決算短信・適時開示・TDnet対応|監査判断と市場開示をどう接続するか

決算短信や適時開示は、監査人にとって「会社が取引所に出す資料」という周辺論点ではありません。

財務諸表監査の対象は、金融商品取引法上の財務諸表等や会社法上の計算書類等であり、決算短信そのものに監査意見を表明するわけではありません。しかし、決算短信・四半期決算短信・業績予想修正・適時開示は、監査対象となる財務情報、監査上識別した重要なリスク、内部統制の不備、会計上の見積り、訂正対応、有価証券報告書の記述情報と密接に接続します。

上場会社の適時開示は、投資判断上重要な会社情報を迅速、正確かつ公平に開示することにより、市場の公正な価格形成と投資者保護を支える制度です。東京証券取引所は、適時開示を上場会社が主体的な役割を果たすものと位置づけ、投資者の視点に立った迅速・正確・公平な開示を求めています。
出典:日本取引所グループ|会社情報適時開示ガイドブック

監査人がこの領域で持つべき視点は、単に「短信は監査対象外だから関係が薄い」というものではありません。むしろ、監査対象外であるからこそ、どこまで関与し、どこまで整合性を確認し、どの段階で会社・監査役等・審査担当者に注意喚起すべきかを整理しておく必要があります。

目次

決算短信・適時開示・TDnetは、それぞれ役割が異なる

まず、決算短信、適時開示、TDnetを同じものとして扱わないことが重要です。

決算短信は、取引所規則に基づき、決算内容を迅速に市場へ伝えるための決算情報です。通期の決算短信、第2四半期、現在の制度では中間期の決算短信、第1・第3四半期決算短信があり、投資者が会社の業績、財政状態、配当、将来予測情報を把握するための速報的な情報として機能します。

適時開示は、決算情報に限られません。決定事実、発生事実、決算情報、業績予想・配当予想の修正、その他投資判断に重要な情報を、適時に市場へ開示する制度です。適時開示の実務では、決算情報、決定事実、発生事実という大きな構成を意識しながら、開示時期、インサイダー取引規制、情報管理、開示漏れ防止を一体で検討していく必要があります。

TDnetは、適時開示情報を提出・伝達・公表するためのインフラです。東証は、TDnetを、東証への開示資料提出、事前説明、適時開示情報閲覧サービスへの掲載、報道機関への配信、ファイリングなど、適時開示に係る一連のプロセスを電子化するシステムと説明しています。また、上場会社が会社情報の適時開示を行う場合には、TDnetの利用が上場規程上義務付けられています。
出典:日本取引所グループ|TDnetの概要

つまり、決算短信は「開示される情報」、適時開示は「開示制度」、TDnetは「開示の伝達・公表インフラ」です。監査実務では、この三者を切り分けたうえで、財務諸表監査、内部統制評価、開示統制、インサイダー情報管理と接続して考える必要があります。

決算短信は法定開示の代替ではなく、速報として機能する

決算短信は、有価証券報告書や半期報告書の代替ではありません。

東証の決算短信作成要領では、決算短信及び第2四半期、現在の制度では中間期決算短信について、監査やレビューの終了は開示の要件ではなく、これらは有価証券報告書や半期報告書などの法定開示に先立って決算内容を迅速に開示する速報としての役割を持つとされています。決算短信等の客観性は、後続する法定開示において監査等により確定した決算内容が開示されることで担保される、という整理です。
出典:日本取引所グループ|決算短信・四半期決算短信 作成要領等

ここには、監査人にとって重要な緊張関係があります。

決算短信は速報性を重視します。一方で、速報性を理由に、財務情報の正確性、見積りの合理性、開示の整合性、内部統制上の検討を軽視することはできません。東証も、決算短信等の早期化を要請する一方で、開示される決算又は四半期決算の内容の正確性を欠くことがないよう留意を求めています。

