農地の相続税評価というと、「固定資産税評価額に何倍を掛けるか」という話から始まると思われがちです。けれども、実務で最初に確認すべきことは、それだけではありません。
農地は宅地と違い、農地法による転用制限、都市計画上の区域、農業振興地域や農用地区域の指定、生産緑地の有無、耕作者や賃借権の状況、さらには将来の転用可能性によって、評価の方法そのものが大きく変わります。そして同じ農地であっても、評価単位をどこで区切るかによって、評価額が大きく動くことも珍しくありません。
私の経験から申し上げると、農地評価では、少なくとも次の順番で確認していくことが欠かせません。
- 課税時期の現況は農地か
- 農地の評価上の区分は何か
- 評価単位は「1枚の農地」か「一団の農地」か
- 倍率方式で評価するのか、宅地比準方式で評価するのか
- 宅地造成費を控除できるか
- 生産緑地、耕作権、永小作権、貸付け、転用許可の有無をどう反映するか
- 遺産分割や贈与によって、評価単位が不自然に変わっていないか
農地評価は、申告書に記載する評価額を算定するためだけの作業ではありません。遺産分割の公平性、納税資金の確保、農業の承継、将来の売却・転用、そして税務調査での説明可能性にまで、まっすぐつながっていきます。
農地評価は「区分」と「評価単位」を分けて考える
農地の評価でつまずきやすいのは、「農地の区分」と「評価単位」が、本来は別々の論点だという点です。
農地の区分とは、その農地を純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地のどれとして評価するか、という問題です。国税庁は、農地について、農地法などによる宅地転用の制限や、都市計画による地価事情の違いを考慮し、純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の4種類に区分して評価するとしています。
これに対して評価単位とは、その農地をどの範囲で一つの評価対象として捉えるか、という問題です。農地だからといって常に一筆ごとに評価するわけではありません。純農地・中間農地と、市街地周辺農地・市街地農地・生産緑地とでは、評価単位の考え方そのものが異なります。
この二つを分けずに考えてしまうと、次のような誤りが起こりやすくなります。
- 登記簿上の一筆ごとに評価してしまう
- 固定資産税課税明細書の課税地目だけで判断してしまう
- 市街地農地を「1枚の畑」として細かく評価してしまう
- 生産緑地と一般農地を一体で評価してしまう
- 耕作権や永小作権がある部分と自用部分を区分しない
- 遺産分割後の細分化された形を、そのまま評価単位にしてしまう
土地評価では、地目は課税時期の現況で判定し、価額は評価単位ごとに算定します。財産評価基本通達では、田・畑は原則として「1枚の農地」を評価単位とする一方、市街地周辺農地、市街地農地、生産緑地については、それぞれ「利用の単位となっている一団の農地」を評価単位とします。
農地の4区分と評価方法
農地は、評価上、次の4つに分類されます。
| 農地の区分 | 基本的な性格 | 評価方法の基本 |
|---|---|---|
| 純農地 | 農業上の利用を前提とする性格が強い農地 | 倍率方式 |
| 中間農地 | 純農地と市街地周辺農地の中間的性格を持つ農地 | 倍率方式 |
| 市街地周辺農地 | 市街地に近く、宅地化の影響を受ける農地 | 市街地農地として評価した価額の80% |
| 市街地農地 | 宅地化の影響を強く受ける農地 | 宅地比準方式または倍率方式 |
純農地と中間農地は、固定資産税評価額に、国税局長が定める倍率を乗じて評価します。市街地周辺農地は、その農地が市街地農地であるとした場合の価額の80%相当額で評価します。市街地農地は、宅地比準方式または倍率方式によります。
財産評価基本通達は、農地を純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地に分類したうえで、農地法、農業振興地域の整備に関する法律、都市計画法との関係を踏まえて判定する仕組みになっています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利
実務では、評価倍率表、農地台帳、都市計画図、農用地区域の有無、農地区分、生産緑地の指定状況、そして現地の利用状況を組み合わせて判定していきます。農地の区域区分などについては、農地台帳や全国農地ナビ、あるいは都市計画課・農政課などへの確認が必要になることもあります。
純農地・中間農地は倍率方式で評価する
純農地と中間農地は、基本的に倍率方式で評価します。
