金融商品の減損・評価損|日本基準における有価証券評価損の判断軸と監査対応

金融商品の評価損は、決算終盤になって一気に争点化しやすい論点です。

上場株式の時価が大きく下落している。保有債券の発行体で信用リスクが悪化している。非上場株式の発行会社が債務超過に近づいている。子会社株式の取得時に見込んだ事業計画が未達になっている。その他有価証券評価差額金に含み損が累積している。

こうした場面で必要になるのは、「評価損を計上するかどうか」という結論だけではありません。保有目的区分、時価の有無、下落率、下落期間、発行体の財政状態、回復可能性の根拠、税効果、注記、監査証拠までを一体で整理し、後から説明できる判断過程を残しておくことです。

本稿では、日本基準を前提に、金融商品の減損・評価損のうち、特に有価証券に関する実務上の判断論点を整理します。なお、金銭債権の貸倒引当金・償却原価は本シリーズ「4-3. 金銭債権・貸倒引当金・償却原価」で扱いますので、ここでは上場有価証券、非上場株式、債券、子会社株式・関連会社株式を中心に取り上げます。

もう一点、前提として触れておきたいことがあります。ASBJは、予想信用損失モデルに基づく金融資産の減損および金融商品の分類・測定について、2025年10月29日に企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」等を公表しました。2026年2月6日にコメントを締め切り、2026年6月時点では寄せられたコメントへの対応を検討している状況です。

本稿は現行の日本基準を前提に整理していますが、実際の決算対応にあたっては、対象年度に適用される基準・実務指針・公開草案の確定状況を必ずご確認ください。
出典:企業会計基準委員会|金融商品に関する会計基準

目次

「評価差額」と「減損処理」を分けて考える

金融商品の評価損を検討するとき、最初に整理しておきたいのは、通常の時価評価差額と、減損処理として当期損失に振り替える評価損を分けることです。

売買目的有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理します。これは時価変動を損益に反映する通常の評価処理であり、一般に本稿で扱う「減損処理」とは性質が異なります。

一方、満期保有目的の債券、子会社株式・関連会社株式、その他有価証券については、通常の評価処理とは別に、時価または実質価額が著しく低下した場合の減損処理を検討することになります。

金融商品会計基準では、満期保有目的の債券、子会社株式・関連会社株式、その他有価証券のうち市場価格のない株式等以外のものについて、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失として処理するとされています。

また、市場価格のない株式等については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに、相当の減額を行い、評価差額を当期の損失として処理します。いずれの場合も、切下げ後の時価または実質価額が翌期首の取得原価となります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準

区分通常の評価減損・評価損の入口
売買目的有価証券時価評価し、評価差額は当期損益通常の時価評価処理で損益に反映される
満期保有目的の債券取得原価または償却原価時価が著しく下落し、回復見込みがない場合に減損
子会社株式・関連会社株式取得原価時価または実質価額の著しい低下を検討
その他有価証券原則として時価評価し、評価差額は純資産直入等時価が著しく下落し、回復見込みがない場合に減損
市場価格のない株式等取得原価発行会社の財政状態悪化により実質価額が著しく低下した場合に減損

ここが曖昧なままだと、「その他有価証券評価差額金に含み損があるだけなのか」「当期損益として投資有価証券評価損を計上すべきなのか」が混同されてしまいます。有価証券は金融資産の一部であり、保有目的に応じて会計処理が異なりますので、まずは分類・測定の前提を明確にしておく必要があります。

時価のある有価証券|「著しい下落」は数値だけで判断しない

時価のある有価証券で、実務上もっとも問題になるのが「著しい下落」の判断です。

金融商品会計に関する実務指針では、時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には「著しく下落した」ときに該当するとされています。この場合、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければなりません。一方で、時価の下落率がおおむね30%未満の場合には、一般的には著しい下落に該当しないものと考えられています。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

ただし、実務上重要なのは、50%や30%という数値を暗記することではありません。30%以上50%未満の下落については、個々の企業が合理的な基準を設け、その基準に基づいて、回復可能性の判定対象とするかどうかを判断することになります。

