相続税評価・鑑定評価・評価通達6項の判断|評価通達どおりなら本当に安全か

相続税対策として不動産を検討するとき、多くの方がまず気にされるのは、「相続税評価額がどれだけ下がるか」という点です。

たとえば、現金で1億円を持っていれば、原則としてその1億円がそのまま相続税の課税対象になります。ところが、同じ資金で不動産を購入すると、事情が変わってきます。土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額を基礎として評価されるため、時価より低い評価額になることがあるのです。さらに借入金を使えば、債務控除も生じます。

この仕組み自体は、相続税の実務で広く使われてきたものです。

ただ、ここで一度立ち止まって考えていただきたい問いがあります。

財産評価基本通達どおりに評価していれば、必ず安全なのか。鑑定評価を取れば、税務署から否認されないのか。そして、評価通達6項、いわゆる総則6項は、どのような場合に問題になるのか。

不動産オーナーは、固定資産税や都市計画税、修繕費、空室、借入返済、相続人への承継まで、税額だけでは片づかない課題を抱えやすい立場にあります。多額の資産を持っているように見えても、実際には税金・借入返済・維持管理費に追われ、資金繰りが楽ではないというケースも少なくありません。

相続対策で考えるべきは、相続税を下げることだけではありません。争族を防ぎ、納税資金を確保することを、むしろ優先して考える必要があります。多額の借入金で賃貸不動産を建築・取得する対策は、たしかに税額を下げてくれますが、その一方で、相続人が長期にわたって返済負担を引き継ぐことになりかねません。

本記事では、個別の土地評価の細かな計算方法には立ち入りません。相続税評価、鑑定評価、評価通達6項という三つの関係を整理することが目的です。ねらいは「評価額を下げる方法」を探すことではなく、後から税務署にも金融機関にも相続人にも説明できる評価判断を行うための視点を持っていただくことにあります。

目次

まず結論:評価通達は原則だが、絶対ではない

相続税評価を考えるうえで、はじめに押さえておきたい結論を整理すると、次のようになります。

論点実務上の判断
相続税評価の出発点相続税法上は、財産の取得時の「時価」が原則
評価通達の位置づけ多数の財産を公平・簡便に評価するための実務上の基準
路線価評価原則的な評価方法だが、市場価格そのものではない
鑑定評価重要な参考資料になり得るが、常に通達評価に優先するわけではない
評価通達6項通達評価が著しく不適当な場合に、国税庁長官の指示を受けて別評価を行う例外規定
否認リスクの核心単なる時価との差ではなく、租税負担の公平を著しく害する事情があるか
実務で残すべきもの取得目的、資金の流れ、収益性、保有継続性、意思決定過程、評価資料

相続税評価でいちばん危ういのは、「通達どおりなら絶対に安全」と思い込んでしまうことです。

とはいえ、その反対に「時価と差があるから総則6項で必ず否認される」と過度に身構える必要もありません。相続税評価は、制度としてもともと画一的な評価を前提にしています。ですから、通達評価と実勢価格との間に一定の差が生じること自体は、けっして珍しいことではないのです。

問題になるのは、その差を利用することだけを目的として、相続直前の短い期間に、借入・購入・売却などを組み合わせ、他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせるような事情がある場合です。

相続税法上の評価原則は「時価」

相続税法22条は、相続、遺贈または贈与により取得した財産の価額について、特別の定めがあるものを除き、取得時の時価によると定めています。最高裁令和4年4月19日判決でも、この「時価」とは、財産の客観的な交換価値をいうものと整理されました。出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

財産評価基本通達1もこれを受けて、時価とは、課税時期における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと定めています。そして、評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するものとされています。出典:国税庁|第1章 総則

つまり、法律上の最終的なものさしは、あくまで「時価」だということです。

ただ、すべての相続財産について、毎回、個別に市場価格や鑑定評価を求めていくのは現実的ではありません。相続財産は、土地、建物、株式、預貯金、生命保険、動産と多岐にわたります。納税者ごとに評価方法がばらばらになれば、課税の公平も保てなくなってしまいます。

