IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」への実務対応|損益計算書・MPM・集約分解の見直しポイント

IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は、IFRS適用企業の会計処理そのものを大きく変える基準というより、財務業績をどのように表示し、どのように説明するかを見直すことに主眼を置いた基準です。

そのため、その影響を「表示科目の並べ替え」や「注記の追加」にとどまるものと捉えてしまうと、実務対応を見誤ることになります。IFRS第18号への対応で確認すべき範囲は、損益計算書の区分、営業利益の定義、経営者が外部へ発信している業績指標、費用の集約・分解、注記、比較情報、キャッシュ・フロー計算書と多岐にわたります。さらにはIR資料、社内管理資料、予算管理、監査対応資料までを一体で見ていく必要があります。

IFRS第18号は、2024年4月にIASBが公表した基準であり、IAS第1号「財務諸表の表示」を置き換えるものです。適用時期は、原則として2027年1月1日以後に開始する年次報告期間からとされ、早期適用も認められています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

日本においても、金融庁告示上の指定国際会計基準の一覧には、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が含まれています。
出典:金融庁|連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件

目次

IFRS第18号は何を変える基準か

IFRS第18号は、収益、リース、金融商品、減損、企業結合のように、個別の資産・負債・収益・費用の認識や測定を直接変える基準ではありません。その中心にあるのは、財務諸表に認識された金額を、利用者にとって比較可能で、透明性があり、理解しやすい形で表示・開示することにあります。

IFRS財団の影響分析でも、IFRS第18号は企業が財務諸表項目を認識・測定する方法を変えるものではなく、したがって企業全体の財務業績や財政状態そのものを変えるものではないと整理されています。ただし、表示・開示の変更は、契約や合意のなかで財務諸表数値が使われている場合には、財務制限条項、業績指標、社内KPI、報酬指標、投資家向けコミュニケーションに波及する可能性があります。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

実務上の重要性は、まさにここにあります。

会計処理の金額は変わらないのに、営業利益の定義は変わる。これまで「調整後営業利益」「EBIT」「EBITDA」などとして外部へ発信してきた指標が、財務諸表注記の対象になる。機能別表示をしている企業では、性質別費用の情報をより細かく取得しなければならなくなる。損益計算書と注記のそれぞれの役割を踏まえ、「その他」としてまとめてきた項目を分解する必要も生じます。

IFRS第18号は、財務報告の「作り方」だけでなく、「説明の仕方」を変える基準なのです。

IAS第1号からIFRS第18号への移行で押さえるべき視点

IFRS第18号は、IAS第1号のすべてを白紙から作り直した基準ではありません。IASBは、IAS第1号のすべてを再検討したのではなく、特に損益計算書に焦点を当ててIFRS第18号を開発したとしています。IAS第1号の一部の規定はIFRS第18号に引き継がれ、一部はIAS第8号「財務諸表の作成基礎」やIFRS第7号「金融商品:開示」へ移されています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

したがって、実務対応では、次の二つを分けて考えておく必要があります。

第一に、IAS第1号から引き継がれる既存の表示・開示要求です。完全な一組の財務諸表、比較情報、継続企業の前提、発生主義、重要性、相殺、表示の継続性など、IFRS財務諸表の基本的な骨格は引き続き重要な意味を持ちます。

第二に、IFRS第18号で新たに明確化・追加された要求事項です。とりわけ、損益計算書の区分と小計、経営者業績指標、集約・分解の原則、性質別費用の開示、キャッシュ・フロー計算書への限定的な変更は、実務対応の中心となります。

この二つを区別しないまま進めると、既存の開示チェックリストにIFRS第18号の項目を足すだけの対応になりがちです。しかし、本当に必要なのは、財務諸表の表示構造、社内データ、外部コミュニケーション、監査証拠をつなぎ直していく作業です。

損益計算書の区分と小計

IFRS第18号の最も大きな変更点は、損益計算書における収益・費用の区分と小計です。IFRS第18号では、損益計算書上の収益・費用を、営業、投資、財務、法人所得税、非継続事業という区分に分類する考え方が導入されます。あわせて、企業は営業損益、財務及び法人所得税前損益、損益を表示することが求められます。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