したがって、監査人が意識すべき判断軸は、「監査が終わっていないから短信には関与しない」でも、「短信を監査済みのように扱う」でもありません。

必要なのは、決算短信の数値・注記・定性的説明が、現時点で入手可能な監査証拠、会社の決算プロセス、未解決論点、監査修正の見込み、有価証券報告書で予定される開示と重大に矛盾していないかを、リスクに応じて確認することです。

四半期開示見直し後の制度整理

現在の決算短信実務を理解するには、四半期開示制度の見直しを踏まえる必要があります。

令和5年金融商品取引法等改正により、金融商品取引法上の四半期報告書制度の廃止に伴う規定整備が行われ、上場会社等が提出する半期報告書に関する規定が整備されました。金融庁は、四半期報告書制度の廃止に伴い、関係政令・内閣府令等の規定を整備するものと説明しています。
出典:金融庁|令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について

また、関係政令・内閣府令等は2024年3月27日に公布され、2024年4月1日から施行・適用されています。
出典:金融庁|令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について

この見直しにより、実務上は次のような整理になります。

通期決算は、決算短信で速報され、その後、有価証券報告書等の法定開示と監査報告書に接続します。第2四半期、中間期は、半期報告書の法定提出期限が中間期末後45日以内であることを踏まえ、決算短信の開示時期も法定開示との関係を意識して設計されます。

第1・第3四半期については、有価証券報告書や半期報告書のような法定開示に対する速報ではありませんが、取引所規則に基づく四半期決算短信として、市場への情報提供機能を担います。

東証は、第1・第3四半期決算短信について、半期報告書の法定提出期限に準じ、各四半期終了後45日以内に開示することを原則としています。また、45日を超える見込み又は超えた場合には、理由及び開示時期に係る具体的な見込み又は計画の開示等が求められます。
出典:日本取引所グループ|決算短信・四半期決算短信 作成要領等

監査人は、制度変更後の第1・第3四半期決算短信を、旧四半期報告書の単純な代替として扱うべきではありません。法定開示ではない一方で、市場に対する重要な財務情報であり、会計不正、内部統制不備、提出遅延、レビュー義務付けなどの論点と接続する領域として理解する必要があります。

第1・第3四半期決算短信と期中レビューの関係

第1・第3四半期決算短信に添付される四半期財務諸表等について、公認会計士等による期中レビューは原則として任意です。

ただし、財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合には、期中レビューが義務付けられます。東証の作成要領では、次のような一定の要件に該当した場合に、期中レビューが義務付けられるとされています。

  • 直近の有価証券報告書、半期報告書又はレビューを受ける四半期決算短信において、無限定適正意見・無限定の結論以外が付された場合
  • 内部統制監査報告書において、無限定適正意見以外が付された場合
  • 内部統制報告書に開示すべき重要な不備がある場合
  • 有価証券報告書又は半期報告書が当初提出期限内に提出されない場合

出典:日本取引所グループ|決算短信・四半期決算短信 作成要領等

また、東証は、レビュー義務付け要件に該当し、四半期決算短信、第2四半期決算短信を除く四半期決算短信の四半期財務諸表等に対して公認会計士等による期中レビューが義務付けられている上場会社の一覧を公表しています。
出典:日本取引所グループ|期中レビューの義務付け要件該当会社一覧

この点は、監査人のリスク評価に直結します。

期中レビューが義務付けられる会社は、そもそも財務報告の信頼性に関するリスクが顕在化している、又はその懸念がある会社です。したがって、単に「レビュー報告書を添付するかどうか」という形式論ではなく、なぜレビュー義務付けに至ったのか、その原因が財務諸表監査、内部統制監査、決算・開示プロセス、監査役等とのコミュニケーションにどう影響するのかを整理する必要があります。