下落率実務上の基本的な見方確認すべき判断要素
50%程度以上原則として著しい下落合理的な反証がない限り、減損処理が必要
30%程度以上50%程度未満会社の合理的基準により判断下落期間、発行体業績、信用リスク、市場環境、社内基準の継続性
おおむね30%未満一般的には著しい下落に該当しないただし、銘柄固有の信用悪化がある場合は慎重に検討

30%から50%の領域は、監査上もっとも説明責任が重い領域です。「50%に達していないから減損不要」とは言い切れません。

どの下落率・下落期間・発行体状況をもって減損判定の対象とするのか。これを会社としてあらかじめ社内基準に定め、継続的に適用していくことが重要になります。

社内基準には、たとえば次のような要素を含めることが考えられます。

  • 下落率
  • 下落が継続している期間
  • 期末日前後の市場価格推移
  • 発行会社の業績・財政状態
  • 格付け、信用スプレッド、社債利回り
  • 市場全体の一時的変動か、銘柄固有の悪化か
  • 期末後の回復状況
  • 売却予定の有無
  • 取締役会・投資委員会等での保有方針

数値基準はあくまで入口です。監査上問われるのは、その下落を一時的といえる根拠があるか、そして会社の判断が銘柄ごとに恣意的に変わっていないか、という点にあります。

期末前1か月平均を使う場合の注意点

その他有価証券については、著しく下落したかを判断する際、時価が取得原価に比べて50%程度以上下落したか、または下落率がおおむね30%未満かを検討するにあたり、期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることを妨げないとされています。この取扱いは有価証券の種類ごとに行うことができますが、その一方で、毎期継続して適用することが求められます。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

ここで注意しておきたいのは、期末前1か月平均はあくまで「著しい下落の判定」に関する取扱いであって、減損処理額を任意に平準化するためのものではない、という点です。期末日の時価、1か月平均、下落率、回復可能性、最終的な損失計上額の関係を、明確に整理しておく必要があります。

決算終盤になって「期末日の時価では50%を超えるが、1か月平均なら下回る」という状況が出てきてから場当たり的に判断すると、会計方針の恣意的な運用と見られかねません。適用するのであれば、あらかじめ方針を定め、銘柄区分ごとに継続適用することが必要です。

回復可能性|株式と債券では見方が異なる

時価のある有価証券について時価が著しく下落している場合でも、回復する見込みがあると認められるのであれば、減損処理を行わない余地があります。ただし、この「回復する見込み」は、単なる期待や経営者の感覚では足りません。

株式の場合

株式については、時価下落が一時的であり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みを、合理的な根拠をもって予測できる場合をいいます。

判断にあたっては、取得時点、期末日、期末日後の市場価格推移、市場環境、最高値・最安値と購入価格との乖離、発行会社の業況などを総合的に検討します。

なお、株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、発行会社が債務超過にある場合、また2期連続損失で翌期も損失が予想される場合には、通常、回復する見込みがあるとは認められません。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

したがって、株式の回復可能性を説明するには、少なくとも次のような資料が必要になります。

  • 期末前後の株価推移
  • 市場全体の下落との比較
  • 同業他社株価との比較
  • 発行会社の直近業績
  • 発行会社の財政状態
  • 期末後の株価回復状況
  • 発行会社の業績見通し
  • 保有継続方針
  • 売却予定の有無

「優良企業だから戻る」「一時的な市況悪化だから戻る」という説明だけでは、やはり不十分です。株価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みを、どの資料で、どの時点の情報に基づいて判断したのか。そこまで示す必要があります。

債券の場合

債券では、時価下落の原因を分解することが重要になります。

一般市場金利の上昇により債券価格が下落しているだけなのか。それとも、発行体の信用リスクが悪化して価格が下落しているのか。ここで判断は大きく変わります。

満期保有目的の債券で、発行体の元利金支払能力に問題がなく、市場金利上昇による価格変動にとどまるのであれば、満期までの保有意図・能力を踏まえて説明できる場合があります。