ここで注意したいのは、営業区分が「通常」「反復的」「一過性でない」項目だけを表す区分ではない、という点です。IFRS財団の説明では、営業区分は、投資、財務、法人所得税、非継続事業のいずれの区分にも分類されない収益・費用を含むデフォルト区分として位置づけられています。営業損益も、「持続的」または「反復的」な営業業績を示す指標ではなく、当期の営業活動から生じた結果を完全に示すものとされています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

この点は、監査・レビュー実務でも重要になります。従来、企業が「営業利益」から一過性費用や減損損失などを除外して説明していた場合でも、IFRS第18号上の営業損益に含まれるかどうかは、企業がそれを一過性と考えるかどうかだけで決まるものではありません。表示区分は、あくまで基準上の分類要件に基づいて判断していく必要があります。

投資区分・財務区分の判断

投資区分には、関連会社、共同支配企業、非連結子会社への投資、現金及び現金同等物、そして企業の他の資源から概ね独立してリターンを生み出すその他の資産から生じる収益・費用が含まれます。具体例としては、持分法投資損益、債券投資からの利息収益、持分投資からの配当、投資不動産からの賃貸収益や公正価値変動損益などが挙げられています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

財務区分には、資金調達のみを伴う取引から生じる負債に係る収益・費用や、資金調達のみを伴うものではない負債から生じる利息収益・利息費用、金利変動の影響が含まれます。借入金、社債、ノート、モーゲージなどは、資金調達のみを伴う負債の例として整理されます。一方で、仕入債務、リース負債、確定給付年金負債などは、資金調達のみを伴うものではない負債として扱われるため、分類にあたっては注意が必要です。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

実務では、単に勘定科目名を見て分類するだけでは足りません。たとえば「受取利息」「支払利息」「為替差損益」「デリバティブ評価損益」という科目名だけでは、IFRS第18号上の分類を判断できない場合があります。どの資産・負債・取引から生じた収益・費用なのか、企業の主たる事業活動とどう関係するのか、ヘッジ指定やリスク管理とどう結びつくのか。こうした点まで確認していく必要があります。

特定の主たる事業活動を有する企業

金融機関、投資会社、不動産投資会社、保険会社、自動車ファイナンス会社などでは、投資や顧客へのファイナンス提供そのものが主たる事業活動となることがあります。

IFRS第18号では、資産への投資を主たる事業活動として行う企業、または顧客へのファイナンス提供を主たる事業活動として行う企業について、通常であれば投資区分または財務区分に分類される一部の収益・費用を、営業区分に分類する取扱いが定められています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

これは、業種名だけで自動的に判定できる論点ではありません。主たる事業活動が何か、内部管理上どのように収益・費用を見ているか、どの活動が企業の業績を生み出しているか。こうした点を、事実に基づいて説明できる状態にしておく必要があります。

監査対応の観点からは、少なくとも次の点を文書化しておきたいところです。

  • 企業が資産への投資を主たる事業活動として行っているか
  • 企業が顧客へのファイナンス提供を主たる事業活動として行っているか
  • 複数の主たる事業活動がある場合、それぞれが損益区分にどう影響するか
  • 現金及び現金同等物から生じる収益・費用をどの区分に分類するか
  • グループ会社ごとに事業実態が異なる場合、連結上どう整理するか

この判断は、単なる表示区分の問題にとどまりません。企業が自らの業績をどう説明するかという、より本質的な論点につながっています。

為替差損益・デリバティブ損益の分類

IFRS第18号対応のなかで、実務上とりわけ負荷が高くなりやすいのが、為替差損益とデリバティブ損益の分類です。

IFRS財団の影響分析では、為替差損益は、その差損益を生じさせた項目から生じる収益・費用と同じ区分に分類されると整理されています。たとえば、外貨建売掛金から生じる為替差損益は、売上と同じ営業区分に分類される例が示されています。また、デリバティブの公正価値変動損益については、識別されたリスクを管理するために使用されているか、ヘッジ手段として指定されているかなどによって、分類が変わり得るとされています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

このため、現行の会計システムで為替差損益を一括して「営業外損益」や「金融損益」相当の勘定に集約している場合、IFRS第18号の分類に必要な粒度で情報を取得できないおそれがあります。

