法人保険については、今でも「保険料が経費になる」「決算対策になる」「退職金の原資を準備しながら節税できる」といった説明を受ける場面があります。
けれども、法人保険料は、支払えば当然に全額が損金になるわけではありません。
損金算入、資産計上、給与課税のいずれで扱われるかは、保険の種類、保険期間、解約返戻金の水準、保険金や給付金の受取人、被保険者の範囲、特約の有無、契約変更の内容によって変わってきます。
とりわけ、解約返戻金のある法人保険では、支払った保険料の中に、将来返戻される前払部分が含まれていると考えられます。そのため、一定額をいったん資産に計上し、後の期間で取り崩して損金にしていく処理が必要になることがあります。
つまり、法人保険を節税の手段として判断するには、「保険料が損金になるかどうか」だけでは足りません。どの部分が損金になり、どの部分が資産計上され、いつ損金化され、そして出口でどのような課税が起こるのか。ここまで見て、はじめて全体像がつかめます。
本稿では、個別商品の比較や推奨には立ち入りません。法人保険料の損金算入と資産計上を判断するための基本的な構造を整理していきます。
法人保険の税務は、勘定科目だけでは判断できない
法人保険の税務は、見た目以上に込み入っています。
理由は単純で、法人税だけで完結しないからです。保険契約には、法人税、所得税、相続税、贈与税に加えて、民法、会社法、保険法、約款、保険数理までが関わってきます。なかでも、保険料を誰が負担し、保険金や給付金を誰が受け取るのかという関係は、課税関係を大きく左右します。
会計処理だけを見れば、支払時に「保険料」「前払保険料」「保険積立金」といった勘定科目で処理されます。しかし、税務上の判断では、勘定科目の名称よりも、契約内容と経済実態のほうがはるかに重要です。
たとえば、同じ「生命保険料」であっても、次のような点で扱いが分かれます。
- 法人が保険金を受け取る契約なのか
- 役員や従業員の遺族が保険金を受け取る契約なのか
- 役員や特定の使用人だけを対象とする契約なのか
- 解約返戻金がある契約なのか
- 保険期間中の解約返戻率がどの程度高いのか
- 養老保険なのか、定期保険なのか、第三分野保険なのか
- 特約部分の保険料が区分されているのか
法人保険料の損金算入を判断する入口は、勘定科目ではなく、あくまで契約内容にあります。
まず区分すべき法人保険の種類
法人保険料の税務処理を考えるときは、はじめに保険を大きく分けておく必要があります。
本稿で中心に扱うのは、次の4つです。
| 区分 | 基本的な性質 | 税務判断の主なポイント |
|---|---|---|
| 定期保険 | 一定期間内の死亡保障を目的とする保険 | 受取人、最高解約返戻率、資産計上の有無 |
| 第三分野保険 | 疾病・傷害・介護・医療等に関する保険 | 定期保険と同様に、最高解約返戻率や受取人で判断 |
| 養老保険 | 満期または死亡により保険金が支払われる保険 | 死亡保険金・生存保険金の受取人で処理が変わる |
| 定期付養老保険等 | 養老保険に定期保険や第三分野保険を付したもの | 保険料が区分されているかどうかが重要 |
ここを分けないまま「法人保険は経費になるか」とひとくくりに考えてしまうと、判断を誤ります。
定期保険と第三分野保険は、原則として期間の経過に応じて損金算入するのが基本です。ただし、最高解約返戻率が高い場合には資産計上が必要になります。
一方で、養老保険は満期保険金という資産性が強く、受取人が法人である場合には、保険事故の発生や解約・失効まで資産計上する処理が基本になります。
まずは「どの種類の保険なのか」を確かめること。ここが出発点です。
定期保険・第三分野保険の基本処理
法人が契約者となり、役員または使用人を被保険者とする定期保険または第三分野保険については、保険金または給付金の受取人に応じて処理が変わります。
保険金または給付金の受取人が法人である場合、支払保険料は、原則として期間の経過に応じて損金算入します。
受取人が被保険者またはその遺族である場合も、原則は同じく期間の経過に応じた損金算入です。ただし、役員や部課長その他特定の使用人、その親族だけを被保険者としている場合には、その保険料は役員または使用人に対する給与として扱われます。
この点は、法人保険の実務でとりわけ重要です。会社が支払っている保険料であっても、実質的に役員や特定の使用人へ経済的利益を与えていると見られる場合には、会社の単純な保険料ではなく、給与課税の問題へと変わってしまいます。
出典:国税庁|No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
ここで気をつけたいのは、「損金算入できる」ことと「すぐに全額損金になる」ことは、同じではないという点です。
