訂正報告書・過年度訂正・適時開示|誤謬・不正発覚後に何を、いつ、どこまで開示するか

不適切会計や過年度誤謬が発覚したとき、実務の現場で最初に混乱しやすいのは、「会計処理の修正」「開示制度上の訂正」「適時開示」という三者の関係です。

会計上は、過去の誤謬であれば修正再表示を検討することになります。金融商品取引法上は、すでに提出した有価証券報告書や半期報告書等について、訂正報告書を提出すべきかどうかを判断しなければなりません。さらに上場会社であれば、それらとは別に、投資者の判断に重要な影響を与える情報として、適時開示をいつ行うべきかという検討が必要になります。

この3つは、似ているようでいて、同じものではありません。

過年度数値を修正すれば終わり、というわけではありません。訂正報告書を提出したから適時開示は不要になる、とも限りません。調査が終わるまで何も開示しなくてよい、ともいえないのです。むしろ発覚後の対応で重要になるのは、会計上の結論がまだ固まらない段階から、事実関係、影響額、開示時期、監査人協議、内部統制、経営者説明を並行して設計していくことです。

本稿では、16-5「訂正報告書・過年度訂正・適時開示」として、誤謬・不正が発覚した後の実務対応を、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの決算・開示・監査対応という観点から整理していきます。

目次

訂正局面では、まず「3つのレイヤー」を分ける

過年度誤謬や不正が発覚した場合、最初に切り分けるべきは次の3つです。

レイヤー主な問い主な制度・実務
会計上の処理過去の財務諸表をどのように修正するか企業会計基準第24号、同適用指針第24号
法定開示の訂正過去に提出した有価証券報告書等を訂正する必要があるか金融商品取引法、開示府令、EDINET提出実務
上場規則上の適時開示投資判断上重要な情報として、いつ市場に知らせるかJPX適時開示制度、TDnet、決算短信・業績予想修正

ASBJの企業会計基準第24号は、会計方針の開示、会計上の変更、そして過去の誤謬の訂正に関する会計上の取扱いと開示を定めた基準です。同基準では、誤謬を「財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと、又はこれを誤用したことによる誤り」と整理したうえで、過去の財務諸表に誤謬が発見された場合には修正再表示することを求めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

一方、金融商品取引法に基づく開示では、過去に提出済みの開示書類そのものに訂正が必要となる場合があります。ここで実務上おさえておきたいのは、会計上の修正再表示と、金商法上の訂正報告書の提出とは、別個に検討すべき事象だという点です。比較情報として前期数値を修正再表示しただけでは、過去に提出した有価証券報告書等の訂正報告書の提出を代替することはできません。

また、JPXは、適時開示が求められる会社情報について、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営又は業績等に関する情報であると説明しています。開示事項には、決定事実、発生事実、決算情報、業績予想の修正、さらに開示した事項の中止・変更・訂正・経過に関する開示等が含まれます。
出典:日本取引所グループ|適時開示が求められる会社情報
出典:日本取引所グループ|会社情報適時開示ガイドブック

したがって、発覚後の初動で「これは会計上どう直すか」だけを議論していると、開示時期、訂正範囲、監査対応、内部統制、投資者説明のすべてが後手に回ることになります。

誤謬・不正発覚後の初動で整理すべき事項

不適切会計が疑われる事象を把握した段階では、影響額が確定していないのが通常です。しかし、影響額が固まっていないからといって、論点整理まで止めてよいわけではありません。

初動で整理すべき事項は、次のとおりです。

初動項目実務上の確認事項
発見の端緒内部通報、監査人指摘、税務調査、取引先照会、棚卸差異、報道等
対象取引収益、棚卸資産、固定資産、貸倒、税効果、連結、注記等
対象期間当期のみか、過年度に及ぶか、比較情報に影響するか
対象会社単体、子会社、海外子会社、持分法会社、連結消去への影響
影響額売上高、利益、純資産、EPS、自己資本比率、セグメント、税効果
意図性誤謬か、不正の疑いがあるか、経営者関与の可能性はあるか
開示影響適時開示、訂正報告書、決算短信訂正、業績予想修正、臨時報告書
監査影響追加監査手続、監査報告書日、前任監査人、監査役等との共有
内部統制開示すべき重要な不備、評価範囲、全社統制、決算財務報告プロセス
ガバナンス調査体制、第三者委員会、取締役会、監査役等、外部専門家

