名義預金と税務調査で確認されるポイント|相続財産と判断されないための実務整理

家族名義の預金をめぐっては、相続税申告の場面で、次のような不安をよく耳にします。

  • 「子ども名義の通帳に入っているお金は、子どもの財産として扱ってよいのか」
  • 「毎年110万円以内で贈与してきたつもりだが、相続税の調査で否認されないか」
  • 「配偶者名義の預金は、夫婦の生活の中で自然に作られたものだから、問題ないのではないか」
  • 「通帳の名義が孫であれば、相続財産から外してよいのではないか」

これらはいずれも、「名義」と「実質的な所有者」を切り分けて考える必要がある論点です。

相続税の対象になる財産は、亡くなった方の名義になっている財産だけにとどまりません。相続税がかかる本来の相続財産には、現金、預貯金、有価証券、土地、家屋などのほか、金銭に見積もることができる経済的価値のあるものがすべて含まれます。

出典:国税庁|No.4105 相続税がかかる財産

ですから、預金口座の名義が配偶者・子・孫であっても、その預金の実質的な所有者が被相続人だと判断されれば、相続税申告ではその預金を被相続人の相続財産に含める必要が出てきます。実務でも、名義預金や名義株は、形式上の名義ではなく、実質的な所有者の財産として相続税が課税されるものと整理されています。

この記事では、名義預金について、税務調査でどこが確認されるのか、相続税申告の前に何を整理しておくべきか、生前贈与を行う場合にはどのような証拠を残しておくべきかを、実務で判断していく順序に沿って整理していきます。

目次

名義預金とは何か

名義預金とは、口座の名義は配偶者・子・孫などになっているものの、実質的には被相続人の財産と認められる預金をいいます。

典型的なのは、親や祖父母が子や孫の名義で口座を作り、そこへ自分の資金を入金したうえで、通帳・印鑑・キャッシュカードを自分の手元で管理し続けているケースです。

このとき、口座の表面上は子や孫の名義であっても、子や孫がその預金の存在を知らなかった、自由に引き出せなかった、贈与を受けたという認識がなかった、といった事情があれば、税務上は「子や孫の財産」ではなく「被相続人の財産」と判断される可能性があります。

実務では、親が子ども名義で預金通帳を作り、本人としては贈与したつもりであっても、子どもがその通帳の存在を知らない場合、あるいは知っていても自由に出し入れできない場合には、その預金は実質的にまだ親に帰属していると判断され、贈与はなかったものとして扱われることがあります。

ここで押さえておきたいのは、名義預金の問題は「贈与税が時効になったかどうか」という話ではない、ということです。そもそも贈与が成立していないと判断される場合には、過去の贈与税の問題ではなく、相続開始の時点まで被相続人が所有していた財産として、相続税の課税対象になります。

税務調査で名義預金が問題になりやすい理由

名義預金は、相続税の税務調査で確認されやすい代表的な論点のひとつです。

国税庁が公表した令和6事務年度の相続税調査等の状況によれば、相続税の実地調査件数は9,512件、申告漏れ等の非違件数は7,826件、追徴税額の合計は824億円とされています。

出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

同じ資料では、令和6事務年度の申告漏れ相続財産のうち、現金・預貯金等が837億円、構成比は29.1%を占めています。土地や有価証券と比べても、現金・預貯金等は申告漏れとして確認されやすい財産類型だといえます。

出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

さらに、国税庁の調査事例には、相続開始の前に被相続人の口座残高が相続税の基礎控除以下になるよう、相続人やその家族名義の口座へ預金を移し、相続税の納税を免れようとしたケースが紹介されています。この事例では、被相続人名義の預金口座から相続人・家族名義の口座へ多額の預金が移動していた事実が把握され、相続人や家族の側の預金原資が確認されています。

出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

つまり、名義預金は「税務署に見つかるかどうか」という次元の話ではありません。金融機関の入出金履歴、家族名義口座への資金移動、過去の贈与税申告、相続人の所得状況、通帳・印鑑の管理状況などを突き合わせていくと、実質的な所有者についての説明を求められやすい財産なのです。