これに対し、格付けの著しい低下、発行会社の債務超過、連続赤字、資金繰り悪化など、信用リスクの増大に起因して時価が著しく下落している場合には、通常、回復する見込みがあるとは認められません。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

債券価格の下落要因判断上の確認事項
市場金利の上昇満期保有意図、資金繰り、信用リスク、償還可能性
信用スプレッドの拡大銘柄固有の信用悪化か、市場全体のリスクプレミアム上昇か
格付け低下発行体の返済能力、財務制限条項、資金調達環境
発行体の債務超過・連続赤字元利金支払能力、再建計画、スポンサー支援
流動性低下取引価格が秩序ある取引によるものか、評価技法は妥当か

債券は「満期まで保有すれば額面で回収できる」という説明だけでは足りません。発行体が満期に元本を返済できるか、利息を継続的に支払えるか、信用リスクが価格にどの程度反映されているか。ここを整理しておく必要があります。

市場価格のない株式等|実質価額の低下をどう見るか

市場価格のない株式等は、原則として取得原価をもって貸借対照表価額とします。ただし、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額を当期の損失として処理します。

実務指針では、財政状態とは、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たり純資産額をいうとされています。

基礎とする財務諸表は、決算日までに入手し得る直近のものを使用します。その後の状況で財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明している場合には、それも加味します。通常は、この1株当たり純資産額に所有株式数を乗じた金額が実質価額となりますが、会社の超過収益力や経営権等を反映して、純資産額ベースを上回る価額が実質価額と評価される場合もあります。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

また、市場価格のない株式等の実質価額が「著しく低下したとき」とは、少なくとも実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいいます。ただし、実質価額について回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められます。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

ここでいう実質価額は、単なる帳簿純資産ではありません。少なくとも、次の点を確認します。

  • 発行会社の直近財務諸表
  • 監査済みか、未監査か
  • 決算日後に重要な損失、増資、債務免除、事業撤退がないか
  • 含み損益の大きい資産・負債がないか
  • 不動産、有価証券、貸付金、繰延税金資産などの評価修正が必要か
  • 債務超過または実質債務超過に該当しないか
  • 超過収益力を取得価額に含めているか
  • 取得後に事業計画が大幅に未達となっていないか
  • 清算価値、継続価値、売却価値のどれを見るべき状況か

市場価格がないぶん、非上場株式の評価損は、上場株式の時価下落よりも説明が難しくなることがあります。会社側の見積り、事業計画、純資産修正、超過収益力の評価に依存するため、監査上も、経営者の仮定や見積りの偏向が問われやすい領域だといえます。

子会社株式・関連会社株式|「連結で消えるから重要でない」は危険

子会社株式・関連会社株式の減損は、個別財務諸表、連結財務諸表、税効果、のれんの減損が絡み合うため、実務上の難度が高い領域です。

個別財務諸表上、子会社株式・関連会社株式は取得原価で評価されます。しかし、時価のある子会社株式・関連会社株式について時価が著しく下落した場合、また市場価格のない子会社株式・関連会社株式について実質価額が著しく低下した場合には、減損処理を検討することになります。

市場価格のない株式については、通常、実質価額の回復可能性の判定が減損処理の要件として特に求められているわけではありません。ただし、子会社・関連会社の場合には、財務諸表を実質ベースで作成したり、事業計画等を入手したりすることが可能です。その結果、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられるのであれば、減損処理をしないことも認められます。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第12号 金融商品会計に関するQ&A

とはいえ、子会社・関連会社だからといって、回復可能性を容易に認めてよいわけではありません。特定プロジェクト会社のように、開業当初から一定期間の損失を見込んでいる場合であっても、中長期の事業計画、計画の実行可能性、資金調達、過去の計画達成状況、期末時点での未達要因を確認する必要があります。