国税庁の取扱いでも、原則は「期間の経過に応じて」損金算入することとされています。年払、半年払、前払、短期払など、支払方法によっては、当期分に対応する部分を切り分けて把握する必要があります。
保険料を支払った事業年度に、常に全額を損金にできるわけではありません。
「相当多額の前払部分」がある保険は資産計上が必要になる
法人保険の税務で最も重要な論点の一つが、解約返戻金のある定期保険・第三分野保険です。
保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50%を超えるものについては、保険料の中に相当多額の前払部分が含まれるものとして扱います。具体的には、支払保険料の一定額を一定期間にわたって資産に計上し、その資産計上額を所定の期間経過後に取り崩して損金算入していく処理になります。
これは、保険料を支払った時点で会社の資金は出ていくものの、その一部は将来の解約返戻金として戻る可能性がある、という点に着目した考え方です。戻ってくる可能性のある部分まで当期の費用としてしまうのは、税務上、適切とはいえない、というわけです。
国税庁の通達解説でも、保険期間が長期にわたるものや保険金額が逓増するものは、保険期間前半の保険料に相当多額の前払部分が含まれると説明されています。中途解約時にはその多くが返戻されるため、そのまま全額を損金算入すると、課税所得の適正な期間計算を損なうとされています。
出典:国税庁|定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いの改正の概要
したがって、解約返戻金のある法人保険を検討するときは、最初に次の点を確認しておく必要があります。
- 保険期間は3年以上か
- 最高解約返戻率は50%を超えるか
- 最高解約返戻率はどの区分に該当するか
- 年換算保険料相当額はいくらか
- 一の被保険者について他の契約と合算する必要があるか
- 資産計上期間と取崩期間はいつか
この確認をしないまま「保険料が経費になる」と結論づけることはできません。
最高解約返戻率ごとの資産計上ルール
最高解約返戻率が50%を超える定期保険または第三分野保険については、その区分に応じて、資産計上期間、資産計上額、取崩期間が定められています。
| 最高解約返戻率の区分 | 資産計上期間 | 資産計上額 | 取崩期間 |
|---|---|---|---|
| 50%超70%以下 | 保険期間開始日から、保険期間の40%相当期間を経過する日まで | 当期分支払保険料の40% | 保険期間の75%相当期間経過後から終了日まで |
| 70%超85%以下 | 保険期間開始日から、保険期間の40%相当期間を経過する日まで | 当期分支払保険料の60% | 保険期間の75%相当期間経過後から終了日まで |
| 85%超 | 保険期間開始日から、最高解約返戻率となる期間の終了日まで。一定の場合、資産計上期間の延長あり | 当期分支払保険料額に、最高解約返戻率の70%相当を乗じた金額。ただし保険期間開始日から10年経過日までは最高解約返戻率の90%相当を乗じた金額 | 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間経過後から終了日まで |
出典:国税庁|法人税基本通達 第3節 保険料等
出典:国税庁|No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い
ここでいう最高解約返戻率とは、保険期間を通じて解約返戻率が最も高くなる期間の割合を指します。解約返戻率は、契約時に示された解約返戻金相当額を、その返戻金を受けるまでに支払うこととなる保険料の合計額で割って計算します。
また、当期分支払保険料とは、支払った保険料のうち、その事業年度に対応する部分の金額をいいます。
つまり、「年間保険料を払ったから、そのうち何割が経費になる」という単純な話ではありません。事業年度、保険期間、資産計上期間、取崩期間がずれる場合には、月割計算や期間対応の確認が欠かせません。
最高解約返戻率70%以下でも、少額なら通常処理になる場合がある
最高解約返戻率が50%を超えても、必ず資産計上ルールが適用されるわけではありません。
保険期間3年以上の定期保険または第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超える場合であっても、最高解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額が一の被保険者につき合計30万円以下であるときは、相当多額の前払部分が含まれない場合の取扱いによることとされています。
