固定資産の減損会計は、「赤字だから減損する」「不採算だから評価を下げる」といった単純な制度ではありません。
日本基準における減損会計は、取得原価を基礎として計上された固定資産について、投資額の回収可能性が著しく低下しているにもかかわらず帳簿価額を据え置くことを避けるための会計処理です。そのまま据え置けば、将来に損失を繰り延べることになってしまう。それを防ぐための仕組みだといえます。
一方で、毎期すべての固定資産を時価評価し直す制度でもありません。
このため、減損会計の実務判断では、いきなり「減損額はいくらか」を計算するのではなく、次の順序で判断を積み上げていく必要があります。
| 判断段階 | 実務上の問い |
|---|---|
| 対象資産 | そもそも減損会計の対象となる固定資産か |
| 資産グルーピング | どの単位で投資回収を判断するか |
| 減損の兆候 | 回収可能性が低下している可能性を示す事象があるか |
| 認識判定 | 割引前将来キャッシュ・フローで帳簿価額を回収できるか |
| 測定 | 回収可能価額まで帳簿価額を減額する必要があるか |
| 開示・監査対応 | 判断過程、仮定、証拠資料、注記を説明できるか |
本稿では、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの決算実務を前提に、固定資産の減損会計の全体像を、会計処理・監査対応・開示影響までつながる判断フローとして整理します。
減損会計は「時価評価」ではなく「回収可能性の検証」である
減損会計を理解するうえで最初に押さえておきたいのは、これが固定資産を毎期時価に洗い替える制度ではない、という点です。
固定資産は、通常、取得原価を基礎として貸借対照表に計上され、使用期間にわたって減価償却を通じて費用配分されていきます。減損会計は、この取得原価配分の枠組みを前提としたうえで、資産または資産グループの帳簿価額が、将来の使用または売却によって回収できない状態になっている場合に、回収可能価額まで帳簿価額を減額する処理です。
企業会計審議会が公表した「固定資産の減損に係る会計基準」でも、減損損失を認識すべきと判定された資産または資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その減少額を減損損失として当期の損失とすることが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
したがって、減損会計の本質は「資産価値を低く見積もること」ではありません。財務諸表に計上されている固定資産の帳簿価額について、現在の事業計画、使用状況、市場環境、処分可能性を踏まえながら、投資額を回収できるかどうかを検証することにあります。
この点を誤ると、減損会計は経営者の業績調整手段になりかねません。減損は「見せたい損益」を作るための処理ではなく、「後から説明できる帳簿価額」を整えるための処理です。
日本基準における減損会計の対象資産
固定資産の減損会計は、すべての資産に適用されるわけではありません。
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」では、減損会計の対象となる固定資産に、有形固定資産、無形固定資産および投資その他の資産が含まれるとされています。他方で、金融商品会計基準における金融資産、税効果会計基準における繰延税金資産、市場販売目的のソフトウェアなど、他の基準に減損処理に関する定めがある資産は、対象から除かれます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
実務上は、次のように整理しておくと、入口の判定を誤りにくくなります。
| 区分 | 減損会計の対象性 |
|---|---|
| 建物、構築物、機械装置、工具器具備品 | 原則として対象 |
| 土地 | 対象。非償却資産であっても減損検討の対象 |
| 建設仮勘定 | 対象。建設計画の中止・延期が論点になりやすい |
| ソフトウェア | 自社利用目的などは対象となり得る。市場販売目的ソフトウェアは別基準の定めに留意 |
| のれん | 対象。ただし独立して判断できず、より大きな単位で検討するのが通常 |
| 賃貸等不動産 | 対象。時価注記との整合性にも留意 |
| 金融資産 | 金融商品会計基準の評価・減損の枠組みで検討 |
| 繰延税金資産 | 税効果会計上の回収可能性で検討 |
| 退職給付に係る資産 | 退職給付会計上の評価の枠組みで検討 |
ここで重要なのは、資産の名称ではなく、どの会計基準がその評価・回収可能性を扱うのかという視点です。たとえば「投資」という名称が付いていても、投資有価証券であれば金融商品会計、投資不動産であれば固定資産減損会計の検討対象となり得ます。
最初に対象資産を誤ると、その後のグルーピング、兆候、測定、税効果、注記まで、すべてが誤った前提のうえに積み上がってしまいます。