子会社株式の減損では、次の説明が求められます。

観点確認事項
投資単位株式全体で判定するのか、事業別の超過収益力をどう見るか
実質価額純資産ベース、時価修正、超過収益力、経営権プレミアム
事業計画取得時計画、直近実績、修正計画、資金繰り、外部環境
回復可能性計画の実現可能性、過去の達成状況、必要資金、スポンサー支援
連結影響個別上の評価損、連結上ののれん・固定資産減損・税効果との整合性
開示影響重要な会計上の見積り、KAM、適時開示への波及

連結財務諸表では、親会社が保有する子会社株式は資本連結手続で消去されます。そのため、個別財務諸表上の子会社株式評価損が、連結上そのまま残るわけではありません。

しかし、「連結で消えるから重要でない」という理解は危険です。子会社株式の評価損が発生するほど子会社の収益性や財政状態が悪化しているのであれば、連結上はのれん、固定資産、繰延税金資産、貸付金、債務保証、セグメント情報にも波及する可能性があります。

子会社株式評価損と、連結上の固定資産・金融資産・繰延税金資産等の評価は、それぞれの会計基準に照らして別個に検討する必要があります。

のれんの減損と子会社株式の減損は一致しない

M&A後の決算では、連結上ののれんの減損と、個別上の子会社株式の減損が混同されがちです。

連結上ののれんは、取得した事業または資産グループに帰属させて減損を検討します。これに対し、個別財務諸表上の子会社株式は、株式投資としての実質価額を検討します。

したがって、のれんの一部が帰属する事業で減損が生じたとしても、子会社全体として実質価額が取得原価を著しく下回らない場合には、子会社株式の減損に直結しないことがあります。

逆に、子会社株式の実質価額が大きく下落している場合であっても、連結上は特定の資産グループ、のれん、繰延税金資産、持分法投資などを、それぞれ別の会計基準に基づいて検討する必要があります。

M&AにおいてはPPAにより取得原価を識別可能資産・負債へ配分し、残余としてのれんまたは負ののれんを認識します。そのため、取得時のPPA、取得後の事業計画、のれん償却、固定資産減損、子会社株式評価が、連続した論点としてつながっていきます。

論点対象判断単位
子会社株式の減損親会社個別の子会社株式株式投資としての実質価額
のれんの減損連結上ののれんのれんを含む資産グループ
子会社の固定資産減損子会社または連結上の資産グループ将来キャッシュ・フロー
繰延税金資産の回収可能性子会社または連結上のDTA将来課税所得
関係会社貸付金・保証親会社個別の債権・保証回収可能性・引当金要件

ここを分けておかないと、監査人との協議で「どの帳簿価額を、どの基準で、どの単位で見ているのか」が曖昧になってしまいます。

債務超過会社への増資・DES|投資なのか支援損なのか

財政状態が悪化している会社に対して、第三者割当増資、追加出資、DES、債務免除、貸付金の株式化などを行う場合には、取得した株式に資産性があるかを慎重に検討する必要があります。

債務超過会社への増資では、将来の業績回復を見込んだ実行可能な事業計画や経営方針等の存在が前提になります。その合理性を判断するには、事業計画の実行可能性、増資額の十分性、将来の業績回復との関連性を総合的に検討することが必要です。計画どおりに業績回復が進まないことが判明した場合には、期末に相当額の減損処理を検討します。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第12号 金融商品会計に関するQ&A

債務超過会社への支援では、次の分岐を整理しておきます。

  • 新たな株式投資として資産性があるか
  • 既存債権の回収不能部分を実質的に補填しているだけではないか
  • 増資後の事業計画に実行可能性があるか
  • 増資額が債務超過解消や資金繰り改善に十分か
  • 追加支援の継続が必要ではないか
  • 債権放棄、貸倒引当金、債務保証損失引当金との整合性があるか
  • 税務上、寄附金、貸倒損失、株式評価損の扱いに問題がないか

債務超過会社への投資は、会計上も会社法上も、単なる投資判断では終わりません。債務超過は純資産がマイナスとなる財政状態であり、追加支援や組織再編を伴う場合には、資本政策、債権者保護、会社法手続、税務上の損金性まで論点が広がっていきます。

