グループ通算制度と税効果会計|通算税効果額・欠損金・回収可能性をどう整理するか

グループ通算制度の税効果会計が難しいのは、制度そのものが複雑だからという理由だけではありません。

実務上の難しさは、もう少し手前にあります。税務申告上は各法人が個別に申告・納税する一方で、損益通算や欠損金の通算により、法人税・地方法人税の部分についてはグループ内の所得・欠損の相互利用が生じる。この構造が、判断の入口を分かりにくくしています。

その結果、次のような問いが同時に立ち上がります。繰延税金資産の回収可能性を、各社単独の将来課税所得だけで判断してよいのか。通算グループ全体の将来課税所得を、どこまで考慮するのか。特定繰越欠損金と、それ以外の繰越欠損金を、どう分けるのか。

さらに、住民税・事業税はグループ通算制度の対象外です。にもかかわらず法人税・地方法人税と同じ感覚で税効果を計算してしまうと、税率、回収可能性、注記、税率差異分析が一斉に崩れます。

本稿では、日本基準を前提に、グループ通算制度下の税効果会計を「後から説明できる判断」にするための実務上の整理を行います。法人税申告書の詳細な作成手順ではなく、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの決算、開示、監査対応で問われる会計判断に焦点を当てます。

なお、本稿は2026年7月13日時点の公表情報を前提としています。ASBJは2026年7月7日に、改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」等を公表しており、その中には改正実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」も含まれています。最新の決算で適用を検討される場合には、適用時期、改正後基準、税制改正、そして自社の会計方針を、必ずご確認ください。
出典:ASBJ|改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」等の公表

目次

グループ通算制度は「連結決算の制度」ではない

まず、入口で誤解しやすい点を確認しておきます。

グループ通算制度は、会計上の連結決算制度ではありません。税務上、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額を計算・申告し、その中で損益通算等の調整を行う制度です。

後発的に修更正事由が生じた場合には、原則として他法人の税額計算に影響させない遮断措置も設けられています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

会計実務で重要になるのは、次の区分です。

視点グループ通算制度での考え方
税務上の納税単位各通算法人が個別に申告・納税する
所得・欠損の調整通算グループ内で損益通算・欠損金の通算が行われる
会計上の個別財務諸表各通算会社ごとにDTA・DTLを計上するが、通算税効果額の影響を考慮する
会計上の連結財務諸表通算グループ全体を1つの単位として回収可能性を判断し、個別財務諸表の合計額との差額を連結修正する
地方税住民税・事業税はグループ通算制度の対象外であり、法人税・地方法人税と区別して検討する
監査上の争点将来課税所得、企業分類、欠損金の種類、通算税効果額、加入・離脱、税率差異、注記

税効果会計は、企業会計上の資産・負債と課税所得計算上の資産・負債との差異を調整し、法人税等と税引前利益を合理的に対応させる手続です。グループ通算制度下では、この基本構造に「通算グループ内の所得・欠損の相互利用」という要素が加わります。

実務対応報告第42号の位置づけ

ASBJの実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する場合における法人税・地方法人税および税効果会計の会計処理・開示を明らかにするための実務対応報告です。

対象となるのは、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表・個別財務諸表、そして連結納税制度から単体納税制度へ移行する企業の連結財務諸表・個別財務諸表です。なお、同実務対応報告は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、授受を行わない場合の会計処理・開示については取り扱っていないとされています。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

この「通算税効果額の授受を行うことを前提」という点は、実務では軽視できません。

実際のグループを見ると、通算税効果額を金銭で精算する設計にしている場合もあれば、グループ内の資金繰りや資本政策の都合から、当面は精算しない運用を採っている場合もあります。

しかし、基準が想定する前提と会社の実際の運用が異なる場合には、会計処理、表示、注記、未収入金・未払金の回収可能性、関連当事者取引、内部統制といった観点から、別途慎重に整理する必要があります。

通算税効果額は「税務上の精算」ではなく会計表示にも影響する

グループ通算制度では、損益通算や欠損金の通算などにより、通算会社間で税負担の軽減効果が生じます。この効果に対応して授受される金額が、通算税効果額です。

実務対応報告第42号では、通算税効果額を、損益通算、欠損金の通算その他のグループ通算制度に関する法人税法上の規定を適用することにより減少する法人税・地方法人税の額に相当する金額として、通算会社間で授受が行われた場合に益金または損金に算入されない金額と定義しています。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