とりわけ、誤謬か不正かという区分は、訂正報告書の作成実務にとどまらず、監査手続、内部統制評価、再発防止、経営者責任、投資者説明にまで影響していきます。

日本公認会計士協会の監査基準報告書240は、財務諸表の虚偽表示は不正又は誤謬から生じるものであり、両者は原因となる行為が意図的であるか否かによって区別されると整理しています。あわせて、不正の防止・発見の基本的責任は経営者にあり、取締役会及び監査役等による監視も重要であるとされています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240 財務諸表監査における不正

初動段階では、結論を急ぐことよりも、判断に必要な事実を失わないことのほうがはるかに重要です。メール、契約書、稟議書、会議資料、会計データ、棚卸資料、取引先照会、監査人との過去協議資料を保全し、後から説明できる形で検討過程を残しておくべきでしょう。

会計処理の分岐|会計方針変更、見積り変更、誤謬を混同しない

訂正局面において、会計上もっとも重要な分岐となるのは、「会計方針の変更」「表示方法の変更」「会計上の見積りの変更」「過去の誤謬の訂正」の区分です。

ASBJ基準では、会計上の見積りの変更は、新たに入手可能となった情報に基づいて過去に行った見積りを変更するものとされています。これに対して誤謬は、財務諸表作成時に入手可能だった情報を使用しなかった、又は誤用したことによる誤りです。

ここを取り違えると、本来は過年度訂正が必要な事項を、当期の見積り変更として処理してしまうリスクが生じます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

整理すると、次のようになります。

区分基本的な処理訂正局面での注意点
会計方針の変更原則として遡及適用正当な理由、基準改正、注記、比較情報への影響を確認
表示方法の変更原則として財務諸表の組替え科目分類、表示区分、注記を含む表示変更を検討
見積り変更将来にわたり処理新たな情報に基づく変更か、過去時点で考慮すべき情報の見落としかを確認
誤謬の訂正修正再表示重要性、過年度影響、訂正報告書、内部統制、監査報告書への影響を確認
不正誤謬のうち意図性を伴うものとして検討調査体制、経営者関与、内部統制、適時開示、責任リスクまで波及

会計上の見積りについては、後から実績と乖離したこと自体が、直ちに誤謬を意味するわけではありません。問われるのは、期末時点で利用可能だった情報を適切に考慮していたかどうかです。

見積時点で当然考慮すべき事項を考慮していなかった場合や、過度に楽観的な見積りをしていた場合には、見積り変更ではなく、過去の誤謬として修正再表示を検討する必要があります。

実務上、次のような説明については、慎重に扱うべきでしょう。

会社側の説明追加で確認すべき事項
「当時は合理的な見積りだった」当時利用可能だった資料、反証情報、社内会議資料、監査人協議履歴
「新しい情報が出たので見積り変更」その情報の原因事象はいつ存在していたか
「金額的には軽微」利益、純資産、KPI、財務制限条項、業績予想、上場審査への質的重要性
「当期一括処理で問題ない」過年度財務諸表の利用者意思決定への影響
「訂正報告書を出すほどではない」金商法上の訂正要否、監査人見解、適時開示要否

「当期で処理するか」「過年度を訂正するか」という選択は、単なる実務負担の問題ではありません。財務諸表の利用者が、過去にどの情報を前提として投資判断や与信判断を行ったのかに関わる問題なのです。

訂正範囲は、仕訳の影響額だけで決めない

訂正報告書の検討でよく見られる誤りは、修正仕訳の金額だけを見て対象年度を決めようとすることです。

しかし訂正範囲は、財務諸表本表にとどまりません。注記、セグメント情報、1株当たり情報、キャッシュ・フロー計算書、税効果、関連当事者、重要な会計上の見積り、記述情報、経営者による財政状態・経営成績の分析、内部統制報告書、確認書にまで波及していきます。

訂正対象主な確認事項
貸借対照表資産、負債、純資産、分類、流動・固定区分
損益計算書売上高、売上原価、販管費、営業外損益、特別損益、税金費用
包括利益計算書その他有価証券評価差額、為替換算調整勘定、退職給付調整等
株主資本等変動計算書利益剰余金、配当、自己株式、その他包括利益累計額
キャッシュ・フロー計算書非資金項目、営業CF、投資CF、財務CF
注記会計方針、見積り、収益認識、税効果、金融商品、関連当事者等
1株当たり情報EPS、潜在株式調整後EPS、自己株式、株式報酬
セグメント情報セグメント利益、資産、減損、売上高
記述情報事業等のリスク、MD&A、経営方針、重要な契約
決算短信サマリー、業績予想、補足説明資料
内部統制報告書開示すべき重要な不備の有無、評価範囲、是正状況