倍率方式とは、固定資産税評価額に、国税局長が定める倍率を乗じて評価する方法です。純農地については、田または畑の別、地勢、土性、水利などの状況が類似する地域ごとに定められた倍率を用います。中間農地についても、地価事情が類似する地域ごとの倍率を使います。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利
純農地・中間農地の評価では、路線価を使って宅地のように画地補正を細かく行うわけではなく、固定資産税評価額と倍率表を基礎に評価します。そのため、評価単位の誤りが表面に出にくいこともあります。
とはいえ、評価単位の確認が不要になるわけではありません。純農地・中間農地では、原則として「1枚の農地」、つまり耕作の単位となっている1区画の農地を評価単位とします。財産評価基本通達は、この「1枚の農地」は必ずしも1筆とは限らず、2筆以上から成る場合もあれば、1筆が2枚以上の農地として利用されている場合もあるとしています。
言い換えれば、純農地・中間農地では、登記簿上の筆数よりも、現実の耕作単位を確認することが大切になります。
たとえば、田と畑が明確に区分されている、畑の中でも畝や利用状況によって栽培単位がはっきり分かれている、複数筆を一体で耕作している——こうした場合には、登記や固定資産税資料だけでは評価単位を判断できません。耕作の単位は、課税時期の現況、田・畑の別、畦や畝による区分、作物の栽培単位などを確認したうえで判断する必要があります。
市街地周辺農地は「市街地農地として評価した価額の80%」
市街地周辺農地は、市街地農地ほど宅地化の影響を強く受けるわけではないものの、純農地・中間農地に比べると、宅地化の可能性が評価に反映されやすい農地です。
財産評価基本通達では、市街地周辺農地の価額は、その農地が市街地農地であるとした場合の価額の100分の80に相当する金額によって評価するとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利
ここで押さえておきたいのは、市街地周辺農地を評価する場合も、いったん市街地農地としての価額を考える必要がある、という点です。つまり、宅地比準方式や宅地造成費、評価単位の考え方が、そのまま関係してきます。
市街地周辺農地だからといって、単純に固定資産税評価額へ倍率を掛ければ終わり、というわけにはいきません。評価対象地がどの評価倍率表の区分に入っているか、宅地比準方式を使うのか、周辺の宅地との位置・形状・接道条件にどのような差があるのか——こうした点を一つずつ確認していくことになります。
市街地農地は宅地比準方式または倍率方式で評価する
市街地農地は、宅地化の影響を最も強く受ける農地です。市街化区域内の農地や、農地法上の転用許可を受けた農地などがこれに該当します。
財産評価基本通達では、市街地農地の価額は、その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額から、宅地転用に通常必要と認められる1㎡当たりの造成費相当額を控除し、その農地の地積を乗じて評価するとされています。なお、市街化区域内の市街地農地については、固定資産税評価額に倍率を乗じる方法で評価できる場合もあります。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利
宅地比準方式の考え方は、簡略化すると次のとおりです。
市街地農地の評価額 =(その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額 - 1㎡当たりの宅地造成費)× 地積
国税庁のタックスアンサーでも、市街地農地の宅地比準方式について、宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額から、通常必要と認められる1㎡当たりの造成費相当額を控除し、地積を乗じて評価すると説明されています。
この方式では、次の点の確認が重要になります。
- その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額
- 路線価地域か倍率地域か
- 宅地造成費の金額表
- 接道、形状、高低差、造成の必要性
- 地積規模の大きな宅地の評価の適用可否
- 生産緑地やその他の利用制限の有無
- 市街地農地として一団評価すべき範囲
宅地造成費は、毎年、地域ごとに確認が必要です。国税庁は、宅地造成費の金額を「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で閲覧できると案内しています。
