生産緑地・特定生産緑地と相続税|評価・買取申出・納税猶予・土地活用の判断軸

生産緑地を相続する場面で、「評価額が下がるかどうか」「納税猶予が使えるかどうか」だけを手がかりに方針を決めてしまうと、後になって苦しい選択を迫られることがあります。

生産緑地とは、市街化区域内にありながら、農地等として保全することを前提に、建築行為や宅地造成などが制限される都市農地です。税務の面では、一般の市街地農地とは異なる評価減が用意されています。その一方で、買取申出、特定生産緑地の指定、納税猶予、固定資産税、農業承継、そして将来の売却や活用までが複雑に絡み合います。

相続税の申告では、まず評価額を計算します。しかし、実務上の本質は、その先にあります。

この農地を誰が承継するのか。農業を続けるのか。納税猶予を受けるのか。買取申出をするのか。売却や土地活用を検討するのか。相続人のあいだでどう公平性を確保するのか。そして、二次相続で再び同じ問題が起きないか――。

生産緑地の相続は、単なる土地評価ではありません。家族、農業、都市計画、税務、納税資金をまたいだ意思決定なのです。

目次

生産緑地とは何か

生産緑地制度は、市街化区域内の農地のうち、良好な生活環境の確保に効用があり、公共施設等の敷地として適している一定面積以上のものを都市計画に定め、建築行為等を許可制で規制することによって、都市農地の計画的な保全を図る仕組みです。

対象となるのは原則として500㎡以上の農地ですが、市区町村が条例を定めれば、面積要件を300㎡まで引き下げることもできます。

出典:国土交通省|生産緑地制度

生産緑地に指定されると、原則として農地等のまま管理しなければならず、建築物の新築・改築・増築、宅地造成、土石の採取、土地の形質変更などには、市町村長の許可が必要になります。許可されるのは、農産物の生産集荷施設や市民農園施設などを設置する場合などに限られ、それ以外は原則として認められません。

出典:国税庁|No.4626 生産緑地の評価

つまり、生産緑地は「市街化区域内にあるから自由に宅地化できる農地」ではありません。都市部にあるぶん、土地の潜在的な価値は高くなりやすい。けれども、法的な利用制限が強く、その制限が相続税評価・固定資産税・将来の活用に反映される土地なのです。

特定生産緑地とは何か

生産緑地には、「申出基準日」という重要な日があります。これは、生産緑地の指定の告示の日から起算して30年を経過する日を指します。生産緑地は、指定後30年を経過すると、所有者が市町村長に対して買取申出を行えるようになります。

この30年経過後に、都市農地が急激に減少することを抑えるために設けられたのが、特定生産緑地制度です。平成29年の法改正により創設されたもので、生産緑地地区の都市計画決定後30年を経過するものについて、買取申出が可能となる時期を10年延長できます。

出典:国土交通省|生産緑地制度

申出基準日までに特定生産緑地として指定を受ければ、買取申出ができる時期は延期されます。具体的には、申出基準日から10年を経過する日以後、または農林漁業の主たる従事者が死亡した場合などに、買取申出ができるようになります。

出典:国税庁|No.4626 生産緑地の評価

ここで誤解しやすいのが、「30年経過=自動的に解除」ではない、という点です。特定生産緑地に指定しない場合であっても、買取申出の手続をとらなければ、生産緑地としての行為制限や営農義務はそのまま残ります。

出典:岡崎市|特定生産緑地制度

生産緑地の相続で最初に確認すべきこと

生産緑地を相続する場合、最初に確かめるべきことは、「その土地が本当に生産緑地かどうか」だけではありません。

少なくとも、次の事項を順番に確認していきます。

確認事項実務上の意味
生産緑地地区の指定の有無相続税評価・固定資産税・行為制限の前提
特定生産緑地の指定の有無買取申出可能時期、次世代の納税猶予、固定資産税に影響
告示年月日・申出基準日30年経過、10年延長、評価減割合の判定に必要
主たる従事者死亡・故障による買取申出可否、評価減割合に影響
現況利用農地として管理されているか、荒廃・転用状態がないか
農業承継者納税猶予、遺産分割、将来管理の中心
納税猶予の適用予定申告期限内分割、継続要件、打切りリスクに影響
売却・転用・貸付の意向買取申出、指定解除、譲渡税、納税資金に影響
他の相続人との公平性代償金、金融資産配分、遺留分、二次相続に影響

