有利子負債・簿外債務・偶発債務|企業価値から株主価値へ移るときの控除項目

M&Aの価格を判断する場面では、よく見かける誤解があります。「企業価値がこの金額なら、そのまま株式の譲渡価格になるのではないか」というものです。

しかし、企業価値と株主価値は同じものではありません。DCF法やEV/EBITDA倍率などで算定される価値は、通常、事業全体に帰属する価値です。そこから債権者をはじめとする株主以外の請求権者に帰属する価値を控除し、株主に帰属する価値へと引き直す必要があります。

この引き直しの際に問題となるのが、有利子負債、ネットデット、デットライクアイテム、簿外債務、偶発債務です。

借入金さえ控除すれば足りる、というわけではありません。未払税金、未認識の退職給付債務、ファイナンス・リース債務、オフバランスのリース債務、保証債務、訴訟リスク、環境対応費用、資産除去債務、未払残業代、社会保険未加入、設備投資コミットメント、過去のM&Aで未精算の価格調整など、株主価値を減少させ得る項目は多岐にわたります。

本記事では、M&Aバリュエーションにおいて、企業価値から株主価値へ移るときに何を控除すべきかを整理します。主眼を置くのは、財務デューデリジェンス(財務DD)そのものの手続きではありません。そこで見つかった負債・負債類似項目を、取引価格の判断にどう接続するか、という点です。

目次

まず結論|企業価値から株主価値へ移る基本式

はじめに、基本式を押さえておきましょう。

価値の流れ内容
事業価値本業が生み出す将来キャッシュ・フロー等の価値
+非事業資産・余剰資金事業価値に含まれない余剰現金、売却可能資産等
=企業価値株主だけでなく、債権者等も含めた会社全体の価値
−有利子負債借入金、社債、リース債務等
−デットライクアイテム借入金ではないが、株主価値を減少させる負債類似項目
±キャッシュライクアイテム・その他調整余剰現金、売却可能資産、価格調整項目等
=株主価値株主に帰属する価値
±交渉・契約条件DD発見事項、価格調整、補償、エスクロー、支払条件等
=取引価格最終的に合意される価格

財務DDの実務では、事業価値に現預金やキャッシュライクアイテムを加え、有利子負債やデットライクアイテムを控除して株主価値へ接続していきます。デットライクアイテムは一律に決まるものではないため、DDの段階で幅広く抽出したうえで、取引上どう扱うかを検討することが大切になります。

ここで意識しておきたいのは、控除項目を「買主が価格を下げるための材料」と捉えないことです。

有利子負債や簿外債務を整理する作業は、売主に不利な論点を探すためのものではありません。事業価値として評価した金額のうち、株主に帰属しない部分を正しく切り分ける作業だと考えてください。

企業価値は「株主だけの価値」ではない

企業価値とは、事業全体の価値です。

事業には、株主資本だけでなく、借入金、社債、リース、未払債務、退職給付、税務上の支払義務、保証、訴訟リスクなど、さまざまな請求権が関係しています。

企業価値から株主価値を算定するには、有利子負債やその他の非株式請求権を控除します。ここでいう非株式請求権には、退職給付債務の積立不足、資産計上されたオペレーティング・リース、従業員向けストックオプションなども含まれ得ます。株主は、企業価値から債権者や優先的な請求権者に帰属する価値を差し引いた、その残余に対する請求権を持つ存在です。だからこそ、キャッシュ・フローに対する請求権を慎重に分析する必要があります。

こうした構造があるため、企業価値を見た段階で「この金額で株式を売買できる」と判断してしまうのは危険です。

とりわけ株式譲渡では、会社を法人格ごと引き継ぐことになります。借入金だけでなく、過去から蓄積した負債、未払、保証、訴訟、税務リスク、労務リスクも、原則として対象会社に残ります。買主は、そのリスクを含めて株式を取得するわけです。売主の側でも、後から問題化することのないよう、価格の内訳と前提を説明できる状態にしておく必要があります。

有利子負債とは何を指すか

有利子負債とは、一般に、利息を伴う資金調達性の負債をいいます。

代表的には、次のような項目です。

項目価格判断上の確認点
銀行借入金短期・長期、返済予定、期限前弁済、担保、保証
社債償還条件、利率、期限前償還条項
役員借入金・株主借入金実在性、返済条件、利息、劣後性、債務免除可能性
ファイナンス・リース債務会計上の計上状況、契約内容、残存リース料
割賦未払金実質的な資金調達か、営業債務か
未払利息基準日時点まで発生している支払義務
デリバティブ負債金融取引に伴う時価評価損・決済義務
グループ内借入・CMS残高実質的な外部負債と同等か、クロージングで精算されるか

実務でネットデットを設定する際は、貸借対照表上の有利子負債、借入金、社債、ファイナンス・リース債務等に加え、未払利息も分析の対象に含めます。現金及び現金同等物についても、事業運営に必要な最低必要現預金は除いて考える必要があります。