そこで実務では、財産評価基本通達に基づき、画一的な評価方法によって評価することが原則的な運用になっているわけです。

路線価評価は「時価そのもの」ではない

土地の評価では、路線価方式と倍率方式が基本になります。

国税庁は、相続税・贈与税申告の便宜と課税の公平を図るため、毎年、全国の民有地について路線価等を定めて公開しています。令和7年分の公表資料によれば、路線価等は1月1日を評価時点とし、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています。出典:国税庁|令和7年分の路線価等について

財産評価基本通達では、市街地的形態を形成する地域にある宅地は路線価方式、それ以外の宅地は倍率方式によって評価するとされています。路線価方式では、路線価を基に、奥行価格補正、不整形地補正、側方路線影響加算といった画地調整を行い、評価額を計算していきます。出典:国税庁|第2節 宅地及び宅地の上に存する権利

建物については、原則として1棟ごとに評価し、固定資産税評価額に倍率を乗じます。貸家の場合には、借家権割合や賃貸割合を反映させて評価します。出典:国税庁|第3章 家屋及び家屋の上に存する権利

ここで見落としてはいけないのは、路線価や固定資産税評価額が「実勢価格と常に一致する価格」ではない、という点です。

通達評価は、相続税申告における統一的な評価基準です。ですから、路線価評価が市場価格より低いこと自体は、それだけで問題になるわけではありません。しかし、その差を利用しようとして、相続直前に不自然な取引を組み合わせたとなると、話は別の次元に入っていきます。

評価通達6項とは何か

財産評価基本通達6、いわゆる評価通達6項または総則6項は、次のように定めています。

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」出典:国税庁|第1章 総則

これは、通達評価を否定するための一般的な抜け道ではありません。あくまで、通達の定めを形式的・画一的に当てはめると、時価評価として著しく不適当になってしまう場合に備えた、例外規定です。

税務大学校の研究でも、この点は整理されています。相続税・贈与税の財産評価は相続税法22条の時価を前提としつつ、その具体的な評価方法を財産評価基本通達が定めている。ただし、通達評価を画一的に適用すると適正な時価評価が得られない場合があり、そのために評価通達6項が設けられている、という位置づけです。出典:国税庁 税務大学校論叢|相続税法64条と財産評価基本通達6項との関係について

実務では、総則6項が「伝家の宝刀」と呼ばれることがあります。もっとも、実際には課税庁の側にとっても、軽々に抜ける刀ではありません。通達による画一的評価は、そもそも納税者間の公平のために運用されているものだからです。

特定の納税者についてだけ、通達評価より高い価額で評価しようとするならば、そこには合理的な理由が求められることになります。

最高裁令和4年4月19日判決から読み取るべきこと

評価通達6項を理解するうえで、避けて通れないのが最高裁令和4年4月19日判決です。

この事件では、相続人らが相続財産である不動産を財産評価基本通達に基づいて評価し、相続税申告を行いました。これに対して札幌南税務署長が、通達評価によることは著しく不適当であるとして、不動産鑑定評価額に基づく更正処分と、過少申告加算税の賦課決定処分を行った、という経緯があります。出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

事案では、被相続人が94歳で亡くなるおよそ3年前から、信託銀行からの借入れ等によって不動産を購入していました。判決では、被相続人および相続人らが、その購入・借入れについて、近い将来に発生することが予想される相続において相続税負担を減じ、または免れさせるものであると知り、かつそれを期待して、あえて企画・実行したものと認定されています。出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

判決で示された重要なポイントは、次の3つに整理できます。

最高裁の判断実務上の意味
評価通達は国民に直接の法的効力を有するものではない通達どおりなら法律上絶対に守られる、とはいえない
通達評価額を上回る価額でも、客観的交換価値としての時価を上回らなければ相続税法22条に直ちに違反しない鑑定評価額が時価と認められる場合、通達評価より高い評価があり得る
ただし、特定の者だけ通達評価を超える価額とするには、平等原則との関係で合理的理由が必要総則6項の適用には、租税負担の公平を害する事情が必要