特に、開示すべき重要な不備、監査意見・レビュー結論の変形、法定開示の提出遅延は、監査計画や審査対応においても重要論点になります。

決算短信の早期開示と監査未了リスク

決算短信には速報性が求められますが、監査が完了していない段階で開示される場合には、監査人として慎重に見るべき論点があります。

東証は、決算短信及び中間期決算短信について、法定開示に対する速報としての役割を踏まえ、監査やレビューの終了を待たずに早期開示することを要請しています。

しかし、監査未了の段階では、次のような未確定要素が残ることがあります。

  • 会計上の見積りについて、監査証拠が十分に積み上がっていない
  • 監査修正の要否が未確定である
  • 後発事象の評価が収束していない
  • 税効果、減損、引当金、金融商品評価、継続企業の前提などの判断が審査未了である
  • 注記又は定性的情報と財務諸表の整合性が確認しきれていない
  • 内部統制不備の評価が未確定である

このような場合、監査人は、決算短信の開示を止める権限を当然に持つわけではありません。一方で、監査上把握している事実から見て、決算短信の数値や説明に重要な誤りが含まれる可能性が高い場合には、会社に対して適切に注意喚起し、監査役等とのコミュニケーションや監査法人内の審査・相談につなげる必要があります。

ここで重要なのは、監査対象外だから何もしない、という姿勢ではなく、監査人として把握している重要な事実と市場開示との不整合を放置しないことです。

適時開示が求められる情報の範囲

適時開示が求められる会社情報は、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営又は業績等に関する情報です。東証は、決定事実、発生事実、決算情報、業績予想・配当予想の修正等、その他の情報、子会社等の情報を掲げています。
出典:日本取引所グループ|適時開示が求められる会社情報

監査実務との関係では、次のような開示事由が特に重要です。

  • 決算短信、第2四半期・中間期決算短信、第1・第3四半期決算短信
  • 業績予想の修正、予想値と決算値の差異、配当予想の修正
  • 有価証券報告書・半期報告書の提出期限延長申請又は提出遅延
  • 公認会計士等の異動
  • 継続企業の前提に関する事項の注記
  • 開示すべき重要な不備、評価結果不表明の旨を記載する内部統制報告書の提出
  • 監査報告書における不適正意見、意見不表明、一定の限定付適正意見
  • 内部統制監査報告書における不適正意見、意見不表明
  • 債権の取立不能、訴訟、行政処分、財務制限条項への抵触、災害・損害、不正・虚偽記載に関連する情報

これらは、監査人が監査手続を通じて把握する可能性のある事項です。したがって、監査人は、監査調書上の論点整理だけでなく、それが適時開示上の会社情報に該当する可能性があるかを意識する必要があります。

もちろん、適時開示の実施主体は会社です。しかし、監査人が重要な事実を把握していながら、会社の開示判断や監査役等への報告と接続できていなければ、監査品質上も説明が難しくなります。

開示要否判断は「個別項目」だけで終わらない

適時開示の要否判断では、個別開示項目への該当性、軽微基準、バスケット条項、任意開示、開示時期、法定開示書類提出の要否などを順に検討する必要があります。東証の実務要領も、開示要否の検討、スケジュール確認、開示資料作成、TDnet登録という流れを示しています。
出典:日本取引所グループ|適時開示に関する実務要領

監査人が注意すべきなのは、会社が「個別項目に該当しない」「軽微基準に該当する」と判断した場合でも、それだけで開示不要とは限らないという点です。

投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある情報であれば、包括条項や任意開示の観点から検討が必要になります。特に、会計上の見積り、不正調査、過年度訂正、内部統制不備、監査意見への影響、継続企業の前提、資金繰り、重要な取引先喪失、財務制限条項抵触などは、形式的な金額基準だけでは判断できないことがあります。

適時開示の実務では、開示漏れを防ぐために、決算・財務・経営企画・法務・IR・子会社管理・監査役等の間で重要情報を集約し、開示要否を検討する仕組みが欠かせません。適時開示の開示基準、注意を要する事実、開示漏れの防止策、包括条項への対応は、実務上の中核論点です。

業績予想修正は、会計上の見積りと監査判断に接続する

決算短信・適時開示の中で、監査人が特に注意すべきものが業績予想修正です。

業績予想は、経営者の将来見通しであり、監査意見の対象そのものではありません。しかし、業績予想の前提は、減損、繰延税金資産の回収可能性、引当金、棚卸資産評価、継続企業の前提、セグメント情報、KAM候補など、監査上の重要論点と強く結びつきます。

