業績予想の修正や配当予想の修正は、IR部門だけが担う開示実務ではありません。
実務の現場では、減損、税効果、引当金、棚卸資産評価、収益認識、金融商品評価、退職給付、企業結合、組織再編、継続企業の前提といった会計上の見積りが、業績見通しや配当方針に反映されていきます。その反映が、そのまま適時開示の判断に直結していきます。
特に上場企業では、「決算値が確定してから考える」「監査人との協議が終わってから考える」「取締役会で承認されてから考える」という順番では、間に合わないことがあります。会計見積りに変更の可能性が見えた時点で、それが業績予想、配当予想、決算短信、有価証券報告書、監査対応、インサイダー情報管理へどう波及していくのかを、同時並行で整理しておく必要があるのです。
本稿では、業績予想修正・配当予想修正を、単なる開示基準のチェック作業としてではなく、「会計上の見積りを、どの時点で、どの程度の合理性をもって、外部に説明できる数字へ変換するか」という上場企業実務の判断問題として整理していきます。
業績予想修正は「会計見積りの外部化」である
業績予想は、財務諸表そのものではありません。将来の売上高、利益、事業環境、費用構造、税負担、投資回収、資金繰りなどに関する、経営者の見通しです。
ただ、その基礎には会計上の見積りがあります。
たとえば、将来キャッシュ・フローを見直せば、減損の認識・測定に影響します。そして同じ事業計画は、業績予想にも反映されていきます。将来課税所得を見直せば、繰延税金資産の回収可能性に影響し、その見直しは当期純利益、配当可能性、監査上の主要な検討事項にまで波及します。返品率、リベート、ポイント失効率、貸倒率、工事原価、退職給付債務、為替レート、金融商品の時価評価についても、事情は同じです。
つまり業績予想修正とは、会計見積りの変化を投資者向けに外部化する局面にほかなりません。
会計見積りを財務諸表へ反映する前に、業績予想として市場に伝えるべき段階が訪れることもあります。逆に、業績予想を修正するほどの事業環境変化が起きているのであれば、会計上の見積りも同時に再検討されるべきでしょう。
この相互関係を切り離してしまうと、次のような不整合が生じます。
- 業績予想では大幅な利益悪化を説明しているのに、減損や繰延税金資産の見積りでは、従来の楽観的な事業計画をそのまま使っている。
- 配当予想では増配を維持しているのに、分配可能額、資金繰り、財務制限条項、税効果、継続企業の前提の検討が不足している。
- 事業撤退や固定資産売却による損失を業績予想に織り込んだものの、個別の決定事実・発生事実としての適時開示の要否を検討していない。
- 会計見積りの変更として処理しているが、前期時点で入手可能だった情報を使用していなかった可能性があり、誤謬訂正との区分が曖昧なままになっている。
業績予想修正を考える際には、まず「どの会計見積りが、どの前提の変化によって、どの財務指標に影響しているのか」を分解するところから始める必要があります。
適時開示制度上、業績予想・配当予想の修正は独立した開示項目である
JPXは、適時開示が求められる会社情報を、上場会社の決定事実、発生事実、決算情報、業績予想・配当予想の修正等、その他の情報に区分しています。業績予想の修正、予想値と決算値の差異等、および配当予想・配当予想の修正は、決算短信とは別に明示された適時開示項目です。
出典:日本取引所グループ|適時開示が求められる会社情報
また、適時開示が求められる会社情報とは、有価証券の投資判断に重要な影響を与える上場会社の業務、運営または業績等に関する情報を指します。軽微基準に該当するかどうかが明らかでない場合にも、適時開示を行う必要があるとされています。
出典:日本取引所グループ|制度概要 適時開示制度の概要等
ここで押さえておきたいのは、業績予想修正・配当予想修正は「決算短信の添付資料で触れれば足りる」という発想だけでは整理しきれない、ということです。決算短信と同日開示になることはありますが、判断の出発点は決算短信の作成時期ではありません。会社が新たな予想値または差異を把握した時点こそが、その起点となります。
業績予想修正の開示基準を、機械的な%判定で終わらせない
JPXの上場会社向けナビゲーションシステムでは、上場会社は、企業集団の売上高、営業利益、経常利益または純利益について、公表済みの直近予想値、予想値がない場合は前連結会計年度の実績値と比較して、新たに算出した予想値または決算値に差異が生じ、一定の基準に該当する場合には、直ちにその内容を開示することが義務付けられています。