ここで気をつけたいのは、会計科目名だけで判断しないことです。

たとえば「未払金」と表示されていても、設備を分割払いで取得した実質的な金融負債であれば、有利子負債またはデットライクアイテムとして扱う余地があります。逆に「借入金」と表示されていても、売主側でクロージング前に債務免除・資本化・精算される前提であれば、最終的な株式譲渡価格への反映方法は変わってきます。

ネットデットとは何か

ネットデットとは、一般に、有利子負債から現金及び現金同等物を控除した純額をいいます。

ただし、M&Aの価格判断で使うネットデットは、単純な「借入金 − 預金」ではありません。

単純な見方実務上の見方
借入金から預金を差し引く事業に必要な現預金を残したうえで、余剰現金のみを控除対象にする
決算書上の借入金だけを見る借入金以外のデットライクアイテムも確認する
貸借対照表の一時点だけを見る月次推移、季節変動、納税・賞与・借入返済予定も確認する
会計科目だけで判断する実質的な資金調達・支払義務・契約上の制約を確認する

M&Aの買収価格は、事業価値から譲渡日のネットデットを控除し、さらにデットライクアイテムや基準運転資本調整などを加減算して算定されることがあります。財務DDで検出された事項は、価格調整条項、表明保証条項、クロージング前提条件などに反映していくべきものです。

つまり、ネットデットの定義は、基本合意書や株式譲渡契約書の価格調整条項と連動します。

「現預金をどこまで控除するか」「借入金以外に何をデットライクアイテムとするか」「クロージング時点の残高で調整するか」「基準日からクロージングまでの変動をどう扱うか」。これらを曖昧にしたまま進めると、最終価格で大きな認識違いが生じてしまいます。

デットライクアイテムとは何か

デットライクアイテムとは、会計上または契約上の名称こそ借入金ではないものの、実質的には株主価値を減少させる負債類似項目をいいます。

典型例は、次のとおりです。

区分デットライクアイテムの例
労務関係未積立退職給付債務、役員退職慰労金、未払賞与、未払残業代、社会保険未加入
設備・不動産関係資産除去債務、店舗閉鎖費用、環境対策費用、建築基準法違反の是正費用、耐震工事費用、設備投資コミットメント
リース関係ファイナンス・リース債務、解約不能リース債務、オフバランスのリース債務
運転資本関係手形割引、ファクタリング、営業循環外の前受金、CMSによる資金支援
税金関係未払法人税等、税務調査による追徴見込額、申告漏れリスク
偶発債務関係訴訟・クレーム、不利な契約、債務保証損失、製品保証、返品調整、デリバティブ時価
株主・資本関係未払配当、種類株式、累積優先配当、非支配株主持分、新株予約権
M&A関係売主側FA費用、オーナーシップチェンジ違約金、過去M&Aの未精算価格調整、アーンアウト調整
その他事業再構築費用、工事損失引当金、赤字事業の将来損失

実務では、デットライクアイテムとして、労務、設備、運転資本、税金、偶発債務、株主、M&A関係など、幅広い項目を検討対象とします。具体的には、未積立退職給付債務、資産除去債務、土壌汚染対応費用、解約不能リース、未払税金、訴訟・クレーム、債務保証損失、種類株式、非支配株主持分、売主側ディール費用などが挙げられます。

ただし、デットライクアイテムに該当するかどうかは、名称では決まりません。

次の3つを確認する必要があります。

判断軸確認すべきこと
株主価値を減少させるか買収後に会社からキャッシュアウトする可能性があるか
事業価値にすでに織り込まれていないかDCFやEBITDA調整で同じ影響を反映済みではないか
契約上どのように処理するか価格控除、価格調整、補償、エスクロー、前提条件のどれで対応するか

デットライクアイテムの本質は、「借入金に似ているか」ではありません。株主に帰属する価値を減らす経済的請求権かどうか、という点にあります。

簿外債務とは何か

簿外債務とは、貸借対照表に負債として計上されていないものの、実質的には会社が負担する可能性のある債務や損失をいいます。

簿外債務は、大きく分けると次の2種類があります。

種類内容
会計上、本来認識すべきなのに認識されていないもの未払費用、未払税金、未払残業代、未認識退職給付債務、未計上の資産除去債務など
会計上は注記・開示・管理にとどまるが、価格判断上は考慮すべきもの保証債務、訴訟リスク、環境対応リスク、解約不能契約、不利な契約など

会計不正や粉飾決算の領域では、負債・費用の隠蔽や、費用・収益の期間帰属操作が典型的な問題として挙げられます。M&Aの価格判断でも同様で、貸借対照表に出ていないからといって、経済的な負担がないとは限りません。

簿外債務を確認するときは、次のような資料を見ます。

資料確認できる可能性のある論点
借入契約書期限前弁済、財務制限条項、担保、保証、チェンジ・オブ・コントロール条項
リース契約書解約不能期間、残存リース料、違約金、原状回復義務
賃貸借契約書原状回復、敷金控除、退去時負担、更新料
労務資料未払残業代、社会保険未加入、退職金規程、賞与支給慣行
税務申告書・税務調査資料未払税金、追徴リスク、否認リスク
取締役会議事録保証、訴訟、重要契約、資金支援
顧問弁護士とのやり取り訴訟、クレーム、紛争、法令違反
環境・不動産資料土壌汚染、アスベスト、除去義務、建築基準法違反
関係会社取引資料債務保証、資金支援、債権放棄、回収不能貸付

