延納を検討する場合の基本|相続税を一括納付できないときの要件・担保・利子税・資金計画

相続税の申告では、「税額がいくらか」だけでなく、「その税額をいつ、どの資金で納めるか」が大きな意味を持ちます。

相続財産の中心が預貯金であれば、納税資金の問題は比較的整理しやすいかもしれません。しかし実際の相続では、自宅、賃貸不動産、農地、貸地、同族会社株式など、評価額は大きい一方で、すぐには現金化しにくい財産が多く含まれることがあります。

相続税は原則として、申告期限までに金銭で一括して納めます。申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うのが原則です。

出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

そこで、「不動産をすぐには売れない」「同族会社株式を取得したが現金がない」「遺産分割の都合で、納税資金が特定の相続人に偏っている」といった場合に検討されるのが、延納です。

ただし延納は、「とりあえず支払いを先送りできる便利な制度」ではありません。要件、担保、利子税、申請期限、審査、そして将来の返済原資を伴う制度です。

延納を選ぶかどうかは、税額だけで決められるものではありません。不動産を残すか売るか、誰がどの財産を取得するか、二次相続まで資金が持つか、申告後にきちんと説明できる資金計画になっているか。こうした点まで含めて判断する必要があります。

相続対策では、相続税の軽減だけでなく、「争族」防止、納税資金、税額軽減を一体で考えることが重要です。特に不動産や同族会社株式など換金しにくい財産の割合が高い場合、納税資金対策が不十分だと、相続人が納税に窮してしまうおそれがあります。

目次

延納とは何か

延納とは、相続税を一定の要件のもとで年賦により納める制度です。

国税庁は、国税は金銭で期限までに一括納付するのが原則としたうえで、相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税者の申請により、その困難とする金額を限度として、担保を提供することで年賦による納付ができると説明しています。あわせて、延納期間中は利子税の納付が必要とされています。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

延納を一言でいえば、相続税を分割して納める制度です。

ただし分割払いといっても、納税者が回数や期間を自由に決められるわけではありません。税務署長の許可が必要であり、延納できる金額も「金銭で納付することが困難な金額」の範囲に限られます。

延納の位置づけを整理すると、次のようになります。

納付方法内容主な位置づけ
金銭一括納付申告期限までに現金で納付する原則的な納付方法
延納許可を受けて年賦で金銭納付する一括納付が困難な場合の分割納付
物納一定の相続財産そのもので納付する延納によっても金銭納付が困難な場合の制度
不動産売却売却代金で納付する納税資金確保策の一つ
金融機関借入借入金で納付する延納との比較対象になる資金調達策
生命保険金・死亡退職金受取金を納税資金に充てる生前設計と相続後資金確保の接点

延納は、資産を維持しながら納税を進める選択肢になり得ます。しかしその一方で、利子税がかかり、担保を提供し、将来にわたって分納を続けていく必要があります。

ですから延納を選ぶ前には、「一括納付できないか」だけでなく、「延納を続けられるか」までを確認しておかなければなりません。

延納の要件

相続税の延納を申請するには、主に次の要件をすべて満たす必要があります。

要件内容
相続税額が10万円を超えること少額の相続税には延納を使えない
金銭納付が困難であることその困難な金額の範囲内で延納が認められる
担保を提供すること延納税額と利子税に相当する担保が必要
期限までに申請すること延納申請書と担保提供関係書類を延納申請期限までに提出する

なお、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には、担保の提供は不要とされています。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

ここで押さえておきたいのは、延納は「現金が少ないから全額を延納できる」という制度ではない、という点です。

延納できるのは、あくまで金銭で納付することが困難な金額の範囲内にとどまります。手元に預貯金がある、すぐ換金できる有価証券がある、容易に解約できる金融資産があるといった場合には、それらを考慮したうえで延納可能額が判断されます。

「金銭納付が困難」とは、感覚ではなく資料で説明する

延納の実務で最も重要になるのが、「金銭で納付することが困難である」といえるかどうかです。

これは、「相続税を払うと生活が不安だから」といった感覚的な説明では足りません。申請時点の現金、預貯金、換価しやすい財産、生活費、事業資金などを整理し、資料に基づいて説明することが求められます。

