IFRS実務における新基準対応は、「公表された基準を読んでおく」だけでは足りません。
公表済未発効基準は、まだ会計処理に取り込まれていない段階であっても、すでに財務報告上の論点です。基準が公表された時点で、企業はその基準が将来の財務諸表や会計方針、表示・開示、比較情報、システム、内部統制、監査対応、そして投資家への説明にどのような影響を及ぼすかを見極め、必要に応じて注記で説明することが求められるからです。
IAS第8号は、公表済であるものの未発効の新しいIFRSを企業がまだ適用していない場合、その事実を開示することを求めています。あわせて、当該新基準の適用が初度適用期間の財務諸表に与える可能性のある影響を評価するうえで関連する、既知または合理的に見積可能な情報の開示も必要とされます。さらに、基準名、変更の内容、適用が要求される日、企業が適用を予定する日、予想される影響、あるいは影響が不明・合理的に見積不能である旨についても検討することが示されています。出典:IFRS Foundation|IAS 8 Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors
つまり、公表済未発効基準への対応は、決算末に注記欄へ「影響を検討中」と書き添える作業ではありません。基準改定を、取引の実態や契約条件、経営管理、開示方針、監査証拠、システム・内部統制にまで落とし込んでいく、継続的な決算プロセスなのです。
公表済未発効基準とは何か
公表済未発効基準とは、IASBによってすでに公表されているものの、企業の報告期間にはまだ強制適用されていないIFRS会計基準、または既存基準の改訂を指します。
この段階では、企業はまだ新基準を会計処理に適用していないことがあります。しかし、投資家や債権者といった財務諸表利用者にとっては事情が異なります。将来適用される基準が、企業の業績指標や財政状態、キャッシュ・フロー、注記、セグメント、契約管理、KPIにどのような影響を及ぼすのか。それはすでに、意思決定を左右する重要な情報となり得るのです。
たとえばIFRS第18号は、損益計算書の表示構造や経営者業績指標の開示に影響します。IFRS第19号は、一定の子会社の開示負担を軽減し得ます。IFRS第20号は、料金規制の対象となる企業に、規制資産・規制負債・規制収益・規制費用という新しい財務報告の枠組みを導入します。いずれも、適用開始日の仕訳を切れば済むという性質のものではありません。
新基準対応で本当に重要なのは、「いつから適用か」だけではありません。「いつまでに何を判断し、どの資料を整え、どの関係者と合意しておくか」まで見通せているかどうかです。
2026年時点で特に意識すべき新基準
本記事の執筆時点で、IFRS適用企業がとりわけ影響評価の対象とすべき代表的な公表済未発効基準として、IFRS第18号、IFRS第19号、IFRS第20号が挙げられます。
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は、2027年1月1日以後開始する事業年度から適用され、早期適用も認められています。IAS第1号「財務諸表の表示」を置き換えるもので、損益計算書における新たな小計、経営者が定義した業績指標、集約・分解などに関する要求事項を含みます。出典:IFRS Foundation|IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements
IFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」も、2027年1月1日以後開始する事業年度から適用され、早期適用が認められています。適格な子会社が、他のIFRS会計基準の認識・測定等を適用しつつ、開示についてはIFRS第19号の軽減された開示要求を適用することを認める基準です。出典:IFRS Foundation|IFRS 19 Subsidiaries without Public Accountability: Disclosures
IFRS第20号「規制資産及び規制負債」は、2029年1月1日以後開始する事業年度から適用され、こちらも早期適用が認められています。料金規制の対象となる企業に対し、規制資産、規制負債、規制収益、規制費用に関する情報の提供を求める新基準で、IFRS第14号「規制繰延勘定」を置き換えるものです。出典:IFRS Foundation|Effects Analysis: IFRS 20 Regulatory Assets and Regulatory Liabilities