投資損失引当金を検討すべき場合

子会社株式等の実質価額がある程度低下しているものの、回復可能性を十分な証拠により認めて減損処理をしない、という場面があります。このとき、将来の不確実性をどのように扱うかが問題になります。

投資損失引当金は、減損処理を回避するための道具ではありません。減損処理を行わない根拠が十分かを検討したうえで、それでもなお将来の特定の損失の発生可能性が高く、金額を合理的に見積もれる場合に、引当金会計の要件に照らして検討するものです。

引当金については、将来の特定の費用または損失であること、発生が当期以前の事象に起因すること、発生の可能性が高いこと、金額を合理的に見積もることができること。これらが基本的な判断要件となります。

投資損失引当金を検討する場合には、少なくとも次の資料が必要です。

  • 実質価額の算定資料
  • 減損処理しない理由
  • 回復可能性を裏付ける事業計画
  • 計画未達時の損失見込額
  • 追加支援の可能性
  • 親会社の支援方針
  • 過年度の計画達成状況
  • 引当金の認識要件への当てはめ

「減損ではないが、念のため引当金」という説明では不十分です。減損処理と引当金は、認識要件も測定対象も異なりますので、会計処理の目的を分けて整理する必要があります。

外貨建有価証券|時価下落と為替影響を混同しない

外貨建有価証券では、有価証券の評価損と外貨換算の処理が交差します。

外貨建取引会計基準の適用範囲は、通常の営業取引だけでなく、金融商品や在外子会社等の換算にも及びます。外貨建取引では、取引内容に応じて、決算時の為替相場による換算や為替差損益の処理が問題になります。

外貨建有価証券で重要なのは、価格下落の原因を分けることです。

  • 外貨建ての市場価格が下落しているのか
  • 為替相場の変動により円貨額が下落しているのか
  • 発行体の信用リスクが悪化しているのか
  • 外貨ベースと円貨ベースのどちらで著しい下落を判定すべきか
  • ヘッジ会計を適用している場合、評価損とヘッジ処理が整合しているか

外貨建株式、外貨建債券、在外子会社株式、為替予約等によりヘッジされた有価証券では、分類や取引実態により処理が異なります。

そのため、外貨建有価証券の評価損では、単に円貨換算後の下落率だけを見るのではなく、外貨ベースの価格変動、為替差損益、ヘッジ関係、税効果を分解して説明できる資料を整えておく必要があります。

税効果|評価損を計上して終わりではない

金融商品の減損・評価損は、税効果会計にも波及します。

その他有価証券評価差額金は、評価差額を純資産に計上する場合、税効果を考慮します。一方、減損処理により評価損を当期損失として計上した場合でも、税務上その期に損金算入できるとは限りません。税務上の損金算入時期と会計上の費用認識時期が異なる場合には、一時差異が生じ、繰延税金資産の計上可否を検討する必要があります。

税効果会計は、企業会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額の相違を調整し、法人税等と税引前当期純利益を合理的に対応させるための手続です。

特に注意しておきたいのが、業績悪化局面です。金融商品の評価損が発生する局面では、同時に繰延税金資産の回収可能性が低下していることがあります。この場合、評価損の計上と繰延税金資産の取崩しが同じ決算で生じ、損益影響が大きくなる可能性があります。

検討すべき論点は、次のとおりです。

  • 評価損が税務上いつ損金算入されるか
  • 将来減算一時差異としてスケジューリング可能か
  • 将来課税所得により回収可能か
  • その他有価証券評価差額金に係る税効果との関係
  • 減損後の翌期首取得原価と税務簿価の差異
  • 連結税効果への影響
  • グループ通算制度における個社別の回収可能性

