途の取扱いが置かれています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
こうした事情があるため、非上場株式の評価では、単純に「株数で何%か」を見るだけでは足りません。次のような事項を、ひとつずつ確認していく必要があります。
- 自己株式があるか
- 単元株制度があるか
- 議決権制限株式があるか
- 拒否権付種類株式があるか
- 配当優先株式や残余財産分配優先株式があるか
- 相互保有株式があるか
- 株主名簿上の名義と実質所有者にずれがないか
- 議決権行使の委任や株主間契約があるか
- 評価基準日時点で役員就任予定があるか
議決権の判定を誤れば、同族株主か少数株主かという結論が変わり、それにともなって評価方式も変わります。これは評価額そのものに直結する論点です。
同族株主がいる会社では、原則的評価方式が中心になる
同族株主がいる会社では、同族株主に該当する株主が取得する株式は、原則として原則的評価方式によって評価します。
原則的評価方式とは、会社規模等に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはこれらの併用方式によって評価する方法です。
その背景にあるのは、同族株主は会社の経営支配に関与し得る立場にあるのだから、単なる配当期待ではなく、会社全体の収益力や資産価値を反映した評価を行うべきだ、という考え方です。
この発想は、M&Aの感覚にも通じるところがあります。会社を支配できる株式を取得するのであれば、会社全体の事業価値、株主価値、資産負債、将来の収益力まで見る必要があります。過去の配当だけで評価してしまっては、支配株主が持つ経済的実態を十分に映し取れないのです。
もっとも、同族株主に該当する場合でも、一定の少数株主については配当還元方式が認められることがあります。ここで登場するのが「中心的な同族株主」という概念です。
中心的な同族株主とは何か
中心的な同族株主とは、同族株主のなかでも、いっそう強い支配力を持つ株主を指します。
財産評価基本通達188(2)は、中心的な同族株主について、課税時期において同族株主の1人ならびにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族などの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合における、その株主と定めています。判定にあたっては、一定の同族関係会社も含めて見ます。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
この判定がなぜ重要かといえば、同族株主のなかにも、実質的な支配力に乏しい少数株主が存在するからです。
同族株主グループに属していても、その人自身の取得後議決権割合が5%未満であり、中心的な同族株主ではなく、かつ役員でもなく、評価基準日の翌日から法定申告期限までに役員となる予定もない——こうした要件を満たす場合には、一定の条件のもとで配当還元方式による評価が認められることがあります。
ここで大切なのは、「同族株主に該当するかどうか」と「原則的評価方式になるかどうか」とは、必ずしも完全には一致しないということです。
同族株主に該当しても、一定の少数持分については配当還元方式になることがあります。逆に、同族株主がいない会社であっても、一定の株主グループに属する株主は原則的評価方式になることがあるのです。
同族株主以外の株主は、なぜ配当還元方式になり得るのか
同族株主のいる会社において、同族株主以外の株主が取得した株式は、原則として配当還元方式によって評価します。
配当還元方式は、会社全体の支配価値ではなく、少数株主が受け取る配当期待に着目する評価方式です。
非上場会社の少数株主は、上場会社の株主とは事情が違います。市場で自由に株式を売却できるとは限らず、単独で役員を選任したり、配当政策を決めたり、会社資産を処分したりすることもできません。
そうした実態を踏まえ、税務上の相続税・贈与税評価では、一定の少数株主について、会社全体の支配価値ではなく、配当期待を基礎とした評価を認めています。
ただし、配当還元方式は「少数株主なら必ず使える方式」ではありません。通達の要件に当てはまるかどうかを、その都度確認する必要があります。
そして、配当還元方式による価額が原則的評価方式による価額を上回る場合には、原則的評価方式による価額で評価することになります。配当還元方式は、常に低い評価額を保証してくれる仕組みではないのです。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
同族株主がいない会社でも、全員が配当還元方式になるわけではない
実務で誤解を招きやすいのが、「同族株主がいない会社」の評価です。
同族株主がいない会社では、すべての株主が少数株主として配当還元方式になる——そう考えてしまうと、それは誤りです。
財産評価基本通達188は、同族株主がいない会社についても、株主の1人およびその同族関係者の有する議決権割合が15%以上かどうか、中心的な株主がいるかどうか、取得後の議決権割合が5%未満かどうか、役員に当たるかどうかを見て、評価方式を分けています。