とりわけ大切なのは、「通達評価額と鑑定評価額との間に大きなかい離があることだけでは足りない」と示された点です。最高裁は、単に価額の差が大きいからという理由ではなく、相続税負担の軽減を期待してあえて購入・借入れを実行し、通達評価をそのまま適用すれば、同様の行為をしない、またはできない他の納税者との間に看過し難い不均衡が生じる、という点を重く見ています。出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

ですから、この判決を「路線価と時価に差があれば否認される」と読むのは、正確ではありません。

より正確に言えば、「評価通達による画一的評価をそのまま認めると、租税負担の公平に反する特別な事情がある場合には、通達評価を上回る評価が許され得る」と読むべきものです。

価格差だけでなく、取引の経緯が見られる

評価通達6項のリスクを判断するときは、評価額の差そのものよりも、取引の経緯が重要になります。

税務大学校の研究でも、評価通達6項の適用について、価額の乖離が「何倍以上」「いくら以上」といった形式的な基準を設けることは難しく、個別の事案ごとに実質的に判断するのが妥当とされています。あわせて、不動産については、相続開始の直前に取得し、相続税申告後に売却するような場合、相続等の前後を通して見ると、その不動産は一時的に所有されていたに過ぎないと評価され得る、という例も示されています。出典:国税庁 税務大学校論叢|財産評価基本通達の定めによらない財産の評価について

実務では、次のような事情が重なるほど、評価通達6項のリスクは高まっていきます。

確認されやすい事情なぜ問題になるか
被相続人が高齢、または相続発生が近い状況で多額の不動産を取得相続税負担の軽減を主目的とした取引と見られやすい
取得資金の大部分が借入金債務控除と評価差を同時に利用している構造になる
取得直後、または申告後間もなく売却長期保有目的ではなく、一時的な評価圧縮と見られやすい
購入時の価格や鑑定評価額と通達評価額に大きな差通達評価の合理性が問題化しやすい
金融機関・業者の提案資料に「相続税がゼロになる」等の記載租税負担軽減目的を示す資料になり得る
収益性・管理実態・保有方針が弱い投資目的・事業目的の説明が難しい
相続人が返済負担や管理負担を引き継ぐ設計になっている税額軽減と資産防衛が一致していない可能性がある

不動産の時価判断では、親族間や同族会社間の取引だけが問題になるわけではありません。第三者間の取引や、個人と法人の間の取引でも、実際の価格設定や取引事情が税務上問題になることがあります。税務上の時価は、形式的な契約価格だけで決まるものではなく、裁決や判決の場で、取引関係、権利関係、算定根拠まで検討される領域なのです。

鑑定評価を取れば必ず安全、ではない

不動産鑑定評価は、相続税評価において重要な資料になり得ます。

とりわけ、通達評価では個別事情を十分に反映しきれない不動産については、鑑定評価を検討する余地があります。

具体的には、次のような不動産です。

鑑定評価を検討すべき場面確認すべき理由
形状・接道・高低差・法令制限が複雑な土地通達の画地補正だけでは実態を反映しにくい場合がある
土壌汚染、埋設物、擁壁、造成リスクがある土地通常の宅地評価では市場価値との差が大きくなることがある
収益性が著しく低い賃貸不動産収益還元の観点から市場価値を検討する必要がある
建物の老朽化・用途制限・違法建築リスクがある物件固定資産税評価額だけでは交換価値を反映しない可能性がある
開発許可、再建築、用途変更に制約がある土地売買市場での評価に大きく影響する
共有、借地権、底地、貸宅地など権利関係が複雑権利制約が市場価格に影響する

ただし、鑑定評価を取ったからといって、必ず通達評価より有利に評価できるわけではありません。

鑑定評価には、評価目的、価格時点、前提条件、採用した手法、取引事例、収益還元法の前提、賃料水準、修繕費、空室率、利回りと、実に多くの判断要素が絡みます。相続税申告後に「税額を下げるため」だけに作成された鑑定評価書は、その前提や合理性を厳しく確認される可能性があります。