「1枚の農地」と「一団の農地」は意味が違う
農地評価でとりわけ重要になるのが、評価単位です。
農地の評価単位は、大きく分けると次のように整理できます。
| 農地の種類 | 評価単位の基本 |
|---|---|
| 純農地 | 1枚の農地 |
| 中間農地 | 1枚の農地 |
| 市街地周辺農地 | 利用の単位となっている一団の農地 |
| 市街地農地 | 利用の単位となっている一団の農地 |
| 生産緑地 | 利用の単位となっている一団の農地 |
「1枚の農地」とは、耕作の単位となっている1区画の農地をいいます。これは、登記上の1筆とは限りません。2筆以上を一体で耕作していれば1枚の農地になることもありますし、逆に、1筆の中で現況上2つ以上の耕作単位に分かれていれば、複数の評価単位になることもあります。
一方、市街地農地等では、「利用の単位となっている一団の農地」が評価単位です。国税庁の質疑応答事例では、所有している農地を自ら使用している場合には、耕作の単位にかかわらず、その全体を利用の単位となっている一団の農地とするとされています。
この違いは、決して小さなものではありません。
純農地・中間農地では、現実にどのように耕作されているかが評価単位の中心になります。これに対して市街地農地・市街地周辺農地では、宅地としての効用を果たす規模や形状を意識しながら、一団の農地として評価単位を捉える必要があります。
市街地農地等の評価単位の具体的な判定
市街地農地等について、国税庁は「利用の単位となっている一団の農地」を、次のように判定するとしています。
- 所有している農地を自ら使用している場合には、耕作の単位にかかわらず、その全体を一団の農地とする
- その一部が生産緑地である場合には、生産緑地とそれ以外の部分をそれぞれ一団の農地とする
- 一部に永小作権または耕作権を設定し、他の部分を自ら使用している場合には、権利が設定されている部分と自用部分をそれぞれ一団の農地とする
- 複数の者に永小作権または耕作権を設定している場合には、同一人に貸し付けられている部分ごとに一団の農地とする
このような取扱いがとられるのは、市街地農地等の価額が、宅地の価額の影響を強く受けるためです。国税庁は、市街地農地等について、宅地比準方式との整合性を図る観点から、1枚または1筆ごとではなく、利用の単位となっている一団の農地を評価単位とすることが相当であると説明しています。
実務では、次のような場面で、評価単位の判断が重みを増します。
- 複数筆の市街地農地を一体で所有している
- 一部が生産緑地で、一部が一般農地である
- 一部を第三者が耕作している
- 農地の一部を駐車場・資材置場・農業用施設用地として使っている
- 隣接する宅地・雑種地・山林と一体利用されている
- 相続人ごとに農地を分けて取得する予定がある
- 納税猶予を受ける部分と売却予定部分が混在している
市街地農地等については、1筆ごとの評価ではなく、宅地としての利用可能性を踏まえた評価単位の把握が求められます。市街地農地の評価単位を一団の農地として捉えると、地積規模の大きな宅地の評価の適用可否にも影響が及びます。
生産緑地が混在する場合は分けて考える
市街地農地の中に生産緑地が含まれている場合、評価単位の判定には、とりわけ注意が必要です。
国税庁の質疑応答事例では、所有している農地を自ら使用している場合であっても、その一部が生産緑地であるときは、生産緑地とそれ以外の部分を、それぞれ利用の単位となっている一団の農地とするとされています。
生産緑地には、農地等として管理しなければならないという制約があります。そのため、市街地農地と隣接していても、一般の市街地農地と同じ評価単位として一体評価するのではなく、別の利用単位として扱うことになります。
また、財産評価基本通達では、生産緑地について、生産緑地でないものとして評価した価額から、買取り申出の可否や期間に応じた割合を控除して評価する仕組みが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利
したがって、生産緑地が関係する農地評価では、次の点を確認しておく必要があります。
- 生産緑地地区内にあるか
- 特定生産緑地の指定を受けているか
- 買取り申出が可能な状態か
- 課税時期において買取り申出がされているか
- 一般農地と隣接している場合、評価単位を分けるべきか
- 納税猶予の適用や継続に影響しないか
生産緑地法に基づく規制を確認するには、対象農地が市街化区域にある場合、生産緑地地区内かどうか、告示年月日、特定生産緑地の指定の有無などを押さえておくことになります。