減損会計の全体フロー
固定資産の減損会計は、概ね次の流れで進みます。
| ステップ | 判断内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 1 | 対象資産の識別 | 固定資産減損会計の対象か、他基準の対象かを確認 |
| 2 | 資産グルーピング | 独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位を設定 |
| 3 | 減損の兆候の把握 | 収益性悪化、使用方法変更、経営環境悪化、市場価格下落等を確認 |
| 4 | 減損損失の認識判定 | 割引前将来キャッシュ・フロー総額と帳簿価額を比較 |
| 5 | 減損損失の測定 | 帳簿価額を回収可能価額まで減額 |
| 6 | 減損損失の配分 | 資産グループ内の構成資産に合理的に配分 |
| 7 | 減損処理後の会計処理 | 減損後帳簿価額を基礎に減価償却。戻入れは行わない |
| 8 | 注記・開示・監査対応 | 経緯、金額、グルーピング、回収可能価額算定方法等を説明 |
このフローのうち、実務上もっとも争点になりやすいのは、計算そのものよりも、グルーピング、兆候の有無、そして将来キャッシュ・フローの前提です。
減損会計は、計算式だけでは成立しません。事業実態、経営管理、投資意思決定、撤退判断、資産利用方針を会計判断に落とし込むプロセスが求められます。
資産グルーピング:減損会計の入口判断
グルーピングは「都合のよい単位」ではない
減損会計では、個別資産ごとではなく、複数の資産が一体としてキャッシュ・フローを生み出す場合には、資産グループ単位で減損を検討します。
適用指針第6号では、資産のグルーピングは、他の資産または資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うものとされ、管理会計上の区分や投資意思決定の単位等を考慮して定めるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
実務上、グルーピングの検討では、次の観点が重要になります。
| 観点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 収支管理単位 | 店舗別、工場別、事業所別、製品群別など、継続的に収支を把握している単位 |
| 投資意思決定単位 | 新規出店、設備投資、撤退、売却、事業廃止を判断する単位 |
| キャッシュ・イン・フローの独立性 | 他の資産グループから概ね独立して収益を獲得しているか |
| 相互補完性 | ある単位を切り離すと他の単位のCFに大きな影響を与えるか |
| 管理会計との整合 | 監査人に提出する管理資料とグルーピングが整合しているか |
| 過年度継続性 | 業績悪化時だけグルーピングを拡大・縮小していないか |
たとえば小売業で、店舗別に損益を管理し、出退店の判断も店舗単位で行っているのであれば、通常は店舗単位がグルーピングの基礎になります。
ただし、物流センターやEC基盤、共通のブランド投資、複数店舗を一体で管理する地域戦略などがある場合には、単純な店舗単位だけでは実態を反映しない可能性があります。
製造業では、工場単位、製造ライン単位、製品群単位、事業部単位のいずれが独立したキャッシュ・フローを生み出しているのかが問題になります。工場内の特定設備が特定製品に専用されているのか、それとも複数製品に共用されているのか。この違いによって、グルーピングは変わり得ます。
グルーピングの変更は慎重に扱う
減損会計の実務で監査人から厳しく見られるのは、業績悪化局面でのグルーピング変更です。
赤字店舗を黒字店舗と一体化すれば、減損を回避できるように見えることがあります。しかし、グルーピングは経営実態を反映するための判断であり、減損回避のために任意に変更するものではありません。変更する場合には、管理会計、意思決定単位、商流、組織再編、事業運営方針が実際に変化していることを説明できる必要があります。
グルーピングの変更を検討する場合は、少なくとも次の資料を整えておくべきです。
| 資料 | 確認目的 |
|---|---|
| 組織図・事業部体制図 | 管理単位が変わっているか |
| 管理会計資料 | 損益・CFの把握単位が変わっているか |
| 投資・撤退判断資料 | 経営会議・取締役会でどの単位を意思決定しているか |
| 予算・中期計画 | 事業計画の作成単位と整合しているか |
| 内部報告資料 | 経営者が実際にどの単位で業績を見ているか |
| 監査人協議メモ | 変更理由と影響額を事前に説明できるか |
もっとも、「前年と同じグルーピングだから問題ない」とも限りません。事業の統合、店舗運営方針の変更、製造ラインの再編、リース契約の変更、グループ内取引の変更があれば、グルーピングの見直しが必要になることがあります。