代表的な基準としては、連結売上高は1.1以上または0.9以下、連結営業利益・連結経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益は1.3以上または0.7以下となる場合が示されています。なお、連結財務諸表非作成会社やIFRS適用会社では読み替えがあり、連結財務諸表作成会社の個別業績予想修正については、別途の考え方が示されています。
出典:日本取引所グループ|業績予想の修正、予想値と決算値との差異等
ただし、実務判断においては、次の点に注意が必要です。
第一に、基準値はあくまで「最低限の開示義務判定」であるという点です。投資者にとって重要な変化を説明しなくてよい、という意味ではありません。たとえば営業利益の変動率は基準内に収まっていても、主力事業の収益構造が変化した、資金繰りや財務制限条項に影響する、上場維持基準や配当方針に波及する、といった場合には、別の適時開示項目や包括条項の検討が必要になります。
第二に、業績予想修正は「差異が出たら開示する」だけの話ではないという点です。「新たに算出した予想値」がいつ成立したのかが、重要な意味を持ちます。月次・四半期の定期的な業績管理のなかで新たな予想値を算出した場合や、事業環境の急変により大幅な変動を認識して予想値を算出した場合には、その時点で直近予想値または前期実績値と比較し、開示の要否を判断する必要があります。
第三に、レンジ開示、赤字予想、ゼロ近傍の利益、IFRS任意適用、決算期変更、個別業績予想などは、単純な増減率だけでは判断しにくい領域です。レンジ開示の場合も、上限・下限との比較により開示要否を判断する考え方が示されており、レンジ内に収まる場合であっても適時開示が必要となる場合があるとされています。
出典:日本取引所グループ|業績予想の修正、予想値と決算値との差異等
業績予想修正の実務では、まず数値基準で開示義務を確認します。そのうえで、投資判断上の質的重要性、他の適時開示項目、包括条項、インサイダー情報管理、後続の決算開示との整合性を、重ねて検討していくことになります。
「業績予想を開示していない会社」でも、修正開示の問題は残る
近年は、業績予想をレンジで開示する会社、定性的な見通しにとどめる会社、特定の業績予想を開示しない会社も見られます。
しかし、業績予想を開示していないことは、業績予想修正に関する適時開示義務が常に発生しないことを意味するわけではありません。
JPXは、上場会社が決算発表に際して「次期の業績予想」を開示しない場合であっても、社内に「次期の業績予想」に相当する情報を有しており、その内容が前期実績値と乖離し、重要性の判断基準に該当する場合には、直ちに開示する必要があると説明しています。
出典:日本取引所グループ|決算短信等
この点は、会計見積りとの関係でも重要です。
社内では、減損、税効果、資金繰り、事業撤退、引当金の検討のために詳細な事業計画を作成しているにもかかわらず、外部に対しては「業績予想非開示」としている。そうしたケースがあります。しかし、そのような会社であっても、社内で合理的に作成された見通しが、投資判断上重要な水準で前期実績値や過去の開示と乖離しているのであれば、適時開示の検討から逃れることはできません。
「対外的な業績予想を出していない」ことと、「社内に投資判断上重要な将来見通しが存在しない」こととは、まったく別の話なのです。
「合理的見込み」とは、監査済みの確定値ではない
業績予想修正で難しいのは、どの時点で「合理的な見込み」があるといえるのか、という点です。
会計上の見積りについて、ASBJの企業会計基準第24号は、資産・負債や収益・費用等の額に不確実性がある場合に、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出することを「会計上の見積り」と定義しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
また、企業会計基準第31号は、会計上の見積りが財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものであるとしつつ、見積り方法や基礎情報の入手可能性は様々であり、財務諸表に計上した金額だけでは翌年度の財務諸表に影響を及ぼす可能性を利用者が理解することは困難であるとして、重要な見積りの開示を求めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準