国税庁の通達では、延納の許可限度額を計算するにあたり、納期限等における現金、預貯金、換価の容易な財産を考慮しつつ、生活のため通常必要とされる3か月分の費用や、事業継続のため当面必要な運転資金を控除する考え方が示されています。また、「金銭納付を困難とする理由書」には記載内容を確認できる参考資料等を添付することとされ、必要に応じて税務署長から追加資料の提出や聴き取り・調査等を求められる場合があります。

出典:国税庁|〔第38条(延納の要件)関係〕

実務上は、少なくとも次のような資料や情報を整理しておきます。

確認項目実務上の確認内容
現金・預貯金相続人本人の手元資金、相続で取得する預貯金、納税に充てられる金額
有価証券上場株式、投資信託、債券など換金可能性と売却時の税負担
生命保険金受取人、入金時期、非課税枠、他の相続人とのバランス
死亡退職金支給時期、支給者、会社規程、会社の資金繰り
不動産売却可能性、担保提供可能性、共有・借地権・抵当権の有無
同族会社株式配当、自己株式取得、会社資金、担保適格性
生活費納税後の生活資金、配偶者の老後資金、扶養家族の状況
事業資金個人事業・同族会社経営に必要な運転資金
借入可能性金融機関借入の可否、担保余力、返済原資
代償金遺産分割により他の相続人へ支払う金額

延納申請では、税額計算だけでなく、納税者ごとの資金繰りを説明するという視点が欠かせません。

延納の申請期限

延納申請は、期限内に行う必要があります。

期限内申告の場合、延納申請書は相続税の申告期限までに提出します。期限後申告や修正申告の場合は申告書の提出日、更正または決定の場合は通知が発せられた日の翌日から1か月を経過する日が、それぞれ延納申請期限となります。

出典:国税庁|第39条《延納手続》関係

相続税の申告期限は、通常、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。したがって延納を検討する場合には、申告書の作成と並行して、担保資料、資金繰り資料、分納計画を準備していく必要があります。

延納は、申告期限が迫ってから「現金が足りないので延納したい」と考えても、準備が間に合わないことがあります。

特に不動産を担保にする場合には、登記事項証明書、固定資産税評価証明書、抵当権の有無、共有者の状況、境界・利用状況、建物の保険、担保価値などの確認が必要になります。

担保提供関係書類の提出と審査

延納申請では、延納申請書に担保提供関係書類を添付して提出するのが原則です。

ただし、延納申請期限までに担保提供関係書類を提出できない場合には、担保提供関係書類提出期限延長届出書を提出することで、1回につき3か月を限度として、最長6か月まで提出期限を延長できます。延納申請書が提出された場合、税務署長は原則として延納申請期限から3か月以内に許可または却下を行いますが、延納担保などの状況によっては最長6か月まで延長されることがあります。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

ここで注意したいのは、担保資料の提出期限を延長できるとしても、延納申請そのものを後回しにできるわけではない、という点です。

また、延長された期限までに担保提供関係書類を提出しなかった場合には、延納申請が却下される取扱いが示されています。

出典:国税庁|〔第39条(延納手続)関係〕

延納は、申請すれば必ず認められる制度ではありません。資料の不備、担保の不適格、金銭納付困難額の説明不足があると、許可されない可能性があります。

延納の担保にできる財産

延納では、延納税額と利子税の額に相当する担保を提供する必要があります。

担保として提供できる財産は、主に次のようなものです。

担保財産実務上の注意点
国債・地方債担保価値を確認しやすい
社債その他の有価証券税務署長等が確実と認めるものに限られる
土地抵当権、共有、借地権、地役権、境界、利用制限を確認する
建物・立木・登記された船舶など保険に付されていることが必要
鉄道財団・工場財団など一般の個人相続では多くない
保証人の保証税務署長等が確実と認める保証人に限られる

担保は、相続または遺贈により取得した財産に限られません。相続人固有の財産、共同相続人または第三者が所有する財産でも、担保として提供できます。ただし、提供しようとする担保が適当でないと認められる場合には、変更を求められることがあります。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