東証は、将来予測情報について、投資者に有用な投資判断情報であると位置づけ、上場会社に対して積極的な開示を要請しています。一方で、不合理な前提や不適切な算定方法に基づく将来予測情報の開示については法的責任が追及された事例も存在するとし、背景、リスク要因、前提条件、見直しの検討等に関する適切な対応を求めています。
出典:日本取引所グループ|決算短信・四半期決算短信 作成要領等

監査人は、業績予想そのものを保証する立場にはありません。しかし、会社が用いる業績見通しが、監査上利用する事業計画や見積り前提と大きく異なる場合には、その理由を確認する必要があります。

例えば、決算短信では翌期の業績回復を前提にしている一方で、減損テストや税効果会計ではより保守的なシナリオを用いている場合、その差異は合理的に説明できるでしょうか。

逆に、減損や繰延税金資産の評価では楽観的な計画を用いているにもかかわらず、投資者向けの業績予想では慎重な見通しを出している場合、経営者バイアスや見積りの整合性に疑義が生じます。

会計上の見積りは、将来事象に依存するため金額を正確に測定できない場合に、経営者が仮定を置いて金額を見積もる領域であり、経営者バイアスと見積りの不確実性を伴います。したがって、業績予想修正はIR上の論点にとどまらず、監査上の見積り監査と接続して検討する必要があります。

TDnet対応は単なる登録作業ではない

TDnet対応を、開示担当者の登録作業としてだけ捉えると、重要なリスクを見落とします。

TDnetは、適時開示情報を一元的に集め、リアルタイムで配信する仕組みです。JPXは、TDnetが全国の上場会社等の適時開示情報を一元的に集め、XBRL形式の決算短信情報や財務情報を取得できるサービスであると説明しています。
出典:日本取引所グループ|適時開示情報(TDnet)

さらに、決算短信等のTDnet登録では、PDFファイルに加え、XBRLファイルやHTMLファイルの提出に係る取扱いが定められています。東証は、PDF、XBRL、HTMLの内容に齟齬が生じないよう、一方の修正内容を必ず他方にも反映することを求めています。
出典:日本取引所グループ|決算短信・四半期決算短信 作成要領等

ここに、開示統制上の重要なポイントがあります。

  • 決算短信本文のPDFは修正したが、XBRLやHTMLが旧数値のまま残る
  • サマリー情報と添付資料の数値が一致しない
  • 業績予想修正の理由が、決算短信の定性的説明と整合しない
  • TDnet登録後に、IRサイト掲載版だけを差し替える
  • 開示直前に監査修正が入り、関連する全ファイルへの反映漏れが発生する

これらは単なる事務ミスではなく、決算・開示プロセスの統制不備を示す可能性があります。

監査人は、会社がどのように開示基礎資料を作成し、決算短信、XBRL、HTML、IR資料、有価証券報告書へ展開しているかを理解する必要があります。決算早期化の実務においても、開示基礎資料は有価証券報告書・決算短信等の最終成果物から逆算し、最終成果物と一対一で対応するように作成しておくことが重要です。

開示時刻・集中日・立会時間中開示も実務リスクになる

TDnet対応では、開示時刻も単なる運用事項ではありません。

東証は、多くの上場会社による決算発表・四半期決算発表が集中する時期、毎月末、毎週末、決算期末・四半期末後45日目をできる限り避けて、あらかじめ決算発表スケジュールを設定するよう要請しています。また、集中日の15時30分には開示が集中するため、TDnetシステムの安定運用への影響リスクがあるとして、開示時刻の再検討を求める場合があるとしています。
出典:日本取引所グループ|決算短信・四半期決算短信 作成要領等

また、東証は、立会時間中であるか否かにかかわらず、重要な会社情報の迅速な開示を要請しています。例えば午前中の取締役会等で決算又は四半期決算の内容が定まった場合には、立会時間中であるか否かを問わず、直ちに開示を行うことを検討するよう求めています。