過去に提出された有価証券報告書等に含まれる財務諸表を訂正報告書によって訂正する場合、訂正報告書に記載される財務諸表も、対象年度に適用されていた会計基準に従って作成されるべきものとなります。実務上は、少なくとも誤謬が発生していた事実、及び当該誤謬について訂正を行った事実の注記が必要になると考えられます。

とりわけ複数年度にわたる訂正では、最も古い年度の有価証券報告書等に係る訂正報告書に記載される財務諸表に、誤謬の訂正に関する注記が必要になると整理されます。

訂正範囲を検討する際には、次のような「年度別・書類別マトリクス」を作成しておくと、監査人、経営者、開示担当、法律専門家との協議が進めやすくなります。

年度会計処理影響有報訂正半期報告書訂正決算短信訂正内部統制報告書適時開示主な根拠資料
X1年度売上過大、売掛金過大要検討該当なし要検討要検討済/予定契約書、検収資料
X2年度期首利益剰余金、税効果要検討要検討要検討要検討予定修正仕訳、税効果計算
X3年度比較情報、注記要検討要検討要検討要検討予定比較情報突合表
当期期首残高、再発防止通常開示通常開示通常開示是正状況必要に応じて内部統制改善資料

この表の目的は、訂正書類を増やすことではありません。影響を受ける書類を漏らさず把握したうえで、「なぜ訂正するのか」「なぜ訂正しないのか」を説明できる状態にしておくことにあります。

重要性判断は、金額的重要性と質的重要性を分けて検討する

過年度訂正の要否は、単に金額が大きいかどうかだけで決まるものではありません。金額的重要性と質的重要性の双方を検討する必要があります。

特に不正・不適切会計の局面では、金額が相対的に小さくても、質的重要性が高いというケースが少なくありません。

質的重要性が高まりやすい要因具体例
利益指標への影響赤字から黒字、営業損失から営業利益、上場維持基準への影響
業績予想への影響業績予想修正の必要性、投資者説明との不整合
財務制限条項借入契約、社債、継続企業の前提への影響
経営者関与経営者による指示、承認、隠蔽、内部統制の無効化
不正性架空売上、循環取引、証憑改ざん、取引先との共謀
開示項目への影響KAM、重要な会計上の見積り、関連当事者、セグメント
IPO・資金調達上場審査、第三者割当、有価証券届出書、投資家説明
配当・会社法分配可能額、違法配当、計算書類の適法性

会社法計算書類との関係では、重要な誤謬によって、過年度の計算書類の適法性や承認の有効性が問題となる場合があります。特に、修正再表示の結果として分配可能額がマイナスとなるような場合には、過年度配当の効力や取締役責任にまで検討が及ぶ可能性があります。

したがって重要性判断は、経理部門だけで完結させるべきものではありません。監査人、監査役等、法律専門家、開示担当、そして必要に応じて外部の会計専門家と、早い段階で判断軸を共有しておく必要があります。

適時開示は「訂正額が確定してから」では遅い場合がある

過年度訂正の局面では、「調査中なのでまだ開示できない」「訂正額が確定してから開示すればよい」と考えてしまいがちです。しかし適時開示の判断は、訂正額の確定を待てばよいというものとは限りません。

JPXの適時開示制度では、投資判断に重要な影響を与える会社情報について適時開示が求められます。上場会社の決定事実には、組織再編、固定資産の譲渡又は取得、公認会計士等の異動、継続企業の前提に関する事項の注記、有価証券報告書・半期報告書の提出期限延長に関する承認申請、そして開示すべき重要な不備等を記載する内部統制報告書の提出なども含まれています。
出典:日本取引所グループ|適時開示が求められる会社情報

訂正局面において適時開示を検討すべき典型的な場面は、次のとおりです。

場面適時開示で検討すべき事項
不適切会計の疑義を把握事実関係、調査開始、影響見込み、今後の見通し
第三者委員会等の設置設置理由、委員構成、調査対象、調査スケジュール
決算発表延期延期理由、監査・レビュー状況、提出予定日
有報・半期報告書の提出期限延長申請申請理由、対象書類、承認状況、提出予定
過年度決算訂正の見込み対象期間、見込影響額、確定時期
訂正内容の確定訂正対象書類、影響額、原因、再発防止策
業績予想修正影響額、修正理由、合理的見込み
内部統制上の重要な不備不備の内容、財務報告への影響、是正方針
監査人異動異動理由、不適切会計との関係、監査意見への影響
開示済資料の訂正決算短信、説明資料、過去TDnet開示の訂正