実際に農地のご相談をお受けするときも、相続発生前か発生後か、農地の所在地、都市計画上の区域、生産緑地または特定生産緑地の指定、告示年月日、農業従事者、予定している承継方法、納税猶予の有無といった点を整理してから、方針を検討していきます。

相続税評価の基本構造

生産緑地の相続税評価は、一般的な農地評価とは少し異なる構造をとります。

評価額は、その土地が生産緑地でないものとして評価した価額から、その価額に一定割合を乗じて計算した金額を控除して求めます。

出典:国税庁|No.4626 生産緑地の評価

算式で整理すると、次のとおりです。

生産緑地の評価額 = 生産緑地でないものとして評価した価額  - 生産緑地でないものとして評価した価額 × 控除割合

ここでいう「生産緑地でないものとして評価した価額」は、多くの場合、市街地農地としての評価額が基礎になります。市街地農地は、宅地比準方式または倍率方式によって評価します。

宅地比準方式では、その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額から、通常必要と認められる宅地造成費相当額を控除し、そこに地積を乗じて評価します。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第3節 農地及び農地の上に存する権利

したがって、生産緑地の評価では、いきなり控除割合だけに目を向けてはいけません。まず「生産緑地でなかった場合の市街地農地評価」を正しく算定する必要があります。

接道状況、形状、地積、宅地造成費、地積規模の大きな宅地の評価の適用可否――こうした点を確認しておかなければ、控除前の基礎価額そのものが狂ってしまうからです。

控除割合は「買取申出ができるまでの期間」で変わる

生産緑地の評価で要となるのが、控除割合です。

課税時期において市町村長に対し買取申出ができない生産緑地については、課税時期から買取申出ができる日までの期間に応じて、次の割合を控除します。

課税時期から買取申出可能日までの期間控除割合
5年以下10%
5年超10年以下15%
10年超15年以下20%
15年超20年以下25%
20年超25年以下30%
25年超30年以下35%

一方、課税時期においてすでに買取申出が行われていた生産緑地、または買取申出ができる生産緑地については、控除割合は5%です。

出典:国税庁|No.4626 生産緑地の評価

ここは、直感とは逆に感じられるかもしれません。買取申出ができる状態に近いほど、行為制限が解除される可能性が高いため、評価上の減額はかえって小さくなります。反対に、長期間にわたって買取申出ができず、利用制限が続く生産緑地ほど、控除割合は大きくなるのです。

そのため、特定生産緑地に指定するかどうかは、相続税評価にも影響します。指定によって買取申出可能時期が10年延長されると、課税時期から指定期限までの期間に応じて、控除割合が変わってくるからです。

主たる従事者が死亡した場合は95%評価になりやすい

相続の場面でとくに多いのが、被相続人ご自身が、その生産緑地の主たる従事者であったケースです。

被相続人がその生産緑地の主たる従事者であった場合、その土地は「買取りの申出をすることができる生産緑地」に該当します。したがって、生産緑地でないものとして評価した価額から5%を控除した額、つまり95%相当額で評価することになります。

出典:国税庁|No.4626 生産緑地の評価

質疑応答事例でも、生産緑地に係る主たる従事者が死亡したときの生産緑地の価額は、生産緑地でないものとして評価した価額の95%相当額で評価するものとされています。

出典:国税庁|生産緑地の評価

ですから、「生産緑地だから大きく評価減できる」と一律に考えてしまうのは、危険です。

相続開始の時点で、被相続人の死亡によって買取申出ができる状態になっていれば、控除割合は5%にとどまります。たとえ特定生産緑地に指定されていても、主たる従事者の死亡という買取申出事由が生じれば、評価上は「買取申出をすることができる生産緑地」として扱われる――この点には注意が必要です。