業績予想修正における「合理的見込み」も、これと同じ発想で考えるべきものです。監査済みの確定値である必要はありません。その一方で、単なる期待値、経営者の感覚、達成目標、社内スローガンでは足りません。
実務上は、少なくとも次のような資料で説明できる状態が求められます。
- 受注残、販売計画、単価、数量、解約率、稼働率、店舗別・事業別実績
- 原価見積り、固定費、変動費、追加コスト、構造改革費用
- 為替、金利、資源価格、株価、不動産価格、外部市場データ
- 減損検討用の事業計画、将来キャッシュ・フロー、割引率、回収可能価額
- 繰延税金資産の回収可能性検討に用いる課税所得見積り、スケジューリング、タックスプランニング
- 貸倒、返品、ポイント、リベート、工事損失、訴訟、製品保証等の引当金計算資料
- M&A、組織再編、固定資産譲渡、子会社売却、事業撤退に関する意思決定資料
- 資金繰り表、財務制限条項、借入契約、金融機関協議状況
合理的見込みとは、将来を正確に当てることではありません。期中のその時点で利用可能な情報を用い、重要な前提と不確実性を明示したうえで、外部説明に耐える予想値を算出している状態を指します。
業績予想修正の理由は、抽象論では足りない
業績予想修正の開示資料においては、数値だけでなく、修正理由の書き方が重要になります。
JPXは、修正理由について、経済動向等の抽象的要因にとどまらず、直近予想値の算出前提となった定量的要因の変動、経営施策の進捗状況、期中の経営成績などを踏まえ、直近予想値と新たな予想値または決算数値との差異について具体的に説明することが望ましいとしています。あわせて、売上高・営業利益・経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益等の指標ごとに主な修正要因の内訳がわかる記載や、セグメント・事業分野別の動向の記載が考えられるとされています。
出典:日本取引所グループ|業績予想の修正、予想値と決算値との差異等
会計実務の観点からは、修正理由を次のように分解していきます。
- 売上要因……数量、単価、契約獲得、解約、検収、進捗度、本人代理人、返品、顧客インセンティブ
- 原価要因……材料費、人件費、外注費、物流費、エネルギー価格、工事原価、棚卸資産評価損
- 販売費・一般管理費要因……広告費、システム費、人件費、店舗閉鎖費用、研究開発費
- 営業外要因……為替差損益、持分法損益、金融商品評価、支払利息
- 特別損益要因……減損損失、固定資産売却損益、投資有価証券評価損、子会社整理損、事業構造改善費用
- 税金費用要因……繰延税金資産の取崩し、税率差異、税制改正、グループ通算、評価性引当額
- 非支配株主持分・親会社株主帰属利益要因……子会社損益、持分変動、少数株主持分
この分解が弱いと、開示資料は「市況悪化により売上高・利益が前回予想を下回る見込みです」という一般論に陥ってしまいます。それでは、投資者にも監査人にも、どの前提がどの数値に効いているのかが伝わりません。
開示担当者が作る文章と、経理財務が作る会計見積り資料は、別々に作るものではありません。業績予想修正の理由は、減損、税効果、引当金、収益認識などの見積り資料と整合している必要があります。
会計上の見積り変更か、誤謬かを先に整理する
業績予想修正は、会計見積りの変更を伴うことがあります。
ASBJの企業会計基準第24号では、「会計上の見積りの変更」とは、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することとされています。一方の「誤謬」は、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと、または誤用したことによる誤りをいうとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
この区分は、業績予想修正の説明にも直結します。
たとえば、前回予想の時点では把握できなかった大口顧客の解約、災害、為替急変、法規制変更、競合環境の急変が生じたのであれば、基本的には新たに入手可能となった情報に基づく見積り変更として整理されます。
一方で、前回予想時点で既に主要顧客の解約可能性を示す客観的情報があった、工事原価の超過が現場資料で把握されていた、棚卸資産の滞留が明らかだった、減損兆候を示す管理会計情報を見落としていた——こうした場合には、単なる見積り変更ではなく、過去の予想・会計処理・開示の適切性そのものが問われます。