この「一の被保険者につき合計30万円以下」という基準は、実務で見落とされがちなところです。複数の契約がある場合には、それぞれを単独で見るのではなく、一の被保険者ごとの年換算保険料相当額を合計して判断します。
出典:国税庁|No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
出典:国税庁|No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い
ここでも見るべきは、契約ごとの保険料ではなく、被保険者ごとの契約全体です。
解約返戻金のない短期払保険にも注意が必要
法人保険の中には、保険期間を通じて解約返戻金相当額がないものの、保険料の払込期間が保険期間より短い契約があります。
令和元年10月8日以後に、法人が保険期間を通じて解約返戻金相当額のない定期保険または第三分野保険に加入した場合で、一の被保険者につきその事業年度に支払った保険料の額が合計30万円以下であるものについては、その支払った日の属する事業年度の損金に算入しているときは、その処理が認められます。
裏を返せば、解約返戻金がないからといって、短期払の保険料を無条件に一括損金にしてよいわけではありません。
出典:国税庁|No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
確認すべきは、次のような点です。
- 保険料の払込期間と保険期間が一致しているか
- 短期払になっていないか
- 解約返戻金が本当にない契約なのか
- 被保険者ごとの年間保険料が30万円以下か
- 複数契約を合算しても基準内か
養老保険は、受取人によって処理が大きく変わる
養老保険は、満期または死亡によって保険金が支払われる生命保険です。定期保険のように死亡保障だけを目的とするものではなく、満期保険金という資産性を持っています。
そのため、法人が契約者となり、役員または使用人を被保険者とする養老保険に加入した場合、保険料の処理は、死亡保険金と生存保険金の受取人に応じて変わります。
| 死亡保険金の受取人 | 生存保険金の受取人 | 法人税務上の基本処理 |
|---|---|---|
| 法人 | 法人 | 保険契約が終了するまで損金算入せず、資産計上 |
| 被保険者またはその遺族 | 被保険者またはその遺族 | 役員または使用人に対する給与 |
| 被保険者の遺族 | 法人 | 保険料の2分の1を資産計上し、残額を期間の経過に応じて損金算入。ただし、役員や特定の使用人のみを被保険者とする場合には、その残額は給与 |
出典:国税庁|No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
養老保険には「満期で法人に戻る部分」があるため、法人受取分は資産性が強くなります。
一方で、役員や使用人、その遺族が保険金を受け取る契約では、法人が保険料を負担することによって、役員や使用人に経済的利益を与えていると見られます。そのため、給与として扱われる場合があります。
ここで押さえておきたいのは、法人契約であっても、受取人の設計によっては給与課税になるという点です。
会社名義で契約しているからといって、そのすべてが会社の保険料になるわけではありません。
定期付養老保険等は、保険料が区分されているかを見る
定期付養老保険等とは、養老保険に定期保険または第三分野保険を付したものをいいます。
この場合に重要なのは、生命保険証券などで保険料が、養老保険部分と定期保険または第三分野保険部分に区分されているかどうかです。
保険料が区分されている場合には、養老保険部分は養老保険の取扱いにより、定期保険または第三分野保険部分は、それぞれ定期保険・第三分野保険の取扱いによって処理します。
区分されていない場合には、保険料全体について養老保険の取扱いによることになります。
出典:国税庁|No.5365 定期付養老保険等の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
法人保険の設計書を見ると、主契約と特約が組み合わされていることがあります。特約部分の保険料については、その特約の内容に応じて、養老保険、定期保険、第三分野保険のいずれかの取扱いに従うことになります。
そのため、税務判断にあたっては、次の資料を確認しておく必要があります。
- 保険証券
- 設計書
- 主契約と特約の内容
- 保険料の内訳
- 死亡保険金の受取人
- 生存保険金の受取人
- 給付金の受取人
- 解約返戻金の推移表
- 最高解約返戻率
- 契約者変更や払済変更の予定
保険商品名だけでは、税務処理は判断できません。
「損金算入」と「節税効果」は同じではない
法人保険料の損金算入を考えるとき、よくある誤解があります。「損金になるなら得をする」という発想です。