実務上は、為替差損益やデリバティブ損益について、少なくとも次の切り口でデータを追跡できるかどうかを確認しておきたいところです。

  • 営業債権債務から生じるもの
  • 借入金・社債等から生じるもの
  • 現金及び現金同等物から生じるもの
  • 在外営業活動体やグループ内貸付に関連するもの
  • ヘッジ会計の対象となるもの
  • ヘッジ指定はないが特定リスク管理に用いられているもの
  • 投資資産や持分法投資に関連するもの

ここを後回しにすると、比較情報の組替え、連結パッケージの改訂、監査調書の作成の各場面で、大きな負荷が生じることになります。

経営者業績指標(MPM)の実務対応

IFRS第18号では、経営者業績指標、すなわちManagement-defined Performance Measures(MPM)に関する注記が導入されます。

MPMとは、収益・費用の小計であって、財務諸表外の公開コミュニケーションで使用され、企業全体の財務業績の一側面について経営者の見方を投資家へ伝えるために用いられ、かつIFRS第18号に列挙されている小計や、他のIFRS会計基準で具体的に要求されている小計ではないものを指します。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

MPM対応で意識しておきたいのは、これが財務諸表作成部門だけで完結する論点ではないという点です。対象となる指標は、財務諸表のなかだけでなく、決算説明資料、投資家向け資料、プレスリリース、経営者による業績説明、マネジメント・コメンタリーといった外部コミュニケーションで使われている指標と結びついています。

IFRS財団の影響分析でも、MPMの識別における公開コミュニケーションには、マネジメント・コメンタリー、プレスリリース、投資家向けプレゼンテーションが含まれる一方、口頭でのコミュニケーション、口頭での発言の書き起こし、ソーシャルメディア投稿は含まれないと整理されています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

そのため、MPM対応では、経理部門だけでなく、IR、経営企画、広報、法務、監査対応部門との連携が欠かせません。

MPM注記で求められる情報

IFRS第18号では、MPMに関する情報を財務諸表注記の単一の注記で開示することが求められます。注記には、MPMが企業全体の財務業績の一側面について経営者の見方を示すものであり、同様の名称を用いる他社の指標と必ずしも比較可能ではない旨の記述が含まれます。加えて、各MPMについて、何を表す指標か、なぜ有用と考えるか、どのように計算するか、IFRS第18号上の最も直接的に比較可能な小計またはIFRSで要求される合計・小計との調整表、調整項目ごとの税効果と非支配持分への影響などが求められます。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

実務上、特に準備を要するのは、調整項目ごとの税効果と非支配持分への影響です。従来の任意指標では、調整後利益とIFRS上の利益との差額を、合計で示すだけにとどめていた企業もあります。しかし、IFRS第18号のMPM注記では、調整項目ごとに、どの表示科目に含まれるか、税効果はどうなるか、非支配持分にどのような影響があるかを、それぞれ説明できる状態にしておかなければなりません。

これは、単なる注記作成の作業ではありません。MPMを公表する以上、その指標がどの損益項目を調整しているのか、なぜその調整が経営者の業績観を表すのか、比較可能性をどう担保するのか。これらを財務諸表監査の文脈で説明できる状態にしておくことが求められます。

EBITDAはどう扱うべきか

実務上、多くの企業で関心が高いのがEBITDAの取扱いです。

IFRS第18号はEBITDAを定義していません。その一方で、IFRS第18号では「営業損益からIAS第36号の範囲に含まれる減価償却、償却及び減損を控除する前の損益」に相当する指標が、MPMではないものとして整理されています。企業が財務諸表外の公開コミュニケーションでEBITDAを示しており、その計算方法がこの指標と同じでない場合には、そのEBITDAはMPMに該当し、MPM開示が必要となる可能性があります。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

この論点では、名称に引きずられないことが何より大切です。「EBITDA」という同じ名称であっても、企業ごとに調整項目は異なります。減損損失を除くのか、株式報酬費用を除くのか、一過性費用を除くのか、持分法投資損益を含めるのか、為替差損益をどう扱うのか。こうした違いによって、MPM該当性や注記内容は変わり得ます。

したがって、IFRS第18号対応では、企業が外部に使っているすべての業績指標について、名称ではなく算定式のほうを確認していく必要があります。

集約・分解の原則と「その他」表示

IFRS第18号のもう一つの重要な変更点は、集約・分解に関する要求事項です。

IFRS第18号では、企業は個々の取引その他の事象に関する情報を、基本財務諸表と注記において集約または分解することが求められます。その際には、共有する特徴に基づいて集約し、共有しない特徴に基づいて分解すること、基本財務諸表と注記がそれぞれの役割を果たすように集約・分解すること、そして重要性のある情報を覆い隠さないことが求められます。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