簿外債務は、金額が明確であれば、価格控除の対象になりやすい項目です。一方で、金額や発生可能性が不確実な場合には、偶発債務としてシナリオ別に扱う必要があります。

偶発債務とは何か

偶発債務とは、将来の不確実な事象が発生するか否かによって、会社が負担する可能性のある債務をいいます。

たとえば、次のようなものがあります。

偶発債務の例価格判断上の論点
訴訟・クレーム敗訴可能性、和解金、弁護士費用、風評影響
製品保証・品質保証過去発生率、保証期間、対象ロット、リコール可能性
債務保証主債務者の信用力、保証履行可能性、保証期間
税務調査リスク否認可能性、追徴税額、加算税、延滞税
環境債務土壌汚染、アスベスト、原状回復、行政対応
労務リスク未払残業代、社会保険未加入、退職金請求
不利な契約最低購入義務、解約違約金、赤字受注契約
許認可・法令違反是正費用、営業停止、事業継続リスク

会計上は、将来の特定の費用または損失で、当期以前の事象に起因し、発生可能性が高く、かつ金額を合理的に見積もることができる場合に、引当金を計上します。逆に、発生可能性が低い偶発事象に係る費用または損失は、引当金として計上することはできません。

出典:企業会計基準委員会|企業会計原則注解

ただし、M&Aの価格判断では、会計上引当金に計上されているかどうかだけで判断してはいけません。

会計上は負債計上されていなくても、買主にとって重要なキャッシュアウトリスクであれば、価格、補償、エスクロー、前提条件、スキーム変更に反映する必要があります。

偶発債務については、税務上損金になる場合には、税引後キャッシュ・フローを推計し、負債コストで現在価値に直すという考え方があります。もっとも、生起確率を外部から予測するのは難しいため、発生確率に幅を持たせ、最終評価にレンジを示すなど、慎重な取扱いが求められます。

有利子負債・簿外債務・偶発債務の違い

3つの違いを整理すると、次のようになります。

区分内容金額の明確性価格への反映方法
有利子負債借入金、社債、リース債務等の資金調達性負債高いネットデットとして控除
デットライクアイテム借入金ではないが株主価値を減らす項目中〜高価格控除、価格調整、個別合意
簿外債務貸借対照表に載っていない債務・損失低〜中価格控除、補償、前提条件、DD追加確認
偶発債務将来事象により発生する可能性のある債務低いシナリオ分析、補償、エスクロー、ディール判断

この区分が曖昧なまま価格交渉に入ると、売主と買主の議論はかみ合いません。

売主は「まだ確定していないのだから、価格から引くべきではない」と考えます。買主は「確定していないからこそ、価格または契約で保護すべきだ」と考えます。

どちらか一方の見方で決めるのではなく、次の順番で整理していくことが大切です。

  1. その負担は本当に会社に帰属するか
  2. すでに事業価値や正常収益力に織り込まれているか
  3. 金額を合理的に見積もれるか
  4. 発生可能性をどう評価するか
  5. 価格で反映すべきか、契約で守るべきか
  6. クロージング前に売主側で解消できるか
  7. 重大であれば、スキーム変更や取引中止を検討すべきか

これが、評価額を、交渉可能な価格判断へと変換していくための実務的な流れです。

借入金を控除するときの注意点

借入金は、控除すべき代表的な項目です。

ただし、その処理にも注意点があります。

論点確認すべき事項
基準日評価基準日、直近期末、クロージング日のどの残高を使うか
短期・長期区分1年以内返済予定、長期借入、約定返済予定
期限前弁済クロージング時に返済するのか、買主が引き継ぐのか
担保・保証会社資産、オーナー保証、第三者保証の扱い
財務制限条項M&A実行で期限の利益喪失が発生しないか
関係会社借入外部負債と同じく控除するか、売主側で精算するか
役員借入金実在性、返済意思、債務免除、資本性の有無
未払利息基準日時点までの利息を含めるか
金利条件時価評価が必要なほど市場金利と乖離していないか

とくにオーナー企業では、役員借入金や役員貸付金が残っていることがあります。

役員借入金は、売主側からすれば「オーナーが会社を支えてきた資金」として認識されています。一方、買主から見れば、買収後に返済義務が残るのであれば、株主価値を減らす項目です。

このため役員借入金は、クロージング前に返済するのか、債務免除するのか、売主が引き受けるのか、価格に織り込むのかを、あらかじめ明確にしておく必要があります。

リース債務は会計処理だけで判断しない

リースは、M&Aバリュエーションにおいて非常に重要です。

会計上の表示と経済的な実態が、一致しにくいことがあるからです。

従来、オペレーティング・リースは、貸借対照表に負債として表示されないことがありました。しかし、事業運営上は将来支払う義務があるため、評価上はデットライクアイテムとして考慮することがあります。

企業価値評価では、オペレーティング・リースを調整する場合、リース支払利息やリース債務の増減は事業からのフリー・キャッシュ・フローに含めません。そのうえで、企業価値から有利子負債やリース債務を控除して株主価値を算定する、という整理になります。