名義預金かどうかは「名義」ではなく総合判断で決まる

名義預金にあたるかどうかは、ひとつの要素だけで結論が決まるわけではありません。

実務では、次のような事実を総合的に確認していきます。

確認項目税務上の意味
資金原資その預金を作ったお金を誰が負担したか
口座開設の経緯名義人本人が口座開設に関与したか
名義人の認識名義人が預金の存在を知り、自分の財産と認識していたか
通帳・印鑑・カードの管理名義人が自由に管理・処分できる状態だったか
入出金の実態名義人自身が使っていたか、被相続人が動かしていたか
贈与契約の有無贈与者・受贈者双方の意思が客観的に残っているか
贈与税申告・納税必要な申告が受贈者本人により行われているか
利息・配当・運用益収益を誰が享受していたか
名義人の所得・資力名義人自身の所得から形成できる預金額か
家族関係・生活実態生活費、扶養、財産管理の実態と整合するか

実務上、被相続人以外の名義になっている財産が相続開始時に被相続人へ帰属するかどうかは、財産や購入原資を出した人、財産の管理・運用の状況、その財産から生じる利益が誰のものになっているか、名義人がその名義を持つに至った経緯などを、総合的に考慮して判断されます。

預貯金の場合、名義預金にあたるかどうかは、被相続人が資金を出しているかどうかだけで決まるものではありません。名義人がその預金の存在を知らされていない、管理・運用が名義人によって行われていない、銀行印を名義人が管理していない、贈与証書が作成されていない、といった周辺の事情も含めて判断されます。

贈与が成立しているかを最初に確認する

名義預金の多くは、もともと「贈与したつもり」だった財産です。

しかし、民法上、贈与はあくまで契約です。贈与者が財産を無償で与える意思を示し、受贈者がそれを受諾することで、はじめて効力が生じます。

出典:e-Gov法令検索|民法

したがって、親が一方的に「子どものために」と考えて子ども名義の口座を作っただけでは足りません。子どもが贈与を受けたことを認識し、受諾しているのでなければ、贈与契約が成立しているとはいえないのです。

この点でよくある誤解が、次の3つです。

誤解実務上の注意点
口座名義を子にすれば贈与になる名義変更や口座作成だけでは足りず、贈与者・受贈者双方の意思確認が必要
110万円以下なら何もしなくてよい贈与税がかからないことと、贈与の事実を証明できることは別問題
贈与税申告をしていれば必ず安全申告があっても、受贈者が贈与を認識・管理していない場合は実質判断を受ける

暦年課税では、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計が110万円以下であれば贈与税はかからず、この場合は贈与税の申告も不要とされています。

出典:国税庁|No.4402 贈与税がかかる場合

ただし、贈与税の申告が不要だということは、将来の相続税調査で贈与の事実を説明しなくてよい、という意味ではありません。毎年110万円以下であっても、贈与契約・資金移動・管理状況・受贈者の認識を説明できなければ、名義預金と判断される可能性が残ります。

また、たとえ贈与税申告をしていたとしても、受贈者が贈与を受諾していない、親が子ども名義の口座を管理している、子どもが財産を自由に使えない、といった事情があれば、民法上の贈与は成立していないとして、親の相続財産と判断されることがあります。

通帳・印鑑・キャッシュカード・アプリの管理は重視される

名義預金の判断で特に重きが置かれるのが、誰がその預金を管理していたか、という点です。

紙の通帳と銀行印が中心だった時代には、「通帳と印鑑を誰が持っていたか」が大きな意味を持っていました。現在はこれに加えて、キャッシュカード、暗証番号、インターネットバンキングのID・パスワード、スマートフォンアプリ、ワンタイムパスワード、登録メールアドレス、登録電話番号なども、確認の対象になります。

たとえば、次のような状態では、名義人の財産としての実態が弱くなります。

状況問題になる理由
通帳・印鑑を親が保管している名義人が自由に処分できない
キャッシュカードを親が持っている名義人が日常的に利用していない
暗証番号を親しか知らない名義人本人の管理実態がない
取引明細を親だけが確認している名義人が財産として把握していない
贈与後も親が定期預金の満期手続をしている親が運用管理を継続している
名義人が口座の存在を相続後に初めて知った贈与の受諾が疑われる

裁決例を踏まえた実務上の整理でも、子ども名義の定期預金証書が作成され、その証書が子どもに渡されていたとしても、届出印を贈与者が管理し続けていたために、定期預金について確定的な移転があったとまではいえず、贈与が履行されたとは認められなかった、という事例が知られています。

ですから、名義預金のリスクを下げるには、「お金を移した」というだけでは不十分です。贈与のあとは、受贈者が自分の財産として管理し、必要に応じて使える状態になっていることが大切になります。