同族株主がいない会社であっても、一定の議決権割合を持つ株主グループに属する株主は、原則的評価方式の対象になり得ます。
その一方で、議決権割合の合計が15%未満の株主グループに属する株主や、中心的な株主がいる会社において取得後の議決権割合が5%未満で役員でもない一定の株主については、配当還元方式の対象になり得ます。
国税庁の質疑応答事例でも、同族株主がいない会社における株主の議決権割合判定については、取得者を基準として同族関係者を判定し、15%未満となる場合には通達188(3)に該当して配当還元方式により評価する、という考え方が示されています。
このように、同族株主がいない会社では、「15%」「10%」「5%」「役員該当性」が重要な分岐点になります。
配当還元方式は、少数株主の経済的実態を税務評価に反映するための方式である
配当還元方式は、過去の配当金額を基礎にして、一定の算式で株式価額を計算します。
財産評価基本通達188-2は、同族株主以外の株主等が取得した株式について、その株式に係る年配当金額を基として評価することを定めています。無配の場合や一定金額に満たない場合にも、最低限の年配当金額を用いる仕組みが設けられています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 その他の財産 第1節 株式及び出資
この方式は、少数株主が会社から得られる経済的利益が、おもに配当に限られやすいという前提に立っています。
ただし、配当還元方式を「実際の売買価格」と取り違えてはいけません。
税務上、配当還元方式による評価が認められる場面であっても、実際の売買では、次のような事情によって価格が動くことがあります。
- 将来、支配株主に売却できる可能性
- 少数株主を整理する必要性
- 会社側が株式を集約したいという事情
- 配当政策が変更される可能性
- 株主間契約や譲渡制限の存在
- 会社法上の買取請求や取得条項
- M&A予定の有無
- 買主にとって、その株式を取得する戦略的な意味
配当還元方式は、あくまで一定の税務評価目的における評価方式にすぎません。取引価格、会社法上の公正価格、第三者評価、株主間の交渉価格とは、切り離して考える必要があります。
支配プレミアムと配当還元方式は同じ論点ではない
M&Aの実務では、支配権を取得する取引において、少数持分より高い価格が成立することがあります。これを一般に支配プレミアムと呼びます。
支配プレミアムは、買主が会社を支配することで、経営改善、シナジー、資産活用、事業再編、配当政策、資本政策などに関与できるようになる——そこから生じ得る価値です。
これに対して配当還元方式は、税務上、一定の少数株主等について配当期待を基礎に評価する方式です。
両者の位置づけは、次のように整理しておくと混乱が避けられます。
支配プレミアムは、M&Aや投資価値評価における価格形成要因です。配当還元方式は、財産評価基本通達に基づく相続税・贈与税評価上の方式です。少数持分ディスカウントは、経済的な評価のうえで、支配権や流動性の欠如を反映する考え方です。そして会社法上の公正価格は、少数株主保護や取引手続の公正性を踏まえて判断される、また別の評価領域です。
これらを同じものとして扱ってしまうと、説明責任に耐えられない評価になりかねません。
M&Aで少数株式を買い取る場合の注意点
M&Aや事業承継では、少数株主から株式を買い取る場面が出てきます。
このとき、財産評価基本通達上は配当還元方式で評価できる株式であっても、実際の買取価格を配当還元価額だけで決めてよいとは限りません。
たとえば、会社が将来的に第三者へ売却される可能性がある場合、少数株主はその売却機会に参加できるという期待を持つことがあります。逆に会社側から見れば、少数株主を整理しておくことで、M&A、組織再編、金融機関への対応、後継者への承継を進めやすくなる、という事情もあります。
こうした場面では、少数株式の買取価格に、単なる配当期待だけでなく、支配株主側の必要性、将来取引の見通し、株主間の合意形成、税務上の時価、会社法上の説明可能性までが影響してきます。
とりわけ、同族関係者間や親族間で低額または高額の株式売買を行う場合には、みなし贈与、低額譲渡、受贈益、寄附金、役員給与、みなし配当といった税務論点が生じ得ます。
「配当還元価額であれば常に安全」という判断は、できないのです。
自己株式取得では、少数株主評価と税務・会社法が交差する
少数株主からの買取りのなかでも、とりわけ注意を要するのが自己株式取得です。
自己株式取得では、会社が株主から自社株を買い取ります。このとき、買取価格は適正か、財源規制を満たしているか、みなし配当が生じるか、譲渡所得として扱われる部分はどこか、法人株主と個人株主とで税務処理がどう変わるか——こうした点が問題になります。
具体的には、次のような論点を順に押さえておく必要があります。
- 同族株主からの取得なのか、少数株主からの取得なのか
- 配当還元方式で評価できる株式なのか
- 原則的評価方式による価額と比較すべきか
