納税資金・延納物納・相続後の資産処分|相続税を「どう納め、何を残すか」から考える

相続税対策と聞くと、多くの方はまず「税額をいくら下げられるか」に目を向けられます。

けれども実務の現場では、税額そのものよりも、申告期限までに納税資金を確保できるのか、誰がどの財産を取得し、その方はどの資金で自分の税額を納めるのか、というところが問題になることがあります。

財産の多くが不動産、農地、貸地、同族会社株式、非上場会社への貸付金などで構成されている場合、相続税評価額は高いのに、すぐに使える現預金が少ないという状況が起こり得ます。

相続対策は、相続税対策だけではありません。相続争いの防止、納税資金の確保、税負担の軽減を、一体のものとして考えていく必要があります。

相続税の申告と納税は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。相続税は申告期限までに金銭で納めるのが原則であり、期限までに納められない場合には、延滞税等の問題も生じ得ます。
出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

第十三テーマでは、相続税額を計算した後になって初めて慌てるのではなく、相続発生前の段階から「どう納めるか」「何を売るか」「誰に現金を持たせるか」「二次相続で資金不足にならないか」を整理していきます。

このテーマで理解できること

このテーマの中心にあるのは、相続税を「払えるかどうか」だけでなく、「どのように払うのが、家族関係・資産承継・税務リスクの面で説明できるのか」を考えることです。

納税資金の検討では、現預金が足りるかどうかだけを見ても十分ではありません。

生命保険金や死亡退職金を誰が受け取るのか。不動産を売却する場合、いつ資金化できるのか。代償分割を選ぶのであれば、代償金を実際に支払えるのか。延納や物納を検討できるのか。そして、売却後の譲渡所得税まで見込めているのか。こうした点を、ひとつずつ確認していく必要があります。

また、一次相続で配偶者に財産を集中させると、一次相続の税額は抑えられても、二次相続で子に納税資金が残らないことがあります。

納税資金の問題は、相続発生後の資金繰りにとどまりません。生前の遺言、保険設計、財産配分、同族会社承継、不動産管理と、すべてつながっています。

このテーマでは、納税資金の基本、保険・死亡退職金の活用、代償分割、延納、物納、相続不動産の売却、二次相続、相談前整理という順番で、各詳細コラムへ進めるように構成しています。

納税資金を考えるときの基本的な順番

納税資金の検討は、相続税の概算額を出すところから始まります。ただし、そこで止まってはいけません。

次に見るべきは、相続人ごとの取得財産と税負担です。相続財産全体としては現金が足りていても、現金を取得しない相続人が高額な相続税を負担することがあります。

不動産や同族会社株式を取得する方ほど、評価額は高い一方で、納税資金はご自身で用意しなければならない、ということが起こりやすいのです。

そのうえで、現預金、生命保険、死亡退職金、上場株式、売却可能な不動産、借入、同族会社からの資金移動、代償金の支払可能性を確認していきます。

資金が不足する場合には、分割案を見直すのか、売却するのか、借入をするのか、延納・物納を検討するのかを比較します。

ここで大切なのは、「最も税額が低い分割」が、必ずしも「最も安全な分割」ではないということです。

税額を抑えるために現金を一部の相続人へ集中させると、他の相続人の納税資金が不足することがあります。反対に、納税資金だけを重視して不動産を急いで売却してしまえば、将来残したいと考えていた資産を失うことにもなりかねません。

13-1. 相続税の納税資金を考える基本

最初にお読みいただきたいコラムです。

このコラムでは、相続税額と資金繰りは別問題であることを整理します。相続財産の総額が大きいことと、相続人が期限までに納税できることは、同じではありません。

不動産や同族会社株式の比率が高い場合には、評価額はあるのに現金が足りない、という問題が起こりやすくなります。

相続税は原則として申告期限までに金銭で納付する必要があり、延納や物納は、あくまで例外的な制度として位置づけられています。
出典:国税庁|No.4202 相続税の申告のために必要な準備

「相続税を支払えるか不安」「財産の多くが不動産で、現金が少ない」「申告期限までに売却が間に合うか分からない」。そうした思いをお持ちの方は、まずこのコラムから読み進めていただくと、全体像をつかみやすくなります。