たしかに、保険料が損金算入されれば、その事業年度の課税所得は下がります。結果として、法人税等の負担が軽くなることもあります。
しかし、保険料の支払いは、実際のキャッシュアウトです。税金が減っても、保険料として会社のお金は確かに出ていきます。
たとえば、保険料を支払って税負担が下がったとしても、税負担の軽減額よりも保険料の支出額のほうが大きければ、手元資金は減ります。しかも、資産計上される部分がある場合には、会計上・税務上の費用化は将来へと回っていきます。
そこで、法人保険による節税効果は、次の3つに分けて考える必要があります。
- 当期の損金算入による税負担軽減
- 解約返戻金や満期保険金として戻る資金
- 将来の解約・満期・保険事故・退職金支給時の課税関係
この3つをつなげて見なければ、保険による節税が本当に有効なのかは判断できません。
法人保険は、永久に税金を減らすものというより、課税の時期と資金準備を調整する性質を持つことが多いものです。ですから、「当期の税金が下がるか」ではなく、「保険料の支払から出口までを通じて、資金繰りと税負担がどう変わるか」を見る必要があります。
資産計上された保険料は、貸借対照表に残る
法人保険料のうち資産計上される部分は、損益計算書の費用ではなく、貸借対照表の資産として残ります。
実務上は、「保険積立金」「前払保険料」「長期前払費用」などの勘定科目で処理されることがあります。使用する勘定科目は会社の会計方針にもよりますが、大切なのは、資産計上した金額が税務上どのような根拠で計上されているかを、きちんと説明できることです。
決算書を見る金融機関や後継者にとっても、この資産は通常の預金とは性格が異なります。
保険積立金として貸借対照表に載っていても、すぐに同額を現金化できるとは限りません。解約時期によっては返戻率が低いこともありますし、解約すれば課税関係が生じる場合もあります。
したがって、法人保険を多額に契約している会社では、次の視点が求められます。
- 貸借対照表上の保険積立金は、実際の解約返戻金と整合しているか
- 資産計上額と保険会社が示す解約返戻金に大きな差がないか
- 解約した場合に益金または損金が発生するか
- 金融機関に説明するとき、換金可能性をどう伝えるか
- 後継者がその契約を維持できる資金繰りになっているか
法人保険は、決算書をきれいに見せるためのものではありません。資金繰りと将来の出口を説明できる状態で持っておくべきものです。
受取人が役員・遺族側になる場合は、給与課税に注意する
法人保険料の税務で大きなリスクになりやすいのが、給与課税です。
会社が保険料を支払っていても、保険金や給付金の受取人が役員や使用人、その遺族である場合には、法人が個人に経済的利益を与えていると見られることがあります。
とりわけ、役員または部課長その他特定の使用人、その親族だけを被保険者とする契約では注意が必要です。
定期保険や第三分野保険であっても、受取人が被保険者またはその遺族で、特定の役員や使用人だけを対象としている場合には、保険料はその役員または使用人に対する給与となります。養老保険でも、死亡保険金・生存保険金の受取人が被保険者またはその遺族である場合には、保険料は給与となります。
出典:国税庁|No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
出典:国税庁|No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
ここで問題になるのは、法人税だけではありません。
役員給与として扱われる場合には、法人税上の損金算入制限、所得税の源泉徴収、社会保険、役員給与規程、株主総会決議との整合性まで、あわせて確認する必要が出てきます。
また、役員に対する給与とされる保険料の額で、法人が経常的に負担するものについては、その役員が受ける経済的利益の額が毎月おおむね一定であることから、定期同額給与となる旨も、国税庁のタックスアンサーに示されています。
出典:国税庁|No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
ただし、これはあくまで一定の前提のもとでの取扱いです。役員給与として扱われる可能性がある契約では、契約前の段階で、給与課税、源泉徴収、損金性、役員報酬設計との整合性を確認しておくべきです。
法人保険を役員退職金の原資に使う場合の注意点
法人保険は、役員退職金の原資準備として使われることがあります。
この発想そのものが誤りというわけではありません。将来の退職金支給に備えて、会社が計画的に資金を準備することには、経営上の意味があります。
ただし、法人保険に加入しているからといって、退職時に保険金や解約返戻金をそのまま退職金として安全に支給できるわけではありません。