業績予想修正を出す際には、次の点を検討しておくべきでしょう。
- 前回予想時点で入手可能だった情報は何か
- 今回の修正要因は、その後新たに発生・判明したものか
- 前回予想時点で当然に考慮すべき情報を、見落としていなかったか
- 過去の決算短信、有価証券報告書、見積り注記、KAM、投資家説明資料と矛盾しないか
- 過年度訂正、内部統制、適時開示遅延に波及しないか
業績予想修正は、将来見通しの更新であると同時に、前回予想時点の判断過程が問われる場面でもあるのです。
減損・税効果・引当金は、業績予想修正と同じ事業計画を使う
業績予想修正と会計見積りの不整合が最も起きやすいのは、業績悪化局面です。
- 赤字事業について業績予想を下方修正する一方で、減損検討では従来の回復シナリオを用いている。
- 業績予想では翌期以降も厳しい見通しを説明しているのに、繰延税金資産の回収可能性では十分な将来課税所得を見込んでいる。
- 資金繰りが悪化しているのに、貸倒引当金や債務保証損失引当金、継続企業の前提の検討が後回しになっている。
このような不整合は、監査上も開示上も、説明が困難です。
もちろん、目的に応じた調整はあり得ます。業績予想は経営者の合理的な見通しであり、減損の将来キャッシュ・フローは会計基準に従う見積りです。繰延税金資産の回収可能性に用いる課税所得は、税務上の加減算やスケジューリングを反映します。ですから、同じ数値を単純にコピーする必要はありません。
しかし、基礎となる事業計画、売上前提、原価前提、市場前提、撤退・売却・再編方針が別々であってよいわけではありません。
実務上は、次のように整理していきます。
- 業績予想のベースとなる経営計画
- 減損検討に用いる将来キャッシュ・フロー
- 税効果の回収可能性に用いる課税所得見積り
- 資金繰り表・財務制限条項判定
- 配当予想・分配可能額・資本政策
- 有価証券報告書の経営者分析、事業等のリスク、重要な会計上の見積り
これらを横並びで比較し、差異がある場合には、その差異理由を説明できるようにしておきます。
「業績予想は保守的、減損は楽観的、税効果はさらに楽観的」という状態は、後から説明のしようがありません。
配当予想修正には軽微基準がない
配当予想の修正は、業績予想修正以上に注意を要します。
JPXは、上場会社が剰余金の配当について予想値を算出した場合、公表済みの直近予想値と比較して新たに算出した予想値に差異が生じた場合を含め、その内容を開示することが義務付けられるとしています。また、配当予想・配当予想修正には軽微基準がなく、期中に当期予想値を修正した場合や、期初に予想値を算出していなかった会社がその後に予想値を算出した場合にも、適時開示が必要です。
さらに、基準日が異なる配当は別個の配当として扱われます。中間配当と期末配当の配分を変更する場合や、1株当たり配当金額が変わらなくても基準日を変更する場合にも、注意が必要です。現物配当についても適時開示が必要とされています。
出典:日本取引所グループ|配当予想、配当予想の修正
ここで実務上重要になるのは、配当予想は「利益見通し」だけでは決められない、ということです。
配当予想には、少なくとも次の判断が含まれます。
- 当期利益、親会社株主に帰属する当期純利益、個別利益剰余金
- 分配可能額、自己株式、資本剰余金・利益剰余金の区分
- 減損、税効果、引当金、評価損、組織再編による個別財務諸表への影響
- 資金繰り、借入契約、財務制限条項、格付、金融機関協議
- 中期経営計画、株主還元方針、自己株式取得、資本政策
- 継続企業の前提、債務超過、資本欠損、上場維持基準
- 会社法上の分配可能額規制
会社法第461条は、剰余金の配当等により株主へ交付する金銭等の帳簿価額の総額が、当該行為の効力発生日における分配可能額を超えてはならないと定めています。
出典:e-Gov法令検索|会社法
したがって配当予想修正では、連結利益だけでなく、個別財務諸表上の分配可能額、資金繰り、会社法計算、取締役会の善管注意義務、株主説明までを含めて整理する必要があります。
配当予想と「剰余金の配当」の決定事実を分ける
配当予想の修正と、実際の剰余金の配当の決定は、似ているようでいて、同じものではありません。