日本の制度対応も動いています。金融庁は2026年7月10日、IASBが2026年6月30日までに公表した国際会計基準を指定国際会計基準とする改正案について、パブリックコメントを実施しました。更新の対象として掲げられているのは、IFRS第14号の廃止、IFRS第20号の新設、IAS第28号の修正です。実際の適用にあたっては、最終的な告示や施行日、会社の開示制度、監査人との協議状況を確認しておく必要があります。出典:金融庁|「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件」に対するパブリックコメントの実施について
「未発効だから後でよい」が危険な理由
公表済未発効基準への対応が後手に回る原因の多くは、基準の適用開始日だけを見てしまうことにあります。
たとえば2027年適用のIFRS第18号を考えてみます。比較情報の組替え、過年度の表示との整合、管理会計上の業績指標との関係、投資家向け資料で使用しているKPIとの整合。これらを見渡すと、適用初年度の直前決算になって初めて検討を始めるのでは、間に合わない場面が出てきます。
2029年適用のIFRS第20号も同様です。料金規制対象事業では、規制資本ベース、料金算定資料、過不足回収額、将来キャッシュ・フロー、規制当局との合意、規制上の利率、そしてIFRS第15号収益との関係を、過年度から整えておく必要があります。適用開始が先であっても、データの収集と判断資料の整備には早めの着手が欠かせません。
IFRS第19号についても、単に「注記が減る」という話にとどまりません。どの子会社が適格か、親会社連結財務諸表との関係、ローカル法定財務諸表での使用可否、グループ会計方針への組込み、子会社パッケージの変更、監査範囲、外部株主・債権者への説明。こうした点が、いずれも論点になります。
新基準対応は、基準の発効日から考えるのではなく、比較情報、内部統制、システム改修、監査スケジュールから逆算して設計する。これが実務の勘所です。
影響評価は「適用有無」ではなく「財務報告全体への影響」を見る
公表済未発効基準の影響評価では、まず「自社に関係があるか」を判定します。しかし、そこで終えてはいけません。
実務上は、次の5つの層に分けて影響を整理していきます。
1. 適用対象への該当性
はじめに、新基準が自社またはグループ会社に適用されるかを確認します。
IFRS第18号であれば、基本財務諸表を作成するIFRS適用企業のほぼ全体に影響が及びます。IFRS第19号であれば、適格子会社に該当するか、公的説明責任の有無、親会社の連結財務諸表が一般に利用可能かが論点です。IFRS第20号であれば、料金規制の対象事業が存在するか、その規制上の合意が規制資産・規制負債を生じさせるかが出発点になります。
適用対象の検討では、会計部門だけで完結させることはできません。法務、経営企画、事業部、規制対応部門、海外子会社管理部門まで巻き込んで進める必要があります。
2. 認識・測定への影響
次に、新基準によって資産、負債、収益、費用、OCI、資本の認識・測定が変わるかを確認します。
IFRS第18号は主に表示・開示の基準ですが、表示分類が変われば、業績指標やセグメント管理、借入契約上の財務制限条項、役員報酬KPI、投資家への説明にまで影響が及び得ます。
IFRS第20号は、料金規制対象企業にとって認識・測定そのものを左右します。規制資産・規制負債の認識、将来キャッシュ・フローの見積り、割引、規制上の利率、そしてIFRS第15号収益との関係を検討することになります。
3. 表示・開示への影響
公表済未発効基準への対応で最も見落とされやすいのが、表示・開示への影響です。
新基準が会計処理の金額に大きく響かない場合でも、注記項目、注記の粒度、集約・分解、会計方針の開示、見積りの開示、重要な判断の開示が変わることがあります。IFRS第18号では、損益計算書のカテゴリー、小計、経営者業績指標、費用性質別開示、集約・分解が、そのまま開示設計に直結します。IFRS第19号では、子会社財務諸表における開示項目そのものを設計し直す必要があります。
4. システム・データへの影響
影響評価は、会計基準の次元だけでなく、データ項目のレベルまで分解しなければなりません。
新しい表示科目を出すために、既存の勘定科目体系で足りるのか。規制資産・規制負債を測定するために、規制会計上のデータとIFRS財務データを紐づけられるのか。子会社の開示負担を軽減するために、連結パッケージや注記収集フォームを変更する必要はないか。こうした準備は、適用初年度の決算直前に着手しても間に合わないことがあります。