通算税効果額は、実務上も、損益通算・欠損金の通算による税額減少効果として整理されます。

会計上の基本整理は、次のとおりです。

項目会計上の取扱い
通算税効果額を損益に計上する場合個別財務諸表上、法人税・地方法人税を示す科目に含めて表示
通算税効果額を株主資本・評価換算差額等に計上する場合貸借対照表の純資産の部の対応する内訳項目から控除
通算税効果額に係る債権・債務未収入金・未払金などに含めて表示
通算税効果額の授受を行わない場合実務対応報告第42号の直接の取扱範囲外であり、会社方針・会計方針・重要性を踏まえた検討が必要

出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

ここで実務上の問題になりやすいのが、通算税効果額の「未収」「未払」です。

欠損会社側に通算税効果額の未収入金が残り、所得会社側に未払金が残る。この残高は、税効果会計の計算だけでなく、グループ内債権債務の回収可能性、資金移動方針、関連当事者取引、決算整理仕訳の締切管理にも関係してきます。

特に、未収残高が長期間精算されていない場合、監査上は「税務上の計算は合っているか」だけでは終わりません。「本当に回収可能な債権として表示してよいか」「精算の契約・規程・承認はあるか」が問われることになります。

個別財務諸表:各社単独で終わらない回収可能性判断

グループ通算制度下でも、個別財務諸表では各通算会社が繰延税金資産・繰延税金負債を計上します。ただし、各社単独の将来課税所得だけを見ればよい、というわけではありません。

実務対応報告第42号は、個別財務諸表における将来減算一時差異および税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性について、原則として回収可能性適用指針に従うとしつつ、通算税効果額の影響を考慮した手順を定めています。

具体的には、将来加算一時差異と相殺しきれなかった将来減算一時差異について、まず各通算会社単独の将来の一時差異等加減算前通算前所得と相殺し、その後、損益通算による益金算入見積額と相殺する構造になります。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

この処理を実務判断に落とし込むと、次のようになります。

検討対象個別財務諸表での考え方
将来加算一時差異まず各社内で将来減算一時差異と相殺する
将来減算一時差異各社単独の通算前所得で回収可能かを検討し、不足分は損益通算による通算税効果額を考慮
当期末に存在する税務上の繰越欠損金特定繰越欠損金とそれ以外を区別し、損金算入見込年度ごとにスケジューリング
企業分類通算グループ全体の分類と各通算会社の分類をそれぞれ判定
地方税法人税・地方法人税とは別に、住民税・事業税の回収可能性を検討

実務では、「グループ全体で黒字だから、赤字子会社のDTAも回収可能」と単純に結論づけることはできません。逆に、「子会社単独では赤字だからDTAはゼロ」とも限りません。

通算前所得、損益通算による益金算入見積額、欠損金の種類、税金の種類、企業分類。これらを分解して検討する必要があります。

企業分類は「グループ全体」と「各社」を二重に見る

税効果会計の回収可能性判断では、企業分類が重要な役割を果たします。グループ通算制度下では、この企業分類を「通算グループ全体」と「各通算会社」の双方で判定します。

実務対応報告第42号では、個別財務諸表における企業分類について、通算グループ全体の分類と通算会社の分類をそれぞれ判定するとされています。通算グループ全体の分類は、通算グループ内のすべての納税申告書作成主体を1つに束ねた単位として判定します。一方、通算会社の分類は、損益通算や欠損金の通算を考慮せず、自社の通算前所得または通算前欠損金に基づいて判定します。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

この二重判定は、実務上も重要な整理です。

判断の方向性は、次のように整理できます。

対象判断軸
将来減算一時差異に係るDTA通算グループ全体の分類が各社分類と同じか上位なら、グループ全体分類に応じて判断。グループ全体分類が下位なら、各社分類に応じて判断
特定繰越欠損金以外の繰越欠損金通算グループ全体の分類に応じて判断
特定繰越欠損金通算グループ全体の課税所得部分はグループ全体分類、各社課税所得部分は各社分類に応じて判断
連結財務諸表通算グループ全体について回収可能性を判断し、個別財務諸表計上額との差額を連結修正