現在の日本基準では、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」が公表されており、借手はリース開始日にリース負債と使用権資産を計上する取扱いが定められています。同基準は、2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後に開始する年度からの早期適用も可能とされています。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

M&Aの価格判断では、会計基準上オンバランスされているかどうかだけでなく、次の点を確認します。

確認項目判断内容
解約不能期間実質的に支払を免れない期間があるか
残存リース料買収後に会社が負担する支払総額
事業必要性リース資産が本業に不可欠か
EBITDA調整リース料をEBITDAから除外しているか
二重控除EBITDA調整とリース債務控除が重複していないか
会計基準日本基準、IFRS、新リース基準の適用状況
契約条項所有者変更時の解除・承諾・違約金

リースをデットライクアイテムとする場合には、EBITDAやDCFの前提も整合させなければなりません。

リース料を費用としてEBITDAに含めたまま、さらにリース債務を控除すると、リスクを二重に織り込んでしまう可能性があります。反対に、リース料をEBITDAから調整しているのに、リース債務を控除しなければ、株主価値を過大に見てしまう可能性があります。

退職給付債務は「決算書に出ている金額」だけでは足りないことがある

退職給付債務も、株主価値に影響する重要な論点です。

退職給付会計基準では、退職給付に関する会計処理および開示が定められています。退職給付債務は、退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたものと定義されています。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

M&Aの価格判断では、次の点を確認します。

確認項目判断内容
退職金制度退職一時金、確定給付企業年金、確定拠出年金など
規程の有無就業規則・退職金規程・慣行の有無
対象者従業員、役員、退職者、出向者
積立状況年金資産と退職給付債務の差額
未認識項目数理計算上の差異、過去勤務費用等
役員退職慰労金会計基準の退職給付とは別に検討すべき場合
クロージング後の支払買主が実際に負担する可能性
正常収益力との関係退職給付費用をEBITDA・DCFでどう扱ったか

実務では、未積立退職給付債務やオフバランスの退職給付債務をデットライクアイテムとして扱い、さらにそれに対応する退職給付費用を正常収益力分析で調整することがあります。リース債務をデットライクアイテムとする場合と同様、BS側の控除とPL側の調整を整合させることが大切です。

退職給付債務は、とくに中小企業やオーナー企業で見落とされやすい項目です。

退職金規程が整備されていない場合でも、長年の支給慣行があれば、実質的な負担が生じることがあります。役員退職慰労金についても、形式上は未決議であっても、売主・買主間の価格交渉では重要な論点となることがあります。

未払税金・税務リスクは価格と契約の両方で見る

未払税金も、典型的な控除項目です。

決算書上に未払法人税等が計上されていれば、まずその金額を確認します。しかし、M&Aではそれだけでは足りません。

税務DDでは、過年度申告、税務調査、関係会社取引、オーナー取引、役員報酬、交際費、寄附金、源泉所得税、消費税、印紙税、地方税、組織再編税制などを確認し、追徴リスクがないかを検討します。

税務論点価格判断上の扱い
確定した未払税金原則としてデットライクアイテムとして控除検討
申告漏れ・計上不足追徴見込額を見積もり、価格・補償で対応
税務調査中の論点発生可能性と金額レンジを整理
関係会社取引移転価格、寄附金、受贈益、役員給与等を確認
消費税・源泉税課税区分、納付漏れ、源泉徴収漏れを確認
繰越欠損金価値加算ではなく、利用可能性と制限を慎重に確認
税効果会計上の繰延税金資産・負債と価格判断を混同しない

税務リスクは、金額が合理的に見積もれる場合には、価格控除の対象になります。一方、税務当局の判断や将来の調査に依存する場合には、表明保証、補償、エスクロー、特別補償条項で対応することもあります。

注意したいのは、「税務リスクがあるから単純に全額控除する」という判断も、「まだ税務調査で指摘されていないから無視する」という判断も、どちらも粗い、という点です。

発生可能性、金額、時期、税務上の損金性、売主・買主の負担関係を、それぞれ分けて整理する必要があります。

保証債務は「実際に支払っていない」から無視できるわけではない

保証債務は、簿外債務・偶発債務の典型例です。

対象会社が他社の借入を保証している場合、現時点で支払義務が発生していなくても、主債務者が返済できなくなれば、保証履行を求められます。

確認すべき事項は、次のとおりです。

確認項目判断内容
保証先関係会社、役員、取引先、第三者
主債務の残高保証対象となる債務残高
保証期間いつまで保証が残るか
主債務者の信用力返済能力、財務状況、延滞状況
担保・求償権保証履行後に回収できる可能性
解除可能性クロージング前に保証解除できるか
契約上の扱い価格控除、補償、クロージング条件、除外項目

保証債務は、主債務者が健全であれば、実際に損失が発生する可能性は低いかもしれません。しかし、買主が引き継ぐ以上、潜在的な請求権として無視することはできません。

この場合、全額を単純に控除するのか、発生確率を考慮して評価するのか、保証解除をクロージング条件にするのか、売主補償で対応するのかを検討します。

訴訟・クレームは金額だけでなく事業への影響を見る

訴訟やクレームは、金額の見積もりが難しい偶発債務です。

法務DDでは、契約関係、人事、資産、許認可、子会社・関係会社、紛争・訴訟、環境などが調査対象となります。係争事件や環境問題などの偶発債務・簿外債務が法務DDで確認された場合には、財務DDで財務的な影響を検討する必要があります。