5. 内部統制・監査対応への影響
新基準対応では、結論だけでなく、そこに至る判断プロセスそのものが監査の対象になります。
適用対象の判定、会計方針の選択、経過措置の選択、影響額の算定、注記判断、システム変更、子会社報告、経営者承認、監査人との協議。これらを、誰が、いつ、どの資料に基づいて実施したのかを残しておく必要があります。
とりわけ、IAS第8号に基づいて「影響が不明または合理的に見積不能」と開示する場合には注意が必要です。単に検討していないという状態ではなく、合理的に見積れない理由と今後の検討計画を、いつでも説明できる状態にしておくことが求められます。
IAS第8号に基づく未発効基準注記の実務
未発効基準注記は、形式的な基準の一覧ではありません。財務諸表利用者が将来の影響を理解するための、説明そのものです。
IAS第8号は、未適用の新基準について、既知または合理的に見積可能な情報を開示することを求めています。さらに、基準名、変更の性質、適用が要求される日、企業が初度適用を予定する日、初度適用が財務諸表に与えると見込まれる影響、あるいはその影響が不明・合理的に見積不能である旨についても検討することが示されています。出典:IFRS Foundation|IAS 8 Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors
この注記で避けたいのは、毎期同じ文言で「現在影響を検討中です」とだけ記すことです。初期段階ではやむを得ない場合もあります。しかし、適用時期が近づくにつれて、検討の進捗、主要な影響領域、定量影響の見通し、未確定事項、経営上の対応は、より具体化しているはずです。
実務上は、未発効基準注記を次のように段階を追って管理していくとよいでしょう。
初期段階
基準が公表された直後は、基準名、概要、強制適用時期、早期適用の可否、自社への適用可能性、そして影響評価を開始した旨を開示する段階です。
影響分析段階
主要な影響領域が見えてきた段階では、対象取引、対象部門、影響する財務諸表項目、システム・内部統制・開示への影響を説明します。定量影響がまだ確定していなくても、影響が見込まれる領域を示しておくことが大切です。
実装準備段階
適用開始が近づいた段階では、会計方針、経過措置、比較情報、表示組替え、注記方針、内部統制の更新、監査人との協議状況を反映していきます。定量影響が合理的に見積可能であれば、必要に応じて金額情報や影響の方向性を説明します。
適用直前段階
適用初年度の直前期には、初度適用の方法、比較情報への影響、主要な判断、未確定事項、適用初年度の注記方針を具体化します。ここで初めて影響評価に着手するのではなく、過年度から積み重ねてきた検討を財務諸表注記へ反映していく。それがこの段階のあるべき姿です。
「影響なし」と判断する場合の注意点
公表済未発効基準について「影響なし」と記載する場合には、その根拠が求められます。
たとえばIFRS第20号について、料金規制対象事業がないため影響はないと判断する場合を考えてみます。事業名だけで結論づけるのは早計です。グループ全体を見渡し、規制料金、認可料金、料金算定ルール、政府補助、サービス委譲契約、公共インフラ契約が存在しないかを確認しておく必要があります。
IFRS第19号について影響なしと判断する場合も同様です。適格子会社がないのか、適格子会社はあるが適用しない方針なのか、あるいはローカル法定財務諸表で使用できないため実務上採用しないのか。この区別は明確にしておくべきです。
IFRS第18号については、多くのIFRS適用企業に影響が及ぶだけに、「影響なし」という結論には慎重でありたいところです。表示区分、営業損益、財務活動、投資活動、経営者業績指標、注記構成、投資家向けKPIのいずれにも影響がない、と判断するには、相応の分析が欠かせません。
会計方針の更新は「基準文言の貼替え」ではない
新基準対応では、会計方針を更新する必要があります。ただし、会計方針の更新とは、注記の文言を新しい基準名に差し替えることではありません。
IAS第8号のもとで会計方針を変更できるのは、IFRSにより要求される場合、または変更によって財務諸表がより信頼性のある、より目的適合性の高い情報を提供する場合に限られます。また、新しいIFRSの初度適用に伴う会計方針の変更は、当該IFRSに経過措置があればそれに従い、経過措置がない場合には原則として遡及適用します。出典:IFRS Foundation|IAS 8 Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors
さらにIAS第8号は、重要性のある会計方針情報の開示を求めています。会計方針情報は、企業固有の状況に照らしてIFRSの要求事項をどのように適用したかに焦点を当てるほど、財務諸表利用者にとって有用なものになります。出典:IFRS Foundation|IAS 8 Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors
したがって、会計方針の更新にあたっては、次のような視点が必要になります。
- どの新基準によって会計方針が変わるのか
- その変更は、認識・測定に関するものか、それとも表示・開示に関するものか
- 経過措置は、完全遡及か、修正遡及か、将来適用か
- 比較情報をどのように修正または組替えるのか
- 過去の会計方針との差異は何か
- 会計方針の文言は、企業固有の判断を反映しているか
- 重要でない定型文が、重要な会計方針情報を覆い隠していないか
- 監査人、取締役会、監査役等、開示委員会に説明できる状態か
会計方針は、財務諸表の注記だけに存在するものではありません。会計方針マニュアル、連結パッケージ、決算チェックリスト、会計メモ、子会社向け指示書、システム設定、承認フロー。こうしたものに落とし込まれて、初めて実務として機能します。
早期適用を検討する際の判断軸
公表済未発効基準のなかには、早期適用が認められるものがあります。しかし早期適用は、「早く対応した方がよい」という単純な話ではありません。
早期適用を検討する場合には、少なくとも次の観点を整理しておく必要があります。
第一に、早期適用によって、財務諸表利用者により有用な情報を提供できるかどうかです。IFRS第19号であれば、開示負担の軽減と利用者ニーズのバランスが問われます。IFRS第18号であれば、業績表示の透明性向上が期待できる一方で、比較情報や投資家向け説明の準備が求められます。
第二に、システム・内部統制・監査対応が早期適用に耐えられるかどうかです。基準を早期適用しても、データ収集、勘定科目、表示分類、注記作成、レビュー統制が整っていなければ、かえって決算リスクが高まります。
第三に、日本における指定国際会計基準、金融商品取引法上の開示、会社法上の計算書類、監査人の受入れ、グループ会社のローカル法定財務諸表との関係を確認することです。IFRS財団が早期適用を認めていても、実際の法定開示に適用できるかどうかは、国内制度上の確認を要します。
第四に、任意に早期適用した場合の比較可能性です。同業他社がまだ適用していない段階では、業績表示や注記が変わることで、比較可能性に影響が及ぶ可能性があります。
早期適用は、会計上の選択というより、財務報告戦略上の判断です。
経過措置の選択は監査対応の中心論点になる
新基準の多くには、経過措置が用意されています。この経過措置の選択が、初度適用時の損益、資本、比較情報、注記負担、監査証拠を左右します。
たとえば完全遡及アプローチでは、比較情報の期間にも新基準を適用したかのように修正します。比較可能性は高まりますが、その分、過年度データの収集と監査証拠の確保が重くなります。
修正遡及アプローチでは、適用開始時点で累積影響額を認識し、比較情報は修正しない場合があります。実務負担は軽くなる一方で、適用初年度の比較可能性、注記による説明、投資家への説明が重要になってきます。
将来適用の場合は、過去の処理を修正しないため、実務負担は比較的軽く済みます。ただし、変更の前後で会計処理がどう違うのかを、利用者が理解できるように説明する必要があります。
経過措置を選ぶ際に基準とすべきは、「最も作業が少ない方法」ではありません。財務諸表利用者にとっての比較可能性、監査可能性、データの入手可能性、社内体制、開示説明の質を、総合的に見て判断すべきです。
新基準対応を決算プロセスに組み込む方法
公表済未発効基準の影響評価は、担当者の属人的なウォッチリストに委ねるものではありません。決算プロセスそのものに組み込んでいく必要があります。
1. 基準改定ウォッチの責任者を明確にする
IFRS財団、IASB、IFRS Interpretations Committee、金融庁、ASBJ、JICPA、JPX、大手監査法人のニュースレターなどを、定期的に確認する責任者を定めます。ここで大切なのは、情報を集めること自体ではありません。自社に関係する改定を抽出し、影響評価へとつなげていくことです。