最高裁令和4年4月19日判決でも、課税庁側が用いた鑑定評価額について、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準により相続開始時における正常価格として算定した価額であることが前提とされていました。出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

鑑定評価は、税務上の主張を支える資料にはなりますが、「鑑定があるから安全」という性質のものではありません。

大切なのは、なぜ通達評価ではその財産の時価を適切に反映できないのかを、客観的に説明できることです。

令和6年以後のマンション評価見直しにも注意する

評価通達6項の問題を考えるうえでは、近年のマンション評価の見直しも見過ごせません。

令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションの価額については、「居住用の区分所有財産の評価について」により評価する取扱いが導入されました。出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

この評価方法では、築年数、総階数指数、所在階、敷地持分狭小度といった要素を用いて評価乖離率を計算し、評価水準に応じて区分所有補正率を適用します。出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

これは、分譲マンションについて、従来の評価方法では市場価格との乖離が大きくなりやすかった問題に対応したものです。

実務では、次の点に注意しておきたいところです。

論点注意点
令和6年1月1日以後取得分新しいマンション評価通達の適用対象か確認する
居住用区分所有財産か事業用テナント、一棟所有、低層少数戸などは対象外となる場合がある
貸家・貸家建付地との関係新通達により計算した価額を基に貸家・貸家建付地評価等を行う
小規模宅地等との関係新通達により計算した価額を基に特例適用を検討する
総則6項との関係個別通達で調整されたからといって、すべての評価否認リスクが消えるわけではない

このマンション評価の見直しは、「総則6項のリスクがなくなった」ことを意味するものではありません。むしろ、税務当局が市場価格との乖離を強く意識している、その表れと受け止めるべき動きです。

評価通達6項リスクが低い不動産対策とは

もちろん、不動産を使った相続税対策のすべてが危険というわけではありません。

評価通達6項のリスクが相対的に低いと考えられるのは、通達評価を適用したうえで、事業目的・投資目的・管理実態・保有継続性まで説明できるケースです。

状況評価リスクの見方
長年保有している賃貸不動産相続直前の評価圧縮目的とは見られにくい
収益性を検討したうえで取得した物件投資判断としての合理性を説明しやすい
借入返済計画に無理がない相続人への過度な負担転嫁になりにくい
相続後も継続保有・運用している一時的な評価圧縮目的ではない説明につながる
工事・修繕・管理記録が整っている実際に賃貸事業として運用していることを示せる
家族間で承継方針が整理されている税額軽減だけでなく承継設計として説明できる
取得前に複数案を比較している意思決定の合理性を示しやすい

たとえば、空き地を長期的に賃貸住宅として活用するため、地域の賃貸需要、建築費、借入返済、修繕計画、空室リスク、相続人の承継意思まで確認したうえで建築する場合を考えてみてください。これは、単なる評価差狙いとは性質がまったく異なります。

反対に、相続発生が近い状況で、高額物件を借入金で取得し、相続税申告後すぐに売却するような場合には、長期保有・収益獲得・承継といった説明が、どうしても弱くなってしまいます。

税務調査で見られる資料

相続税調査では、申告書に記載された評価額だけでなく、その評価に至るまでの資料と取引の経緯が確認されます。

税務調査では、帳簿書類、契約書、入出金、原始資料、関係者の説明などから、課税要件に関係する事実が認定されていきます。調査の実務においては、証拠資料の収集・保全と、的確な事実認定が重要な位置を占めます。