評価損の会計処理を行うだけでは、決算全体の影響は把握できません。税効果、純資産、包括利益、連結修正まで、一体で確認する必要があります。

注記・KAM・適時開示への波及

金融商品の減損・評価損は、財務諸表本表の損失計上だけでなく、注記や開示にも影響します。

金融商品に関する開示では、金融商品の状況、リスク管理体制、時価等に関する事項、時価のレベルごとの内訳等を整理する必要があります。評価損が重要な場合には、金融商品注記、重要な会計上の見積り、リスク情報、KAMとの関係も確認します。

なお、金融商品の時価算定では、市場参加者、秩序ある取引、インプット、主要な市場または最も有利な市場、第三者価格の利用などが、重要な判断要素になります。

また、会計上の見積りの開示に関する会計基準では、識別した会計上の見積りについて、当年度の財務諸表に計上した金額および財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を注記することが求められます。金融商品の評価損が重要な見積りに該当する場合には、見積りの前提、主要な仮定、翌年度に変動する可能性を説明する必要があります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準

上場会社では、重要な評価損により業績予想の修正や投資者の投資判断に重要な影響が生じる場合、適時開示の要否も検討します。東京証券取引所は、会社情報に係る開示要件、開示資料に一般に記載する内容、開示手順等を示す実務マニュアルとして「会社情報適時開示ガイドブック」を公表しています。
出典:日本取引所グループ|会社情報適時開示ガイドブック

評価損は、会計処理だけで閉じる論点ではありません。投資家説明、監査人との協議、監査役等への報告、取締役会での判断、適時開示の要否まで含めて、決算スケジュールの早い段階で整理しておくことが求められます。

監査対応で確認されやすい資料

金融商品の減損・評価損では、監査人に対して、結論だけでなく、判断過程を資料で示す必要があります。

特に次の資料は、早めに整理しておきたいところです。

  • 有価証券明細
  • 保有目的区分の判定資料
  • 取得時の稟議書・投資判断資料
  • 取締役会・経営会議資料
  • 期末時価一覧
  • 期末前1か月平均を使用する場合の算定資料
  • 下落率の算定資料
  • 30%以上50%未満の銘柄に関する社内判定資料
  • 発行体の財務諸表
  • 発行体の業績見通し
  • 格付け・信用スプレッド・社債利回り資料
  • 非上場株式の実質価額算定資料
  • 純資産修正資料
  • 超過収益力の検討資料
  • 事業計画と実績比較
  • 回復可能性の検討資料
  • 子会社株式とのれん・固定資産減損の整合性資料
  • 税効果計算資料
  • 金融商品注記・重要な会計上の見積り注記の基礎資料
  • 適時開示要否の検討資料

監査上問われるのは、「評価損を計上したか」だけではありません。評価損を計上しない場合に、なぜ計上しなくてよいのかを説明できるか。ここが重要です。

会計上の見積りは、経営者の仮定、将来事象、不確実性を含みます。そのため、見積時点で当然考慮すべき事項を漏らしていないか、楽観的な仮定に偏っていないかが確認されます。