不動産を担保にする場合には、次のような点が問題になりやすいところです。

不動産担保で確認すべきことなぜ重要か
既存の抵当権担保余力が不足する可能性がある
共有状態共有者の同意や処分可能性に影響する
未登記・相続登記未了担保設定の前提が整わない
借地権・貸地・賃貸借評価と処分可能性に影響する
境界未確定売却・担保評価の支障になる
建築制限・接道問題担保価値に影響する
収益不動産賃貸状況、修繕負担、空室リスクを見る必要がある
農地・生産緑地法規制や処分制限を確認する必要がある

土地や不動産は、評価額だけでなく、権利関係、接道、建築制限、担保権、共有関係まで確認しなければ、担保として実務上使えるかどうかを判断できません。土地分割や不動産承継の実務でも、評価額のみならず、都市計画法・建築基準法、分割後の利用可能性、権利関係の確認が重要になります。

非上場株式を担保にする場合

同族会社オーナーの相続では、相続財産の大部分が非上場株式であることがあります。

この場合、株式の評価額は大きい一方で現金化が難しく、納税資金が不足しがちです。延納を検討する場面でも、非上場株式を担保にできるかどうかが問題になります。

国税庁の通達では、相続または遺贈により取得した取引相場のない株式を担保とする延納申請について、取得財産のほとんどが取引相場のない株式であり、かつその株式以外に延納担保として提供すべき適当な財産がない場合など、一定の事由があるときは担保として認めることができるとされています。

出典:国税庁|第39条《延納手続》関係

もっとも、非上場株式には市場価格がなく、株主構成、議決権、会社財務、譲渡制限、会社の資金繰り、後継者の支配権に大きく左右されます。非上場株式の相続では、評価方式だけでなく、議決権、後継者、会社規模、決算書、定款、納税資金まで一体で確認する必要があります。

したがって、非上場株式を担保にして延納する場合には、相続税申告上の株式評価にとどまらず、会社法上の譲渡制限、株主間関係、会社の将来資金、後継者の経営権まで踏み込んで検討することが求められます。

延納期間と利子税

延納を選ぶ場合には、利子税の負担を必ず確認します。

延納期間と延納利子税は、相続財産に占める不動産等の割合によって異なります。国税庁は、不動産等の割合が75%以上、50%以上75%未満、50%未満の場合に区分し、不動産等に係る延納税額や動産等に係る延納税額ごとに、最高延納期間と利子税割合を示しています。たとえば不動産等の割合が75%以上の場合、不動産等に係る延納相続税額は最高20年、動産等に係る延納相続税額は最高10年とされています。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

延納利子税の割合については、各年の延納特例基準割合が7.3%に満たない場合、所定の算式により計算される特例割合が適用されます。延納特例基準割合は、銀行の新規短期貸出約定平均金利を基に毎年変動するため、実際の利子税率は、申請時点の国税庁資料や税務署で確認する必要があります。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

利子税は、延納を選ぶうえで決して軽視できません。

延納は、資産を急いで売却せずに済む可能性がある一方、長期間にわたって本税と利子税を支払い続ける制度です。延納を選んだ場合、税引後の生活資金や事業資金から利子税を負担することになるため、高額の延納は、途中で資金繰りが行き詰まるリスクをはらみます。

延納と延滞税は違う

延納と延滞税は、混同しないように注意が必要です。

延納は、期限までに申請し、許可を受けて年賦で納める制度です。この場合に生じるのが利子税です。

一方、期限までに納税しなかった場合には、延滞税がかかることがあります。国税庁も、相続税の納税は申告期限までに行うこととされ、期限までに納めなかったときは延滞税がかかる場合があると説明しています。

出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

つまり、次のように整理できます。

状況生じる可能性があるもの
期限までに一括納付通常は利子税・延滞税なし
期限までに延納申請し、許可を受ける利子税
期限までに納付せず、延納許可もない延滞税等
申告漏れや過少申告がある加算税・延滞税等
延納後に分納を怠る延納許可の取消し、担保処分等のリスク

延納を検討する場合には、「申告期限までに申請を間に合わせること」が何より重要です。

延納の対象にならないもの

延納の対象となるのは、申告または更正・決定により納付することになった相続税額です。

国税庁は、相続税または贈与税に附帯する加算税、延滞税、連帯納付責任額については延納の対象にならないと説明しています。

出典:国税庁|延納・物納申請等

これは実務上、非常に重要な点です。

相続税申告を期限後に行ったり、財産評価や名義財産の確認が不十分で後から修正申告になったりすると、本税以外に附帯税が発生する可能性があります。そして、その附帯税まで延納で対応できるとは限りません。