13-2. 生命保険・死亡退職金を納税資金に使う考え方

納税資金を生前から準備しておきたい場合にお読みいただくコラムです。

生命保険は、受取人を指定できます。そのため、特定の相続人に納税資金や代償資金を準備する手段になり得ます。

ただし、保険金は契約関係によって相続税・贈与税・所得税の取扱いが変わります。契約者、被保険者、受取人、そして実際の保険料負担者が誰であるかを確認しなければなりません。生命保険税務では、とりわけ保険料負担者と受取人の関係を確認することが重要になります。

被相続人の死亡により取得した生命保険金のうち、保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。相続人が受け取る死亡保険金には、一定の非課税限度額があります。
出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

死亡退職金についても、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続税の課税対象となる場合があります。相続人が受け取る死亡退職金にも、一定の非課税限度額が設けられています。
出典:国税庁|No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

このコラムでは、保険を単なる節税商品としてではなく、納税資金、代償金、生活保障、相続人間のバランスを調整する手段として整理していきます。

13-3. 代償分割で納税資金・公平性を確保する場合

不動産や同族会社株式を、特定の相続人に承継させたい場合にお読みいただくコラムです。

代償分割とは、ある相続人が不動産や株式などの現物財産を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭を支払う分割方法です。自宅、賃貸不動産、事業用資産、非上場株式のように、物理的に分けにくい財産を承継する場面で検討されます。

ただし、代償分割は、現物を取得する相続人に代償金の支払能力がなければ実行できません。

代償金を保険金で準備するのか、借入で支払うのか、不動産売却で確保するのか、あるいは同族会社資金と組み合わせるのか。ここを確認しておく必要があります。

このコラムは、「長男に不動産を承継させたいが、他の相続人との公平性も保ちたい」「会社株式を後継者に集中させたいが、遺留分や代償金が心配」という方に向いています。

13-4. 延納を検討する場合の基本

相続税を一括で納付できない可能性がある場合にお読みいただくコラムです。

延納は、相続税を何年かに分けて金銭で納める制度です。相続税額が10万円を超えること、金銭で納付することを困難とする事由があり、その納付困難額の範囲内であること、担保を提供すること、期限までに申請することなどが要件になります。延納期間中は、利子税の負担も生じます。
出典:国税庁|No.4211 相続税の延納

延納は「納税しなくてよい制度」ではありません。分割払いに近い制度です。

ですから、延納を使えるかどうかだけでなく、将来の返済原資、担保、利子税、賃料収入、生活資金、事業資金への影響まで確認しておく必要があります。

このコラムでは、延納を検討する前に整理しておきたい資金計画と、安易に延納を前提にしないための判断軸を扱います。

13-5. 物納を検討する場合の基本

不動産や株式で相続税を納められないかを検討したい場合にお読みいただくコラムです。

物納は、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、一定の相続財産で納付する制度です。相続税に限られた制度であり、物納できる財産の範囲、順位、管理処分不適格財産に該当しないかなど、慎重な確認が必要になります。
出典:国税庁|No.4214 相続税の物納

物納では、不動産であれば境界、担保権、共有、賃貸借、接道、管理状態などが問題になります。相続財産に不動産があるからといって、当然に物納できるわけではありません。

このコラムでは、物納を「最後の手段」として位置づけたうえで、申告期限の直前に慌てるのではなく、候補財産の適格性を早い段階で確認しておくことの重要性を整理します。

13-6. 相続不動産を売却する場合の税務

相続した不動産を売って納税資金を確保したい場合にお読みいただくコラムです。

不動産売却は、納税資金を確保する有力な手段です。ただし、売却代金の全額を相続税の納付に使えるわけではありません。

仲介手数料、測量費、解体費、譲渡所得税、住民税、借入返済などを差し引いた、手取り額で判断する必要があります。

また、相続した土地、建物、株式などを一定期間内に譲渡した場合には、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できる制度があります。
出典:国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

相続した空き家を売却する場合には、一定の要件を満たすと、譲渡所得から特別控除を受けられる可能性があります。適用期間、家屋の要件、譲渡時の状態、相続人の数による控除額の違いなどを確認しておく必要があります。
出典:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