この要求事項は、実務では「その他営業費用」「その他収益」「その他金融収益」「その他の費用」といった表示に影響します。

「その他」という名称そのものが、直ちに禁止されるわけではありません。しかし、そのなかに重要な異質項目が含まれている場合や、財務諸表利用者が理解すべき性質の異なる項目が集約されている場合には、表示科目または注記で分解・説明する必要があります。

この論点は、経理実務上の科目設計とも直結します。勘定科目の粒度が粗すぎると、IFRS第18号で求められる分解情報を、決算時に後追いで集めることになってしまいます。とりわけ、グループ各社で科目体系が異なる場合には、連結パッケージの段階でどの粒度まで情報を集めるかを、早い段階で決めておく必要があります。

費用の性質別情報

IFRS第18号では、営業費用を性質別または機能別に分類・表示するにあたり、企業が費用について最も有用な構造化された要約を提供する方法を選択することが求められます。企業が営業費用について一つ以上の機能別表示科目を表示する場合には、営業区分の各機能別表示科目に関連する五つの指定された性質別費用の金額を開示しなければなりません。指定された費用は、減価償却費、償却費、従業員給付、減損損失及び減損戻入、棚卸資産の評価減及び戻入です。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

この要求事項は、製造業、ソフトウェア業、建設業、サービス業など、原価・販売費・一般管理費を機能別に表示している企業にとって、実務負荷が高くなりやすい論点です。

たとえば、売上原価、販売費、研究開発費、一般管理費の各機能別表示科目に、減価償却費、人件費、償却費、減損損失、棚卸資産評価減がどの程度含まれているかを、連結ベースで把握できる必要があります。

こうした情報は、現行の総勘定元帳や連結パッケージから、そのまま取得できるとは限りません。部門別・機能別配賦、固定資産台帳、人事給与データ、研究開発費管理、棚卸評価、減損処理など、複数のサブシステムや管理資料を接続しなければならない場面も出てきます。

キャッシュ・フロー計算書への限定的な変更

IFRS第18号は、IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」にも限定的な変更をもたらします。

IFRS財団の影響分析では、IASBがIAS第7号を改訂し、間接法による営業活動によるキャッシュ・フローの表示において、すべての企業が営業損益を出発点として使用することを求めるとされています。あわせて、利息・配当の受取・支払に関するキャッシュ・フロー分類の選択肢も削除されます。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

ここで注意したいのは、損益計算書の営業・投資・財務区分と、キャッシュ・フロー計算書の営業・投資・財務活動区分は、同じ意味ではないという点です。IFRS財団の影響分析でも、IASBは各基本財務諸表の目的を優先しており、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の営業・投資・財務区分を一致させることは目指していないと整理されています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

したがって、実務上は、損益計算書で財務区分に分類されるからキャッシュ・フロー計算書でも財務活動、という単純な対応関係で判断してはいけません。両者の分類目的が異なることを前提に、表示方針、調整表、システムロジックを確認していく必要があります。

比較情報と移行対応

IFRS第18号は、IFRS会計基準に準拠して財務諸表を作成するすべての企業に対し、2027年1月1日から遡及適用されるとされています。早期適用も認められています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

遡及適用ということは、適用初年度の当期数値だけをIFRS第18号ベースに組み替えればよい、という話ではありません。比較情報もあわせてIFRS第18号ベースで作成する必要があります。

そのため、実務対応を適用初年度の決算期に始めるのでは、間に合わない場合があります。過年度の比較情報を作成するには、比較年度の取引、勘定科目、費用性質、為替差損益、デリバティブ損益、MPM調整項目、税効果、非支配持分影響などを、IFRS第18号ベースで再構成できる状態にしておかなければなりません。

とりわけ、次のような企業では、早期の影響分析が欠かせません。

  • 営業利益、EBIT、EBITDA、調整後利益など複数の業績指標を外部発信している企業
  • 機能別費用表示を採用している企業
  • 為替差損益やデリバティブ損益の発生が多い企業
  • 金融、保険、不動産投資、ファイナンス事業などを有する企業
  • 多国籍グループで連結パッケージの粒度が統一されていない企業
  • 財務制限条項や報酬指標に損益計算書上の小計を利用している企業
  • IR資料と財務諸表注記の整合性が重要となる上場企業