資金原資は最も基本的な確認事項

税務調査では、まず資金原資が確認されます。

預金の名義人が子や孫であっても、その人に預金額に見合う所得、贈与、相続、退職金、売却収入などがなければ、その資金をどこから得たのかを説明しなければなりません。

確認されやすい資料は、次のとおりです。

資料確認内容
被相続人の通帳・取引履歴出金日、出金額、振込先、現金引出し
名義人の通帳・取引履歴入金日、入金額、入金元、利用状況
名義人の所得資料給与、事業所得、不動産所得、年金、退職金
過去の贈与契約書贈与者・受贈者、金額、日付、方法
贈与税申告書申告者、申告内容、納税原資
生命保険・証券口座資料預金から他資産へ移った可能性
家族間貸付資料贈与ではなく貸付である場合の契約・返済実績

とりわけ、被相続人の口座から同日に同額が出金され、その同日または近い日に子や孫名義の口座へ入金されている場合には、その移動の理由が問われます。贈与であれば、贈与契約・受諾・受贈者による管理の実態を説明する必要があります。貸付であれば、契約書・返済予定・利息・返済実績を確認することになります。そして、単なる名義の付け替えにすぎなければ、被相続人の財産として申告の対象になります。

贈与契約書は有効な証拠だが、それだけでは足りない

名義預金への対策として、贈与契約書を作成しておくことは重要です。

贈与契約書には、一般に次の事項を記載します。

記載事項実務上の意味
贈与者・受贈者の住所氏名当事者を明確にする
契約日いつ合意したかを明確にする
贈与実行日いつ財産を移転するかを明確にする
贈与財産の内容・金額対象財産を特定する
実行方法どの口座からどの口座へ移すかを明確にする
当事者の署名押印双方の意思確認を示す
確定日付作成時期の客観性を補強する

実務でも、贈与契約書には、贈与者・受贈者、契約締結日、贈与の実行日と方法、贈与財産の種類と金額を明確に記載し、金銭の贈与では贈与者名義の口座から受贈者名義の口座へ振り込んで、通帳に記録を残しておくことが有効とされています。

ただし、贈与契約書だけを作っておきながら、実際には親が通帳・印鑑を管理し、子や孫が自由に使えない状態のままであれば、実態が伴っていないと判断されるおそれがあります。

証拠は「点」ではなく「線」で考えることが大切です。

証拠役割
贈与契約書贈与の合意を示す
振込記録財産移転の事実を示す
受贈者管理の通帳・カード受贈者が支配していることを示す
受贈者による利用履歴自分の財産として使っていることを示す
贈与税申告書税務上も贈与として扱ったことを示す
納税資金の出所受贈者自身が納税したことを示す
利息・配当の帰属収益を受贈者が享受していることを示す

贈与の事実を説明するには、契約書・資金移動・管理実態・申告・利用状況が、互いに一貫していることが重要になります。

贈与税申告をすれば名義預金リスクが消えるわけではない

贈与税の申告は、贈与の事実を示す有力な資料になります。

しかし、贈与税申告をしているからといって、それだけで名義預金と判断されなくなるわけではありません。

たとえば、親が子どもに知らせないまま、子ども名義の口座へ120万円を移し、親が子どもに代わって贈与税申告書を作成し、贈与税まで親の資金で納めていたような場合には、子どもが贈与を受けたことを認識・受諾していたかどうかが問題になります。

実務上も、贈与税の申告書を提出していれば保険料等の現金贈与がすべて認められる、というわけではありません。贈与契約書、申告書、保険料控除の状況、そのほか贈与の事実が認められる資料を総合して判断する、という整理がなされています。

贈与税申告は心強い補強資料ではあるものの、あわせて次のような点も確認されます。

確認事項注意点
誰が申告書を作成したか親が一方的に作成していないか
誰が贈与税を納付したか受贈者本人の資金で納付されているか
受贈者は申告内容を理解していたか名義だけの申告になっていないか
申告と資金移動が一致しているか金額・日付・口座に整合性があるか
その後の財産管理は誰がしたか親が管理を継続していないか

配偶者名義の預金も慎重に確認する

名義預金は、子や孫の名義の口座だけにかかわる問題ではありません。配偶者名義の預金でも、同じように問題になります。

特に、夫婦の一方に収入が集中していて、もう一方の名義で多額の預金が形成されている場合には、その資金原資が確認されます。

ただし、「専業主婦・専業主夫の名義だから、すべて名義預金だ」と短絡的に決めつけるのは適切ではありません。配偶者自身の過去の給与、退職金、相続財産、親族からの贈与、婚姻前から持っていた財産、生活費を節約して積み立てた分など、その形成の過程を丁寧にたどる必要があります。