役員退職金には、退職の事実、功績、在任期間、役員報酬、支給額の相当性、株主総会決議、退職金規程、支給時期といった論点があります。法人保険は、あくまで資金準備の手段であって、退職金の損金性を自動的に保証するものではありません。
実務上も、法人が死亡保険金を受け取ったからといって、それが直ちに役員本人の功績を基礎づけるものではない、という判断枠組みが問題になることがあります。
したがって、役員退職金の原資として法人保険を使う場合には、次の点を確認しておく必要があります。
- 退職金支給の予定時期と解約返戻金のピークが合っているか
- 退職金規程や株主総会決議の整備があるか
- 退職の実態があるか
- 支給額の相当性を説明できるか
- 解約返戻金の受取時に益金が発生するか
- 退職金の損金算入時期と資金入金時期が合っているか
- 保険契約が退職金目的であることを社内で説明できるか
法人保険を退職金目的で使う場合、保険税務と役員退職給与税務を切り離して考えてはいけません。
契約変更・転換・払済変更でも税務処理が変わる
法人保険は、加入して終わりではありません。
保険契約では、契約者変更、受取人変更、保険金額変更、払済保険への変更、契約転換、解約などが行われることがあります。こうした変更のたびに、税務処理の見直しが必要になります。
法人税基本通達では、契約内容の変更があった場合、保険期間のうち変更後の期間については、変更後の契約内容に基づいて取扱いを適用するものとされています。また、契約内容の変更に伴い責任準備金相当額の過不足を精算する場合には、変更後の契約内容に基づいて計算した資産計上額の累積額と、既往の資産計上額の累積額との差額について調整を行うことになります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3節 保険料等
また、契約転換では、既契約を新たな契約に切り替えるものとして、転換のあった日を保険期間の開始日とし、そこから資産計上期間や取崩期間を判定する取扱いがあります。
出典:国税庁|定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ
さらに、払済保険へ変更した場合には、原則として、変更時の解約返戻金相当額と、保険契約により資産計上している保険料額との差額を、その変更日の属する事業年度の益金または損金に算入する取扱いがあります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3節 保険料等
契約変更は、単なる保険契約上のメンテナンスではありません。税務上は、過去に資産計上した金額、解約返戻金相当額、変更後の契約内容、そして役員や個人への経済的利益まで確認すべき場面です。
法人保険料の処理で誤りやすいポイント
法人保険料の処理では、次のような誤りが起こりやすいものです。
1. 保険料を支払額だけで全額損金処理している
年払保険料、短期払保険料、高返戻率保険料などについて、期間対応や資産計上の検討をせず、支払時に全額を損金にしているケースです。
この場合、税務調査で、資産計上すべき部分の損金算入が否認される可能性があります。
2. 最高解約返戻率を確認していない
資産計上ルールは、最高解約返戻率によって大きく変わります。
保険会社の設計書に解約返戻金の推移表があるにもかかわらず、最高解約返戻率を確認しないまま処理していると、誤った損金算入額になる可能性があります。
3. 複数契約を被保険者ごとに合算していない
30万円基準などは、一の被保険者につき複数契約がある場合には、合算して判断する必要があります。契約ごとに見れば基準内でも、合算すると基準を超えることがあります。
4. 受取人を確認せずに処理している
保険金や給付金の受取人が法人なのか、被保険者本人なのか、遺族なのかによって、損金、資産、給与の処理が変わります。
とりわけ、役員や特定使用人だけを対象にした契約では、給与課税の検討が欠かせません。
5. 特約部分を区分していない
主契約と特約とで税務処理が異なることがあります。特約部分の保険料が区分されている場合には、それぞれの内容に応じて処理を分ける必要があります。
6. 解約時の益金・損金を見ていない
加入時の損金算入だけを見ていると、解約時に大きな益金が発生することがあります。これは節税ではなく、課税の繰延べにすぎない場合があります。
7. 社内の意思決定資料が残っていない
なぜその保険に加入したのか、誰を被保険者にしたのか、なぜその受取人にしたのか、どの資金需要に備えるのか。これらが資料として残っていない場合、税務調査や後継者への説明の場面で、説得力を欠くことになります。
税務調査では何を見られるか
法人保険料は、税務調査でも確認されやすい項目です。
調査では、単に保険料の金額だけでなく、次のような点が見られます。