IFRS第18号対応は、単年度の注記作成ではなく、比較情報を含む表示・開示プロセスの再設計だと捉えておくのが適切です。

実務対応の進め方

IFRS第18号対応では、最初に「基準差異表」を作るだけでは十分とはいえません。必要なのは、財務諸表の表示構造、社内データ、外部発信、監査証拠をつないでいく実務設計です。

1. 現行表示の棚卸し

まずは、現行の損益計算書、注記、キャッシュ・フロー計算書、IR資料、決算説明資料、社内管理資料で使用している損益区分と業績指標を棚卸しします。

ここでは、次の点を確認していきます。

  • 現行の営業利益の定義
  • 持分法投資損益の表示位置
  • 受取利息、支払利息、配当、為替差損益、デリバティブ損益の表示位置
  • 営業外損益、金融損益、その他損益の内訳
  • IFRS上の小計と任意指標の関係
  • IR資料で使用している調整後指標
  • 予算管理・業績管理で使用しているKPI
  • キャッシュ・フロー計算書の間接法の出発点
  • 利息・配当キャッシュ・フローの分類

この棚卸しを行うことで、IFRS第18号の適用でどの表示科目が変わるのか、どの指標がMPMに該当し得るのか、どのデータが不足しているのかが見えてきます。

2. 勘定科目と連結パッケージの再設計

次に、IFRS第18号で必要となる分類情報を、会計システムまたは連結パッケージで取得できるかを確認します。

とりわけ、為替差損益、デリバティブ損益、受取利息、支払利息、持分法投資損益、投資不動産損益、減価償却費、償却費、人件費、減損損失、棚卸資産評価減などは、表示・注記で必要となる粒度を意識して管理しておく必要があります。

ここで大切なのは、財務諸表作成段階で無理に手作業集計する前提にしないことです。適用初年度は乗り切れたとしても、継続的な決算運用として耐えられない場合があります。比較情報、四半期・中間報告、監査対応、開示レビューまでを見通せば、できるだけ通常の決算プロセスに組み込んでおくことが望ましいといえます。

3. MPMの識別とガバナンス

MPMについては、経理部門だけでなくIR、経営企画、広報、法務と連携し、外部発信している指標を網羅的に確認する必要があります。

確認すべきは、単なる指標名ではなく、次の事項です。

  • その指標が収益・費用の小計か
  • 財務諸表外の公開コミュニケーションで使われているか
  • 経営者の業績観を示すものか
  • IFRS第18号または他のIFRS会計基準で要求される小計か
  • IFRS上の最も直接的に比較可能な小計は何か
  • 調整項目ごとの表示科目、税効果、非支配持分影響を算定できるか
  • 指標の計算方法を変更した場合、比較情報を再表示できるか

MPMは、開示対象の特定にとどまらず、企業の外部コミュニケーション方針そのものに関わります。従来、IR資料では自由度高く使ってきた指標が、財務諸表注記で監査対象になる可能性があるためです。

4. 表示・開示判断の文書化

IFRS第18号では、判断の根拠を文書化しておくことが重要です。監査対応の観点からは、少なくとも次のような論点整理資料を準備しておきたいところです。

  • IFRS第18号適用方針メモ
  • 損益計算書の区分判定表
  • 主たる事業活動の判定メモ
  • 為替差損益・デリバティブ損益の分類方針
  • MPM識別メモ
  • MPM調整表と税効果・非支配持分影響の算定資料
  • 性質別費用情報の取得プロセス
  • 集約・分解に関する表示科目レビュー資料
  • 比較情報の組替え資料
  • キャッシュ・フロー計算書の変更影響資料
  • 監査人との協議事項一覧

ここまで整えておくことで、IFRS第18号対応を単なる表示変更ではなく、説明可能な財務報告判断として位置づけることができます。

監査対応上の注意点

IFRS第18号対応で監査上の確認が深くなりやすいのは、次の領域です。

第一に、損益計算書の分類判断です。営業、投資、財務の区分は、勘定科目名だけで決まるものではありません。取引の性質、関連する資産・負債、主たる事業活動、リスク管理、ヘッジ指定との関係を踏まえて判断する必要があります。