評価単位は「生産緑地」と「それ以外」を分ける

生産緑地の評価では、評価単位の捉え方も重要になります。

農地は原則として1枚の農地を評価単位としますが、市街地周辺農地、市街地農地、そして生産緑地については、それぞれ利用の単位となっている一団の農地を評価単位とします。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1節 通則

所有している農地を自ら使用している場合でも、その一部が生産緑地であるときは、生産緑地とそれ以外の部分を、それぞれ利用の単位となっている一団の農地として捉えます。

出典:国税庁|市街地農地等の評価単位

たとえば、同じ市街化区域内の畑が連続していても、一部が生産緑地、一部が一般の市街地農地であれば、評価単位を分ける必要があります。生産緑地には農地等として管理する制約があり、一般の市街地農地と同じ利用単位とはいえないからです。

実際の評価でも、生産緑地とそれ以外の部分が隣接する場合には、それぞれ利用の単位となっている一団の農地として別々に評価し、生産緑地部分には一定の斟酌率を用いて整理することになります。

特定生産緑地に指定するかどうかは、相続税だけで決めない

特定生産緑地に指定するかどうかは、相続税評価だけで判断すべきではありません。

特定生産緑地に指定すれば、買取申出可能時期が10年延長されます。評価の面では、課税時期から買取申出可能日までの期間が長くなるため、一定の評価減につながることがあります。ただしその反面、農地等としての管理義務や行為制限は、引き続き続きます。

一方、特定生産緑地に指定しない場合、30年経過後は買取申出が可能になります。とはいえ、買取申出をしない限り、生産緑地としての制限が当然に消えるわけではありません。さらに、指定しないことによって、固定資産税等の優遇や次世代の納税猶予に影響が生じることもあります。

実際、特定生産緑地に指定した場合には、固定資産税等の優遇措置を従来どおり受けられ、次世代の方が相続税の納税猶予の特例を受けて営農を継続できます。これに対し、指定しない場合には、次世代の方が相続税の納税猶予の特例を受けられなくなる、という違いがあります。

出典:岡崎市|特定生産緑地制度

したがって、特定生産緑地の判断にあたっては、次のような比較が欠かせません。

判断項目特定生産緑地に指定する場合指定しない場合
買取申出原則として10年延長。主たる従事者の死亡・故障があれば途中でも可能30年経過を理由に買取申出が可能
相続税評価買取申出可能日までの期間に応じた控除買取申出可能状態なら5%控除に近づく
固定資産税優遇継続が期待される宅地並み課税への移行に注意
納税猶予次世代での適用可能性を検討しやすい次世代の適用に制約が生じる可能性
土地活用制限が継続買取申出・解除後に活用余地
家族間公平農業承継者に有利に見えることがある売却・換価による分配を検討しやすい
将来管理農地管理を続ける体制が必要解除・売却・活用の検討が必要

指定することがつねに正しいわけでも、指定しないことがつねに有利なわけでもありません。誰が農地を管理するのか、相続人のなかに農業承継者がいるのか、納税資金は足りるのか、売却の予定はあるのか。これらを同時に見ていく必要があります。

買取申出は「売却予約」ではない

生産緑地の買取申出は、土地をすぐに自由売却できる制度ではありません。

生産緑地については、指定の告示の日から30年を経過する日以後、または主たる従事者が死亡した場合などに、市町村長に対して時価で買い取るべき旨を申し出ることができます。

出典:国税庁|No.4626 生産緑地の評価

買取申出をしたあとは、まず市町村が買い取るかどうかを判断します。買い取らない場合には、農業従事者へのあっせんが行われます。そのあっせんも成立せず、一定期間内に所有権の移転がなされなかったときに、ようやく行為制限が解除されます。実務でも、買取申出のあとは、市町村の判断、農業従事者へのあっせん、不調の場合の行為制限解除という流れを、一つひとつたどっていくことになります。