不動産評価について、特に確認されやすい資料は次のとおりです。

資料確認される内容
売買契約書取得時期、取得価額、契約条件、売主との関係
重要事項説明書物件の制約、法令上の制限、賃貸状況
金融機関資料借入目的、返済計画、審査資料、担保評価
提案書・シミュレーション相続税軽減効果をどのように説明されていたか
不動産鑑定評価書価格時点、評価目的、前提条件、採用手法
賃貸借契約書賃貸実態、賃料水準、入居状況
レントロール空室、賃料、収益性
修繕履歴維持管理実態、将来修繕負担
固定資産税課税明細書建物評価額、土地地目、課税状況
登記事項証明書所有者、担保、権利関係
相続後の売却資料短期売却の有無、売却理由、売却価格
家族会議・議事録・メモ承継目的、相続人の理解、意思決定過程

評価通達6項のリスクを避けるには、申告のときに評価明細書だけ整えておけばよい、というわけにはいきません。

なぜその物件を取得したのか。なぜその時期だったのか。資金の返済に無理はないか。相続後も保有する意思があったのか。相続人は管理負担を理解していたのか。こうした問いに答えられる資料を残しておくことが、何より重要です。

鑑定評価を使う場合の判断順序

鑑定評価を使うかどうかは、次の順序で判断していきます。

判断順序確認事項
1. 通達評価の正確性評価単位、地目、画地補正、貸家建付地、小規模宅地等を正しく適用しているか
2. 特殊事情の有無通達評価では反映しきれない物理的・法的・経済的制約があるか
3. 市場価格との関係売買実例、近隣取引、収益性、鑑定評価とどの程度差があるか
4. 差の原因単なる通達と時価の差か、個別事情による差か
5. 取引経緯相続直前の取得・借入・売却など、租税負担軽減目的が疑われる事情がないか
6. 鑑定評価の前提価格時点、評価目的、資料、手法が相続税申告に耐えるか
7. 説明可能性税務署、相続人、金融機関に一貫して説明できるか

鑑定評価を取るべきかどうかは、「税額が下がるか」ではなく、「通達評価では客観的交換価値を適切に示せない合理的理由があるか」で判断すべきものです。

鑑定評価を使う場合でも、それを税務申告上の評価として採用するのか、参考資料として保管しておくのか、意見書として補強に用いるのかは、案件ごとに個別に検討する必要があります。

危険な判断と守りやすい判断の違い

相続税評価で危ういのは、制度の形式だけを使い、実態の説明ができない対策です。

危険な判断守りやすい判断
相続税をゼロにする目的だけで高額不動産を購入収益性・承継・資産組替えを含めて取得理由を整理
高齢者に多額借入を組ませる返済能力、相続人の承継意思、空室リスクを検討
申告後すぐに売却予定長期保有方針、売却時の事情を説明できる
業者提案資料に税額圧縮のみ記載投資判断資料、資金計画、家族承継方針も残す
通達評価だけを見て時価を確認しない売買価格、収益価格、鑑定評価、近隣事例を確認
鑑定評価を後付けで作成取得前または申告前から評価論点を整理
相続人が管理・返済を理解していない家族間で管理負担、収益、納税資金を共有

節税対策としての不動産活用は、評価額を下げることそのものが目的ではありません。財産を無理なく承継していくための資産設計であるべきものです。

専門家に相談すべきタイミング

相続税評価・鑑定評価・評価通達6項が関わる案件では、申告の直前ではなく、実行の前に相談していただくことが大切です。

特に次のような場合は、早めに専門家へご相談ください。

相談すべき場面理由
相続税対策として高額不動産を購入する取得目的、借入、評価差、保有方針を事前に整理する必要がある
借入金を使った不動産取得を検討している債務控除だけでなく返済負担・空室リスクを見る必要がある
タワーマンション・高層マンションを取得する令和6年以後の居住用区分所有財産評価の確認が必要
通達評価と実勢価格が大きく違う評価通達6項リスクを確認する必要がある
鑑定評価を使いたい鑑定評価の前提、採用可能性、申告方針を検討する必要がある
相続後に不動産を売却する可能性がある取得目的や一時保有との関係を説明できるようにする必要がある
相続人間で不動産承継方針が固まっていない評価だけでなく遺産分割・納税資金・管理負担を整理する必要がある