整理しておきたい観点は、次のとおりです。

観点確認内容
配偶者自身の収入給与、年金、退職金、事業収入
配偶者自身の取得財産相続、贈与、売却代金
生活費口座との関係生活費として受け取った資金の残額か
管理者配偶者本人が通帳・カードを管理していたか
利用実態配偶者自身の支出、運用、定期預金作成があるか
被相続人の関与被相続人が入出金・運用を指示していたか

夫婦の間では、生活費のやり取りが日常的に行われます。そのため、すべてを贈与や名義預金として機械的に処理するのではなく、家計の実態、資金の性質、残高がどう積み上がってきたのかを切り分けて整理することが大切です。

未成年の子や孫への贈与では、より慎重な証拠化が必要になる

未成年の子や孫への預金移転では、受贈者本人が契約や財産管理をどの程度理解していたかが問題になります。

未成年者であっても贈与を受けることはできますが、親権者が関わる場合には、贈与者・親権者・受贈者の関係に注意が必要です。

たとえば、祖父母から孫へ贈与するケースでは、次の点を整理しておきます。

確認項目注意点
贈与契約書親権者の関与を含めて作成する
口座管理受贈者のために管理されていることを説明できるようにする
資金の使途教育費、将来資金、本人のための支出かを記録する
贈与税申告必要な場合、誰が内容を確認したかを残す
親の私的流用防止親の生活費や他の家族の資金と混同しない

未成年者名義の預金であっても、実質的に親や祖父母の管理下に置かれ、本人のために独立して管理されていない場合には、名義預金として疑われる余地が残ります。

運用収益の帰属も確認される

名義預金の判断では、元本だけでなく、そこから生じる利息や運用収益も確認されます。

預金利息は少額であることが多いものの、定期預金、外貨預金、投資信託、上場株式、保険商品へと資金が移っている場合には、その収益が誰のものになっているかが重要になります。

たとえば、子ども名義の証券口座で運用されている金融商品について、購入資金は親が出し、売買の判断も親が行い、配当金や分配金も親が管理していたとすれば、単に証券口座の名義が子どもだというだけでは、子どもの財産だと説明することは難しくなります。

名義預金から、名義株式・名義投資信託・名義保険へと資金が移っていることもあります。だからこそ、金融資産は口座単位ではなく、資金の流れとして確認していく必要があるのです。

相続税申告で名義預金を見落とすと、遺産分割にも影響する

名義預金が相続財産に含まれると判断された場合、その影響は相続税だけにとどまりません。遺産分割にも及びます。

たとえば、相続人の1人の名義になっていた預金が、実質的には被相続人の財産だとされた場合、その預金を誰が取得するのかを、遺産分割であらためて整理する必要が出てきます。

当初の遺産分割協議が成立したあとで、名義預金が相続財産であることが判明した場合には、その名義預金は当初の協議の時点で分割の対象として想定されていなかったものとして、別途、遺産分割協議を行うことが考えられます。

また、相続財産が未分割のままでも、相続税の申告期限が延びるわけではありません。相続財産が分割されていない場合でも、相続税の申告は期限までに行う必要があり、分割協議が成立していないときは、民法上の相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして計算し、申告することになります。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

つまり、名義預金は「申告漏れになるかどうか」だけの問題ではないということです。

誰が取得するのか、代償金をどう調整するのか、他の相続人にどう説明するのか、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例とどう整合させるのか――こうした相続全体の設計にまで、影響が広がっていきます。

相続税申告前に確認すべき預金調査の進め方

名義預金のリスクを確認するには、被相続人名義の預金だけを見ていても十分とはいえません。

相続税申告の前には、次の順序で確認していくと整理しやすくなります。

1. 被相続人名義のすべての口座を確認する

普通預金、定期預金、外貨預金、ネット銀行、証券連携口座、しばらく動いていない口座まで含めて確認します。

このとき、残高証明書だけでなく、過去の取引履歴も重要な手がかりになります。相続開始日の時点では残高が少なくても、それ以前に多額の出金や家族名義口座への移動があれば、その使途を説明する必要があるからです。