- 会社法上の手続と財源規制を満たしているか
- 既存株主に経済的利益が移転していないか
- 発行会社に税務上の論点が生じないか
これらを整理しないまま買取価格だけを眺めていても、適否は判断できません。
この記事では自己株式取得の詳細にまでは踏み込みませんが、少数株主評価の論点は、自己株式取得価格の検討にそのまま直結します。
会社法上の少数株主保護とは別に考える
税務上、配当還元方式が使えるからといって、会社法上もその価格で少数株主に説明がつくとは限りません。
会社法には、株式買取請求、取得価格の決定、スクイーズアウト、組織再編における反対株主の保護など、少数株主の利益を守るための制度が整えられています。これらの場面で問題となる価格は、財産評価基本通達による相続税評価額とは、別の観点から判断されます。
とりわけ、少数株主を締め出す取引、支配株主が関与する利益相反性の高い取引、組織再編にともなう株式交換比率や合併比率の算定では、税務上の評価だけでは足りません。
ここで検討すべきは、取引の目的、手続の公正性、情報開示の状況、第三者評価の有無、少数株主に不利益が偏っていないか、取締役の説明責任、評価手法の妥当性、といった要素です。これらを踏まえたうえで、会社法上の説明可能性を見ていく必要があります。
少数株主の株式は「価値がない」のではない
少数株主が持つ非上場株式について、「経営に関与できないのだから、ほとんど価値はないだろう」と考えるのは誤りです。
少数株主の株式にも、配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、一定の株主権、そして将来の売却可能性があります。会社が成長し、第三者M&Aや組織再編が行われる場合には、少数株式にも確かな経済的価値が生じます。
その一方で、支配株主と同じ価値を持株割合で単純按分すればよい、ともいえません。支配権がなく、流動性に乏しく、情報へのアクセスも限られているからです。
ですから、少数株主の評価では、次の二つの極端を避けることが肝心です。
ひとつは、「少数株主だから価値はほとんどない」と過小評価してしまうこと。もうひとつは、「同じ会社の株式なのだから支配株式と同じ1株価値だ」と単純化してしまうことです。
求められるのは、評価目的ごとに、少数持分の経済的実態を説明できるように整理しておくことです。
役員該当性は、評価方式に影響する
財産評価基本通達188では、中心的な同族株主以外の同族株主や、同族株主のいない会社における一定の少数株主について、取得後の議決権割合が5%未満であっても、役員である者、あるいは課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者は、配当還元方式の対象から外れる場面があります。
これは、形式的な持株割合が小さくても、役員として経営に関与する立場にあるのなら、単なる少数株主とは経済的実態が異なる、と考えられるためです。
実務では、次のような確認が必要になります。
- 評価基準日時点で役員かどうか
- 法定申告期限までに役員へ就任する予定があるか
- 代表取締役、副社長、専務、常務、取締役、監査役などへの該当性はどうか
- 名目的な役員にとどまるのか、実質的に経営へ関与しているのか
- 将来の承継計画との関係で、役員就任が予定されていないか
「持株割合が5%未満だから配当還元方式」と短絡せず、役員該当性まで踏み込んで確認する必要があります。
株主構成を動かすと、評価方式も変わることがある
事業承継や資本政策のなかでは、株主構成を整理する場面が出てきます。
たとえば、後継者へ株式を移す、少数株主から株式を買い取る、従業員持株会を導入する、持株会社へ株式を集約する、自己株式取得を行う、種類株式を発行する、第三者へ株式を譲渡する、組織再編を行う——といった取引です。
こうした取引によって、同族株主の判定、中心的な同族株主の判定、同族株主等の判定、議決権割合、会社規模判定、特定の評価会社への該当性が変わることがあります。
その結果、同じ会社の株式であっても、取引前と取引後とで評価方式が変わる可能性が出てきます。
とりわけ、承継対策として株式を分散させる場合には注意が要ります。短期的には相続税評価の引き下げに見えても、将来のM&A、後継者の経営権、少数株主の整理、株主間紛争、自己株式取得の資金負担が、かえって重くのしかかってくることがあるからです。
株式評価は、目先の税負担だけでなく、将来の経営支配と出口戦略まで視野に入れて判断すべきものだといえます。
M&A価格と税務評価を並べて整理する
支配株主・少数株主の評価を考えるときは、M&A価格と税務評価を分けて整理することが欠かせません。
M&A価格では、買主が何を取得するのかを見ます。経営権を取得するのか、一部持分を取得するのか。将来の完全子会社化を前提にしているのか。シナジーを見込んでいるのか。デューデリジェンスでの発見事項を価格に反映するのか。価格調整や表明保証でリスクを処理するのか——こうした点が論点になります。
一方、税務評価では、誰が、誰から、何の目的で、どの株式を取得するのかを見ます。相続・贈与なのか、親族間売買なのか。個人・法人間取引か、法人間取引か。取得者は同族株主か、少数株主か、役員か。評価基準日はいつか——そうした事実を確認していきます。