2. 公表済未発効基準リストを更新する
基準名、公表日、強制適用日、早期適用の可否、対象会社、影響領域、責任部署、検討状況、監査人協議状況を一覧化します。
このリストは、決算チェックリスト、監査対応資料、開示委員会資料、取締役会・監査役等への報告資料と連動させておくとよいでしょう。
3. 影響評価メモを作成する
新基準ごとに、適用対象、現行の会計方針、変更内容、影響領域、必要データ、定量影響、開示影響、内部統制影響、未解決事項を整理します。
影響評価メモで行うのは、基準の要約ではありません。自社の取引・契約・管理資料に照らした分析です。
4. 関係部署と合意形成する
IFRS第18号であれば、経理部門だけでなく、IR、経営企画、事業管理、予算管理、システム部門が関わります。IFRS第20号であれば、規制対応部門、料金算定部門、法務、事業部門の協力が欠かせません。IFRS第19号であれば、海外子会社、ローカル監査人、連結決算担当、法務部門との連携が必要になります。
5. 監査人と早期に協議する
新基準対応で、監査人との協議を適用初年度の決算直前まで持ち越すと、手戻りが生じやすくなります。適用対象、経過措置、重要な判断、影響額の算定方法、注記方針、比較情報について、早い段階で論点を共有しておくべきです。
6. 開示ドラフトを前倒しで作成する
未発効基準注記、適用初年度の会計方針、経過措置注記、主要な判断、見積りの開示、表示組替えの説明。これらは早めにドラフトを作成し、社内レビューと監査人レビューに回しておく必要があります。
7. 適用後レビューを行う
新基準は、初年度に適用して終わりではありません。適用後には、見積りと実績の乖離、注記に対する利用者の理解、監査での指摘、内部統制の運用状況をレビューし、翌期の会計方針・開示・統制の改善につなげていきます。
監査対応で問われるポイント
公表済未発効基準への対応は、監査においても重要な検討領域です。監査人は、未発効基準注記が適切か、影響評価が合理的か、会計方針の変更が基準に従っているか、経過措置の選択が適切か、比較情報が正しく処理されているかを確認していきます。
とりわけ問われやすいのは、次の点です。
- 公表済未発効基準の網羅性
- 自社への適用対象判定の根拠
- 影響なしと判断した理由
- 影響額を合理的に見積れない場合の理由
- 影響評価に使用したデータの信頼性
- 会計方針の変更と見積りの変更の切り分け
- 経過措置の適用方法
- 比較情報の修正・組替え
- 注記の企業固有性
- 取締役会、監査役等、開示委員会への報告状況
新基準対応の会計メモには、少なくとも「基準の概要」「適用対象」「自社取引への当てはめ」「会計方針」「経過措置」「定量影響」「開示方針」「内部統制」「未解決事項」「監査人協議状況」を盛り込んでおくとよいでしょう。
経営判断への接続
公表済未発効基準は、経理部門だけの課題ではありません。
IFRS第18号によって、営業利益、財務活動、投資活動、経営者業績指標の見え方が変われば、投資家への説明、予算管理、役員報酬KPI、借入契約上の財務制限条項にまで影響が及ぶ可能性があります。
IFRS第19号によって子会社開示が軽減される場合には、グループ内の財務報告コストを削減できる一方で、子会社の債権者・少数株主・規制当局に対する説明責任をどう果たすかが問われます。
IFRS第20号によって料金規制対象企業が規制資産・規制負債を認識する場合には、業績指標、将来キャッシュ・フローの見通し、規制当局との関係、設備投資判断、資本政策にまで影響し得ます。
新基準対応は、単なる制度対応ではありません。企業が自らの財務報告をどのように説明していくかという、経営判断そのものです。
実務で使える影響評価のチェックリスト
公表済未発効基準を検討する際には、次のチェックリストを手元に置いておくと、論点を整理しやすくなります。
| 検討項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 基準の特定 | 基準名、公表日、強制適用日、早期適用の可否を確認したか |
| 適用対象 | 自社・子会社・関連会社・共同支配企業に適用対象があるか |
| 現行方針 | 現在の会計方針、表示方針、注記方針を把握したか |
| 差異分析 | 新基準により何が変わるかを、認識・測定・表示・開示に分けて整理したか |
| 定量影響 | 影響額を合理的に見積れるか、見積れない場合はその理由を説明できるか |
| 比較情報 | 比較情報の修正・組替え・注記が必要か |