JPXの公開項目でも、開示した事項の中止・変更・訂正・経過に関する開示、そして開示資料の追加・訂正又は説明が整理されています。
出典:日本取引所グループ|適時開示に関する会社情報適時開示ガイドブックの開示項目と公開項目の対応表

適時開示において、未確定の事項を断定することは避けなければなりません。その一方で、投資者が判断するうえで重要な事実を、確定していないことを理由に過度に先送りすることも避けるべきです。実務上は、次のように段階を追った開示を設計していきます。

段階開示の軸記載の考え方
疑義発覚時事実関係と調査開始確認済み事実と未確定事項を分ける
調査中進捗と影響見込み影響額が未確定なら、その理由と確定予定を示す
訂正方針決定時対象期間・対象書類訂正範囲、会計処理方針、監査状況を示す
訂正完了時確定影響額と原因財務影響、原因分析、再発防止策を示す
是正段階内部統制改善改善策、責任体制、モニタリングを示す

この段階開示を設計しないまま進めると、調査結果を公表する場面で、会計処理、監査、法務、IRの言葉がばらばらになってしまい、かえって市場の不信を招くことがあります。

訂正報告書と監査対応|監査人は過去資料をそのまま使うわけではない

過年度訂正では、監査人との協議が対応の中核になります。ただしそれは、監査人に結論を委ねるという意味ではありません。会社側が事実関係、会計処理案、影響額、訂正範囲、開示方針を整理したうえで、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手できる状態をつくる必要があります。

JICPAの監査基準報告書710は、比較情報が訂正報告書提出後の金額及び注記事項と一致しているか、又は修正再表示された金額及び注記事項が妥当かどうかを、監査人が検討することを求めています。また、前年度の財務諸表が訂正されている場合には、比較情報が訂正後の財務諸表と一致しているかを確かめる必要があるとされています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書710 過年度の比較情報-対応数値と比較財務諸表

訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査では、訂正前の監査ですでに入手していた監査証拠を、そのまま利用できるとは限りません。訂正原因が不正である場合には、内部統制の不備又は無効化、文書の偽造、取引の改ざん、意図的な虚偽陳述、共謀等を踏まえて、監査証拠の適合性と信頼性を慎重に評価する必要があります。
出典:日本公認会計士協会|訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針

実務上、会社が監査人に提出すべき資料は、次のように整理できます。

資料区分内容
事実関係資料発見経緯、対象取引、関係者、時系列、社内承認状況
会計論点メモ適用基準、処理案、代替案、判断根拠、重要性判断
影響額算定資料年度別・会社別・科目別・税効果後の修正額
訂正範囲表有報、半期報告書、短信、説明資料、内部統制報告書の対象
根拠証憑契約書、検収書、請求書、入出金、棚卸表、評価資料
反証情報会社側結論と異なる可能性のある資料、調査で否定した事項
内部統制資料統制不備、原因分析、評価範囲、是正策
経営者確認経営者の判断、調査協力、未開示情報の有無
監査役等資料監査役等への報告内容、議事録、監督状況

過年度訂正では、監査人の監査報告書日、訂正後財務諸表に反映させる後発事象、そして事後判明事実の範囲についても、慎重に検討することになります。JICPAの実務指針では、訂正後の財務諸表に反映させる後発事象は、原則として訂正前の財務諸表に対する監査報告書日までに発生していた事象であると整理されています。
出典:日本公認会計士協会|訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針

内部統制報告書の訂正は、自動連動ではなく原因分析で判断する

有価証券報告書の訂正報告書を提出する場合、内部統制報告書も必ず訂正することになるのか。これは実務でよく問われる論点です。

結論からいえば、訂正報告書を提出したことだけを理由に、直ちに内部統制報告書も訂正しなければならないわけではありません。重要なのは、訂正原因となった誤りが、財務報告に係る内部統制の評価範囲内から生じたものであり、かつ財務報告に重要な影響を及ぼす内部統制の不備によるものかどうかという点です。