ここで監査上の争点になりやすいのは、赤字会社を含むグループで、通算グループ全体の分類を高く判定しているケースです。

監査人は、グループ全体の将来課税所得見積りが、単なる経営計画の合算になっていないかを確認します。税務上の通算前所得、一時差異の解消スケジュール、欠損金の控除制限、事業計画の実現可能性と整合しているか。ここが確認の焦点になります。

特定繰越欠損金とそれ以外を混同しない

グループ通算制度下のDTA判断で、最も実務上のミスが起きやすいのが、繰越欠損金の区分です。

繰越欠損金には、主に次の2種類があります。

区分概要回収可能性判断のポイント
特定繰越欠損金グループ通算制度適用前に生じた欠損金など、一定要件を満たすもの原則として当該通算会社自身の所得を限度に控除されるため、各社の個別所得見積りが重要
特定繰越欠損金以外の繰越欠損金グループ通算制度開始後に生じた欠損金など通算グループ全体での控除可能性を考慮する

実務対応報告第42号では、特定繰越欠損金以外の繰越欠損金については通算グループ全体の分類に応じた判断を行うとされています。そして特定繰越欠損金については、損金算入限度額計算における課税所得ごとに、通算グループ全体の課税所得は通算グループ全体の分類、通算会社の課税所得は通算会社の分類に応じて判断するとされています。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

このため、欠損金残高一覧を作るだけでは不十分です。少なくとも、次の情報を年度別・法人別・税目別に整理する必要があります。

整理項目確認すべき内容
発生年度いつ発生した欠損金か
欠損金の種類特定繰越欠損金か、それ以外か
法人別残高どの通算会社に帰属するか
使用制限自社所得限度か、グループ所得で利用可能か
控除期限いつまで利用可能か
控除制限所得金額の一定割合制限などの適用
将来所得各社単独の所得見積りとグループ全体の所得見積り
地方税との関係住民税固有・事業税固有の欠損金が生じていないか

特定繰越欠損金が含まれる場合、通算グループ全体で十分な所得が見込まれていても、当該欠損金を保有する会社自身の所得見積りが不足していれば、DTAの回収可能額は制限されます。

逆に、個社では所得が見込まれていても、通算グループ全体での制約があれば、連結財務諸表上の修正が必要になることがあります。

連結財務諸表:個別DTAの単純合算ではない

連結財務諸表では、通算会社の個別財務諸表で計上された繰延税金資産を単純に合計して終わり、とはなりません。

実務対応報告第42号は、連結財務諸表における将来減算一時差異および税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性について、通算グループ全体について回収可能性適用指針に従って判断し、個別財務諸表で計上したDTAの合計額との差額を連結上修正するとしています。

さらに連結財務諸表では、「将来減算一時差異」「将来加算一時差異」「一時差異等加減算前課税所得の見積額」を、通算グループ全体の合計として読み替えて回収可能性を判断します。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

この連結修正は、次のような場面で発生しやすくなります。

状況連結上の影響
個社では回収可能と判断したが、通算グループ全体では分類が下がる連結上、DTAの減額修正が必要となる可能性
個社では回収不能だが、グループ全体では損益通算により回収可能性がある連結上、追加計上の可能性
特定繰越欠損金を保有する会社の個別所得見積りが不足グループ全体の所得があっても、特定欠損金部分のDTAが制限される可能性
加入・離脱予定がある将来の通算グループ構成を前提にした回収可能性判断が必要
住民税・事業税部分の回収可能性が法人税・地方法人税と異なる税率計算・DTA計上額・注記に影響

連結財務諸表の税効果検討では、「個社別DTA計算表を集める」だけでは足りません。通算グループ全体の一時差異一覧、将来課税所得見積り、欠損金スケジュール、税率別の回収可能性、そして連結修正仕訳までを、一体で管理する必要があります。

住民税・事業税は別物として扱う

グループ通算制度の対象は、主に法人税および地方法人税です。住民税・事業税はグループ通算制度の対象外ですから、税効果会計でも法人税・地方法人税と区別して検討します。