- 保険証券の内容
- 契約者、被保険者、受取人
- 保険料の支払者
- 保険料の内訳
- 解約返戻金の推移表
- 最高解約返戻率
- 資産計上額の計算根拠
- 損金算入額の計算根拠
- 役員や特定使用人だけを対象にしていないか
- 給与課税や源泉徴収の要否
- 解約、払済、契約変更の履歴
- 退職金原資とする場合の退職金規程や議事録
- 加入目的を説明する稟議書、取締役会議事録、株主総会議事録
税務調査では、申告内容、取引実態、原始資料、帳簿、資金移動の整合性が確認されます。法人保険も、これと変わりません。契約書類と会計処理と資金の流れが一致していなければ、後から説明するのは難しくなります。
保険料の処理を税理士任せにするのではなく、経営者側も「なぜこの保険に入ったのか」「誰のための保障なのか」「いつ出口を迎えるのか」を説明できる状態にしておくこと。ここが重要です。
法人保険を節税目的で検討する前に見るべき順番
法人保険を検討するときは、次の順番で確認していくと、判断が整理しやすくなります。
まず、保障目的を確認します。代表者の死亡保障なのか、借入金対策なのか、退職金原資なのか、従業員の福利厚生なのか、相続・事業承継対策なのか。ここを明確にします。
次に、契約関係を確認します。契約者、被保険者、保険料負担者、死亡保険金受取人、生存保険金受取人、給付金受取人を整理します。
そのうえで、保険種類を確認します。定期保険、第三分野保険、養老保険、定期付養老保険等のどれに当たるのかを見極めます。
さらに、解約返戻金の有無と最高解約返戻率を確認します。最高解約返戻率が50%を超えるか、70%以下か、85%以下か、85%超かを見ていきます。
その後、損金算入額、資産計上額、取崩期間を計算します。会計処理と税務処理が一致しない場合には、税務調整の要否もあわせて確認します。
最後に、出口を確認します。解約、満期、死亡、退職金支給、契約変更、払済変更の時点で、益金・損金・給与・退職金・相続税・贈与税のどの論点が生じるかを整理しておきます。
この順番で見ていけば、「保険料が経費になるか」という単純な話から、「その保険は会社の将来の資金設計として合理的か」という判断へと進むことができます。
法人保険の節税で避けたい考え方
法人保険を使った節税で避けたいのは、次のような考え方です。
- 「利益が出たから保険に入る」
- 「保険料が損金になるなら入った方がよい」
- 「返戻率が高いから実質的に損をしない」
- 「保険会社の設計書に節税効果が書いてあるから問題ない」
- 「解約時の税金はそのとき考えればよい」
- 「会社契約だから個人課税は関係ない」
- 「退職金原資にする予定だから、退職金も当然損金になる」
いずれも、入口の税務効果だけを見た判断です。
法人保険は、資金を外部に出し、長期間にわたって契約に拘束され、将来の出口で課税関係が生じる可能性のある取引です。節税として使うのであれば、少なくとも、当期の税額、手元資金、資産計上、将来課税、保障目的、役員・従業員への経済的利益を、それぞれ分けて検討する必要があります。
法人保険は、うまく使えば、事業保障、退職金原資、納税資金、承継対策に役立つことがあります。
ただし、それは「税金を減らすために加入する」場合ではありません。「将来必要となる資金に備える目的があり、その設計が税務上も整合している」場合に、はじめて意味を持ちます。
実行前に確認すべき資料
法人保険料の損金算入と資産計上を判断するには、次の資料をそろえておく必要があります。
- 保険証券
- 設計書
- 解約返戻金の推移表
- 最高解約返戻率が分かる資料
- 保険料払込予定表
- 主契約と特約の内訳
- 契約者、被保険者、保険料負担者、受取人の一覧
- 役員・従業員ごとの加入状況
- 既存契約を含めた被保険者別の保険料一覧
- 保険加入の稟議書
- 取締役会議事録または株主総会議事録
- 退職金原資とする場合の退職金規程
- 資金繰り表
- 過年度の決算書・申告書
- 過去の契約変更・払済変更・解約履歴
- 保険会社または代理店から受けた提案資料
これらを確認すれば、保険料のうち、どの部分を損金算入し、どの部分を資産計上し、将来どのタイミングで取り崩すべきかを整理しやすくなります。
逆に、これらの資料がない状態で処理を進めると、税務調査で説明できないリスクが高まります。
法人保険料の処理は、毎期見直すべき
法人保険は、契約時だけでなく、毎期の決算でも見直すべきものです。
とりわけ、次のような変化があった場合には、税務処理を確認する必要があります。
- 役員が退任した
- 被保険者が退職した
- 受取人を変更した
- 契約者を変更した
- 払済保険へ変更した
- 契約を転換した
- 解約を検討している
- 保険料の払込期間が終わった
- 解約返戻率のピークが近づいている