内部統制への影響は、次のように整理します。

検討項目確認すべき事項
誤りの発生原因単純ミス、基準理解不足、承認漏れ、システム不備、不正、経営者無効化
統制の種類全社的統制、業務プロセス統制、決算財務報告プロセス、IT全般統制
評価範囲当初の評価範囲内か、範囲外か、範囲設定自体に問題があるか
重要性財務報告に重要な影響を及ぼすか
発見統制監査人が発見したのか、会社内部で発見したのか
是正状況期末日時点で是正済みか、訂正時点で是正済みか
開示開示すべき重要な不備、評価結果不表明、付記事項の要否

金融庁は、2023年4月7日に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」の改訂を公表しています。訂正局面では、現行の内部統制報告制度の枠組みに基づいて、評価範囲、開示すべき重要な不備、内部統制監査への影響を確認する必要があります。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

過年度訂正を行った会社が「内部統制は有効だった」と説明する場合、その説明にはとりわけ慎重さが求められます。重要な誤謬や不正を防止又は発見できなかった理由を説明できないまま内部統制は有効だったとすることは、監査人、監査役等、そして投資者への説明として、到底耐えられるものではありません。

半期報告書・四半期報告書・決算短信の取扱いは、現行制度で確認する

過年度訂正では、対象年度によって適用される開示制度が異なる場合があります。

日本では、2023年の金融商品取引法等改正により四半期報告書制度が廃止され、上場会社等が提出する半期報告書に関する規定が整備されました。訂正対象期間が制度改正の前後にまたがる場合には、旧四半期報告書、半期報告書、決算短信、四半期決算短信、臨時報告書の関係を、対象年度ごとに確認する必要があります。
出典:金融庁|令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について

実務では、次のような対応表を作成します。

対象期間法定開示書類取引所開示主な確認事項
年度決算有価証券報告書、確認書、内部統制報告書決算短信、補足説明資料財務諸表、注記、記述情報、KAMとの整合性
半期半期報告書、確認書第2四半期決算短信等中間財務諸表、レビュー、制度改正後の様式
旧四半期四半期報告書、確認書四半期決算短信制度改正前の対象期間かどうか
臨時事項臨時報告書TDnet適時開示重要な決定・発生事実、組織再編、固定資産、GC等
過去開示資料訂正報告書、訂正確認書等訂正決算短信、訂正開示訂正対象書類、訂正理由、訂正箇所

訂正対象が過去数年に及ぶ場合、「過去5年分を全部訂正する」「直近期だけ訂正する」といった機械的な対応は危険です。各年度の財務諸表利用者に与えた影響、当該年度に適用される制度、監査人の監査証拠、重要性、訂正後の比較情報を総合的に踏まえて判断していくことになります。

訂正報告書の作成では、財務諸表以外の記述情報も確認する

訂正報告書というと、どうしても財務諸表本表と注記の修正に意識が向きがちです。しかし、有価証券報告書等の虚偽記載リスクは、財務諸表だけにとどまるものではありません。

次に挙げる記述情報についても、訂正後の財務諸表と整合しているかを確認します。

記述情報訂正時の確認事項
事業等のリスク不適切会計、不正、内部統制、継続企業、訴訟リスク
経営者による分析売上高、利益、セグメント、キャッシュ・フローの説明
経営方針・対処すべき課題再発防止、内部統制改善、管理体制
重要な契約不適切会計の原因となった契約、取引条件
関係会社の状況子会社不正、連結範囲、持分法、海外子会社
設備の状況減損、固定資産、建設仮勘定、事業撤退
研究開発活動資産化・費用化、開発中止
コーポレート・ガバナンス取締役会、監査役等、内部通報、委員会設置
役員報酬業績連動報酬、不正発覚後の返還・減額等
KAMとの整合性監査上の主要な検討事項と訂正後開示の関係

訂正前に「売上が好調」と説明していた箇所が、訂正後には売上の過大計上だったと判明する。こうした場合、財務諸表本表だけを修正しても、有価証券報告書全体としての整合性は保てません。

投資者は、数値だけを読んでいるわけではなく、経営者の説明も読んでいます。訂正報告書では、訂正後の財務諸表と記述情報が矛盾しないよう、全体を横断して確認する必要があります。