宅地比準方式では「宅地であるとした場合の価額」が重要になる
市街地農地を宅地比準方式で評価する場合、「その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額」をどう見積もるかが鍵になります。
国税庁は、路線価方式により評価する地域では路線価により、倍率地域では、評価しようとする農地に最も近接し、道路からの位置や形状などが最も類似する宅地の評価額を基に計算すると説明しています。
ここで、単に近くの宅地価格を当てはめれば足りる、というわけではありません。評価対象となる農地と、近隣の宅地との違いを丁寧に確認する必要があります。
確認すべき主な要素は、次のとおりです。
- 前面道路の幅員
- 接道状況
- 奥行、間口、形状
- 高低差
- 排水・造成の必要性
- 用途地域
- 市街化区域・市街化調整区域
- 建築可能性
- 近隣宅地との位置関係
- 地積規模の大きな宅地の評価の適用可否
とりわけ農地は、宅地に比べて造成が必要になることが多く、宅地造成費の控除をどう見積もるかが、評価額に大きく影響します。宅地造成費には、整地、土盛り、土止めなどが含まれますが、地盤改良、擁壁、高低差、傾斜、排水などについては、事実関係の確認が欠かせません。宅地造成費は地域ごと・年分ごとに公表されますので、申告対象となる年分の金額表を確認しておく必要があります。
地積規模の大きな宅地の評価が関係することがある
市街地農地や市街地周辺農地を宅地比準方式で評価する場合、地積規模の大きな宅地の評価が関係してくることがあります。
国税庁は、市街地農地の宅地比準方式において、その農地が宅地であるとした場合に地積規模の大きな宅地の評価の適用対象となるときは、同通達を適用して計算することに留意するとしています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利
地積規模の大きな宅地とは、三大都市圏では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上の地積の宅地をいいます。ただし、市街化調整区域の一定の宅地、工業専用地域、指定容積率が一定以上の地域などは、適用対象から除かれます。
また、地積規模の要件は、利用の単位となっている1画地の宅地、すなわち評価単位ごとに判定します。贈与や遺産分割による分割があった場合には、原則として分割後の画地を評価単位としますが、分割後の画地が通常の用途に供することができないなど著しく不合理な場合には、分割前の画地を1画地の宅地とします。
このため市街地農地では、評価単位を誤ると、地積規模の大きな宅地の評価の適用可否まで誤ってしまう可能性があります。
たとえば、本来は一団の市街地農地として評価単位を捉えるべきところを、筆ごとに細かく分けてしまうと、地積要件を満たさないと誤って判断してしまうことがあります。反対に、本来は生産緑地と一般農地を分けるべきところを一体としてしまえば、地積や評価額の判定が不適切になりかねません。
隣接する宅地・雑種地・山林と一体利用されている場合
農地が単独ではなく、隣接する宅地、雑種地、山林などと一体で利用されている場合もあります。
財産評価基本通達では、土地は地目別に評価するのが原則とされています。ただし、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目から成る場合には、そのうちの主たる地目から成るものとして、その一団の土地ごとに評価するとされています。さらに、市街化調整区域以外の都市計画区域で市街地的形態を形成する地域において、市街地農地、市街地山林、市街地原野、宅地と状況が類似する雑種地が隣接し、形状、地積、位置などから見て一団として評価することが合理的な場合には、その一団ごとに評価します。
この論点は、農家や地主の方の土地で、しばしば問題になります。
たとえば、次のような土地です。
- 自宅敷地と隣接する畑
- 農具小屋の敷地と畑
- 農地の一部を資材置場として使っている土地
- 畑と駐車場が隣接している土地
- 農地と雑種地が一体で土地活用されている土地
- 農地の一部を農業用施設用地として使っている土地
こうした場合には、形式上の地目だけで区切るのではなく、現況、主たる利用目的、土地の形状、地積、位置、宅地としての効用、権利関係を確認していく必要があります。
もっとも、形状、地積、位置などから見て、地目ごとに利用することが合理的と認められる場合には、原則どおり地目別に評価します。市街地農地等と他の地目が隣接しているからといって、一体評価が常に正しいわけではありません。一団として評価することが合理的かどうかを、その都度判断することになります。