JPXは、上場会社の業務執行を決定する機関が剰余金の配当額について決定した場合、剰余金の配当を行わないこと、すなわち無配を決定した場合を含め、「剰余金の配当」に該当し、適時開示が必要となると説明しています。
出典:日本取引所グループ|配当予想、配当予想の修正
そのため実務上は、次の二段階で管理します。
第一段階は、配当予想の算出・修正です。期初予想、期中修正、未定から有配・無配への変更、基準日変更、中間・期末配当の配分変更などが対象になります。
第二段階は、剰余金の配当の決定です。取締役会、株主総会、会社法459条に基づく定款授権等により、実際の配当額や無配を決定する場面がこれにあたります。
特に注意しておきたいのは、有配予想を出していた会社が、決算短信開示日に無配を決定するケースです。この場合には、配当予想修正だけでなく、剰余金の配当を行わないことを決定した事実を、明確に伝える必要があります。
配当は、投資者にとって株主還元政策そのものです。会計上の利益が出ているかどうかだけでなく、「なぜその配当水準なのか」「なぜ修正するのか」「一時的要因なのか、それとも資本政策の変更なのか」を説明できなければなりません。
監査人協議中でも、開示判断を止めない
業績予想修正の原因が会計見積りにある場合、監査人との協議は同時進行になります。
- 減損損失を計上するかどうか
- 繰延税金資産を取り崩すかどうか
- 貸倒引当金や工事損失引当金を追加計上するかどうか
- のれんやPPAで識別した無形資産の減損をどう測定するか
- 訴訟損失やリコール費用をどの範囲で見積もるか
いずれも監査上の重要論点です。しかし、監査人との協議が終わるまで適時開示の判断を保留できるとは限りません。
業績予想修正は、監査済み数値を公表する制度ではないからです。会社が合理的に算出した予想値を、直近予想値または前期実績値と比較し、開示基準や投資判断上の重要性を踏まえて判断するものです。
したがって、監査人協議中であっても、次のように整理していきます。
- 会計処理の方向性はおおむね固まっているか
- 金額レンジは算出できているか
- 業績予想への影響が開示基準に該当する可能性は高いか
- 未確定要素は何か
- 未確定要素を開示資料でどのように留保するか
- 後日、金額確定時に追加開示または訂正開示が必要となるか
監査人との協議は、開示を遅らせる理由ではありません。開示に記載すべき不確実性を特定していく作業でもあるのです。
開示後の訂正リスクも、見積り段階で考える
業績予想修正・配当予想修正においては、開示後の訂正も実務上のリスクとなります。
JPXは、業績予想修正等の内容を開示した後に訂正すべき事情が生じた場合、開示日から数日を経過した後であっても、内容の軽重を問わず速やかに訂正が必要としています。あわせて、XBRLファイルの訂正要否を確認することも求められています。
出典:日本取引所グループ|業績予想の修正、予想値と決算値との差異等
配当予想についても、開示後に訂正すべき事情が生じた場合には、正誤表の作成、表題の付し方、XBRLファイルとPDFファイル双方の訂正などが示されています。
出典:日本取引所グループ|配当予想、配当予想の修正
会計見積りが絡む業績予想修正では、訂正リスクをゼロにすることはできません。重要なのは、見積りの前提、算出方法、未確定事項、社内承認、監査人協議状況を記録し、後から振り返ったときに「その時点で合理的だった」と説明できるようにしておくことです。
訂正が問題になるのは、結果的に外れたからだけではありません。開示時点で利用可能だった情報を使っていなかった、都合の悪い前提を除外していた、内部資料と外部開示が矛盾していた——そうした場合にこそ、問題になります。
業績予想修正・配当予想修正を検討する実務フロー
実務では、次の順序で整理していくと、判断漏れを減らすことができます。
1. 予想値の変動要因を会計論点ごとに分解する
まず、売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益、1株当たり利益、配当予想のどこに影響が出ているかを確認します。
そのうえで、影響要因を収益認識、原価、棚卸資産、固定資産、減損、税効果、金融商品、外貨、引当金、退職給付、企業結合、組織再編、継続企業などに分けていきます。
2. 新たに算出した予想値がいつ成立したかを特定する
月次決算、四半期見込み、経営会議資料、事業計画修正、減損判定資料、資金繰り表、税効果検討資料などのうち、どの段階で会社として合理的な予想値を算出したのかを確認します。