監査人にとって重要なのは、開示時刻の問題を「会社のIR上の都合」として片付けないことです。

  • 決算内容がいつ「定まった」のか
  • 取締役会決議、代表者確認、監査役等への報告、監査未了論点の残り方はどうなっているのか
  • 市場開示前に、報道機関やアナリスト向け資料が先に渡っていないか
  • TDnet開示と記者会見、IRサイト掲載、説明資料公表の順序が統制されているか
  • インサイダー情報管理上、開示前情報のアクセス権限が制限されているか

これらは、開示統制、情報管理、監査役等とのコミュニケーションに関わる実務判断です。

不明確な情報・報道・噂への対応

適時開示では、会社が自ら決定・発生した事実だけでなく、報道や噂への対応も問題になります。

東証は、有価証券又はその発行者等に関する情報について報道又は噂が流布されている場合、上場会社に対して真偽等を照会し、必要に応じて回答内容の開示を求めることがあるとしています。この場合、上場会社は直ちに開示を行う義務を負います。また、「当社が公表したものではありません」といった内容だけでは、真偽等が明らかにならず、投資判断に資するものとはならないため、可能な限り事実関係に踏み込んだ開示が求められるとされています。
出典:日本取引所グループ|制度概要 適時開示制度の概要等

監査実務では、不正調査、決算訂正、監査意見の変形可能性、継続企業の前提、資金繰り、M&A、訴訟、行政処分などについて、開示前に情報が外部に漏れるリスクがあります。

この局面で監査人が確認すべきなのは、会社のコメント文言そのものだけではありません。

  • 事実関係がどこまで確認されているか
  • 監査上未確認の事項を断定していないか
  • 財務諸表への影響額を合理的に見積もれる段階か
  • 内部統制不備、不正リスク、訂正報告書、監査報告への影響をどう整理しているか
  • 監査役等、弁護士、取引所、監査法人内審査との連携ができているか

不明確な情報への対応は、広報対応ではなく、監査証拠、事実認定、開示責任、インサイダー情報管理が交差する領域です。

適時開示とインサイダー取引規制

適時開示は、インサイダー取引規制とも密接に関係します。

TDnetを通じて会社情報が開示されると、TDnet開示時刻と同時に適時開示情報閲覧サービスにも掲載され、公衆の縦覧に供されます。東証は、同サービスへの掲載時点で、法令上の重要事実等に係る公表措置が完了することとなると説明しています。

この点は、監査人にとっても無関係ではありません。

監査チームは、決算数値、監査修正、継続企業の前提、内部統制不備、監査意見、KAM候補、不正調査、訂正対応など、市場に未公表の重要情報に触れることがあります。監査法人内の情報管理、外部専門家との共有、監査役等とのコミュニケーション、審査資料の取扱いは、インサイダー情報管理の観点からも慎重に行う必要があります。

会社側でも、TDnet開示前に、IR資料、決算説明会資料、取締役会資料、記者会見資料、アナリスト向け資料がどの範囲に共有されているかを統制しなければなりません。適時開示とインサイダー取引規制、開示前報道、情報管理は、適時開示実務の基本論点です。

決算短信と有価証券報告書の整合性

決算短信は速報であり、有価証券報告書は法定開示です。しかし、両者は別々に作成される独立文書ではありません。

決算短信で開示した数値、業績説明、セグメント情報、配当、業績予想、会計方針の変更、会計上の見積りの変更、修正再表示、継続企業の前提に関する重要事象等は、後続する有価証券報告書の「経理の状況」や記述情報と整合していなければなりません。

有価証券報告書等の開示制度では、金商法上の開示制度、発行開示、継続開示、有価証券報告書、経理の状況、監査証明、内部統制制度、訂正、虚偽記載責任、適時開示が一体として整理されます。