減損の兆候:減損処理の開始点
兆候は「減損確定」ではなく「認識判定へ進むサイン」
減損会計では、すべての固定資産について毎期認識判定・測定を行うわけではありません。まず、減損の兆候があるかどうかを確認し、兆候がある場合に認識判定へ進みます。
適用指針第6号では、減損の兆候とは、資産または資産グループに減損が生じている可能性を示す事象であり、通常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングで利用可能な情報に基づいて識別するとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
兆候の有無は、次のような観点から検討していきます。
| 兆候の類型 | 具体例 |
|---|---|
| 営業活動から生ずる損益またはCFが継続してマイナス | 店舗別損益の継続赤字、工場の営業CF赤字、事業部の赤字継続 |
| 使用範囲・使用方法の著しい変化 | 事業廃止、店舗閉鎖、設備の遊休化、用途転用、稼働率の著しい低下 |
| 経営環境の著しい悪化 | 需要減少、価格下落、原材料高騰、技術陳腐化、法規制強化 |
| 市場価格の著しい下落 | 土地・建物の市場価格下落、不動産鑑定評価額の大幅低下 |
| 共用資産・のれんに関する兆候 | より大きな単位での収益性悪化、買収時計画からの大幅乖離 |
市場価格の著しい下落については、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当するとされています。また、固定資産については観察可能な市場価格が常に存在するわけではないため、一定の評価額や、適切に市場価格を反映していると考えられる指標が用いられることもあります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
「継続してマイナス」の読み方
営業損益または営業キャッシュ・フローが継続してマイナスであるかどうかは、減損兆候の代表的な検討項目です。
ただし、ここでいう損益は、損益計算書上の営業利益と常に一致するわけではありません。適用指針では、営業活動から生ずる損益には、対象資産または資産グループの減価償却費や本社費等の間接費が含まれ、棚卸資産評価損のように営業上の取引に関連する損益も含まれるとされています。一方で、支払利息や法人税等は含まれません。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
実務では、次のような誤りが起こりやすくなります。
| 誤りやすい判断 | 問題点 |
|---|---|
| 会社全体が黒字だから店舗減損の兆候はない | 減損は会社全体ではなく資産グループ単位で判断する |
| EBITDAがプラスだから兆候はない | 減価償却費を含めた営業活動損益の検討が必要 |
| 一時費用をすべて除外する | 営業上の取引に関連する費用を過度に除外すると実態を歪める |
| 本社費配賦を恣意的に外す | 対象資産グループに関連して間接的に生じる支出は合理的に配分する必要がある |
| 当期見込みを無視して過去実績だけで判断する | 当期見込みが明らかに改善しているかどうかも検討する |
兆候の検討は、監査人にとっても重要な入口です。「兆候なし」と判断した場合であっても、その判断を裏付ける管理会計資料、業績見込み、外部環境データ、経営者の意思決定資料は残しておく必要があります。
減損損失の認識判定:割引前将来CFで投資回収を確認する
兆候があっても、直ちに減損損失を認識するわけではない
減損の兆候がある場合、次に行うのが減損損失の認識判定です。
固定資産の減損会計基準では、減損の兆候がある資産または資産グループについて、割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較し、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に減損損失を認識するとされています。判定期間は、資産の経済的残存使用年数または資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と、20年のいずれか短い方です。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
この認識判定は、測定とは異なります。
| 段階 | 比較対象 | 使用するCF |
|---|---|---|
| 認識判定 | 割引前将来CF総額と帳簿価額 | 割引前 |
| 測定 | 帳簿価額と回収可能価額 | 使用価値では割引後CFを使用 |
つまり、兆候があっても、割引前将来キャッシュ・フローで帳簿価額を回収できる場合には、減損損失は認識されません。ただし、その場合でも「なぜ回収可能と判断したか」を説明できる資料は必要です。
主要な資産の決定が判定期間を左右する