実務対応報告第42号では、グループ通算制度の対象とされていない住民税および事業税について、法人税・地方法人税とは区別して税効果会計基準等を適用するとされています。また、住民税の税額計算は、グループ通算制度で算定された法人税額からグループ通算制度による影響を控除して算定するため、これを考慮してDTAの回収可能性を判断します。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

税金の種類ごとに回収可能性を分けて検討する。この点は、実務上も繰り返し確認すべき要所です。

逆に、この論点を軽視すると、次のような誤りにつながります。

誤り影響
法人税・地方法人税と住民税・事業税を一体の法定実効税率で処理する回収可能性が異なる部分までDTAを過大計上する可能性
グループ通算の損益通算効果を地方税にも反映してしまう住民税・事業税のDTA計算が誤る
事業税だけ欠損金が残る会社を見落とす税率差異・回収可能性注記に影響
中小通算法人・大通算法人の判定を誤る税率、税額、税効果額に影響
税率改正・超過税率・外形標準課税の影響を反映しないDTA・DTL測定が誤る

2026年改正後の実務対応報告第42号でも、グループ通算制度の対象とされていない住民税・事業税などについては、グループ通算制度対象の税金とは区別して税効果会計基準等を適用する方向で、整合的に見直されています。
出典:ASBJ|改正実務対応報告第42号 2021年8月からの改正点

遮断措置は会計上の見積りを不要にするものではない

グループ通算制度では、後発的に修更正事由が生じた場合、原則として他の通算法人への影響を遮断する仕組みが設けられています。連結納税制度に比べて実務負担を軽減する、重要な制度設計です。

しかし、遮断措置があるからといって、会計上の見積りが簡単になるわけではありません。

税効果会計で問われるのは、決算日時点で入手可能な情報に基づき、将来の課税所得、欠損金の利用、通算税効果額、税率、税務調査リスクを合理的に見積もったかどうかです。将来の修更正が他社へ波及しない制度設計であっても、決算日時点で明らかな税務ポジションの誤りや、税務上の欠損金の利用制限を無視して、DTAを計上することはできません。

国税庁も、遮断措置の不適用や、通算グループ全体での再計算が必要となる一定の場合があることを示しています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

監査上は、次のような整理が求められます。

検討事項実務上の確認ポイント
当初申告の前提税務計算に明らかな誤りがないか
修更正リスク税務当局との見解相違がある論点はないか
遮断措置の不適用全体再計算が必要となる可能性はないか
税務ポジション税務調査で争点となり得る項目をDTA計算にどう反映したか
過年度誤謬税務修正が会計上の誤謬に起因するものではないか
内部統制税務申告と会計決算の連携が統制として機能しているか

加入・離脱は、決算日前から税効果に影響することがある

M&Aやグループ再編により、新たに通算子会社となる会社、あるいは通算グループから離脱する会社がある場合。税効果会計は、取引実行日だけを見て判断するわけではありません。

実務対応報告第42号では、グループ通算制度を新たに適用する場合、承認があった日または承認があったものとみなされた日の前日を含む連結会計年度・事業年度から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計を適用するとされています。

また、承認前であっても、翌年度より適用することが明らかで、かつ会計処理が合理的に行われると認められる場合には、その時点から仮定して税効果会計を適用できるとされています。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

加入時には、特に次の点を確認します。

論点確認事項
加入前から連結子会社か既存連結子会社が新たに通算子会社となるのか、取得により新たに連結・通算対象となるのか
意思決定と実行可能性通算子会社化の意思決定があり、実行可能性が高いか
繰越欠損金の引継制限加入により欠損金が制限・切捨てとなる可能性
特定資産譲渡等損失の制限特定資産に係る将来減算一時差異が損金算入できない可能性
時価評価課税開始・加入時の時価評価課税があるか
PPA・企業結合会計との整合取得原価配分、将来計画、税効果の見積りが整合しているか

離脱時についても考え方は同じです。将来、通算子会社でなくなることについて意思決定がなされ、実行可能性が高いと認められる場合には、その時点を含む連結会計年度・事業年度から、離脱の影響を考慮して税効果会計を適用します。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