貸し付けられている農地・耕作権がある農地
農地の一部を第三者に貸している場合や、耕作権・永小作権が設定されている場合には、評価単位と評価額の双方に影響が及びます。
財産評価基本通達では、耕作権、永小作権等の目的となっている農地について、自用地としての価額から、耕作権や永小作権等の価額を控除して評価する取扱いが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利
市街地農地等の評価単位についても、所有する農地の一部に永小作権または耕作権を設定している場合には、権利が設定されている部分と自用部分を区分します。複数の者に権利を設定しているときは、同一人に貸し付けられている部分ごとに評価単位を判定します。
ここで確認しておきたい資料は、農地台帳、賃貸借契約書、使用貸借契約書、農業委員会への届出・許可資料、農地中間管理機構の利用状況、賃料の収受状況などです。農地の権利関係は、登記事項証明書だけでは把握しきれないことがあり、農地台帳や契約書の確認が必要になります。
評価単位は遺産分割・贈与で変わることがある
農地の評価単位は、相続開始時の利用状況だけで決まるものではありません。遺産分割や贈与による取得関係とも、密接にかかわってきます。
土地を相続人ごとに分けて取得した場合、原則として、取得者ごとに分割後の画地を評価単位とします。しかし、贈与や遺産分割などによって分割した後の画地が、通常の用途に供することができないなど著しく不合理である場合には、分割前の画地を評価単位とする取扱いがあります。
不合理分割は、宅地の規定として語られることが多い論点です。ただ、宅地比準方式で評価する市街地農地、市街地山林、市街地原野、宅地と状況が類似する雑種地についても、同じように問題になります。
農地で問題になりやすいのは、次のような分割です。
- 接道しない農地を作る
- 宅地転用後に通常利用できない形状で分ける
- 著しく細長い土地や狭小な土地を作る
- 造成や排水が現実的でない部分を単独取得させる
- 評価額を下げる目的で、利用実態と合わない分割をする
- 納税猶予を受ける部分と売却予定部分を無理に切り分ける
遺産分割の一部が不合理分割に当たる場合には、その不合理分割に当たる部分のみ分割前の画地によって評価単位を判定し、それ以外の部分は分割後の画地で評価単位を判定するのが相当とされた裁決例もあります。
農地を相続人間で分ける際には、税額だけでなく、農地法、転用可能性、接道、排水、将来の売却可能性、納税猶予、そして他の相続人への説明可能性まで見据えて確認しておくことが大切です。
評価単位を誤ると何が起こるか
農地の評価単位を誤れば、評価額そのものが変わってしまいます。
具体的には、次のような影響が生じます。
- 宅地造成費の控除額が変わる
- 路線価方式の画地補正の適用が変わる
- 地積規模の大きな宅地の評価の適用可否が変わる
- 生産緑地の控除計算が変わる
- 耕作権・永小作権の控除範囲が変わる
- 市街地周辺農地の80%評価の基礎価額が変わる
- 遺産分割後の各人の取得財産額が変わる
- 小規模宅地等の特例や納税猶予の検討にも影響する
- 税務調査で評価根拠の説明が難しくなる
とりわけ市街地農地では、筆ごとに評価するのか、一団の農地として評価するのかによって、宅地比準方式の基礎となる宅地価額や補正の考え方が変わってきます。農地評価は、評価倍率表を眺めるだけで完結するものではなく、現地・地図・公図・登記・農地台帳・都市計画・契約関係を総合して進めていく必要があります。
農地のご相談では、関連する法規や制度を把握したうえで、基礎資料、市町村・法務局・税務署などからの資料、役所調査、農地区分調査、現地調査を組み合わせて確認していくことが重要になります。
農地評価で確認すべき資料
農地の評価では、手元にどれだけの資料がそろっているかが、判断の質を大きく左右します。
ご相談前・申告前に整理しておきたい資料は、次のとおりです。
| 資料 | 確認する主な内容 |
|---|---|
| 登記事項証明書 | 所有者、地目、地積、共有、担保権 |
| 公図・地積測量図 | 筆の位置関係、形状、隣接地、道路との関係 |
| 固定資産税課税明細書・名寄帳 | 固定資産税評価額、課税地目、課税面積 |
| 農地台帳 | 農地の現況、耕作者、利用権、納税猶予、農地区分等 |
| 全国農地ナビ | 農地の所在地、区域区分、農地情報の確認 |
| 都市計画図 | 市街化区域、市街化調整区域、用途地域 |
| 農業振興地域・農用地区域の資料 | 農振地域、農用地区域、転用制限 |