訴訟・クレームについては、次の点を確認します。

確認項目判断内容
請求額相手方が請求している金額
敗訴可能性弁護士見解、過去事例、証拠関係
和解可能性現実的な解決金額
弁護士費用今後発生する専門家費用
事業影響主要顧客との関係、許認可、評判、継続取引
反復性単発か、同種クレームが拡大する可能性があるか
契約対応補償、エスクロー、特別表明保証、前提条件

訴訟リスクを価格に反映する際には、請求額だけを見てはいけません。請求額が過大に設定されることもありますし、反対に、請求額は小さくても、事業の継続や評判に大きな影響を与えることもあるからです。

価格で反映しにくい場合には、特別補償、エスクロー、クロージング前解決、特定訴訟の除外、取引条件の変更などを検討します。

環境債務・資産除去債務は不動産・設備保有会社で重要になる

工場、店舗、倉庫、不動産、医療・介護施設、製造設備などを保有する会社では、環境債務や資産除去債務が重要になります。

資産除去債務会計基準において、資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものをいいます。資産除去債務は発生時に負債計上し、合理的に見積もれない場合には、合理的に見積もれるようになった時点で負債計上する、という取扱いが定められています。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準

M&Aの価格判断では、次の点を確認します。

項目確認すべき内容
土壌汚染調査履歴、行政指導、浄化義務、売却時対応
アスベスト建物調査、除去費用、改修・解体時負担
原状回復賃貸借契約上の退去時義務
店舗閉鎖撤退予定店舗、違約金、除却費用
設備除去特殊設備、廃棄費用、法令対応
法令違反是正建築基準法、消防法、環境法令等
将来支出発生時期、金額、割引現在価値

環境債務や資産除去債務は、金額が大きくなることがあります。しかも、買収後にはじめて顕在化すると、価格の問題だけでなく、PMI、事業継続、設備投資計画、金融機関対応にも影響が及びます。

したがって、単に「貸借対照表に資産除去債務が計上されているか」を見るだけでは足りません。契約、法令、現地調査、過去の修繕、設備の老朽化、閉鎖予定まで含めて確認する必要があります。

未払費用・未払債務は正常収益力にも影響する

未払費用や未払債務は、株主価値だけでなく、正常収益力にも影響します。

たとえば、未払残業代、未払賞与、未払社会保険料、未払修繕費がある場合、単に株主価値から控除するだけでは足りないことがあります。過去の利益が、過大に見えている可能性があるからです。

項目株主価値への影響正常収益力への影響
未払残業代過年度分の支払義務として控除対象適正人件費を反映する必要
未払賞与基準日時点の負債として控除対象継続的賞与水準を利益に反映
未払社会保険料追徴・未払として控除対象将来人件費の増加要因
未払修繕費債務として控除対象維持更新費不足による将来費用
未払設備投資設備債務として控除対象将来設備投資計画との整合確認

ここで大切なのは、BS調整とPL調整を分けて整理することです。

過年度分の未払債務は、株主価値から控除する論点です。一方、将来も継続して発生する適正コストは、正常収益力やDCFの将来キャッシュ・フローに反映する必要があります。

同じ論点をBS側とPL側で二重に反映しないよう、どの期間の、どの負担を、どこに織り込んだのかを明確にしておかなければなりません。

手形割引・ファクタリング・前受金は運転資本とネットデットの境界に注意する

手形割引、ファクタリング、ベンダーファイナンス、営業循環外の前受金は、ネットデットと運転資本の境界で問題になります。

たとえば、売掛債権をファクタリングで早期に資金化している場合、それが通常の営業循環の一部なのか、実質的な借入なのかを確認します。

項目確認すべき内容
手形割引遡及義務の有無、実質借入か売却か
ファクタリング買戻義務、保証、継続利用の有無
ベンダーファイナンス仕入債務の支払猶予か、金融取引か
前受金通常営業循環内か、将来履行義務か、返金リスクがあるか
CMSグループ内資金支援がクロージング後も必要か
長期滞留債務実在性、支払免除、取引先との関係

これらを誤ると、ネットデット、運転資本、正常収益力のいずれもが歪んでしまいます。

たとえば、ファクタリングによって売掛金が圧縮され、現預金が増えている場合、その現金を余剰現金として加算してしまうと、実態を誤って捉えることになります。将来も同じファクタリングを続ける必要があるのなら、運転資本や資金繰りの前提もあわせて確認すべきです。

非支配株主持分・種類株式・新株予約権も控除項目になり得る

企業価値から普通株式の株主価値へ移るとき、借入金以外の資本性・準資本性の請求権も確認が必要です。

項目価格判断上の論点
非支配株主持分子会社価値のうち少数株主に帰属する部分を控除する必要
優先株式優先配当、残余財産分配、取得請求権
累積優先配当未払・未累積の優先配当が株主価値を圧迫する可能性
新株予約権潜在株式による希薄化
ストックオプション行使条件、希薄化、買収時の処理
転換社債負債価値と転換オプション価値の分解