2. 家族名義口座への資金移動を確認する

配偶者、子、孫、同居の親族、後継者、親族会社の関係者などの口座へ、被相続人から資金が移っていないかを確認します。

特に、毎年同じ額、誕生日や年末、相続開始前の数年間、入院・施設入所の前後、認知症が疑われる時期などに行われた資金移動については、贈与・生活費・貸付・名義預金のいずれにあたるのかを、慎重に区分する必要があります。

3. 現金引出しの使途を確認する

被相続人の口座から多額の現金が引き出されている場合には、その現金が何に使われたのかを確認します。

医療費、介護費、生活費、住宅改修費、葬儀関連費用、生前贈与、貸付、現金での保管など、使途を分けて整理していきます。領収書や請求書が残っていない場合でも、時期・金額・生活状況・家族の証言をもとに、説明用のメモを作っておくことが大切です。

国税庁の調査事例でも、相続開始前に引き出された多額の現金について使途を確認したところ、相続人宅の金庫内から多額の現金が見つかった、というケースが紹介されています。

出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

4. 贈与の証拠を確認する

過去に贈与を行っている場合には、贈与契約書、振込記録、贈与税申告書、受贈者による管理状況、受贈者の利用実績を確認します。

贈与税申告が不要な110万円以下の贈与であっても、贈与契約書や振込記録が残っていれば、相続税申告の際の説明資料になります。

5. 名義人自身の資産形成能力を確認する

名義人自身の所得、相続、贈与、退職金、保険金、資産の売却などから、その預金残高を形成できたかどうかを確認します。

名義人に収入がない場合、あるいは収入に比べて預金額が不自然に大きい場合には、その資金原資を具体的に説明できるよう備えておく必要があります。

生前贈与として成立させたい場合の実務ポイント

名義預金と判断されないためには、「贈与したつもり」で終わらせず、「贈与が成立し、その後も受贈者の財産として管理されている状態」を作っておくことが必要です。

実務上のポイントは、次のとおりです。

項目望ましい対応
贈与の意思確認贈与者・受贈者双方が贈与内容を理解し、合意する
贈与契約書毎年の贈与ごとに作成し、当事者が自署する
資金移動贈与者口座から受贈者口座へ振込で移す
通帳・カード管理受贈者本人が管理する
印鑑・暗証番号受贈者本人が管理・把握する
贈与税申告必要な場合は受贈者本人が申告・納税する
利用実態受贈者が自分の財産として利用・運用する
記録保存契約書、通帳、申告書、利用記録を保存する

毎年の贈与については、贈与契約書を作成して贈与者と受贈者の双方が自署し、贈与者の口座から受贈者名義の口座へ送金した事実がわかる通帳を保存し、さらに受贈者本人が通帳を管理する実態を整えておくことが重要です。

一方で、特に避けたいのは、次のような対応です。

避けるべき対応理由
子に知らせず口座を作る受贈者の受諾がない
親が通帳・印鑑を保管する受贈者の管理実態がない
毎年同額を機械的に移すだけ贈与ごとの意思確認が弱い
贈与税申告だけ親が行う受贈者本人の関与が不明確
贈与後も親が運用判断をする財産支配が移転していない
相続直前に多額を移す相続財産の移転として調査対象になりやすい

名義預金が疑われる場合に無理に除外しない

相続税申告にあたって、名義預金に該当する可能性のある財産が見つかった場合、最も避けるべきなのは、「名義が違うから申告しない」という判断です。

名義預金の可能性がある場合には、次のように整理していきます。

状況申告前の対応
贈与契約書があり、受贈者が管理している贈与成立を説明する資料を整理する
贈与契約書はないが、受贈者が認識・管理している資金移動、利用実態、名義人の認識を確認する
名義人が存在を知らない名義預金として相続財産に含める方向で検討する
親が通帳・印鑑を管理していた贈与成立の説明は慎重に行う
相続開始前に多額移動がある移動理由、使途、贈与・貸付・生活費の区分を整理する
相続人間で認識が異なる税務だけでなく遺産分割の整理も必要

相続税申告では、判断に迷う財産をそのまま申告から外すのではなく、財産性・帰属・評価・分割・資料の有無を整理したうえで、申告に含めるか含めないか、リスクをどう説明するかを判断していきます。

