高齢期の相続対策、相談前に整理すべき情報|本人意思・判断能力・財産・家族関係をどう準備するか

親が高齢になり、そろそろ相続対策をと考え始めるとき、多くの方がまず気にされるのは「相続税はいくらかかるのか」「贈与しておいた方がよいのか」「遺言や家族信託をつくるべきか」といった制度の話です。

ただ、実務の現場で最初に整理すべきなのは、制度の名前ではありません。

整えておきたいのは、もっと手前にある前提のほうです。本人が何を望んでいるのか。いまどの程度、自分の判断で物事を決められるのか。実際に財産を管理しているのは誰なのか。どの財産がどこにあり、将来の生活費・納税資金・遺産分割にどう響いてくるのか。そして、家族のあいだで何が不安や不公平感の種になりそうなのか。

ここが曖昧なまま、贈与・遺言・任意後見・家族信託・不動産売却・生命保険の加入などを進めてしまうと、後になって「本人の意思ではなかった」「一部の家族だけで決めてしまった」「税務上の説明がつかない」「相続のときにかえって揉めた」といった結果を招きかねません。

高齢期の相続対策の相談は、単なる節税の相談ではありません。本人の生活、財産管理、家族関係、将来の相続税申告、納税資金、さらには税務調査での説明可能性まで含めた、総合的な判断です。とりわけ判断能力の低下が疑われる段階では、相談に入る前の情報整理そのものが、対策の成否を大きく左右します。

本稿では、高齢期の相続対策の相談に進む前に、ご家族として何を整理しておくべきかを、実務の観点から具体的に解説します。

なお、制度面では大きな動きがあります。2026年6月19日現在、内閣法制局の第221回国会提出法案一覧では、成年後見・遺言制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律案」が成立と表示されています。同法案の提出理由には、後見・保佐制度の廃止、補助制度の適用範囲の拡大、任意後見契約と補助制度の関係の見直し、電磁的記録等による保管証書遺言の創設などが挙げられています。ただし、実際の相談・契約・申告の判断にあたっては、施行時期や経過措置、関係省令・実務運用を必ず確認する必要があります。
出典:内閣法制局|第221回国会での内閣提出法律案
出典:内閣法制局|民法等の一部を改正する法律案

目次

相談前の整理は「資料をそろえること」だけではない

相談前の整理というと、通帳や固定資産税の通知書を集めることを思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、資料は欠かせません。

ただ、高齢期の相続対策では、資料を集めるより前に、整理しておきたい問いがあります。それは「誰のための対策なのか」という問いです。

目的は、ご家庭によってさまざまです。

  • 相続税を下げるため
  • 子ども同士が揉めないようにするため
  • 配偶者の生活を守るため
  • 介護費や施設費を確保するため
  • 不動産を維持するため
  • 会社や賃貸経営を止めないため
  • 親の意思を形にするため

これらは似ているようでいて、優先順位が異なります。

たとえば、自宅を配偶者に残すことは、生活の保障には役立ちます。しかし二次相続の段階では、税額や納税資金の問題が生じることがあります。子や孫への贈与は相続税対策になる場合もありますが、本人の老後資金を減らし、他の相続人の不公平感を強めてしまうこともあります。賃貸不動産の建築は評価額を下げる効果が見込める一方で、借入金や空室のリスクを次の世代に残すことにもなりかねません。

相続対策は、相続税の軽減だけで考えるものではありません。争族(そうぞく)の防止、納税資金の確保、税額軽減を、一体として見ていく必要があります。相続税を軽くすることは大切ですが、相続争いの防止や納税資金の確保を犠牲にしてまで優先すべきものではない、というのが実務での実感です。

相談前の整理の目的は、専門家から「何かよい制度を教えてもらう」ことではありません。本人とご家族の事情を、制度選択に耐えられる形で言葉にしておくことです。

高齢期の相続対策は、4つの層で整理する

相談前に整理すべき情報は、大きく4つの層に分けて考えると見通しがよくなります。

整理する層主な内容整理しないまま進めた場合のリスク
本人意思・判断能力本人の希望、診断状況、理解力、意思表示の安定性贈与・遺言・信託・売却の有効性が争われる
財産・資金不動産、預貯金、有価証券、保険、債務、会社関係資産税額試算、納税資金、分割方針を誤る
家族関係相続人、介護負担、過去贈与、関係性、紛争可能性遺産分割、遺留分、使途不明金で揉める
既存契約・手続遺言、任意後見、財産管理委任、家族信託、保険契約制度同士の矛盾、金融機関対応、申告漏れが起きる