したがって、延納を検討している相続ほど、申告漏れ、評価誤り、未分割申告、特例適用漏れを避けるための品質管理が重要になります。

延納を検討しやすいケース

延納が検討されやすいのは、次のようなケースです。

不動産の割合が大きい場合

相続財産の多くが自宅、賃貸不動産、貸地、農地などで、現預金が少ない場合です。

このケースでは、売却すれば納税できるとしても、申告期限までに希望価格で売れるとは限りません。測量、境界確定、借地人対応、建物解体、共有者調整が必要になることもあります。

不動産を急いで処分すれば、売却価格が下がったり、将来活用できる優良資産から手放す結果になったりします。延納は、こうした売却時期をずらす選択肢になり得ます。

同族会社株式の評価額が大きい場合

非上場株式は相続税評価額が大きくなることがありますが、上場株式のように市場で簡単に売却できるわけではありません。

後継者が株式を承継する場合、株式を分散させると経営権が不安定になるため、現金化よりも支配権の維持が優先されることがあります。このようなときは、会社からの配当、死亡退職金、自己株式取得、金融機関借入、延納を組み合わせて資金計画を立てる必要があります。

配偶者や同居相続人の生活を守る必要がある場合

自宅を売却すれば納税資金を確保できるとしても、その結果、配偶者や同居相続人の住まいが失われてしまう場合があります。

このようなケースでは、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、配偶者居住権、生命保険金、代償分割、延納などを組み合わせて、居住の継続と納税の両立を検討します。

売却予定だが期限内売却が難しい場合

不動産の売却方針は決まっているものの、申告期限までに売買契約・決済が間に合わない場合もあります。

このときは、延納によって納税期限を分散させ、落ち着いて売却を進めるという選択肢があります。ただし、売却が長引いた場合でも分納を続けられるか、売却後に繰上納付するかは、あらかじめ検討しておく必要があります。

延納を安易に選ばない方がよいケース

一方で、延納が必ずしも適しているとは限りません。

手元資金で納付できる場合

納税後の生活資金や事業資金を慎重に見たうえで一括納付できる場合には、延納による利子税や担保設定の負担を避ける方が合理的なこともあります。

借入の方が柔軟な場合

金融機関借入を利用した方が、返済期間、金利、担保、繰上返済の面で柔軟なこともあります。

ただし借入には、審査、担保設定、返済原資、金利変動、相続人間の負担配分といった問題があります。延納と借入は、単純に利率だけで比較するのではなく、総支払額、担保、資金繰り、事務負担まで含めて比較します。

売却すべき資産を先送りしてしまう場合

本来は売却した方がよい不動産を、延納によって維持し続けてしまうことがあります。

収益性が低い、修繕負担が重い、空室が多い、次世代が管理できない、共有化しているといった不動産は、延納で維持するより、売却・組換えを検討した方がよい場合があります。

分納原資が不明確な場合

延納は、毎年の分納が続いていきます。

賃料収入、役員報酬、配当、売却予定、保険金、手元資金など、どの資金で毎年納めるのかが不明確なままでは、延納は将来の滞納リスクを先送りするだけになりかねません。

物納との関係

延納と並んで検討される制度が、物納です。

物納は、相続税に限って、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、一定の相続財産で納付する制度です。

出典:国税庁|No.4214 相続税の物納

順番としては、原則として次のように考えます。

  1. 金銭一括納付ができるか
  2. 金銭一括納付が困難なら延納ができるか
  3. 延納によっても金銭納付が困難なら物納が検討できるか

物納は、単に「不動産で払える制度」ではありません。物納適格財産か、不適格財産にあたらないか、測量や境界、権利関係、管理処分上の支障がないかなど、厳しい確認が求められます。

延納を選択した後に、資力状況の変化等により延納条件を履行することが困難となった場合には、申告期限から10年以内に限り、分納期限が未到来の税額部分について延納から物納へ変更できる特定物納制度があります。ただし、特定物納を申請した場合には、物納財産を納付するまでの期間に応じ、当初の延納条件による利子税を納付することになります。