資産グループの場合、認識判定で使用する期間は、主要な資産の経済的残存使用年数に影響されます。
適用指針第6号では、主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産であり、当期に主要な資産とされた資産は、原則として翌期以降も当該資産グループの主要な資産となるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
主要な資産の判断では、次の点を確認します。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| その資産がなければ事業を継続できないか | CF生成能力の中核か |
| 物理的・経済的に容易に代替できるか | 代替困難であれば主要資産になりやすい |
| 帳簿価額が大きいだけで判断していないか | 金額の大きさだけでは不十分 |
| 土地を主要資産にする理由があるか | 非償却資産で使用年数が長いため慎重な検討が必要 |
| 共用資産やのれんを主要資産としていないか | 原則として主要な資産には該当しない |
主要な資産を誤れば、認識判定に用いる将来CF期間が変わり、減損損失の認識要否そのものが変わる可能性があります。とくに、土地や長期使用設備を主要資産とする場合は、単に帳簿価額が大きいからではなく、将来キャッシュ・フロー生成能力の観点から説明する必要があります。
将来キャッシュ・フロー見積りの基本姿勢
企業固有の事情を反映するが、希望的観測では足りない
減損会計で使用する将来キャッシュ・フローは、企業固有の事情を反映した、合理的で説明可能な仮定および予測に基づいて見積ります。基準上も、将来キャッシュ・フローは、資産または資産グループの現在の使用状況および合理的な使用計画等を考慮して見積るものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
ただし、「企業固有」とは、経営者が望むシナリオを自由に採用できるという意味ではありません。事業計画、受注状況、市場データ、過去実績、価格改定計画、コスト削減施策、設備更新方針などに基づき、第三者にも説明できる前提であることが求められます。
将来CFの見積りで確認すべき主な項目は、次のとおりです。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 売上数量 | 市場規模、シェア、受注残、既存顧客維持率と整合しているか |
| 販売単価 | 価格改定の実現可能性、競合状況、契約条件と整合しているか |
| 原価率 | 原材料価格、人件費、歩留まり、稼働率と整合しているか |
| 固定費 | 人員計画、賃料、保守費、本社費配賦を反映しているか |
| 設備投資 | 現在の使用状況を維持するために必要な支出か、将来の増強か |
| 撤退・処分 | 閉鎖予定、売却予定、原状回復費用、資産除去債務と整合しているか |
| 本社費・共通費 | 関連する支出を合理的に配分しているか |
| 税金・利息 | 認識判定・使用価値算定のCFに含めない項目を除外しているか |
なお、計画されていない将来の設備増強や事業再編の結果として生じる将来キャッシュ・フローは、見積りに含めません。また、将来の用途が定まっていない遊休資産については、現在の状況に基づいて将来キャッシュ・フローを見積ることになります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
監査上は「計算結果」よりも「前提の耐久性」が見られる
減損会計の監査対応では、Excelの計算式よりも、前提の合理性が争点になります。
たとえば、過去3期連続で売上が減少している店舗について、翌期以降急回復する計画を採用するのであれば、その根拠が必要です。新商品投入、価格改定、顧客契約、競合撤退、改装効果など、回復を裏付ける具体的な施策と実績がなければ、単なる希望的観測と見られる可能性があります。
また、複数の見積りが連動している場合には、前提の整合性が重要になります。
| 会計論点 | 整合すべき前提 |
|---|---|
| 減損 | 売上、原価、投資回収、撤退時期 |
| 税効果 | 将来課税所得、事業計画、損益見込み |
| 資産除去債務 | 使用期間、撤去時期、原状回復費用 |
| リース | リース期間、使用権資産、解約可能性 |
| 引当金 | 撤退費用、契約解除費用、訴訟・補償費用 |
同じ事業について、減損では強気の事業計画、税効果では保守的な課税所得見積り、リースでは長期使用前提、資産除去債務では早期撤退前提。このように前提がばらばらであれば、会計処理全体の説明可能性が損なわれてしまいます。
減損損失の測定:回収可能価額まで帳簿価額を下げる
回収可能価額は「正味売却価額」と「使用価値」の高い方
認識判定の結果、減損損失を認識すべきと判断された場合、次に減損損失を測定します。