このため、相続税の納税資金として生産緑地の売却を見込んでいる場合には、申告期限との関係に注意が必要です。相続税の申告・納付期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内。買取申出から、解除、転用、売却活動、譲渡契約、代金決済までを考えたとき、相続税の納付に間に合うかどうかは、個別に検討しなければなりません。

「売れば納税できるはず」という見込みだけでは、危ういのです。

生産緑地と納税猶予の関係

生産緑地の相続では、農地等についての相続税の納税猶予を検討することがあります。

農業を営んでいた被相続人、または特定貸付け等を行っていた被相続人から、一定の相続人が一定の農地等を相続や遺贈によって取得し、農業を営む場合、または特定貸付け等を行う場合には、一定の要件のもとで、その農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額の納税が猶予されます。

出典:国税庁|No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例

納税猶予は、税額を単純に「免除する」制度ではありません。要件を満たして農業継続等を行っているあいだは、一定の税額の納税が猶予される、という仕組みです。要件を満たさなくなれば、猶予税額や利子税等の問題が生じることもあります。

詳細は納税猶予そのものを扱う記事で整理すべき論点になりますが、生産緑地の相続を判断する入口の段階では、少なくとも次の点を確認しておきます。

確認事項判断への影響
誰が農業相続人になるか適用可否、遺産分割、農業継続に影響
申告期限内に分割できるか納税猶予の手続に影響
対象農地の範囲納税猶予を受ける部分と売却予定部分を区分
生産緑地・特定生産緑地の指定状況都市農地としての適用関係に影響
将来の貸付予定認定都市農地貸付等の手続確認が必要
打切りリスク売却、転用、営農停止、相続人の事情に注意
他の相続人への説明農業承継者への集中承継が不公平に見えないか

納税猶予を受ける場合には、申告期限内の遺産分割、適格者証明、申告書への添付資料などを確認する必要があります。実務でも、農業相続人の要件、対象農地の要件、申告期限内の遺産分割、期限内申告、添付書類が、いずれも欠かせない確認事項になります。

生産緑地を貸す選択肢と納税猶予

生産緑地は、必ずしも相続人自身が耕作を続けなければならない、というわけではありません。制度上、一定の貸付けを行う場合にも、納税猶予との関係を検討できる場面があります。

平成30年9月、都市農地を対象とし、農地法の法定更新制度を適用除外とする新たな貸借制度として、「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」が施行されました。これに併せて、同法および特定農地貸付法に基づく生産緑地の貸借についても、相続税の納税猶予が適用されるようになっています。

出典:国土交通省|生産緑地制度

相続税の納税猶予の特例を受けている生産緑地地区内の農地について、一定の認定都市農地貸付け等を行った場合には、都市農地の貸付けの特例を継続する手続が用意されています。なお、その対象からは、買取申出がされたものや、特定生産緑地の指定の解除がされたものは除かれます。

出典:国税庁|B1-56 相続税の納税猶予の都市農地の貸付けの特例の届出手続

これは、後継者が自ら耕作できない場合の選択肢になり得ます。ただし、貸付けの形態、認定の有無、届出期限、納税猶予との関係を確認しないまま貸してしまうと、想定外の税務リスクを招きます。

「相続人が農業をしないから、売るしかない」と決めつける前に、貸付け、市民農園、認定都市農地貸付け、農地中間管理、農業者への承継といった道を検討する余地があります。もっとも、その際には、収益性、管理責任、契約期間、次世代への承継可能性も、あわせて確かめておかなければなりません。

生産緑地の土地活用は、解除後の税務まで見て判断する

生産緑地を将来的に活用しようとする場合、次のような流れが問題になります。

  1. 買取申出の事由があるか
  2. 市町村へ買取申出を行うか
  3. 市町村または農業従事者への取得あっせんが成立するか
  4. 行為制限が解除されるか
  5. 農地転用の届出・許可が必要か
  6. 売却するか、賃貸活用するか、自宅・事業用地にするか
  7. 譲渡所得税、固定資産税、不動産取得税、登録免許税等がどうなるか
  8. 相続税の納税猶予を受けていた場合、打切りや利子税が生じないか