出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

物納は、延納よりさらに実務上の準備が重くなります。「延納が難しくなったら物納すればよい」と安易に考えるべきではありません。

令和7年度改正と最新手引の確認

延納・物納の実務では、制度改正や手引の更新にも注意が必要です。

国税庁は、令和7年度税制改正により、延納許可限度額および物納許可限度額の計算方法が改正されたと案内しています。この改正は、令和7年4月1日以降相続開始分に係る相続税の延納申請、令和7年6月24日以降に申請期限が到来する贈与税の延納申請から適用されます。

出典:国税庁|延納・物納申請等

また、国税庁は「相続税・贈与税の延納の手引」を公表しており、令和7年4月1日以後相続開始分に対応した手引も案内されています。

出典:国税庁|パンフレット・手引

したがって、延納を検討する場合には、過去の知識だけで判断せず、相続開始日、申請期限、最新の様式、最新の手引を確認しておく必要があります。

延納を検討するときの実務手順

延納を検討する場合は、次の順番で整理すると判断しやすくなります。

1. 相続税額を概算する

まず、相続税額の概算が必要です。

この段階では、財産評価、債務控除、生命保険金、死亡退職金、贈与加算、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、非上場株式評価などを確認します。

税額が固まらなければ、延納が必要かどうかも判断できません。

2. 相続人ごとの納税額を見る

相続税は、相続人ごとに納税義務が生じます。

遺産分割の結果、ある相続人は現金を取得し、別の相続人は不動産や株式を取得することがあります。このとき問題になるのは、相続税額そのものよりも、各相続人が納税できるかという点です。

不動産を多く取得した相続人だけが延納を検討することもあります。

3. 一括納付できる資金を確認する

次に、現金、預貯金、保険金、退職金、有価証券、売却予定資産などを整理します。

ここで見るのは、「相続財産全体で現金があるか」ではなく、「納税義務者本人が納税に使える資金があるか」です。

4. 不足額を計算する

一括納付可能額を確認したら、納税不足額を計算します。

この不足額が、延納を検討する対象になります。ただし、生活費や事業継続資金を残す必要があるため、手元預金をすべて納税に充てられるとは限りません。

5. 担保候補を確認する

担保候補として、不動産、有価証券、保証人などを確認します。

不動産の場合は、抵当権、共有、相続登記、賃貸借、境界、評価額、保険の有無などを確認します。非上場株式の場合は、担保として認められる可能性、株式評価、譲渡制限、会社財務を確認します。

6. 延納期間と毎年の分納原資を確認する

延納は、許可された後が本番です。

毎年、どの資金で分納するのか。賃料収入か、給与か、配当か、売却代金か。途中で空室や修繕、事業不振、二次相続が起きても支払いを継続できるか。

ここまで確認して初めて、延納が現実的な選択肢かどうかを判断できます。

延納と遺産分割は切り離せない

延納は納税制度ですが、遺産分割と密接に関係します。

たとえば、長男が賃貸不動産を取得し、長女が預貯金を取得する分割をした場合、長男には不動産評価額に応じた相続税が発生しますが、手元資金が不足することがあります。

このときは、次のような調整が必要になります。

分割上の調整内容
現金を一部配分する不動産取得者に納税資金を持たせる
代償分割を調整する代償金と納税資金を同時に試算する
生命保険金を活用する不動産取得者を受取人にして納税資金を確保する
売却予定資産を取得させる納税資金に充てやすい財産を配分する
延納を併用する不足分を年賦で納付する
物納候補を残す延納でも難しい場合の選択肢を確保する

相続人間の公平感だけを優先して分割すると、納税できない相続人が出てしまうことがあります。

延納を検討する段階では、遺産分割協議書の内容、代償金の支払、売却予定、不動産の取得者、保険金の受取人まで含めて、納税資金を改めて確認する必要があります。

未分割の場合の注意点

遺産分割がまとまらないまま申告期限を迎える場合でも、相続税の申告期限は原則として延びません。

相続財産が分割されていない場合でも、期限までに申告と納税が必要であり、分割されていないことを理由に申告期限が延びることはありません。

出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

未分割の場合、各相続人が法定相続分または包括遺贈の割合で財産を取得したものとして申告・納税します。このとき、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が当初申告で使えないことがあり、納税額が大きくなる場合があります。