実務での検討順序

金融商品の減損・評価損を検討する際は、次の順序で整理していくと、監査人・経営者・開示担当者に説明しやすくなります。

1. 保有目的区分を確認する

売買目的、満期保有目的、子会社・関連会社、その他有価証券、市場価格のない株式等のいずれかを確認します。分類が定まらなければ、評価損の判断も定まりません。

2. 時価または実質価額を把握する

時価のある有価証券では、期末時価、必要に応じて期末前1か月平均、時価算定方法、第三者価格を確認します。市場価格のない株式等では、実質価額を算定します。

3. 下落率を算定する

取得原価または償却原価に対して、時価または実質価額がどの程度低下しているかを確認します。

4. 著しい下落に該当するか判断する

50%程度以上、30%以上50%未満、おおむね30%未満という実務上の判断枠組みに照らしつつ、社内基準を継続的に適用します。

5. 回復可能性を検討する

株式、債券、非上場株式、子会社株式ごとに、回復可能性の判断資料を整理します。期待や希望ではなく、合理的な証拠が必要です。

6. 損失計上額を算定する

減損処理が必要な場合、時価または実質価額まで帳簿価額を切り下げ、評価差額を当期損失として処理します。

7. 税効果を検討する

評価損の税務上の扱い、一時差異、繰延税金資産の回収可能性、その他有価証券評価差額金との関係を確認します。

8. 開示・監査対応を整理する

金融商品注記、重要な会計上の見積り、KAM、適時開示、取締役会・監査役等への説明資料を整えます。

専門家に相談すべき金融商品評価損の論点

金融商品の評価損は、会社内部で判断できる場合もあります。しかし、次のような場合には、早い段階で専門家を交えて整理しておくことが望ましいといえます。

  • 保有有価証券の時価が取得原価から大きく下落している
  • 30%以上50%未満の下落銘柄が複数ある
  • 期末日と期末前1か月平均で判断が変わる
  • 発行体の信用リスクが悪化している
  • 債券価格の下落要因が金利なのか信用リスクなのか判別しにくい
  • 非上場株式の実質価額が大きく低下している
  • 子会社・関連会社株式の評価損を検討している
  • 取得時に見込んだ超過収益力が維持されているか不明である
  • 事業計画に基づく回復可能性を説明したい
  • 債務超過会社への増資・DES・追加支援を検討している
  • 評価損に係る税効果の回収可能性が不明である
  • 評価損が業績予想、適時開示、KAMに影響し得る
  • 監査人から評価損・減損不要の根拠を求められている

これらの論点では、単に「評価損を出すか出さないか」を決めるだけでは不十分です。保有目的区分、時価または実質価額、下落率、回復可能性、税効果、開示、監査証拠を、一体で整理する必要があります。

主な参照情報

金融商品の減損・評価損で迷う場合は、早めの論点整理が重要です

金融商品の評価損は、損益への影響が大きいだけでなく、経営者判断、投資家説明、監査対応、注記、KAM、適時開示にまで波及しやすい論点です。

時価が下がっているのか。実質価額が低下しているのか。一時的な下落なのか。回復可能性を合理的に説明できるのか。税効果は回収可能なのか。連結上ののれん・固定資産・繰延税金資産と整合しているのか。

これらを整理して初めて、「後から説明できる数字」になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、日本基準に基づく金融商品の減損・評価損、非上場株式評価、子会社株式・関連会社株式の評価、税効果、注記・監査対応に関する論点整理を支援しています。金融商品評価損の要否や、監査人への説明資料を整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

論点実務上のポイント
評価差額と減損処理通常の時価評価差額と、当期損失に計上する減損処理を分けて考える
売買目的有価証券時価評価差額は当期損益で処理され、通常の減損判定とは性質が異なる
その他有価証券原則として時価評価し、評価差額は純資産直入等。ただし著しい下落時は減損を検討する
50%程度以上の下落原則として著しい下落に該当し、合理的な反証がない限り減損処理が必要
30%以上50%未満の下落会社の合理的基準に基づき、回復可能性判定の対象とするか判断する
回復可能性株式ではおおむね1年以内の回復見込み、債券では金利要因と信用リスク要因の分解が重要
市場価格のない株式等発行会社の財政状態悪化により実質価額が著しく低下した場合に減損を検討する
実質価額純資産額だけでなく、時価修正、超過収益力、決算日後事象を考慮する
子会社株式・関連会社株式個別上の評価損、連結上ののれん・固定資産減損・税効果との整合性が重要
のれんの減損との違い子会社株式の減損と連結上ののれん減損は、対象・単位・基準が異なる
債務超過会社への増資投資としての資産性があるか、支援損・貸倒・引当金との切り分けが必要
投資損失引当金減損処理の代替ではなく、引当金要件に照らして別途検討する
外貨建有価証券時価下落、為替影響、信用リスク、ヘッジ関係を分解して整理する
税効果評価損の税務上の損金算入時期、一時差異、繰延税金資産の回収可能性を確認する
開示・監査対応金融商品注記、重要な会計上の見積り、KAM、適時開示への波及を確認する
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