つまり、M&A・組織再編では、税務ストラクチャーが固まってから税効果を計算するのでは遅い場合がある、ということです。投資意思決定、買収価格、PPA、繰越欠損金の評価、税務デューデリジェンス、決算見積りを連動させる必要があります。

投資簿価修正は、個別と連結で見え方が変わる

グループ通算制度では、通算会社が保有する他の通算会社株式について、離脱時などに投資簿価修正が生じることがあります。

実務対応報告第42号は、投資簿価修正による他の通算会社株式等の帳簿価額の修正額が、投資簿価修正年度の課税所得を増減させる効果を有することから、期末時点の他の通算会社株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額を、一時差異と同様に取り扱うとしています。

個別財務諸表では一定要件のもとでDTA・DTLを認識します。連結財務諸表では、個別で計上したDTA・DTLを取り崩したうえで、連結貸借対照表上の投資価額と税務上の簿価純資産価額との差額を、連結財務諸表固有の一時差異と同様に取り扱います。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

ここでは、単純に「子会社株式の会計上簿価」と「税務上簿価」の差に税率を乗じるだけでは足りません。次の要素を確認します。

確認項目実務上の意味
売却等の意思決定DTAを計上するには予測可能な将来の期間に売却等の意思決定・実施計画が必要となる場面がある
保有会社の意思決定権DTLを認識しないための要件に影響
評価損計上の有無評価損に係るDTA計上の有無と投資簿価修正の税効果が連動
個別・連結差異個別で認識したDTA・DTLを連結でそのまま持ち込めない
離脱予定株式売却、清算、合併などの実行可能性が税効果に影響
組織再編税制適格・非適格、欠損金引継制限、時価評価課税との整合

投資簿価修正は、税務・会計・M&A・連結決算が交差する典型論点です。期末に税務担当者だけで検討するのではなく、組織再編の設計段階から会計影響を見通しておく必要があります。

未実現損益の消去に係る税効果

グループ通算制度下では、連結上の未実現損益の消去に係る税効果にも注意が必要です。

実務対応報告第42号では、未実現損益の消去に係る連結財務諸表固有の一時差異について、原則として税効果適用指針に従うとしつつ、法人税・地方法人税に係る未実現損益の消去に係る一時差異の上限については、売却元の課税所得ではなく、通算グループ全体の課税年度における課税所得の合計などに読み替えて適用するとされています。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

このため、通算グループ内の固定資産売買、棚卸資産売買、不動産移転、無形資産移転がある場合には、連結消去仕訳だけでなく、税効果の上限計算も通算グループ全体の所得見積りと整合させる必要があります。

特に、グループ内再編で資産を移転した直後に、売却元または売却先の業績が悪化しているケース。この場合、未実現利益消去に伴うDTAの回収可能性が、監査上の争点になりやすくなります。

グループ通算制度下の税効果で確認すべき資料

グループ通算制度下の税効果会計では、通常の税効果資料に加えて、通算制度特有の資料を整える必要があります。

資料確認目的
通算グループ一覧通算親会社・通算子会社、加入・離脱予定、完全支配関係を確認
グループ通算承認申請・届出資料適用開始時期、承認・みなし承認の判断
通算税効果額の精算規程・契約通算税効果額の授受方針、精算時期、債権債務の根拠
法人別一時差異一覧各通算会社の将来減算・加算一時差異を整理
法人別・年度別繰越欠損金明細特定繰越欠損金とそれ以外、控除期限、利用制限を整理
通算前所得の見積表各社単独の将来所得・欠損を確認
通算グループ全体の課税所得見積り連結上のDTA回収可能性判断の基礎
企業分類判定資料通算グループ全体・各社の分類をそれぞれ判定
税金種類別の税率表法人税・地方法人税、住民税、事業税を区分
未実現損益一覧連結固有の一時差異とDTA上限を確認
加入・離脱・再編計画欠損金制限、時価評価課税、投資簿価修正を確認
税率差異分析表通算税効果額、評価性引当額、税率差異を説明
注記ドラフト税効果注記、重要な会計上の見積り注記、会計方針注記との整合