土地や株式の評価誤りは、相続税申告における専門家責任の問題にもつながりやすい領域です。税賠事故の分析でも、相続・贈与税では、小規模宅地等の特例、相続時精算課税、土地や株式の評価誤り、特定の相続人に有利な分割提案などが、リスク項目として挙げられています。

相続税評価は、計算技術だけで片づくものではありません。財産の現況、取引の経緯、家族関係、納税資金、そして税務調査への対応まで含めて判断していく必要があります。

まとめ:評価額を下げる前に、説明できる評価かを確認する

相続税評価では、財産評価基本通達に基づく評価が、実務の出発点になります。

しかし、通達評価は法律そのものではありません。相続税法上の原則はあくまで時価です。通達評価を画一的に適用することが著しく不適当で、実質的な租税負担の公平を害する事情がある場合には、評価通達6項の問題が生じます。

その一方で、通達評価と鑑定評価・市場価格に差があるというだけで、直ちに総則6項が適用されるわけでもありません。

大切なのは、次の点です。

確認すべきこと実務上の意味
通達評価は正確か評価単位、補正、権利関係、特例適用を誤らない
時価との差はどこから生じているか制度上の差か、個別事情による差かを分ける
取引目的は説明できるか税額圧縮だけでなく投資・承継・資産防衛として説明できるか
資金の流れは自然か借入、返済、賃料、売却資金の流れを追えるか
相続後も耐えられるか相続人が管理・返済・納税を担えるか
資料は残っているか税務調査で後から説明できるか

不動産を使った相続税対策は、評価額を下げることだけを目的にしてしまうと、危うい方向へ進みます。税額が下がっても、その後に相続人が返済、空室、修繕、売却、そして税務調査に苦しむようでは、資産防衛とは呼べません。

本当に必要なのは、「評価額が低い財産」を作ることではなく、「説明できる財産評価」と、「承継後も維持できる資産設計」を築いておくことです。

主な出典

出典:国税庁|第1章 総則
出典:国税庁|第2節 宅地及び宅地の上に存する権利
出典:国税庁|第3章 家屋及び家屋の上に存する権利
出典:国税庁|令和7年分の路線価等について
出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価
出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件
出典:国税庁 税務大学校論叢|相続税法64条と財産評価基本通達6項との関係について
出典:国税庁 税務大学校論叢|財産評価基本通達の定めによらない財産の評価について

振り返り

重要事項実務上のポイント
相続税評価の原則相続税法上は取得時の時価が原則
評価通達の役割課税の公平と申告実務の便宜のための画一的基準
路線価評価実務上の原則だが、市場価格そのものではない
家屋評価原則として固定資産税評価額を基礎に評価する
評価通達6項通達評価が著しく不適当な場合の例外規定
最高裁令和4年判決価格差だけでなく、相続税負担軽減を意図した取引経緯と公平性が重視された
鑑定評価有効な資料になり得るが、税額を下げるためだけの後付け鑑定は危険
マンション評価令和6年1月1日以後の居住用区分所有財産は新しい評価通達を確認する
税務調査対応売買契約書、借入資料、提案書、鑑定評価書、賃貸資料、相続後売却資料が確認されやすい
正しい判断軸評価額の低さではなく、取引目的・資金の流れ・保有継続性・資料の整合性で判断する

相続税評価、不動産鑑定評価、評価通達6項のリスクは、申告書を作成する段階になってから初めて検討したのでは、取れる選択肢が限られてしまいます。高額不動産の取得、借入を伴う相続税対策、マンション評価、相続後の売却、鑑定評価の採用などを検討されている場合は、実行の前に論点を整理しておくことが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産オーナー、資産管理会社、相続予定者の方に対して、相続税評価、鑑定評価の使い方、評価通達6項リスク、さらには借入・資金繰り・納税資金・承継後の管理負担まで含めた判断整理をお手伝いしています。評価額を下げることだけでなく、税務調査で説明でき、相続人が将来困らない設計を検討されたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

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