以下、それぞれを具体的に見ていきます。

1. 本人の意思を整理する

高齢期の相続対策で最も重要なのは、本人の意思です。

ご家族から「父は長男に継がせたいはずだ」「母は自宅を売ってもよいと思っているはずだ」「親は孫に贈与したいと言っていた」とうかがうことはよくあります。ただ実務では、「家族がそう理解している」ことと、「本人が今その意思を明確に持ち、内容を理解している」ことは、分けて考えます。

相談前には、本人の意思を次のように整理しておくと役立ちます。

整理項目確認したい内容
住まい自宅に住み続けたいか、施設入所を希望するか、戻る可能性を残したいか
生活資金医療費、介護費、施設費、生活費をどの財産から出すか
財産管理誰に通帳・印鑑・不動産管理・賃貸管理を任せたいか
贈与誰に、何を、どの程度渡したいか。生活資金を減らしてもよいか
遺言誰に何を承継させたいか。その理由を説明できるか
不動産自宅、賃貸物件、農地、空き家を残すか、売るか、活用するか
会社・事業後継者、株式、役員貸付金、事業用資産をどうするか
家族への配慮介護した人、同居した人、過去に援助した人をどう考えるか
死後の希望葬儀、墓、祭祀承継、死後事務、寄附の希望

ここで気をつけたいのは、本人に「どうしたいですか」と抽象的に尋ねるだけでは足りない、ということです。

たとえば「自宅は長男に渡したい」という希望ひとつをとっても、配偶者が住み続ける必要はないのか、他の子への代償金をどうするのか、固定資産税や修繕費を誰が負担するのか、小規模宅地等の特例や二次相続にどう影響するのか。ここまで確認して初めて、実務判断につながります。

本人の意思は、単なる感情としてではなく、財産・税務・家族関係に結びつけて整理することが大切です。

2. 診断状況と判断能力を整理する

本人の判断能力は、贈与・遺言・任意後見・家族信託・不動産売却・預金管理のいずれにおいても、前提となるものです。

民法は、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為を無効とすると定めています。つまり問題になるのは、本人が署名できたか、会話ができたかだけではありません。その行為の意味と結果を理解できていたかどうかが問われるのです。
出典:e-Gov法令検索|民法

相談前には、医療上の判断そのものではなく、実務判断に必要な情報として、次の事項を整理します。

整理項目確認したい内容
診断名・診断時期認知症、軽度認知障害、せん妄、うつ病、脳血管疾患等の有無
医療機関主治医、診療科、通院頻度、服薬状況
検査結果HDS-R、MMSE等の認知機能検査の有無と時期
要介護認定要支援・要介護度、認定調査票、主治医意見書
日常生活金銭管理、服薬管理、外出、契約内容の理解、会話の安定性
意思表示誰の前で、いつ、どのような内容を話したか
変動性日によって判断が変わるか、時間帯によって理解力が変わるか
親族の見方家族間で本人の判断能力について意見が分かれていないか

軽度認知障害や認知症の初期の段階では、本人とご家族の価値観を確認し、将来の医療やケアが本人の意思に沿うよう準備しておくことが大切です。進行してしまうと意思決定能力が損なわれることがあるため、まだ軽度のうちに意思を確認しておくことが、特に意味を持ちます。

一方で、「認知症の診断があるから、もう何もできない」「診断がないから、何でもできる」と単純に割り切るのは危険です。必要とされる能力は、行為の種類によって異なります。少額の生活費の支払いを理解できることと、不動産の売却や大口の贈与の意味を理解できることとは、同じではないからです。

3. 財産一覧は「評価額」だけでなく「管理状況」まで整理する

相続税の試算には、もちろん財産額が必要です。ただ、高齢期の相続対策で財産一覧をつくる目的は、税額試算だけにとどまりません。

あわせて見ておきたいのは、次のような点です。

  • 誰が管理しているか
  • 本人の生活費に使えるか
  • 相続人のあいだで分けやすいか
  • 売却・換金できるか
  • 評価の根拠を示せるか
  • 将来、税務調査で説明できるか