未分割申告で延納を検討する場合には、後日の分割確定、更正の請求、修正申告、特例適用、納税資金の再計算まで見据えておく必要があります。

延納後に資金繰りが悪化した場合

延納の許可を受けた後も、状況が変わることがあります。

不動産の空室が増える。修繕費が大きくなる。会社の業績が悪化する。不動産売却が予定どおり進まない。二次相続が発生する。相続人本人の生活費や医療費が増える。

このような場合には、延納条件の変更や特定物納を検討することがあります。ただし、いずれにも手続と要件があります。

延納は、許可を受けて終わりではありません。毎年の分納、利子税、担保管理、将来の資産処分まで含めて管理していく必要があります。

延納を検討する前に比較すべき選択肢

延納は有力な選択肢ですが、唯一の選択肢ではありません。

次の方法と比較して判断することが重要です。

選択肢比較すべきポイント
金銭一括納付利子税・担保設定を避けられるが、手元資金が減る
不動産売却納税資金を確保できるが、売却時期・譲渡所得税・価格下落リスクがある
金融機関借入柔軟な資金調達ができる場合があるが、審査・金利・担保・返済負担がある
生命保険金生前設計ができていれば有効だが、受取人設計が重要
死亡退職金同族会社では有効な場合があるが、会社資金と支給手続が必要
代償分割公平性を調整できるが、代償金と納税資金の両方を確認する必要がある
物納延納でも困難な場合の制度だが、適格財産・手続負担が重い
延納資産を維持しながら納税できるが、担保・利子税・長期資金計画が必要

延納は、売却を避けるための制度ではなく、資産を残すことに合理性があり、将来の分納原資が見込める場合に検討する制度です。

まとめ|延納は「支払猶予」ではなく、長期の納税計画である

延納は、相続税を一括で納付できない場合の重要な制度です。

しかし、延納を使うかどうかは、「使えるか」だけで判断してはいけません。

相続税額はいくらか。各相続人はどの財産を取得するのか。現金、保険金、退職金、売却可能資産はどれだけあるか。不動産や非上場株式を売らずに残す合理性はあるか。担保として提供できる財産はあるか。利子税を含めて毎年支払えるか。将来、二次相続や資産処分に支障が出ないか。申告期限までに資料をそろえられるか。

これらを整理して初めて、延納が現実的な選択肢かどうかを判断できます。

特に、不動産や同族会社株式が相続財産の中心である場合、延納は、遺産分割、財産評価、担保設定、資金繰り、事業承継、二次相続にまで影響します。延納を選ぶ場合には、申告期限の直前ではなく、相続税試算と財産評価の段階から、納税資金の不足額、担保候補、分納原資を整理しておくことが大切です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告における財産評価や税額計算だけでなく、不動産・同族会社株式を含む納税資金計画、延納・物納・売却・借入の比較、遺産分割との整合性まで含めて検討を行います。相続税の一括納付に不安がある場合や、延納を選ぶべきか判断に迷う場合は、申告期限に追われる前の段階で、どうぞお気軽にご相談ください。

振り返り

論点確認すべきこと
延納の位置づけ相続税を年賦で納める制度。単なる支払先送りではない
原則相続税は申告期限までに金銭一括納付が原則
申告・納税期限通常、相続開始を知った日の翌日から10か月以内
延納の要件相続税額10万円超、金銭納付困難、担保提供、期限内申請
延納できる金額金銭で納付することが困難な金額の範囲内
担保土地、建物、有価証券、保証人の保証など。担保適格性の確認が必要
担保不要の場合延納税額100万円以下、かつ延納期間3年以下の場合
申請期限期限内申告では相続税申告期限までに申請が必要
利子税延納期間中に発生。割合は不動産等の割合や延納特例基準割合により変動
延滞税との違い延納許可に伴うものは利子税、期限までに納めない場合は延滞税が問題になる
物納との関係延納でも金銭納付が困難な場合に物納を検討する
実務判断延納、売却、借入、保険金、死亡退職金、代償分割を比較する
注意点延納後も毎年の分納原資、担保管理、資金繰りを確認する
相談のタイミング相続税額の概算が見えた段階で、納税資金と担保候補を同時に整理する
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