回収可能価額は、資産または資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方です。正味売却価額は時価から処分費用見込額を控除した金額、使用価値は継続的使用と使用後処分によって生じる将来キャッシュ・フローの現在価値をいいます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| 回収可能価額 | 正味売却価額と使用価値のいずれか高い方 |
| 正味売却価額 | 時価から処分費用見込額を控除した金額 |
| 使用価値 | 継続使用および使用後処分による将来CFの現在価値 |
| 減損損失 | 帳簿価額から回収可能価額を控除した金額 |
適用指針では、減損損失の測定において、明らかに正味売却価額が高いと想定される場合や、処分がすぐに予定されている場合などを除き、必ずしも現在の正味売却価額を算定する必要はないとされています。ただし、正味売却価額を算定する場合には、市場価格や合理的に算定された価額、処分費用見込額の検討が必要になります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
正味売却価額と使用価値の選択は、経営方針と整合させる
測定上、正味売却価額と使用価値のどちらが高いかを検討する際には、経営方針との整合が重要です。
たとえば、閉鎖・売却が決定している資産について、継続使用を前提とした使用価値を採用することは、説明が困難です。一方、継続使用の意思と実行可能性が明確であり、使用による回収が合理的に見込まれる場合には、使用価値の算定が中心になります。
実務では、次のような整理が有効です。
| 状況 | 測定上の重点 |
|---|---|
| 継続使用が合理的 | 使用価値の算定が中心 |
| 近く売却予定 | 正味売却価額の検討が重要 |
| 用途未定の遊休資産 | 現在の状況に基づく評価が必要 |
| 不動産を含む資産グループ | 鑑定評価、路線価、取引事例等の利用可能性を検討 |
| 事業撤退予定 | 撤退時期、処分価額、資産除去債務、リース解約条件を整合 |
不動産鑑定評価書や外部評価レポートを利用する場合であっても、評価額をそのまま会計上の正味売却価額として採用できるとは限りません。評価目的、評価時点、対象資産、前提条件、処分費用、既存賃貸借契約、環境リスク、資産除去債務の取扱いを確認する必要があります。
共用資産とのれんの位置づけ
共用資産は「より大きな単位」で見るのが原則
本社建物、研究開発施設、共通物流センター、基幹システムなど、複数の資産グループのキャッシュ・フロー生成に寄与する資産は、共用資産として扱われることがあります。
基準上、共用資産については、共用資産が関連する複数の資産または資産グループに共用資産を加えた、より大きな単位で減損の判定を行う方法が原則とされます。ただし、合理的な基準で共用資産の帳簿価額を各資産グループに配分できる場合には、配分する方法も認められています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
共用資産の判断で重要なのは、配分できるかどうかではなく、どの資産グループのキャッシュ・フロー生成に寄与しているのか、という点です。単に本社費を各店舗に配賦しているからといって、本社建物の帳簿価額を各店舗に配分できるとは限りません。配分する場合には、面積、人員、売上、利用実態など、合理的な配分基準が必要になります。
のれんは独立して兆候を判断しにくい
のれんは、それ自体が独立してキャッシュ・フローを生み出す資産ではありません。そのため、原則として、のれんを含むより大きな単位で減損の兆候および認識判定を行います。
適用指針では、のれんについては、共用資産と異なり、通常、のれんは独立してそれ自体では減損の兆候があるかどうかを判断できないため、原則として、のれんを含むより大きな単位で判断されるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
M&A後の事業計画未達、買収時シナジーの未実現、顧客離脱、技術陳腐化、事業撤退は、いずれものれん減損の重要な兆候になり得ます。ただし、本稿では全体像にとどめ、のれん・無形資産・事業再編と減損の詳細は、後続の「7-9. のれん・無形資産・事業再編と減損」で扱います。
減損処理後の会計処理
減損後帳簿価額を基礎に減価償却する
減損処理を行った資産については、その後の会計期間において、減損損失控除後の帳簿価額を基礎として減価償却を行います。
基準では、減損処理を行った資産については、減損損失を控除した帳簿価額に基づき減価償却を行うこと、また減損損失の戻入れは行わないことが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
このため、減損処理後には次の点を見直す必要があります。