不動産を売却する場合には、税務だけでなく、建築制限、インフラ、私道、境界確定、実測面積、道路後退といった、不動産実務上の制約も見ていきます。土地の分割や売却では、評価だけでなく、建築・不動産実務の視点が欠かせません。

13-7. 二次相続を見据えた納税資金と財産配分

一次相続のその先、次の相続まで考えておきたい場合にお読みいただくコラムです。

一次相続では、配偶者の税額軽減により、配偶者が多くの財産を取得しても相続税が抑えられることがあります。

しかし、その結果として配偶者に不動産や金融資産が集中し、二次相続で子が高額な相続税を負担することになる、というケースがあります。

二次相続では、一次相続と異なり、配偶者が相続人に含まれないことが多くなります。そのため、法定相続人の数や基礎控除、特例の使い方、納税資金の所在が変わってきます。一次相続では税額が低く見えていても、二次相続で不動産を急いで売却せざるを得なくなる場合があるのです。

このコラムでは、配偶者への財産配分、金融資産の残し方、生命保険、遺言、不動産売却のタイミングを、一次相続と二次相続の両方の視点から整理します。

13-8. 納税資金の相談前に整理すべき情報

専門家へ相談する前に、ご自身の状況を整理しておきたい場合にお読みいただくコラムです。

納税資金のご相談では、相続税額の概算だけでなく、現預金、保険金、売却可能資産、借入、同族会社資金、代償金、延納・物納候補を一覧にしておくことが重要です。

ご相談の時点で資料がすべて揃っていなくても構いません。どの情報が不足しているかが明確になるだけでも、検討の順番が見えてきます。

このコラムでは、納税資金の面談前に整理しておきたい情報を、財産の種類、相続人ごとの資金状況、売却可能性、会社資金、分割方針、制度利用の候補に分けてご案内します。

「相続税を払えるか相談したい」「何を持参すればよいか分からない」「延納・物納や不動産売却も含めて整理したい」。そのような場合は、このコラムをお読みいただいてからご相談に進むと、面談での確認事項が具体化しやすくなります。

どのコラムから読むべきか

相続税を支払えるか漠然と不安を感じている場合は、まず13-1で納税資金の全体像をご確認ください。税額と資金繰りが別問題であることを理解しておくと、生命保険、不動産売却、代償分割、延納・物納の位置づけが整理しやすくなります。

生前から納税資金を準備したい場合は、13-2で生命保険と死亡退職金の役割を確認します。とりわけ、保険金の受取人が誰なのか、納税資金を必要とする相続人と一致しているかどうかは重要です。

不動産や同族会社株式を特定の相続人に承継させたい場合は、13-3で代償分割を確認します。公平性を保ちながら現物財産を承継させるには、代償金の支払原資が欠かせません。

一括納付が難しい場合は、13-4で延納を、13-5で物納を確認します。ただし、延納も物納も、要件と手続がある制度です。資金不足になったら当然に使えるというものではなく、申告期限までに申請と資料準備が必要になる。この点は理解しておきたいところです。

相続後に不動産を売却する予定がある場合は、13-6をご確認ください。相続税の納税資金と譲渡所得税の両方を見ておかなければ、売却後の手取り額を見誤ります。

一次相続だけでなく、次の相続まで見据えたい場合は、13-7で二次相続の納税資金を確認します。配偶者に財産を集中させるという判断が、将来の子の納税資金にどう影響するのかを整理します。

相談前に何を準備すればよいか知りたい場合は、13-8をお読みください。実際の面談では、資料の有無だけでなく、売りたくない財産、残したい財産、相続人間の不安、借入への考え方も、重要な判断材料になります。

第十三テーマで避けたい短絡的な判断

納税資金の検討では、次のような判断に注意が必要です。

「不動産を売れば納税できる」。そう考えていても、測量、境界、共有、賃貸借、抵当権、譲渡税、売却時期を確認しなければ、申告期限までに資金化できるとは限りません。

「保険金があるから大丈夫」。そう考えていても、受取人が納税資金を必要とする相続人と一致していなければ、家族間の資金移動や贈与税の問題が生じることがあります。

「配偶者に多く渡せば一次相続は安心」。そう考えていても、二次相続で子の納税資金が不足する可能性があります。

「物納すればよい」。そう考えていても、物納は要件を満たした財産に限られます。境界が未確定であったり、共有であったり、不適格な権利関係がある不動産は、そのままでは使えないことがあります。