これらは、単純に「負債」として扱うべき場合もあれば、株主価値の配分問題として扱うべき場合もあります。

とくに、種類株式、新株予約権、転換証券がある会社では、普通株式の価値を求めるために、会社全体の価値を各権利者へどのように配分するかを検討する必要があります。普通株式だけを前提にした単純な評価では、当事者ごとの経済価値を説明できないことがあるからです。

控除項目を判断する5つの軸

有利子負債、簿外債務、偶発債務を価格に反映する際には、次の5つの軸で整理すると、判断しやすくなります。

1. 実在性

まず、その債務やリスクが本当に存在するかを確認します。

契約書、請求書、金融機関残高証明、返済予定表、税務申告書、弁護士確認、議事録、規程、賃貸借契約、保証契約など、裏づけとなる根拠資料が必要です。

2. 帰属性

次に、その負担が誰に帰属するかを確認します。

対象会社が負担するのか、売主が負担するのか、関係会社が負担するのか、クロージング前に精算されるのか。これらを切り分けます。

3. 金額の見積可能性

金額が確定している場合は、価格控除に向きます。

金額が不確実な場合は、レンジ、発生確率、補償上限、エスクロー金額、特別補償の対象範囲を検討します。

4. 事業価値との重複

同じ影響が、すでに事業価値に織り込まれていないかを確認します。

将来キャッシュ・フローで費用として織り込んだものを、さらに株主価値から控除すれば、二重控除になります。逆に、事業価値に織り込んでいない確定債務を控除しなければ、株主価値を過大評価してしまいます。

5. 契約での対応可能性

価格で処理するか、契約で守るかを判断します。

状況主な対応
金額が確定している価格控除、ネットデット調整
金額は見積可能だが確定していない価格調整、特別補償、エスクロー
発生可能性が低いが重大表明保証、補償、開示、前提条件
発生可能性・金額とも不明追加DD、専門家調査、スキーム変更
事業継続に重大な影響取引中止、対象除外、カーブアウト

この5軸を使うと、「控除すべきかどうか」を感覚ではなく、説明可能な判断に変えていくことができます。

DCF法での注意点|二重控除を避ける

DCF法では、将来フリー・キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて事業価値を算定します。

このとき、負債・偶発債務の影響を、どこに織り込んだのかが重要になります。

状況取扱い
将来FCFに支出を織り込んでいる原則として同じ支出を別途控除しない
将来FCFに織り込んでいない確定債務がある株主価値算定時に控除を検討
一過性の過年度負担である正常収益力ではなくデットライクアイテムとして整理しやすい
将来継続的に発生するコストであるEBITDA・FCFの正常化に反映すべき
発生可能性が不確実で金額も幅があるシナリオ別、確率加重、補償・エスクローで対応

たとえば、過年度の未払残業代は、デットライクアイテムとして控除対象になり得ます。一方、今後も適正な労働時間管理を行うことで人件費が毎期増えていくのであれば、その増加分は将来FCFに反映する必要があります。

同じ労務リスクであっても、「過去分の債務」と「将来の正常コスト」は分けて扱う、ということです。

マルチプル法での注意点|EBITDA調整とデットライク控除を整合させる

EV/EBITDA倍率を使う場合は、EBITDA調整とデットライク控除の整合性が重要になります。

たとえば、次のような論点があります。

論点EBITDA側デットライク側
退職給付継続費用を正常化する未積立債務を控除する
リースリース料をどう扱うか調整するリース債務を控除する
未払残業代将来人件費を正常化する過年度未払分を控除する
修繕不足維持修繕費を正常化する過年度未実施分の必要支出を控除する場合あり
税務リスク将来税率・税負担を調整する追徴見込額を控除・補償対象にする

実務では、ネットデットおよびデットライクアイテムが、DCF、乗数法、純資産、スキーム、契約書、会計、ポストディールにどう影響するかを整理します。デットライクアイテムは、単に一覧化するだけでなく、価値評価や契約条項にどう反映されるかまで検討する必要があります。

EBITDA倍率による評価では、分母であるEBITDAがどのように調整されているかを確認しなければ、分子である株主価値への控除項目も正しく判断できません。

時価純資産法での注意点|帳簿にない負債をどう織り込むか

時価純資産法では、資産・負債を時価または実態に引き直して、株主価値を考えます。

そのため、有利子負債・簿外債務・偶発債務の確認が、とりわけ重要になります。

項目時価純資産法での扱い
借入金返済予定額・時価・未払利息を確認
未払税金確定債務・追徴見込額を反映
退職給付未積立債務、役員退職慰労金を確認
リースリース債務、使用権資産、解約不能支払を確認
保証債務発生可能性と回収可能性を評価
資産除去債務除去義務と将来支出を評価
訴訟・環境発生可能性と金額レンジを整理
税効果含み損益や負債調整に伴う税効果を慎重に検討