| 経過措置 | 完全遡及、修正遡及、将来適用などの選択肢と影響を整理したか |
| システム | 勘定科目、データ項目、連結パッケージ、注記収集フォームの変更が必要か |
| 内部統制 | 新しい判断・計算・開示に対応する承認・レビュー統制を設計したか |
| 監査対応 | 監査人と早期に論点を共有し、証拠資料を整備したか |
| 開示 | 未発効基準注記、会計方針、重要な判断、見積り開示に反映したか |
| 経営説明 | 投資家、金融機関、取締役会、監査役等へ説明する資料を整備したか |
専門家への相談前に整理しておきたい資料
公表済未発効基準について専門家に相談する場合には、次の資料をあらかじめ整えておくと、検討の質が高まります。
- 現在の会計方針注記
- 直近のIFRS連結財務諸表
- 公表済未発効基準注記のドラフト
- 新基準ごとの影響評価メモ
- 対象となる取引・契約・規制制度の概要
- 連結パッケージ、注記収集フォーム
- 勘定科目体系、管理会計資料、KPI資料
- 監査人からの質問事項またはコメント
- 経営者・監査役等への説明資料
- 適用時期、早期適用、経過措置に関する社内方針案
- 未解決事項と判断期限
専門家に相談する段階で明確にしておきたいのは、「どの基準が気になるか」だけではありません。「何を決めたいのか」まで見えていることが重要です。未発効基準注記を改善したいのか、影響額を試算したいのか、会計方針を更新したいのか、監査人との協議資料を作りたいのか、システム改修の範囲を整理したいのか。目的によって、必要な検討は変わってきます。
まとめ
公表済未発効基準への対応は、決算の末尾で注記を整える作業ではありません。
IAS第8号に基づく注記、会計方針の変更、経過措置、比較情報、内部統制、監査対応、経営説明を、一体のものとして設計していく必要があります。とりわけIFRS第18号、IFRS第19号、IFRS第20号のように、表示・開示、子会社報告、料金規制会計に大きな影響を与える基準では、適用開始日から逆算した準備が欠かせません。
新基準対応の本質は、基準本文を知ることにあるのではありません。自社の取引実態、契約条件、管理資料、見積りの前提、開示方針に照らして、どの財務報告判断を、いつまでに更新するのかを決めること。そこにこそ本質があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRS第18号、IFRS第19号、IFRS第20号を含む公表済未発効基準の影響評価、会計方針の更新、未発効基準注記、経過措置の検討、監査人協議資料、内部統制・決算プロセスへの落とし込みについて、支援を行っています。基準の解説にとどまらず、実務で説明できる判断資料として整理するところまでをお手伝いします。新基準対応をどこから始めるべきか、未発効基準注記をどこまで具体化すべきか、監査人協議の前に論点を整理しておきたい。そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 重要論点 | 実務上の整理ポイント |
|---|---|
| 公表済未発効基準 | まだ適用していなくても、将来の影響を注記・説明する対象となる |
| IAS第8号の要求 | 未適用の新基準について、その事実と、既知または合理的に見積可能な影響情報を開示する |
| 影響評価 | 適用対象、認識・測定、表示・開示、システム、内部統制、監査対応に分けて検討する |
| IFRS第18号 | 損益計算書の表示分類、小計、経営者業績指標、集約・分解に影響する |
| IFRS第19号 | 適格子会社の開示負担軽減が論点となるが、グループ方針・法定開示・監査対応の検討が必要 |
| IFRS第20号 | 料金規制対象企業では規制資産・規制負債・規制収益・規制費用の認識・測定が論点となる |
| 会計方針の更新 | 基準文言の貼替えではなく、自社の取引実態に即した企業固有の方針に更新する |
| 早期適用 | 財務報告上の有用性、制度上の可否、比較可能性、内部統制、監査対応を踏まえて判断する |
| 経過措置 | 完全遡及、修正遡及、将来適用の違いが比較情報・監査証拠・開示に影響する |
| 監査対応 | 適用対象判定、影響額、会計方針、経過措置、未発効基準注記の根拠資料が必要 |
| 内部統制 | 基準改定ウォッチ、影響評価、承認、注記作成、子会社報告を決算プロセスに組み込む |
| 専門家相談 | 影響評価メモ、会計方針案、注記ドラフト、監査人コメント、未解決事項を整理して相談する |