第二に、MPMの網羅性です。企業が外部発信している業績指標をどこまで把握したか、どの指標をMPMと判断し、どの指標をMPMではないと判断したか、その根拠が問われます。

第三に、MPM調整表の正確性です。IFRS上の小計との調整、調整項目ごとの表示科目、税効果、非支配持分影響は、いずれも監査上の検証対象になり得ます。

第四に、性質別費用情報の取得プロセスです。機能別表示科目に含まれる指定費用をどのように把握したか、配賦や集計の根拠は何か、グループ各社で一貫しているかを確認する必要があります。

第五に、比較情報の再構成です。適用初年度の当期数値だけでなく、比較年度の表示・注記がIFRS第18号ベースで整合しているかが重要になります。

IFRS第18号の監査対応では、「基準の文言に合わせた表示にした」という説明だけでは足りません。なぜその分類になるのか、なぜその指標がMPMに該当する、または該当しないのか、なぜその集約・分解が重要性を覆い隠していないのか。これらを資料として説明できる状態にしておく必要があります。

経営管理・IR・契約への影響

IFRS第18号は財務諸表の表示・開示基準ですが、その影響は財務諸表にとどまりません。

営業利益が定義されることで、従来企業が使ってきた営業利益、事業利益、コア営業利益、調整後営業利益、EBIT、EBITDAなどとの関係を整理する必要が出てきます。これらの指標が、投資家説明、社内予算管理、事業部評価、役員報酬、財務制限条項などに使われている場合には、IFRS第18号適用後の表示との整合性を確認しておかなければなりません。

とりわけ、財務制限条項や業績連動報酬に「営業利益」「EBITDA」などの指標が使われている場合には、契約上の定義がIFRS第18号上の小計と一致するのか、従来の社内定義を維持するのか、外部説明上どのように区別するのかを検討する必要があります。

IFRS財団の影響分析でも、IFRS第18号は認識・測定を変えないものの、財務諸表情報が契約や合意の遵守状況のモニタリングに用いられている場合には、新たな表示・開示要求がそれらに影響する可能性があると整理されています。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

その意味で、IFRS第18号対応は、財務報告部門だけの対応にはとどまりません。経営企画、IR、法務、人事報酬、財務、事業部管理会計、海外子会社管理までを巻き込むテーマです。

実務上、早期に確認すべき事項

IFRS第18号への対応では、次の事項を早い段階で確認しておくことが重要です。

確認項目実務上のポイント
現行の営業利益の定義IFRS第18号上の営業損益と一致するか、差異があるか
損益計算書の表示科目営業・投資・財務・法人所得税・非継続事業の区分に再マッピングできるか
為替差損益・デリバティブ損益発生源泉別に分類できるデータがあるか
主たる事業活動投資活動・ファイナンス提供が主たる事業活動に該当するか
外部発信している業績指標MPMに該当する可能性がある指標を網羅しているか
MPM調整表税効果・非支配持分影響を調整項目ごとに算定できるか
費用の性質別情報機能別表示科目ごとに指定費用を取得できるか
「その他」表示重要な異質項目を覆い隠していないか
キャッシュ・フロー計算書間接法の出発点、利息・配当の分類を変更する必要があるか
比較情報遡及適用に対応できる過年度データを確保できるか
内部統制分類判断、MPM識別、注記作成、レビューの責任分担が明確か
監査対応判断メモ、調整表、証拠資料を残せるか

IFRS第18号対応で避けるべき誤解

IFRS第18号については、次のような誤解が生じやすいと考えられます。

「営業利益は従来の営業利益と同じ」と考える

従来から営業利益を表示している企業でも、その定義がIFRS第18号と一致するとは限りません。IAS第1号では営業利益が定義されていなかったため、企業ごとに表示実務には幅がありました。IFRS第18号では営業損益が定義されるため、従来の営業利益との差異を確認しておく必要があります。
出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

「MPMは任意指標の名前を変えれば避けられる」と考える

MPM該当性は、名称ではなく、収益・費用の小計か、公開コミュニケーションで使用されているか、経営者の業績観を伝えるか、IFRSで定められた小計か、といった実質で判断します。名称を変えても、実質的に同じ指標を外部発信していれば、MPMに該当する可能性があります。