両者は重なる部分もありますが、同じものではありません。
たとえば、第三者M&Aで経営権を取得する価格と、相続税評価における配当還元価額とでは、そもそも評価の目的が異なります。反対に、親族間で株式を移転する場合には、M&Aの希望価格だけでは税務上の時価を説明しきれないことがあります。
評価額を出す前に、目的ごとに評価の土台を分けておくことが大切です。
相談前に整理しておきたい事項
同族株主・少数株主の評価を検討するにあたっては、少なくとも次の事項を整理しておきたいところです。
- 評価目的は何か:相続、贈与、売買、自己株式取得、事業承継、少数株主整理、M&A、組織再編のいずれか
- 評価基準日はいつか:株主構成や役員該当性は、時点によって変わる
- 株主名簿は正確か:名義株、未分割株式、相続手続未了株式、実質所有者の確認が必要
- 議決権総数をどう計算するか:自己株式、相互保有株式、種類株式、単元株式、議決権制限株式を確認する
- 同族関係者は誰か:親族、関係法人、資産管理会社、持株会社、特殊関係法人を整理する
- 同族株主がいるか:30%または50%超の判定を行う
- 中心的な同族株主がいるか:25%判定を確認する
- 同族株主がいない会社の場合:同族株主等や中心的な株主がいるか、15%・10%・5%の判定を整理する
- 取得者は役員か:役員就任予定があるかも確認する
- 配当実績はどうか:配当還元方式の計算に影響する
- M&Aや組織再編の予定はあるか:税務評価だけでなく、取引価格や会社法上の説明責任にも影響する
これらを整理しないまま評価額だけを求めてしまうと、後から説明できない評価になりやすくなります。
同族株主・少数株主の評価は、支配関係を数字で整理する作業である
同族株主・少数株主の評価は、単なる税務計算ではありません。
誰が会社を支配しているのか。誰が経営に関与できるのか。誰が配当を受け取るだけの立場なのか。どの株主に原則的評価方式を使うべきで、どの株主に配当還元方式を使えるのか。そして、その評価額を、税務・会社法・M&A価格のどの場面で使うのか。これらを一つひとつ整理していく作業です。
非上場株式の評価で本当に大切なのは、評価額をひとつ出すことではありません。評価目的、株主の立場、議決権、支配関係、役員該当性、取引目的を分解し、後からきちんと説明できる判断材料を整えておくことです。
同じ会社の同じ株式であっても、支配権のある株式と少数持分とでは、評価の見方が異なります。さらに、税務上の評価、M&A価格、会社法上の公正価格は、それぞれ別の目的と判断構造を持っています。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、非上場株式の同族株主・少数株主の判定、財産評価基本通達による評価方式の整理、M&A価格との違い、自己株式取得・事業承継・少数株主整理における価格判断について、会計・税務・会社法上の説明可能性を踏まえて整理しています。
「配当還元方式を使えるのか」「少数株主からの買取価格をどう考えるべきか」「M&A価格と相続税評価額の差をどう説明すればよいのか」「後継者への株式移転の前に株主構成を整理したい」——such論点をお持ちの場合は、当事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。評価額を出して終わりにするのではなく、取引後にも説明できる判断の土台を整えることを大切にして対応いたします。
振り返り|同族株主・少数株主評価の重要ポイント
| 論点 | 押さえるべき考え方 |
|---|---|
| 支配株式と少数株式 | 同じ会社の株式でも、経営支配力の有無で経済的意味が異なる |
| 同族株主 | 一定の同族関係者グループで議決権を30%以上、または一定の場合に50%超保有する株主グループ |
| 判定の起点 | 納税義務者本人だけでなく、評価会社全体の株主構成を見て判定する |
| 中心的な同族株主 | 同族株主のなかでも、一定の親族・関係法人を含めて25%以上の議決権を有する株主 |
| 同族株主がいる会社 | 同族株主は原則的評価方式が中心だが、一定の少数株主は配当還元方式になり得る |
| 同族株主がいない会社 | 全員が配当還元方式になるわけではなく、15%・10%・5%・役員該当性を確認する |
| 配当還元方式 | 少数株主等について配当期待を基礎に評価する、税務上の特例的評価方式 |
| 役員該当性 | 5%未満でも役員または役員就任予定がある場合、配当還元方式の可否に影響する |
| 議決権割合 | 自己株式、相互保有株式、種類株式、単元株式、議決権制限株式を確認する |
| M&A価格との違い | M&A価格は支配権、シナジー、交渉条件、DD発見事項を反映するため、通達評価額とは一致しない |
| 会社法上の価格との違い | 株式買取請求やスクイーズアウトの公正価格は、税務評価とは別の判断構造を持つ |
| 実務上の注意点 | 評価額だけでなく、評価目的、株主区分、支配関係、税務影響、説明先を整理する |