市街化区域内の農地であっても、生産緑地地区の指定を受けている場合には、建築や宅地造成などに行為制限があり、転用や活用の前に、生産緑地の行為制限の解除が必要です。実務でも、生産緑地を転用して宅地造成や建築を行うには、買取申出を経て行為制限の解除を受け、そのうえで転用届を出して転用する、という順序をたどることになります。

土地活用を相続対策として検討する際には、相続税評価額だけを見るのでは足りません。賃貸経営の収益性、借入金、空室リスク、相続人の管理負担、そして将来の売却のしやすさまで見ておく必要があります。「生産緑地の指定を解除して賃貸住宅を建てれば相続税対策になる」という単純な判断は、危険なのです。

遺産分割で問題になりやすい点

生産緑地は、家族のあいだで不公平感が生まれやすい財産です。

理由は、現在の利用価値、相続税評価額、将来の宅地化価値、農業収益、固定資産税負担――これらが一致しにくいことにあります。

たとえば、農業後継者が生産緑地を取得し、納税猶予を受けて営農を続ける場合、その相続人に農地が集中します。他の相続人からすれば、「将来宅地化できる土地を一人が取得した」と映るかもしれません。逆に、農業後継者の側からは、「自分だけが営農義務、管理負担、転用制限、納税猶予の継続リスクを背負っている」と感じられることもあります。

このギャップを放置すると、遺産分割の場面で対立が生じやすくなります。

検討すべき論点は、次のとおりです。

論点確認すべきこと
農業後継者の負担営農継続、管理、固定資産税、将来の打切りリスク
他の相続人の公平感金融資産、代償金、生命保険、他の不動産とのバランス
将来の解除・売却売却益が出た場合の扱い、共有にするか単独取得にするか
納税資金納税猶予を使わない場合の現金納付可能性
二次相続次の相続で農業承継者がいるか
遺言の必要性農地を誰に承継させるか、代償財源をどうするか
共有回避共有にすると買取申出、売却、活用、管理で合意形成が難しくなる

生産緑地を「相続税評価額が低い土地」とだけ見てしまうと、分割の納得感を見誤ります。農地の承継では、相続財産の全体像、農業と他事業の割合、利用している補助金・税制、そしてご本人や相続人の意向をくみ取ったうえで、承継方法を検討していくことが大切です。

生産緑地を相続した後の手続

生産緑地を相続した場合、関係するのは相続税の申告だけではありません。複数の手続が絡んできます。

代表的なものとして、次のような手続・確認があります。

手続・確認内容
相続登記所有者変更の登記。相続登記義務化にも注意
農業委員会への届出相続により農地を取得した場合の届出
生産緑地変更届等所有者変更を市町村へ届ける必要がある自治体がある
主たる従事者証明死亡・故障による買取申出に必要となることがある
特定生産緑地の指定状況確認指定済みか、指定期限日、延長時期
納税猶予の適格者証明納税猶予を検討する場合
相続税申告評価、納税猶予、添付資料、期限管理
固定資産税の確認指定・解除・特定指定の有無による課税変化
売却・転用の可否買取申出、解除、農地転用、都市計画制限

生産緑地を相続した場合には、不動産の所有権移転登記だけでなく、農業委員会への届出や、生産緑地の所有者変更を示す届出を市町村に提出する、といった実務が伴います。売却を考えているなら、指定解除のために市町村への買取申出が必要になる点も見落とせません。

手続の名称や必要書類は、自治体によって異なります。そのため、申告作業と並行して、都市計画課、農業委員会、固定資産税の担当課、税務署、司法書士、不動産関係者と確認を重ねていく必要が出てくることもあります。