「まだ社外公表用に整えていない」ということは、予想値が存在しないことを意味しません。
3. 適時開示基準に照らす
直近予想値がある場合には、それと比較します。予想値がない場合には、前連結会計年度または前事業年度の実績値との比較が問題になります。
売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益の基準に加えて、単体業績、IFRS、レンジ開示、赤字予想、ゼロ近傍の利益、決算期変更などの特殊事情を確認します。
4. 配当予想への影響を別枠で確認する
配当予想には軽微基準がありません。1株当たり配当金額、基準日、中間・期末の配分、未定からの変更、有配から無配への変更、現物配当の有無を確認します。
同時に、分配可能額、個別利益剰余金、資金繰り、財務制限条項、自己株式取得、株主還元方針との整合性も確認します。
5. 開示理由を、見積り資料と同じ言葉で説明する
開示資料の修正理由は、会計見積り資料と整合させます。
減損資料では「A事業の主要顧客解約と販売単価下落により将来キャッシュ・フローを見直した」と書いているのに、業績予想修正では「経済環境の変化」としか書かないのでは、説明の粒度が合いません。
投資者向けには簡潔さが求められますが、抽象化しすぎると実態が見えなくなってしまいます。
6. 監査人・監査役等・経営者との共有事項を整理する
業績予想修正では、経理財務、開示、IR、経営企画、法務、監査人、監査役等、取締役会が、同じ前提を共有していなければなりません。
共有すべき事項は、修正要因、影響額、未確定事項、会計処理案、監査上の論点、配当方針、資金繰り、後続開示です。
7. 後続開示を管理する
業績予想修正・配当予想修正を出して終わり、ではありません。
決算短信、有価証券報告書、半期報告書、重要な会計上の見積り、事業等のリスク、経営者分析、KAM、内部統制報告書、訂正報告、適時開示の経過開示へ波及する可能性を管理していきます。
実務で特に判断が難しい場面
減損損失の金額が確定していない場合
減損損失の認識可能性は高いものの、回収可能価額や税効果が未確定、という場面があります。この場合、「金額が確定していないから開示しない」と考えるのではなく、損失計上の方向性、概算レンジ、業績予想への影響、未確定事項を分けて検討します。
繰延税金資産の回収可能性を見直す場合
税効果は、営業利益の悪化以上に、親会社株主に帰属する当期純利益へ大きく影響することがあります。将来課税所得の見直しが業績予想に反映されているか、税率差異や評価性引当額の変動を説明できるかを確認します。
事業計画を下方修正したが、配当予想を維持する場合
配当予想を維持すること自体が、直ちに誤りとは限りません。ただし、個別分配可能額、資金繰り、借入契約、財務制限条項、今後の投資計画、株主還元方針との整合性を説明できる必要があります。
業績予想を撤回する場合
JPXは、業績予想を開示している会社が、事情変更に基づき一時的に予想を撤回する場合や、開示方針を変更して業績予想を開示しないこととする場合には、その旨の開示が必要であり、事情変更の具体的内容などを記載する必要があるとしています。
出典:日本取引所グループ|業績予想の修正、予想値と決算値との差異等
予想を撤回する場合、「不確実性が高い」というだけでは足りません。どの不確実性が、どの業績項目の予想を困難にしているのかを説明する必要があります。
業績予想修正と決算発表が同日になる場合
決算発表日当日まで決算集計結果が判明しなかった場合であっても、JPXは、業績予想との乖離要因について十分な情報開示を行うことが望ましいとしています。決算短信とは別に差異に係る開示資料を作成するか、決算短信の定性的情報で十分に説明する、という対応が示されています。
出典:日本取引所グループ|業績予想の修正、予想値と決算値との差異等
同日開示の場合であっても、理由分析の水準を落としてよいわけではありません。
「見せたい予想」ではなく「後から説明できる予想」を作る
業績予想修正・配当予想修正の場面では、経営者のメッセージ性が強くなりがちです。
- 下方修正を避けたい。
- 配当を維持したい。
- 一時的要因として説明したい。
- 中期経営計画との整合性を保ちたい。
- 資本市場への印象を悪化させたくない。
いずれも、経営上は自然な意識です。しかし財務報告実務では、見せたい数字を作るのではなく、後から説明できる数字を整えることが求められます。