監査対応では、これらの資料が「ある」だけでは不十分です。事業計画、減損判定、継続企業の前提、投資評価、組織再編計画と整合しているかが問われます。

会計上の見積りには、経営者の仮定と不確実性が含まれます。だからこそ、期末時点で入手可能な情報に基づく最善の見積りであったことを、説明できる状態にしておくことが重要です。

開示:グループ通算制度の適用注記と連帯納付義務

グループ通算制度を適用している場合、実務対応報告第42号に従って法人税・地方法人税の会計処理またはこれらに関する税効果会計を行っている旨を注記します。また、税効果会計に関する注記は、法人税・地方法人税と住民税・事業税を区分せず、これらの税金全体で注記するとされています。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

一方、通算会社が負っている連帯納付義務については、偶発債務としての注記を要しないとされています。
出典:ASBJ|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

実務上も、グループ通算制度に内在する連帯納付義務については、別途、偶発債務注記を要しないものとして整理されます。

ただし、連帯納付義務の注記が不要であることと、税務リスクや資金負担の説明が不要であることは、別の話です。

たとえば、通算親会社に資金不足がある。通算子会社に多額の未払税金がある。税務調査で重要な追徴可能性がある。グループ内精算が滞留している。こうした場合には、会計上の見積り、関連当事者、継続企業、リスク情報、監査上の説明に波及する可能性があります。

KAM・監査対応で争点化しやすいポイント

グループ通算制度下の税効果会計は、KAM候補になり得る論点です。特に、繰延税金資産が重要で、将来課税所得の見積りに不確実性が高い場合、監査人は回収可能性判断を重点的に検討します。

監査上の主な確認事項は、次のとおりです。

監査上の確認事項会社側が準備すべき説明
通算グループ範囲通算親会社・通算子会社の範囲、加入・離脱予定、完全支配関係
通算税効果額算定方法、精算方針、未収未払残高、回収可能性
将来課税所得各社別・グループ全体の見積り、予算・中期計画との整合
企業分類通算グループ全体と各社分類の判定根拠
欠損金特定繰越欠損金とそれ以外の区分、控除期限、制限
地方税法人税・地方法人税と住民税・事業税の区分
税率税金種類別の税率、超過税率、税制改正の反映
組織再編加入・離脱・合併・株式譲渡の税効果への影響
投資簿価修正将来の売却等の意思決定、実施計画、連結修正
未実現損益通算グループ全体の所得に基づくDTA上限
注記実務対応報告第42号の適用注記、税率差異、見積り注記

特に、減損、継続企業、事業計画、金融機関向け計画、予算承認資料と、DTA回収可能性資料が食い違っている場合。この点は、監査人から厳しく確認されます。

DTAを計上するためだけに楽観的な課税所得見積りを作るのではなく、経営者が実際に使用している事業計画と、税務上の所得計算を橋渡しする資料が必要です。

実務上の落とし穴

グループ通算制度下の税効果会計で、実務上、特に注意しておきたい落とし穴を整理します。

落とし穴何が問題か
各社単独のDTA計算を単純合算している連結財務諸表では通算グループ全体で回収可能性を判断するため、連結修正が漏れる
グループ全体が黒字なら赤字会社のDTAも回収可能としている特定繰越欠損金や各社分類を無視している可能性
欠損金を特定・非特定に区分していない回収可能性判断とスケジューリングが誤る
住民税・事業税を法人税・地方法人税と同じ扱いにしている地方税部分のDTAが過大または過小になる
通算税効果額の未収未払を放置している債権回収可能性、関連当事者、内部統制の論点になる
通算税効果額を授受しない方針なのに基準どおり処理している実務対応報告第42号の前提と会社運用が不整合
加入・離脱の意思決定を税効果に反映していない欠損金制限、時価評価課税、投資簿価修正の漏れ
税務部門だけで税効果を完結させている連結、M&A、減損、開示との整合が取れない
税率差異分析が粗い通算税効果額、評価性引当額、永久差異、税率差異を説明できない
注記を前年踏襲している適用状況、重要な見積り、改正基準対応が反映されない