「注記だけ作れば対応できる」と考える

MPM注記、費用の性質別情報、集約・分解の見直しは、注記作成の段階だけでは対応しきれません。元データ、勘定科目、連結パッケージ、IR資料、比較情報、監査証拠がそろって初めて対応できるものです。

「損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の区分は一致する」と考える

IFRS第18号における損益計算書の営業・投資・財務区分と、IAS第7号上のキャッシュ・フロー計算書の活動区分は、同じ目的で設計されているわけではありません。両者を機械的に一致させるのではなく、それぞれの基準目的に基づいて判断する必要があります。

専門家に相談する前に整理しておきたい資料

IFRS第18号対応について専門家に相談する場合、事前に次の資料を整理しておくと、検討の質が高まりやすくなります。

  • 現行のIFRS連結財務諸表
  • 現行の損益計算書表示科目と勘定科目マッピング
  • 連結パッケージの損益科目一覧
  • 営業利益、EBIT、EBITDA、調整後利益等の算定資料
  • 決算説明資料、投資家向け資料、プレスリリース等で使用している業績指標一覧
  • 為替差損益、デリバティブ損益の発生源泉別内訳
  • 持分法投資、投資不動産、金融資産、借入金、リース負債等に関する損益内訳
  • 費用の機能別・性質別内訳
  • キャッシュ・フロー計算書の作成資料
  • 財務制限条項や報酬指標で使用している会計指標
  • 適用初年度と比較年度の決算スケジュール
  • 監査人との協議状況

IFRS第18号対応では、基準の解釈だけでなく、企業の実際の表示、社内管理、外部発信、監査対応を前提に検討していく必要があります。資料が整っているほど、単なる一般論ではなく、実際にどこを変えるべきか、どこに監査上の論点があるかを、具体的に検討しやすくなります。

まとめ

IFRS第18号は、会計処理の金額を直接変える基準ではありません。しかし、企業が財務業績をどのように表示し、どのように説明し、どの指標を外部に示すかに、大きく関わる基準です。

とりわけ、損益計算書の区分と小計、MPM注記、集約・分解の原則、機能別表示科目に含まれる性質別費用の開示、キャッシュ・フロー計算書の限定的な変更は、経理部門だけでなく、IR、経営企画、財務、法務、人事報酬、海外子会社管理、監査対応にまで影響する可能性があります。

IFRS第18号対応では、「適用時期が近づいたら注記を追加する」という進め方ではなく、現行の表示・開示・外部発信・社内管理資料を棚卸しし、比較情報を含めて説明可能な形に整えておくことが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRS第18号を含むIFRS表示・開示、会計方針、見積り、監査対応資料、経営者業績指標の整理について、単なる基準解説にとどまらず、実務で説明できる形への論点整理を重視しています。IFRS第18号の適用影響を早めに把握したい、損益計算書の表示区分やMPMの整理を進めたい、監査人との協議前に論点を整理しておきたいといった場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り

論点押さえるべきポイント
IFRS第18号の位置づけIAS第1号を置き換える表示・開示基準。認識・測定そのものではなく、財務業績の表示と説明が中心
適用時期2027年1月1日以後開始する年次報告期間から適用。早期適用可。比較情報も含めた遡及対応が必要
損益計算書の区分営業、投資、財務、法人所得税、非継続事業の区分を意識して収益・費用を分類する
営業損益「持続的」「通常」「一過性でない」損益だけではなく、基準上の分類要件に基づく営業区分の小計
投資区分・財務区分持分法投資、現金及び現金同等物、借入金、リース負債、年金負債などの分類判断が必要
為替差損益・デリバティブ損益発生源泉やリスク管理との関係に基づき分類する必要があり、データ粒度の見直しが重要
MPM外部コミュニケーションで使う収益・費用の小計が注記対象となる可能性がある
MPM注記算定方法、利用理由、IFRS上の小計との調整、税効果、非支配持分影響などの説明が必要
集約・分解「その他」表示で重要情報を覆い隠さないよう、表示科目と注記の役割に応じて分解する
費用の性質別情報機能別表示を採用する場合、指定された性質別費用を機能別表示科目ごとに把握する必要がある
キャッシュ・フロー計算書間接法の出発点や利息・配当の分類に限定的な変更がある
実務対応表示科目、勘定科目、連結パッケージ、IR資料、監査証拠を一体で見直すことが重要
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