相談前に整理しておきたい資料

生産緑地の相続税評価や承継の判断では、資料が足りないと検討そのものが前に進みません。とりわけ、告示日、指定状況、主たる従事者、現況、納税猶予の有無は重要です。

資料確認する内容
登記事項証明書所有者、地目、地積、共有、担保権
公図・地積測量図筆の位置、形状、隣接地、生産緑地部分の範囲
固定資産税課税明細書・名寄帳固定資産税評価額、課税地目、税負担
生産緑地指定図・都市計画図生産緑地地区の範囲、指定番号
生産緑地の告示年月日資料申出基準日、30年経過の判定
特定生産緑地の指定通知指定の有無、指定期限日、延長時期
農地台帳・全国農地ナビ情報耕作者、利用状況、農地区分
主たる従事者証明関係資料買取申出の事由確認
現地写真耕作状況、荒廃、建物、資材置場、接道
相続税評価資料路線価、倍率表、宅地造成費、評価明細
納税猶予資料過去の適用状況、継続届出、適格者証明
遺言書・遺産分割案誰が農地を取得するか、代償金の有無
農業収支資料確定申告書、農業収入、経費、農機具
貸付契約・利用権設定資料認定都市農地貸付け、市民農園、賃貸借
売却・活用検討資料不動産査定、開発条件、接道、インフラ

農地の区域区分、生産緑地法上の規制、告示年月日、特定生産緑地の指定、現況利用は、農地台帳、全国農地ナビ、市町村の都市計画課、現地確認などを組み合わせて確かめていきます。現地では、実際に耕作されているか、雑草が繁茂していないか、廃棄物が投棄されていないか、建物が建っていないかを確認し、写真を残しておくことも大切です。

生産緑地で避けたい短絡的判断

「生産緑地だから評価額は大きく下がる」と考える

相続開始時に主たる従事者が亡くなっていれば、買取申出ができる生産緑地として5%控除、すなわち95%評価になることがあります。評価減の大きさは、買取申出可能日までの期間によって変わります。

「30年経ったから自由に売れる」と考える

30年経過後も、買取申出の手続をとらなければ、行為制限は当然には消えません。特定生産緑地に指定しない場合でも、生産緑地のまま管理義務が残ることがあります。

「納税猶予を使えば安心」と考える

納税猶予は、要件を満たしているあいだ、納税が猶予される制度です。将来の売却、転用、営農停止、貸付方法、相続人の事情によっては、猶予税額や利子税の問題が生じることがあります。

「とりあえず共有」にする

共有にすると、買取申出、売却、貸付、転用、土地活用、管理費の負担をめぐって、相続人間の合意が必要になりがちです。生産緑地は将来の選択肢が多い土地であるだけに、共有は慎重に検討すべきです。

「解除して賃貸物件を建てれば相続税対策になる」と考える

賃貸建物の建築は、借入金、収益性、空室、修繕、相続人の管理能力、将来の売却のしやすさを確かめたうえで判断すべきものです。評価減だけを目的にすると、相続人に経営リスクを残してしまうことがあります。

「農業後継者だけで決めればよい」と考える

生産緑地は、農業後継者の生活や事業だけでなく、他の相続人の取得財産、遺留分、代償金、納税資金にも影響します。承継者だけでなく、家族全体に対して説明できるかどうかが重要です。

判断手順|生産緑地の相続で何を比較するか

生産緑地の相続では、次の順番で整理していくと、判断がしやすくなります。

1. 制度上の状態を確認する

生産緑地か特定生産緑地か、申出基準日はいつか、指定期限日はいつか、買取申出ができる状態か。ここで、評価減割合、固定資産税、納税猶予、売却可能性の前提が決まります。

2. 評価額を試算する

生産緑地でないものとしての価額を算定し、控除割合を反映します。市街地農地評価、宅地造成費、地積規模の大きな宅地の評価、評価単位を確認します。

3. 納税猶予を使うか検討する

農業相続人がいるか、申告期限内に分割できるか、継続できるか、貸付けという選択肢があるかを検討します。納税猶予を使う場合と使わない場合とで、税額や資金繰りを比較します。