経営者・開示担当者への説明で押さえるべき視点

グループ通算制度下の税効果会計は、経営者や開示担当者にとって、直感的に理解しづらい論点です。説明の際は、次のように整理すると議論が進みやすくなります。

説明テーマ伝えるべき内容
なぜ個社だけで判断しないのか法人税・地方法人税部分は損益通算・欠損金通算の影響を受けるため
なぜグループ全体だけで判断しないのか特定繰越欠損金や各社分類など、個社固有の制約が残るため
なぜ地方税を分けるのか住民税・事業税はグループ通算制度の対象外で、回収可能性が異なるため
なぜ事業計画が重要なのかDTAは将来課税所得に依存する会計上の見積りであるため
なぜ未収未払残高を見るのか通算税効果額の精算方針と回収可能性が財務諸表表示に影響するため
なぜM&A時に早期検討が必要なのか加入・離脱、欠損金制限、投資簿価修正が決算前から税効果に影響するため
なぜ監査で争点になるのかDTAが利益・純資産・税率差異・KAMに大きく影響するため

税効果会計は、税金を減らすための会計処理ではありません。財務諸表上、将来の税負担軽減効果を資産として認識できるかどうかを、基準に従って説明可能な形で判断する処理です。

グループ通算制度下では、その説明に、税務制度、会計上の見積り、連結決算、組織再編、開示が同時に絡んできます。

まとめ

グループ通算制度下の税効果会計では、各社単独の課税所得だけを見ても、通算グループ全体だけを見ても、十分な判断にはなりません。

個別財務諸表では、通算税効果額の影響を考慮しながら、各通算会社の将来減算一時差異や繰越欠損金の回収可能性を判断します。連結財務諸表では、通算グループ全体を1つの単位として回収可能性を判断し、個別財務諸表上の計上額との差額を連結修正します。

さらに、特定繰越欠損金とそれ以外、法人税・地方法人税と住民税・事業税、加入・離脱、投資簿価修正、未実現損益、通算税効果額の未収未払、注記・KAMへの波及。これらを、順に整理していく必要があります。

グループ通算制度下のDTA回収可能性、通算税効果額の会計処理、税金種類別の税率計算、加入・離脱時の税効果、連結修正、注記・監査対応について、監査人・経営者・開示担当者に説明できる形で整理したいとお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。税務申告上の処理だけでなく、日本基準に基づく決算・開示・監査対応として、後から説明できる税効果会計の判断整理を支援いたします。

振り返り:グループ通算制度と税効果会計の重要論点

論点実務判断のポイント確認資料
制度の基本各法人が個別申告しつつ、損益通算・欠損金通算を行う国税庁資料、通算グループ一覧
適用基準実務対応報告第42号に基づき法人税・地方法人税と税効果を処理ASBJ実務対応報告第42号
通算税効果額損益通算等による税額減少効果に対応する通算会社間の授受額通算税効果額計算表、精算規程
個別財務諸表各通算会社ごとにDTA・DTLを計上し、通算税効果額を考慮各社一時差異一覧、所得見積表
連結財務諸表通算グループ全体で回収可能性を判断し、個別計上額との差額を修正連結税効果ワークシート
企業分類通算グループ全体と各通算会社の分類をそれぞれ判定企業分類判定資料
特定繰越欠損金当該会社自身の所得見積りが重要欠損金明細、法人別所得計画
非特定繰越欠損金通算グループ全体の所得見積りを考慮グループ全体課税所得見積り
地方税住民税・事業税はグループ通算対象外として区別税金種類別税率表
遮断措置税務上の遮断措置は会計上の見積りを不要にするものではない修更正リスク資料、税務調査対応資料
加入・離脱意思決定・実行可能性が税効果に影響M&A資料、取締役会資料、再編計画
投資簿価修正個別・連結で税効果の見え方が異なる子会社株式簿価、税務簿価純資産
未実現損益通算グループ全体の課税所得を前提にDTA上限を確認未実現損益一覧、連結消去資料
未収未払残高通算税効果額の精算遅延は債権回収可能性の論点未収入金・未払金明細、精算予定表
注記適用注記、税効果注記、重要な見積り注記との整合を確認有報注記ドラフト
監査対応DTA、税率差異、KAM候補論点として説明資料が必要監査人協議メモ、論点整理表
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