危機対応の実務スケジュール

発覚後の対応では、会計処理、監査、開示、調査が同時に進行していきます。典型的な流れは次のとおりです。

時点主な対応実務上の注意点
Day 0疑義把握、証拠保全、関係者限定情報管理、インサイダー情報管理、改ざん防止
Day 1〜3初期事実確認、監査人・監査役等への共有断定せず、確認済み事実と仮説を分ける
Day 3〜7影響範囲の仮説、適時開示要否検討調査中でも開示が必要な事実がないか確認
Week 2調査体制決定、外部専門家選任独立性、調査対象、スコープを明確化
Week 2〜4影響額試算、訂正対象年度・書類の検討会計・税効果・連結・内部統制を同時に見る
Month 1〜監査人手続、訂正報告書案、短信訂正案監査証拠、比較情報、注記、記述情報の整合
確定時訂正報告書提出、適時開示、再発防止公表原因、影響額、責任、内部統制改善を整理
その後内部統制是正、監査役等報告、継続開示当期有報・半期報告書・KAMへの波及を確認

この流れの中で最も避けるべきなのは、会計処理チーム、調査チーム、開示チーム、法務チームが、それぞれ別の前提で動いてしまうことです。過年度訂正は、仕訳だけの問題ではなく、会社としての説明責任の問題だからです。

訂正局面で専門家に相談する前に整理すべき資料

外部の専門家に相談する場合、最初から完璧な結論を用意しておく必要はありません。ただし、次のような資料が揃っていると、論点整理の精度が大きく上がります。

資料内容
事案概要メモ発見経緯、対象取引、関係部署、対象期間
時系列表取引発生、会計処理、監査対応、発見、社内報告、開示
影響額試算年度別、会社別、科目別、税効果後、EPS影響
会計処理案当期修正、修正再表示、訂正報告書対象の仮説
重要性判断メモ金額的重要性、質的重要性、業績予想・財務制限条項への影響
開示対象一覧有報、半期報告書、決算短信、TDnet、内部統制報告書
監査人協議履歴過去協議、監査人指摘、未解決事項
内部統制資料統制設計、運用状況、不備、評価範囲、是正案
経営者・監査役等資料取締役会資料、監査役等報告、調査委員会資料
外部証憑契約書、検収書、請求書、入出金、取引先確認

相談の時点で大切なのは、「訂正が必要かどうかを決めてほしい」と丸投げすることではありません。どの事実がすでに確定していて、どこがまだ未確定なのか、そしてどの判断が分岐点になっているのかを明確にしておくことです。

まとめ|訂正対応は「数字の修正」ではなく「信頼の再構築」である

過年度訂正や訂正報告書の提出は、会社にとって決して軽くない負担です。決算スケジュールは崩れ、監査人対応は重くなり、投資者・金融機関・取引先への説明も必要になります。

しかし、訂正対応の目的は、単に過去の数字を直すことではありません。財務報告の信頼性を回復し、なぜ誤りが生じたのか、どの範囲に影響したのか、どのように訂正したのか、そして今後どのように再発を防ぐのかを、後から検証可能な形で示すことにあります。

会計上の修正再表示、金商法上の訂正報告書、JPX上の適時開示、内部統制報告書、監査報告書、KAM、記述情報は、それぞれ制度の趣旨が異なります。これらを分断して扱ってしまうと、対応が遅れ、説明が不整合になり、やがて追加訂正や信用の低下へとつながっていきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、過年度誤謬・不適切会計・訂正報告書・適時開示・内部統制・監査人協議に関する論点について、事実関係の整理から、会計処理方針、影響額の整理、開示方針、監査対応資料の作成支援まで、一体でご対応しています。過年度訂正の要否や開示時期について、社内だけでは判断が難しいと感じられた場合は、当事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

重要論点実務上のポイント
3つのレイヤー会計上の修正再表示、金商法上の訂正報告書、JPX上の適時開示を分けて検討する
誤謬と見積り変更期末時点で利用可能だった情報を使わなかった場合は、見積り変更ではなく誤謬となる可能性がある
不正との区分意図性、隠蔽、経営者関与、内部統制無効化を確認する
訂正報告書比較情報の修正だけでは、過去に提出済みの開示書類の訂正を代替できない
訂正範囲財務諸表本表だけでなく、注記、記述情報、短信、内部統制報告書まで確認する
重要性判断金額的重要性と質的重要性を分けて検討する
適時開示影響額確定前でも、投資判断上重要な事実は開示を検討する
監査人協議会計処理案、影響額、根拠資料、反証情報を会社側で整理して協議する
内部統制有報訂正と内部統制報告書訂正は自動連動ではなく、原因分析により判断する
半期・四半期制度改正前後で対象書類が異なるため、年度別に現行制度を確認する
会社法影響重要な誤謬では、計算書類の適法性、配当、分配可能額、取締役責任まで波及する可能性がある
専門家相談事実関係、影響額、訂正範囲、開示方針、内部統制を整理して相談する
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