ここまで踏み込んで初めて、相談の精度が上がります。

財産区分相談前に整理したい情報
預貯金金融機関、支店、口座番号、残高、取引履歴、管理者、キャッシュカード保管者
有価証券証券会社、口座区分、銘柄、取得時期、評価損益、配当入金先
生命保険契約者、被保険者、受取人、保険料負担者、解約返戻金、契約者変更履歴
不動産所在、登記名義、利用状況、固定資産税評価額、路線価、賃貸借、共有、担保
賃貸物件入居状況、賃貸借契約、管理会社、家賃入金先、修繕予定、借入金
農地・生産緑地農地台帳、耕作者、納税猶予、指定状況、転用可能性
同族会社株式株主構成、議決権、決算書、役員貸付金、後継者、納税資金
貸付金・債務家族・会社への貸付、借入金、保証債務、未払金
デジタル資産ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、ポイント、ID管理
国外資産海外口座、海外不動産、外国株式、住所・居住歴、現地税務資料

財産一覧をつくるときは、名義だけで判断しないことが肝心です。子や孫の名義になっている預金であっても、実質的に本人の財産と認められる場合には、相続税の課税対象として問題になります。具体的には、贈与契約の有無、受贈者がきちんと受諾していたか、名義変更や管理の状況、収益の帰属、贈与税の申告・納税といった点が確認されます。

4. 誰が財産を管理しているかを整理する

高齢期の相談では、財産の名義よりも、実際に管理しているのが誰かのほうが重要になることがあります。

たとえば、次のような状況です。

  • 親名義の口座を長男が管理している
  • 母のキャッシュカードを同居の子が持っている
  • 賃貸物件の家賃を子の口座で受けている
  • 固定資産税や施設費を家族が立て替えている
  • 本人の通帳がどこにあるか分からない
  • ネット証券のID・パスワードを本人しか知らない

こうした状態は、決して珍しいものではありません。ただ、整理しないまま相続が発生すると、使途不明金、名義預金、贈与、立替金、貸付金、相続財産の漏れといった問題が、一気に表面化してしまいます。

とりわけ金融機関への対応では、本人の意思確認と代理権が重要になります。全国銀行協会は、高齢のお客さま、特に認知判断能力の低下した方や代理人との金融取引について、会員各行の参考となる考え方を公表しています。ただしこれは、各銀行に一律の対応を求めるものではなく、個別の事情によって異なる対応があり得るとされています。
出典:全国銀行協会|金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について

相談前には、次の点を確認しておきましょう。

確認項目内容
通帳・印鑑誰が保管しているか。本人が把握しているか
キャッシュカード誰が使用しているか。暗証番号を誰が知っているか
ネット口座ID・パスワード・二段階認証の管理者
支払管理医療費、介護費、施設費、税金、公共料金の支払方法
現金管理自宅金庫、タンス預金、家族が預かる現金の有無
立替金家族が立て替えた費用の明細・領収書
引出し履歴多額・頻繁な引出し、家族口座への送金の有無
金融機関届出代理人届、任意代理、後見届、信託口口座等の有無

高齢者の金融取引では、通帳の紛失、暗証番号を忘れてしまうこと、ATM操作の困難、親族による頻繁な引出しなどが、問題のきっかけになりがちです。「親族なのだから何とかなる」と考えるのではなく、あらかじめ管理者・権限・記録の残し方を整理しておくことが大切です。

5. 家族関係と不公平感を整理する

高齢期の相続対策では、法定相続人を把握するだけでは足りません。

見ておきたいのは、たとえば次のような点です。

  • 誰が介護しているか
  • 誰が同居しているか
  • 誰が家業を手伝っているか
  • 誰が過去に住宅資金や教育資金の援助を受けたか
  • 親の財産管理に誰が関与しているか
  • 疎遠な相続人がいるか
  • 再婚、前婚の子、養子、内縁関係があるか
  • 相続人の中に判断能力に不安がある人がいるか

これらは、遺産分割、遺留分、特別受益、寄与分、特別寄与料、相続税申告といった実務に影響します。

相談前には、単なる家系図ではなく、次のような「関係性の情報」を整理しておくと役立ちます。

整理項目確認したい内容
推定相続人配偶者、子、代襲相続人、前婚の子、養子の有無
生活状況同居、近居、遠方、海外居住、経済状況
介護負担誰が何をしているか。費用負担、時間負担、記録の有無
過去贈与住宅資金、学費、事業資金、借金肩代わり、生活援助
財産管理通帳管理者、不動産管理者、会社実務担当者
関係性連絡が取れるか、話合いが可能か、過去に対立があるか
紛争可能性遺留分、使途不明金、名義財産、介護評価への不満
専門家関与弁護士、司法書士、ケアマネジャー、金融機関、不動産会社