| 生産緑地・特定生産緑地の資料 | 指定状況、告示年月日、買取申出、特定生産緑地 |
| 賃貸借契約書・使用貸借関係資料 | 耕作権、永小作権、貸付先、賃料 |
| 現地写真 | 耕作状況、雑草、建物、資材置場、造成状況 |
| 路線価図・評価倍率表 | 評価方式、倍率、路線価 |
| 宅地造成費の金額表 | 宅地比準方式で控除する造成費 |
| 相続税・贈与税申告書控え | 過去の納税猶予、贈与、評価履歴 |
| 遺産分割協議書・遺言書 | 取得者、分割後の評価単位、不合理分割の確認 |
農地台帳や全国農地ナビでは、農地の所在地、地目、面積、耕作者、利用権、農業振興地域内かどうか、市街化区域・市街化調整区域の別、生産緑地地区内かどうか、納税猶予や農地中間管理機構の利用状況などを確認できます。
そして、現地確認はとても重要です。相談者の方が農地の所在地から離れて暮らしているようなケースでは、実際には耕作されていない、雑草が繁茂している、廃棄物が投棄されている、建物が建っている、といった事実が後から判明することがあります。農地の利用方法を決める前の早い段階で現地を確認し、写真を残しておくことをお勧めします。
農地評価と遺産分割は切り離せない
農地の評価は、相続税申告だけの問題にとどまりません。遺産分割にも、大きく影響します。
農地は、相続税評価額、固定資産税評価額、実勢価格、農業収益、将来の転用価値が一致しにくい財産です。とりわけ市街地農地や生産緑地では、現在は農地として利用されていても、将来、宅地化・売却・活用が可能になる場合があります。
そのため、遺産分割の場面では、次のような不満が生じることがあります。
- 農地の評価額は低く見えるが、将来転用できるのなら不公平ではないか
- 農業後継者が農地を取得するのは合理的だが、他の相続人への代償金をどうするか
- 納税猶予を受けるために農地を後継者へ集中させると、他の財産配分はどうなるか
- 市街地農地を売却して納税資金に充てるべきか
- 農地を共有にすると、将来の転用や売却が難しくならないか
- 相続後に分筆・転用する前提で分割してよいか
評価単位の取り方は、単に税額を左右するだけではありません。誰がどの農地を取得するか、取得後にどう利用できるか、他の相続人にどう説明するか——そうした判断にも深くかかわってきます。
農地評価は、「税額を下げるための評価」ではなく、「後から説明できる承継判断のための評価」として位置づけるべきだと、私は考えています。
農地評価で避けたい判断
農地の評価で、とりわけ避けたいのは、次のような判断です。
登記地目だけで判断する
登記地目が田・畑であっても、現況が宅地、雑種地、資材置場、駐車場になっていることがあります。土地の地目は、課税時期の現況で判定します。
一筆ごとに機械的に評価する
「1筆」と「1枚の農地」は、同じではありません。純農地・中間農地では耕作単位、市街地農地等では利用単位が重要になります。
市街地農地を耕作単位だけで評価する
市街地農地等は、1枚または1筆ごとではなく、利用の単位となっている一団の農地を評価単位とします。
生産緑地と一般農地を一体で見てしまう
生産緑地には、一般の市街地農地と異なる制約があります。隣接していても、別の利用単位として扱う必要があります。
宅地造成費を概算で済ませる
市街地農地の宅地比準方式では、宅地造成費が評価額に大きく影響します。高低差、傾斜、整地、土盛り、土止め、地盤改良の必要性などを確認したうえで、年分・地域ごとの宅地造成費を押さえておく必要があります。
分割後の形だけで評価する
贈与や遺産分割によって土地を分けた場合でも、その分割が著しく不合理であれば、分割前の画地を評価単位とする取扱いがあります。
農地評価は「現況・規制・利用・将来」を合わせて判断する
農地評価は、数字だけの問題ではありません。
農地を評価するには、少なくとも次の4つの視点が必要だと考えています。
現況
課税時期に、実際にどのように利用されているかを確認します。耕作されているのか、荒れているのか、建物や資材置場になっているのか、駐車場として利用されているのか——その状況によって、評価の前提が変わります。
規制
農地法、都市計画法、農業振興地域、農用地区域、生産緑地などの制限を確認します。転用できるか、売却できるか、宅地として利用できるか。これらは、評価額にも将来方針にも影響します。
利用
誰が耕作しているのか、自用か貸付けか、耕作権や永小作権があるのか、生産緑地と一般農地が混在しているのか。評価単位は、こうした利用状況や権利関係と密接に結びついています。
将来