| 項目 | 見直し内容 |
|---|---|
| 減価償却費 | 減損後帳簿価額を基礎に再計算 |
| 耐用年数 | 使用方針の変更があれば見積り変更を検討 |
| 残存価額 | 処分見込みや使用状況と整合しているか |
| 固定資産台帳 | 減損損失控除後の帳簿価額を反映 |
| 税効果 | 減損損失に係る一時差異とDTA回収可能性を検討 |
| 翌期以降の兆候 | 戻入れは行わないが、新たな減損兆候は継続確認 |
減損損失を認識した後に業績が回復しても、日本基準では減損損失の戻入れは行いません。この点は、経営者への説明や将来予算の策定時にも重要になります。
減損後の損益は、減価償却費が減少することで改善する場合があります。ただしそれは、事業収益性そのものが改善したこととは区別して説明する必要があります。
使用権資産と減損会計:新リース基準への接続
2024年公表の企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」では、借手のリースについて、原則として使用権資産およびリース負債を計上するモデルが採用されています。また、これに対応して、企業会計基準第35号「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正が公表され、リースに関する減損会計基準注解の見直しが行われています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第35号「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正
固定資産減損の観点では、使用権資産が貸借対照表に計上されることにより、店舗、営業所、物流施設、工場などの資産グループに含まれる資産構成が変わります。これによって、グルーピング、帳簿価額、将来CF、リース期間、解約オプション、原状回復義務の前提が減損判断に影響する場面が増えていきます。
とくに、小売業、外食、物流、医療・介護、教育、サービス業など、店舗・拠点リースが多い業種では、減損会計とリース会計を別々に管理すると、前提の不整合が生じやすくなります。リース期間を長く見積もる一方で、減損では早期閉鎖を前提にする。こうした場合には、経営判断と会計判断の整合性を慎重に確認する必要があります。
減損会計と税効果・資産除去債務・引当金の接続
減損会計は、固定資産だけで完結しません。減損損失を認識すると、税効果会計、資産除去債務、引当金、リース、適時開示へと連鎖していきます。
| 関連論点 | 減損との接点 |
|---|---|
| 税効果会計 | 減損損失の税務上の損金算入時期、将来減算一時差異、DTA回収可能性 |
| 資産除去債務 | 閉鎖・撤退時期、原状回復費用、除去費用の将来CF反映 |
| 引当金 | 撤退関連費用、契約解除費用、環境修復費用、訴訟・補償費用 |
| リース | 使用権資産、リース期間、解約不能期間、解約オプション |
| 棚卸資産 | 固定資産と販売用不動産・仕掛品の区分、評価損との切り分け |
| 適時開示 | 減損損失の発生、業績予想修正、決算情報への影響 |
| KAM | 見積りの不確実性、重要性、監査上の主要な検討事項 |
減損と税効果の接続では、会計上の減損損失が税務上直ちに損金算入されない場合、一時差異が生じます。ただし、繰延税金資産の計上は、将来減算一時差異があることだけでは足りません。減損の前提となる事業計画と、税効果会計における将来課税所得見積りが整合しているかどうかが重要です。
減損と資産除去債務の接続では、資産除去債務が負債計上されている場合、将来CFに除去費用を二重に反映しないよう注意する必要があります。固定資産の減損と資産除去債務の関係は、前稿「7-4. 資産除去債務と減損・税効果・引当金の関係」で詳しく扱った論点です。
注記・開示への影響
重要な減損損失を認識した場合の注記
減損損失を認識した場合、財務諸表注記が必要になります。
基準では、重要な減損損失を認識した場合、減損損失を認識した資産、認識に至った経緯、減損損失の金額、資産のグルーピングの方法、回収可能価額の算定方法等について注記するとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準
注記で重要なのは、単に基準の要求項目を埋めることではありません。財務諸表利用者が、どの資産に、なぜ減損が生じ、どのような前提で回収可能価額を算定したのかを理解できることです。
| 注記項目 | 実務上の記載検討ポイント |
|---|---|
| 資産または資産グループの内容 | 事業、店舗、工場、地域、用途を適切に説明 |
| 減損認識に至った経緯 | 収益性低下、閉鎖決定、市場価格下落などを具体化 |
| 減損損失の金額 | 資産種類別、報告セグメント別の情報との整合 |
| グルーピング方法 | 管理会計・意思決定単位との整合を説明 |