介護の負担がある場合、それが後日、寄与分や特別寄与料の主張、あるいは親族間の不公平感につながることがあります。介護認定の内容や認知症の状況、介護に要した費用の資料を残しておくことは、単なる感情論ではなく、将来の説明資料になります。

6. 既存契約・遺言・信託を整理する

高齢期の相談では、「すでに何かをつくっている」というケースが少なくありません。

たとえば、次のような状況です。

  • 過去に公正証書遺言を作成した
  • 自筆証書遺言が自宅にある
  • 任意後見契約を結んだが、まだ発効していない
  • 財産管理委任契約がある
  • 家族信託契約を作成した
  • 生命保険の受取人を変更した
  • 不動産管理会社や信託口口座がある
  • 死後事務委任契約を結んでいる

これらは、それぞれ単独で見れば有効でも、互いに矛盾することがあります。たとえば信託財産については、原則として遺言の効力が及びません。そのため、家族信託と遺言の関係は確認しておく必要があります。家族信託を利用した後に遺言を作成しても、信託された財産は委託者の個人財産から切り離されているため、信託が優先する整理になります。

また、認知症への備えとしては、任意後見、財産管理委任、見守り契約、死後事務委任、遺言、家族信託を組み合わせて検討することがあります。認知能力・判断能力が低下する場合の法的な対応として、財産管理契約、見守り契約、死後事務委任契約、遺言、信託契約、成年後見制度、介護保険制度などが整理されます。

相談前には、次の資料を確認しておきましょう。

契約・書類確認すべき点
遺言方式、作成日、保管場所、遺言執行者、遺留分リスク
任意後見契約公正証書、代理権目録、任意後見監督人選任の有無
財産管理委任契約委任範囲、金融機関対応、判断能力低下後の限界
見守り契約定期連絡、判断能力低下の把握方法
死後事務委任葬儀、納骨、施設退去、遺品整理、支払事務
家族信託信託財産、受託者、受益者、帰属権利者、税務処理
生命保険契約者、被保険者、受取人、保険料負担者、変更履歴
賃貸借契約貸主、借主、管理会社、更新、保証金、修繕義務
会社関係書類株主名簿、定款、議事録、役員貸付金、後継者関係

任意後見契約では、代理権目録に何を記載するかが重要になります。日常的な継続管理業務と、それ以外の不動産処分・施設入所・契約変更などとを具体的に検討する必要があり、本人の希望や財産構成に応じて、聞き取りと起案の精度が問われます。

7. 制度を選ぶ前に「何を実現したいか」を整理する

高齢期の相続対策では、制度から入ると判断を誤りやすくなります。

たとえば、次のような問いです。

  • 家族信託がよいのか
  • 任意後見がよいのか
  • 遺言で足りるのか
  • 生前贈与をすべきか
  • 生命保険を活用すべきか
  • 不動産を売却すべきか

これらの答えは、本人の希望、判断能力、財産構成、家族関係、税務リスクによって変わります。

目的検討する制度・手段相談前に整理すべき情報
本人の財産管理を任せたい財産管理委任、任意後見、法定後見本人能力、管理者、金融機関対応、支払内容
認知症後も不動産管理を続けたい家族信託、任意後見、管理委託不動産内容、受託者候補、修繕・売却予定、借入
死後の分け方を決めたい遺言、遺言執行者、生命保険推定相続人、遺留分、特定財産、納税資金
子や孫へ移したい贈与、相続時精算課税、暦年課税本人意思、生活資金、贈与履歴、将来加算
配偶者の生活を守りたい遺言、配偶者居住権、生命保険自宅、金融資産、二次相続、介護費
相続税を試算したい財産評価、特例検討、贈与履歴確認財産一覧、債務、評価資料、小規模宅地
納税資金を確保したい保険、不動産売却、代償分割、延納物納検討現預金、売却可能資産、保険金、相続人負担
親族間紛争を防ぎたい遺言、家族会議、専門家連携不公平感、過去贈与、介護負担、使途不明金