監査人は、決算短信で開示された情報が、後続する有価証券報告書においてどのように確定・補足・修正されるのかを意識する必要があります。

特に、次のような差異は慎重に検討すべきです。

  • 短信開示後に監査修正が入り、有価証券報告書の数値が変わる
  • 短信では簡略に説明した見積り論点が、有価証券報告書注記では重要な不確実性として開示される
  • 短信では継続企業の前提に関する重要事象等を記載したが、有価証券報告書や監査報告書での扱いが変わる
  • 短信で公表した業績予想の前提と、有価証券報告書の事業等のリスク、MD&A、KAMが整合しない
  • 短信で開示した会計方針変更や修正再表示が、有価証券報告書全体の記述に反映されていない

差異が生じること自体が常に問題になるわけではありません。問題は、なぜ差異が生じたのか、どの段階で会社が把握したのか、開示訂正が必要か、内部統制不備に該当するか、監査調書上どのように説明できるかです。

適時開示と内部統制・開示統制

決算短信・適時開示・TDnet対応を支えるのは、開示統制です。

開示統制は、単に開示チェックリストを作成することではありません。重要情報を識別し、適切な部署に伝達し、開示要否を判断し、開示資料を作成・レビューし、承認し、TDnetに登録し、開示後の訂正・経過開示を管理する一連の仕組みです。

2023年4月に改訂された内部統制基準・実施基準では、内部統制とガバナンス、全組織的リスク管理、不正リスク、報告の信頼性との関係がより重視されています。内部統制の目的も、財務報告だけでなく、非財務情報を含む報告の信頼性との関係で理解する必要があります。

決算短信や適時開示の誤りは、会社によっては単なる一過性の開示ミスではなく、決算・財務報告プロセス又は開示統制の不備を示します。

例えば、開示基礎資料が不足している、開示基礎資料と最終成果物が紐づいていない、単体決算・連結決算と開示業務が分断されている、監査資料と開示資料が別々に作成されている、といった状況では、決算発表の遅延や開示誤りが起こりやすくなります。

したがって、監査人は、開示誤りを見つけた場合、その誤りの修正だけでなく、原因となった統制不備を検討する必要があります。

監査人が決算短信・適時開示で確認すべき判断軸

監査人が決算短信や適時開示を確認する際には、次の順序で考えると実務に落とし込みやすくなります。

第一に、情報の性質を確認する

決算情報なのか、決定事実なのか、発生事実なのか、業績予想修正なのか、法定開示に接続する情報なのかを切り分けます。

第二に、開示のタイミングを確認する

決算内容がいつ定まったのか、取締役会又は経営会議の決定時点はいつか、発生事実を会社がいつ認識したのか、東証への事前相談が必要か、TDnet開示時刻は適切かを整理します。

第三に、監査対象情報との関係を確認する

決算短信そのものは監査対象外であっても、そこに含まれる数値や説明が、監査対象となる財務諸表、注記、監査報告書、内部統制報告書、有価証券報告書と整合するかを確認します。

第四に、未解決論点を把握する

監査修正、見積り、後発事象、継続企業の前提、不正調査、内部統制不備、審査未了事項が残っている場合、それが開示内容にどの程度影響するかを確認します。

第五に、説明可能性を確保する

会社、監査役等、審査担当者、投資者に対して、なぜその開示内容で足りるのか、なぜその時点で開示するのか、どの前提・証拠に基づくのかを説明できるようにします。

このように整理すると、決算短信・適時開示・TDnet対応は、単なる開示実務ではなく、監査判断の出口に近い論点であることが分かります。

決算短信・適時開示対応で問題が生じやすい局面

実務上、問題が生じやすいのは、次のような場面です。

  • 期末監査が終わっていない段階で、決算短信の開示予定日が迫っている
  • 会計上の見積りの結論が審査で未確定である
  • 監査修正が決算短信開示直前に発生した
  • 決算短信の定性的説明と監査上のリスク評価が整合していない
  • 業績予想修正の要否について、会社内で判断が割れている
  • 不正又は誤謬が判明したが、影響額が未確定である
  • 有価証券報告書又は半期報告書の提出遅延が見込まれる
  • 第1・第3四半期決算短信について、レビュー義務付け要件に該当する可能性がある
  • TDnet登録ファイル間で数値不整合が生じている
  • 報道又は噂が先行し、会社のコメント対応が必要になっている