| 回収可能価額 | 正味売却価額か使用価値か |
| 算定方法 | 鑑定評価、将来CF、割引率などの概要 |
| 見積りの不確実性 | 翌期以降の影響が重要なら見積り開示も検討 |
会計上の見積りの開示との関係
減損会計は、典型的な会計上の見積りです。将来キャッシュ・フロー、割引率、処分価額、事業計画、撤退時期など、経営者の仮定が財務諸表に大きな影響を与える可能性があります。
企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」では、会計上の見積りとは、資産・負債や収益・費用等の額に不確実性がある場合に、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出することとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準
固定資産の減損が、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを有する場合には、減損注記だけでなく、重要な会計上の見積りの注記として、主要な仮定、見積りの内容、翌期影響の可能性を検討する必要があります。
適時開示・業績予想修正との関係
上場企業では、減損損失が財務諸表注記だけでなく、適時開示や業績予想修正に影響することがあります。
東京証券取引所は、会社情報に係る開示要件や開示手順等を示す上場会社の実務マニュアルとして「会社情報適時開示ガイドブック」を編さんしています。
出典:日本取引所グループ|会社情報適時開示ガイドブック
減損損失が業績に重要な影響を与える場合、決算発表まで待てるのか、業績予想修正が必要か、固定資産の譲渡・事業撤退・再編に関する開示と一体で検討すべきか。これらを開示担当と早期に確認する必要があります。
監査対応で争点になりやすい事項
減損会計は、監査上も重要な見積り領域です。とくに上場企業では、減損がKAMに選定されることも珍しくありません。金融庁は、KAMについて、2021年3月期から一部を除く金融商品取引法監査が適用される会社に対して、監査報告書への記載が求められていると説明しています。
出典:金融庁|「監査上の主要な検討事項(KAM)」の実務の定着と浸透に向けた取組みについて
監査対応では、次のような事項が争点になります。
| 監査上の論点 | 会社側が準備すべき説明 |
|---|---|
| グルーピングの妥当性 | 管理会計、意思決定単位、過年度継続性 |
| 兆候の網羅性 | 企業内外の情報をどのように収集したか |
| 兆候なし判断 | なぜ認識判定に進まないと判断したか |
| 将来CFの合理性 | 事業計画、過去実績、外部データとの整合 |
| 経営者の仮定 | 売上成長率、原価率、稼働率、撤退時期 |
| 割引率 | 使用価値算定で用いた割引率の根拠 |
| 正味売却価額 | 鑑定評価、処分費用、市場価格の根拠 |
| 共用資産・のれん | より大きな単位、配分方法、優先配分 |
| 税効果との整合 | 減損前提とDTA回収可能性前提の整合 |
| 開示 | 注記、見積り開示、KAM、適時開示との整合 |
監査人が求めているのは、会社にとって都合のよい結論ではありません。経営者が期末時点で入手可能な情報に基づき、どのような判断過程を経て、その結論に至ったのか。求められているのは、そのプロセスです。
実務で誤りやすいパターン
固定資産の減損会計では、次のような誤りが生じやすくなります。
| 誤りやすい対応 | 問題点 |
|---|---|
| 赤字でも兆候を検討していない | 兆候の網羅性が不足 |
| 会社全体の黒字で資産グループの赤字を相殺 | グルーピング単位の誤り |
| グルーピングを毎期都合よく変更 | 継続性・経営実態との整合を欠く |
| 将来CFが予算と一致しているだけで合理的と判断 | 過去実績・外部環境・実現可能性の検証が不足 |
| 撤退決定後も継続使用前提のCFを採用 | 経営意思決定と見積り前提が矛盾 |
| 本社費・共通費を恣意的に除外 | 資産グループに関連する支出の配分が不足 |
| 利息・法人税等をCFに含めている | 基準上のCF定義と不整合 |
| 減損後に戻入れを検討している | 日本基準では戻入れを行わない |
| 減損損失だけ処理し、税効果・開示を後回し | 決算・開示全体の整合性を欠く |
| 監査人から指摘されてから資料を作る | 判断時点の証拠化が弱い |
とくに注意しておきたいのは、減損会計を「年度末の決算整理仕訳」として扱ってしまうことです。
減損は、事業計画、投資管理、予算統制、撤退判断、資産管理と直結しています。期末直前に経理部門だけで資料を作成しても、経営者の意思決定や事業部の実態と整合しない場合には、監査対応は難しくなります。
決算前に整備すべき資料
固定資産の減損会計について、監査人や経営者に説明できる状態にしておくためには、少なくとも次の資料を整備しておくべきです。