- 退職金支給を検討している
- 借入金返済や事業承継の予定が変わった
- 会社の資金繰りが変化した
法人保険料の処理は、一度決めたら終わりというものではありません。
保険契約は長期にわたるため、その間に経営状況や役員構成、資金需要、税制が変わっていきます。毎期の決算で、保険契約一覧と資産計上額、解約返戻金、加入目的を確認しておくこと。これが、誤った節税を避けるうえで重要になります。
法人保険料の損金算入と資産計上を整理したい方へ
法人保険は、保険料が損金になるかどうかだけで判断すると、誤りやすい領域です。
とりわけ、解約返戻金のある保険、役員を被保険者とする保険、退職金原資を目的とする保険、複数契約がある保険、過去に契約変更や払済変更をしている保険では、税務処理と将来の出口課税を整理しておく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人保険について、商品販売の立場ではなく、税務・会計・資金繰り・役員退職金・事業承継の観点から、契約内容と処理の妥当性を整理します。
- 「法人保険料をどこまで損金にできるか確認したい」
- 「過去に加入した保険の資産計上額が正しいか見直したい」
- 「解約・払済・契約変更の前に税務リスクを整理したい」
- 「退職金原資として保険を使う設計が妥当か確認したい」
このような段階であれば、実行前・決算前に一度整理しておくことで、不要な税務リスクや資金繰り上の失敗を避けやすくなります。
ご相談をご希望の方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、現在の保険証券、設計書、解約返戻金推移表、決算書、申告書の状況をお知らせください。契約内容と数字を確認したうえで、損金算入、資産計上、出口課税、今後の見直し方針を整理します。
本稿で参照した主な公式情報
- 出典:国税庁|法人税基本通達 第3節 保険料等
- 出典:国税庁|No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
- 出典:国税庁|No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
- 出典:国税庁|No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い
- 出典:国税庁|No.5365 定期付養老保険等の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
- 出典:国税庁|定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いの改正の概要
- 出典:国税庁|定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ
振り返り|法人保険料の損金算入と資産計上の判断ポイント
| 判断項目 | 確認すべきこと | 誤りやすい考え方 |
|---|---|---|
| 保険の種類 | 定期保険、第三分野保険、養老保険、定期付養老保険等のどれか | 法人保険はすべて同じ処理になると考える |
| 受取人 | 法人、被保険者、遺族の誰が保険金・給付金を受け取るか | 契約者が法人ならすべて法人の保険料になると考える |
| 定期保険・第三分野保険 | 原則として期間の経過に応じて損金算入。ただし高返戻率保険は資産計上 | 支払った年度に全額損金になると考える |
| 最高解約返戻率 | 50%超か、70%以下か、85%以下か、85%超か | 解約返戻率を確認せずに処理する |
| 資産計上期間 | 保険期間の40%相当期間、最高解約返戻率となる期間などを確認する | 保険料の一部資産計上を見落とす |
| 取崩期間 | 資産計上額をいつから損金算入するか確認する | 資産計上したまま取り崩しを忘れる |
| 養老保険 | 死亡保険金・生存保険金の受取人で、資産計上・給与・半分資産計上が変わる | 満期保険金の資産性を無視する |
| 定期付養老保険等 | 保険料が養老部分と定期・第三分野部分に区分されているか確認する | 主契約と特約を一括で処理する |
| 給与課税 | 役員や特定使用人だけを被保険者にしていないか確認する | 法人が払えば個人課税は関係ないと考える |
| 資金繰り | 保険料支出、解約返戻金、出口課税、退職金支給時期を確認する | 税金が減れば手元資金も有利になると考える |
| 契約変更 | 契約者変更、払済、転換、解約時の税務処理を確認する | 加入時の処理だけ見れば足りると考える |
| 税務調査対応 | 保険証券、設計書、返戻金推移表、議事録、稟議書を保存する | 保険会社の提案資料だけで説明できると考える |