時価純資産法は、貸借対照表を起点にするため、簿外債務を見落とすと、評価額が大きく歪んでしまいます。

とくに、資産超過会社、不動産保有会社、設備保有会社、退職金制度がある会社、労務管理に不安がある会社では、純資産だけを見て価格を判断するのは危険です。

価格で調整するか、契約で守るか

すべてのリスクを、価格から控除できるわけではありません。

価格に反映しやすいものと、契約で対応すべきものがあります。

論点の性質価格での対応契約での対応
金額が確定している借入金ネットデット控除クロージング返済条項
未払税金・未払費用価格控除表明保証・補償
発生可能性が高い訴訟価格控除またはエスクロー特別補償
発生可能性が不明な偶発債務価格に反映しにくい表明保証、補償、開示
解除可能な保証債務価格に入れず解除前提クロージング前提条件
重大な環境リスク価格控除だけでは不十分専門調査、補償、除外、取引中止
法令違反・許認可問題価格だけでは解決不可スキーム変更、前提条件、取引中止

表明保証は、DDで十分に開示されなかった事項に対して、保険のような機能を果たします。たとえば、簿外債務がない前提で株式を取得した後に簿外債務が発見された場合、売主が「簿外債務は存在しない」と表明保証していれば、買主は損失補償を求めることができる場合があります。ただし、その実効性は売主の補償能力に左右されるため、段階的な支払や案件の不実行を検討すべき場面もあります。

価格で下げればよいのか、契約で守ればよいのかは、リスクの性質によって異なります。

価格控除は、金額が見積もれる場合に有効です。契約対応は、発生可能性や金額が不確実な場合に有効です。重大なリスクについては、価格と契約の両方で対応してもなお不十分なことがあり、その場合にはスキーム変更や取引中止も検討の対象になります。

売主と買主で見方が分かれやすい論点

控除項目は、売主と買主で見方が分かれやすい領域です。

論点売主の見方買主の見方
借入金事業運営のための通常負債企業価値から控除すべき債権者価値
役員借入金オーナーが会社を支えた資金買収後に返済義務が残るなら控除対象
未払税金通常の決算処理の範囲クロージング時点の実質債務
退職給付将来発生するもの既に勤務提供により発生した経済的負担
リース通常の事業費用解約不能なら負債類似項目
保証債務実際には履行していない潜在的なキャッシュアウトリスク
訴訟まだ確定していない発生可能性と影響額を価格・契約で管理
環境債務顕在化していない買収後に発生すれば重大な負担
未払残業代指摘されていない労務リスクとして過年度・将来両面で検討

このズレを埋めるには、価格交渉に入る前に、定義を明確にしておく必要があります。

  • 何を有利子負債に含めるか
  • 何をデットライクアイテムに含めるか
  • 現預金のうち、最低必要現預金をいくらとするか
  • どの時点の残高で調整するか
  • 未払税金や追徴リスクをどう扱うか
  • 簿外債務が発見された場合の補償範囲
  • 偶発債務の開示・補償・エスクローの範囲
  • 売主の補償能力と補償上限
  • クロージング前に解消すべき事項

これらを曖昧にしたまま「企業価値はいくらか」だけを議論しても、最終的な取引価格は説明できません。

控除項目を整理する実務手順

実務上は、次の順番で整理していくと、判断がぶれにくくなります。

1. 評価手法を確認する

DCF、EV/EBITDA倍率、時価純資産法、エクイティDCF、PER、PBRなど、どの評価手法を使っているかを確認します。

事業価値を出してから株主価値へ移る手法なのか、最初から株主価値を求める手法なのかによって、控除項目の扱いは異なります。

2. 企業価値に何が含まれているか確認する

事業価値に、どの収益・費用・資産・負債が織り込まれているかを確認します。

とくに、リース料、退職給付費用、保証損失、環境対応費用、税務リスク、訴訟費用が、将来キャッシュ・フローに含まれているかを確認します。

3. 有利子負債を確定する

金融機関借入、社債、リース債務、役員借入、未払利息、グループ内借入、CMS残高を確認します。

4. キャッシュライクアイテムを整理する

余剰現金、売却可能有価証券、売却可能不動産、還付法人税、保険積立金などを確認します。

5. デットライクアイテムを抽出する

労務、税務、リース、退職給付、保証、環境、設備、訴訟、株主関係、M&A関係の項目を確認します。

6. 二重計上・二重控除を確認する

同じ論点を、EBITDA調整、DCF、時価純資産、ネットデット、価格調整で重複して扱っていないかを確認します。

7. 価格・契約・スキームへ落とし込む

最後に、次のどれで対応するかを決めます。

対応方法適した場面
価格控除金額が確定または合理的に見積もれる
ネットデット調整クロージング時点残高で機械的に調整できる
運転資本調整正常運転資本との差額で調整する
特別補償特定リスクを売主に負担させる
エスクロー補償の実効性を確保したい
クロージング前提条件リスク解消を取引実行条件にする
スキーム変更株式譲渡ではリスクを引き継ぎすぎる
取引中止価格や契約では許容できない重大リスク