| 資料 | 用途 |
|---|---|
| 固定資産台帳 | 対象資産、帳簿価額、償却状況の確認 |
| 資産グルーピング表 | グルーピング単位、主要な資産、共用資産の整理 |
| 管理会計資料 | 資産グループ別損益・CFの把握 |
| 減損兆候チェック資料 | 兆候の有無と根拠資料 |
| 事業計画・予算 | 将来CFの基礎 |
| 過去実績分析 | 予算達成率、売上・利益の推移 |
| 外部環境資料 | 市場動向、価格動向、競合、法規制 |
| 経営会議・取締役会資料 | 撤退、閉鎖、売却、再編の意思決定 |
| 不動産鑑定・評価資料 | 正味売却価額の根拠 |
| 割引率算定資料 | 使用価値算定の根拠 |
| 税効果検討資料 | 一時差異とDTA回収可能性 |
| 注記・開示検討メモ | 減損注記、見積り開示、適時開示の検討 |
これらの資料は、単なる監査対応資料ではありません。経営者が固定資産への投資を今後も回収できると考えているのか、それとも撤退・売却・再編を検討しているのか。その判断を、財務報告の言葉に翻訳するための資料です。
専門家に相談すべき場面
固定資産の減損会計は、基準のフローだけを知っていれば処理できる論点ではありません。次のような場合には、早い段階で専門家を交えて判断過程を整理しておくことが有用です。
| 相談を検討すべき場面 | 理由 |
|---|---|
| 赤字店舗・赤字工場が複数ある | グルーピングと兆候の網羅性が争点化しやすい |
| 事業撤退・店舗閉鎖・設備廃止を検討している | 減損、リース、資産除去債務、引当金が連動する |
| M&A後の事業計画が未達 | のれん・無形資産の減損が問題になりやすい |
| 不動産の市場価格が大幅に下落している | 正味売却価額、鑑定評価、賃貸等不動産注記との整合が必要 |
| 新リース基準対応で使用権資産が増加する | 資産グループの帳簿価額と将来CFの見直しが必要 |
| 減損を認識しない判断を監査人に説明する必要がある | 「なぜ減損不要か」の証拠化が必要 |
| 税効果会計のDTA回収可能性と減損前提が一致していない | 見積り間の整合性が監査上問題になりやすい |
| 有価証券報告書で重要な見積り開示が必要 | 会計処理と注記の一貫性が求められる |
犬飼公認会計士・税理士事務所では、上場企業・IPO準備企業・大規模グループにおける固定資産の減損会計について、グルーピング、兆候判定、将来キャッシュ・フロー、回収可能価額、税効果、注記・監査対応までを一体で整理する支援を行っています。
固定資産の減損会計について、社内判断や監査人への説明に不安がある場合は、資産グループ、損益資料、事業計画、固定資産台帳、開示影響を整理したうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 実務上の要点 |
|---|---|
| 減損会計の性格 | 固定資産を毎期時価評価する制度ではなく、取得原価の回収可能性を検証する制度 |
| 対象資産 | 有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産が対象。金融資産、DTA等は別基準に留意 |
| 全体フロー | 対象資産、グルーピング、兆候、認識判定、測定、配分、開示の順に判断する |
| グルーピング | 独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位で行い、管理会計・投資意思決定単位と整合させる |
| 減損の兆候 | 継続赤字、使用方法変更、経営環境悪化、市場価格下落などを企業内外の情報から把握する |
| 認識判定 | 割引前将来CF総額と帳簿価額を比較し、下回る場合に減損損失を認識する |
| 判定期間 | 資産または主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方 |
| 測定 | 帳簿価額を回収可能価額まで減額し、差額を減損損失とする |
| 回収可能価額 | 正味売却価額と使用価値のいずれか高い方 |
| 将来CF | 企業固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定に基づく。未計画の設備増強・再編効果は含めない |
| 共用資産 | 原則として、共用資産を含むより大きな単位で判定する |
| のれん | 独立して兆候を判断しにくく、原則としてより大きな単位で検討する |
| 減損後処理 | 減損後帳簿価額を基礎に減価償却する。減損損失の戻入れは行わない |
| 開示 | 重要な減損損失を認識した場合、資産、経緯、金額、グルーピング、回収可能価額算定方法等を注記する |
| 監査対応 | 結論だけでなく、グルーピング、兆候、将来CF、事業計画、外部資料、開示判断のプロセスを文書化する |