そのためには、次のような姿勢が必要になります。
- 業績予想と会計見積りで、同じ事業実態を見ているか
- 楽観シナリオ、標準シナリオ、保守シナリオを区分しているか
- 経営者の目標値と、外部開示すべき合理的予想値を混同していないか
- 配当予想を維持する場合、分配可能額と資金繰りで説明できるか
- 監査人に提出する見積り資料と、投資者向け説明が矛盾していないか
- 後日、予想と実績が乖離した場合に、当時の判断過程を説明できるか
業績予想修正は、将来を当てる作業ではありません。会社がその時点で知り得た情報を、どれだけ誠実に、合理的に、投資者へ伝えたか。問われているのは、そこです。
相談すべき局面
次のような場面では、早い段階で外部専門家を交えて整理しておく価値があります。
- 減損、税効果、引当金、収益認識、金融商品評価など、複数の見積りが同時に業績予想へ影響している。
- 事業計画の下方修正が、業績予想、減損、DTA回収可能性、配当予想、継続企業の前提へと連鎖している。
- 配当予想を維持または修正するにあたり、分配可能額、資金繰り、財務制限条項、会社法計算の整理が必要である。
- 監査人との協議中で、開示時期をどう判断すべきか迷っている。
- 業績予想を撤回する、レンジ開示に変更する、あるいは業績予想非開示方針へ変更する。
- 前回予想時点での情報利用の適切性に疑義があり、見積り変更か誤謬かの判断が必要である。
- 決算短信、有価証券報告書、KAM、内部統制、訂正報告への波及が懸念される。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、上場企業・IPO準備企業・大規模グループにおける業績予想修正、配当予想修正、減損、税効果、引当金、組織再編、固定資産譲渡、会計方針変更、誤謬訂正等について、会計処理、適時開示、監査人協議、経営者説明、取締役会・監査役等への説明資料まで、一体で論点整理を支援しています。業績予想や配当予想の修正が必要かどうか、会計見積りとの整合性をどのように説明すべきか、判断に迷われる場合は、お問い合わせページよりご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 業績予想修正の本質 | 将来見通しの更新であると同時に、会計見積りの変化を外部説明する局面である。 |
| 開示基準 | 直近予想値または予想値がない場合の前期実績値と、新たな予想値・決算値との差異を確認する。 |
| 主要な数値基準 | 連結売上高は1.1以上または0.9以下、利益項目は1.3以上または0.7以下が代表的な基準となる。 |
| 業績予想非開示会社 | 業績予想を開示していなくても、社内に相当情報があり重要な乖離がある場合は開示検討が必要となる。 |
| 合理的見込み | 監査済み確定値ではなく、利用可能な情報に基づき説明可能な予想値を算出している状態をいう。 |
| 修正理由 | 抽象的な市況説明ではなく、定量的要因、施策進捗、セグメント別動向、会計見積りとの関係を説明する。 |
| 減損との関係 | 業績予想で使う事業計画と、減損検討で使う将来CFの前提を整合させる。 |
| 税効果との関係 | 業績予想の下方修正は、DTA回収可能性、将来課税所得、税金費用に波及する。 |
| 引当金との関係 | 貸倒、工事損失、訴訟、製品保証等の見積り変更は、業績予想修正要因となり得る。 |
| 見積り変更と誤謬 | 新情報に基づく変更か、過去に利用可能だった情報の未使用・誤用かを整理する。 |
| 配当予想修正 | 軽微基準がなく、予想値を修正した場合は直ちに開示を検討する。 |
| 配当の基準日 | 基準日が異なる配当は別個の配当として扱われ、金額不変でも基準日変更には注意する。 |
| 分配可能額 | 配当予想は連結利益だけでなく、個別財務諸表、会社法計算、分配可能額を確認する。 |
| 剰余金配当の決定 | 配当予想修正と、実際の剰余金配当または無配決定の適時開示を分けて管理する。 |
| 監査人協議 | 協議中であっても、合理的な見込みと未確定事項を整理し、開示時期を主体的に判断する。 |
| 訂正リスク | 開示後に訂正すべき事情が生じた場合、PDF・XBRL双方の訂正要否を確認する。 |
| 後続開示 | 決算短信、有価証券報告書、重要な会計上の見積り、KAM、内部統制への波及を管理する。 |
| 判断姿勢 | 見せたい数字ではなく、後から説明できる数字として業績予想・配当予想を整える。 |