控除項目の整理は、価格計算で終わるものではありません。契約条件やスキーム選択まで接続して、はじめて実務で使える判断になります。

説明可能な価格判断にするために必要な資料

有利子負債・簿外債務・偶発債務を整理するには、少なくとも次の資料を確認しておきたいところです。

資料主な確認事項
借入金一覧・返済予定表有利子負債、返済予定、担保、保証
金融機関契約書財務制限条項、期限前弁済、COC条項
リース契約一覧残存リース料、解約不能期間、違約金
月次試算表基準日以降の負債変動
税務申告書・税務調査資料未払税金、追徴リスク、欠損金
退職金規程・年金資料退職給付債務、未積立額、役員退職慰労金
労務資料未払残業代、社会保険、賞与、労使紛争
主要契約書保証、違約金、最低購入義務、COC条項
訴訟・クレーム資料請求額、弁護士見解、発生可能性
不動産・環境資料資産除去債務、原状回復、土壌汚染
議事録・稟議書保証、資金支援、重要意思決定
関係会社取引資料役員貸借、債務保証、資金支援
過去M&A契約未精算価格調整、アーンアウト、補償義務

資料が不足している場合には、評価額を断定するのではなく、未確認事項を明示したうえで、価格レンジ、条件、追加確認事項を整理しておく必要があります。

有利子負債・簿外債務・偶発債務は「価格を下げる論点」ではなく「判断を誤らないための論点」

有利子負債、簿外債務、偶発債務は、買主にとってはリスク管理の論点です。同時に、売主にとっても、後から価格を下げられたり、補償請求を受けたりしないための、重要な論点でもあります。

売主側では、事前に整理しておくことで、価格交渉での不意打ちを減らせます。買主側では、事業価値として払ってよい金額と、株主価値から控除すべき金額とを分けて判断できます。

ここで大切にしたいのは、次の姿勢です。

  • 借入金だけを見て株主価値を判断しない
  • 貸借対照表に出ていない負担を無視しない
  • 未確定のリスクを過度に断定しない
  • 会計上の負債計上と、M&Aの価格判断を混同しない
  • DCF、マルチプル、純資産、契約条項をつなげて考える
  • 売主・買主のどちらかに都合よく数字を寄せない
  • 後から説明できる形で、前提と判断理由を残しておく

企業価値評価は、価格を当てる作業ではありません。

企業価値から株主価値へ移る過程で、誰に帰属する価値なのか、誰が負担すべき債務なのか、どのリスクを価格と契約でどう扱うのかを整理していく作業です。

有利子負債・簿外債務・偶発債務を整理したい場合

M&A・事業承継・資本政策・組織再編の場面で、企業価値から株主価値へ移る控除項目を正しく整理するには、財務、税務、会計、法務、契約条件を横断して確認する必要があります。

とくに、次のような場合には、早い段階で論点を整理しておくことが大切です。

  • 仲介会社等から提示された価格が、借入金以外の負債を反映しているか分からない
  • 企業価値と株式譲渡価格の違いを、うまく説明できない
  • 役員借入金、役員貸付金、関係会社債権債務が残っている
  • リース、退職給付、未払税金、保証債務の扱いに迷っている
  • 訴訟、クレーム、環境債務、労務リスクがある
  • DCFやEV/EBITDA倍率の評価額と、純資産・ネットデットの調整がつながっていない
  • 売主・買主・金融機関・株主・後継者に、価格の根拠を説明する必要がある

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A・承継・資本政策・組織再編における企業価値評価と取引価格判断について、事業価値、非事業資産、有利子負債、デットライクアイテム、簿外債務、偶発債務、税務影響、価格調整、説明可能性を踏まえた論点整理を支援しています。

企業価値から株主価値へ移る控除項目を、自社の資料と取引条件に照らして整理したい場合は、お問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

論点重要ポイント
企業価値と株主価値企業価値は株主だけの価値ではなく、債権者等の請求権を控除して株主価値へ移る
有利子負債借入金、社債、リース債務、未払利息、役員借入金等を確認する
ネットデット単純な「借入金−預金」ではなく、最低必要現預金やキャッシュライク項目も考慮する
デットライクアイテム借入金ではないが株主価値を減らす負債類似項目
簿外債務貸借対照表に載っていなくても、実質的な支払義務や損失リスクがあれば価格判断に影響する
偶発債務発生可能性・金額・時期が不確実なため、価格、補償、エスクロー、前提条件で対応する
リース債務会計処理だけでなく、解約不能期間、残存支払、EBITDA調整との整合を確認する
退職給付債務未積立額、規程、慣行、役員退職慰労金、正常収益力との関係を確認する
未払税金確定債務だけでなく、追徴リスクや税務調査リスクも検討する
保証債務実際に支払っていなくても、保証履行可能性があれば偶発債務として検討する
訴訟・環境債務金額だけでなく、事業継続・許認可・評判への影響も見る
DCFとの関係将来FCFに織り込んだ支出を、別途控除して二重計上しない
マルチプルとの関係EBITDA調整とデットライク控除を整合させる
契約との接続価格控除、価格調整、表明保証、補償、エスクロー、前提条件を使い分ける
実務上の本質控除項目の整理は価格を下げる作業ではなく、株主に帰属する価値を説明可能にする作業
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