相続後に農業を続けるのか、売却するのか、転用するのか、納税猶予を使うのか、二次相続でどう承継するのか。相続税評価は課税時期の評価ですが、その前提となる事実は、将来の意思決定とつながっています。
農地評価で大切なのは、「低く評価できるか」ではなく、「その評価単位と評価方法を、資料と現況に基づいて説明できるか」です。
相談を検討すべき農地評価の場面
次のような場合には、農地評価を慎重に検討する必要があります。
- 複数筆の農地を所有している
- 市街化区域内の農地がある
- 生産緑地・特定生産緑地が含まれている
- 農地の一部を貸している
- 農地の一部を駐車場・資材置場・農業用施設用地として使っている
- 農地と宅地・雑種地・山林が隣接している
- 農地の一部を売却・転用する予定がある
- 納税猶予を受ける農地と売却予定地が混在している
- 遺産分割で農地を相続人ごとに分ける予定がある
- 地積規模の大きな宅地の評価が使えるか不明である
- 宅地造成費の控除額が大きくなりそうである
- 登記地目と現況が一致していない
- 相続税申告後の税務調査で、評価根拠を説明できるか不安がある
農地評価は、評価倍率表だけを見れば完結するものではありません。現地確認、役所調査、資料整理、相続人の取得関係、将来利用方針を組み合わせて判断していく必要があります。
まとめ|農地評価は「区分を決める」だけでなく「単位を決める」ことが核心
農地の評価では、まず純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地の区分を確認します。そのうえで、評価単位をどこで区切るかを判断していきます。
純農地・中間農地は、原則として耕作の単位となっている1枚の農地を評価単位とし、倍率方式で評価します。市街地周辺農地・市街地農地・生産緑地は、利用の単位となっている一団の農地を評価単位とし、宅地比準方式、倍率方式、生産緑地評価、地積規模の大きな宅地の評価などが関係してきます。
農地評価で大切なのは、次の順番です。
- 課税時期の現況を確認する
- 農地の評価上の区分を確認する
- 評価単位を確認する
- 評価方式を確認する
- 宅地造成費・権利関係・生産緑地・地積規模を確認する
- 遺産分割や贈与による評価単位の変化を確認する
- 申告後に説明できる資料を残す
農地は、家族の承継、農業の継続、将来の土地活用、納税資金にかかわる財産です。評価額だけを見て判断するのではなく、評価根拠、利用実態、法規制、将来方針を一体で整理しておくことが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、農地を含む相続税申告・生前贈与・相続対策について、評価単位、農地区分、宅地比準方式、宅地造成費、納税猶予、遺産分割、納税資金まで一体で整理いたします。農地の評価額に不安がある、複数筆の農地をどう評価すべきか分からない、生産緑地や市街地農地が含まれている、農地を相続人間でどう分けるか悩んでいる——そうした場合は、まずは資料と現況を整理する段階から、お気軽にご相談ください。
振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 農地の区分 | 純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地のどれか | 農地法、農業振興地域、都市計画を確認する |
| 現況地目 | 課税時期に実際に農地として利用されているか | 登記地目や固定資産税地目だけで判断しない |
| 純農地・中間農地 | 固定資産税評価額と倍率表 | 原則として1枚の農地単位で評価する |
| 市街地周辺農地 | 市街地農地として評価した価額の80% | 宅地比準方式の前提確認が必要 |
| 市街地農地 | 宅地比準方式または倍率方式 | 宅地造成費、路線価、地積規模の評価が関係する |
| 評価単位 | 1枚の農地か、一団の農地か | 1筆ごとに機械的に評価しない |
| 生産緑地 | 生産緑地と一般農地を分けるか | 制約が異なるため別の利用単位として扱う |
| 耕作権・貸付け | 自用部分と貸付部分を区分するか | 同一人に貸し付けられている部分ごとに確認する |
| 宅地造成費 | 整地、土盛り、土止め等の必要性 | 年分・地域ごとの金額表と現地状況を確認する |
| 地積規模の大きな宅地 | 評価単位ごとに面積要件を満たすか | 評価単位の誤りが適用可否に直結する |
| 不合理分割 | 分割後の土地が通常利用できるか | 評価額を下げるためだけの不自然な分割は避ける |
| 資料整理 | 登記、公図、固定資産税、農地台帳、都市計画、現地写真 | 税務調査で説明できる評価根拠を残す |