「会社に資金があるから納税できる」。そう考えていても、会社の資金は個人の納税資金ではありません。死亡退職金、自己株式取得、配当、役員借入金・貸付金の整理など、会社法・法人税・所得税・相続税を横断して検討する必要があります。

第十三テーマと他テーマとのつながり

納税資金は、第十三テーマだけで完結する論点ではありません。

相続税額の概算を理解するには、第3テーマの相続税計算が前提になります。不動産を誰が取得するかを考えるには、第5テーマの遺産分割や代償分割、第8テーマの不動産承継・共有・登記が関係してきます。

生命保険を納税資金に使う場合は、第12テーマの生命保険・金融資産・名義財産との接続が重要です。同族会社株式や役員貸付金がある場合は、第11テーマの非上場株式・同族会社承継と一体で検討します。

小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使う場合は、税額が下がる一方で、誰が現金を取得するか、誰が納税資金を負担するかに影響します。申告期限、未分割申告、税務調査への備えは、第14テーマの相続税申告実務とつながっています。

つまり納税資金は、「最後に支払うお金」の問題ではありません。相続設計の初期段階から確認しておくべき判断軸なのです。

相談前に意識しておきたいこと

納税資金のご相談で、専門家に「いくら安くできますか」と聞くだけでは、十分な答えは出てきません。

むしろ、次のような問いを整理しておくことが大切です。

  • 誰がどの財産を取得する予定なのか。
  • その方は、自分の相続税をどの資金で納めるのか。
  • 売却してよい財産と、できれば残したい財産は何か。
  • 保険金や死亡退職金は、誰に入る設計になっているのか。
  • 不動産を売却する場合、申告期限までに現金化できるのか。
  • 代償金を支払う方に、支払能力があるのか。
  • 延納や物納を検討する前に、現金納付や売却、分割案の見直しと比較したか。
  • 一次相続だけでなく、二次相続後も家族が説明できる財産配分になっているか。

これらを整理しておくと、税額試算だけでなく、分割案、売却方針、保険活用、会社資金、申告後の資産管理まで、現実に近い検討ができるようになります。

納税資金の不安がある場合は、早めに全体像を整理する

納税資金の問題は、申告期限が近づいてから表面化すると、選択肢が限られてしまいます。

不動産売却には時間がかかります。代償金を支払うには資金調達が必要です。延納・物納は、期限までの申請と資料準備が欠かせません。生命保険や遺言に至っては、相続発生後には設計し直すことができません。

だからこそ、納税資金のご相談は、相続発生後だけでなく、生前対策の段階から行う意味があります。財産評価、遺産分割、保険、同族会社、不動産売却、二次相続を一つの線でつないで、初めて、後から説明できる納税計画になるのです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税額の試算にとどまらず、相続人ごとの納税資金、生命保険・死亡退職金の使い方、代償分割、不動産売却、延納・物納の可能性、二次相続まで含めて、現実的な判断材料を整理いたします。

相続税を払えるか不安がある場合。不動産や同族会社株式が多く、現預金が少ない場合。遺産分割と納税資金を同時に検討したい場合。まずは現状の財産構成と不安な点を整理したうえで、ご相談ください。

振り返り

項目このテーマで確認すること
納税資金の基本相続税額と資金繰りは別問題であること
現金納付相続税は原則として申告期限までに金銭で納めること
生命保険受取人、保険料負担者、非課税枠、代償資金への活用
死亡退職金支給時期、受取人、会社資金、非課税枠
代償分割現物財産の承継と相続人間の公平性、支払原資
延納一括納付が困難な場合の分割納付制度、担保と利子税
物納延納でも困難な場合の例外的制度、財産の適格性
不動産売却売却代金ではなく、譲渡税・費用控除後の手取り額
取得費加算相続後売却時に譲渡所得へ影響する可能性
空き家特例相続空き家売却時の特例適用可能性と要件確認
二次相続一次相続の配分が次の納税資金に与える影響
相談前整理税額、流動資産、売却候補、借入、同族会社資金、代償金を整理する