名義預金と税務調査で説明できるように準備すべき資料

名義預金が問題になりそうな場合には、次の資料を整理しておくと、申告前の検討や専門家への相談がスムーズに進みます。

資料確認目的
被相続人の全口座の残高証明書相続開始日時点の財産確認
被相続人の過去の取引履歴生前の資金移動、現金引出しの確認
家族名義口座の通帳・履歴被相続人からの入金、管理実態の確認
贈与契約書贈与意思・受諾の確認
贈与税申告書・納付書税務上の贈与処理の確認
名義人の所得資料資金形成能力の確認
通帳・印鑑・カードの保管状況メモ管理者の確認
生活費・医療費・介護費の領収書現金引出しの使途確認
生命保険・証券口座資料預金から他資産への移動確認
相続人間の説明メモ遺産分割上の納得形成

特に、相続開始前に、高齢の方の預金から多額の引出しがある場合には、認知症や判断能力の問題、家族による預金管理、介護費・生活費の支払い、贈与の有効性といった論点が重なり合います。認知症が疑われる親の預貯金の引出しや財産管理では、本人の意思と権限の確認が欠かせず、親族間の紛争や税務調査につながることもあります。

名義預金は「節税」ではなく「説明可能性」の問題である

名義預金の問題は、単に税務調査で指摘されるかどうか、というだけのものではありません。

本質的には、次の問いに答えられるかどうかにかかっています。

「このお金は、誰が稼ぎ、誰が管理し、誰が使うことができ、誰の財産として家族が認識していたのか」

この問いに答えられないまま、家族名義の預金を相続財産から外してしまうと、相続税申告だけでなく、遺産分割、相続人間の公平、二次相続、納税資金、税務調査への対応まで、すべてが不安定になりかねません。

名義預金を整理するうえでは、次の順序が大切になります。

  1. まず、資金原資を確認する
  2. 次に、贈与契約の成立を確認する
  3. そのうえで、管理・運用・利用の実態を確認する
  4. 必要に応じて、相続財産に含めるかどうかを判断する
  5. 相続人間で、誰が取得する財産として扱うかを整理する
  6. 申告後にも説明できる資料を残す

相続対策では、税額の軽減だけでなく、争族の防止、納税資金、申告実務を一体のものとして考える必要があります。名義預金も、これと同じです。形式的に名義を変えることよりも、家族関係と税務の双方に耐えられる整理ができているかどうかを、重視すべきだと考えます。

名義預金に不安がある場合のご相談について

家族名義の預金がある場合、通帳の名義だけを見て判断することはできません。

資金原資、贈与契約、受贈者の認識、通帳・印鑑・カードの管理、過去の贈与税申告、家族名義口座への資金移動、現金引出しの使途、そして遺産分割への影響まで、総合的に確認していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、名義預金を単なる申告漏れのリスクとして扱うのではなく、財産調査、贈与履歴、相続人間の公平、納税資金、申告後の説明可能性まで含めて整理いたします。

「親が作ってくれた自分名義の通帳がある」「毎年贈与していたつもりだが、証拠に不安がある」「相続開始前に家族名義口座へ資金移動がある」「配偶者名義の預金をどう扱えばよいかわからない」――そうした場合には、通帳・取引履歴・贈与契約書・贈与税申告書などをもとに、できるだけ早い段階でご相談いただければと思います。

この記事の重要ポイント

論点振り返り
名義預金の基本口座名義ではなく、実質的な所有者で判断される
相続税の対象家族名義でも実質的に被相続人の財産であれば相続財産に含める
贈与の成立贈与者の意思表示と受贈者の受諾が必要
110万円以下の贈与贈与税がかからないことと、贈与を証明できることは別問題
贈与税申告有力な証拠にはなるが、申告だけで名義預金リスクが消えるわけではない
資金原資誰がその預金を形成したかが最も基本的な確認事項
管理状況通帳、印鑑、カード、暗証番号、ネットバンキングを誰が管理していたかが重要
名義人の認識名義人が預金の存在を知り、自分の財産として認識していたかが確認される
運用収益利息、配当、分配金などを誰が享受していたかも判断材料になる
配偶者名義預金配偶者自身の収入・相続・贈与・生活実態を確認する必要がある
未成年者名義預金親権者の関与、本人のための管理、使途の記録が重要
遺産分割への影響名義預金が相続財産になると、誰が取得するかを分割で整理する必要がある
税務調査対応家族名義口座への資金移動、現金引出し、贈与証拠、管理実態を説明できるようにする
生前対策名義を変えるだけでなく、契約・振込・受贈者管理・記録保存を一貫させる
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