これらの局面では、「開示するかしないか」だけでなく、「何を、どの範囲で、どの前提で、どの時点で、誰の承認を経て、どの関係者に説明したうえで開示するか」を整理する必要があります。

監査人にとっては、会社の開示判断を代替するのではなく、監査上把握した事実と会社の開示判断の整合性を確認し、必要な場合には監査役等や審査担当者へのコミュニケーションにつなげることが重要です。

決算短信・適時開示は、監査品質の外側にある論点ではない

決算短信や適時開示は、監査報告書そのものではありません。TDnet登録作業も、監査手続ではありません。

それでも、これらを監査品質の外側にある論点として扱うことはできません。

監査判断は、財務諸表の中だけで完結するものではありません。会社が市場に何を説明し、どのタイミングで開示し、後続する有価証券報告書や監査報告書とどう整合させるかによって、財務報告全体の信頼性は大きく変わります。

決算短信の速報性、適時開示の即時性、TDnetの公表機能、有価証券報告書の法定開示、監査報告書の保証機能、内部統制報告書の経営者評価は、それぞれ役割が異なります。しかし、投資者から見れば、これらはすべて会社を理解するための情報の流れです。

監査人に求められるのは、個々の書類を孤立して見ることではありません。

監査計画、リスク評価、監査証拠、会計上の見積り、内部統制評価、開示統制、KAM、監査報告、適時開示を、一連の財務報告プロセスとして整合的に理解し、後から説明できる判断過程を残すことです。

専門家への相談を検討すべき局面

決算短信・適時開示・TDnet対応は、会計、監査、内部統制、開示規制、取引所規則、IR実務が重なる領域です。

特に、監査未了段階での決算短信開示、業績予想修正、決算発表遅延、四半期決算短信のレビュー要否、内部統制不備、開示すべき重要な不備、過年度訂正、不正発覚、TDnet登録ファイルの不整合、報道・噂へのコメント対応などは、早い段階で論点を分解し、会社・監査役等・監査法人・取引所への説明可能性を整えることが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、財務諸表監査、内部統制、開示、会計上の見積り、KAM、訂正対応を横断して、論点整理と説明可能性を重視した支援を行っています。

決算短信・適時開示・TDnet対応について、監査法人、監査役等、経営者、開示担当者に説明できる形で論点を整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り|決算短信・適時開示・TDnet対応の実務判断

論点実務上の意味監査人が確認すべき視点
決算短信法定開示に先立つ決算情報の速報監査未了でも重大な不整合がないか、後続する有報・半期報告書と整合するか
第1・第3四半期決算短信法定開示ではなく、取引所規則に基づく四半期情報45日以内開示、レビュー要否、四半期財務諸表等の信頼性を確認する
中間期決算短信半期報告書との関係が重要な決算情報半期報告書の法定提出期限、レビュー、開示時期との整合を確認する
適時開示決定事実・発生事実・決算情報・業績予想修正等の市場開示個別項目、軽微基準、包括条項、任意開示を形式だけでなく実質で判断する
TDnet適時開示情報の提出・伝達・公表インフラPDF、XBRL、HTML、IRサイト掲載資料の整合性と登録統制を確認する
業績予想修正将来予測情報として投資判断に影響する開示会計上の見積り、減損、税効果、GC、KAMとの前提整合性を確認する
監査未了での短信開示速報性と正確性の緊張関係が生じる局面未解決論点、監査修正見込み、審査未了事項を会社・監査役等と共有する
期中レビュー第1・第3四半期では原則任意、一定要件で義務付け義務付け要件、レビュー報告書添付、内部統制不備や提出遅延との関係を確認する
不明確な情報・報道対応噂や報道に対して、真偽を明らかにする開示が求められる場合がある事実確認の範囲、監査証拠、開示文言、監査役等・弁護士との連携を整理する
開示統制決算・監査・IR・法務・子会社管理をつなぐ仕組み開示基礎資料、承認手続、情報管理、訂正・経過開示の統制を確認する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次