家族信託は、信託した財産について柔軟な管理を可能にする一方で、本人の身上保護や信託外財産の包括的な管理まですべてを担う制度ではありません。家族信託と任意後見は、どちらか一方を選ぶというよりも、役割を分けて併用することもあります。

8. 税務情報は「相続税額」だけでなく「将来の説明可能性」まで整理する

相続税対策の相談では、まずは概算の税額を知りたい、というご要望があります。ただ、高齢期の相続対策では、税額試算に入る前に、税務上の前提を整理しておくことが大切です。

相続税は、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税遺産総額を計算します。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

また、令和6年1月1日以後の暦年課税による贈与については、相続税の課税価格に加算される対象期間が、段階的に相続開始前7年以内へと延長されています。加算対象期間内の贈与は、贈与税がかかったかどうかにかかわらず、加算の対象になります。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

相続時精算課税については、令和6年1月1日以後の贈与から、特定贈与者ごとに年間110万円の基礎控除が設けられています。ただし、一度選択すると、その特定贈与者からの贈与について暦年課税へ戻せない点には注意が必要です。
出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

生命保険については、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税の上ではみなし相続財産として扱われます。受取人が相続人である場合、非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」です。
出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

相談前には、次の税務情報を整理しておきましょう。

税務論点整理すべき情報
相続税申告要否財産総額、債務、基礎控除、法定相続人
贈与履歴贈与日、金額、相手、契約書、申告書、資金移動
名義財産子・孫名義預金、管理者、通帳・印鑑、原資
相続時精算課税選択届出の有無、特定贈与者、贈与財産、基礎控除
生命保険保険料負担者、受取人、非課税枠、契約者変更
小規模宅地等自宅・事業用・貸付用の利用状況、取得予定者
不動産評価評価単位、地目、路線価、賃貸借、共有、特殊事情
納税資金現預金、保険金、売却予定資産、代償金、借入
二次相続配偶者取得後の財産構成、将来の税額・資金繰り
税務調査預金移動、現金引出し、贈与証拠、評価根拠

税務上で本当に重要なのは、「節税効果があるかどうか」だけではありません。将来の相続税申告できちんと説明できるか、税務調査で資料を示せるか、他の相続人にも合理的に説明できるか。ここまで含めて考える必要があります。

9. 不動産がある場合は、相続税評価だけでなく処分可能性まで整理する

高齢期の相続対策では、不動産が大きな論点になります。

たとえば、次のような判断が必要になります。

  • 自宅を残すか
  • 施設入所後に売るか
  • 賃貸物件を管理し続けるか
  • 農地や生産緑地を承継する人がいるか
  • 共有不動産を避けるか
  • 相続税納税のために売却するか
  • 相続登記や境界、借地権、抵当権に問題がないか

本人の居住用不動産について、成年後見人・保佐人・補助人が本人に代わって処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。裁判所は、本人が現在は施設に入所していても、将来居住する可能性がある場合や、入所前に居住していた場合も、居住用不動産に含まれると説明しています。家庭裁判所の許可を得ない処分は無効となります。
出典:裁判所|成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可

また、相続登記は令和6年4月1日から義務化されています。相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、原則として取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠った場合には、10万円以下の過料の対象となります。施行日前の相続であっても、未登記であれば対象になります。
出典:法務省|相続登記の申請義務化について

不動産がある場合、相談前には次の情報を整理しておきましょう。

不動産情報確認内容
登記名義本人単独か、共有か、古い相続未登記がないか
利用状況自宅、空き家、賃貸、事業用、農地、駐車場
権利関係借地権、貸借、使用貸借、抵当権、地役権
処分可能性売却予定、境界、測量、接道、建築制限
管理者家賃管理、修繕、固定資産税、管理会社
税務評価路線価、倍率、貸家建付地、小規模宅地等
本人の意思住み続けたいか、売ってよいか、誰に残したいか
相続後の負担固定資産税、修繕費、空き家管理、共有リスク