4. 遺産分割方針を決める

農業後継者に集中させるのか、代償金を支払うのか、他の財産で調整するのか、それとも売却・換価するのか。税額だけでなく、家族間の納得感も確かめます。

5. 将来方針を確認する

農業継続、貸付け、市民農園、買取申出、解除、売却、賃貸活用、次世代承継――どれを目指すのかを整理します。将来方針があいまいなまま納税猶予や分割を決めてしまうと、後で動きにくくなります。

6. 証拠と判断過程を残す

評価資料、指定資料、役所での確認メモ、現地写真、相続人への説明資料、税額比較、納税資金の検討資料を残しておきます。相続税の申告後に税務調査や家族間での説明が必要になったとき、判断の根拠を示せることが大切です。

まとめ|生産緑地の相続は「守る・売る・貸す・引き継ぐ」の比較が必要

生産緑地・特定生産緑地の相続では、相続税評価だけを切り出して判断してはいけません。

生産緑地は、市街化区域内にある都市農地でありながら、農地等としての管理義務と行為制限を受ける土地です。その制限が相続税評価に反映される一方で、買取申出ができる時期、主たる従事者の死亡、特定生産緑地の指定、納税猶予、固定資産税、将来の活用が、複雑に関係し合います。

とくに重要なのは、次の5点です。

  1. 生産緑地か特定生産緑地か、告示日・申出基準日を確認する
  2. 相続開始時に買取申出ができる状態かを確認する
  3. 評価額だけでなく、納税猶予と納税資金を比較する
  4. 農業後継者と他の相続人の公平性を整理する
  5. 将来の売却・貸付け・土地活用まで見据える

生産緑地を「節税になる土地」とだけ見てしまうと、承継後の管理、納税猶予の継続、家族間の不公平感、売却時期、二次相続といった場面で問題が生じます。大切なのは、評価額を下げることではありません。その評価と承継方針を、資料・法令・家族関係・将来方針にもとづいて説明できる状態にしておくことです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、生産緑地・特定生産緑地を含む相続税申告、生前対策、農地承継、納税猶予、土地評価、遺産分割の整理について、税務・法務・不動産の実務を横断しながら検討します。生産緑地の評価額が分からない、特定生産緑地に指定すべきか迷っている、農業後継者がいない、納税猶予と売却のどちらを選ぶべきか悩んでいる――そうした場合は、まず指定資料・固定資産税資料・農地台帳・相続人関係を整理する段階から、ご相談ください。

振り返り

論点重要ポイント実務上の確認事項
生産緑地市街化区域内の農地等を都市計画で保全する制度指定図、告示日、都市計画資料
特定生産緑地買取申出可能時期を10年延長する制度申出基準日、指定期限日、延長の有無
行為制限建築、宅地造成、土地形質変更等に制限市町村長の許可、解除前の活用不可
評価方法生産緑地でないものとして評価した価額から一定割合を控除市街地農地評価、宅地造成費、評価単位
控除割合買取申出可能日までの期間で変わる5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%
主たる従事者死亡買取申出可能状態となり、95%評価になりやすい主たる従事者証明、死亡日、営農実態
評価単位生産緑地と一般市街地農地は分ける一団の農地、生産緑地部分、一般農地部分
買取申出30年経過、主たる従事者死亡・故障などで可能市町村判断、あっせん、3か月、制限解除
納税猶予農業継続等を前提に相続税の納税を猶予農業相続人、対象農地、申告期限内分割
特定指定しない場合次世代納税猶予・固定資産税・買取申出に影響指定しない理由、売却・活用方針
貸付け認定都市農地貸付け等で選択肢が広がる場合がある届出期限、契約形態、納税猶予との関係
遺産分割農業後継者への集中承継と公平性が問題代償金、金融資産、遺言、二次相続
土地活用解除後の賃貸・売却は収益性と税務を確認譲渡所得、固定資産税、借入、空室リスク
相談前資料指定・評価・現況・承継意思の資料が必要登記、公図、固定資産税、農地台帳、現地写真
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