10. 相談前につくっておきたい「高齢期相続対策メモ」

専門家に相談する前に、完璧な資料をそろえる必要はありません。むしろ最初の相談では、資料の不足よりも、事実関係の全体像が見えないことのほうが、問題になります。

そこでおすすめしたいのが、まずはA4で1~2枚程度の「高齢期相続対策メモ」を作っておくことです。

高齢期相続対策メモに書くべき項目

項目書く内容
本人情報氏名、生年月日、住所、同居者、連絡先
健康・判断能力診断状況、要介護度、主治医、日常生活の状況
本人の希望住まい、財産管理、贈与、遺言、不動産、葬儀等
家族関係推定相続人、介護者、財産管理者、関係性
財産概要不動産、預貯金、有価証券、保険、会社株式、債務
管理状況通帳・印鑑・カード・ID管理者、支払方法
既存書類遺言、任意後見、信託、保険証券、契約書
懸念事項紛争可能性、使途不明金、名義預金、売却予定
相談目的税額試算、遺言、贈与、後見、信託、不動産整理等

このメモがあるだけで、相談の質は大きく変わります。専門家の側も、税務だけでなく、法務、家族関係、財産管理、納税資金を横断して論点を把握しやすくなります。

11. 相談前に避けたい行動

情報の整理ができていない段階では、次のような行動は慎重に考えるべきです。

避けたい行動理由
認知症が疑われる親に急いで贈与契約書へ署名させる意思能力、贈与意思、受諾が争われる可能性
家族が親の預金を大きく引き出す使途不明金、名義財産、贈与、相続財産漏れの問題
不動産を親族へ低額で売るみなし贈与、譲渡所得、時価根拠、親族間不公平
相続税だけを理由に借入・賃貸建築を進める収益性、空室、借入返済、相続人負担を見落とす
遺言・信託・後見を別々の専門家に断片的に依頼する制度同士が矛盾する可能性
他の相続人に知らせず一部の家族だけで進める相続発生後に不信感が強まりやすい
「家族だから大丈夫」と記録を残さない税務調査・遺産分割で説明できない

高齢期の相続対策では、急いで制度を使うよりも、まず事実を整理することが、結果的には早道になります。

まとめ:相談前の整理は、本人の意思を守るための準備である

高齢期の相続対策の相談前に整理すべき情報は、単なる財産資料の一覧ではありません。

整えておきたいのは、次のようなことです。

  • 本人の意思
  • 診断状況と判断能力
  • 財産一覧と管理者
  • 家族関係と不公平感
  • 既存契約と遺言
  • 金融機関への対応
  • 税務上の贈与履歴・名義財産・評価根拠
  • 不動産や同族会社など換金しにくい財産の承継方針

これらを整理することで、贈与・遺言・任意後見・法定後見・家族信託・不動産売却・生命保険・相続税申告のうち、どれを検討すべきかが見えてきます。

大切なのは、節税策を先に決めることではありません。本人が判断できるうちに、何を守り、誰に何を託し、どのリスクを受け入れるのかを整理しておくことです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、高齢期の相続対策について、本人の意思、判断能力、財産構成、家族関係、贈与履歴、相続税の試算、納税資金、そして将来の申告実務まで、一体として整理します。

親の判断能力に不安がある、財産管理を誰に任せるべきか迷っている、遺言・任意後見・家族信託の使い分けを整理したい、すでに預金の引出しや贈与があり相続税申告での説明が不安――こうした場合は、まず現在分かる範囲の資料とメモを整理したうえで、ご相談ください。

重要ポイントの振り返り

整理事項相談前に確認すること実務上の意味
本人意思住まい、財産管理、贈与、遺言、不動産、死後の希望対策が本人の意思に基づくものかを確認する
診断状況診断名、検査結果、要介護度、日常生活、意思表示贈与・遺言・信託・売却の有効性に関わる
財産一覧不動産、預金、証券、保険、会社株式、債務相続税試算、納税資金、分割方針の前提になる
管理者通帳、印鑑、カード、ネット口座、家賃、支払管理使途不明金・名義財産・金融機関対応を防ぐ
家族関係相続人、介護負担、過去贈与、紛争可能性遺産分割、遺留分、寄与分、説明可能性に影響する
既存契約遺言、任意後見、財産管理委任、信託、保険制度同士の矛盾や不足を確認する
税務情報贈与履歴、名義財産、保険、相続時精算課税、小規模宅地申告漏れ・税務調査リスクを抑える
不動産情報登記、利用状況、共有、売却可能性、相続登記評価、承継、納税、処分の判断に関わる
相談目的税額試算、遺言、信託、後見、贈与、不動産整理専門家に何を判断してほしいかを明確にする
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